15. スパイ
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パンジーの警告にもう少し真摯に取り合っていればとフォーラが後悔しかけたその時、彼女に触れていたブレーズの手が突如として離れ、焦りと驚きの入り混じった声が聞こえた。どうしたのかとそちらを見やると、彼が浮遊呪文でも掛けられたかのように宙を舞っていたのだ。彼は慌てふためきながら杖を取ろうとしたが上手くいかず、自身の意志とは関係なくそのまま引きずられるように、廊下の彼方へと移動させられてしまったのだった。
フォーラはたった今起こった事態にあっけに取られていた。一体、今のは何だったのだろう?そして彼女がハッと我に返って辺りを見渡すと、近くの階段の影に生徒のものと思しきローブの裾が一瞬はためいているのが見えた。しかしその姿をはっきり視認する前に、その影は階下の方へ走り去ってしまったのだった。
「待って!」
フォーラはたった今見えなくなったローブの影を走って追いかけた。一瞬しか見えなかったが、そのローブの裏地に緑色の刺繍が入っていたような気がしたのだ。もしかすると、今走り去ってしまったその人はスリザリン生だろうか?あの人が自分を助けてくれたのならお礼を伝えなくては。
(あら……何処へ行ってしまったのかしら)
足音を追いかけて階下へ向かったものの、フォーラはその姿を見失ってしまった。彼女が辺りをキョロキョロと見渡していると、丁度そこにパンジーの姿があった。
「フォーラ、こんなところでどうしたの?」
「パンジー!偶然だわ。少し用事があって。もし知っていたら教えてほしいのだけど、ついさっき誰かとすれ違ったりしなかった?」
「ううん、誰も見なかったわ。そうだ、私も聞きたいんだけど、この辺りでドラコを見かけなかった?今は尋問官親衛隊のパトロール中で彼と一緒に見回りをしていたんだけど、途中で見失ってしまったの」
「そうだったの、私の方もドラコは見ていないわ。」
パンジーとはそのようなやり取りがあってその場で別れることとなった。一体、自分を助けてくれたのは誰だったのだろう。手掛かりはローブの裏地に垣間見えた気がした緑色の刺繍と、他にはその人物を追いかける過程で僅かに香った爽やかな匂いだった。しかし、その人が誰か分からない以上は深く追求する手立てがなく、結局彼女は捜索を諦めることにしたのだった。
そんな出来事があり、ブレーズはあの時の醜態を当然ながら恥ずかしいと感じたのだろう。その日以降フォーラに話しかける頻度を随分と減らしていた。そして彼女はそれをいいことに、その後も相変わらず例の四階の空き部屋で変身術の練習を度々行っていた。彼女は自身の秘密の部屋がブレーズを含めた誰にも知られていないようで安堵していたが、実は近々、たった一人にだけそのことを知られてしまうのだった。
さて、ドラコはここ最近、尋問管親衛隊のパトロールでの見回りをパンジーや他の生徒同様に行っていた。そうして城内を歩く中で気付いた事があるのだが、それというのも度々フォーラが上階の方へ消えていくのを見かけるのだ。そういえばクリスマス休暇に入る前に一度だけ、彼女が何もない筈の上階から一人で下りてきた場面も目にしたことがある。もしかすると彼女はあの時から最近までずっと、城の何処か上の階でこっそり何かを続けているのかもしれない。
ドラコがそのようなことを考えていたある日、彼は一人でパトロールしている最中に、フォーラが四階の突き当たりにある空き部屋の中へ入っていくのを偶然目にした。これまで真下の階層で彼女を見かけていたこともあり、ここが目的地だったのだとついに知り得たのだ。
(今までどこに消えているのかと思ったら、こんな人気 のないところにいたのか)
ドラコはフォーラが入室した扉を見てほんの一瞬のうちに様々なことを考えた。その一つとして、もしかするとアンブリッジが求めている光景がこの部屋の中に広がっているのではと思った。つまり、ハリー・ポッターとその仲間たちがこの場所で秘密の活動をしている可能性がある、という意味だ。今年度に入ってからどういうわけかフォーラが彼らとの交流を一切絶っているとはいえ、それまでの関係を思えばこの予想はありえない話ではないのかもしれない。
(だが、もし本当にフォーラがポッターたちと何か……秘密裏に交流を続けていたとしたら?その時はどうする?)
ドラコは恐る恐るその扉に近付き、そこへ耳を当てて中の物音に意識を集中させた。すると微かに声が聞こえてくるではないか。彼は事の真相を探るべく、思い切って扉をそっと僅かに開け、隙間から中の様子を覗いたのだった。
「!」
中にいたのはフォーラただ一人だった。彼女は手元の教科書らしき本を見ながら、呪文を唱えつつ杖を何度か振っているところだった。ドラコから見ても呪文の練習をしているのは明らかだ。
(一人だけ、か)
ドラコはサッと部屋の隅から隅まで目を走らせ、改めて彼女以外に誰もいないことを確認した。そして瞬く間に彼の中でドッと安堵感が押し寄せた。彼は扉から離れると壁に背中を預け、その場にズルズルと座り込んだのだった。
「はあ……」
(よかった……フォーラはポッターとは何の関わりもなかった。 そもそも最近の彼女と奴らが全く話をしていないんだから、関係がある筈がなかったんだ。こんなところで一人なのは気がかりだが、寧ろそれで良かった。アンブリッジの条例では一人での呪文練習を罰するとは書かれていなかったから)
ドラコはフォーラが違反な集団活動をしていなかったことに加え、実はもう一つ安堵したことがあった。彼は座り込んだまま、無意識のうちに両手を組んで額のあたりに宛がった。その姿はまるで、祈りが叶って神様に感謝しているようにも見えた。
(フォーラはここで誰かと二人きりじゃなかった。もしそんなところを見ていたとしたら、僕はもう……どうなっていたか)
ドラコは四年生最後の夜にフォーラに振られてしまったあの日からこれまでの間、彼女にひたすら冷たく接して嫌われようと努めてきた。それなのに本当の彼は、こんなことを考えてしまうくらいには彼女をずっと想ってしまっていたのだ。
(僕は自分で決めて父上に誓ったんだ。僕は……大切な人は作らない。『名前を言ってはいけないあの人』が復活した今、父上がせっかく助言してくださったことを蔑ろにはしたくない)
フォーラはたった今起こった事態にあっけに取られていた。一体、今のは何だったのだろう?そして彼女がハッと我に返って辺りを見渡すと、近くの階段の影に生徒のものと思しきローブの裾が一瞬はためいているのが見えた。しかしその姿をはっきり視認する前に、その影は階下の方へ走り去ってしまったのだった。
「待って!」
フォーラはたった今見えなくなったローブの影を走って追いかけた。一瞬しか見えなかったが、そのローブの裏地に緑色の刺繍が入っていたような気がしたのだ。もしかすると、今走り去ってしまったその人はスリザリン生だろうか?あの人が自分を助けてくれたのならお礼を伝えなくては。
(あら……何処へ行ってしまったのかしら)
足音を追いかけて階下へ向かったものの、フォーラはその姿を見失ってしまった。彼女が辺りをキョロキョロと見渡していると、丁度そこにパンジーの姿があった。
「フォーラ、こんなところでどうしたの?」
「パンジー!偶然だわ。少し用事があって。もし知っていたら教えてほしいのだけど、ついさっき誰かとすれ違ったりしなかった?」
「ううん、誰も見なかったわ。そうだ、私も聞きたいんだけど、この辺りでドラコを見かけなかった?今は尋問官親衛隊のパトロール中で彼と一緒に見回りをしていたんだけど、途中で見失ってしまったの」
「そうだったの、私の方もドラコは見ていないわ。」
パンジーとはそのようなやり取りがあってその場で別れることとなった。一体、自分を助けてくれたのは誰だったのだろう。手掛かりはローブの裏地に垣間見えた気がした緑色の刺繍と、他にはその人物を追いかける過程で僅かに香った爽やかな匂いだった。しかし、その人が誰か分からない以上は深く追求する手立てがなく、結局彼女は捜索を諦めることにしたのだった。
そんな出来事があり、ブレーズはあの時の醜態を当然ながら恥ずかしいと感じたのだろう。その日以降フォーラに話しかける頻度を随分と減らしていた。そして彼女はそれをいいことに、その後も相変わらず例の四階の空き部屋で変身術の練習を度々行っていた。彼女は自身の秘密の部屋がブレーズを含めた誰にも知られていないようで安堵していたが、実は近々、たった一人にだけそのことを知られてしまうのだった。
さて、ドラコはここ最近、尋問管親衛隊のパトロールでの見回りをパンジーや他の生徒同様に行っていた。そうして城内を歩く中で気付いた事があるのだが、それというのも度々フォーラが上階の方へ消えていくのを見かけるのだ。そういえばクリスマス休暇に入る前に一度だけ、彼女が何もない筈の上階から一人で下りてきた場面も目にしたことがある。もしかすると彼女はあの時から最近までずっと、城の何処か上の階でこっそり何かを続けているのかもしれない。
ドラコがそのようなことを考えていたある日、彼は一人でパトロールしている最中に、フォーラが四階の突き当たりにある空き部屋の中へ入っていくのを偶然目にした。これまで真下の階層で彼女を見かけていたこともあり、ここが目的地だったのだとついに知り得たのだ。
(今までどこに消えているのかと思ったら、こんな
ドラコはフォーラが入室した扉を見てほんの一瞬のうちに様々なことを考えた。その一つとして、もしかするとアンブリッジが求めている光景がこの部屋の中に広がっているのではと思った。つまり、ハリー・ポッターとその仲間たちがこの場所で秘密の活動をしている可能性がある、という意味だ。今年度に入ってからどういうわけかフォーラが彼らとの交流を一切絶っているとはいえ、それまでの関係を思えばこの予想はありえない話ではないのかもしれない。
(だが、もし本当にフォーラがポッターたちと何か……秘密裏に交流を続けていたとしたら?その時はどうする?)
ドラコは恐る恐るその扉に近付き、そこへ耳を当てて中の物音に意識を集中させた。すると微かに声が聞こえてくるではないか。彼は事の真相を探るべく、思い切って扉をそっと僅かに開け、隙間から中の様子を覗いたのだった。
「!」
中にいたのはフォーラただ一人だった。彼女は手元の教科書らしき本を見ながら、呪文を唱えつつ杖を何度か振っているところだった。ドラコから見ても呪文の練習をしているのは明らかだ。
(一人だけ、か)
ドラコはサッと部屋の隅から隅まで目を走らせ、改めて彼女以外に誰もいないことを確認した。そして瞬く間に彼の中でドッと安堵感が押し寄せた。彼は扉から離れると壁に背中を預け、その場にズルズルと座り込んだのだった。
「はあ……」
(よかった……フォーラはポッターとは何の関わりもなかった。 そもそも最近の彼女と奴らが全く話をしていないんだから、関係がある筈がなかったんだ。こんなところで一人なのは気がかりだが、寧ろそれで良かった。アンブリッジの条例では一人での呪文練習を罰するとは書かれていなかったから)
ドラコはフォーラが違反な集団活動をしていなかったことに加え、実はもう一つ安堵したことがあった。彼は座り込んだまま、無意識のうちに両手を組んで額のあたりに宛がった。その姿はまるで、祈りが叶って神様に感謝しているようにも見えた。
(フォーラはここで誰かと二人きりじゃなかった。もしそんなところを見ていたとしたら、僕はもう……どうなっていたか)
ドラコは四年生最後の夜にフォーラに振られてしまったあの日からこれまでの間、彼女にひたすら冷たく接して嫌われようと努めてきた。それなのに本当の彼は、こんなことを考えてしまうくらいには彼女をずっと想ってしまっていたのだ。
(僕は自分で決めて父上に誓ったんだ。僕は……大切な人は作らない。『名前を言ってはいけないあの人』が復活した今、父上がせっかく助言してくださったことを蔑ろにはしたくない)