13. マリアお手製のドレス
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「いいや、手紙なんて届いていない。それに、仮に届いていたとしても君に返事を書くつもりもないさ」
ドラコを見るフォーラの瞳が僅かに揺れたが、彼女は短く小さなため息を吐いた後で何とか声を発した。
「手紙には、ドラコがパーティーに来ることを楽しみにしていると書いたの。貴方が私と話したくないのはよく分かっているつもりだけど……。それじゃあせめて、今日私が着ているドレスがドラコにどう映っているかくらいは、教えてもらえないかしら……?」
ドラコはそう言われて今日初めて、フォーラの全身をまじまじと眺めた。腕の中にいる彼女が覚めるようなブルーを着ているのはこれまで見たことがなかったし、マーメイドドレスというのも新鮮で意外だった。それにデコルテが大きく開いていて、いつも服で隠れている彼女の首周りのラインが露わになったことで、その綺麗さには目を見張るものがあった。いや、今日のドレスに限らず何を着ていても彼女は……。
「……よく似合っている」
(んっ?)ドラコは今しがた自身の口を突いて出た言葉に耳を疑った。似合っているだと?何でそんなことを口走っている?!彼が内心そのように焦っている間、フォーラはキョトンとした表情で唯々彼を見つめ、途端にステップを踏むのを忘れてしまったようだった。その拍子に互いの足がもつれ、ドラコは倒れそうになる彼女を咄嗟に抱きかかえなくてはならなかった。
「全く、危なかった。大丈―――」
ドラコは途中まで発しかけた言葉にハッとして口を噤んだ。
(何故僕は、彼女を心配するような言葉を掛けようとしているんだ!)
それにフォーラを抱きとめたせいで、あまりにも互いの距離が近すぎるのもドラコにとっては好ましくなかった。こんなに至近距離にいるのは一体いつぶりだろう?先程から続いていたダンスにしろ、今の状態にしろ、本当は彼女には近付きたくなかったというのに。
しかしそんなドラコの目まぐるしい思考とは裏腹に、フォーラは静かな驚きや喜び、そしてほんの少しだけの泣いてしまいそうな感情を抱え、それらを無意識に表情に映したまま「ありがとう」と呟いた。
「私、まだドラコに褒められたり、心配してもらえたりしているわ……。」
フォーラが体制を立て直しながらドラコに寂しげに微笑んだ。彼はそれを見てピタリと硬直した。しかも、抱きとめた際に握った彼女の手から妙に痺れるような感覚が襲ってきている気がして、何故だか怖気づきそうだった。
「そんなの、心配するに決まっているだろう……」
「え……?」フォーラは今しがたドラコが呟いた言葉の意味を飲み込めなかった。新学期が始まってからこのかた、彼にはずっとつっけんどんな態度で接されていた筈なのに。どうして今になってそんな思いやりの塊のような言葉をくれたのだろう?
フォーラが予想外の状況にほうけていると、途端にドラコがハッと意識を取り戻し、そのまま彼女の手をパッと離した。
「違う、今のは、こんな所で転んだら悪目立ちするから君を助けただけだ。それに心配したのは僕の体裁の方だ。それ以外に理由はない!」
ドラコはそう吐き捨ててフォーラの目の前から勢いに任せて立ち去ろうとした。
「待って!」その際彼女は思わず彼の手首を取って引き留め、自身の腕の中に引き戻した。周囲から見れば、二人は唯々ダンスのためにホールドし直しているようにしか見えなかった。
「お……おい!何だ、いきなり……」
ドラコがフォーラの両腕を掴んでバッと身体を離した矢先、彼女がドラコの口元に人差し指を宛がった。
「!」ビクリと肩を揺らしたドラコをよそに、フォーラが小声で言及した。
「すぐ向こうにルシウスさんが見えているわ。曲も半ばで離れてしまったら、私たちの間に何かあったのかと心配をお掛けしてしまうかもしれない。」
ドラコはフォーラの瞳の先を追って父親の姿を捉えた。そして視線を元に戻してみると、次に映し出された彼女はドラコの顔色を窺うようにして彼のアイスブルーの瞳を見上げていた。
「それに私、本当はもう少しドラコとこうしていられたら、とっても嬉しいのだけど……。」
ドラコは眉間にぎゅっと皺を寄せて目を逸らした。
「僕にあれだけ避けられてきたのに、随分物好きだな。それに忘れていないとは思うが、僕にはガールフレンドがいる。だからそもそも君も含めて他の女子とベタベタする気はない」
「……ええ、勿論分かっているわ。ただ、今流れている曲が終わるまでの間だけでいいの。駄目かしら。」
ドラコは溜息を一つ吐くと、仕方なく了承した。
「ああ、分かった。ただしもう今日は僕に必要以上に話し掛けるな。いいな」
「ええ、ありがとう。」
ドラコの口調は厳しいものだったが、フォーラはそれでもよかった。先程のドラコがくれた『心配するに決まっている』という慈悲の言葉を本当に嬉しく思っていたからだ。一瞬だったとはいえ、まるで以前の彼に戻ったような気すらしてしまう。ホグワーツでつらく当たられていたことなんて、どうでもよくなってしまいそうだ。
その後、二人が再び曲に合わせてステップを踏んでいる間、ドラコは頑なにフォーラを見ず、これ以上の会話を避けているようだった。何なら眉間にはまるでスネイプのような皺をギュッと寄せていた。しかし今の彼女は自分を拒絶するその姿にすら悲しみを覚えなかった。それよりも、どうして彼が一瞬でも優しさを覗かせてくれたのかの方が重要だった。
だが、残念ながらやはりその答えは導き出せなかった。ドラコに尋ねることもできず、曲が終わると彼は「じゃあな」と言い残してフォーラから離れ、すぐに人混みに紛れて見えなくなってしまったのだった。
フォーラは一人ダンススペースから捌けながら、先程までドラコに触れられ、触れていた感触をぼうっと思い返していた。そして次第に心臓の鼓動が強く聞こえだし、自分が思っていた以上に緊張していたことや、彼の腕の中にいられたことを相当喜んでいたことを思い知った。そして彼が垣間見せた謎の優しさによって、自分が心の底から嫌われているわけでは無いのかもしれないという淡い期待を大きくさせていた。
ドラコを見るフォーラの瞳が僅かに揺れたが、彼女は短く小さなため息を吐いた後で何とか声を発した。
「手紙には、ドラコがパーティーに来ることを楽しみにしていると書いたの。貴方が私と話したくないのはよく分かっているつもりだけど……。それじゃあせめて、今日私が着ているドレスがドラコにどう映っているかくらいは、教えてもらえないかしら……?」
ドラコはそう言われて今日初めて、フォーラの全身をまじまじと眺めた。腕の中にいる彼女が覚めるようなブルーを着ているのはこれまで見たことがなかったし、マーメイドドレスというのも新鮮で意外だった。それにデコルテが大きく開いていて、いつも服で隠れている彼女の首周りのラインが露わになったことで、その綺麗さには目を見張るものがあった。いや、今日のドレスに限らず何を着ていても彼女は……。
「……よく似合っている」
(んっ?)ドラコは今しがた自身の口を突いて出た言葉に耳を疑った。似合っているだと?何でそんなことを口走っている?!彼が内心そのように焦っている間、フォーラはキョトンとした表情で唯々彼を見つめ、途端にステップを踏むのを忘れてしまったようだった。その拍子に互いの足がもつれ、ドラコは倒れそうになる彼女を咄嗟に抱きかかえなくてはならなかった。
「全く、危なかった。大丈―――」
ドラコは途中まで発しかけた言葉にハッとして口を噤んだ。
(何故僕は、彼女を心配するような言葉を掛けようとしているんだ!)
それにフォーラを抱きとめたせいで、あまりにも互いの距離が近すぎるのもドラコにとっては好ましくなかった。こんなに至近距離にいるのは一体いつぶりだろう?先程から続いていたダンスにしろ、今の状態にしろ、本当は彼女には近付きたくなかったというのに。
しかしそんなドラコの目まぐるしい思考とは裏腹に、フォーラは静かな驚きや喜び、そしてほんの少しだけの泣いてしまいそうな感情を抱え、それらを無意識に表情に映したまま「ありがとう」と呟いた。
「私、まだドラコに褒められたり、心配してもらえたりしているわ……。」
フォーラが体制を立て直しながらドラコに寂しげに微笑んだ。彼はそれを見てピタリと硬直した。しかも、抱きとめた際に握った彼女の手から妙に痺れるような感覚が襲ってきている気がして、何故だか怖気づきそうだった。
「そんなの、心配するに決まっているだろう……」
「え……?」フォーラは今しがたドラコが呟いた言葉の意味を飲み込めなかった。新学期が始まってからこのかた、彼にはずっとつっけんどんな態度で接されていた筈なのに。どうして今になってそんな思いやりの塊のような言葉をくれたのだろう?
フォーラが予想外の状況にほうけていると、途端にドラコがハッと意識を取り戻し、そのまま彼女の手をパッと離した。
「違う、今のは、こんな所で転んだら悪目立ちするから君を助けただけだ。それに心配したのは僕の体裁の方だ。それ以外に理由はない!」
ドラコはそう吐き捨ててフォーラの目の前から勢いに任せて立ち去ろうとした。
「待って!」その際彼女は思わず彼の手首を取って引き留め、自身の腕の中に引き戻した。周囲から見れば、二人は唯々ダンスのためにホールドし直しているようにしか見えなかった。
「お……おい!何だ、いきなり……」
ドラコがフォーラの両腕を掴んでバッと身体を離した矢先、彼女がドラコの口元に人差し指を宛がった。
「!」ビクリと肩を揺らしたドラコをよそに、フォーラが小声で言及した。
「すぐ向こうにルシウスさんが見えているわ。曲も半ばで離れてしまったら、私たちの間に何かあったのかと心配をお掛けしてしまうかもしれない。」
ドラコはフォーラの瞳の先を追って父親の姿を捉えた。そして視線を元に戻してみると、次に映し出された彼女はドラコの顔色を窺うようにして彼のアイスブルーの瞳を見上げていた。
「それに私、本当はもう少しドラコとこうしていられたら、とっても嬉しいのだけど……。」
ドラコは眉間にぎゅっと皺を寄せて目を逸らした。
「僕にあれだけ避けられてきたのに、随分物好きだな。それに忘れていないとは思うが、僕にはガールフレンドがいる。だからそもそも君も含めて他の女子とベタベタする気はない」
「……ええ、勿論分かっているわ。ただ、今流れている曲が終わるまでの間だけでいいの。駄目かしら。」
ドラコは溜息を一つ吐くと、仕方なく了承した。
「ああ、分かった。ただしもう今日は僕に必要以上に話し掛けるな。いいな」
「ええ、ありがとう。」
ドラコの口調は厳しいものだったが、フォーラはそれでもよかった。先程のドラコがくれた『心配するに決まっている』という慈悲の言葉を本当に嬉しく思っていたからだ。一瞬だったとはいえ、まるで以前の彼に戻ったような気すらしてしまう。ホグワーツでつらく当たられていたことなんて、どうでもよくなってしまいそうだ。
その後、二人が再び曲に合わせてステップを踏んでいる間、ドラコは頑なにフォーラを見ず、これ以上の会話を避けているようだった。何なら眉間にはまるでスネイプのような皺をギュッと寄せていた。しかし今の彼女は自分を拒絶するその姿にすら悲しみを覚えなかった。それよりも、どうして彼が一瞬でも優しさを覗かせてくれたのかの方が重要だった。
だが、残念ながらやはりその答えは導き出せなかった。ドラコに尋ねることもできず、曲が終わると彼は「じゃあな」と言い残してフォーラから離れ、すぐに人混みに紛れて見えなくなってしまったのだった。
フォーラは一人ダンススペースから捌けながら、先程までドラコに触れられ、触れていた感触をぼうっと思い返していた。そして次第に心臓の鼓動が強く聞こえだし、自分が思っていた以上に緊張していたことや、彼の腕の中にいられたことを相当喜んでいたことを思い知った。そして彼が垣間見せた謎の優しさによって、自分が心の底から嫌われているわけでは無いのかもしれないという淡い期待を大きくさせていた。