12. 目くらまし術
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クラッブやゴイルの家庭も親から多少の情報は貰っているようだったが、ドラコやセオドールと状況はあまり変わらなかった。その後も彼等は続きの雑談をフォーラの頭上で交わしたが、彼女自身えも言えぬ安堵感を噛み締めることで精一杯だった。
(ドラコ……、何かさせられているわけじゃなかったのね。よかった。本当に良かった。)
彼女はつい最近ドラコに面と向かって虐げられたが、彼女からすればこれまでの関係から彼を心配しない選択肢などある筈がなかった。
しかし一つ引っかかる。ドラコが切迫している状況でないと分かった今、それならどうして彼は今までに無い位に誰にも彼にもキツくあたっているのだろう?
(私のことは気に入らないのだとしても、低学年の生徒や他の寮生のことは?以前はあんな風じゃなかったのに)
フォーラがそこまで考えた時、不意にセオドールが話題を切り替えた。
「ところで、例のガールフレンドとは上手くいってるのか?」
(!)
フォーラはその瞬間に再び身体を跳ねさせた。考え事をしていたせいで突然の話題に驚いてしまった。
しかもその手の話題は彼女にとって一番耳を塞ぎたくなる内容だった。
「何だ急に……。まあ、上手くいってないわけじゃないさ。話題も普通に合う」
(ああもう、こんな話になるなんて。それ以上は、聞きたくない……)
フォーラは耳を塞ぎたくなる想いで俯いた。もうここから去ってしまおう。そう思った時、視界に見える筈のないものが見えて彼女は心臓を大きく脈打たせた。
(前足が見えてる……?!)
後ろ足や背中を振り返っても同様にくっきりと艶やかな黒い毛が目に入った。あまりにも突然全身の目くらまし術が解けてしまったことにショックを隠しきれず、フォーラは誰の視界にも入らないテーブル下で固まった。この時の彼らの会話は彼女の耳に殆ど残っていなかった。
(どうして?ついさっきまであんなに完璧だった筈なのに!セオドールの話に動揺してしまったから?とにかく、こうなってしまったら見つかる前に一刻も早くここから逃げなくちゃ)
フォーラはサッと周囲を見渡した。テーブルを挟んでドラコとセオドール、そしてクラッブとゴイルが向かい合う形で座っている。もしこのテーブル下から抜けるならクラッブとゴイル側から椅子を潜って通り抜けるのが最善だろう。万が一ドラコに見つかれば、一発で自分だとバレてしまうのは明らかだ。
(それでも、クラッブとゴイルが足元を見ていない間でなくちゃ抜け出せないわ。ここからでは二人がどこを向いているかも確認できない。他の寮生だってそう。
それに寮の出口はこの姿では開けられないし、逃げ場がない……。いっそのこと、女子寮まで走り抜ける方がまだマシかもしれないけれど……)
するとその時、クラッブがドラコに尋ねた声がフォーラの耳にも飛び込んできた。
「マルフォイ、ファントムとすっかり話さなくなったのはガールフレンドと上手くいってるからだろ?だけど、あんなに仲が良かったのにどうして」
(わ、私の名前……。クラッブは心配してくれていたのね。もしかして、クラッブは私がドラコを振ってしまったこと、聞いていないのかもしれない。……駄目よ、こんな話まで聞く予定じゃなかったのに、)
すると、彼の質問に苛立ちを覚えたのかドラコが脚を組み直すのが見えた。
「彼女と話す理由が無いだけだ」
今度はゴイルが尋ねた。
「でも、明らかに避けすぎてる。今のガールフレンドより、ファントムと居た時の君の方がよっぽど……」
「煩い、それ以上言うな。悪いが、もうお前達は席を外してくれ」
ドラコは煙たそうに言い放つと、クラッブとゴイルは互いに顔を見合わせた。そしてこうなったドラコには何を言っても無駄だと判断し、二人は椅子から立ち上がった。
(!二人が離れていくわ。今なら何とか……でも、寮の扉は閉まっている筈)
その時偶然にも寮の扉が開き、食事を終えた二年生の群れが寮を横切ろうとしているところだった。フォーラはその瞬間を見逃さなかった。ドラコから死角になっているクラッブとゴイルが居た椅子の後ろへ走り抜け、直ぐに二年生の群れに紛れて寮の出入り口に滑り込んだのだった。
そのままフォーラは誰もいない廊下の陰まで来ると、その姿を元の人間の姿に変え、その場に俯いてしゃがみ込んだ。彼女は息を切らしながら、先程の一連の出来事を走馬灯のように無意識に思い出していた。
(ああもう、私……ほんの少しのことで動揺して、危険な目にも遭って……。覚悟してドラコの側に行った筈なのに。馬鹿みたい)
フォーラは脳裏に勝手に浮かんでくるドラコの言葉を拒むことが出来なかった。
『まあ、上手くいってないわけじゃないさ。話題も普通に合う』
『彼女と話す理由が無いだけだ』
フォーラは心の奥底で自身がドラコに欲している言葉と正反対なドラコの発言に胸を痛め締め付けられると同時に、こんな中途半端な覚悟で彼の元へ向かったことを後悔した。もう十分拒否されていることは自覚していたが、ドラコが恋人とどうしているかなんて聞きたくなかった……いや、本人の口から聞かされたくなかったのだと今更気がついた。
(もう、このことは一旦忘れましょう。それよりも、ドラコがルシウスさんに守られていることを喜ばなきゃ。ルシウスさんがいる限り、きっとドラコは安全な筈。……あとは、父様がクリスマスパーティーの日に何か状況を動かすつもりなら、無事に終わることを祈るしかないわ。)
(ドラコ……、何かさせられているわけじゃなかったのね。よかった。本当に良かった。)
彼女はつい最近ドラコに面と向かって虐げられたが、彼女からすればこれまでの関係から彼を心配しない選択肢などある筈がなかった。
しかし一つ引っかかる。ドラコが切迫している状況でないと分かった今、それならどうして彼は今までに無い位に誰にも彼にもキツくあたっているのだろう?
(私のことは気に入らないのだとしても、低学年の生徒や他の寮生のことは?以前はあんな風じゃなかったのに)
フォーラがそこまで考えた時、不意にセオドールが話題を切り替えた。
「ところで、例のガールフレンドとは上手くいってるのか?」
(!)
フォーラはその瞬間に再び身体を跳ねさせた。考え事をしていたせいで突然の話題に驚いてしまった。
しかもその手の話題は彼女にとって一番耳を塞ぎたくなる内容だった。
「何だ急に……。まあ、上手くいってないわけじゃないさ。話題も普通に合う」
(ああもう、こんな話になるなんて。それ以上は、聞きたくない……)
フォーラは耳を塞ぎたくなる想いで俯いた。もうここから去ってしまおう。そう思った時、視界に見える筈のないものが見えて彼女は心臓を大きく脈打たせた。
(前足が見えてる……?!)
後ろ足や背中を振り返っても同様にくっきりと艶やかな黒い毛が目に入った。あまりにも突然全身の目くらまし術が解けてしまったことにショックを隠しきれず、フォーラは誰の視界にも入らないテーブル下で固まった。この時の彼らの会話は彼女の耳に殆ど残っていなかった。
(どうして?ついさっきまであんなに完璧だった筈なのに!セオドールの話に動揺してしまったから?とにかく、こうなってしまったら見つかる前に一刻も早くここから逃げなくちゃ)
フォーラはサッと周囲を見渡した。テーブルを挟んでドラコとセオドール、そしてクラッブとゴイルが向かい合う形で座っている。もしこのテーブル下から抜けるならクラッブとゴイル側から椅子を潜って通り抜けるのが最善だろう。万が一ドラコに見つかれば、一発で自分だとバレてしまうのは明らかだ。
(それでも、クラッブとゴイルが足元を見ていない間でなくちゃ抜け出せないわ。ここからでは二人がどこを向いているかも確認できない。他の寮生だってそう。
それに寮の出口はこの姿では開けられないし、逃げ場がない……。いっそのこと、女子寮まで走り抜ける方がまだマシかもしれないけれど……)
するとその時、クラッブがドラコに尋ねた声がフォーラの耳にも飛び込んできた。
「マルフォイ、ファントムとすっかり話さなくなったのはガールフレンドと上手くいってるからだろ?だけど、あんなに仲が良かったのにどうして」
(わ、私の名前……。クラッブは心配してくれていたのね。もしかして、クラッブは私がドラコを振ってしまったこと、聞いていないのかもしれない。……駄目よ、こんな話まで聞く予定じゃなかったのに、)
すると、彼の質問に苛立ちを覚えたのかドラコが脚を組み直すのが見えた。
「彼女と話す理由が無いだけだ」
今度はゴイルが尋ねた。
「でも、明らかに避けすぎてる。今のガールフレンドより、ファントムと居た時の君の方がよっぽど……」
「煩い、それ以上言うな。悪いが、もうお前達は席を外してくれ」
ドラコは煙たそうに言い放つと、クラッブとゴイルは互いに顔を見合わせた。そしてこうなったドラコには何を言っても無駄だと判断し、二人は椅子から立ち上がった。
(!二人が離れていくわ。今なら何とか……でも、寮の扉は閉まっている筈)
その時偶然にも寮の扉が開き、食事を終えた二年生の群れが寮を横切ろうとしているところだった。フォーラはその瞬間を見逃さなかった。ドラコから死角になっているクラッブとゴイルが居た椅子の後ろへ走り抜け、直ぐに二年生の群れに紛れて寮の出入り口に滑り込んだのだった。
そのままフォーラは誰もいない廊下の陰まで来ると、その姿を元の人間の姿に変え、その場に俯いてしゃがみ込んだ。彼女は息を切らしながら、先程の一連の出来事を走馬灯のように無意識に思い出していた。
(ああもう、私……ほんの少しのことで動揺して、危険な目にも遭って……。覚悟してドラコの側に行った筈なのに。馬鹿みたい)
フォーラは脳裏に勝手に浮かんでくるドラコの言葉を拒むことが出来なかった。
『まあ、上手くいってないわけじゃないさ。話題も普通に合う』
『彼女と話す理由が無いだけだ』
フォーラは心の奥底で自身がドラコに欲している言葉と正反対なドラコの発言に胸を痛め締め付けられると同時に、こんな中途半端な覚悟で彼の元へ向かったことを後悔した。もう十分拒否されていることは自覚していたが、ドラコが恋人とどうしているかなんて聞きたくなかった……いや、本人の口から聞かされたくなかったのだと今更気がついた。
(もう、このことは一旦忘れましょう。それよりも、ドラコがルシウスさんに守られていることを喜ばなきゃ。ルシウスさんがいる限り、きっとドラコは安全な筈。……あとは、父様がクリスマスパーティーの日に何か状況を動かすつもりなら、無事に終わることを祈るしかないわ。)