12. 目くらまし術
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その日の魔法薬学はスネイプだけでなく、アンブリッジの姿も見受けられた。彼女は片手にクリップボードを抱えており、近頃は様々な教師の授業に現れて各教師の授業を採点してまわっていたのだった。採点方法の一つとして彼女は授業の様子を度々生徒に尋ねたりもした。ドラコなんかはアンブリッジに頻繁に話しかけられている一人だった。彼女は目立って気に入っている生徒に授業の話を聞きに行く傾向があり、逆にハリーのようなアンブリッジが明らかに目の敵にしている生徒は避けていた。
一方、フォーラはというと一度だけ質問を受けたきりだ。これは単純にアンブリッジがフォーラに関心を抱いていないことの表れだった。それもその筈、フォーラはドラコやハリーのようにアンブリッジの前で目立つことが無いよう過ごしていた。フォーラは彼らのように彼女の目を引いても自身に何のメリットも無いことをよく分かっていたからだ。そのおかげもあってアンブリッジはフォーラが純血の出という点に好感を示してはいたものの、フォーラの得意な変身術やアニメーガスの力には興味を示したことがなかったのだった。
さて、今年度初のクィディッチ対抗戦が迫り、校内は試合の話題で騒めいていた。尚、グリフィンドールチームは結果的にアンブリッジの妨害を乗り越え活動許可を得るに至った。それもあって今年初戦のスリザリンとグリフィンドールは互いに牽制しあっていた。スリザリン寮内では例の『ウィーズリーは我が王者』と書かれたバッジに関する歌まで作り始めていたくらいだ。
その間フォーラはそれらを完全に無視し、四階の空き部屋で変身術を練習したり、父親の手記にあったような魔法薬と同等の力を持つ変身術について、図書室に関連図書がないか探したりと単独行動を度々繰り返した。この行動についてフォーラは自身が何処で何をしているのか周囲に詳しく話さなかったが、友人含め学業優先の五年生達は誰も彼女の行動を不審とすら思わなかった。何故なら前年までは友人と勉強していた他の生徒も、五年生になって大量の宿題をこなす内、単独でお気に入りの場所を見つけて勉強に集中し始める者は少なくなかったからだ。
そんな風にどれだけ学業に追われている生徒でも、勉強する時間がたっぷりある休みの日に『クィディッチの応援』という正当な理由で机から離れられることを喜ばない訳がなかった。しかしフォーラばかりは例外で、初戦の試合を見に行かず例の部屋に篭って変身術の練習に励んだのだった。
彼女の不在についてパンジーとルニーは寛大だった。彼女達はフォーラが最近ドラコにめっきり近づかなくなったことをよく知っており、恐らくフォーラ自身が彼の姿を目に入れたくないのだろうと思って気遣っていたのだ。
スリザリン対グリフィンドールの試合が始まってから数十分が過ぎた。ホグワーツ城の四階にある空き部屋では、フォーラが出現呪文で呼び出した姿見の前で完璧な『目くらまし術』を完成させたところだった。自身の身体全体に術をかけ、完全に景色と同化することに成功したのだ。
(完璧だわ。私、全く見えてない。服も消せているわ。
これなら、ドラコがセオドール達と一緒の時に近くに行けば、何か話しているのが聞けるかもしれない。)
盗み聞きなどしない方がいいことは百も承知だ。しかしフォーラはそのためにこの技を習得したのだ。試さない手はない。
それからフォーラはもうひとしきり目くらまし術を飽きるまで練習した。そして生徒達がクィディッチの観戦を終えて城に戻った頃、ようやく彼女は元の姿に戻って空き部屋を出ると、その足で図書室へと向かって行った。
(父様の手記のことも、もっと調べなきゃ)
ちょうどその頃、ドラコは苛立ちと落ち込みを抱えた様子で一人医務室から出てスリザリン寮の方向とは正反対の廊下を歩いていた。彼は先程まで痣だらけだった顔を無意識にさすった。
(ポッターにウィーズリーの片割め、僕にこんな怪我を負わせて、クィディッチ禁止とはいい気味だ。アンブリッジのこの命令は今のところ誰も覆せないだろう)
つい先程まで行われていたクィディッチでは、ドラコの予想通りグリフィンドールのゴールキーパーであるロンが緊張で上手く動けずスリザリンは得点し放題だった。しかし最後の最後でハリーにスニッチを掴まれてしまい、結局はグリフィンドールの勝利となったのだ。ドラコは試合後に負け惜しみで思わずハリーやジョージに嫌味をふっかけてしまったが、その際に堪忍袋の尾が切れたハリーから顔面にパンチをお見舞いされた。
マクゴナガルはハリーに対してマグルのするような野蛮な行為だと勿論咎めたが、横から割って入ったアンブリッジがハリーとジョージ(彼はチームメイトに押さえつけられていたが、同じくドラコに殴りかかろうとしていた)にクィディッチの生涯禁止を言い渡したのだ。
ドラコとしてはこの上なく都合の良い状況には違いなかったが、試合に負けて痣まで負わされて、心の中では自分の惨めさを痛感していた。こんな状態のまま人前でいつも通り強気に振る舞うなんて正直出来そうになかった。それだからどうしても寮に戻る気になれず、こうして城の中をあてもなく歩いていたのだった。
(そういえば随分前にもこんな風にグリフィンドールと喧嘩して、痣を作ったことがあった)
一年生か二年生か、それくらいの頃だったろうか。あの時は確かフォーラが随分自分の痣を気にして、涙まで流していた気がする。
(もう随分も前のことだ。今となってはどうでも良い。それに今のフォーラは最早そんなこと気にも留めないだろう。すっかり僕への関心も無くなったようだし)
その時ふとドラコが廊下の前の方を見やると、奥の階段から誰かが降りてくるのが見えた。その人はドラコに気づくことなくそのまま図書室の方向へ行ってしまった。ドラコは遠目でもそれが誰なのかをハッキリ捉えていた。髪型に歩き方、背格好全て今となっては嫌と感じてしまう程見たことがある。
(フォーラ……?)
どうして彼女が上の階から?スリザリン寮なら地下にある。梟小屋とも方向が違うし、この辺の上階には特にこれといったものは何も無かったはずだ。図書室に行くならこんな道は通らない。それに試合が終わってまだ間もない。
そこまで考えて、ドラコはふと思い立った。
(……多分、フォーラは最初から試合に来ていなかったのかもしれない。大方試合中の僕を目に入れたく無かったと考えるのが普通だろう。それにスリザリン生は殆ど皆んなが彼女の嫌がったバッチを着けていたんだから。
まあフォーラが試合に居ようが居まいがどこで何をしていようが、僕には関係ないことだ)
ドラコはフォーラが降りて来た階段の方を一瞥し、別の場所へと向かったのだった。
一方、フォーラはというと一度だけ質問を受けたきりだ。これは単純にアンブリッジがフォーラに関心を抱いていないことの表れだった。それもその筈、フォーラはドラコやハリーのようにアンブリッジの前で目立つことが無いよう過ごしていた。フォーラは彼らのように彼女の目を引いても自身に何のメリットも無いことをよく分かっていたからだ。そのおかげもあってアンブリッジはフォーラが純血の出という点に好感を示してはいたものの、フォーラの得意な変身術やアニメーガスの力には興味を示したことがなかったのだった。
さて、今年度初のクィディッチ対抗戦が迫り、校内は試合の話題で騒めいていた。尚、グリフィンドールチームは結果的にアンブリッジの妨害を乗り越え活動許可を得るに至った。それもあって今年初戦のスリザリンとグリフィンドールは互いに牽制しあっていた。スリザリン寮内では例の『ウィーズリーは我が王者』と書かれたバッジに関する歌まで作り始めていたくらいだ。
その間フォーラはそれらを完全に無視し、四階の空き部屋で変身術を練習したり、父親の手記にあったような魔法薬と同等の力を持つ変身術について、図書室に関連図書がないか探したりと単独行動を度々繰り返した。この行動についてフォーラは自身が何処で何をしているのか周囲に詳しく話さなかったが、友人含め学業優先の五年生達は誰も彼女の行動を不審とすら思わなかった。何故なら前年までは友人と勉強していた他の生徒も、五年生になって大量の宿題をこなす内、単独でお気に入りの場所を見つけて勉強に集中し始める者は少なくなかったからだ。
そんな風にどれだけ学業に追われている生徒でも、勉強する時間がたっぷりある休みの日に『クィディッチの応援』という正当な理由で机から離れられることを喜ばない訳がなかった。しかしフォーラばかりは例外で、初戦の試合を見に行かず例の部屋に篭って変身術の練習に励んだのだった。
彼女の不在についてパンジーとルニーは寛大だった。彼女達はフォーラが最近ドラコにめっきり近づかなくなったことをよく知っており、恐らくフォーラ自身が彼の姿を目に入れたくないのだろうと思って気遣っていたのだ。
スリザリン対グリフィンドールの試合が始まってから数十分が過ぎた。ホグワーツ城の四階にある空き部屋では、フォーラが出現呪文で呼び出した姿見の前で完璧な『目くらまし術』を完成させたところだった。自身の身体全体に術をかけ、完全に景色と同化することに成功したのだ。
(完璧だわ。私、全く見えてない。服も消せているわ。
これなら、ドラコがセオドール達と一緒の時に近くに行けば、何か話しているのが聞けるかもしれない。)
盗み聞きなどしない方がいいことは百も承知だ。しかしフォーラはそのためにこの技を習得したのだ。試さない手はない。
それからフォーラはもうひとしきり目くらまし術を飽きるまで練習した。そして生徒達がクィディッチの観戦を終えて城に戻った頃、ようやく彼女は元の姿に戻って空き部屋を出ると、その足で図書室へと向かって行った。
(父様の手記のことも、もっと調べなきゃ)
ちょうどその頃、ドラコは苛立ちと落ち込みを抱えた様子で一人医務室から出てスリザリン寮の方向とは正反対の廊下を歩いていた。彼は先程まで痣だらけだった顔を無意識にさすった。
(ポッターにウィーズリーの片割め、僕にこんな怪我を負わせて、クィディッチ禁止とはいい気味だ。アンブリッジのこの命令は今のところ誰も覆せないだろう)
つい先程まで行われていたクィディッチでは、ドラコの予想通りグリフィンドールのゴールキーパーであるロンが緊張で上手く動けずスリザリンは得点し放題だった。しかし最後の最後でハリーにスニッチを掴まれてしまい、結局はグリフィンドールの勝利となったのだ。ドラコは試合後に負け惜しみで思わずハリーやジョージに嫌味をふっかけてしまったが、その際に堪忍袋の尾が切れたハリーから顔面にパンチをお見舞いされた。
マクゴナガルはハリーに対してマグルのするような野蛮な行為だと勿論咎めたが、横から割って入ったアンブリッジがハリーとジョージ(彼はチームメイトに押さえつけられていたが、同じくドラコに殴りかかろうとしていた)にクィディッチの生涯禁止を言い渡したのだ。
ドラコとしてはこの上なく都合の良い状況には違いなかったが、試合に負けて痣まで負わされて、心の中では自分の惨めさを痛感していた。こんな状態のまま人前でいつも通り強気に振る舞うなんて正直出来そうになかった。それだからどうしても寮に戻る気になれず、こうして城の中をあてもなく歩いていたのだった。
(そういえば随分前にもこんな風にグリフィンドールと喧嘩して、痣を作ったことがあった)
一年生か二年生か、それくらいの頃だったろうか。あの時は確かフォーラが随分自分の痣を気にして、涙まで流していた気がする。
(もう随分も前のことだ。今となってはどうでも良い。それに今のフォーラは最早そんなこと気にも留めないだろう。すっかり僕への関心も無くなったようだし)
その時ふとドラコが廊下の前の方を見やると、奥の階段から誰かが降りてくるのが見えた。その人はドラコに気づくことなくそのまま図書室の方向へ行ってしまった。ドラコは遠目でもそれが誰なのかをハッキリ捉えていた。髪型に歩き方、背格好全て今となっては嫌と感じてしまう程見たことがある。
(フォーラ……?)
どうして彼女が上の階から?スリザリン寮なら地下にある。梟小屋とも方向が違うし、この辺の上階には特にこれといったものは何も無かったはずだ。図書室に行くならこんな道は通らない。それに試合が終わってまだ間もない。
そこまで考えて、ドラコはふと思い立った。
(……多分、フォーラは最初から試合に来ていなかったのかもしれない。大方試合中の僕を目に入れたく無かったと考えるのが普通だろう。それにスリザリン生は殆ど皆んなが彼女の嫌がったバッチを着けていたんだから。
まあフォーラが試合に居ようが居まいがどこで何をしていようが、僕には関係ないことだ)
ドラコはフォーラが降りて来た階段の方を一瞥し、別の場所へと向かったのだった。