11. 父の手記
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(まさかこんな時間まで過ごしてしまうなんて。うう、今になってお腹がうるさい……。それにしても、本当に父様が描いた理想のように、杖の力だけでいつでも魔法薬と同等の力果が得られるようになったら、どれだけ素晴らしいか……)
フォーラは地下へ続く階段を下りながら、その考えを否定するように心の中で首を横に振った。
(ドラコから近況を聞きたいからって、都合よく自由に自分以外の誰かになりすましたいと思うだなんて。そんな力が仮に杖一振りで手に入ってしまったら、 きっとたくさん悪いことができてしまうわね……。そんな夢物語を考えるより、本気でドラコを偵察するなら、目眩し術を使うか猫になるのが現実的でしょうね。とはいえドラコは私が猫になった時の姿をよく覚えている筈だから、まずは目眩し術を優先して習得して、その後で人の変身を覚えるのが先決よね)
フォーラはそのようなことを考えながらスリザリン寮の入り口で合言葉を唱え、開いた石の扉を抜けた。談話室には数人の生徒がたむろしているだけで、パンジーやルニーの姿はなかった。すると近くにいた同学年の女子生徒数名がフォーラの存在に気付き、手を振って声を掛けてきた。
「フォーラ、随分疲れた顔ね。もしかして夕食も食べずにずっと図書室にいたの?」
「え、ええ。今戻ってきたところなの。読書に集中していたらこんな時間になってしまって。」
「ふうん、随分熱心なのね。ところでお腹空いてるんでしょ?パンジーとルニーがあなたに夕食を少し取っておいてくれてるわよ。今からでも食べたらどう?」
「えっ、そうなの?」
その女生徒が指差したローテーブルには大きめのナフキンが掛かったバスケットが置かれており、布の上には置き手紙が載せられていた。
『フォーラへ
夕食の後に図書室へ寄ったけど、集中してるみたいだったから軽い食べ物だけ持ってきたわ。勉強も夜中の食事も、詰め込みすぎは厳禁よ!
ルニー&パンジー』
(図書室まで様子を見にきてくれていたのね)
フォーラは置き手紙に微笑んで二人に感謝した。
「パンジーたちはもう女子寮に行ってしまったの?」
「ええ、少し前にね。二人とも、もう寝るって言ってたわ。もし私たちが起きてる間にフォーラが戻ってきたら、バスケットのこと伝えてほしいって言われていたの。それじゃ、私たちもそろそろ寝ることにするわ。おやすみなさい。遅いしあまり食べ過ぎないようにね」
「ええ、分かったわ。教えてくれてどうもありがとう。」
そうしてフォーラはバスケットの置かれたローテーブル前の肘掛け椅子に座り、ナフキンを取り去った。中にはサラダにミートパイが少しと、ポタージュスープが魔法で保温されていた。
(あら……、それに私の好きなパンプキンパイもある。デザートまで用意してもらって、有難くいただかなきゃ)
フォーラがこの日の最後に食べたパンプキンパイは、いつもと違って何故だか特別な味がした。あんなに疲れ切っていたのが嘘のように回復して、何とも言えぬ満足感と心地よい微睡みを促しているような気すらした。
その日の翌日、フォーラは朝一番にパンジーとルニーに対して昨晩のお礼を伝えた。
「本当にありがとう。空腹で死んでしまうかと思っていたところだったの。」
「もう、夕食前だっていうのに飛んでいっちゃうんだから。そんなに急ぎだったの?」
ルニーの問いを受けてフォーラが曖昧に「ええ、ちょっとだけ……」と返答すると、ルニーは少しばかり口の先を尖らせた。
「もう、それにしたって根を詰めすぎなんだから。明日でもいいことは次の日やればいいのよ」
すると今度はパンジーが言葉を続けた。
「とはいえ私もルニーも、最近のフォーラが今までの倍くらい勉強を頑張っているのを知っていたし、夕食後の図書室に様子を見にいった時もあまりにも一生懸命みたいだったから、昨日はそっとしておこうって決めたのよ」
「本当にありがとう。様子を見にきてくれた上に、まさか夕食を用意してくれているなんて思わなくて、昨日は本当に嬉しかったの。しかも私の好きなパンプキンパイまで取り分けておいてくれて……パイに魔法を掛けてくれたのよね?いつもより幸せな味がしたし、すっかり回復できたのよ。」
「それはよかっ……ん?パンプキンパイって何のこと?」ルニーが尋ねた。
「えっ、二人が用意してくれていたでしょう?とっても美味しかったわ。」
パンジーとルニーは訝しげに顔を見合わせ、フォーラに向き直るとパンジーが切り出した。
「フォーラ?私たち、パイは入れていないの。夜中にデザートなんて避けたがるかと思ってやめたのよ」
「でも私、確かにいただいたわ―――それじゃあ、誰かがバスケットに入れたのかしら……。どうしよう、私、全部すっかり食べてしまったわ!」
フォーラは途端に慌てて喉元を両手でパッと押さえたが、ルニーがそれを制した。
「落ち着いて!一先ず今のフォーラの様子からして毒や呪いがあったわけじゃなさそうだし。もしそうだったとしたら、とっくに痛みか苦しさを感じてる筈でしょ?」
「あ……そ、そうよね。私ったら取り乱してごめんなさい。あんなに幸せな味だったんだもの。誰かが善意で入れてくれたと思う方がいいのかもしれないわね……。」
一先ずフォーラが落ち着きを取り戻したのを確認すると、パンジーはため息混じりに安堵の声を漏らした。
「まあ、とっくに食べちゃった後だもの。今更何もできないけど、とりあえず何の影響もなさそうで良かったわ。でも私たち、図書室に寄った後に厨房まで行って屋敷しもべ妖精に食事を分けてもらったのに。誰かがバスケットにパイを入れるなら、私たちが就寝のために談話室を去った後が一番可能性が高いけど……」
今度はルニーが考え込むように自身の頬に手を当てながら首を捻った。
「うーん、そうね、厨房から談話室に向かう道中で入れられたとは考えにくいし。もしかするとスリザリンにフォーラのストーカーがいて、その人が―――」
フォーラの顔からサッと血の気が引いたものだから、ルニーは慌ててその言葉の続きを言うのをやめた。そしてパンジーがルニーに軽く叱咤する間、フォーラはよくよく考えてみれば、あんなに素敵な幸福感のある魔法の掛かったパイに仕上がっているなんて、確実に誰かからのプラスの気持ちが込められていたに違いないと思った。それがストーカーなのか何なのかはよく分からないし、正直言って気持ち悪さや不安感が全くないわけではない。しかし少なくとも昨日のフォーラが本当にあのパイに助けられたことは間違いなかったし、むしろそれを有難いと思う気持ちの方が勝 っていたのだった。
フォーラは地下へ続く階段を下りながら、その考えを否定するように心の中で首を横に振った。
(ドラコから近況を聞きたいからって、都合よく自由に自分以外の誰かになりすましたいと思うだなんて。そんな力が仮に杖一振りで手に入ってしまったら、 きっとたくさん悪いことができてしまうわね……。そんな夢物語を考えるより、本気でドラコを偵察するなら、目眩し術を使うか猫になるのが現実的でしょうね。とはいえドラコは私が猫になった時の姿をよく覚えている筈だから、まずは目眩し術を優先して習得して、その後で人の変身を覚えるのが先決よね)
フォーラはそのようなことを考えながらスリザリン寮の入り口で合言葉を唱え、開いた石の扉を抜けた。談話室には数人の生徒がたむろしているだけで、パンジーやルニーの姿はなかった。すると近くにいた同学年の女子生徒数名がフォーラの存在に気付き、手を振って声を掛けてきた。
「フォーラ、随分疲れた顔ね。もしかして夕食も食べずにずっと図書室にいたの?」
「え、ええ。今戻ってきたところなの。読書に集中していたらこんな時間になってしまって。」
「ふうん、随分熱心なのね。ところでお腹空いてるんでしょ?パンジーとルニーがあなたに夕食を少し取っておいてくれてるわよ。今からでも食べたらどう?」
「えっ、そうなの?」
その女生徒が指差したローテーブルには大きめのナフキンが掛かったバスケットが置かれており、布の上には置き手紙が載せられていた。
『フォーラへ
夕食の後に図書室へ寄ったけど、集中してるみたいだったから軽い食べ物だけ持ってきたわ。勉強も夜中の食事も、詰め込みすぎは厳禁よ!
ルニー&パンジー』
(図書室まで様子を見にきてくれていたのね)
フォーラは置き手紙に微笑んで二人に感謝した。
「パンジーたちはもう女子寮に行ってしまったの?」
「ええ、少し前にね。二人とも、もう寝るって言ってたわ。もし私たちが起きてる間にフォーラが戻ってきたら、バスケットのこと伝えてほしいって言われていたの。それじゃ、私たちもそろそろ寝ることにするわ。おやすみなさい。遅いしあまり食べ過ぎないようにね」
「ええ、分かったわ。教えてくれてどうもありがとう。」
そうしてフォーラはバスケットの置かれたローテーブル前の肘掛け椅子に座り、ナフキンを取り去った。中にはサラダにミートパイが少しと、ポタージュスープが魔法で保温されていた。
(あら……、それに私の好きなパンプキンパイもある。デザートまで用意してもらって、有難くいただかなきゃ)
フォーラがこの日の最後に食べたパンプキンパイは、いつもと違って何故だか特別な味がした。あんなに疲れ切っていたのが嘘のように回復して、何とも言えぬ満足感と心地よい微睡みを促しているような気すらした。
その日の翌日、フォーラは朝一番にパンジーとルニーに対して昨晩のお礼を伝えた。
「本当にありがとう。空腹で死んでしまうかと思っていたところだったの。」
「もう、夕食前だっていうのに飛んでいっちゃうんだから。そんなに急ぎだったの?」
ルニーの問いを受けてフォーラが曖昧に「ええ、ちょっとだけ……」と返答すると、ルニーは少しばかり口の先を尖らせた。
「もう、それにしたって根を詰めすぎなんだから。明日でもいいことは次の日やればいいのよ」
すると今度はパンジーが言葉を続けた。
「とはいえ私もルニーも、最近のフォーラが今までの倍くらい勉強を頑張っているのを知っていたし、夕食後の図書室に様子を見にいった時もあまりにも一生懸命みたいだったから、昨日はそっとしておこうって決めたのよ」
「本当にありがとう。様子を見にきてくれた上に、まさか夕食を用意してくれているなんて思わなくて、昨日は本当に嬉しかったの。しかも私の好きなパンプキンパイまで取り分けておいてくれて……パイに魔法を掛けてくれたのよね?いつもより幸せな味がしたし、すっかり回復できたのよ。」
「それはよかっ……ん?パンプキンパイって何のこと?」ルニーが尋ねた。
「えっ、二人が用意してくれていたでしょう?とっても美味しかったわ。」
パンジーとルニーは訝しげに顔を見合わせ、フォーラに向き直るとパンジーが切り出した。
「フォーラ?私たち、パイは入れていないの。夜中にデザートなんて避けたがるかと思ってやめたのよ」
「でも私、確かにいただいたわ―――それじゃあ、誰かがバスケットに入れたのかしら……。どうしよう、私、全部すっかり食べてしまったわ!」
フォーラは途端に慌てて喉元を両手でパッと押さえたが、ルニーがそれを制した。
「落ち着いて!一先ず今のフォーラの様子からして毒や呪いがあったわけじゃなさそうだし。もしそうだったとしたら、とっくに痛みか苦しさを感じてる筈でしょ?」
「あ……そ、そうよね。私ったら取り乱してごめんなさい。あんなに幸せな味だったんだもの。誰かが善意で入れてくれたと思う方がいいのかもしれないわね……。」
一先ずフォーラが落ち着きを取り戻したのを確認すると、パンジーはため息混じりに安堵の声を漏らした。
「まあ、とっくに食べちゃった後だもの。今更何もできないけど、とりあえず何の影響もなさそうで良かったわ。でも私たち、図書室に寄った後に厨房まで行って屋敷しもべ妖精に食事を分けてもらったのに。誰かがバスケットにパイを入れるなら、私たちが就寝のために談話室を去った後が一番可能性が高いけど……」
今度はルニーが考え込むように自身の頬に手を当てながら首を捻った。
「うーん、そうね、厨房から談話室に向かう道中で入れられたとは考えにくいし。もしかするとスリザリンにフォーラのストーカーがいて、その人が―――」
フォーラの顔からサッと血の気が引いたものだから、ルニーは慌ててその言葉の続きを言うのをやめた。そしてパンジーがルニーに軽く叱咤する間、フォーラはよくよく考えてみれば、あんなに素敵な幸福感のある魔法の掛かったパイに仕上がっているなんて、確実に誰かからのプラスの気持ちが込められていたに違いないと思った。それがストーカーなのか何なのかはよく分からないし、正直言って気持ち悪さや不安感が全くないわけではない。しかし少なくとも昨日のフォーラが本当にあのパイに助けられたことは間違いなかったし、むしろそれを有難いと思う気持ちの方が