11. 父の手記
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「私ったら、欲張りすぎね……。まだ何もできないからって焦っちゃ駄目なのに。」
今のところ自分は目眩し術をまぐれで成功させる程度の力しか持ち合わせていない。それに、ドラコとの仲が修復できそうにないと分かった今、これから何をどうすればいいのかも曖昧だ。
フォーラはため息を一つ吐くと透明なままの片手を元に戻した。その際ふと、この部屋に来てどれ程の時間が経っただろうかと気になって部屋の窓から校庭を見おろすと、ホグズミード村の方角からパラパラと生徒たちが帰路につき始めているのが小さく確認できた。今日は時間切れだ。そのうちパンジーとルニーが談話室に戻ってくるだろう。フォーラは出していた教科書を鞄に仕舞い、机などの備品を消失させると、この日の練習を諦めて部屋を後にしたのだった。
パンジーやルニーはフォーラに沢山お土産を持って帰ってきた。それは物だけに留まらず、二人がそれぞれどう過ごしたかという話も含まれた。パンジーは久々に会えた想い人との時間を本当に楽しんだ様子だったし、ルニーはついこの間知り合ったばかりの後輩と、思った以上に話が盛り上がったと喜んでいた。
「そういえば」不意にパンジーが切り出した。「ホグズミードでドラコとその彼女を見かけたんだけど、何ていうか、ちょっと変だったのよね」
「変ってどんな風に?」ルニーの問いとフォーラの視線を受け、パンジーは「うーん」と唸った。
「たいしたことじゃないんだけど、何ていうか……ドラコったら何だか楽しそうじゃなかったのよね。笑っていたんだけど愛想笑いの塊っていうか、そんな感じだったのよ」
「あら、私が見かけた時はそんな風じゃなかったような気がするけど。とはいえ一瞬しか見てないからパンジーの言うとおりだったのかもしれないけどね。まあ何にせよ、彼女と上手くいってないのなら嬉しいわ。ドラコは早くあの女から目を覚ました方が良いもの。まあ仮に目が覚めたとしても、ドラコがフォーラに謝らなきゃ絶対に許さないけど。ねえフォーラ」
「え、ええ。……そうね。私もそう思うわ。」
フォーラが声を落としてそう言ったきり押し黙ってしまったので、パンジーもルニーも彼女を気遣い、それ以上はドラコの話をするのを控えたのだった。
それからは三人で別の話題を楽しむ中、フォーラは先程のパンジーの話をきっかけに、自身が数日前に昼食時の大広間からドラコを引っ張って連れ出した時のことを思い返していた。あの日、彼を心配して現れたアマンダをドラコが一喝した。フォーラはあの出来事と、今日パンジーが見たという光景に何だか近しいものを感じていた。
(ドラコはアマンダと上手くいっていないのかしら?そうとは言い切れないけれど、でも……。本来のドラコは身内と感じた人に対しては心から親身になれる人だわ。かつて私にもそうしてくれたように。だから、もしかするとドラコはまだ彼女との距離感が分からないだけなのかもしれない。想いを伝えたのは彼女からだったもの)
あの二人がそのような微妙な関係だとしたら、ドラコが死喰い人に関する話を共有しているとは到底思えない。きっとその手の話題は彼に一番身近な人たちにしか交わされないのだろう。そう思うことでフォーラは無意識のうちに自分の心の劣等感を慰めようとしていることに気付いた。
(だからって、今の私じゃ何も)
その時、談話室の入り口から下級生が入ってくると同時に一羽の梟がスーッと一緒に飛び込んできた。その梟はルニーの元へ一直線にやってきてテーブルの上に着地し、手紙の括られた片脚を突き出した。
「誰からの手紙?」パンジーの問いを受け、ルニーは手紙を外しながら返答した。
「ええとね……あっパパからだわ、珍しい。いつもはママが近況報告をくれるんだけど」
「お父様も、たまには直接ルニーに手紙を送りたかったのかもしれないわね。」フォーラが梟に向かって両手を広げ、膝の上に迎え入れながら言った。
(あら、お父様といえば、何か忘れて……)
フォーラはすっかり最近の忙しさで頭から抜け落ちていた父の言葉を、その瞬間に思い出した。
『もし何か行き詰まることがあれば―――私の手記も、もしかしたら役に立つことがあるかもしれない』
「あっ!」フォーラが突然声を上げて肘掛け椅子から立ち上がったものだから、手紙を運んできた梟が彼女の膝から転げ落ちた。梟は驚きと怒りで物申すようにホーと鳴き、パンジーとルニーもどうしたのかとフォーラを見上げた。周囲にいた生徒の内の何人かすらも彼女を振り返っていた。しかし今のフォーラはそれら全てを気にする余裕を持ち合わせていなかった。
「ごめんなさい、私、急用を思い出したの!行かなきゃ。」
「でも、もうすぐ夕食よ?一体何処へ―――」
フォーラは一先ず転げ落ちた梟を急いで自分の座っていた肘掛け椅子に着座させ、小走りで女子寮へ駆け上がっていった。そしてパンジーとルニーが互いにどうしたのかと顔を見合わせている間に、何かを片手に戻ってくるとようやく二人に返答した。
「図書室へ行くわ。夕食は私を待たずに先に済ませておいて。」そう言ってフォーラは談話室を横切って嵐のように去っていってしまったのだった。
(私ったら、どうしてこんなに大切なことを)
フォーラは急いで図書室までやってくると、空いている手頃な席にサッと座った。ここなら誰にも邪魔されることはない。彼女は手に持っていた父の手記を開き、次々に目を通しながらパラパラとページを捲っていった。
この手記は父親が学生の頃からこれまでずっと、新たに魔法薬を作るにあたって重要だと思うことを書き留めてきたものの一部で、娘に学びを与える一貫としてこれを託していた。彼が学生時代から魔法薬学に相当明るかった分、そこにはフォーラの知らない調合方法や、今世の中で役に立っている薬の原案のようなものなど、様々な内容が書き連ねてあった。どれも一つ一つが本当に目を引くものばかりで、もしハーマイオニーにこれを見せたら目を輝かせるに違いないと思える程だった。フォーラは自分も惹きつけられて思わず読み込んでしまいそうになるのを抑え、今最も自分に必要な情報が書かれていないかを探していた。
(父様は夏休みの終わりにこの手記を与えてくださった。新学期のホグワーツに戻って来るまでの私は幾らか最初の方のページに目を通していたのに、ドラコとの件や変身術のことで手一杯ですっかり忘れてしまっていたわ。父様は私に、貪欲に学びなさい、そして何か行き詰まったらこの手記も役立つかもしれないとおっしゃった。まさに行き詰まっている真っ最中の今になって思うことは、もしかしたら父様は何かこの中に私に必要なことが書かれていると確信していたのかもしれない。でないとこんなに大切そうなものを託さない筈だもの)
今のところ自分は目眩し術をまぐれで成功させる程度の力しか持ち合わせていない。それに、ドラコとの仲が修復できそうにないと分かった今、これから何をどうすればいいのかも曖昧だ。
フォーラはため息を一つ吐くと透明なままの片手を元に戻した。その際ふと、この部屋に来てどれ程の時間が経っただろうかと気になって部屋の窓から校庭を見おろすと、ホグズミード村の方角からパラパラと生徒たちが帰路につき始めているのが小さく確認できた。今日は時間切れだ。そのうちパンジーとルニーが談話室に戻ってくるだろう。フォーラは出していた教科書を鞄に仕舞い、机などの備品を消失させると、この日の練習を諦めて部屋を後にしたのだった。
パンジーやルニーはフォーラに沢山お土産を持って帰ってきた。それは物だけに留まらず、二人がそれぞれどう過ごしたかという話も含まれた。パンジーは久々に会えた想い人との時間を本当に楽しんだ様子だったし、ルニーはついこの間知り合ったばかりの後輩と、思った以上に話が盛り上がったと喜んでいた。
「そういえば」不意にパンジーが切り出した。「ホグズミードでドラコとその彼女を見かけたんだけど、何ていうか、ちょっと変だったのよね」
「変ってどんな風に?」ルニーの問いとフォーラの視線を受け、パンジーは「うーん」と唸った。
「たいしたことじゃないんだけど、何ていうか……ドラコったら何だか楽しそうじゃなかったのよね。笑っていたんだけど愛想笑いの塊っていうか、そんな感じだったのよ」
「あら、私が見かけた時はそんな風じゃなかったような気がするけど。とはいえ一瞬しか見てないからパンジーの言うとおりだったのかもしれないけどね。まあ何にせよ、彼女と上手くいってないのなら嬉しいわ。ドラコは早くあの女から目を覚ました方が良いもの。まあ仮に目が覚めたとしても、ドラコがフォーラに謝らなきゃ絶対に許さないけど。ねえフォーラ」
「え、ええ。……そうね。私もそう思うわ。」
フォーラが声を落としてそう言ったきり押し黙ってしまったので、パンジーもルニーも彼女を気遣い、それ以上はドラコの話をするのを控えたのだった。
それからは三人で別の話題を楽しむ中、フォーラは先程のパンジーの話をきっかけに、自身が数日前に昼食時の大広間からドラコを引っ張って連れ出した時のことを思い返していた。あの日、彼を心配して現れたアマンダをドラコが一喝した。フォーラはあの出来事と、今日パンジーが見たという光景に何だか近しいものを感じていた。
(ドラコはアマンダと上手くいっていないのかしら?そうとは言い切れないけれど、でも……。本来のドラコは身内と感じた人に対しては心から親身になれる人だわ。かつて私にもそうしてくれたように。だから、もしかするとドラコはまだ彼女との距離感が分からないだけなのかもしれない。想いを伝えたのは彼女からだったもの)
あの二人がそのような微妙な関係だとしたら、ドラコが死喰い人に関する話を共有しているとは到底思えない。きっとその手の話題は彼に一番身近な人たちにしか交わされないのだろう。そう思うことでフォーラは無意識のうちに自分の心の劣等感を慰めようとしていることに気付いた。
(だからって、今の私じゃ何も)
その時、談話室の入り口から下級生が入ってくると同時に一羽の梟がスーッと一緒に飛び込んできた。その梟はルニーの元へ一直線にやってきてテーブルの上に着地し、手紙の括られた片脚を突き出した。
「誰からの手紙?」パンジーの問いを受け、ルニーは手紙を外しながら返答した。
「ええとね……あっパパからだわ、珍しい。いつもはママが近況報告をくれるんだけど」
「お父様も、たまには直接ルニーに手紙を送りたかったのかもしれないわね。」フォーラが梟に向かって両手を広げ、膝の上に迎え入れながら言った。
(あら、お父様といえば、何か忘れて……)
フォーラはすっかり最近の忙しさで頭から抜け落ちていた父の言葉を、その瞬間に思い出した。
『もし何か行き詰まることがあれば―――私の手記も、もしかしたら役に立つことがあるかもしれない』
「あっ!」フォーラが突然声を上げて肘掛け椅子から立ち上がったものだから、手紙を運んできた梟が彼女の膝から転げ落ちた。梟は驚きと怒りで物申すようにホーと鳴き、パンジーとルニーもどうしたのかとフォーラを見上げた。周囲にいた生徒の内の何人かすらも彼女を振り返っていた。しかし今のフォーラはそれら全てを気にする余裕を持ち合わせていなかった。
「ごめんなさい、私、急用を思い出したの!行かなきゃ。」
「でも、もうすぐ夕食よ?一体何処へ―――」
フォーラは一先ず転げ落ちた梟を急いで自分の座っていた肘掛け椅子に着座させ、小走りで女子寮へ駆け上がっていった。そしてパンジーとルニーが互いにどうしたのかと顔を見合わせている間に、何かを片手に戻ってくるとようやく二人に返答した。
「図書室へ行くわ。夕食は私を待たずに先に済ませておいて。」そう言ってフォーラは談話室を横切って嵐のように去っていってしまったのだった。
(私ったら、どうしてこんなに大切なことを)
フォーラは急いで図書室までやってくると、空いている手頃な席にサッと座った。ここなら誰にも邪魔されることはない。彼女は手に持っていた父の手記を開き、次々に目を通しながらパラパラとページを捲っていった。
この手記は父親が学生の頃からこれまでずっと、新たに魔法薬を作るにあたって重要だと思うことを書き留めてきたものの一部で、娘に学びを与える一貫としてこれを託していた。彼が学生時代から魔法薬学に相当明るかった分、そこにはフォーラの知らない調合方法や、今世の中で役に立っている薬の原案のようなものなど、様々な内容が書き連ねてあった。どれも一つ一つが本当に目を引くものばかりで、もしハーマイオニーにこれを見せたら目を輝かせるに違いないと思える程だった。フォーラは自分も惹きつけられて思わず読み込んでしまいそうになるのを抑え、今最も自分に必要な情報が書かれていないかを探していた。
(父様は夏休みの終わりにこの手記を与えてくださった。新学期のホグワーツに戻って来るまでの私は幾らか最初の方のページに目を通していたのに、ドラコとの件や変身術のことで手一杯ですっかり忘れてしまっていたわ。父様は私に、貪欲に学びなさい、そして何か行き詰まったらこの手記も役立つかもしれないとおっしゃった。まさに行き詰まっている真っ最中の今になって思うことは、もしかしたら父様は何かこの中に私に必要なことが書かれていると確信していたのかもしれない。でないとこんなに大切そうなものを託さない筈だもの)