11. 父の手記
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その頃のフォーラは人目を忍んで四階にあるいつもの空き部屋に来ていた。最近は高学年の教科書から役に立ちそうな呪文を探して試すこともしており、特に『目くらまし術』に力を入れて練習していた。この術は呪文を掛けた対象を背景と同化させるものだ。まるでカメレオンのようになって、対象の姿が周囲からは殆ど見えなくなる。元々は魔法生物をマグルから守るために作られた術だったが、術者自身やローブ、マントなんかに施すことで敵から自分の身を隠せるのだ。
(騎士団の役に立つなら、これくらいはできておかないと。それに、ドラコが何か騎士団に有益な情報を知っていて、クラッブやゴイル、セオドールと共有しているのなら、この術を私自身に掛けて近付けば何かいい会話が聞けるかもしれないわ)
目くらまし術は難易度が高く習得するのに時間のかかる技だった。そのためこの日の彼女は生徒たちがホグズミード村から帰路につき始める時間まで、ひたすら自分の羽ペンや、女子寮から拝借したゴブレットに向かってこの術を練習し続けた。その間、彼女の脳裏を今日玄関ホールで見かけたドラコと恋人の姿が何度かチラついた。今こうしている間にも二人が楽しげに会話しているのかと思うと、その度にフォーラは無意識のうちに杖を振る手を止めてしまっていた。
(この術では、ドラコと話すことはできないのよね……)
フォーラはそのように思いながらゴブレットに向かって杖を一振りした。ゴブレットはぼんやりと向こうが透けて見える程度にまで透過した。彼女はもう一度杖を振ってそれを元の姿に戻した。
(ドラコの恋人や友人たちのように、私も彼と話せたら……。クラッブやゴイルはドラコとよく一緒にいるし、彼の最近の態度について何か心の内を知っているのかしら。でも、きっと二人は口止めされているから尋ねても何も教えてくれないでしょうね。……彼の恋人も、何か私の知らない一面を見たりしているのかしら。だってドラコが私を嫌っているという話を聞いていたみたいだし……)
フォーラは再び杖を振って呪文をゴブレットに命中させたが、先程よりも僅かにしか透けなかった。もう一度杖を振ると、今度のゴブレットは下半分だけ完全に透過した。フォーラは再びそれを元の状態に戻した。
(そもそも、今のドラコは私と話す気なんて持ち合わせていないのよ。私以外の見知らぬ誰かの方がまだ希望があるかもしれない。騎士団のメンバーなら、例えば変身術の得意なトンクスやマクゴナガル先生なら、こんな時どうするかしら……)
「あっ!」フォーラは再び杖を振った際、誤って自分の片手に術を掛けてしまった。考えごとをしていたせいで手元が狂ったのだ。そしてそれと同時に、そばの丸テーブルの上に置いていた六学年用の教科書を杖腕で弾き落としてしまった。
「ああ……私ったら……」
その間、術が掛かった方の手には冷たいものが流れるような感覚があり、程なくして手首から先だけが完全に見えなくなった。この時のフォーラは狙った対象は違えども初めて完璧に目くらまし術に成功していて、これには当の本人も驚かざるを得なかった。自分の手をまじまじと眺めてみると、そこにある筈の手は見えず、まるで手首を切り落とされたようだった。彼女は好奇心から試しにその手で先程床に落ちた教科書を持ち上げようと腕を伸ばしてみた。するとその時、見えない手を介して偶然見開かれたページの文字に目がとまったのだった。
「……『人の変身』……」
フォーラはすっかり見落としていたこのページをよく見ようと、教科書をサッと拾い上げてまじまじと眺めた。そして見えなくなった手を元に戻すことすら忘れ、丸テーブルの上に教科書を置き直しながらそのまま覗き込むように本文を読みあさった。
『人の変身』は人の顔や体のパーツを自由に曲げたり伸ばしたり、年齢や色すらも変えたりする術だと書かれていた。ちょっとした整形に利用する人もいれば、危険な場面で素顔を隠すために使用したりと用途は様々なようだ。
(これなら、ひょっとしてもしかすると―――ドラコが私と話してくれないなら、私が私でなくなれば……ドラコに気付かれずに彼本人と話ができるかも?でも、容易に誰かと完全にそっくりにれるわけではなさそうだし、パーツを変えて知らない人になれたとしても、彼は込み入った話にまともに取り合ってくれないでしょうね)
教科書曰く、『人の変身』では誰かと全く同じ顔や骨格になれなくはないが、それは相当難しいことらしかった。それならいっそポリジュース薬を煎じて誰かに成りすます方が確実かもしれない。しかし薬は一回一時間しか効果が持続しない上に、そもそも材料が貴重でスネイプの保管棚にしかない。何よりスネイプとは騎士団の役に立つための準備期間として『貪欲に学ぶ』ことを約束した手前、自身の力で解決できない部分に手を出そうなど、きっと許されないだろうとも思えた。
そこまで考えた時、フォーラは不意に以前もどこかで誰かとポリジュース薬の話をしたような気がした。
(あれは確か……そうだわ。ブラック邸でトンクスと『七変化』について話した時だった)
あの時はトンクスが自身の髪をジニーの赤い髪とそっくりに変化させていた。彼女は生まれつき七変化の能力を持っていて、杖を振らずとも『人の変身』と同じことを自在にできる人だった。そしてそのセンスの良さ故に、時間をかければポリジュース薬を使わずに、よく知る誰かとそっくりにもなれると話していた。
それを思い出してフォーラは自分とトンクスの力量の差に気分が落ち込んだ。闇払いとして働く彼女と比較すること自体がおこがましいのだが、今すぐ『人の変身』を試したい身としては七変化の能力がほしくてたまらなかった。とはいえ後天的に七変化となったのは大昔にただ一人と言われるほど無理に等しいのだから、絵に描いた餅なのは間違いなかった。
(騎士団の役に立つなら、これくらいはできておかないと。それに、ドラコが何か騎士団に有益な情報を知っていて、クラッブやゴイル、セオドールと共有しているのなら、この術を私自身に掛けて近付けば何かいい会話が聞けるかもしれないわ)
目くらまし術は難易度が高く習得するのに時間のかかる技だった。そのためこの日の彼女は生徒たちがホグズミード村から帰路につき始める時間まで、ひたすら自分の羽ペンや、女子寮から拝借したゴブレットに向かってこの術を練習し続けた。その間、彼女の脳裏を今日玄関ホールで見かけたドラコと恋人の姿が何度かチラついた。今こうしている間にも二人が楽しげに会話しているのかと思うと、その度にフォーラは無意識のうちに杖を振る手を止めてしまっていた。
(この術では、ドラコと話すことはできないのよね……)
フォーラはそのように思いながらゴブレットに向かって杖を一振りした。ゴブレットはぼんやりと向こうが透けて見える程度にまで透過した。彼女はもう一度杖を振ってそれを元の姿に戻した。
(ドラコの恋人や友人たちのように、私も彼と話せたら……。クラッブやゴイルはドラコとよく一緒にいるし、彼の最近の態度について何か心の内を知っているのかしら。でも、きっと二人は口止めされているから尋ねても何も教えてくれないでしょうね。……彼の恋人も、何か私の知らない一面を見たりしているのかしら。だってドラコが私を嫌っているという話を聞いていたみたいだし……)
フォーラは再び杖を振って呪文をゴブレットに命中させたが、先程よりも僅かにしか透けなかった。もう一度杖を振ると、今度のゴブレットは下半分だけ完全に透過した。フォーラは再びそれを元の状態に戻した。
(そもそも、今のドラコは私と話す気なんて持ち合わせていないのよ。私以外の見知らぬ誰かの方がまだ希望があるかもしれない。騎士団のメンバーなら、例えば変身術の得意なトンクスやマクゴナガル先生なら、こんな時どうするかしら……)
「あっ!」フォーラは再び杖を振った際、誤って自分の片手に術を掛けてしまった。考えごとをしていたせいで手元が狂ったのだ。そしてそれと同時に、そばの丸テーブルの上に置いていた六学年用の教科書を杖腕で弾き落としてしまった。
「ああ……私ったら……」
その間、術が掛かった方の手には冷たいものが流れるような感覚があり、程なくして手首から先だけが完全に見えなくなった。この時のフォーラは狙った対象は違えども初めて完璧に目くらまし術に成功していて、これには当の本人も驚かざるを得なかった。自分の手をまじまじと眺めてみると、そこにある筈の手は見えず、まるで手首を切り落とされたようだった。彼女は好奇心から試しにその手で先程床に落ちた教科書を持ち上げようと腕を伸ばしてみた。するとその時、見えない手を介して偶然見開かれたページの文字に目がとまったのだった。
「……『人の変身』……」
フォーラはすっかり見落としていたこのページをよく見ようと、教科書をサッと拾い上げてまじまじと眺めた。そして見えなくなった手を元に戻すことすら忘れ、丸テーブルの上に教科書を置き直しながらそのまま覗き込むように本文を読みあさった。
『人の変身』は人の顔や体のパーツを自由に曲げたり伸ばしたり、年齢や色すらも変えたりする術だと書かれていた。ちょっとした整形に利用する人もいれば、危険な場面で素顔を隠すために使用したりと用途は様々なようだ。
(これなら、ひょっとしてもしかすると―――ドラコが私と話してくれないなら、私が私でなくなれば……ドラコに気付かれずに彼本人と話ができるかも?でも、容易に誰かと完全にそっくりにれるわけではなさそうだし、パーツを変えて知らない人になれたとしても、彼は込み入った話にまともに取り合ってくれないでしょうね)
教科書曰く、『人の変身』では誰かと全く同じ顔や骨格になれなくはないが、それは相当難しいことらしかった。それならいっそポリジュース薬を煎じて誰かに成りすます方が確実かもしれない。しかし薬は一回一時間しか効果が持続しない上に、そもそも材料が貴重でスネイプの保管棚にしかない。何よりスネイプとは騎士団の役に立つための準備期間として『貪欲に学ぶ』ことを約束した手前、自身の力で解決できない部分に手を出そうなど、きっと許されないだろうとも思えた。
そこまで考えた時、フォーラは不意に以前もどこかで誰かとポリジュース薬の話をしたような気がした。
(あれは確か……そうだわ。ブラック邸でトンクスと『七変化』について話した時だった)
あの時はトンクスが自身の髪をジニーの赤い髪とそっくりに変化させていた。彼女は生まれつき七変化の能力を持っていて、杖を振らずとも『人の変身』と同じことを自在にできる人だった。そしてそのセンスの良さ故に、時間をかければポリジュース薬を使わずに、よく知る誰かとそっくりにもなれると話していた。
それを思い出してフォーラは自分とトンクスの力量の差に気分が落ち込んだ。闇払いとして働く彼女と比較すること自体がおこがましいのだが、今すぐ『人の変身』を試したい身としては七変化の能力がほしくてたまらなかった。とはいえ後天的に七変化となったのは大昔にただ一人と言われるほど無理に等しいのだから、絵に描いた餅なのは間違いなかった。