9. 曖昧な記憶
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アンブリッジは[[rb:贔屓 > ひいき]]にしている寮の、しかも純血の家系に生まれた(ことになっている)生徒であるフォーラに痛く丁寧にお願いされたことで随分機嫌を良くし、ガマガエルのような口を自然と横に広げて笑みを見せた。とはいえ、結局アンブリッジにはお[[rb:上 > かみ]]の教育方針を曲げる気はないようだった。
「―――ということなの。ファントムさんの不安に思う気持ちはよく分かりますよ。でもね、魔法省の教育プログラムで実技もきっと[[rb:賄 > まかな]]えます。さ、もうこんな時間。次の授業に間に合わなくなってしまいますよ」
「あ、えっと」フォーラが言葉を発する前にアンブリッジが相変わらず甘ったるい声で続けた。
「ファントムさん、先生は頼ってもらえて本当に嬉しかったわ。これからも、分からないことがあればいつでも聞いてちょうだいね」
「は、はい、アンブリッジ先生……。失礼します。」フォーラはそれ以上追求せず教室の出口に向かった。
(もし、ルニーが言っていたようにドラコが先生にお願いしたとすれば、少しでも何か違ったのかしら)
そんなことを考えながら教室を出ると、一瞬だけふわりと心地よい香りを感じた。どこか知っている気がするその香りは自然とプラチナブロンドの彼を連想させたが、廊下を見渡しても当然ドラコの姿はなかった。
(きっと、たった今ドラコのことを考えていたからよ。……ううん、今だけじゃなくて、最近はずっとそうだもの。仕方がないわ)
そうして防衛術に関しては無駄足に終わってしまったが、フォーラは騎士団の力になれるよう修行に励むことを忘れてはいなかった。彼女は得意な変身術を先行して修得しようと既に決めていた。もう一つの得意分野である魔法薬学は材料が必要になる分、変身術の方がまだ練習が容易だと判断したのだ。
尚、その練習場所については既にあらかた見当をつけていた。彼女は談話室のような、人目があって集中を削がれるような所を避けた。そして最終的に行き着いたのは人通りの少ない四階の一番奥にある空き部屋だった。彼女は一年生の時にそこへ一度だけ迷い込んだことがあった。あの時はハグリッドの飼っていた大きな三頭犬がいたが、今は何もなく埃っぽいただの空き部屋だった。彼女から上の学年の生徒たちは、当時はその辺りの廊下を立ち入り禁止の場所として誰もが認識していたが、その規制が随分前に解かれた今となっては、みんなそんなルールがあったことも、そんな所に空き部屋があることすらも忘れていた。
フォーラは火曜日の放課後に一人でその部屋を訪れた。この日、彼女が受けた最後の授業は近しい友人が誰も選択していない科目で、絶好の機会だったのだ。
フォーラは部屋に忍び込むと、窓から差し込む光に埃がキラキラと舞う広い部屋を見渡した。彼女は埃っぽい床のほんの一部を呪文で軽く履き、少し咳き込みながらもそこに鞄を下ろすと変身術の教科書を取り出した。この部屋の惨状を見た瞬間から、彼女の中で一番初めに修得すべき呪文が決まった。そして教科書のまだ授業で習っていないページを開くと、その内容を確認しながら杖を振ったのだった。
「エバネスコ、消えよ!」
初めてにしては上手くいき、フォーラの立っている位置から半径一メートル程の床の埃が取り除かれた。もう一度唱えてみると更に広範囲の埃が消失し、三度目には床だけでなく部屋中の塵という塵が粗方取り除かれた。
「やったわ!」
この呪文は五学年に教わる変身術の中で最も難しいものの一つだったが、フォーラはたった今、自分がどれだけ容易にこの呪文を扱ったのか自覚がなかった。
その後の彼女は、今日のところは消失呪文や掃除に使えそうな魔法で部屋中を綺麗にすると、ようやく部屋から出て四階の廊下を後にした。そうして第一回目の変身術の練習は予想以上の大成功に終わった。それに、放課後が始まってから一時間後に談話室へ戻ってこられたこともあり、友人たちから特段自分の行動を怪しまれもしなかったのだった。
フォーラは変身術以外にも、普段の授業や最近一気に増えた山積みの課題にも真剣に取り組んだ。五年生は様々な授業で教授たちから、如何に今年度末の試験が将来の就職に影響するかを散々説明されていた。フォーラはそれを勿論理解したし、スネイプとも確かに良い成績を残すことを約束していた。とはいえ彼女が頑張る原動力としては、早く自分の技術を磨いて何らかの形で騎士団やドラコの力になりたいという気持ちが大きかった。そんな彼女の姿は傍からすれば当然、学年末試験に備えて唯々真剣に取り組んでいるようにしか見えなかった。
そのようにフォーラが勉学に勤しんでいたある日、一番苦手な防衛術の授業に関して彼女にとっての朗報が舞い込んできた。始業ベルが鳴ってすぐ、アンブリッジが猫撫で声で言った。
「私は信じていますよ。将来有望なみなさんは、理論を学べば例えこの場で杖を振らなくとも防衛術を使えるとね。でも、中には防衛術がどうしても苦手な生徒さんもいらっしゃるわ。―――そういうわけで私は考えましたの。今回の授業から特別に、後半の時間で防衛呪文の自主練習をしてはどうかって。勿論杖を使ってね」
突然の提案にスリザリン生は騒めいた。一体どういう風の吹き回しだろう?フォーラはパンジーやルニーと顔を見合わせた。何せアンブリッジはこれまで生徒たちからの実技練習の要望をことごとくかわしてきたからだ。
そうして授業の後半は予定どおり、近くの生徒同士で実際に杖を振って練習をし合った。アンブリッジは自ら多くを指導したわけではなかったが、度々生徒を一人ずつランダムにつかまえては簡単な手合わせを行っていった。その内容はアンブリッジの放つ呪文を今回の課題の術『のみ』で防衛するというもので、フォーラを含む生徒たちはそのハンデによって殆どが負かされてしまった。
とはいえ中には見事に術を防いだ生徒もおり、アンブリッジは彼らに加点をして褒め称えた。ドラコも称賛を受けた一人で、フォーラはその際、彼が得意げで無邪気な笑顔を友人らに見せるだろうと思った。しかし、彼の反応は彼女が見る限り愛想笑いに留まっていたのだった。
終業ベルが鳴り、スリザリン生たちは教室を出ながら今日の授業の変化について口々に話した。そしてパンジーも周囲と同じく、先ほどのアンブリッジについて言及しようとしていた。
「それにしても驚いちゃった。まさかアンブリッジ先生が……」
しかしパンジーの言葉はそこでピタリと止まってしまった。フォーラもルニーもどうしたのかと彼女を見つめたが、当のパンジーは不思議そうに眉間にしわを寄せていた。
「あれ?私、何の話をしていたんだった?」
するとルニーが呆れたように笑いながら、すかさず声を発した。
「パンジーったら何言ってるのよ。アンブリッジが私たちに」
するとルニーもパンジーと同じく、言葉の続きをうっかり忘れてしまったようだった。突然の二人のおかしな様子に、フォーラは何かの冗談だろうと思った。
(あら……?冗談って、一体何の?)
そうしているうちに、フォーラも漏れなく自分が何を考えていたのか忘れてしまった。頭の中の情報から思い出せたのは、いつもどおり防衛術の授業中に、術の使い方に関してほぼ記述のない教科書に目を通したことと、いつから知っているのか分からない特定の防衛呪文の知識、そして、幾らか使いこなせる程に理解できている杖の振り方だった。そして彼女はそのことに特段違和感を覚えなかった。つまり、彼女たちは授業の後半に杖を振ったことなど一切覚えていなかったのだった。
「―――ということなの。ファントムさんの不安に思う気持ちはよく分かりますよ。でもね、魔法省の教育プログラムで実技もきっと[[rb:賄 > まかな]]えます。さ、もうこんな時間。次の授業に間に合わなくなってしまいますよ」
「あ、えっと」フォーラが言葉を発する前にアンブリッジが相変わらず甘ったるい声で続けた。
「ファントムさん、先生は頼ってもらえて本当に嬉しかったわ。これからも、分からないことがあればいつでも聞いてちょうだいね」
「は、はい、アンブリッジ先生……。失礼します。」フォーラはそれ以上追求せず教室の出口に向かった。
(もし、ルニーが言っていたようにドラコが先生にお願いしたとすれば、少しでも何か違ったのかしら)
そんなことを考えながら教室を出ると、一瞬だけふわりと心地よい香りを感じた。どこか知っている気がするその香りは自然とプラチナブロンドの彼を連想させたが、廊下を見渡しても当然ドラコの姿はなかった。
(きっと、たった今ドラコのことを考えていたからよ。……ううん、今だけじゃなくて、最近はずっとそうだもの。仕方がないわ)
そうして防衛術に関しては無駄足に終わってしまったが、フォーラは騎士団の力になれるよう修行に励むことを忘れてはいなかった。彼女は得意な変身術を先行して修得しようと既に決めていた。もう一つの得意分野である魔法薬学は材料が必要になる分、変身術の方がまだ練習が容易だと判断したのだ。
尚、その練習場所については既にあらかた見当をつけていた。彼女は談話室のような、人目があって集中を削がれるような所を避けた。そして最終的に行き着いたのは人通りの少ない四階の一番奥にある空き部屋だった。彼女は一年生の時にそこへ一度だけ迷い込んだことがあった。あの時はハグリッドの飼っていた大きな三頭犬がいたが、今は何もなく埃っぽいただの空き部屋だった。彼女から上の学年の生徒たちは、当時はその辺りの廊下を立ち入り禁止の場所として誰もが認識していたが、その規制が随分前に解かれた今となっては、みんなそんなルールがあったことも、そんな所に空き部屋があることすらも忘れていた。
フォーラは火曜日の放課後に一人でその部屋を訪れた。この日、彼女が受けた最後の授業は近しい友人が誰も選択していない科目で、絶好の機会だったのだ。
フォーラは部屋に忍び込むと、窓から差し込む光に埃がキラキラと舞う広い部屋を見渡した。彼女は埃っぽい床のほんの一部を呪文で軽く履き、少し咳き込みながらもそこに鞄を下ろすと変身術の教科書を取り出した。この部屋の惨状を見た瞬間から、彼女の中で一番初めに修得すべき呪文が決まった。そして教科書のまだ授業で習っていないページを開くと、その内容を確認しながら杖を振ったのだった。
「エバネスコ、消えよ!」
初めてにしては上手くいき、フォーラの立っている位置から半径一メートル程の床の埃が取り除かれた。もう一度唱えてみると更に広範囲の埃が消失し、三度目には床だけでなく部屋中の塵という塵が粗方取り除かれた。
「やったわ!」
この呪文は五学年に教わる変身術の中で最も難しいものの一つだったが、フォーラはたった今、自分がどれだけ容易にこの呪文を扱ったのか自覚がなかった。
その後の彼女は、今日のところは消失呪文や掃除に使えそうな魔法で部屋中を綺麗にすると、ようやく部屋から出て四階の廊下を後にした。そうして第一回目の変身術の練習は予想以上の大成功に終わった。それに、放課後が始まってから一時間後に談話室へ戻ってこられたこともあり、友人たちから特段自分の行動を怪しまれもしなかったのだった。
フォーラは変身術以外にも、普段の授業や最近一気に増えた山積みの課題にも真剣に取り組んだ。五年生は様々な授業で教授たちから、如何に今年度末の試験が将来の就職に影響するかを散々説明されていた。フォーラはそれを勿論理解したし、スネイプとも確かに良い成績を残すことを約束していた。とはいえ彼女が頑張る原動力としては、早く自分の技術を磨いて何らかの形で騎士団やドラコの力になりたいという気持ちが大きかった。そんな彼女の姿は傍からすれば当然、学年末試験に備えて唯々真剣に取り組んでいるようにしか見えなかった。
そのようにフォーラが勉学に勤しんでいたある日、一番苦手な防衛術の授業に関して彼女にとっての朗報が舞い込んできた。始業ベルが鳴ってすぐ、アンブリッジが猫撫で声で言った。
「私は信じていますよ。将来有望なみなさんは、理論を学べば例えこの場で杖を振らなくとも防衛術を使えるとね。でも、中には防衛術がどうしても苦手な生徒さんもいらっしゃるわ。―――そういうわけで私は考えましたの。今回の授業から特別に、後半の時間で防衛呪文の自主練習をしてはどうかって。勿論杖を使ってね」
突然の提案にスリザリン生は騒めいた。一体どういう風の吹き回しだろう?フォーラはパンジーやルニーと顔を見合わせた。何せアンブリッジはこれまで生徒たちからの実技練習の要望をことごとくかわしてきたからだ。
そうして授業の後半は予定どおり、近くの生徒同士で実際に杖を振って練習をし合った。アンブリッジは自ら多くを指導したわけではなかったが、度々生徒を一人ずつランダムにつかまえては簡単な手合わせを行っていった。その内容はアンブリッジの放つ呪文を今回の課題の術『のみ』で防衛するというもので、フォーラを含む生徒たちはそのハンデによって殆どが負かされてしまった。
とはいえ中には見事に術を防いだ生徒もおり、アンブリッジは彼らに加点をして褒め称えた。ドラコも称賛を受けた一人で、フォーラはその際、彼が得意げで無邪気な笑顔を友人らに見せるだろうと思った。しかし、彼の反応は彼女が見る限り愛想笑いに留まっていたのだった。
終業ベルが鳴り、スリザリン生たちは教室を出ながら今日の授業の変化について口々に話した。そしてパンジーも周囲と同じく、先ほどのアンブリッジについて言及しようとしていた。
「それにしても驚いちゃった。まさかアンブリッジ先生が……」
しかしパンジーの言葉はそこでピタリと止まってしまった。フォーラもルニーもどうしたのかと彼女を見つめたが、当のパンジーは不思議そうに眉間にしわを寄せていた。
「あれ?私、何の話をしていたんだった?」
するとルニーが呆れたように笑いながら、すかさず声を発した。
「パンジーったら何言ってるのよ。アンブリッジが私たちに」
するとルニーもパンジーと同じく、言葉の続きをうっかり忘れてしまったようだった。突然の二人のおかしな様子に、フォーラは何かの冗談だろうと思った。
(あら……?冗談って、一体何の?)
そうしているうちに、フォーラも漏れなく自分が何を考えていたのか忘れてしまった。頭の中の情報から思い出せたのは、いつもどおり防衛術の授業中に、術の使い方に関してほぼ記述のない教科書に目を通したことと、いつから知っているのか分からない特定の防衛呪文の知識、そして、幾らか使いこなせる程に理解できている杖の振り方だった。そして彼女はそのことに特段違和感を覚えなかった。つまり、彼女たちは授業の後半に杖を振ったことなど一切覚えていなかったのだった。