8. いつもと違う日
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それからのフォーラは引き続きスネイプに悩みを打ち明けた。
「セブルスさん、私、父から『貪欲に学びなさい』と言われたことについて、まだ具体的には掴めていないんです。魔法薬学や得意な変身術を頑張ってみようとは思っていますが、本当にそれでいいのか分からなくて。私、自分に力がないことは理解しています。でも、少しでも早く騎士団の力になりたいんです。それに……」
フォーラはその言葉の後で自然とドラコの姿を脳裏に浮かべた。死喰い人を親に持つドラコが、いつ闇の陣営と深く関わり始めるか分からない。その心配は杞憂に終わるかも知れないが、ずっとそれが気に掛かっていた。
今日一日ドラコに冷たい態度を取られても、フォーラの中でその想いは当然変わらなかった。ただ、幾ら彼への想いが強くとも、そればかりでは彼のために何もできはしないだろう。
スネイプはフォーラの真剣な眼差しを見て、今は亡き彼の想い人に対する感情と重なる部分に、一瞬何も言えなかった。かつて彼は闇に堕ちてしまったことがあったが、想い人が闇の魔の手にかかりそうになった時は必死でその人を守ろうとした。結局彼女が助からなかったことは、今もスネイプの心の中に深く刻まれている。フォーラには確実に後悔のない選択をしてほしい。だが、今の彼女には知識や経験が足りず、そもそも選択肢の幅が狭すぎた。
「騎士団に必要な知識がどれだけあると思う」
スネイプはフォーラが唯々こちらを見つめて言葉を返さなかったため、それ以上は深く言及しなかった。彼女の少しばかり悔しそうな表情から、彼は自分の言いたいことを彼女が十分理解していると受け取った。
「先ずは自身の道が閉ざされぬよう、必ず学年末のふくろう試験に良い成績で合格したまえ。そこを疎かにすることは許さん」
フォーラはスネイプが自分のためを想い、学生の本分を思い出させようとしているのだと認識した。そのため彼女はこれ以上彼を困らせるのはやめようと諦めの色を見せた。
「分かりました、そうします。セブルスさん、話を聞いてくださってありがとうございました。」
そう言ってフォーラがその場を立ち去ろうとした時、スネイプは彼女の背後から不意に静かに言葉を投げかけた。
「もし今年やるべき事をやり尽くしてしまったら」
フォーラが振り返ると、スネイプは彼女に視線を向けたまま続けた。
「その時は、お前の父親が言うとおり『貪欲に』学びたまえ」
「!……はい、ありがとうございます。それでは……おやすみなさい。」
フォーラは廊下に出てスネイプの部屋の扉を閉めると、寮へと歩み出しながらこれまでの事を振り返った。その中で、彼女は父親とスネイプの発言それぞれが点と点から一本の線として繋がったような感覚を覚えていた。父からは得意分野を伸ばすよう言われ、スネイプからは今年度に学ぶべきことを疎かにせず、その上でそれ以上に学ぶよう促された。フォーラはそれらの助言から、今年度のうちに最終的には得意分野を高学年のレベルまで引き上げて習得してみることが、自身の望みを叶えるのに一つ近付く要素かもしれないと考えた。
とはいえ、如何にそれが自分にとって大変なことかは計り知れなかった。これまでフォーラは次学年の内容を先取りして習得した経験が殆どなく、寧ろ在籍する学年で学んだ基礎を応用する方向で力を伸ばしてきた。しかし、騎士団の力になろうとするならそれだけでは余りにも能力が足りないのだということを、彼女は改めて突きつけられた気がした。
(この先、具体的にどの魔法をどれだけ身に着けるべきか分からないし、仮に身に着いたとしてもどんな風に役立てられるかも分からない。でも、ここまでヒントをいただいたんだもの。自分なりに頑張らなくちゃ……)
フォーラはそう決意しながら、スリザリン寮へ続く道を進んでいったのだった。ところで彼女は心の霧が幾らか晴れたことで、この時ようやく自分があまりにも疲れ果てているのだと気が付いた。今日一日が長旅だったのに加え、様々なことに考えを巡らせたせいもあるだろう。後者に関しては、特にドラコの冷たい態度がずっと気に掛かっていた。
そういうわけで、せめて少しだけ気分転換がしたいと思ったフォーラは、就寝時間までまだ少し余裕があるのを確認すると、寮へ戻る前に中庭で軽く夜風に当たることにした。
一先ず地上に出てみると、松明の明るい灯りはまだ辺りを照らしていた。フォーラは廊下を進みながら、前回の学期末の最後の日も、こんな風に一人で就寝時間前に中庭へ向かっていたことを思い出した。あの時はまさかその中庭でドラコに出会うとは思ってもみなかったし、彼から告白されるとも全く予想していなかった。あの日のことを思い出すと少し胸が締め付けられそうになって、次第に彼女はこの時間帯にここへ来たのは間違いだったかもしれないと思い始めた。
(やっぱり、もう寮へ帰りましょう)
フォーラが中庭に続く曲がり角に差し掛かったタイミングで踵を返そうとした時、その曲がり角のほんの少し先に、ドラコと誰か女子生徒が一対一で向かい立っている姿が目に飛び込んできたではないか。
「!」フォーラは咄嗟に彼らの死角に身を潜めた。どうしてドラコがこんなところに?それに、一緒にいる彼女は確か……。ここから聞こえる限りでは、その彼女はどうやらドラコに会話の続きを切り出している様子だった。
「それよりドラコ、こんな時間に呼び出して本当にごめんね。私たちがこんなにちゃんと向き合ったのって、ダンスパーティー以来じゃない?」
「ああ、そうかもしれないな。それでどうかしたのか?」
不意にフォーラの頭の中をホグワーツ特急内でパンジーが発した言葉がよぎった。すると、再び例の女子生徒の声がした。
「えっと、アーニーから聞いてると思うんだけど……」
昨年度にドラコとダンスパーティーに出かけたレイブンクローの彼女が続きの言葉を躊躇う間、フォーラは自身の心臓の鼓動が大きく、そして随分速く鳴り響くのを抑えられなかった。
(駄目よ、盗み聞きなんて。早くここから離れなきゃ)
いけないことだと分かっているのに、身体が言うことを聞かない。フォーラの両足はまるで地面にくっ付いてしまったかのように動かなかった。すると女子生徒が続けた。
「私、ドラコが好きなの。例のダンスパーティーだって、てっきりいつも一緒のあの子と行くと思っていたから、だから私を連れていってもらえて本当に嬉しかったわ。あなたの王子様みたいに素敵な仕草や振る舞いが本当に大好き。ねえ、私の恋人になってもらえない?」
(お願い、頷かないで)
フォーラは頭の中でそんなことを考えている自分にショックを受けると同時に、心臓の辺りをギュッと両手で握った。そんな風に願う権利なんて自分にはないのに。
少しばかりドラコたちの間に沈黙が流れた。フォーラはその間ずっとその場から逃げだしたい気持ちで一杯だったが、身体がすっかり強張っていて、まるで呪いにでも掛かったかのように相変わらず動けなかった。
「僕でよければ」
ドラコがそう言い放った瞬間、女子生徒は歓喜の声を上げ、どうやらドラコに抱きついたようだった。彼の慌てる声もフォーラの耳に届いた。フォーラは胸が張り裂けそうになるのを堪え、ようやくその場から駆け出した。廊下に自分の足音が微かに響いてしまったことを気にしている暇など到底なかった。
「あら?近くに誰かいたのかしら?」
ドラコに抱きついたままの女子生徒が音のした方に首を向けて言った。一方のドラコはそちらを一瞥すると、瞳を閉じて深い溜息を吐いた。ドラコの切なげな表情は、彼に抱き着く彼女からすれば、当然自分自身に向けられたもの以外の何物でもなかったのだった。
「セブルスさん、私、父から『貪欲に学びなさい』と言われたことについて、まだ具体的には掴めていないんです。魔法薬学や得意な変身術を頑張ってみようとは思っていますが、本当にそれでいいのか分からなくて。私、自分に力がないことは理解しています。でも、少しでも早く騎士団の力になりたいんです。それに……」
フォーラはその言葉の後で自然とドラコの姿を脳裏に浮かべた。死喰い人を親に持つドラコが、いつ闇の陣営と深く関わり始めるか分からない。その心配は杞憂に終わるかも知れないが、ずっとそれが気に掛かっていた。
今日一日ドラコに冷たい態度を取られても、フォーラの中でその想いは当然変わらなかった。ただ、幾ら彼への想いが強くとも、そればかりでは彼のために何もできはしないだろう。
スネイプはフォーラの真剣な眼差しを見て、今は亡き彼の想い人に対する感情と重なる部分に、一瞬何も言えなかった。かつて彼は闇に堕ちてしまったことがあったが、想い人が闇の魔の手にかかりそうになった時は必死でその人を守ろうとした。結局彼女が助からなかったことは、今もスネイプの心の中に深く刻まれている。フォーラには確実に後悔のない選択をしてほしい。だが、今の彼女には知識や経験が足りず、そもそも選択肢の幅が狭すぎた。
「騎士団に必要な知識がどれだけあると思う」
スネイプはフォーラが唯々こちらを見つめて言葉を返さなかったため、それ以上は深く言及しなかった。彼女の少しばかり悔しそうな表情から、彼は自分の言いたいことを彼女が十分理解していると受け取った。
「先ずは自身の道が閉ざされぬよう、必ず学年末のふくろう試験に良い成績で合格したまえ。そこを疎かにすることは許さん」
フォーラはスネイプが自分のためを想い、学生の本分を思い出させようとしているのだと認識した。そのため彼女はこれ以上彼を困らせるのはやめようと諦めの色を見せた。
「分かりました、そうします。セブルスさん、話を聞いてくださってありがとうございました。」
そう言ってフォーラがその場を立ち去ろうとした時、スネイプは彼女の背後から不意に静かに言葉を投げかけた。
「もし今年やるべき事をやり尽くしてしまったら」
フォーラが振り返ると、スネイプは彼女に視線を向けたまま続けた。
「その時は、お前の父親が言うとおり『貪欲に』学びたまえ」
「!……はい、ありがとうございます。それでは……おやすみなさい。」
フォーラは廊下に出てスネイプの部屋の扉を閉めると、寮へと歩み出しながらこれまでの事を振り返った。その中で、彼女は父親とスネイプの発言それぞれが点と点から一本の線として繋がったような感覚を覚えていた。父からは得意分野を伸ばすよう言われ、スネイプからは今年度に学ぶべきことを疎かにせず、その上でそれ以上に学ぶよう促された。フォーラはそれらの助言から、今年度のうちに最終的には得意分野を高学年のレベルまで引き上げて習得してみることが、自身の望みを叶えるのに一つ近付く要素かもしれないと考えた。
とはいえ、如何にそれが自分にとって大変なことかは計り知れなかった。これまでフォーラは次学年の内容を先取りして習得した経験が殆どなく、寧ろ在籍する学年で学んだ基礎を応用する方向で力を伸ばしてきた。しかし、騎士団の力になろうとするならそれだけでは余りにも能力が足りないのだということを、彼女は改めて突きつけられた気がした。
(この先、具体的にどの魔法をどれだけ身に着けるべきか分からないし、仮に身に着いたとしてもどんな風に役立てられるかも分からない。でも、ここまでヒントをいただいたんだもの。自分なりに頑張らなくちゃ……)
フォーラはそう決意しながら、スリザリン寮へ続く道を進んでいったのだった。ところで彼女は心の霧が幾らか晴れたことで、この時ようやく自分があまりにも疲れ果てているのだと気が付いた。今日一日が長旅だったのに加え、様々なことに考えを巡らせたせいもあるだろう。後者に関しては、特にドラコの冷たい態度がずっと気に掛かっていた。
そういうわけで、せめて少しだけ気分転換がしたいと思ったフォーラは、就寝時間までまだ少し余裕があるのを確認すると、寮へ戻る前に中庭で軽く夜風に当たることにした。
一先ず地上に出てみると、松明の明るい灯りはまだ辺りを照らしていた。フォーラは廊下を進みながら、前回の学期末の最後の日も、こんな風に一人で就寝時間前に中庭へ向かっていたことを思い出した。あの時はまさかその中庭でドラコに出会うとは思ってもみなかったし、彼から告白されるとも全く予想していなかった。あの日のことを思い出すと少し胸が締め付けられそうになって、次第に彼女はこの時間帯にここへ来たのは間違いだったかもしれないと思い始めた。
(やっぱり、もう寮へ帰りましょう)
フォーラが中庭に続く曲がり角に差し掛かったタイミングで踵を返そうとした時、その曲がり角のほんの少し先に、ドラコと誰か女子生徒が一対一で向かい立っている姿が目に飛び込んできたではないか。
「!」フォーラは咄嗟に彼らの死角に身を潜めた。どうしてドラコがこんなところに?それに、一緒にいる彼女は確か……。ここから聞こえる限りでは、その彼女はどうやらドラコに会話の続きを切り出している様子だった。
「それよりドラコ、こんな時間に呼び出して本当にごめんね。私たちがこんなにちゃんと向き合ったのって、ダンスパーティー以来じゃない?」
「ああ、そうかもしれないな。それでどうかしたのか?」
不意にフォーラの頭の中をホグワーツ特急内でパンジーが発した言葉がよぎった。すると、再び例の女子生徒の声がした。
「えっと、アーニーから聞いてると思うんだけど……」
昨年度にドラコとダンスパーティーに出かけたレイブンクローの彼女が続きの言葉を躊躇う間、フォーラは自身の心臓の鼓動が大きく、そして随分速く鳴り響くのを抑えられなかった。
(駄目よ、盗み聞きなんて。早くここから離れなきゃ)
いけないことだと分かっているのに、身体が言うことを聞かない。フォーラの両足はまるで地面にくっ付いてしまったかのように動かなかった。すると女子生徒が続けた。
「私、ドラコが好きなの。例のダンスパーティーだって、てっきりいつも一緒のあの子と行くと思っていたから、だから私を連れていってもらえて本当に嬉しかったわ。あなたの王子様みたいに素敵な仕草や振る舞いが本当に大好き。ねえ、私の恋人になってもらえない?」
(お願い、頷かないで)
フォーラは頭の中でそんなことを考えている自分にショックを受けると同時に、心臓の辺りをギュッと両手で握った。そんな風に願う権利なんて自分にはないのに。
少しばかりドラコたちの間に沈黙が流れた。フォーラはその間ずっとその場から逃げだしたい気持ちで一杯だったが、身体がすっかり強張っていて、まるで呪いにでも掛かったかのように相変わらず動けなかった。
「僕でよければ」
ドラコがそう言い放った瞬間、女子生徒は歓喜の声を上げ、どうやらドラコに抱きついたようだった。彼の慌てる声もフォーラの耳に届いた。フォーラは胸が張り裂けそうになるのを堪え、ようやくその場から駆け出した。廊下に自分の足音が微かに響いてしまったことを気にしている暇など到底なかった。
「あら?近くに誰かいたのかしら?」
ドラコに抱きついたままの女子生徒が音のした方に首を向けて言った。一方のドラコはそちらを一瞥すると、瞳を閉じて深い溜息を吐いた。ドラコの切なげな表情は、彼に抱き着く彼女からすれば、当然自分自身に向けられたもの以外の何物でもなかったのだった。