8. いつもと違う日
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ホグワーツ特急への乗車があと数日に迫ったこの日の夜、フォーラは父のシェードの書斎でソファに座って彼と向かい合い、不死鳥の騎士団について話をしているところだった。
「父様、この間相談したお話なのだけど。どうしても、私も何か騎士団の役に立つことをしたいの。」
フォーラはブラック邸から自宅の屋敷に帰ってきてからというもの、一緒に暮らす両親や三人の使用人に『騎士団に協力したい、自分にできることはないか』という旨を度々尋ねていた。両親は数日前に娘からそのような質問をされ際、「生きてさえいてくれればいいんだよ」と答え、使用人たちも同じようなことを彼女に伝えた。しかしフォーラはそれでは納得できず、再び父に抗議していたのだった。
「シリウスさんのお屋敷にいた時、学校のみんなも騎士団に協力したがっていたけれど、団員の方たちから『まだ早すぎる』って叱られていたわ。あの時の私はそれどころじゃなかったから、そんなことは考えもしなかったけれど……。でも、今ならみんなの気持ちがよく分かる。何か少しでもいいから力になりたいって、とっても思っているの……。」
シェードは何か考え込むように自身の顎に手を当てながら、じっと娘を見つめていた。父親の真剣な様子にフォーラは多少の期待が押し寄せた。もしかしたら、何か自分にもできそうなことを提案してもらえるかもしれない。しかし残念ながらシェードの言葉はやはりフォーラの期待するようなものではなかった。
「すまないが、私からもフォーラに言ってやれることは騎士団のメンバーとなんら変わらない。強いて言うなら、今のうちにしっかり学校で学んできてほしいと思っているよ」
するとフォーラはやや不満げに尋ねた。
「でも、本当にそれだけでいいのかしら……。私、もっと何かしなきゃいけない気がして」
物足りなさそうに焦るフォーラに、シェードは思わず微笑んだ。何日か前まではあんなに落ち込んでいた彼女が、今はこうして父親である自分に元気に意見していることが嬉しかったのだ。
「フォーラがどれだけ騎士団の力になりたがっているかは良く分かっているとも。だからこそ、まずは私の言ったとおりにしてごらん」
フォーラはじっと父を見つめ、彼が微笑みを崩さない姿にとうとう折れてしまった。
「……分かったわ父様。確かに騎士団が私のような未熟な魔法使いに何かさせるなんて、許すわけないものね……。困らせてしまってごめんなさい。私、言われたとおり大人しく勉強するわ。」
「おや、誰が『大人しく』勉強していなさいと言ったのかな?」
シェードの返答にフォーラは疑問符を浮かべた。すると彼はその部屋の本棚に向かって杖を振り、『呼び寄せ呪文』で一冊を手中に収めた。そしてそれを娘の方へ差し出したではないか。
フォーラはそれをわけも分からず受け取ると、自然と表紙に目をやった。そこには『ファントムの手記』と書かれていて、それが本ではなく重厚感のあるノートなのだと見て取れた。大きめの分厚いサイズで、表紙の皮が使い込まれて一部が擦り切れている。中をパラパラと捲ると、年季の入った紙に手書き文字で何やら魔法に関することばかりが綴られていた。流し見で幾つか目に留まった文字は主に魔法薬学のことが顕著で、材料の名前、調合の手順、その他にはほんの少し呪文についても記述があった。
「父様、これは?」フォーラはその手記から顔を上げて父を見やった。
「私のメモのようなものだ。学生時代からこれまでずっと、私が何かオリジナルの魔法薬を作るために重要だと思ったことを書き留めてきた。それはその一部なんだ。フォーラが知っていることも知らないことも沢山書いてある」
「でも、どうして今これを?それに、こんなに大切そうな物をどうして私に?」
「私はね、フォーラにまだまだ学んでほしいことが沢山あるんだよ。だから託すんだ。それに厳しいことを言うが、今のフォーラの技量では騎士団の役に立つのは不可能に等しいだろう。だが貪欲に学べば、いつかきっとフォーラのやりたいことができるようになる筈だ。それが騎士団の役に立つことでなくても勿論構わない」
「私の、したいこと……。」
シェードは笑みを絶やさず静かに頷いた。フォーラには確かにしたいことがあった。それは勿論みんなで生き延びることだ。そしてドラコに手を差し伸べて、最終的にマルフォイ家をヴォルデモートから引き離したい。しかし自分だけでは当然ながら具体的に何をすればいいのか分からない。シェードはフォーラの様子からそのような考えを読み取っていたのだった。
「貪欲に学びなさい。フォーラは今までの魔法薬学の授業でだって、セブルスの示した手順と違う方法を試したこともあると話してくれただろう。そういうことだ。自分で沢山試すんだ」
「試す……」
「そうだとも。もし何からすればいいか迷うようなら、フォーラの一番得意なところを伸ばせばいい。やり方は幾らでもある」
「私の得意な……変身術や魔法薬学?」悩みながら言ったフォーラにシェードは頷くと改めて微笑んだ。
「思うようにやってみなさい。そしてもし何か行き詰まることがあれば、図書室の本や先生方の助言を頼ればいい。私の手記も、もしかしたら役に立つことがあるかもしれない」
「分かったわ父様。ありがとう。私……兎に角やってみる。」
そしてとうとうホグワーツ特急への乗車日がやってきた。フォーラはキングス・クロス駅のホームで両親をしっかりと抱き締めると、別れを告げた。
「上手くやりなさい」
「あなたならきっと大丈夫よ」
フォーラは両親に頷いて笑みを見せると、手を振ってからトランクと鳥籠を両手に持ち、少し離れた先にあるホグワーツ特急の乗降口から乗り込んだ。その際もう一度だけ両親を振り返ったのだが、彼らのそばにマルフォイ家がやって来て挨拶しているのが見えた。フォーラは一瞬ドキリとしたが、彼女の両親は騎士団であることをマルフォイ夫妻に黙っているのだからして、そのようないつもの光景があるのは当然のことだった。そしてその時のフォーラは同時にドラコの姿も捉えていた。
「!」一瞬だったがドラコと目が合ったことで、フォーラは思わず反射的に乗降口付近から車内の方にサッと身を隠してしまった。心臓の鼓動の煩さが何処から来るものなのか分からずその場で固まっていると、すぐそばの入り口から誰かが乗り込んできた。フォーラが顔を向けると、ドラコがこちらを見て立っていた。
「父様、この間相談したお話なのだけど。どうしても、私も何か騎士団の役に立つことをしたいの。」
フォーラはブラック邸から自宅の屋敷に帰ってきてからというもの、一緒に暮らす両親や三人の使用人に『騎士団に協力したい、自分にできることはないか』という旨を度々尋ねていた。両親は数日前に娘からそのような質問をされ際、「生きてさえいてくれればいいんだよ」と答え、使用人たちも同じようなことを彼女に伝えた。しかしフォーラはそれでは納得できず、再び父に抗議していたのだった。
「シリウスさんのお屋敷にいた時、学校のみんなも騎士団に協力したがっていたけれど、団員の方たちから『まだ早すぎる』って叱られていたわ。あの時の私はそれどころじゃなかったから、そんなことは考えもしなかったけれど……。でも、今ならみんなの気持ちがよく分かる。何か少しでもいいから力になりたいって、とっても思っているの……。」
シェードは何か考え込むように自身の顎に手を当てながら、じっと娘を見つめていた。父親の真剣な様子にフォーラは多少の期待が押し寄せた。もしかしたら、何か自分にもできそうなことを提案してもらえるかもしれない。しかし残念ながらシェードの言葉はやはりフォーラの期待するようなものではなかった。
「すまないが、私からもフォーラに言ってやれることは騎士団のメンバーとなんら変わらない。強いて言うなら、今のうちにしっかり学校で学んできてほしいと思っているよ」
するとフォーラはやや不満げに尋ねた。
「でも、本当にそれだけでいいのかしら……。私、もっと何かしなきゃいけない気がして」
物足りなさそうに焦るフォーラに、シェードは思わず微笑んだ。何日か前まではあんなに落ち込んでいた彼女が、今はこうして父親である自分に元気に意見していることが嬉しかったのだ。
「フォーラがどれだけ騎士団の力になりたがっているかは良く分かっているとも。だからこそ、まずは私の言ったとおりにしてごらん」
フォーラはじっと父を見つめ、彼が微笑みを崩さない姿にとうとう折れてしまった。
「……分かったわ父様。確かに騎士団が私のような未熟な魔法使いに何かさせるなんて、許すわけないものね……。困らせてしまってごめんなさい。私、言われたとおり大人しく勉強するわ。」
「おや、誰が『大人しく』勉強していなさいと言ったのかな?」
シェードの返答にフォーラは疑問符を浮かべた。すると彼はその部屋の本棚に向かって杖を振り、『呼び寄せ呪文』で一冊を手中に収めた。そしてそれを娘の方へ差し出したではないか。
フォーラはそれをわけも分からず受け取ると、自然と表紙に目をやった。そこには『ファントムの手記』と書かれていて、それが本ではなく重厚感のあるノートなのだと見て取れた。大きめの分厚いサイズで、表紙の皮が使い込まれて一部が擦り切れている。中をパラパラと捲ると、年季の入った紙に手書き文字で何やら魔法に関することばかりが綴られていた。流し見で幾つか目に留まった文字は主に魔法薬学のことが顕著で、材料の名前、調合の手順、その他にはほんの少し呪文についても記述があった。
「父様、これは?」フォーラはその手記から顔を上げて父を見やった。
「私のメモのようなものだ。学生時代からこれまでずっと、私が何かオリジナルの魔法薬を作るために重要だと思ったことを書き留めてきた。それはその一部なんだ。フォーラが知っていることも知らないことも沢山書いてある」
「でも、どうして今これを?それに、こんなに大切そうな物をどうして私に?」
「私はね、フォーラにまだまだ学んでほしいことが沢山あるんだよ。だから託すんだ。それに厳しいことを言うが、今のフォーラの技量では騎士団の役に立つのは不可能に等しいだろう。だが貪欲に学べば、いつかきっとフォーラのやりたいことができるようになる筈だ。それが騎士団の役に立つことでなくても勿論構わない」
「私の、したいこと……。」
シェードは笑みを絶やさず静かに頷いた。フォーラには確かにしたいことがあった。それは勿論みんなで生き延びることだ。そしてドラコに手を差し伸べて、最終的にマルフォイ家をヴォルデモートから引き離したい。しかし自分だけでは当然ながら具体的に何をすればいいのか分からない。シェードはフォーラの様子からそのような考えを読み取っていたのだった。
「貪欲に学びなさい。フォーラは今までの魔法薬学の授業でだって、セブルスの示した手順と違う方法を試したこともあると話してくれただろう。そういうことだ。自分で沢山試すんだ」
「試す……」
「そうだとも。もし何からすればいいか迷うようなら、フォーラの一番得意なところを伸ばせばいい。やり方は幾らでもある」
「私の得意な……変身術や魔法薬学?」悩みながら言ったフォーラにシェードは頷くと改めて微笑んだ。
「思うようにやってみなさい。そしてもし何か行き詰まることがあれば、図書室の本や先生方の助言を頼ればいい。私の手記も、もしかしたら役に立つことがあるかもしれない」
「分かったわ父様。ありがとう。私……兎に角やってみる。」
そしてとうとうホグワーツ特急への乗車日がやってきた。フォーラはキングス・クロス駅のホームで両親をしっかりと抱き締めると、別れを告げた。
「上手くやりなさい」
「あなたならきっと大丈夫よ」
フォーラは両親に頷いて笑みを見せると、手を振ってからトランクと鳥籠を両手に持ち、少し離れた先にあるホグワーツ特急の乗降口から乗り込んだ。その際もう一度だけ両親を振り返ったのだが、彼らのそばにマルフォイ家がやって来て挨拶しているのが見えた。フォーラは一瞬ドキリとしたが、彼女の両親は騎士団であることをマルフォイ夫妻に黙っているのだからして、そのようないつもの光景があるのは当然のことだった。そしてその時のフォーラは同時にドラコの姿も捉えていた。
「!」一瞬だったがドラコと目が合ったことで、フォーラは思わず反射的に乗降口付近から車内の方にサッと身を隠してしまった。心臓の鼓動の煩さが何処から来るものなのか分からずその場で固まっていると、すぐそばの入り口から誰かが乗り込んできた。フォーラが顔を向けると、ドラコがこちらを見て立っていた。