7. 前進
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「クリーチャーのことだよ。君たちとタペストリーを見た時、君の名前だけ焼かれているのは私もおかしいと思っていたんだ。前にも話したとおり、クリーチャーはファントム家のうち、フォーラだけがここで過ごすと知った際、君がマグル生まれだという話を聞いて名前を焼いたんだ。この家の考えにそぐわない者の名を焼くのは昔から奴の仕事だったから、それについての違和感はなかったよ。ところが、何故あいつが君の御両親の名を残していたのか問い詰めてみると、これがただの君への嫌がらせだったんだ。どうやら君に心の傷を負わせたかったらしい。追々、ご両親の名も―――純血の肩書に隠れた裏切り者の名も焼くつもりだったと、そう言っていたからね。うちの屋敷しもべ妖精がすまないことをした」
シリウスが申し訳なさそうに言うと、彼女は逆に随分ホッとした表情を見せた。それを見てシリウスは幾らか気を取り直したようだった。
「……きっと今のフォーラなら分かると思うが、純血なんていうのは本当にどうでもいいことだ―――、君は『純血一族一覧』という本を知ってるか?」
フォーラは首を横に振った。シリウスは続けた。
「その本は一九三〇年頃に、著者が純血の血筋と認定できる二十八の一族を載せたものだ。だがこの館のタペストリーからも分かるように、それが如何に不確かだったかということだ。ブラック家だけ見ても、マグルと何らかの関係を持った者をあんなにも抹消して体裁を保っている。本に載っている他の一族だって、先祖にマグルを持つ筈の者が含まれていたり、逆に間違いなく純血と言われていた一族が省かれていたりする。結局は、みんな本当に自分たちが純血かどうか定かではないんだ」
フォーラはもしこの話をもっと早くに聞いていたとしても、今程納得できなかっただろうと思った。今の彼女が耳に入れるからこそ、意味のあることだった。
シリウスは話し終えると、おもむろに自身のポケットからマグルのペンを取り出してキャップと分けた。そして杖を振ってそれらを葉巻とライターに変化させ、フォーラに手渡した。
「ええと、私、葉巻は吸ったことがありません……。」
戸惑う彼女に、シリウスはまるで大型犬を思わせるような様子で元気よく笑った。
「違うんだ。吸うのを勧めたわけじゃない。これを使ってタペストリーの御両親の名前を焼いておいてくれないか。もし君がよければだが」
フォーラはシリウスからそれら二つを受け取ると、自身の手元をじっと見つめた。そして「分かりました」としっかりと頷いたのだった。
その日の夕方、ハリーがアーサーと共に帰宅した。神妙な様子のハリーの言葉をみんなが静かに見守っていると、彼は先ほどと打って変わってニッコリ笑い、何の問題もなかった旨を伝えた。そのため周囲は途端にお祭り騒ぎとなったのだった。
その日の晩餐会は豪華だった。モリーの提案で立食パーティーになった食堂は、いつにも増して華やいだ。
「ハリーも無事だったし、フォーラも元気になったし、本当に素敵な日だわ!」
フォーラはモリーの言葉に感謝し、ここでの最後の夜を目一杯楽しんだ。そんな彼女を見て、周囲の大半は彼女が元の元気さに戻ったと感じていたが、彼女自身は少し違った。今までの自分に戻ったのではない。分厚い殻を破って前に進んだのだ。
そして今のフォーラは、これまで余裕のなさ故に放棄していたことを改めて見つめ直せるようになっていた。四年生の学期末、スネイプに自分が純血でないことを初めて相談した時、彼女が最も気にしていた事柄の一つにドラコとのことがあった。フォーラはあの頃、純血でない自分に彼と関わる権利があるのか分からず非常に悩んでいた。スネイプはあの時既に色々と前向きなアドバイスしてくれていたのに、彼女は素直に聞き入れられなかったのだ。
しかし今となってはスネイプの言っていたことがよく分かる。これまで一緒に過ごしてきたドラコを助けたいという想いが自分の中にあればそれでいい。マグル生まれであるが故、将来ドラコに自分を受け入れてもらえないのではと頭を悩ませたりもしたが、最早それは今考えても仕方のないことなのだ。
そしてフォーラにはもう一人言葉を残してくれた人物がいた。それはダンブルドアだった。
『もし、お主がいつかマグル生まれとしての自身を受け入れ、認めてやることができたなら、次はお主が別の誰かに手を差し伸べてやってほしいのじゃ』
『彼を見守って、いや、見張っていてはくれんかの』
以前ホグワーツの校長室で、ダンブルドアからドラコのことでそのようなお願いをされたのがずっと心の片隅に残っていた。今のフォーラはその願いをとうとう実行できそうな心境にあったが、彼の言葉の意味が、今後ドラコが危険な目に遭うということなのか、それとも今、正にその状況にあるのかまでは不明だった。そういうわけで、今は一先ず具体的に何をすべきかは置いておくしかなかったのだった。
その日の夜、フォーラは入浴を済ませた後で、寝間着のままタペストリーのある客間を一人で訪れていた。壁を覆うカーテンを開けると、いつもどおり所々焼け焦げた跡が目立つタペストリーが露わになった。以前はこの焦げ跡の人物たちに対して、純血なのにそれを望まないなんて贅沢だと恨めしく思ったものだ。それが今改めて見てみると、逆に彼らは自分たちの味方なのだと思えるようになっていた。そしてそう感じると同時に、彼女の視線は自然と焦げ跡ひとつないドラコの名前に移っていた。
その時、背後の入り口からコンコンとドアをノックする音がした。振り返ってみると、そこには開いたままの入り口に寄りかかっているジョージの姿があった。
「こんばんは、お嬢さん。中に入っても?」
「ええ!勿論よ。」
ジョージはフォーラの隣までやってくると、目立つタペストリーに自然と目を向けた後で、彼女を見た。
「こんな時間にこんな所で、どうしたんだ?」
フォーラは手に持っていた葉巻とライターをジョージに見せた。すると彼が随分驚いたので、彼女は彼の言いたいことが手に取るように分かって思わずふふっと笑った。
「違うわ。吸うわけじゃないのよ。シリウスさんから私の両親の名を焼くように頼まれて、それでここへ来たの。」
シリウスが申し訳なさそうに言うと、彼女は逆に随分ホッとした表情を見せた。それを見てシリウスは幾らか気を取り直したようだった。
「……きっと今のフォーラなら分かると思うが、純血なんていうのは本当にどうでもいいことだ―――、君は『純血一族一覧』という本を知ってるか?」
フォーラは首を横に振った。シリウスは続けた。
「その本は一九三〇年頃に、著者が純血の血筋と認定できる二十八の一族を載せたものだ。だがこの館のタペストリーからも分かるように、それが如何に不確かだったかということだ。ブラック家だけ見ても、マグルと何らかの関係を持った者をあんなにも抹消して体裁を保っている。本に載っている他の一族だって、先祖にマグルを持つ筈の者が含まれていたり、逆に間違いなく純血と言われていた一族が省かれていたりする。結局は、みんな本当に自分たちが純血かどうか定かではないんだ」
フォーラはもしこの話をもっと早くに聞いていたとしても、今程納得できなかっただろうと思った。今の彼女が耳に入れるからこそ、意味のあることだった。
シリウスは話し終えると、おもむろに自身のポケットからマグルのペンを取り出してキャップと分けた。そして杖を振ってそれらを葉巻とライターに変化させ、フォーラに手渡した。
「ええと、私、葉巻は吸ったことがありません……。」
戸惑う彼女に、シリウスはまるで大型犬を思わせるような様子で元気よく笑った。
「違うんだ。吸うのを勧めたわけじゃない。これを使ってタペストリーの御両親の名前を焼いておいてくれないか。もし君がよければだが」
フォーラはシリウスからそれら二つを受け取ると、自身の手元をじっと見つめた。そして「分かりました」としっかりと頷いたのだった。
その日の夕方、ハリーがアーサーと共に帰宅した。神妙な様子のハリーの言葉をみんなが静かに見守っていると、彼は先ほどと打って変わってニッコリ笑い、何の問題もなかった旨を伝えた。そのため周囲は途端にお祭り騒ぎとなったのだった。
その日の晩餐会は豪華だった。モリーの提案で立食パーティーになった食堂は、いつにも増して華やいだ。
「ハリーも無事だったし、フォーラも元気になったし、本当に素敵な日だわ!」
フォーラはモリーの言葉に感謝し、ここでの最後の夜を目一杯楽しんだ。そんな彼女を見て、周囲の大半は彼女が元の元気さに戻ったと感じていたが、彼女自身は少し違った。今までの自分に戻ったのではない。分厚い殻を破って前に進んだのだ。
そして今のフォーラは、これまで余裕のなさ故に放棄していたことを改めて見つめ直せるようになっていた。四年生の学期末、スネイプに自分が純血でないことを初めて相談した時、彼女が最も気にしていた事柄の一つにドラコとのことがあった。フォーラはあの頃、純血でない自分に彼と関わる権利があるのか分からず非常に悩んでいた。スネイプはあの時既に色々と前向きなアドバイスしてくれていたのに、彼女は素直に聞き入れられなかったのだ。
しかし今となってはスネイプの言っていたことがよく分かる。これまで一緒に過ごしてきたドラコを助けたいという想いが自分の中にあればそれでいい。マグル生まれであるが故、将来ドラコに自分を受け入れてもらえないのではと頭を悩ませたりもしたが、最早それは今考えても仕方のないことなのだ。
そしてフォーラにはもう一人言葉を残してくれた人物がいた。それはダンブルドアだった。
『もし、お主がいつかマグル生まれとしての自身を受け入れ、認めてやることができたなら、次はお主が別の誰かに手を差し伸べてやってほしいのじゃ』
『彼を見守って、いや、見張っていてはくれんかの』
以前ホグワーツの校長室で、ダンブルドアからドラコのことでそのようなお願いをされたのがずっと心の片隅に残っていた。今のフォーラはその願いをとうとう実行できそうな心境にあったが、彼の言葉の意味が、今後ドラコが危険な目に遭うということなのか、それとも今、正にその状況にあるのかまでは不明だった。そういうわけで、今は一先ず具体的に何をすべきかは置いておくしかなかったのだった。
その日の夜、フォーラは入浴を済ませた後で、寝間着のままタペストリーのある客間を一人で訪れていた。壁を覆うカーテンを開けると、いつもどおり所々焼け焦げた跡が目立つタペストリーが露わになった。以前はこの焦げ跡の人物たちに対して、純血なのにそれを望まないなんて贅沢だと恨めしく思ったものだ。それが今改めて見てみると、逆に彼らは自分たちの味方なのだと思えるようになっていた。そしてそう感じると同時に、彼女の視線は自然と焦げ跡ひとつないドラコの名前に移っていた。
その時、背後の入り口からコンコンとドアをノックする音がした。振り返ってみると、そこには開いたままの入り口に寄りかかっているジョージの姿があった。
「こんばんは、お嬢さん。中に入っても?」
「ええ!勿論よ。」
ジョージはフォーラの隣までやってくると、目立つタペストリーに自然と目を向けた後で、彼女を見た。
「こんな時間にこんな所で、どうしたんだ?」
フォーラは手に持っていた葉巻とライターをジョージに見せた。すると彼が随分驚いたので、彼女は彼の言いたいことが手に取るように分かって思わずふふっと笑った。
「違うわ。吸うわけじゃないのよ。シリウスさんから私の両親の名を焼くように頼まれて、それでここへ来たの。」