5. 意外な一面
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏休みに入って一ヶ月程経った頃、フォーラも随分ブラック邸での生活に慣れてきていた。騎士団員たちはみんな忙しくしていたし、モリーや子供たちも館の掃除がまだまだ残っており手を焼いていた。ゴミとして棄てられるのは塵や埃に留まらず、シリウスの母親の悪趣味な遺品の数々も含まれていた。
玄関前のシリウスの母親の肖像画については何度か剥がそうと計画されたが、強力な永久粘着術が施されており、断念せざるを得ないと結論付けられた。他にはこれまた悪趣味な蛇が彫刻されたロウソク立てや銀食器、大粒のオパールをはめ込んだ怪しいジュエリーケース(これを開いたシリウスは中から出てきた瘡蓋粉 のせいで片手が瘡蓋だらけになった)など、危険と判断されたものは徐々に一掃されていった。
この館にはクリーチャーという屋敷しもべ妖精がいる筈なのに、これだけ荒れ放題になっているのには理由があった。屋敷しもべ妖精はその家に奉仕するのが常だが、このクリーチャーはシリウスの母親が死んで以来、館の掃除を随分と怠ってしまったようだった。
クリーチャーは特徴的な鷲鼻 に加え、大きな耳が垂れ下がった外見をしており、体にはボロ切れ一枚を纏っていた。フレッドがシリウスに聞いた話では、この屋敷しもべ妖精は亡くなったシリウスの母親の肖像画に酔狂しているらしかった。そのためクリーチャーはその大奥様に従い、狂った命令を受けて実行することで彼女にまだ仕えた気でいるとのことだった。
「地下のボイラー室に『巣』を作ってそこで暮らしてるってさ。それで俺たちが棄てた遺品をこっそりくすねて、そこに隠してるんだ。フォーラがここにやって来た前日だって、シリウスはクリーチャーが棄てた筈のガラクタを持っていくのを叱ってたな」
フォーラが初めてクリーチャーのそのような姿を遠目に見て、かつその話を聞いた時、彼女はシリウスが随分酷い人だと感じた。だが、屋敷しもべ妖精擁護派のハーマイオニー以外の面々がクリーチャーではなくシリウスの肩を持つ理由を、フォーラも日が経つごとに少なからず理解していくこととなった。
クリーチャーは自分の声が屋敷で過ごす人たちには聞こえないとでも思っているのか、日がな一日、随分な悪態をブツブツと呟くのだ。ルーピンのことは半獣と呼ぶし、純血のウィーズリー家については純血主義に反発しているため『血を裏切る者』、つまり『穢れた血』と同じくらい酷い軽蔑の言葉を放ったし、ハーマイオニーとフォーラのことは勿論『穢れた血』と呼んだ。加えてフォーラ単体を時には『親なし』などと言ったりもした。
フォーラは初めてクリーチャーにその言葉をぶつけられた時に思わず手が止まってしまったのを、あれから一か月弱経った今でもよく覚えていた。あの時はすぐさま近くにいた双子がクリーチャーを怒鳴り散らして追い立ててくれた。彼女はそのこと自体には感謝したが、心の中では自分の弱さがなければクリーチャーの言葉を何も気にすることはなかったのにと気落ちしていた。
自分の本当の親は誰で、今何処にいて、どうして自分を手放したのかを考えたことがないわけではなかった。むしろクリーチャーに『親なし』と罵られて以来、そのことが度々フォーラの頭をよぎった。真相を知ったからといって勿論どうなるわけでもないし、もしかしたらもうとっくに死んでしまっているかもしれないというのに。
生みの親はどちらもマグルだと聞かされている。もし自分がマグルの両親と幼少期から順当に過ごしていたとしたら、きっとそもそも今のような悩みを抱えることもなかっただろう。魔法界のことを何も知らない状態でホグワーツに招待され、スリザリンを希望することもなく他の寮に入るのだ。もしかしたらグリフィンドールに組分けされて毎日ハーマイオニーたちと一緒に過ごしたりして、そして、ドラコや今の最も近しい友人たちとは特段深い接点もなく、スネイプと今の両親が家で話す姿を見ることもなく……。
「……」
そこまで考えてフォーラは形容し難い猛烈な嫌悪感と虚無感に襲われた。しかしその理由を深く考える前に、彼女は自分が酷く馬鹿げていると思った。そもそも『もし』など有り得ないのだ。こんな無意味なことを考えていたとルーピンに知られたらきっと叱られてしまうかもしれない。彼とは生まれの血について考えずにここでの日々を過ごすと約束したというのに。
フォーラは頭の中の考えを掻き消すようにして意識を今現在いる食堂の風景に引き戻すと、食べ終えた朝食の食器を片付けにシンクへと向かった。すると先程からキッチンカウンターの向こう側でモリーとシリウスが何やら話しながら作業をしており、フォーラはカウンターを周り込んだ時にようやく二人の手元を視認した。モリーは医療用の分厚い本を開いており、『瘡蓋粉』と書かれたページを読んではシリウスの瘡蓋だらけの右手をしげしげと眺め回していたのだった。
「もう一週間になるでしょう。薬で少しは良くなったかと思ったけど。ここに書いてあるとおりに作ったのに」
「もしかするとあの箱を開けた時に、変な呪いにでも掛かったかもしれないな。治癒を遅らせる強化魔法とかそういう類のものが含まれていたのかもしれない」
フォーラは二人を横目に見ながら食器をシンクに置いた。シリウスの直ぐそばには解かれたばかりの包帯が散らかっていて、その隣のボウルの中には黄色味がかった透明の液体が入っていた。彼はそのボウルに瘡蓋だらけの右手を浸けているところだった。するとシリウスが気怠げに言った。
「まあ当初よりは良くなっているんだ、気長に待つことにするよ。ありがとうモリー。それにどうせ私は騎士団のみんなのようにはこの屋敷から出られないんだから、たいした支障はないさ」
「……あの、すみません、それって?」フォーラはどうしてもシリウスの使っているボウルの中身が気になって、二人の横から声を掛けた。するとモリーが説明した。
「シリウスの瘡蓋を治すのに効くらしくって。買ってきた本を見ながら彼と作ったのよ。でもなかなか思うよう治らないの」
それを聞いてフォーラはボウルに近付くと、中をじっと眺めてから再び尋ねた。
「材料は何が入っているんですか?」
玄関前のシリウスの母親の肖像画については何度か剥がそうと計画されたが、強力な永久粘着術が施されており、断念せざるを得ないと結論付けられた。他にはこれまた悪趣味な蛇が彫刻されたロウソク立てや銀食器、大粒のオパールをはめ込んだ怪しいジュエリーケース(これを開いたシリウスは中から出てきた
この館にはクリーチャーという屋敷しもべ妖精がいる筈なのに、これだけ荒れ放題になっているのには理由があった。屋敷しもべ妖精はその家に奉仕するのが常だが、このクリーチャーはシリウスの母親が死んで以来、館の掃除を随分と怠ってしまったようだった。
クリーチャーは特徴的な
「地下のボイラー室に『巣』を作ってそこで暮らしてるってさ。それで俺たちが棄てた遺品をこっそりくすねて、そこに隠してるんだ。フォーラがここにやって来た前日だって、シリウスはクリーチャーが棄てた筈のガラクタを持っていくのを叱ってたな」
フォーラが初めてクリーチャーのそのような姿を遠目に見て、かつその話を聞いた時、彼女はシリウスが随分酷い人だと感じた。だが、屋敷しもべ妖精擁護派のハーマイオニー以外の面々がクリーチャーではなくシリウスの肩を持つ理由を、フォーラも日が経つごとに少なからず理解していくこととなった。
クリーチャーは自分の声が屋敷で過ごす人たちには聞こえないとでも思っているのか、日がな一日、随分な悪態をブツブツと呟くのだ。ルーピンのことは半獣と呼ぶし、純血のウィーズリー家については純血主義に反発しているため『血を裏切る者』、つまり『穢れた血』と同じくらい酷い軽蔑の言葉を放ったし、ハーマイオニーとフォーラのことは勿論『穢れた血』と呼んだ。加えてフォーラ単体を時には『親なし』などと言ったりもした。
フォーラは初めてクリーチャーにその言葉をぶつけられた時に思わず手が止まってしまったのを、あれから一か月弱経った今でもよく覚えていた。あの時はすぐさま近くにいた双子がクリーチャーを怒鳴り散らして追い立ててくれた。彼女はそのこと自体には感謝したが、心の中では自分の弱さがなければクリーチャーの言葉を何も気にすることはなかったのにと気落ちしていた。
自分の本当の親は誰で、今何処にいて、どうして自分を手放したのかを考えたことがないわけではなかった。むしろクリーチャーに『親なし』と罵られて以来、そのことが度々フォーラの頭をよぎった。真相を知ったからといって勿論どうなるわけでもないし、もしかしたらもうとっくに死んでしまっているかもしれないというのに。
生みの親はどちらもマグルだと聞かされている。もし自分がマグルの両親と幼少期から順当に過ごしていたとしたら、きっとそもそも今のような悩みを抱えることもなかっただろう。魔法界のことを何も知らない状態でホグワーツに招待され、スリザリンを希望することもなく他の寮に入るのだ。もしかしたらグリフィンドールに組分けされて毎日ハーマイオニーたちと一緒に過ごしたりして、そして、ドラコや今の最も近しい友人たちとは特段深い接点もなく、スネイプと今の両親が家で話す姿を見ることもなく……。
「……」
そこまで考えてフォーラは形容し難い猛烈な嫌悪感と虚無感に襲われた。しかしその理由を深く考える前に、彼女は自分が酷く馬鹿げていると思った。そもそも『もし』など有り得ないのだ。こんな無意味なことを考えていたとルーピンに知られたらきっと叱られてしまうかもしれない。彼とは生まれの血について考えずにここでの日々を過ごすと約束したというのに。
フォーラは頭の中の考えを掻き消すようにして意識を今現在いる食堂の風景に引き戻すと、食べ終えた朝食の食器を片付けにシンクへと向かった。すると先程からキッチンカウンターの向こう側でモリーとシリウスが何やら話しながら作業をしており、フォーラはカウンターを周り込んだ時にようやく二人の手元を視認した。モリーは医療用の分厚い本を開いており、『瘡蓋粉』と書かれたページを読んではシリウスの瘡蓋だらけの右手をしげしげと眺め回していたのだった。
「もう一週間になるでしょう。薬で少しは良くなったかと思ったけど。ここに書いてあるとおりに作ったのに」
「もしかするとあの箱を開けた時に、変な呪いにでも掛かったかもしれないな。治癒を遅らせる強化魔法とかそういう類のものが含まれていたのかもしれない」
フォーラは二人を横目に見ながら食器をシンクに置いた。シリウスの直ぐそばには解かれたばかりの包帯が散らかっていて、その隣のボウルの中には黄色味がかった透明の液体が入っていた。彼はそのボウルに瘡蓋だらけの右手を浸けているところだった。するとシリウスが気怠げに言った。
「まあ当初よりは良くなっているんだ、気長に待つことにするよ。ありがとうモリー。それにどうせ私は騎士団のみんなのようにはこの屋敷から出られないんだから、たいした支障はないさ」
「……あの、すみません、それって?」フォーラはどうしてもシリウスの使っているボウルの中身が気になって、二人の横から声を掛けた。するとモリーが説明した。
「シリウスの瘡蓋を治すのに効くらしくって。買ってきた本を見ながら彼と作ったのよ。でもなかなか思うよう治らないの」
それを聞いてフォーラはボウルに近付くと、中をじっと眺めてから再び尋ねた。
「材料は何が入っているんですか?」