#Garlic掌編
「何それ」
エルガーが机に右手で頬杖をつきながらラージャの鼻歌を聞いていた。
「え? 何が?」
無意識に歌っていたらしい。彼の質問の意味が分からないラージャは戸惑いながら聞き返す。
ここは吸血鬼退治が生業のハンター事務所。
パーカッションで区切られ安物の折りたたみ机で作った休憩所に二人。
短針と長針が重なりあった深夜十二時。
夜間こそ、闇の眷属の時間だ。特に今日のような新月の日は。
見回り組と待機組に分かれて、こうどうする今日。出勤した二人は待機組、そして現在、先輩ハンターのバディと交代してようやく休憩に入ったのだ。
「何って、それ」
エルガーの指が頬から離れ、ラージャを指す。
「ひょえっ!!」
「おい、何ビビってんだよ」
「わ、やめろって。急に指すな! 俺が先端恐怖症なの知らないのか!?」
「知ってる。ぼくの指、そんなにえっち?」
コクン、と小首をかしげる動作は幼い子供のようだ。自分の指先を丸めて爪を確認している。彼に悪気はないらしい。
「えっちってお前……」
エルガーの言葉に茫然としてしまうラージャ。彼のこういう神経が分からない。
「お、爪、伸びてる」
「そうだろ!! 切れ!!」
「あんた、切ってよ」
「はあ!?」
エルガーが机の上に置いてあった巾着袋を開ける。中から爪切りを取り出してラージャに投げつけた。危ないじゃないか! そう声をあげる前にエルガーが言った。
「いいだろ? その歌、歌いながら切れ。ついでに|ここ《・・》にキスしてもいいぜ?」
エルガーが再び右手で頬杖をついた。傲慢な態度で空いている左手を指しのばしてくる。|ここ《・・》とは指先のことらしい。
反射的に手に取ってしまって、後で後悔するのがラージャだ。両手で受け止めたエルガ―の片手を離そうとすれば、エルガーが眉をひそめるのが目に入ってしまう。
仕方ないので、そっと彼の左手を握りしめると満足げにエルガーの口端があがる。もっと強く握ってもいいぜとばかりにこちらを見おろす彼の傲慢な態度がラージャは気に入らない。
「歌?」
「そ、さっき歌ってただろ? ふんふんふーん」
ラージャの真似をしてエルガーの鼻歌。はずれにはずれる音程に、自分の真似だと一瞬分からなかったラージャは思わず素直な感想をもらしてしまう。
「……音痴だな」
「な、なんだって!?」
「いや、なんでも」
「いや、言った!! 音痴だって!! じゃ、お前、もう一回やってみろよ、ほら、ほら」
エルガーがバタバタと両足を動かす。まるで子供がクロールを泳ぐときの足のように。
「はいはい、暴れない。キスできないぞー」
半分冗談でそう言ったラージャだが、彼がぴたりと動作を止めたので、目を丸くした。
「ヘイ、お前が言ったんだぜ、早くしろよ」
(続)
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2020.03.20 1h
#創作BLワンライ・ワンドロ様よりお題「鼻歌」をお借りしました。
時間内に書きたいところまで書けなかったので……後に追加します。うう。
エルガーが机に右手で頬杖をつきながらラージャの鼻歌を聞いていた。
「え? 何が?」
無意識に歌っていたらしい。彼の質問の意味が分からないラージャは戸惑いながら聞き返す。
ここは吸血鬼退治が生業のハンター事務所。
パーカッションで区切られ安物の折りたたみ机で作った休憩所に二人。
短針と長針が重なりあった深夜十二時。
夜間こそ、闇の眷属の時間だ。特に今日のような新月の日は。
見回り組と待機組に分かれて、こうどうする今日。出勤した二人は待機組、そして現在、先輩ハンターのバディと交代してようやく休憩に入ったのだ。
「何って、それ」
エルガーの指が頬から離れ、ラージャを指す。
「ひょえっ!!」
「おい、何ビビってんだよ」
「わ、やめろって。急に指すな! 俺が先端恐怖症なの知らないのか!?」
「知ってる。ぼくの指、そんなにえっち?」
コクン、と小首をかしげる動作は幼い子供のようだ。自分の指先を丸めて爪を確認している。彼に悪気はないらしい。
「えっちってお前……」
エルガーの言葉に茫然としてしまうラージャ。彼のこういう神経が分からない。
「お、爪、伸びてる」
「そうだろ!! 切れ!!」
「あんた、切ってよ」
「はあ!?」
エルガーが机の上に置いてあった巾着袋を開ける。中から爪切りを取り出してラージャに投げつけた。危ないじゃないか! そう声をあげる前にエルガーが言った。
「いいだろ? その歌、歌いながら切れ。ついでに|ここ《・・》にキスしてもいいぜ?」
エルガーが再び右手で頬杖をついた。傲慢な態度で空いている左手を指しのばしてくる。|ここ《・・》とは指先のことらしい。
反射的に手に取ってしまって、後で後悔するのがラージャだ。両手で受け止めたエルガ―の片手を離そうとすれば、エルガーが眉をひそめるのが目に入ってしまう。
仕方ないので、そっと彼の左手を握りしめると満足げにエルガーの口端があがる。もっと強く握ってもいいぜとばかりにこちらを見おろす彼の傲慢な態度がラージャは気に入らない。
「歌?」
「そ、さっき歌ってただろ? ふんふんふーん」
ラージャの真似をしてエルガーの鼻歌。はずれにはずれる音程に、自分の真似だと一瞬分からなかったラージャは思わず素直な感想をもらしてしまう。
「……音痴だな」
「な、なんだって!?」
「いや、なんでも」
「いや、言った!! 音痴だって!! じゃ、お前、もう一回やってみろよ、ほら、ほら」
エルガーがバタバタと両足を動かす。まるで子供がクロールを泳ぐときの足のように。
「はいはい、暴れない。キスできないぞー」
半分冗談でそう言ったラージャだが、彼がぴたりと動作を止めたので、目を丸くした。
「ヘイ、お前が言ったんだぜ、早くしろよ」
(続)
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2020.03.20 1h
#創作BLワンライ・ワンドロ様よりお題「鼻歌」をお借りしました。
時間内に書きたいところまで書けなかったので……後に追加します。うう。