#Garlic掌編

「ラージャ、また書類の山だな」
「ああ、命令無視するやつがいるからな」
 吸血鬼専門退治業。
 事務所で唸るラージャに話しかけてきた長髪の美男子。彼、エルガーはラージャの相棒だ。
 細見で可憐な見た目と反対にカッとなると前に突進する暴走特急じみたところがあるのがたまに――いや、かなり傷。
 頼りになるところも頼りにならないところもある良いパートナーだ。
「あれ、またピアス開けた?」
「オゥ、よく気が付いたな」
 ふわっと風に揺れたエルガーの髪から彼の耳元が光る。
 ゴテゴテジャラジャラに装飾品が輝き、見ていて痛いと思うラージャとは反対に、ラージャに気付いてもらえたことをエルガーは嬉しそうに肩を小刻みに揺らした。
「全く、そんなことしているなら手伝ってくれよ」
「まあ、いいじゃないの。ぼく、こまごまとした仕事はニガァテなのさ」
 はぁ、とラージャはため息を着く。
 この男は何を言っても聞きやしない。
 たまっている書類は全て自分で仕上げることはもう決定事項だ。
 だが、こんなに書類が積まれるのも半分、いやそれ以上は彼のせいだ。
 この前のケースだって――。

■□
「待て、エル! まだ指示が来ていない!!」
 吸血鬼化した住民が自宅で暴れまわっていると通報が入った。
 現場付近で待機するラージャとエルガーだったが、なかなかゴーサインが出ない。
 しびれを切らしたエルガーが突入しようとするのをラージャが止めた。
「何故! 今、飛び込まなかったら、余計に被害がでかくなる!」
「だが、まだ状況がつかめていない! 隊長の指示を待つべきだ!」
「くっ!! そうは言ってらんねェって!!」
「そんな事言うなよ! これは仕事だ!」
「だが、待てないものは待てない! 危険は承知だ! どけ!!」
 エルガーは乱暴にラージャの手を逃れると、現場である住宅に一人で突撃していった。
 ラージャは慌てて無線で隊長に状況を述べ、エルを追う。
 彼は無茶をしだしたら、もう無茶で済まない。
 無茶苦茶だ。

■□
「おっと、お疲れさま、ヒーローくん!!」
 隊長の朗らかな声で、ラージャは現実に戻った。
「ハイ! ボス!」
 こちらも垢ぬけるくらい明るいエルガーの声。
「いや、お手柄だったな!! この間のケースでは、君があのとき突入してくれなかったら、どうなっていたか」
「いやぁ、もうこれは行くしかないって分かってましたから」
「だが、身勝手な行動は駄目だぞ。今後は引き締めて任務を頼む」
「了解」
 たまにラージャはその身勝手な行動で、状況を突破したり丸く収めたりすることがある。
 本当なら、指示を待つのが正しい選択だったかもしれない。
 だが、ただ正しいだけの選択の上をいく、選択を自分でとれる、そういう人なのだ。
「なんだかなぁ」
 ラージャは膨らんでしまった書類に目を通しはじめる。
 自分はあんなふうに無茶も無茶苦茶も出来ない。
 だからこそ自分らしく、こつこつ地道にやるしかないな、と。

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2020.03.14 1h
第363回#一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負さまよりお題(正しい選択/ピアス/「そんな事言うなよ」)をおかりしました。
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