#Garlic掌編
お題「ドーナッツ」
「どぉーなっているんでしょぉ」
先輩ハンターで自分の相方でもあるエルガーがおやつに差し入れてもらった菓子の穴を覗き込みながら、節をつけてつぶやいている。
「いやぁ。どぉーなっているんでしょぉ」
「もういい加減やめろ。お菓子で遊ぶな」
「あ、ファッションドーナッツ。いいなぁ。ラージャ、寄越せよ」
「やめろって。食べかけなんだから」
「間接とか気にするタイプ? ざんねぇん。もう俺とお前は経験済み。間接キス、経験済み」
「おどけるなって」
事務所に掛けられた壁時計の針は午前二時を指している。真夜中であるのにハイテンション。いや、待機中とはいえ、れっきとした勤務中なのである。それなのにこのテンションを年中保持し続けている彼はある意味すごいとも思う。だが、それに振り回されてばかりの人間にとっては迷惑そのものだ。ラージャは大きくため息をついた。
「せっかくシチャさんからドーナツもらったのに、一緒に食べるのがこの人だからなぁ」
「なんだよ、その言い方」
「エル。とりあえず、落ち着いてすこしはおとなしくしていてくれないか?」
「だから、何だよ。ぼく、いつもと変わんないだろ」
「それが悩みの種なんだよ」
「らーじゃぁ」
「可愛い声だしてもだめったらだめ。あーあ、相棒変えてくれなかなぁ、|隊長《ボス》ぉ」
奥のデスクでノートPCの画面に向き合っていたボスが、ぎくりと肩を揺らした。
「どうにも出来ないものは出来ないんだ」
ボスの声にラージャはうなだれる。吸血鬼ハンターの人事は全て上からの指示なのである。現場がどうこう言っても駄目なものは駄目だ。わかってはいる。けれど、長丁場の最終日、最後の深夜勤務中であるなかで、この変人と付き合うのは大変だ。もう、やめようかな。頭の中に辞職という二文字が浮かんでは消える。
ラージャが再び大きなため息をついた時、突然、大きなサイレンの音が鳴り響いた。
「北区Bにて吸血鬼、出現」
オペレーターの声に、エルガーが勢いよく立ち上がる。ワンテンポ遅れてエルガーも支度する。対吸血鬼用武器の具合を点検し、ふたりは互いの顔を見た。無言の確認に頷く。
「エルガー・ラージャペア。これから出発します」
エルガーの凛とした声が響く。これからが本番だ。
「どぉーなっているんでしょぉ」
先輩ハンターで自分の相方でもあるエルガーがおやつに差し入れてもらった菓子の穴を覗き込みながら、節をつけてつぶやいている。
「いやぁ。どぉーなっているんでしょぉ」
「もういい加減やめろ。お菓子で遊ぶな」
「あ、ファッションドーナッツ。いいなぁ。ラージャ、寄越せよ」
「やめろって。食べかけなんだから」
「間接とか気にするタイプ? ざんねぇん。もう俺とお前は経験済み。間接キス、経験済み」
「おどけるなって」
事務所に掛けられた壁時計の針は午前二時を指している。真夜中であるのにハイテンション。いや、待機中とはいえ、れっきとした勤務中なのである。それなのにこのテンションを年中保持し続けている彼はある意味すごいとも思う。だが、それに振り回されてばかりの人間にとっては迷惑そのものだ。ラージャは大きくため息をついた。
「せっかくシチャさんからドーナツもらったのに、一緒に食べるのがこの人だからなぁ」
「なんだよ、その言い方」
「エル。とりあえず、落ち着いてすこしはおとなしくしていてくれないか?」
「だから、何だよ。ぼく、いつもと変わんないだろ」
「それが悩みの種なんだよ」
「らーじゃぁ」
「可愛い声だしてもだめったらだめ。あーあ、相棒変えてくれなかなぁ、|隊長《ボス》ぉ」
奥のデスクでノートPCの画面に向き合っていたボスが、ぎくりと肩を揺らした。
「どうにも出来ないものは出来ないんだ」
ボスの声にラージャはうなだれる。吸血鬼ハンターの人事は全て上からの指示なのである。現場がどうこう言っても駄目なものは駄目だ。わかってはいる。けれど、長丁場の最終日、最後の深夜勤務中であるなかで、この変人と付き合うのは大変だ。もう、やめようかな。頭の中に辞職という二文字が浮かんでは消える。
ラージャが再び大きなため息をついた時、突然、大きなサイレンの音が鳴り響いた。
「北区Bにて吸血鬼、出現」
オペレーターの声に、エルガーが勢いよく立ち上がる。ワンテンポ遅れてエルガーも支度する。対吸血鬼用武器の具合を点検し、ふたりは互いの顔を見た。無言の確認に頷く。
「エルガー・ラージャペア。これから出発します」
エルガーの凛とした声が響く。これからが本番だ。