#Garlic掌編
#Garlic
「緊張しているのか?」
対吸血鬼専用拳銃v-07をもつラージャの手が震えている。
通報が入ったのは午後4時。
閑静な住宅街に発生した吸血鬼は一足早く現場に到着した他のハンターたちが協力し合い、何とか町はずれの廃工場にまで追い詰めた。
このまま廃工場に一斉に配備したハンターたちが突入し、一気に片を付ける。
持ち場に配属されて合図を待つ間、エルガーは相棒のラージャの震えに気が付いたのだ。
おそらくこの先の建物内に化け物は息をひそめているのだろう。
ラージャにはそれがわかる。
エルガーは彼の表情だけで、これは深刻な事態なのだと空気のようだった現実を飲み込んだ。
ラージャを臆病だという人もいるだろう。
だが、エルガーは彼が理由もなしにおびえることはないことを知っている。
俺だけがわかる。
こいつの力も、こいつの可能性も。
「ラージャ。魔法の言葉を教えよう」
「はあ?」
唐突なエルガーの発言に、ラージャは素っ頓狂な声を上げた。
「しーっ。うるさくしたら、任務の邪魔だ」
「だってエルが」
「いいか、こう口に出して言ってみろ。『今すぐお前にキスしてもいいか?』、はい、どうぞ」
「えっ」
戸惑うラージャにエルガーが口をとがらせて台詞を催促する。
「さ、早く言ってくれ」
「う、はいはい、分かったよ」
頑固なエルガーを知っているラージャはこの破天荒な茶番に付き合うことにした。
「今すぐお前にキスしてもいいか? ……どう? これでいい?」
「さ、言ったんだから、しろよ」
「はぁ?」
「ほら、手の震えも止まった」
エルガーに言われて自身の手元を見るラージャ。
さっきまで止めようと思っても止まらなかった震えが、ぴたりと静止している。
「あ、……本当だ。エル、ありがとう」
「何言ってんだよ、キスは?」
まっすぐな感謝の言葉を素直に受け止めきれない性格のエルガーがちゃらけて、今度は口づけの催促をし、顔を近づけてくる。
エルガーの吐息に肌が触れる距離。
ラージャの対処できる展開を超えた展開に、ぎゅっと心臓を掴まれたようだ。
パンクしそうな脳みそ。
それでも、あ、エルのまつ毛長い、なんて思ってしまう。
「ああ、エル、もう、これ以上は無理だ!」
それでも彼の接近は止まらない。
もうすぐ、触れ合ってしまう唇が――。
「って、くっさ!」
また突然、態度をひっくり返したエルガーにラージャは目を白黒させる。
「なんか、お前、くっさい! 口、くっさいんだけど!」
「あ、ああ。吸血鬼に効くかなぁってニンニクいっぱい食ってきた」
「あほか! んなもん効かねぇよ! つーか、ぼくに効いてどうすんだよ! 効果テキメンだっツーの!」
「おい、しーだろ、エル。騒音は任務遂行の邪魔だ」
「んだとこらぁ、お前だろ、原因はだな!」
どう対応したらいいのか分からずに困った微笑を浮かべるラージャを救うように無線から隊長の声が割り込んでくる。
「お二人さん、お盛んなのはいいが、おい、突入前だぞ」
「はーい」
反省しているのかしていないのか。朗らかなエルガーの返事に、ラージャはぷっと笑い出してしまう。
「大丈夫、なんとかなるな。きっと、エルと一緒なら」
「おうよ!」
突入までのカウントダウンが始まる。
ラージャの手の中の鉄が、彼が構え直したその刹那、きらりと夕日を反射して光った。
(了)
2020.01.11 製作時間:1h
お題:魔法のことば/吐息/「これ以上は無理」
一次創作BL版深夜の真剣一本勝負さん(第345回)にお題はいただきました。
「緊張しているのか?」
対吸血鬼専用拳銃v-07をもつラージャの手が震えている。
通報が入ったのは午後4時。
閑静な住宅街に発生した吸血鬼は一足早く現場に到着した他のハンターたちが協力し合い、何とか町はずれの廃工場にまで追い詰めた。
このまま廃工場に一斉に配備したハンターたちが突入し、一気に片を付ける。
持ち場に配属されて合図を待つ間、エルガーは相棒のラージャの震えに気が付いたのだ。
おそらくこの先の建物内に化け物は息をひそめているのだろう。
ラージャにはそれがわかる。
エルガーは彼の表情だけで、これは深刻な事態なのだと空気のようだった現実を飲み込んだ。
ラージャを臆病だという人もいるだろう。
だが、エルガーは彼が理由もなしにおびえることはないことを知っている。
俺だけがわかる。
こいつの力も、こいつの可能性も。
「ラージャ。魔法の言葉を教えよう」
「はあ?」
唐突なエルガーの発言に、ラージャは素っ頓狂な声を上げた。
「しーっ。うるさくしたら、任務の邪魔だ」
「だってエルが」
「いいか、こう口に出して言ってみろ。『今すぐお前にキスしてもいいか?』、はい、どうぞ」
「えっ」
戸惑うラージャにエルガーが口をとがらせて台詞を催促する。
「さ、早く言ってくれ」
「う、はいはい、分かったよ」
頑固なエルガーを知っているラージャはこの破天荒な茶番に付き合うことにした。
「今すぐお前にキスしてもいいか? ……どう? これでいい?」
「さ、言ったんだから、しろよ」
「はぁ?」
「ほら、手の震えも止まった」
エルガーに言われて自身の手元を見るラージャ。
さっきまで止めようと思っても止まらなかった震えが、ぴたりと静止している。
「あ、……本当だ。エル、ありがとう」
「何言ってんだよ、キスは?」
まっすぐな感謝の言葉を素直に受け止めきれない性格のエルガーがちゃらけて、今度は口づけの催促をし、顔を近づけてくる。
エルガーの吐息に肌が触れる距離。
ラージャの対処できる展開を超えた展開に、ぎゅっと心臓を掴まれたようだ。
パンクしそうな脳みそ。
それでも、あ、エルのまつ毛長い、なんて思ってしまう。
「ああ、エル、もう、これ以上は無理だ!」
それでも彼の接近は止まらない。
もうすぐ、触れ合ってしまう唇が――。
「って、くっさ!」
また突然、態度をひっくり返したエルガーにラージャは目を白黒させる。
「なんか、お前、くっさい! 口、くっさいんだけど!」
「あ、ああ。吸血鬼に効くかなぁってニンニクいっぱい食ってきた」
「あほか! んなもん効かねぇよ! つーか、ぼくに効いてどうすんだよ! 効果テキメンだっツーの!」
「おい、しーだろ、エル。騒音は任務遂行の邪魔だ」
「んだとこらぁ、お前だろ、原因はだな!」
どう対応したらいいのか分からずに困った微笑を浮かべるラージャを救うように無線から隊長の声が割り込んでくる。
「お二人さん、お盛んなのはいいが、おい、突入前だぞ」
「はーい」
反省しているのかしていないのか。朗らかなエルガーの返事に、ラージャはぷっと笑い出してしまう。
「大丈夫、なんとかなるな。きっと、エルと一緒なら」
「おうよ!」
突入までのカウントダウンが始まる。
ラージャの手の中の鉄が、彼が構え直したその刹那、きらりと夕日を反射して光った。
(了)
2020.01.11 製作時間:1h
お題:魔法のことば/吐息/「これ以上は無理」
一次創作BL版深夜の真剣一本勝負さん(第345回)にお題はいただきました。
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