19年一本勝負さん参加録
猫耳騒動
「な、にゃんじゃこりゃああ!!」
豊藤群青 の声が木造の男子寮を揺るがす。爆音に軽い眩暈を感じて、栗石逢生 は近くの壁に手をついたが、壁の向こうから振動が走った。
「うるせぇ!!」
壁を隔てて聞こえる罵声。群青の叫び声が隣室にも迷惑を与えていた証拠だ。
「とりあえず、落ち着け」
逢生はそう声をかけだが、肝心の同室で幼馴染の彼は、驚きと恐怖で目をギラギラとたぎらせ、魂が抜けたかのように口を開け、顎をだらしなくさげていた。
豊藤群青。
異国の血が入っているらしい彼の一番の特徴は変わった髪色だ。栗毛色のようにも見えるが陽光に空かせば淡い金色に見える。
菫色をたたえた瞳を縁どる長い睫に、陶器のような澱みのないペールホワイトの肌。その容姿も相まってか、黒色ばかりの山奥の男子校で、淡い色の彼は異彩を放っていた。
その彼が取り乱している理由は。
「なんだよ、コレ!! 角、角が生えた!!」
こめかみの上部にポンと現れた、三角錐型の物体だった。
「角、というよりは耳じゃないか。なんかうちの家で飼ってた猫にそっくりなんだが」
「ええ、猫?!」
恐る恐る手を伸ばした群青は、その突然生えてきた物体にそっと触れるとビクンと肩を震わせた。
「どうした?」
彼に異変を感じて逢生が尋ねた。
「ダメだ……感覚がある……」
「へ?」
「俺の手が触れたって感覚があるんだよぉ、逢生ぉ」
泣きそうな顔で逢生を見つめる群青。助けを求める瞳に射抜かれても、逢生自体いつもと違う彼をどうしたらいいのか分からない。
「とりあえず、遊んでみる?」
自身の履いているジャージから紐を抜き取って逢生は、群青の目の前にかざした。ゆっくりと猫をじゃらすように動かしていくと、不安に濡れていた群青の表情が変化してくる。
「うにゃっ」
もじもじと何かの衝動を抑え込んでいた群青が突然紐に襲いかかった。だが逢生の方が一瞬早く反応し、彼の手を逃れるように紐を退避させる。
「うにゃっ、うにゃっ」
「ははは、本当に猫みたいだ」
淡い色を輝かせながら、じゃれつく幼馴染の姿には、美しい容姿で学校中を騒がせる豊藤群青の面影はない。
「うにゃにゃーっ!!」
ムキになって歯をむき出しにする少年。
そうだ、彼とはこういう人間なのだ。
それを世界中で一番知っている人間はおそらく自分だろう。
それだけでちょっとだけ、満足してしまう。
「ほら、こっちこっち」
「にゃっ!」
ヒラヒラと舞う彼の手のひら。
群青を元の姿に戻す方法を考える前に、全力で遊んだ。
第326回 2019.10.26 1h
お題:もふもふ/いつもと違う君/手のひら
猫耳ものです。小説で書くのは初めての猫耳ものです。
ただ単に猫っぽくなってしまったっていうだけの話ですが(苦笑)。
猫耳はいいですぞぉ。猫耳は……!!
「な、にゃんじゃこりゃああ!!」
「うるせぇ!!」
壁を隔てて聞こえる罵声。群青の叫び声が隣室にも迷惑を与えていた証拠だ。
「とりあえず、落ち着け」
逢生はそう声をかけだが、肝心の同室で幼馴染の彼は、驚きと恐怖で目をギラギラとたぎらせ、魂が抜けたかのように口を開け、顎をだらしなくさげていた。
豊藤群青。
異国の血が入っているらしい彼の一番の特徴は変わった髪色だ。栗毛色のようにも見えるが陽光に空かせば淡い金色に見える。
菫色をたたえた瞳を縁どる長い睫に、陶器のような澱みのないペールホワイトの肌。その容姿も相まってか、黒色ばかりの山奥の男子校で、淡い色の彼は異彩を放っていた。
その彼が取り乱している理由は。
「なんだよ、コレ!! 角、角が生えた!!」
こめかみの上部にポンと現れた、三角錐型の物体だった。
「角、というよりは耳じゃないか。なんかうちの家で飼ってた猫にそっくりなんだが」
「ええ、猫?!」
恐る恐る手を伸ばした群青は、その突然生えてきた物体にそっと触れるとビクンと肩を震わせた。
「どうした?」
彼に異変を感じて逢生が尋ねた。
「ダメだ……感覚がある……」
「へ?」
「俺の手が触れたって感覚があるんだよぉ、逢生ぉ」
泣きそうな顔で逢生を見つめる群青。助けを求める瞳に射抜かれても、逢生自体いつもと違う彼をどうしたらいいのか分からない。
「とりあえず、遊んでみる?」
自身の履いているジャージから紐を抜き取って逢生は、群青の目の前にかざした。ゆっくりと猫をじゃらすように動かしていくと、不安に濡れていた群青の表情が変化してくる。
「うにゃっ」
もじもじと何かの衝動を抑え込んでいた群青が突然紐に襲いかかった。だが逢生の方が一瞬早く反応し、彼の手を逃れるように紐を退避させる。
「うにゃっ、うにゃっ」
「ははは、本当に猫みたいだ」
淡い色を輝かせながら、じゃれつく幼馴染の姿には、美しい容姿で学校中を騒がせる豊藤群青の面影はない。
「うにゃにゃーっ!!」
ムキになって歯をむき出しにする少年。
そうだ、彼とはこういう人間なのだ。
それを世界中で一番知っている人間はおそらく自分だろう。
それだけでちょっとだけ、満足してしまう。
「ほら、こっちこっち」
「にゃっ!」
ヒラヒラと舞う彼の手のひら。
群青を元の姿に戻す方法を考える前に、全力で遊んだ。
第326回 2019.10.26 1h
お題:もふもふ/いつもと違う君/手のひら
猫耳ものです。小説で書くのは初めての猫耳ものです。
ただ単に猫っぽくなってしまったっていうだけの話ですが(苦笑)。
猫耳はいいですぞぉ。猫耳は……!!