19年一本勝負さん参加録

洗濯物騒動

 全寮制の高校では毎日のようにトラブルが発生する。今日は食堂舎にある電子レンジが一台故障するという事件が起きた。

「お前、馬鹿じゃないの?」
 水浸しになった床にうずくまって雑巾かけをしている群青ぐんじょうの背中に逢生あおがぶつけた言葉はそれだった。
 慌てて逢生を見上げた群青だったが、照明を背にして立つ彼の表情は逆光で視にくく、感情を読み取ることが出来なかった。
「先生から聞いた。着替えを洗濯してなくて、履くパンツがないから、電子レンジでチンしたんだって? で、火が出て慌ててバケツをどーん」
「……あってます」
 群青はうなだれて、視線を床に落とした。水たまりの上に焦げたトランクスが浮かんでいる。故障した電子レンジの扉は開いたまま宙をさまよっていた。
「チンすればあったかくなるからさ、気合を入れてチンすればすぐに乾くと思って」
 妙な理屈を申すこの男子生徒のジャージの下はノーパンだ。肌が擦れると痛いので早く乾かさなければと焦った結果、この大騒動を起こしたらしい。
 その姿を想像して、逢生は呆れると同時に、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
 いけない。馬鹿はこういうところが嫌いだ。
「まぬけ」
「おっしゃる通りで」
「くそ馬鹿」
「うう、返す言葉もございません」
 ふぅと逢生がため息をつく。群青をしょんぼりさせるのもこれくらいでいいだろう。
「仕方ないから手伝ってやるよ。なんつーか、その格好のままにさせたくないし」
 逢生は、ぶっきらぼうに雑巾を手に取った。



第324回 2019.10.19 1h
お題:洗濯物
未使用お題:(屁理屈/「舐めんなよ」)
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