2020
不機嫌な坊ちゃんの機嫌は膨らんだ頬の大きさである程度分かる。
そんな子供っぽさに将来の心配も膨らむけれど、今はご機嫌を直してもらわなければならない。
カップを温め、ポットの中で茶葉を膨らませ、美味しいお茶を淹れよう。そして最終兵器にとっておきのバウムクーヘンを。
これなら坊ちゃんの気を引けるぞ。
ステップを踏みそうになる足を諌めながら、お盆に乗せた茶器を坊ちゃんの部屋まで運ぶ。
部屋をノックしても返事はない。鍵がかかっていなかったので、扉を少し開けて中の様子をうかがう。
机に突っ伏して、すっかり腐っている少年の姿が網膜に映る。ああ、このままではいけない。
「ぼっちゃん、よろしかったらお茶にいたしませんか」
返事はやはりない。本人は沈黙を保ったままだ。
「せっかく、ぼっちゃんの為にお茶をご用意いたしましたのに」
いつもは明るく素直な彼の沈んだ反応に悲しさと切なさが少し胸をよぎる。きちんと発音しなければという意志はあったのだが、語尾を震わせてしまった。
仕方がないので部屋を立ち去ろうとすれば、彼が声を発した。
「よし、いただこう」
「本当ですかっ」
振り返れば、机から上体をあげた坊ちゃんの姿。瞼がはれ上がり、目が充血している。
「うん。せっかくだし」
「はい」
すぐに茶器に琥珀色の液体を注ぎあげ、彼に渡す。
「ありがとう。やはりお前の笑顔が一番効くな」
「……へ?」
小さな主人の表情を確認すると、薔薇色に頬が染まっていた。
(了)
お題は創作BL版ワンライ・ワンドロ様よりいただきました。
#創作BL版ワンライ・ワンドロ @BL_ONEhour
お題「とっておきの○○」 制作時間:一時間