2019

「レネさん、眼鏡かけるんだ」
 郵便受けの中に手紙が入っていた。読もうと思って出した老眼鏡を見てシルビオが不思議そうな表情になる。
「おい、私をいくつだと思っているんだ?」
 吸血鬼として目覚めたシルビオには、時の流れが身体変化となって立ち現れない。ずっと二十八の精悍な容姿のままだ。
「おっさんだな、レネ」
「ああ、おっさんだ。これからもっと皺くちゃになるかもしれんぞ」
「へーえ、楽しみだな。長生きしなくちゃ」
 シルビオは満開の笑顔になってレネのおでこに触れるだけのキスを落とす。
「……お前。昔からではあるが本当にお前の考えていることがわからない」
「大丈夫、俺には分かっている。くちゃくちゃになってもずっと好きだよ」
「いや、そうではなくて」
「あはは。レネさんもう遅いよ。加齢を理由に俺から逃げようとしても、絶対に手放さないからね」
 レネから眼鏡をとりあげるとはしゃいだようにグラスを覗き込み、自身の鼻にかけた。
「うわっ、なんか変」
「そりゃそうだろう。度は私に合わせてある」
「ちぇっ、若いって大変だな」
 シルビオが演技じみたふうに肩を落とすので、レネはぷっと小さく噴き出して笑った。
「馬鹿言え、老いる方が大変だ」


2019.12.03 1h
お題:眼鏡
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