2019


「おい、外れてる」
 栗石逢生の鋭い視線に射抜かれて、豊藤群青はたじろいだ。
「えっ、何!」
 近づいてくる彼の顔。急に距離が縮まって、呼吸が浅くなる。
 幼い頃からの親友、のはず。
 このくらいの距離、いつものことじゃないか。
 急に動揺してしまう自分が分からない。
「じっとして」
「うへぇ!?」
 身体が密着してしまうくらい距離を詰められて、群青は素っ頓狂な声をあげてしまう。
 逢生のストレートでさらりとした艶のある黒髪が、くすぐるように群青の胸部に触れた。服越しではあるのだが、彼の香りを近くで感じて、脈拍を高鳴らせてしまう。
 心臓バクバクの群青の襟元にまで逢生の細い手が伸びてくる。そのまま、第二ボタンの位置にまでゆっくりと移動して――。
「よし、もう動いていいぞ!」
 バン、と軽く胸を叩かれ、自分が外れていたボタンを直してもらっていたのだと、群青は気が付いた。
「うわあ、ありがとう。全然気が付かなかった」
「全く、身だしなみには気を付けろよ、特にお前は……いや、何でもない」
 くるりと背を向ける幼馴染。
 何も変わってはいない。
 昔から面倒見の良い彼なのだ。



2019.10.27 1h
お題: ボタン
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good!