2019
京都に行こう
「そうだ、京都に行こう!」
それは唐突な提案だった。私は目の前で子犬のように瞳をきらめかせ、どこかもらってきたパンフレットを見せびらかしている村岡涼一くんに向き合っていた。
「一体、どういう風の吹き回しかい?」
私はおそるおそる彼に聞く。村岡くんという生き物は、なかなかのインドア派で同居という名の同棲を初めたころは笑顔の二つ返事ではあったが、最近はどこに誘おうとも全くびくともしなかった。
「麻生さん、この間、桜見たいって言ってませんでしたっけ」
「ああ、うん、そうだね。でも京都でもきっともう散ってしまっているよ」
「うーん、今の季節はどんな植物なんだろう」
と村岡くんが小首を可愛らしくかしげる。
「あ、それより麻生さん。来週末あたり、仕事入っていませんよね」
「ああ、うん。それは大丈夫」
「じゃあ、行きましょうね」
「うん、村岡くんのエスコートならね」
そう言って見せると村岡くんの表情が硬くなった。僕にできるだろうかとぶつぶつ独り言を始める。
彼が自分の世界に入ってしまっている間、私は彼の持ってきたパンフレットに手を伸ばした。
「あっ」
答えは全てここに書かれていた。
――愛しい人と古都で過ごす時間。
はははと乾いた笑いが、私の唇から漏れる。この子はこんな謳い文句に乗せられて……いや、彼なりに私との関係のことを考えてくれているのだろう。
そのほほえましいくらいのひたむきさに、たまらず、私は彼を抱きしめた。
「そうだ、京都に行こう!」
それは唐突な提案だった。私は目の前で子犬のように瞳をきらめかせ、どこかもらってきたパンフレットを見せびらかしている村岡涼一くんに向き合っていた。
「一体、どういう風の吹き回しかい?」
私はおそるおそる彼に聞く。村岡くんという生き物は、なかなかのインドア派で同居という名の同棲を初めたころは笑顔の二つ返事ではあったが、最近はどこに誘おうとも全くびくともしなかった。
「麻生さん、この間、桜見たいって言ってませんでしたっけ」
「ああ、うん、そうだね。でも京都でもきっともう散ってしまっているよ」
「うーん、今の季節はどんな植物なんだろう」
と村岡くんが小首を可愛らしくかしげる。
「あ、それより麻生さん。来週末あたり、仕事入っていませんよね」
「ああ、うん。それは大丈夫」
「じゃあ、行きましょうね」
「うん、村岡くんのエスコートならね」
そう言って見せると村岡くんの表情が硬くなった。僕にできるだろうかとぶつぶつ独り言を始める。
彼が自分の世界に入ってしまっている間、私は彼の持ってきたパンフレットに手を伸ばした。
「あっ」
答えは全てここに書かれていた。
――愛しい人と古都で過ごす時間。
はははと乾いた笑いが、私の唇から漏れる。この子はこんな謳い文句に乗せられて……いや、彼なりに私との関係のことを考えてくれているのだろう。
そのほほえましいくらいのひたむきさに、たまらず、私は彼を抱きしめた。