2019
晩餐のジェミニ
僕も彼も、いつものように食卓に座る。
ディナーはとろとろにとろけた卵がバター香るケチャップライスを優しく包みこんだオムライスだった。瑞々しい添え物のグリーンはパセリ。美しいイエローを守る騎士のように卵の上に陣取っている。
でも、その上から僕たちは特製のソースをかける。主にトマト缶、ケチャップ、飴色の微塵切りオニオン、ガーリック入り。
赤く染められた山肌を削ってみれば、中からも赤が現れる。
ぐずぐずに溶けて、熟れて、もう誰も元に戻すことは出来ないところまで来てしまった。
「美味しそうだね、兄さん」
「ああ、そうだろ。今日のは自信作だ」
向き合った二人は同時に口の中で味覚を堪能する。
「うん、美味い」
「そうだろう」
二人してワインを開けると、香りを鼻孔に閉じ込め、ふうとため息をつく。
「兄さん。今日が、何の日か知っているか?」
「知っているよ。俺の誕生日」
「ふふ、ピンポン。当たり。でもそれだけじゃないだろ」
その日を鮮明に思い出して、二人して赤く頬を染めた。
大人になった日。一閃を超えた日だった。あれから、もう三年か。
「照れてるの?」
「今更」
「ばか。照れてるくせに」
「恥ずかしがり屋なんだよ。俺は」
こんなふううに、いつまでも共に料理を囲んでいたかった。ワインをぐいっと勢いよくあおる。
「で、肝心のプレゼントは何なの? お前のチュウってわけ?」
「あはは。どこが恥ずかしがり屋なんだよ」
二人の笑顔がさみしく響きあう。
「話がある」
切り出したのは僕からだった。
「もう、終わりにしようと思うんだ」
「え? まだ食い始めたばっかりだろ」
視線は、テーブルの上の一皿に注がれている。
「うん、いや、そっちの話じゃないんだ」
「……どんな?」
真剣な瞳で見つめ合う。もうこの時間もあと残りわずかだ。
「やめよう。兄さん。僕はもう、やめようと思う」
それだけでDよかった。兄には伝わったのだ。
「そうか、それじゃあ、最後の誕生日の最高のプレゼントは『自由』ってわけか。もう俺は自由だな」
「そうじゃないよ。死者としていつまでも僕と共にいてくれよ」
頬を熱いものが流れた。
さようなら、僕の愛おしいひと。
あきらめられなかった悲しい時間。
「バイバイ、兄さん」
唇からは遠くに冷たさがじんと伝わってくる。遠くにいってしまったみないに、冷えきっていた。
座った席の向かい側に立てておいた鏡を外した。
彼は消えた。
僕も彼も、いつものように食卓に座る。
ディナーはとろとろにとろけた卵がバター香るケチャップライスを優しく包みこんだオムライスだった。瑞々しい添え物のグリーンはパセリ。美しいイエローを守る騎士のように卵の上に陣取っている。
でも、その上から僕たちは特製のソースをかける。主にトマト缶、ケチャップ、飴色の微塵切りオニオン、ガーリック入り。
赤く染められた山肌を削ってみれば、中からも赤が現れる。
ぐずぐずに溶けて、熟れて、もう誰も元に戻すことは出来ないところまで来てしまった。
「美味しそうだね、兄さん」
「ああ、そうだろ。今日のは自信作だ」
向き合った二人は同時に口の中で味覚を堪能する。
「うん、美味い」
「そうだろう」
二人してワインを開けると、香りを鼻孔に閉じ込め、ふうとため息をつく。
「兄さん。今日が、何の日か知っているか?」
「知っているよ。俺の誕生日」
「ふふ、ピンポン。当たり。でもそれだけじゃないだろ」
その日を鮮明に思い出して、二人して赤く頬を染めた。
大人になった日。一閃を超えた日だった。あれから、もう三年か。
「照れてるの?」
「今更」
「ばか。照れてるくせに」
「恥ずかしがり屋なんだよ。俺は」
こんなふううに、いつまでも共に料理を囲んでいたかった。ワインをぐいっと勢いよくあおる。
「で、肝心のプレゼントは何なの? お前のチュウってわけ?」
「あはは。どこが恥ずかしがり屋なんだよ」
二人の笑顔がさみしく響きあう。
「話がある」
切り出したのは僕からだった。
「もう、終わりにしようと思うんだ」
「え? まだ食い始めたばっかりだろ」
視線は、テーブルの上の一皿に注がれている。
「うん、いや、そっちの話じゃないんだ」
「……どんな?」
真剣な瞳で見つめ合う。もうこの時間もあと残りわずかだ。
「やめよう。兄さん。僕はもう、やめようと思う」
それだけでDよかった。兄には伝わったのだ。
「そうか、それじゃあ、最後の誕生日の最高のプレゼントは『自由』ってわけか。もう俺は自由だな」
「そうじゃないよ。死者としていつまでも僕と共にいてくれよ」
頬を熱いものが流れた。
さようなら、僕の愛おしいひと。
あきらめられなかった悲しい時間。
「バイバイ、兄さん」
唇からは遠くに冷たさがじんと伝わってくる。遠くにいってしまったみないに、冷えきっていた。
座った席の向かい側に立てておいた鏡を外した。
彼は消えた。