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学園小話2(浜田君とアーちゃん)

高橋昭は、嫌がらせのためなら、いくらでも身を削る。
天晴というべきか、素直に愚か者と表現すべきか、こればかりはわからない。

ついさっきのことだった。
俺と高橋は、校舎を取り囲む森の中にいた。
決して、色っぽい事情からではない。
俺は最近噂になってる野ウサギ激写のため、高橋は、身を隠すため。
被写体求めうろついてた俺が、身を潜めていた高橋を発見したというわけだ。
まったくの偶然だった。

俺に気づいた高橋は、心底バツの悪い顔をしていた。
『消えろ』とでも言いたかったのか、一応何かを言いかけはしたが、すぐに顔は苦痛に歪み、腹を抱えてうめき声を上げた。
高橋らしくない、無様な姿だった。
だから、ピンときたね。
腹を殴れられたんだな、って。

「湿布、買ってこようか?」

気遣いからでなく、半ば義務のような気持ちだった。
即座に頭が横に振られる。
誰にやられたか知らないが、高橋を声も出せない状態にさせるとは、恐れ入ったね。

「消えたほうが、いいよな」

頭は、動かない。
あれ? と思った。
即座に頷くと思ったのに、意外すぎて目が点だ。
もしかしたら、苦しすぎて返事ができないのかな?
どっちみち、俺にできることはないし、ここは退散しとくか。

踵を返しかけたとき、高橋がうううう呻りながら、頭を上げた。
わざわざ見送ってくれる殊勝さに、別れの言葉でもかけようとした俺の目に飛び込んだのは、苦しそうな息の元、しっかり上がる口角だった。
こいつ、嗤ってやがる。
ヒューヒュー言ってるくせに、強気な態度を崩しやがらねぇ。

「ぃ、ろ」

「え?」

「ここに、いろ」

さて、これはどう受け取ればいいんだろうか?
結局、どうすればいいかわからずに、俺はその場で突っ立っていた。
高橋が一度大きく息を吸い、吐いたあと、ケケと嗤う。

「滅多に、ないだろ、…ありがたく、拝んでろ」

「お前にとっては、これも嫌がらせか」

「クク、言ってろ」

敢え無く、逃亡失敗。
俺もその場に座り込んで、無言のまま、奴の呼吸が落ち着くのを待った。

「誰にやられたって、聞いていいのか?」

「はぁ? んなこともわかんねーのかよ。情報屋失格だな」

「これってのはあるけど、口にしたくねーな」

「そうかよ。すっかり腑抜けちまったな」

「誰がそうさせたんだよっ」

「誰よ?」

「知らねーよ」

大げさに唇を尖らせ、茶化すように言う。
高橋はククと一笑してから、「おりこうちゃん」と、小馬鹿にした。

「で、腹の具合はどうなのよ?」

「まぁ、なんとか、話せるくらいには」

「腹に一発か、痛そう」

「いや、二発」

「お前がまともに食らうなんて、珍しいんじゃねーの?」

「ツケが溜まってたからねー。まともに食らってやったから、二発で済んだんだろ」

「あー、ツケか」

「そう、ツケ」

「なら、仕方ないな」

「そう、仕方ないの」

言っておくが、俺自身、よく理解していない。
でも、たぶん、高橋が大人しく殴られる相手なんて、東峰先輩くらいじゃないかな。

一橋、仁科、三原を中心とした騒動に、こいつらは大きく関わってたはずだ。
それつまり、佐藤晃が絡んでたってことだろ。
佐藤晃が動くなら、当然そこには東峰雅人がいるはず。
だがしかし、もしもそのルールが守られなかったら、どうする?
東峰雅人なら、どんな反応を見せるだろう?

「高橋君は殴られたこともなければ、無様に痛がったこともない。それで、OK?」

「浜田君は、ホント、おりこうちゃんだね」

「口止め料、忘れるなよ」

「すっげーの期待してろ」

軽口がそこそこ復活したところで、高橋が立ち上がる。
釣られて俺も、腰を上げた。

「浜田ー、コーヒーおごってよ」

「甘えるな」

「ケチ」

なんとなく並んで歩いてたら、高橋がスッと歩みを止めた。
慌てて俺も、つんのめるようにして立ち止まる。

「どした?」

「なんか、聞こえねー?」

言われて、その場で耳を澄ました。
確かに、どっかから声が聞こえてくる。
ここは、まだ森の中だ。
揉め事か、もしかしたら誰かの情事が拝めるかもしれない。
これは、探すしかあるまい。
同じことを考えた高橋が、声の場所を探し始めた。

「こっちっぽいか?」

高橋頼みで進めば、声がはっきりとしてくる。

「二人か」

姿が見えなくても、高橋には人数がわかるらしい。
悟られぬようこっそり近づいて、二人の会話を盗み聴きさせていただく。

「ででで、ですからー、お付き合いとか、無理ですー」

「誰かと付き合ってるのか?」

「ないです、ないですー」

「じゃあ、フリーだな」

「そそそそうですけどー」

「だったら、俺と付き合ってもいいだろ!」

「いくないです! 先輩と付き合うとか、ないです!」

「なんでだよ!」

「なんでって言われましても、無理なものは、無理なんですー」

喧嘩か情事かと期待してみれば、まさかまさかの告白タイムだった。
しかも、しかもだ。
されてる側は、あの谷君ではないですか。
これは、見ものだ。

ちなみに、谷君にコクってるのは最上級生だった。
こんなこと、今の時期は珍しくない。
学園ニュースにもならなければ、俺がうほうほ情報収集する気も起きなくなるくらい、当たり前の光景なのだ。
どうせ卒業だからと、学園中が浮かれまくるからな。
好きだ惚れたの告白シーズンは、我が校の風物詩ともいえよう。
ただし、"卒業"という魔法の言葉は、時によっては相当にタチが悪くなる。
最後とばかりに強引に相手に迫り、場合によっては強姦紛いのことまでしでかす奴が、少なからずいた。
だから、この時期は、風紀も大忙しだ。
さてさて、谷君の場合は、どうなりますことやら。

隣にいる高橋を、覗ってみる。
彼は、さも面白い見世物だと言わんばかりの表情をしていた。

「だって、先輩のこと知らないもん、好きじゃないもん」

「そんなもん、付き合ってるうちにどうにかなるって」

「どうにかなりたくないですー!」

「たかが、3ヵ月程度だろ! いいから付き合えよ!」

はいきた、やり捨て宣言。
クソ童貞のくせに、使い捨てのセフレが欲しいってか、笑わせるな。
あまりの図々しさに呆れてると、高橋がコソッと耳打ちしてくる。

「タマ、人気あんの?」

「一年は美形多いから目立たないけど、そこそこ可愛い系なんじゃない?」

「この時季、コクられまくるくらいには?」

「それは、どうかなー?」

「あの三年、必死じゃん」

「まぁ、8人目だし」

いくら収集する気がなくとも、俺の元には自然と情報が集まる。
そのおかげで、あの三年のことも把握済だった。

「8人目?」

「あいつがコクったのは、谷君で8人目だよ」

「既に7回玉砕してんのか。そりゃ、必死にもなるわな」

「あの御面相じゃーなー」

三年生の顔面偏差値は、いたって普通のものだった。
目をそむけたくなるほど不細工じゃないが、セフレを強制できる威力はない。

「お前が言うか」

「うっさい」

実はそこそこイケメンの高橋に言われると、ちょっぴり悔しかったりする。




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