*1年生
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体育祭当日《2日目》
ー翌日ー
「アリシアー……ユーリっ!」
「…ん……ぅ…?」
朝、フレンの声で目が覚める
眠い目を擦りながら、起き上がると扉の前に立って、呆れた顔をしたフレンの姿が目に入る
「……ぁれ?ふれん……?」
ふぁ…と欠伸をしながらスマホの画面を見ると、時間はまだ朝の6時前だ
「全く……ユーリの部屋に本人がいないから来てみれば……みんながいる間は我慢しろって言ったのに」
そう言われて隣を見るとスヤスヤとユーリが寝ていた
……言われてみれば昨日、ユーリと一緒に寝たんだっけ……
「ユーリー、朝だよー」
そう言って揺すってみるが、起きる気配はない
どうしたものかと悩んでいると、不意に腕を掴まれる
「ふぇ?……って、わっ?!」
そしてそのまま、ユーリの腕の中に逆戻りしてしまった
いや、あの……フレンが起こしに来てるんだけど…!?
「ゆ、ユーリ…っ!」
そう名前を呼びながら顔を上げると、目の前にユーリの顔が映る
あまりに近い距離に思わず言葉に詰まる
考えてみると、こんなに近くでユーリの顔を見たの、あんまりないかも……
そんなことを考えていると、フレンの大きなため息が聞こえてくる
「ユーリ……いい加減起きたらどうだい?アリシアも困っているだろ?」
そう言いながら部屋の中に入ってきたようで、かなり近いところからフレンの声がした
「……ね、ユーリ、フレンもいるからほら、起きよ??」
ユーリの腕の中でもう1度揺さぶってみるが、全く起きる気配はない
「……ん………」
それどころか、抱きついてくる腕の力が強まった
「ちょ…っ!!ユーリ…っ!痛いってーっ!」
バタバタと暴れてみるが全く抜け出せる気配もない
「……アリシア、ちょっと無理矢理起こさせてもらってもいいかい?」
「もう無理矢理でもいいからユーリ起こして……そろそろ、首しまりそう…」
「ん、わかった。ちょっと待ってね」
そう言うが早いか、フレンはわたしに抱きついているユーリの腕を少しずらす
できた隙間から素早く抜け出す
「はぁ……助かった……」
ケホッと軽く咳き込みながらベットから抜ける
「さてと……ユーリ!朝だぞ!!」
そう言いながら、フレンは布団を引き剥がした
その弾みでユーリがベットから落ちる
ドンッ「…っ!?!いってぇっ!!?」
床にぶつかるのと同時に、ユーリが声を上げる
頭をぶつけたのか、痛そうに抱えている
「ユ、ユーリ、大丈夫?!」
慌ててユーリに駆け寄る
「ってぇ………ん?シア……?」
「ユーリ…ここが誰の部屋か、わかっているのか?」
大きくため息をつきながらフレンはユーリを見下ろす
若干寝ぼけていたらしいユーリも、フレンを見てようやく状況を把握したみたいで苦笑いした
「あー……やっちまったか」
そう言いながら気まずそうに頬を掻く
「あのなぁ…みんなも泊まっているんだから、もう少し我慢したらどうなんだい?」
そう言ったフレンは笑ってこそいるけど、声は完全に怒った時のものだ
「いや、さ?シア寝かしたら戻るつもりだったんだぜ?」
「で、結局一緒に寝てしまったんだろ?」
「………オレが悪かった」
ニコニコとドス黒い笑みを浮かべるフレンにユーリが折れた
…うん、大人しく謝っておいた方がいいね
「えっと…フレン、わたしも「アリシアは謝らなくてもいいよ」……えぇー……」
謝ろうとしたわたしの声に被せるようにフレンは言う
「なんでオレはダメで、シアはいいんだよ…」
ムッとしながらユーリは半分睨むようにフレンを見上げる
「どうせアリシアが半分寝ぼけてユーリをベットに引き込んだか、眠ったアリシアに抱きつかれて動けなくなったんだろ?そうなったら僕を呼べって、散々言ってあったのに呼ばなかったユーリが悪い」
「……その通りすぎて何も言い返せねぇわ」
そう言って、ユーリは肩を竦める
…あれ?でもそれ、やっぱり悪いのわたしじゃ…
というか……昨日はユーリから抱きついて来たと思ったけど……
……こんなこと言ったら、余計にフレン怒りそうだし、黙っておこ……
「…ま、本当に寝ていただけみたいだし、このくらいで勘弁してあげるよ。…そろそろ下に降りよう。エステリーゼたちも起きてくる頃だろうしね」
そう言うと、フレンは先に部屋を出て行った
「……着替えて下降りるか」
そう言ってユーリは立ち上がった
わたしも着替えなきゃ
「…ところで、ユーリ?」
クローゼットを開けながら、ユーリを呼ぶ
「ん?なんだ?」
「さっき、フレンが『本当に寝ていただけみたいだし』って、言ってたけど、あれどうゆ「シアはまだ知らなくていいからっ!!」…ふぇ?なんで??」
聞いている途中で遮られ、不思議に思ってユーリの方を向きながら首を傾げる
わたしの視界に映ったユーリは何故か顔を赤くしていた
「ユーリ…??」
「〜〜っ!///い、いいから早く着替えて降りて来いよ!!……くっそ…っ!おい!!フレン!!」
半分怒った時の声でフレンを呼びながら、ユーリは部屋を出て行った
…わたし、なんか聞いちゃいけないこと聞いたの…かな…??
うーん……ま、考えてもわかんないし、着替えよっ!
そうしてまたクローゼットの方を向いて、着替えを始めた
ーーー1時間後ーーー
「ふぁ……おはよ……」
「リター…遅いよー」
そう言いながらリビングの扉の前にいるリタを見る
時刻は7時、後30分したら家を出ないといけない
にも関わらず、リタは未だに寝巻きのままだ
既にリタ以外は着替えも朝食も済んでるのに…
「仕方ないじゃない……あたし、朝弱いんだから……」
そう言いながらリタは空いていた席に座る
「おいおい…だとしても早く食って着替えねぇと遅刻だぜ?」
呆れ気味にそう言いながら、ユーリは朝食をリタの前に置く
顔の赤みは引いてるけど、さっきから何故かわたしと目を合わせてくれない
…そんなに聞くのまずかったのかな…?
「あ、そういえばアリシア、薬飲みました?」
「…しまった、まだ飲んでない」
エステルに言われて、慌てて薬を用意しようと席を立とうとするが、肩を掴まれて椅子に逆戻りする
「そうだと思って、用意してあるよ。今ユーリが水取ってきてるから」
後ろから聞こえたのはフレンの声で、その手にはわたしがいつも飲んでいる薬が握られていた
「フレンもユーリも、用意いいよねぇ…」
「あのなぁ…シアがそんなんだから、オレらが注意して見てやってんの」
フレンから薬を受け取っていると、ユーリが水を持って傍に来る
「ほれ、さっさと飲んだ飲んだ」
「はーい」
短く答えて薬を流し込む
今日も放送あるし、飲んで置かないと後が辛くなる
「じゃ、もう行きましょ」
声のした方を向くと、いつの間に着替えまで終わらせたのか、リタが扉の前に立っていた
「あら、もういいのかしら?」
「早く行かないと、放送席辿り着く前に、アリシアが野次馬に囲まれちゃうかもしれないでしょ?」
少し顔を赤くして、視線を逸らしながらリタは言う
…確かに、昨日ウィチル先輩が余計なこと言うから、その可能性も有り得る……
毎年毎年、朝早くに校門の前で待ち伏せされて、「今年こそは最優秀クラス賞を取るから見てて下さいっ!」とか、「今年こそは長距離走で1位を!」とか…
ものすっごくどうでもいいことを、揃って言ってくるんだ
…いや本当に困るんだ、そうゆうの…
別に興味ないし、大体名前も知らない人にそんなこと言われても迷惑でしかないんだ
「だな。早めに行って、放送席にシア預けねぇと」
「預けるって…そんな小さい子どもみたいな言い方しないでよ」
「あら、間違ってはいないんじゃない?」
ふふっと笑いながらジュディスがユーリに同調する
「間違ってるって!わたしそこまで子どもじゃないっ!」
「…あんたらの場合、子ども預けるってより、貴重品預ける感覚なんじゃない?先生がいる場所の方が安全なのは確かなんだし」
「それはそれで嫌なんだけど…!」
わたしは物じゃないのに…!
リタの言葉にムッと頬を膨らませて3人を見ると、3人とも苦笑いしながら肩を竦めた
「えっと……とりあえず、早く行きましょう?ね、ね?」
「ほら、エステリーゼもこう言ってるし、もう行こう」
そう言ったフレンはわたしとユーリの鞄も持って来ていた
…いつの間に取り行ったのさ…
「だな。……ほーら、行くぞシア」
そう言ってユーリは手招きしてくる
…納得いかないけど、これ以上は遅刻しかねなし仕方ない…
少し不機嫌なまま、玄関へと向かった
ーーーーーーーー
「お、おはよう、ございます…」
少し息を切らせながら放送席があるテントになんとか辿り着いた
ここまで送ってくれたユーリもわたしと同じように少し息を切らせている
「おはようさん。って……どしたのよ?息切らせて」
不思議そうにレイヴン先生が首を傾げる
「あ、もしかして、また校門前で待ち伏せでもされていたんですか?」
先に着いていたらしいウィチル先輩が、苦い顔をして頬を掻きながらわたしの方を向いた
「もしかしなくてもそーっすよ……ったく、先輩!頼むんで毎年毎年余計な事言わねーでくんないっすか?」
先輩を睨みつけながらユーリが言う
中等部に上がって演劇部に入った時から、毎年2日目は校門前で待ち伏せされるんだよなぁ…
原因は毎年ウィチル先輩が放送で宣伝するからなんだけど…
しかも去年はわざわざ中等部の体育祭の日にわたしが劇に出ることだけ宣伝しに来たんだよなぁ……
……わたしからしたら本当に迷惑なのだが……
「でもそのお陰で毎年体育祭も文化祭も盛り上がっている訳ですし…やめろと言われても…ねえ?」
何故か困ったように首を傾げながら先輩は唸った
どうやらわたしを宣伝に使うことをやめるつもりは一切ないらしい
「…宣伝やめるつもりがないのであれば、体育祭終了時に発表の方がまだマシなんですけど……」
はぁ…っとため息をつきながら小さく呟いた
ただ、自分で思っていたよりも周りに聞こえていたらしく、先輩がばっと勢いよく振り向いた
「終了時ならいいんですか?!」
「いや、よくはないですよ?!マシってだけで宣伝に使われるのは嫌ですからね?!」
「あ、でも、そうすると体育祭が盛り上がらなくなってしまうんですよね……」
「そもそもわたしで盛り上げようとしないで欲しいんですけど……!?」
「……あのー……そろそろ時間なんだけんどもー……?」
ウィチル先輩とそんな言い合いをしてると、不意にレイヴン先生がそう声を掛けてきた
慌てて時計を見ると、開始5分前だった
「やっべ!シア!オレ行ってくるわ!」
ユーリはそう言うと、慌ててテントから出ようとする
「ユーリ!頑張ってね〜!」
「おぅ!絶対1位もぎ取って来るわ!」
ニッと笑ってそう言うと、走って行った
「今年もローウェルくんとシーフォくん、2人の接戦になりそうですね」
ニヤニヤと笑いながら、ウィチル先輩がわたしを見てくる
「もう……先輩、いいからさっさと放送かけましょ?」
あからさまに弄りたくて仕方ないという雰囲気の先輩にそう声をかける
「そうですね、やりましょうか」
ニコッと笑うと、先輩がマイクの電源を入れた
『あー、あー……みなさーん、間もなく開始時刻となります!各クラス、出欠確認は済んでいますかー?』
『まだのクラスは急いでくださいね〜!』
わたしたちがそう放送をかけると、グラウンドがざわざわとざわめき出す
「……うむ、全クラス集まったな」
昨日同様に紙を確認しながら、アレクセイ先生が呟いた
『はーい!それでは確認出来たようなので!』
『これより、体育祭2日目……全校生徒によるマラソン大会を開催します!』
そう言えば、大きな雄叫びが聞こえてくる
みんな、気合い十分みたいだね……
『それではまず、準備体操から始めますよ〜!』
ウィチル先輩が言ったのを合図に音楽がかかる
しばらくは電源切って置かないと……
そう思って、マイクの電源を切った
「そう言えば……先輩、今年もあれ、やるですか?」
不意に思い出したことを先輩に問いかける
「あれ?……ああ、ぼくが先頭集団にくっついて行くやつですか?もちろん、やりますよ!」
にっこりと満面の笑みを浮かべながら、先輩が答える
マラソン大会なだけあって、校庭で待ってる保護者の方とかには状況が伝わらないからって、毎年放送部の先生達が先頭集団と最後尾の集団にくっついて、カメラ回してるんだけど……
……毎年、先輩もくっついて行って、電話越しに実況してるんだよね
わたしはそれに相槌打つだけでいいから、2日目は比較的楽なんだけど……
「張り切りすぎて、倒れないでくださいね?先輩
一昨年途中でぶっ倒れてるんですから……」
「……まさかアリシアさんにそれを言われる日が来るなんて……」
呆れ気味に言ったわたしに、若干不服そうにウィチル先輩が返して来た
その言いようはちょっと不服……
「……それとも、今年はぼくの代わりにアリシアさんが行きますか?」
音楽が止まったタイミングで、ウィチル先輩がニヤニヤと笑いながらそう言うと、何故かどよめきが聞こえてきた
え、なんで……
ふと、先輩のマイクを見ると……電源、入ったまま……!?
『ちょ!!先輩!!マイク電源入れっぱしじゃないですか!?』
慌ててマイクの電源を入れて言うと、キョトンとした顔しながら先輩がマイクを確認して青ざめた
『あっ!』
『『あっ!』じゃないですよ!!もう!!電源切っておくのは常識ですって!!』
わたしがそう言ってる後ろで、アレクセイ先生が慌ててテントから飛び出して行ったのが横目に映った
レイヴン先生は……声殺して笑ってるし……
もう……笑い事じゃないよ……
『いやぁ……たまにはぼくの苦労も味わって欲しいといいますか……』
『……まぁ、たまには代わるのもありかな〜とは思いますけど……それわたし病院送り決定じゃないですか……嫌ですからね、絶対!!何がなんでも行きませんからね!!』
『わかってますって、さすがに本気でなんて言ってないですよ〜。……そんなことしたら、ぼくの身が危険に晒されますし……』
乾いた笑いと共に先輩がそう呟くと、少しどよめきが収まった
『もう……先輩のせいで大混乱じゃないですか……』
『……すみません……』
『はいはーい、そゆことで、ウィチル先輩が寝言言ってましたけど、わたしここから動かないんで〜。先輩、混乱させた分、頑張って来てくださいね?』
『うっ……わ、わかってますよ!!みなさん!!スタート地点まで移動開始してくださーい!』
そう言って、先輩は今度はちゃんと電源を切った
それに合わせて、私も電源を切る
すると、声を殺して笑っていたはずの先生が急に声を上げて笑い始めた
「レイヴン先生……いつまで笑ってるんですか……笑い事じゃないですよ……」
後ろを振り返りながらそう声をかける
「はははっ!!いや、すまん……っwwまさかあんな失態すると、思ってなくて……っwwww」
「やってしまいました……これは、後が怖いですね……」
少し憂鬱そうにそう言いながら、ウィチル先輩が項垂れた
「先輩、大人しくユーリとフレンに怒られておいてくださいね」
「全く……あの2人は少し過保護過ぎなんじゃないですか……?」
「そこは……まぁ、否定しないですけど……」
そう話していると、アレクセイ先生が戻って来た
「ウィチル君、さすがにあれはないだろう……2人程、乗り込んで来そうだったぞ?」
困り気味にため息をつきながら、先生は先輩を見ていた
……うん、そうだと思ってた……
「げ……今年の先頭集団には、ついて行きたくないですね……」
心底嫌そうにしながら、ウィチル先輩が立ち上がる
「あはは、諦めてくださいね、先輩」
笑いながらそう言うと、ムッとしながら先輩はテントから出て行った
さてと……みんなが準備してる間に、ウィチル先輩と通話繋げておかないと……
さすがに自分の携帯使うわけにはいかないから、レイヴン先生とアレクセイ先生に借りてる携帯を使って、先輩と電話を繋げてスピーカーにする
「先輩ー、聞こえますか?」
『はいはーい、聞こえてますよ〜』
よし、これでOKっと……
後は、実況聞きながら走りたいって人達に諸々配られるの待つだけだね
……なんか知らないけど、毎年人気らしいんだよね、これ……
「アリシア君……ちょっといいか?」
不意にアレクセイ先生が声をかけてくる
テントの入口の方で、わたしのことを手招きしていた
少し首を傾げながら、先生の元に向かった
「どうしたんですか?」
「……君の所の番犬2人が、さっきので大騒ぎしていてな……うるさいから、2人と電話、繋げておいてくれないか……?」
大きくため息をつきながら先生はそう言って項垂れてしまった
ユーリもフレンも……一体何したのさ……
「……なんか、ごめんなさい……そうしますね」
先生に謝って、自分の携帯を取り出す
……うわぁ、ユーリとフレンからの通知やば……
さすがにこれは引くって……
そう思いながら、イヤフォンを差して3人のグループから電話をかけると、案外すぐに繋がった
『あっ!!アリシア!!』
『お前絶対こっち来んなよ!?』
開口一番、そう言ってくる
「もう……2人とも心配しすぎー。わかってるってばそんなこと。動かないから大丈夫だよ」
そう言いながら、席に戻る
『絶っっっ対だかんな!?』
「しつこいなぁ……わたしだって、もう病院送りは嫌だもん……ちゃーんとここで、2人が戻って来るの、待ってるよ」
ウィチル先輩と繋がってる携帯をミュートにしてそう答えた
……今わたしの声がこっちで拾われると、会話ダダ漏れだからね……
『……なるべく早めに戻って来るつもりだから、大人しくしていてくれよ……?』
「……わたし、そこまで子どもじゃないんだけど……ユーリもフレンも、わたしのこと小学生とでも思ってるの?!」
少しムッとしながらそう言うと、2人とも黙り込んでしまった
図星ですか……そーですか……!
「あ、アリシアさーん!」
2人と会話していると、ヒスカ先生の声が聞こえた
「うげ……先生まで釘刺しに来たんですか……?」
後ろに顔を向けながらそう問いかけると、少し困ったように笑いながら、首を振った
「違うわよ、この原稿をスタート前に読み上げて欲しいの」
そう言って、2枚の紙を手渡されて軽く目を通す
……あー、確かに……これは言わなきゃダメだね
「わかりました」
そう答えると、にっこりと笑って先生は出て行った
『……なんかお知らせか?』
「ん、まぁそんなとこ。……それよりも、2人とも、この状態で走るの?」
『こんくらい、軽いハンデだろ』
『こんなの、ハンデにもならないんじゃないかい?』
楽しそうに笑いながら2人は言う
いやダメでしょ……って言いたいとこだけど……
……今はこうしておかないと、また何するかわかんないし……先生達が黙認してるなら、いっか……
「じゃあ、2人とも、わたしそろそろ放送始めるから、消音にするよ?」
『おう、わーってるよ』
『それじゃあ、また後で』
2人がそう答えたのを合図に、わたしは自分の携帯を消音にした
これで、2人には声が聞こえるはず
それと同時に、ウィチル先輩と繋がっている方のミュートを解除した
『アリシアさん!こちらは準備できてますよ!!』
ちょっと焦り気味なウィチル先輩の声が聞こえてくる
「はーい、それじゃ……始めましょっか」
『ええ、お願いします』
ウィチル先輩の声を合図にマイクの電源を入れる
『あー、あー……ではでは、開始……の、前に、2点お知らせしまーす』
わたしの声が響くと、ざわめきが静まる
『まず体育教師の方々から1点。……この大会の上位250名までは、体育の成績に大きく加点される、との事です』
『ええ!?去年までそんなことなかったじゃないですか!!』
ウィチル先輩の悲鳴じみた声が辺りに響く
それと同時にざわめき始めた
うん、まぁ……それはそうだよね……
『ちなみに、合同で上位250名ではなく、中等部と高等部、それぞれ250位までだそうなので、高等部に勝てる自信がない中等部の生徒さんも頑張りましょー!』
そう言えば、中等部の生徒の方から嬉しそうな声が薄らと聞こえてきた
……さて、こっちが問題だ
『それと、保健室から1点。今年は例年よりも気温が高めなので、吸水ポイントを多めに設置してある為、こまめな吸水を忘れずに〜』
『確かに今日は例年よりも暑いですよね……みなさーん、熱中症にだけは気をつけましょう!』
『えー……それに伴い、例年なら全員がゴールするまで、わたしがゴール地点にいますが……今年は先頭集団がゴールした20分後には、テントに連れ戻されるそうなんで、ご了承くださいね〜』
そう言った瞬間、空気が凍りついた気がした
『えぇーー!!それはないでしょう!!』
『そんなことわたしに言われても……文句は保健室までお願いしまーす!後、残りはウィチル先輩がお出迎え予定らしいんで、先輩、頼みましたよ!』
『それも聞いていません!!ぼくよりアリシアさんの方がそこはいいでしょう?!』
『先輩も十分人気なんですから、笑顔で迎えてあげてくださいね!……まぁ、どーしても出迎えがわたしがいいって言う人は……頑張って先頭集団に食らいついて来てくださいね?』
クスッと笑いながら言うと、雄叫びみたいなのが聞こえてくる
……男子生徒はやる気出たみたいだね……
『全く……仕方ないですね……コホンッ、アリシアさん、そろそろ合図をお願いしても?』
咳払いしながら先輩が言うと、また辺りが静かになる
……じゃ、やりますか
『……泣いても笑っても、今日が体育祭最終日!!個人での1位と、クラス総合1位目指して、最後まで奮闘しましょう!!ヴェスペリア学園、マラソン大会……Lady……GOー!!!』
ピストルの音が辺りに響き渡り、同時に生徒達が一斉に走り出した
ーーーーーー
開始から30分……
当然と言えば当然なんだけど、先頭はユーリとフレンがずっとキープしている
これはまた、1位は2人の取り合いかなぁ……
『いやぁ、毎年ながら……やっぱりこの2人は早いですねぇ〜!またこの2人の接戦となるのか……或いは、後ろについているザギくんが追い上げて来るのか……っ!?』
ウィチル先輩の言葉に画面をよく見ると、確かに少し後ろにザギ先輩がいた
……ユーリとフレンについて行くなんて、意外と体力あったんだ、あの人……
『くっ……これが実況じゃなければ……』
『先輩〜、余計なこと考えてないで、ちゃーんと仕事してくださいね?……開始から30分経ちまして、現在、やや赤組の方が上位にいる生徒が多いみたいですよ〜!!赤組さん、この調子で頑張って行きましょう!!』
『なっ!?し、白組さん!!まだまだ巻き返せます!!気合い入れて行きましょう!!』
わたしたちのそんな声と共に、グラウンドで見守ってる保護者からも歓声が上がる
本当にすごい盛り上がり様だなぁ
……さて、今年はどっちが最初にゴールするかな……?
あれから更に1時間半経過した
ユーリとフレンは相変わらず先頭にいて、後をついてきていたはずのザギ先輩はだいぶ前に先頭集団から離れていた
……やっぱり2人とも、体力ありすぎだよ……
『さぁさぁ!!そろそろゴールの学園が近づいて来ました!!未だにローウェルくんとシーフォくんは横並び……先にゴールするのはどちらだっ!?』
先輩のその声に、マイクの電源を切って携帯を手に持った
「先生、そろそろ外出ますね」
そう言いながら、イヤフォンを外してヘッドマイクを代わりに付ける
これないと、グラウンドの方に声流れないからね
タオルや飲み物など、諸々持ってテントの入口の方を向いた
「はいよ〜、20分後にはシャスティル先生辺りが連れ戻しに行くと思うから、それまではゴール付近に居てあげてね〜」
どこか楽しそうに笑いながら、レイヴン先生はそう言って手を振ってくる
いつもなら、連れ戻されるなんてなかったんだけどなぁ……
そんな事を考えながら、テントの外に出るとさっきまでは感じなかった暑さがほんのりと感じられた
……うわ、思ってたよりも日差し強いし……
若干苦笑いしながら、ゴールの側まで歩いて行った
少し遠くに、ユーリとフレン、それと先生たちと先輩の姿が見えた
『おっと!!ようやく学園が見えました!!』
ウィチル先輩の声がグラウンドに響き渡る
保護者の方々が、ゴールである門の方を見てくるのが視界の端に映った
……めちゃくちゃ目立ってるな、わたし……
いやまぁ、毎年のことだけどさ……
『アリシアさーん!見えてますー?!』
『そんなに声張らなくても、ちゃんと見えてますよー!……ユーリ!!フレン!!2人ともー、頑張って〜!』
マイクから流れた声が聞こえたのか、繋がっている電話から声が聞こえたのか、どっちなのかはわからないけど、少し2人のスピードが上がったように見えた
……あれだけ走って、まだそんな余力あるんだ……
底なしに近い体力の多さに、ほんの少し呆れてしまったけど
……でも、やっぱり最初にたどり着くのは、この2人じゃないと、わたしも落ち着かない
フレンや……ユーリ以外の誰かの1位は、迎えてあげたくない
ゴールが近くなると、先輩と先生は手前の方で止まっていた
だいぶ近くまで来た2人はまだ横並びだ
……フレン、ごめんね?
心の中で謝りながら、ヘッドマイクのマイクの電源を落として、携帯をまたミュートにした
「……ユーリっ!!」
ニコッと笑いながら名前を呼ぶと、ちょっと嬉しそうに笑いながら、ユーリがスピードを上げた
……若干、フレンが呆れたような顔してたのは、見なかったことにしよ
ユーリがゴールテープを切る寸前で、またマイクの電源を入れて、ミュートを解除した
『ゴーーーーール!!!今年もやっぱり、1位はローウェルくんだぁあぁぁぁ!!!
くっ……4年連続ですか……っ!!2位もまたシーフォくんじゃないですか…っ!!白組さーーん!!!せめて!!3位はせめて頑張ってくださぁぁい!』
わたしの隣を抜けて行って、地面に座り込んでるユーリとフレンに歩み寄りながら、ウィチル先輩のそんな悲鳴のような声を聞いていた
ちょっと苦笑いしながら、自分の携帯の通話を切った
『そんなにプレッシャーかけたら可哀想ですよ、先輩?
赤組さーーん!3位も狙って行きましょーー!!』
そう言いながら2人の傍にしゃがんで、またマイクの電源を切る
ミュート……も、しとこっかな……
先輩もヘッドマイク付けたみたいだし
「お疲れ様、2人とも」
2人にタオルを手渡しながらニコッと笑った
「は……っ、全く………、アリシア………最後のは、ずるいん……じゃ、ないかい……っ!」
タオルで汗を拭きながら、フレンが不機嫌そうにわたしを見てくる
「あはは、ごめんごめん、つい……ね?」
「はは……っ、当然、だろ……っ?」
フレンと同じくタオルで汗を拭いているユーリは、嬉しそうにニヤッと笑っていた
『おーっと!!3人目が見えてきましたよ!!あれは……高等部2年……ジュディスさん!?』
驚いている先輩の声に振り返ると、ジュディスの姿が目に映った
……ジュディスって、意外と速いんだ……
あ、でもこれって……
『まさかまさかの赤組3人目!!
これは今年もダメそうですね、先輩っ?』
マイクの電源を入れてそう言ってニヤッと笑う
『い、いやいや!!まだ……っ!!まだ巻き返せますよー!!!白組さーーーん!!!!誰か早くたどり着いてくださいぃぃぃ!!!』
『だから、そんなにプレッシャーかけたら可哀想ですってばぁ……ジュディスー!頑張れ〜!!』
『あーっと!!ここでザギくんの姿が見えた!!見えたけど……っ!!ザギくーん!!頑張ってくださいぃぃぃ!!!』
先輩がそう叫んだすぐ後に、ザギ先輩が横を駆け抜けたのが見えた
けど、この距離なら……
『ゴォーール!!3位は高等部2年、ジュディス!!続いて4位、高等部3年、ザギ先輩!さてさて、次は赤か白か……どっちが先に着きますかね〜?』
『うぅーー……っ!!点差がどんどん開いていく……けど……まだまだ!!20位くらいまでなら巻き返せます……っ!!白組さん!!赤組の連勝記録、ここで打ち止めにしましょう!!』
『まだまだ総合優勝は譲れませんよ、先輩?赤組さーん!!気合い入れて頑張りましょう!!』
そう言いながら、ジュディスとザギ先輩にもタオルを渡した
『もういい加減譲ってくれてもいいじゃないですかっ!?』
『うーん……それわたしに言われても……わたし、毎年放送してるだけですし?』
『うぐっ……そう言われると何も言い返せない……っ!!!
やっぱりアリシアさんを文化祭の劇の宣伝に使うのが間違いなんでしょうか…っ?!』
『そう思ってるなら、来年はやめてくださいよ〜?
じゃないと、来年も総合優勝かっさらわれますよ〜??』
『ずるい!!それを持ち出すのは卑怯ですよ!!』
『あ、ほら先輩、そんなこと言ってるうちに次来てますよ〜?……しかも、また赤組だ!!』
『えっ!?あ、嘘っ!?しかも3人同時っ!?!!ちょっと白組さん!!気合い入れてくださいってーー!!』
『先輩が変なところに気取られてるからですよ〜?あ、後わたし、そろそろ連れ戻されそうなんで、いい加減こっち来てくださいよ〜』
『あ、ちょっ!!もうそんな時間っ!?みなさーーーん!!急いでくださいよーー!?!!』
先輩がそう言ったのと同時にマイクの電源を落とした
次に到着していたのはクラスメイトたちだった
ぐったりとしている彼らにもタオルを手渡してあげる
「ふふ……本当、楽しそうね、アリシア?」
ジュディスの声に振り返ると、3人が微笑ましそうに笑いながら見てきていた
「まぁ……そこは否定しないよ。実際楽しいしね」
「でも、無理すんなよ?」
「あははっ、わかってるわかってる」
ちょっと心配そうなユーリに笑いながら答えてると、駆け寄ってくる足音が聞こえた
音の聞こえる方を見ると、不機嫌そうな顔をした先輩が駆け足で寄ってきていた
「アリシアさん!!さっきのはずるいですよ!!」
「ずるくはないじゃないですか……わたしをダシに文化祭盛り上げようとした、先輩の自業自得なのも事実なんですから」
膨れている先輩にそう言うと、また言葉を詰まらせていた
「あ、いたいた!」
あんまり聞きたくなかった声に、少し方が跳ねた
恐る恐る声のした方を見ると、ヒスカ先生とシャスティル先生の姿が見える
「げ……何も2人一緒に来なくてもいいじゃないですか……先生……」
「ちょっと!そんなに嫌そうな顔しないでちょうだいよ!」
「はい、そろそろ戻りますよ?また無理されでもしたら困りますし」
……本当、みんな揃って心配症なんだから……
まぁ……この前のが原因だろうし、文句は言えない……
「はいはーい、言われなくとも戻りまーす。……先輩、後お願いしますね?」
「もう……わかりましたよ、やりますよ……!」
「じゃ、3人ともまた後でね」
3人にそう声をかけて、大人しくテントに戻った
その後は、テントからウィチル先輩に相槌をうちながら、全員が戻って来るのを待った
ーーーーーー
あれから約2時間程経って、ようやく全員が帰って来た
熱中症の子が出なかったのはある意味奇跡かも……
『さてさて〜……ただ今結果が出ました!!』
ウィチル先輩の声がグラウンドに響いた
声は明るいけど、ものすごく不機嫌そうな顔をしている
……まあ、そうだよね
『今年の総合優勝は〜……………赤組です!!』
わたしの声に、赤組側から歓声が聞こえてくる
うん、こうなると思ってたよ……
『やった!!これで4年連続だ!!』
『くぅ……っ!!今年こそはと思ったのに……っ!!』
悔しそうな顔でウィチル先輩がわたしを見てくるけど、わたしに何か言おうとするのはお門違いだ
……だって、わたし何もしてないし……
『えー、続いて最優秀クラス賞を発表します!』
そう言うと、シン……と静まり返った
……正直、高等部は言わなくてもいいと思うんだけど、ね
『まずは中等部からの発表です。中等部、最優秀クラス賞は………3年……A組!!!』
ウィチル先輩がそう言うと、中等部の方から雄叫びが聞こえてきた
喜んでる喜んでる……って、え、先輩がそっち言うの…!?
若干困り気味に先輩を見ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてわたしを見てきていた
……やられた……先に打ち合わせしておけばよかった……
『……続いて高等部の発表です。高等部、最優秀クラス賞は…………1年………C組!!』
わたしの声に、クラスメイトたちが喜んでる声が聞こえた
うー……わたしもそっち側がよかったのにー……
『……まぁ、なんとなーく予想はしてましたけど……毎年毎年、アリシアさんのクラスがかっさらい過ぎじゃないですか?』
『だからそれ、わたしに言わないでくださいよー……兎にも角にも、みなさん、2日間、お疲れ様でした』
『例年と違い、合同という事であまり時間がない中、速やかな集合と準備の協力を感謝します』
『特別券等の配布は、後日となるそうなんで、気長に待っててくださいね〜
……それ以外の諸々の説明は、この後レイヴン先生とアレクセイ先生がしてくださるんで、最後までしっかり話を聞いていてくださいね!』
『それでは、ぼくらはこれで。2日間、本当にお疲れ様でした!……以上っ!高等部2年、ウィチルと』
『高等部1年、アリシアでした』
『『次は文化祭でお会いしましょうね!』』
先輩と息ピッタリにそう言って、わたしたちはマイクの電源を切った
それと同時に、レイヴン先生とアレクセイ先生がテントの外に出て、何か指示を出していたけど……
正直聞いてる余力がないくらいには疲れた……
ウィチル先輩も同じだったみたいで、2人揃って机に突っ伏した
「つかれたぁぁ……」
「まぁ……ぼくらよりも、みなさんの方が大変だったでしょうから、あまり言ってはいけませんね……」
そう言い合って、2人揃って苦笑いした
「シアー、いるか?」
テントの外からユーリの声が聞こえてくる
「んー……いるー……」
そう答えると、中に入ってくる気配がした
「って……2人揃ってだいぶお疲れみたいだな」
ユーリの声に体を起こして振り向くと、少し困ったように微笑んでるユーリの姿が見えた
「ぼくはいいですから、アリシアさんはもう帰した方がいいですよ。そろそろこっちが限界でしょうから」
ウィチル先輩も体を起こしてユーリの方を向くと、自分の喉を軽く叩いていた
「言われなくとも、そのつもりっすよ。先生からも、連れて帰れって言われたんでね」
そう言って、ユーリがわたしに近づいて来る
「ほれ、帰ろうぜ?」
わたしに手を差し出しながら、ニコッとユーリが微笑んでくる
「……ん、帰ろっか」
それにわたしも笑って返して、ユーリの手を取って立ち上がった
「それじゃあアリシアさん、また後日」
「次は部室、ですね?」
「ええ、待っていますから」
ウィチル先輩にニコッと笑って返して、ユーリと2人、帰路についた
ー翌日ー
「アリシアー……ユーリっ!」
「…ん……ぅ…?」
朝、フレンの声で目が覚める
眠い目を擦りながら、起き上がると扉の前に立って、呆れた顔をしたフレンの姿が目に入る
「……ぁれ?ふれん……?」
ふぁ…と欠伸をしながらスマホの画面を見ると、時間はまだ朝の6時前だ
「全く……ユーリの部屋に本人がいないから来てみれば……みんながいる間は我慢しろって言ったのに」
そう言われて隣を見るとスヤスヤとユーリが寝ていた
……言われてみれば昨日、ユーリと一緒に寝たんだっけ……
「ユーリー、朝だよー」
そう言って揺すってみるが、起きる気配はない
どうしたものかと悩んでいると、不意に腕を掴まれる
「ふぇ?……って、わっ?!」
そしてそのまま、ユーリの腕の中に逆戻りしてしまった
いや、あの……フレンが起こしに来てるんだけど…!?
「ゆ、ユーリ…っ!」
そう名前を呼びながら顔を上げると、目の前にユーリの顔が映る
あまりに近い距離に思わず言葉に詰まる
考えてみると、こんなに近くでユーリの顔を見たの、あんまりないかも……
そんなことを考えていると、フレンの大きなため息が聞こえてくる
「ユーリ……いい加減起きたらどうだい?アリシアも困っているだろ?」
そう言いながら部屋の中に入ってきたようで、かなり近いところからフレンの声がした
「……ね、ユーリ、フレンもいるからほら、起きよ??」
ユーリの腕の中でもう1度揺さぶってみるが、全く起きる気配はない
「……ん………」
それどころか、抱きついてくる腕の力が強まった
「ちょ…っ!!ユーリ…っ!痛いってーっ!」
バタバタと暴れてみるが全く抜け出せる気配もない
「……アリシア、ちょっと無理矢理起こさせてもらってもいいかい?」
「もう無理矢理でもいいからユーリ起こして……そろそろ、首しまりそう…」
「ん、わかった。ちょっと待ってね」
そう言うが早いか、フレンはわたしに抱きついているユーリの腕を少しずらす
できた隙間から素早く抜け出す
「はぁ……助かった……」
ケホッと軽く咳き込みながらベットから抜ける
「さてと……ユーリ!朝だぞ!!」
そう言いながら、フレンは布団を引き剥がした
その弾みでユーリがベットから落ちる
ドンッ「…っ!?!いってぇっ!!?」
床にぶつかるのと同時に、ユーリが声を上げる
頭をぶつけたのか、痛そうに抱えている
「ユ、ユーリ、大丈夫?!」
慌ててユーリに駆け寄る
「ってぇ………ん?シア……?」
「ユーリ…ここが誰の部屋か、わかっているのか?」
大きくため息をつきながらフレンはユーリを見下ろす
若干寝ぼけていたらしいユーリも、フレンを見てようやく状況を把握したみたいで苦笑いした
「あー……やっちまったか」
そう言いながら気まずそうに頬を掻く
「あのなぁ…みんなも泊まっているんだから、もう少し我慢したらどうなんだい?」
そう言ったフレンは笑ってこそいるけど、声は完全に怒った時のものだ
「いや、さ?シア寝かしたら戻るつもりだったんだぜ?」
「で、結局一緒に寝てしまったんだろ?」
「………オレが悪かった」
ニコニコとドス黒い笑みを浮かべるフレンにユーリが折れた
…うん、大人しく謝っておいた方がいいね
「えっと…フレン、わたしも「アリシアは謝らなくてもいいよ」……えぇー……」
謝ろうとしたわたしの声に被せるようにフレンは言う
「なんでオレはダメで、シアはいいんだよ…」
ムッとしながらユーリは半分睨むようにフレンを見上げる
「どうせアリシアが半分寝ぼけてユーリをベットに引き込んだか、眠ったアリシアに抱きつかれて動けなくなったんだろ?そうなったら僕を呼べって、散々言ってあったのに呼ばなかったユーリが悪い」
「……その通りすぎて何も言い返せねぇわ」
そう言って、ユーリは肩を竦める
…あれ?でもそれ、やっぱり悪いのわたしじゃ…
というか……昨日はユーリから抱きついて来たと思ったけど……
……こんなこと言ったら、余計にフレン怒りそうだし、黙っておこ……
「…ま、本当に寝ていただけみたいだし、このくらいで勘弁してあげるよ。…そろそろ下に降りよう。エステリーゼたちも起きてくる頃だろうしね」
そう言うと、フレンは先に部屋を出て行った
「……着替えて下降りるか」
そう言ってユーリは立ち上がった
わたしも着替えなきゃ
「…ところで、ユーリ?」
クローゼットを開けながら、ユーリを呼ぶ
「ん?なんだ?」
「さっき、フレンが『本当に寝ていただけみたいだし』って、言ってたけど、あれどうゆ「シアはまだ知らなくていいからっ!!」…ふぇ?なんで??」
聞いている途中で遮られ、不思議に思ってユーリの方を向きながら首を傾げる
わたしの視界に映ったユーリは何故か顔を赤くしていた
「ユーリ…??」
「〜〜っ!///い、いいから早く着替えて降りて来いよ!!……くっそ…っ!おい!!フレン!!」
半分怒った時の声でフレンを呼びながら、ユーリは部屋を出て行った
…わたし、なんか聞いちゃいけないこと聞いたの…かな…??
うーん……ま、考えてもわかんないし、着替えよっ!
そうしてまたクローゼットの方を向いて、着替えを始めた
ーーー1時間後ーーー
「ふぁ……おはよ……」
「リター…遅いよー」
そう言いながらリビングの扉の前にいるリタを見る
時刻は7時、後30分したら家を出ないといけない
にも関わらず、リタは未だに寝巻きのままだ
既にリタ以外は着替えも朝食も済んでるのに…
「仕方ないじゃない……あたし、朝弱いんだから……」
そう言いながらリタは空いていた席に座る
「おいおい…だとしても早く食って着替えねぇと遅刻だぜ?」
呆れ気味にそう言いながら、ユーリは朝食をリタの前に置く
顔の赤みは引いてるけど、さっきから何故かわたしと目を合わせてくれない
…そんなに聞くのまずかったのかな…?
「あ、そういえばアリシア、薬飲みました?」
「…しまった、まだ飲んでない」
エステルに言われて、慌てて薬を用意しようと席を立とうとするが、肩を掴まれて椅子に逆戻りする
「そうだと思って、用意してあるよ。今ユーリが水取ってきてるから」
後ろから聞こえたのはフレンの声で、その手にはわたしがいつも飲んでいる薬が握られていた
「フレンもユーリも、用意いいよねぇ…」
「あのなぁ…シアがそんなんだから、オレらが注意して見てやってんの」
フレンから薬を受け取っていると、ユーリが水を持って傍に来る
「ほれ、さっさと飲んだ飲んだ」
「はーい」
短く答えて薬を流し込む
今日も放送あるし、飲んで置かないと後が辛くなる
「じゃ、もう行きましょ」
声のした方を向くと、いつの間に着替えまで終わらせたのか、リタが扉の前に立っていた
「あら、もういいのかしら?」
「早く行かないと、放送席辿り着く前に、アリシアが野次馬に囲まれちゃうかもしれないでしょ?」
少し顔を赤くして、視線を逸らしながらリタは言う
…確かに、昨日ウィチル先輩が余計なこと言うから、その可能性も有り得る……
毎年毎年、朝早くに校門の前で待ち伏せされて、「今年こそは最優秀クラス賞を取るから見てて下さいっ!」とか、「今年こそは長距離走で1位を!」とか…
ものすっごくどうでもいいことを、揃って言ってくるんだ
…いや本当に困るんだ、そうゆうの…
別に興味ないし、大体名前も知らない人にそんなこと言われても迷惑でしかないんだ
「だな。早めに行って、放送席にシア預けねぇと」
「預けるって…そんな小さい子どもみたいな言い方しないでよ」
「あら、間違ってはいないんじゃない?」
ふふっと笑いながらジュディスがユーリに同調する
「間違ってるって!わたしそこまで子どもじゃないっ!」
「…あんたらの場合、子ども預けるってより、貴重品預ける感覚なんじゃない?先生がいる場所の方が安全なのは確かなんだし」
「それはそれで嫌なんだけど…!」
わたしは物じゃないのに…!
リタの言葉にムッと頬を膨らませて3人を見ると、3人とも苦笑いしながら肩を竦めた
「えっと……とりあえず、早く行きましょう?ね、ね?」
「ほら、エステリーゼもこう言ってるし、もう行こう」
そう言ったフレンはわたしとユーリの鞄も持って来ていた
…いつの間に取り行ったのさ…
「だな。……ほーら、行くぞシア」
そう言ってユーリは手招きしてくる
…納得いかないけど、これ以上は遅刻しかねなし仕方ない…
少し不機嫌なまま、玄関へと向かった
ーーーーーーーー
「お、おはよう、ございます…」
少し息を切らせながら放送席があるテントになんとか辿り着いた
ここまで送ってくれたユーリもわたしと同じように少し息を切らせている
「おはようさん。って……どしたのよ?息切らせて」
不思議そうにレイヴン先生が首を傾げる
「あ、もしかして、また校門前で待ち伏せでもされていたんですか?」
先に着いていたらしいウィチル先輩が、苦い顔をして頬を掻きながらわたしの方を向いた
「もしかしなくてもそーっすよ……ったく、先輩!頼むんで毎年毎年余計な事言わねーでくんないっすか?」
先輩を睨みつけながらユーリが言う
中等部に上がって演劇部に入った時から、毎年2日目は校門前で待ち伏せされるんだよなぁ…
原因は毎年ウィチル先輩が放送で宣伝するからなんだけど…
しかも去年はわざわざ中等部の体育祭の日にわたしが劇に出ることだけ宣伝しに来たんだよなぁ……
……わたしからしたら本当に迷惑なのだが……
「でもそのお陰で毎年体育祭も文化祭も盛り上がっている訳ですし…やめろと言われても…ねえ?」
何故か困ったように首を傾げながら先輩は唸った
どうやらわたしを宣伝に使うことをやめるつもりは一切ないらしい
「…宣伝やめるつもりがないのであれば、体育祭終了時に発表の方がまだマシなんですけど……」
はぁ…っとため息をつきながら小さく呟いた
ただ、自分で思っていたよりも周りに聞こえていたらしく、先輩がばっと勢いよく振り向いた
「終了時ならいいんですか?!」
「いや、よくはないですよ?!マシってだけで宣伝に使われるのは嫌ですからね?!」
「あ、でも、そうすると体育祭が盛り上がらなくなってしまうんですよね……」
「そもそもわたしで盛り上げようとしないで欲しいんですけど……!?」
「……あのー……そろそろ時間なんだけんどもー……?」
ウィチル先輩とそんな言い合いをしてると、不意にレイヴン先生がそう声を掛けてきた
慌てて時計を見ると、開始5分前だった
「やっべ!シア!オレ行ってくるわ!」
ユーリはそう言うと、慌ててテントから出ようとする
「ユーリ!頑張ってね〜!」
「おぅ!絶対1位もぎ取って来るわ!」
ニッと笑ってそう言うと、走って行った
「今年もローウェルくんとシーフォくん、2人の接戦になりそうですね」
ニヤニヤと笑いながら、ウィチル先輩がわたしを見てくる
「もう……先輩、いいからさっさと放送かけましょ?」
あからさまに弄りたくて仕方ないという雰囲気の先輩にそう声をかける
「そうですね、やりましょうか」
ニコッと笑うと、先輩がマイクの電源を入れた
『あー、あー……みなさーん、間もなく開始時刻となります!各クラス、出欠確認は済んでいますかー?』
『まだのクラスは急いでくださいね〜!』
わたしたちがそう放送をかけると、グラウンドがざわざわとざわめき出す
「……うむ、全クラス集まったな」
昨日同様に紙を確認しながら、アレクセイ先生が呟いた
『はーい!それでは確認出来たようなので!』
『これより、体育祭2日目……全校生徒によるマラソン大会を開催します!』
そう言えば、大きな雄叫びが聞こえてくる
みんな、気合い十分みたいだね……
『それではまず、準備体操から始めますよ〜!』
ウィチル先輩が言ったのを合図に音楽がかかる
しばらくは電源切って置かないと……
そう思って、マイクの電源を切った
「そう言えば……先輩、今年もあれ、やるですか?」
不意に思い出したことを先輩に問いかける
「あれ?……ああ、ぼくが先頭集団にくっついて行くやつですか?もちろん、やりますよ!」
にっこりと満面の笑みを浮かべながら、先輩が答える
マラソン大会なだけあって、校庭で待ってる保護者の方とかには状況が伝わらないからって、毎年放送部の先生達が先頭集団と最後尾の集団にくっついて、カメラ回してるんだけど……
……毎年、先輩もくっついて行って、電話越しに実況してるんだよね
わたしはそれに相槌打つだけでいいから、2日目は比較的楽なんだけど……
「張り切りすぎて、倒れないでくださいね?先輩
一昨年途中でぶっ倒れてるんですから……」
「……まさかアリシアさんにそれを言われる日が来るなんて……」
呆れ気味に言ったわたしに、若干不服そうにウィチル先輩が返して来た
その言いようはちょっと不服……
「……それとも、今年はぼくの代わりにアリシアさんが行きますか?」
音楽が止まったタイミングで、ウィチル先輩がニヤニヤと笑いながらそう言うと、何故かどよめきが聞こえてきた
え、なんで……
ふと、先輩のマイクを見ると……電源、入ったまま……!?
『ちょ!!先輩!!マイク電源入れっぱしじゃないですか!?』
慌ててマイクの電源を入れて言うと、キョトンとした顔しながら先輩がマイクを確認して青ざめた
『あっ!』
『『あっ!』じゃないですよ!!もう!!電源切っておくのは常識ですって!!』
わたしがそう言ってる後ろで、アレクセイ先生が慌ててテントから飛び出して行ったのが横目に映った
レイヴン先生は……声殺して笑ってるし……
もう……笑い事じゃないよ……
『いやぁ……たまにはぼくの苦労も味わって欲しいといいますか……』
『……まぁ、たまには代わるのもありかな〜とは思いますけど……それわたし病院送り決定じゃないですか……嫌ですからね、絶対!!何がなんでも行きませんからね!!』
『わかってますって、さすがに本気でなんて言ってないですよ〜。……そんなことしたら、ぼくの身が危険に晒されますし……』
乾いた笑いと共に先輩がそう呟くと、少しどよめきが収まった
『もう……先輩のせいで大混乱じゃないですか……』
『……すみません……』
『はいはーい、そゆことで、ウィチル先輩が寝言言ってましたけど、わたしここから動かないんで〜。先輩、混乱させた分、頑張って来てくださいね?』
『うっ……わ、わかってますよ!!みなさん!!スタート地点まで移動開始してくださーい!』
そう言って、先輩は今度はちゃんと電源を切った
それに合わせて、私も電源を切る
すると、声を殺して笑っていたはずの先生が急に声を上げて笑い始めた
「レイヴン先生……いつまで笑ってるんですか……笑い事じゃないですよ……」
後ろを振り返りながらそう声をかける
「はははっ!!いや、すまん……っwwまさかあんな失態すると、思ってなくて……っwwww」
「やってしまいました……これは、後が怖いですね……」
少し憂鬱そうにそう言いながら、ウィチル先輩が項垂れた
「先輩、大人しくユーリとフレンに怒られておいてくださいね」
「全く……あの2人は少し過保護過ぎなんじゃないですか……?」
「そこは……まぁ、否定しないですけど……」
そう話していると、アレクセイ先生が戻って来た
「ウィチル君、さすがにあれはないだろう……2人程、乗り込んで来そうだったぞ?」
困り気味にため息をつきながら、先生は先輩を見ていた
……うん、そうだと思ってた……
「げ……今年の先頭集団には、ついて行きたくないですね……」
心底嫌そうにしながら、ウィチル先輩が立ち上がる
「あはは、諦めてくださいね、先輩」
笑いながらそう言うと、ムッとしながら先輩はテントから出て行った
さてと……みんなが準備してる間に、ウィチル先輩と通話繋げておかないと……
さすがに自分の携帯使うわけにはいかないから、レイヴン先生とアレクセイ先生に借りてる携帯を使って、先輩と電話を繋げてスピーカーにする
「先輩ー、聞こえますか?」
『はいはーい、聞こえてますよ〜』
よし、これでOKっと……
後は、実況聞きながら走りたいって人達に諸々配られるの待つだけだね
……なんか知らないけど、毎年人気らしいんだよね、これ……
「アリシア君……ちょっといいか?」
不意にアレクセイ先生が声をかけてくる
テントの入口の方で、わたしのことを手招きしていた
少し首を傾げながら、先生の元に向かった
「どうしたんですか?」
「……君の所の番犬2人が、さっきので大騒ぎしていてな……うるさいから、2人と電話、繋げておいてくれないか……?」
大きくため息をつきながら先生はそう言って項垂れてしまった
ユーリもフレンも……一体何したのさ……
「……なんか、ごめんなさい……そうしますね」
先生に謝って、自分の携帯を取り出す
……うわぁ、ユーリとフレンからの通知やば……
さすがにこれは引くって……
そう思いながら、イヤフォンを差して3人のグループから電話をかけると、案外すぐに繋がった
『あっ!!アリシア!!』
『お前絶対こっち来んなよ!?』
開口一番、そう言ってくる
「もう……2人とも心配しすぎー。わかってるってばそんなこと。動かないから大丈夫だよ」
そう言いながら、席に戻る
『絶っっっ対だかんな!?』
「しつこいなぁ……わたしだって、もう病院送りは嫌だもん……ちゃーんとここで、2人が戻って来るの、待ってるよ」
ウィチル先輩と繋がってる携帯をミュートにしてそう答えた
……今わたしの声がこっちで拾われると、会話ダダ漏れだからね……
『……なるべく早めに戻って来るつもりだから、大人しくしていてくれよ……?』
「……わたし、そこまで子どもじゃないんだけど……ユーリもフレンも、わたしのこと小学生とでも思ってるの?!」
少しムッとしながらそう言うと、2人とも黙り込んでしまった
図星ですか……そーですか……!
「あ、アリシアさーん!」
2人と会話していると、ヒスカ先生の声が聞こえた
「うげ……先生まで釘刺しに来たんですか……?」
後ろに顔を向けながらそう問いかけると、少し困ったように笑いながら、首を振った
「違うわよ、この原稿をスタート前に読み上げて欲しいの」
そう言って、2枚の紙を手渡されて軽く目を通す
……あー、確かに……これは言わなきゃダメだね
「わかりました」
そう答えると、にっこりと笑って先生は出て行った
『……なんかお知らせか?』
「ん、まぁそんなとこ。……それよりも、2人とも、この状態で走るの?」
『こんくらい、軽いハンデだろ』
『こんなの、ハンデにもならないんじゃないかい?』
楽しそうに笑いながら2人は言う
いやダメでしょ……って言いたいとこだけど……
……今はこうしておかないと、また何するかわかんないし……先生達が黙認してるなら、いっか……
「じゃあ、2人とも、わたしそろそろ放送始めるから、消音にするよ?」
『おう、わーってるよ』
『それじゃあ、また後で』
2人がそう答えたのを合図に、わたしは自分の携帯を消音にした
これで、2人には声が聞こえるはず
それと同時に、ウィチル先輩と繋がっている方のミュートを解除した
『アリシアさん!こちらは準備できてますよ!!』
ちょっと焦り気味なウィチル先輩の声が聞こえてくる
「はーい、それじゃ……始めましょっか」
『ええ、お願いします』
ウィチル先輩の声を合図にマイクの電源を入れる
『あー、あー……ではでは、開始……の、前に、2点お知らせしまーす』
わたしの声が響くと、ざわめきが静まる
『まず体育教師の方々から1点。……この大会の上位250名までは、体育の成績に大きく加点される、との事です』
『ええ!?去年までそんなことなかったじゃないですか!!』
ウィチル先輩の悲鳴じみた声が辺りに響く
それと同時にざわめき始めた
うん、まぁ……それはそうだよね……
『ちなみに、合同で上位250名ではなく、中等部と高等部、それぞれ250位までだそうなので、高等部に勝てる自信がない中等部の生徒さんも頑張りましょー!』
そう言えば、中等部の生徒の方から嬉しそうな声が薄らと聞こえてきた
……さて、こっちが問題だ
『それと、保健室から1点。今年は例年よりも気温が高めなので、吸水ポイントを多めに設置してある為、こまめな吸水を忘れずに〜』
『確かに今日は例年よりも暑いですよね……みなさーん、熱中症にだけは気をつけましょう!』
『えー……それに伴い、例年なら全員がゴールするまで、わたしがゴール地点にいますが……今年は先頭集団がゴールした20分後には、テントに連れ戻されるそうなんで、ご了承くださいね〜』
そう言った瞬間、空気が凍りついた気がした
『えぇーー!!それはないでしょう!!』
『そんなことわたしに言われても……文句は保健室までお願いしまーす!後、残りはウィチル先輩がお出迎え予定らしいんで、先輩、頼みましたよ!』
『それも聞いていません!!ぼくよりアリシアさんの方がそこはいいでしょう?!』
『先輩も十分人気なんですから、笑顔で迎えてあげてくださいね!……まぁ、どーしても出迎えがわたしがいいって言う人は……頑張って先頭集団に食らいついて来てくださいね?』
クスッと笑いながら言うと、雄叫びみたいなのが聞こえてくる
……男子生徒はやる気出たみたいだね……
『全く……仕方ないですね……コホンッ、アリシアさん、そろそろ合図をお願いしても?』
咳払いしながら先輩が言うと、また辺りが静かになる
……じゃ、やりますか
『……泣いても笑っても、今日が体育祭最終日!!個人での1位と、クラス総合1位目指して、最後まで奮闘しましょう!!ヴェスペリア学園、マラソン大会……Lady……GOー!!!』
ピストルの音が辺りに響き渡り、同時に生徒達が一斉に走り出した
ーーーーーー
開始から30分……
当然と言えば当然なんだけど、先頭はユーリとフレンがずっとキープしている
これはまた、1位は2人の取り合いかなぁ……
『いやぁ、毎年ながら……やっぱりこの2人は早いですねぇ〜!またこの2人の接戦となるのか……或いは、後ろについているザギくんが追い上げて来るのか……っ!?』
ウィチル先輩の言葉に画面をよく見ると、確かに少し後ろにザギ先輩がいた
……ユーリとフレンについて行くなんて、意外と体力あったんだ、あの人……
『くっ……これが実況じゃなければ……』
『先輩〜、余計なこと考えてないで、ちゃーんと仕事してくださいね?……開始から30分経ちまして、現在、やや赤組の方が上位にいる生徒が多いみたいですよ〜!!赤組さん、この調子で頑張って行きましょう!!』
『なっ!?し、白組さん!!まだまだ巻き返せます!!気合い入れて行きましょう!!』
わたしたちのそんな声と共に、グラウンドで見守ってる保護者からも歓声が上がる
本当にすごい盛り上がり様だなぁ
……さて、今年はどっちが最初にゴールするかな……?
あれから更に1時間半経過した
ユーリとフレンは相変わらず先頭にいて、後をついてきていたはずのザギ先輩はだいぶ前に先頭集団から離れていた
……やっぱり2人とも、体力ありすぎだよ……
『さぁさぁ!!そろそろゴールの学園が近づいて来ました!!未だにローウェルくんとシーフォくんは横並び……先にゴールするのはどちらだっ!?』
先輩のその声に、マイクの電源を切って携帯を手に持った
「先生、そろそろ外出ますね」
そう言いながら、イヤフォンを外してヘッドマイクを代わりに付ける
これないと、グラウンドの方に声流れないからね
タオルや飲み物など、諸々持ってテントの入口の方を向いた
「はいよ〜、20分後にはシャスティル先生辺りが連れ戻しに行くと思うから、それまではゴール付近に居てあげてね〜」
どこか楽しそうに笑いながら、レイヴン先生はそう言って手を振ってくる
いつもなら、連れ戻されるなんてなかったんだけどなぁ……
そんな事を考えながら、テントの外に出るとさっきまでは感じなかった暑さがほんのりと感じられた
……うわ、思ってたよりも日差し強いし……
若干苦笑いしながら、ゴールの側まで歩いて行った
少し遠くに、ユーリとフレン、それと先生たちと先輩の姿が見えた
『おっと!!ようやく学園が見えました!!』
ウィチル先輩の声がグラウンドに響き渡る
保護者の方々が、ゴールである門の方を見てくるのが視界の端に映った
……めちゃくちゃ目立ってるな、わたし……
いやまぁ、毎年のことだけどさ……
『アリシアさーん!見えてますー?!』
『そんなに声張らなくても、ちゃんと見えてますよー!……ユーリ!!フレン!!2人ともー、頑張って〜!』
マイクから流れた声が聞こえたのか、繋がっている電話から声が聞こえたのか、どっちなのかはわからないけど、少し2人のスピードが上がったように見えた
……あれだけ走って、まだそんな余力あるんだ……
底なしに近い体力の多さに、ほんの少し呆れてしまったけど
……でも、やっぱり最初にたどり着くのは、この2人じゃないと、わたしも落ち着かない
フレンや……ユーリ以外の誰かの1位は、迎えてあげたくない
ゴールが近くなると、先輩と先生は手前の方で止まっていた
だいぶ近くまで来た2人はまだ横並びだ
……フレン、ごめんね?
心の中で謝りながら、ヘッドマイクのマイクの電源を落として、携帯をまたミュートにした
「……ユーリっ!!」
ニコッと笑いながら名前を呼ぶと、ちょっと嬉しそうに笑いながら、ユーリがスピードを上げた
……若干、フレンが呆れたような顔してたのは、見なかったことにしよ
ユーリがゴールテープを切る寸前で、またマイクの電源を入れて、ミュートを解除した
『ゴーーーーール!!!今年もやっぱり、1位はローウェルくんだぁあぁぁぁ!!!
くっ……4年連続ですか……っ!!2位もまたシーフォくんじゃないですか…っ!!白組さーーん!!!せめて!!3位はせめて頑張ってくださぁぁい!』
わたしの隣を抜けて行って、地面に座り込んでるユーリとフレンに歩み寄りながら、ウィチル先輩のそんな悲鳴のような声を聞いていた
ちょっと苦笑いしながら、自分の携帯の通話を切った
『そんなにプレッシャーかけたら可哀想ですよ、先輩?
赤組さーーん!3位も狙って行きましょーー!!』
そう言いながら2人の傍にしゃがんで、またマイクの電源を切る
ミュート……も、しとこっかな……
先輩もヘッドマイク付けたみたいだし
「お疲れ様、2人とも」
2人にタオルを手渡しながらニコッと笑った
「は……っ、全く………、アリシア………最後のは、ずるいん……じゃ、ないかい……っ!」
タオルで汗を拭きながら、フレンが不機嫌そうにわたしを見てくる
「あはは、ごめんごめん、つい……ね?」
「はは……っ、当然、だろ……っ?」
フレンと同じくタオルで汗を拭いているユーリは、嬉しそうにニヤッと笑っていた
『おーっと!!3人目が見えてきましたよ!!あれは……高等部2年……ジュディスさん!?』
驚いている先輩の声に振り返ると、ジュディスの姿が目に映った
……ジュディスって、意外と速いんだ……
あ、でもこれって……
『まさかまさかの赤組3人目!!
これは今年もダメそうですね、先輩っ?』
マイクの電源を入れてそう言ってニヤッと笑う
『い、いやいや!!まだ……っ!!まだ巻き返せますよー!!!白組さーーーん!!!!誰か早くたどり着いてくださいぃぃぃ!!!』
『だから、そんなにプレッシャーかけたら可哀想ですってばぁ……ジュディスー!頑張れ〜!!』
『あーっと!!ここでザギくんの姿が見えた!!見えたけど……っ!!ザギくーん!!頑張ってくださいぃぃぃ!!!』
先輩がそう叫んだすぐ後に、ザギ先輩が横を駆け抜けたのが見えた
けど、この距離なら……
『ゴォーール!!3位は高等部2年、ジュディス!!続いて4位、高等部3年、ザギ先輩!さてさて、次は赤か白か……どっちが先に着きますかね〜?』
『うぅーー……っ!!点差がどんどん開いていく……けど……まだまだ!!20位くらいまでなら巻き返せます……っ!!白組さん!!赤組の連勝記録、ここで打ち止めにしましょう!!』
『まだまだ総合優勝は譲れませんよ、先輩?赤組さーん!!気合い入れて頑張りましょう!!』
そう言いながら、ジュディスとザギ先輩にもタオルを渡した
『もういい加減譲ってくれてもいいじゃないですかっ!?』
『うーん……それわたしに言われても……わたし、毎年放送してるだけですし?』
『うぐっ……そう言われると何も言い返せない……っ!!!
やっぱりアリシアさんを文化祭の劇の宣伝に使うのが間違いなんでしょうか…っ?!』
『そう思ってるなら、来年はやめてくださいよ〜?
じゃないと、来年も総合優勝かっさらわれますよ〜??』
『ずるい!!それを持ち出すのは卑怯ですよ!!』
『あ、ほら先輩、そんなこと言ってるうちに次来てますよ〜?……しかも、また赤組だ!!』
『えっ!?あ、嘘っ!?しかも3人同時っ!?!!ちょっと白組さん!!気合い入れてくださいってーー!!』
『先輩が変なところに気取られてるからですよ〜?あ、後わたし、そろそろ連れ戻されそうなんで、いい加減こっち来てくださいよ〜』
『あ、ちょっ!!もうそんな時間っ!?みなさーーーん!!急いでくださいよーー!?!!』
先輩がそう言ったのと同時にマイクの電源を落とした
次に到着していたのはクラスメイトたちだった
ぐったりとしている彼らにもタオルを手渡してあげる
「ふふ……本当、楽しそうね、アリシア?」
ジュディスの声に振り返ると、3人が微笑ましそうに笑いながら見てきていた
「まぁ……そこは否定しないよ。実際楽しいしね」
「でも、無理すんなよ?」
「あははっ、わかってるわかってる」
ちょっと心配そうなユーリに笑いながら答えてると、駆け寄ってくる足音が聞こえた
音の聞こえる方を見ると、不機嫌そうな顔をした先輩が駆け足で寄ってきていた
「アリシアさん!!さっきのはずるいですよ!!」
「ずるくはないじゃないですか……わたしをダシに文化祭盛り上げようとした、先輩の自業自得なのも事実なんですから」
膨れている先輩にそう言うと、また言葉を詰まらせていた
「あ、いたいた!」
あんまり聞きたくなかった声に、少し方が跳ねた
恐る恐る声のした方を見ると、ヒスカ先生とシャスティル先生の姿が見える
「げ……何も2人一緒に来なくてもいいじゃないですか……先生……」
「ちょっと!そんなに嫌そうな顔しないでちょうだいよ!」
「はい、そろそろ戻りますよ?また無理されでもしたら困りますし」
……本当、みんな揃って心配症なんだから……
まぁ……この前のが原因だろうし、文句は言えない……
「はいはーい、言われなくとも戻りまーす。……先輩、後お願いしますね?」
「もう……わかりましたよ、やりますよ……!」
「じゃ、3人ともまた後でね」
3人にそう声をかけて、大人しくテントに戻った
その後は、テントからウィチル先輩に相槌をうちながら、全員が戻って来るのを待った
ーーーーーー
あれから約2時間程経って、ようやく全員が帰って来た
熱中症の子が出なかったのはある意味奇跡かも……
『さてさて〜……ただ今結果が出ました!!』
ウィチル先輩の声がグラウンドに響いた
声は明るいけど、ものすごく不機嫌そうな顔をしている
……まあ、そうだよね
『今年の総合優勝は〜……………赤組です!!』
わたしの声に、赤組側から歓声が聞こえてくる
うん、こうなると思ってたよ……
『やった!!これで4年連続だ!!』
『くぅ……っ!!今年こそはと思ったのに……っ!!』
悔しそうな顔でウィチル先輩がわたしを見てくるけど、わたしに何か言おうとするのはお門違いだ
……だって、わたし何もしてないし……
『えー、続いて最優秀クラス賞を発表します!』
そう言うと、シン……と静まり返った
……正直、高等部は言わなくてもいいと思うんだけど、ね
『まずは中等部からの発表です。中等部、最優秀クラス賞は………3年……A組!!!』
ウィチル先輩がそう言うと、中等部の方から雄叫びが聞こえてきた
喜んでる喜んでる……って、え、先輩がそっち言うの…!?
若干困り気味に先輩を見ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてわたしを見てきていた
……やられた……先に打ち合わせしておけばよかった……
『……続いて高等部の発表です。高等部、最優秀クラス賞は…………1年………C組!!』
わたしの声に、クラスメイトたちが喜んでる声が聞こえた
うー……わたしもそっち側がよかったのにー……
『……まぁ、なんとなーく予想はしてましたけど……毎年毎年、アリシアさんのクラスがかっさらい過ぎじゃないですか?』
『だからそれ、わたしに言わないでくださいよー……兎にも角にも、みなさん、2日間、お疲れ様でした』
『例年と違い、合同という事であまり時間がない中、速やかな集合と準備の協力を感謝します』
『特別券等の配布は、後日となるそうなんで、気長に待っててくださいね〜
……それ以外の諸々の説明は、この後レイヴン先生とアレクセイ先生がしてくださるんで、最後までしっかり話を聞いていてくださいね!』
『それでは、ぼくらはこれで。2日間、本当にお疲れ様でした!……以上っ!高等部2年、ウィチルと』
『高等部1年、アリシアでした』
『『次は文化祭でお会いしましょうね!』』
先輩と息ピッタリにそう言って、わたしたちはマイクの電源を切った
それと同時に、レイヴン先生とアレクセイ先生がテントの外に出て、何か指示を出していたけど……
正直聞いてる余力がないくらいには疲れた……
ウィチル先輩も同じだったみたいで、2人揃って机に突っ伏した
「つかれたぁぁ……」
「まぁ……ぼくらよりも、みなさんの方が大変だったでしょうから、あまり言ってはいけませんね……」
そう言い合って、2人揃って苦笑いした
「シアー、いるか?」
テントの外からユーリの声が聞こえてくる
「んー……いるー……」
そう答えると、中に入ってくる気配がした
「って……2人揃ってだいぶお疲れみたいだな」
ユーリの声に体を起こして振り向くと、少し困ったように微笑んでるユーリの姿が見えた
「ぼくはいいですから、アリシアさんはもう帰した方がいいですよ。そろそろこっちが限界でしょうから」
ウィチル先輩も体を起こしてユーリの方を向くと、自分の喉を軽く叩いていた
「言われなくとも、そのつもりっすよ。先生からも、連れて帰れって言われたんでね」
そう言って、ユーリがわたしに近づいて来る
「ほれ、帰ろうぜ?」
わたしに手を差し出しながら、ニコッとユーリが微笑んでくる
「……ん、帰ろっか」
それにわたしも笑って返して、ユーリの手を取って立ち上がった
「それじゃあアリシアさん、また後日」
「次は部室、ですね?」
「ええ、待っていますから」
ウィチル先輩にニコッと笑って返して、ユーリと2人、帰路についた
