*1年生
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ー体育祭当日ー
あれから数日…
なんか、ユーリとフレンに走ったのバレてたらしく、今日まで散々心配された
いやもう、走ろうとする度に止められるの、何とかならないかな…
大丈夫だって言ってるのに聞く耳持たずだし…
…まぁ、それはいいとして…
「…うん、大丈夫そう…かな」
姿見鏡の前でクルっと1回転する
いつもよりも少し高めの位置で結んだ髪が回転に合わせて揺れる
競技には参加出来ないけど、せめて服装くらいはちゃんとしておかないと、ね
「シア!そろそろ行こうぜ!」
「…うん!今行くー!」
下の階から聞こえてきたユーリの声に答えて鞄片手に部屋を飛び出した
「うっわ…派手すぎじゃねぇの?」
学校に着くなり、ユーリは苦笑いしながら辺りを見回した
…確かに、例年に比べたら派手かもしれない
「ふふ、先生達も張り切っているのよ。初めての中高合同体育祭なのだもの」
クスリとジュディスが笑いながら言う
「だとしてもよ、浮かれすぎじゃない?」
「…まぁ、いいんじゃない?たまにはさ」
呆れ気味なリタに肩を竦めながら言う
浮かれすぎって言うのには賛成だけど、たまーにならいいと思う
…たまーになら、ね
「さてと…それじゃあわたし、やる事あるから
お昼にね!」
そう言いながらみんなから離れる
「おう、昼になったら門前集合だからな!」
「母さん達が張り切ってお弁当用意してくれているから、必ず来るんだよ!」
「わかってるよー!」
ユーリとフレンの声に答えながら、職員テントの方へと向かった
「お、来た来た。おはようさん、アリシア」
「おはようございます、先生」
テントに着くなり、レイヴン先生の姿がそこにはあった
「おはようございます」
わたしの後に続いて、ウィチル先輩がテントに入ってくる
「うむ、2人ともいるな」
最後にアレクセイ先生がテントに入ってきた
「それじゃあ、最終調整しましょーか」
レイヴン先生はそう言って、マイクの電源を入れていた
『あーあー…テステス…お、大丈夫そうねん』
校庭にレイヴン先生の声が響いて、辺りが少し静かになる
『んじゃまぁ、各クラスの学級委員は出席確認して、本部のテントまで来なさいね〜』
カチッとマイクの電源が切れると、また辺りが騒がしくなる
「アリシアさん、今のうちに軽く最終読み合わせしましょうか」
台本を取り出しながら、ウィチル先輩は言う
「えぇ…入りますか、それ…?結局本番は台本無意味ですよ?」
「…ですね。まぁ問題はないでしょう」
台本をしまいながらウィチル先輩はニヤリと笑った
「なんせ、ぼくらでやるんですから、ね?」
「…まぁ、そういう事ですよ」
ニコッと笑い返すと、彼は満足そうに微笑む
「よし、全クラス集まったぞ」
何枚もの紙を見ながらアレクセイ先生が言う
「んじゃま、いきましょか」
レイヴン先生の合図に、わたしとウィチル先輩は力強く頷いた
…こんなに大勢の前で喋るの、いつぶりだろう
そう思うと、なんだかワクワクしてくる
『あー、んじゃ、全校生徒、気をつけー!』
レイヴン先生の声に校庭が一気に静まり返る
『これより、ヴェスペリア学園中等部・高等部合同体育祭を開催する!
…んじゃ、こっから先は係に交代するわね〜』
ピッシリ締まった筈なのに、先生のその一言で全部吹き飛んだって…
アレクセイ先生めちゃくちゃ睨んでるし…
ウィチル先輩と目で合図を交わすと、最初にマイクを取ったのは先輩だった
『えーっと、式を始める前に、今回の体育祭の進行形、並びに実況を務めます、高等部2年ウィチルと』
先輩はそこまで言うとわたしにマイクを向けてくる
…大丈夫、いつも通りやればいいんだ
『…高等部1年、アリシアです』
わたしが喋った途端、ざわめきが大きくなる
…うわぁ…これ大丈夫かな…
『以上、元中等部演劇部のツートップでお送りして行きます。例年通り、優勝したチームの成績トップクラスには高等部文化祭1日目の演劇部の劇を、先頭で見られる特別券を発券しています!今年はなんと!アリシアさんが主役ですから、各クラス、力を合わせて全力で競技に当たってくださいね!』
……ん?え、?ちょっ……っ?!
『ちょっ、先輩っ!?なんで今言うんです?!それ当日まで秘密って約束じゃないですかっ!?』
唐突なカミングアウトに、マイクの電源切るのも忘れて言ってしまった…
体育祭の優勝チームの中でも特に点を多く獲得したクラスに、文化祭の演劇部の劇の特別券が発行されるのは、中等部も高等部も同じ
合同でも例外はなく、中等部から1クラス、高等部から1クラスずつ最優秀クラスが決められる
それは、確かに前日に理事長先生から前日に全生徒に校内放送で伝えられていた
いたけど……!!!
これもう後でユーリに文句言われるじゃんかぁ……!!
『はいはい、それでは!プログラム1番、ラジオ体操ですよー!体育委員さんよろしくお願いしますね!』
ウィチル先輩はわたしの言葉に耳も傾けずにそう言ってマイクの電源を切った
…なんかもう、若干雄叫びみたいなのがあがってるんだけど…!?
「…先輩………!」
中等部の3年間、毎年文化祭の劇には役をもらって出ていた
1年の時は体育祭の最優秀クラス争いも酷くなかったけど、その後の2年間は争奪戦だった
というのも、だ
1年の時、たまたまわたしとウィチル先輩のダブル主役で劇をやったら、思ってた倍くらい大盛況で、本来1日目だけだったのが、2日目も急遽やることになったくらいだ
で、その後の2年間も、わたしは劇で主役として立つって事前情報がどこからともなく流れてしまい、最前列で見たいと、大乱闘が起きていたのだ
……因みにわたしがいたクラスは中等部3年間負け知らずで、3年連続優勝と最優秀クラスをもぎ取っていた(←だいたいユーリとフレンが無双してたせい)
だから今年は言わないでって、先に言ってたのに…っ!
「仕方ないじゃないですか。こうした方が盛り上がるからってレイヴン先生に言われたんですよ」
「ちょっ、ウィチル!?」
「…先生、後で覚えておいてくださいね…?」
半分睨み気味にレイヴン先生を見ると、引き攣った顔でわたしを見てきていた
あーもう…本当にありえない…
「…はぁ……もう、どうしようもないですし…今は目の前の事だけに集中しますよ…」
そう言ってマイクの方を向く
もうこうなったらやけくそだ
「そうこないとですね!…あ、ほら、体操終わりますよ」
ウィチル先輩の声に耳を傾けると、体操の音楽は終盤を迎えていた
音楽が止まると同時に、ピッと笛の音が鳴った
『…プログラム2番、中等部3年による綱引きです。中等部3年は所定の場所に集まってください。…ついでにプログラム3番、借り物競走に出る人も集まってくださーい。後5分で競技始めますからねー』
「アリシアさん…めちゃくちゃ棒読みですよ…」
マイクの電源を落とした途端に、ウィチル先輩の呆れ声が聞こえてきた
「そう言われましても…ほら、この後からちゃんと元気になりますから、大丈夫ですよ」
ニコッと笑いかけると、先輩は苦笑いしながら入場門の方を見た
…そろそろ、かな
「それじゃあ……いきますか」
ニッと笑いかけながら、再びマイクの電源を入れた
『おっと、C組さん!ここで巻き返しかっ?!』
『いえ、B組さんも負けていないですよ?ここからが本番ですよ!』
わたしとウィチル先輩の声が歓声よりも大きく響く
現在、中等部の綱引きの最中
実況風のアナウンスに先生達もなんか盛り上がってるみたい
(因みに中高どっちもA〜Fクラスまであって、ACEが赤、BDFが白組で対戦してる)
赤組のわたしと、白組のウィチル先輩、チームが違うからより盛り上がる
『おーっ!ここで試合終了の合図だっ!勝ったのは…やった!!C組さんだっ!これで、中等部3年の綱引きは赤の勝ちですねっ!』
『くっ…!初戦を持っていかれましたか…。ですがまだまだここからですよ!プログラム4番障害物競走、プログラム5番高等部の50メートル走に参加する方は所定の位置まで!』
『次はプログラム3番、全学年のクラス代表による借り物競走です!張り切って行きましょー!』
わたしの掛け声で借り物競走に参加する生徒が入場する
…確か、これユーリ出てたはず…
…あ、いた、しかも先頭じゃん((
さて、何引くかなぁ〜?
『さぁさぁ、皆さんスタート位置につきましたね?』
『ではでは、第1走者からいっきますよー!』
無駄にテンションの高いわたしと先輩の声を合図に、体育委員の担当の人がピストルを鳴らした
鳴った途端にユーリがお題箱目掛けて飛び出す
…今更だけど、変なのはいってないよね…?
「アレクセイ先生っ!どこっ?!」
女子生徒の甲高い声が辺りに響く
「…」
声が聞こえた途端、先生はどこかに行ってしまった
『ありゃ、アレクセイ先生が逃亡しましたね』
放送席から逃げ出した先生を見送りながら、どこか他人事のように言う
この競技…中等部の時もだけど、誰かを連れて来いってお題多いんだよねぇ…
そのせいでみんな、敵クラスから逃げようと逃げ回ってる
まぁ…同じクラス同士でも逃げてるけど
『他の先生や生徒も、逃げ回っていますね〜…おーっと!放送席に向かって走ってくるあのシルエットは…高等部1年C組のローウェル君だぁ!』
それを聞いた瞬間にマイクの電源を切る
「…ちょっとわたし席外しま」
そう言って逃げようとした
「バッカ!行くなっ!負けるだろ?!」
が、時すでに遅し…
ユーリにとっ捕まりました←
「いや、わたしが行っても足でまと」
「いにならねぇから!」
ユーリはそう言うと、思い切りわたしの腕を引っ張ってそのままお姫様抱っこされた
いや、めちゃくちゃ目立つよ!?
「っつーことで借りてくな!」
『あっ!ちょっ!ローウェルくーん!?…ありゃぁ、アリシアさん借りて行かれちゃいましたねぇ…ってぼく1人で実況ですか!?寂しいですよ?!』
ウィチル先輩の声も気にせずにユーリは担当の先生の方へ走る
「ねー、これどーするの…めちゃくちゃ目立ってるってー…」
「お前もう既に充分目立ってるだろ?…それに、今年の最優秀賞は、逃せねぇんだよ」
至って真剣な目でユーリが言うからため息しか出ないよ…
…やっぱり今年も最優秀クラス賞狙ってるな…
「おー、ローウェルが1番か。どれどれ…。……あー、はいはい、お前らもういいよ、1番な」
中等部3年の時の担任が担当だったんだけど…
え、何その呆れた目…
「先生、それなんて書いてあります?」
「…【彼女】」
………マジデスカ…
誰だしそんなの書いたの…
先生にもバレたじゃん…!
「あ、アリシアはちゃんと責任もって返して来いよー」
「わーってますよ。流石にこの乱闘の中1人で動かせらんねぇっすよ」
「えー…その言い方はひどーい」
あまりにも先生もユーリも真剣に言うから、なんかもう呆れた
『あっ!アリシアさん!ようやく帰って来ましたね!』
放送席に着くなり、ウィチル先輩が嬉しそうに言う
「ほい、返しに来ましたよっと。…んじゃシア、また後でな」
ユーリはそう言って走って戻って行った
『それでそれで?紙にはなんて書いてあったんですかねぇ〜?』
茶化すようにウィチル先輩が言ってくる
…あーこれ、恥ずかしがったら終わるやつだ
いじり殺される←
『【彼女】って書いてあったらしーですよー』
『おお??いつの間にそんな関係になったんですかねぇ〜?』
『先輩…うるさいですよ?いいじゃないですかいつだってー。…ほら、先輩がそんなところに意識向けてるから、白組さん負けてますよ??
はいはーい!赤組さんその勢いで頑張れ〜!』
『え?あぁっ?!し、白組さーん!今からでも巻き返せる!巻き返せますから頑張ってくださーーいっ!!』
『いや先輩…流石にこの差は諦めるべきですよ…。っあーっと!残りのレースでは巻き返せない程の差が出た!やった!赤組勝利確定ですよ!』
『うっ…流石にこれは…。で、でもまだまだ…っ!これからが本番ですよ!ここで負けても巻き返しのチャンスはいくらだって…っ!』
『はいはい、終了ーっ!全レース、只今終了しましたよーっ!借り物競走の結果は赤組さんの勝利でーす!今年は時間がないのでサクサク行きますよー!次は障害物競走ですよっ!』
『くっ…!つ、次こそは…っ!プログラム6番、中等学部女子によるムカデ競走に参加する生徒は入場門前に集まってくださいね!』
『ついでにプログラム7番、高等学部男子によるパン食い競走に参加する生徒も集まっておいてくださいねー!』
ーーそしてーー
『はいはーいっ!以上で午前の部を終わりとしまーす!』
『午後はプログラム15番、中高等部男子の棒倒し競走から始まりますので!始まる5分前には入場門に集まっておいてくださいね!』
『その次はプログラム16番、中高等部女子の棒取り合戦をするので、準備しておいてくださいね!』
『それではお昼休憩に入ります!午前の部の司会進行並びに実況は高等部1年アリシアと』
『同じく高等部2年ウィチルでしたー!』
『まぁ、と言っても午後もわたし達でやるんですけどねー』
『そういうわけで!午後もよろしくお願いしますねっ!』
そう言ってマイクの電源をオフにする
「…っあぁぁ……疲れたぁ…」
そのまま目の前にある机の上に突っ伏す
流石に4時間近くぶっ通しで喋るのはキツかった
まぁ楽しくはあったけどさ…
「それにしても、大分盛り上がっていますねぇ。流石アリシアさん」
「ウィチル先輩のおかげですよ。わたし1人じゃここまで出来ないですもん」
ウィチル先輩の方を向きながらそう言うと、彼は嬉しそうに目を細めた
「ぼく1人でもこうはなりませんよ。…さ、ぼくらも少し休みましょう。ユーリさん達とお昼食べるのであれば、早く行った方がいいんじゃないですか?」
「あっ、そうでした…!それじゃあ先輩、また後で!」
慌てて立ち上がって、わたしは待ち合わせの場所に急いだ
やばいなぁ…ユーリ達、怒ってなければいいけど…
「アリシア!あんた何処ほっつき歩いていたのよ!」
門の前つくと、案の定リタに怒られた
「ごめん、ごめん!ちょっと疲れちゃってさ」
「そりゃそうだろうな。なんたって4時間ぶっ通しで喋り続けてたもんな」
「それにしても、まさか文化祭まで出るなんて知らなかったよ」
「私もびっくりしました!…でも、いつの間に演劇部に入部してたんです?」
エステルの問に思わず顔が引きつった
「…それはジュディスがよく知ってると思うよ?」
ニコッと笑いながら彼女を見ると、ほんの少し苦笑いをしていた
「あら…そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない」
「全くもう、わたしが1番驚いたんだからね!?」
そう言うが、ジュディスに悪気があったわけじゃないのは知ってる
…知ってるけど、さぁ…
「…ジュディ、お前…まさか勝手に届け出したのかよ…」
事情を察したらしいユーリが大きくため息をついた
「入るつもりだと思ってたから、先に出しておいてあげたのよ」
「わたしが頼んだみたいな言い方しないでよ…
…それより、早くご飯食べよ?わたし、午後も放送だし…」
ふぅ…っとため息をつきながらみんなを促す
ホントにもう、お腹空いてヤバい
「そうだね。行こうか」
フレンの言葉を合図に、ユーリとフレンの両親のいる場所に向かった
2人の両親からお弁当を貰うと、わたし達だけでゆっくり食べて、と言って去って行った
レジャーシートを敷いて、その上にお弁当を並べた
相変わらず美味しそうなご飯だ
「それじゃ、食べようか」
「「いただきます」」
みんなでそう言ってお弁当を食べ始める
「ふふ、やっぱりユーリとフレンのお母さんの
ご飯は美味しいね」
ニコッと笑いながらそう言った
毎年みんなの分のお弁当を作って来てくれていて、本当に有難い
「ええ、とっても美味しいです!」
「また母さんに伝えておくよ」
ニコッと笑いながらフレンはそう言った
毎年みんなでお礼言ってるけど、食費渡そうとするといつも断られるんだよなぁ…
お弁当作るのもタダじゃないし、手間がかかっているだろうから、そこだけは少し申し訳ない…
「それにしても、あんたがまた主役ねぇ」
ご飯を食べながらリタはぽつりと呟いた
「…先に言っておくけど、わたしがやるって言ったわけじゃないからね?」
「わかってるわよ。どーせあのリンゴ頭先輩に言われて無理矢理、でしょ?」
半分興味なさそうにリタは言う
ウィチル先輩とリタは両親が同じ仕事をしているらしく、昔からの仲らしいんだけど…
…まぁ、仲がいいわけじゃない
どちらかと言えばめっちゃくちゃ悪い方だ
いっつも顔合わせる度に言い合いしてるし…
いやまあ言い合いというか、ウィチル先輩がリタに突っかかってるっていうか…
「シアが主役やんなら、ぜってぇ最優秀賞とらねぇとな」
「そうだね。何がなんでも勝たないといけないね」
「…そんな面白い劇じゃないよ?」
「あん?んなもん関係ねーって。シアが出てるか出てねーかが重要なんだよ」
相変わらずの反応に思わずため息が出る
「この調子じゃ、来年もこうなりそうね」
クスリと笑いながらジュディスが言う
…誰のせいだ、誰の
ジト目でジュディスを見つめるとニコッと彼女は笑いかけてきた
……反省してないな、これ
そんなわたしの隣でエステルはプログラムを開き始めた
「えーっと、この後は……ユーリ達が棒倒しで、それが終わったら私たちの棒取りですね」
「棒倒しと棒取りって倒すか取り合うかの違いよね」
「確かにそうだけど、今年の棒倒しは大変そうよね」
「あー…やばいだろうな」
「練習の時点で乱闘だったからね」
遠い目でユーリとフレンは呟く
……これ、怪我人出ないよね…?
「2人とも、怪我だけはしないでね?」
わたしが2人にそう言うが、当の本人達はわたしから目線を逸らす
…………怪我するつもりか、この2人……
「棒倒しもだけど、棒取りも今年は乱闘になりそうじゃないかい?」
話を逸らすようにフレンはエステル達を見た
「あら、そうでもないわよ?」
「むしろ逆よ、逆。中等部はユーリとフレンを狙ってた子達が彼女出来たこと知って、戦意消失してるわよ」
「高等部もそんな感じよ」
「ったく、死ぬ気で頑張ってんのは男子だけだぜ?こっちは最優秀賞かかってるってのにら」
「…だからさっきあんな大胆なことしなきゃよかったのに…」
「ありゃ手に取ったやつが悪かっただけだっての」
「フレンも、わたしが競技してる時にあんなに大声で応援しなくても良いんですよ?」
「エステリーゼが頑張っているんだから応援はしないとね。それに、僕らに彼女が出来たからってやらない彼女達が悪い」
そんな2人の発言にエステルと2人、思わずため息をついた
自分たちが人気者なのを全く理解してないな、この2人…
「それよりアリシア、あんたそろそろ戻らないといけないんじゃない?」
リタが時計をチラッと見ながら声を掛けてきた
時計を見ると、午後の放送をかけないといけない時間が迫っていた
「やばっ!戻らないと…!」
食べ終わったお弁当の蓋を閉じて立ち上がる
「ごめん!もう行くね!おばさんにありがとうございますって伝えて!」
「わーってるよ。…放送、頑張れよ」
「うん!ユーリ達も、残りの競技頑張って!」
早口でそう告げてみんなの元を離れた
少し駆け足で放送席へと急ぐ
ついついのんびり話してしまったのがいたい…
「ごめんなさい!遅くなりました!」
そう言いながら放送席に飛び込んだ
「お、戻ってきたわね。まだ時間あるか、大丈夫よ」
ニコッと笑いながらレイヴン先生がわたしを見た
間に合ってよかった…
ほっとしながら自分の席につく
「息が切れてますけど、大丈夫ですか?」
少し心配そうにウィチル先輩がわたしの顔を覗き込む
「あはは…ちょっと慌てて来たので…」
そこまで言って思い出す、昼の薬を飲むの忘れたことに…
…やばい、放送持たないかも…
「シア!薬忘れてるぞ!」
天幕の外からユーリの声が聞こえる
「アリシア…薬飲んでないのか?」
呆れ気味にアレクセイ先生がわたしを見つめてくる
それに苦笑いするしかできなかった
「ユーリ君、入っていいわよん」
そう言ってレイヴン先生がユーリを中に招き入れた
薬と水筒を持って、肩で息をするユーリの姿が目に入る
「ったく…慌てすぎだっつーの……」
そう言ってユーリはその2つをわたしに手渡した
「…ごめん、完全に忘れてた」
それを受け取って薬を飲む
これ飲んでおかないとホントに放送続けられなくなる
「ふぅ……ありがとう、ユーリ」
「このくらいどうってことねーよ。んじゃオレ戻っから」
そう言ってユーリは戻って行った
そんな様子をウィチル先輩は横でニヤニヤしながら見ていた
「…なんですか?」
「いやぁ?元々心配性だったローウェル君が、更に心配性になっていたなぁ、と思って」
「…やっぱりそう思います?」
「はい、とっても」
…やっぱり周りから見てもそうなんだ…
「2人共、お喋りもいいがそろそろ時間だ」
アレクセイ先生の言葉にわたしとウィチル先輩はマイクの方を向く
さぁ、ラストスパートだ
『あー、あー……よし、大丈夫そうですね。えー、それでは間もなく午後の競技を開始致します!中高等部男子は速やかに入場門前へ集まって下さい!』
『同じく中高等部女子の皆さんも所定の位置へ集まってくださーい!』
わたし達の声に全生徒が動き出す
先生達が誘導しているのがここからでもよく見える
誘導が終わると合図が送られてくる
『では、準備が終わったようなので午後の競技を始めたいと思います!』
『プログラム15番、中高等部男子による棒倒し合戦です!』
その声を合図に、男子生徒達が一斉にグランドに入場して行った
守るチームと攻撃しに行くチームに分かれ位置につく
フレンは守備で、ユーリは攻撃…か
『ではでは、準備はいいですかー?』
『さぁ、白組さん!挽回のチャンスですよー!』
『赤組さん、ここで更に差を付けちゃいましょー!』
『『よーい……』』
パァンッ!!
ピストルを合図に両チームの攻撃チームが相手の陣地に走り出す
誰よりも早くユーリが白組の守備チームの傍に辿りついていた
『おお!赤組さん早い!もう辿りついてる?!』
『赤組さんは守備チームが棒の周りを固める人とそこまで行くのを妨害する人に分かれているみたいですね〜。対して白組さんは棒が倒れないように全員で固めてるみたいですよ』
『え、守備チームの中で役割を分けるのはありなんですか…!?普通全員で守るものじゃ?!』
『わたしに言われても…先生たちが止めてないんで、いいんじゃないないんですか?』
『ず、ずるい…!』
『その文句は先生に言って下さいよー…。あ、ほら先輩、そんなとこに目がいってるうちに、白組さんの棒、倒れそうですよ?赤組さん、ファイトー!』
『…はっ?!え、ちょっ!白組さーん!!耐えて!!耐えてくださーーーい!!』
『赤組さん!!あともうちょっと!もう少………あーっと!ここで終了ーー!!なんと赤組さん!開始早々白組さんの棒を倒したー!!』
『あぁ!!?そ、そんなー…』
『ふっふっふ、これで赤組さん、またまた白組さんとの点数に差をつけましたね!!今年の優勝は赤組さんか?!』
『くっ…!!!まだですよ…!!午後の部はここからが正念場です!!』
『さぁ、どんどん張り切っていきましょー!!』
それから2時間……
体育祭1日目も終わりが近づいてきていた
『さぁ、本日最後の競技となります!』
『最後はチーム対抗リレーとなります!各クラスの代表は指定の位置へ集まって下さい!』
各クラスから代表が男女混合で一人選ばれ、1位を争う最終競技…
確か、わたしのクラスはユーリが選ばれてたはずだけど…
『各クラス代表が出揃ったようですね。この結果で今年の優勝チームが決まります!』
『最優秀クラスの発表は明日となりますが、最後の競技、正々堂々と最善を尽くしてくださいね!』
『それでは…チーム対抗リレー……』
『『よーーーい…………』』
パァンッ!!!
合図と共に最初の走者が走り出す
午後の唐突な白組の追い上げで点差は僅か
もしこのリレーで赤組が負ければ、今年の優勝は白組になる
…ちょっと頑張って欲しいな
『おっと、白組さん速い!!赤組さんを半周分突き放した!!これはもしかしたら、ありますよ!!』
『先輩、まだまだわからないですよ??赤組さんはまだ巻き返せます!!半周くらい余裕ですよ!!』
わたしの言う通り、徐々に距離が狭まってきていた
『白組さん!追いつかれてしまいますよ!!あと一周頑張って下さい!』
『追いつける!!赤組さん、追いつけますよ!!この調子で頑張ってくださいっ!』
『おっと、ここで両チームアンカーにバトンか渡ったー!!白組のアンカーは高等部3年のザギくん、赤組は高等部1年……ロ、ローウェルくん…?!』
あ、これ勝ったわ
『え、ちょ、まっ!アンカーにローウェルくんはずるいですよ!?』
『わたしに言わないでくださいよ…。ユーリ!!あと1周!!頑張ってー!!』
『アリシアさんっ!貴方がそんなこと言ったら…っ!あーほら!差が開いちゃったじゃないですか!!ザギくん頑張ってください!!まだ抜かせますよ!』
『わたしのせいですか?これ……。赤組さんも、みんなで応援しましょー!!』
『くっ…!そう言われると言い返せない!白組さん!!負けじと応援しますよ!!』
後半は応援合戦のように両チーム大声で声援を送る
ユーリの後をザギ先輩が追いかける
2人の距離はだいぶ近い
でも、この調子なら……
パンッパァンッ!
『先にテープを切ったのは赤組だぁ!!やった!勝った!!これで4年連続赤組の優勝だー!!』
『くっ…最後がローウェルくんでなければ…!!』
『ふふ、先輩、負けは負けですよ』
『あともう少しだったんですがねぇ…』
『さて、両チーム、今日1日お疲れ様でした』
『悔いなくやりきることは出来たでしょうか?』
『1日目の結果は赤組の勝利となりますが、体育祭はまだあと1日残っています』
『明日のマラソン大会、1等には例年通り図書券が贈呈されます』
『…えーっと、そして、総合1位を獲得したクラスには本年度は特別に……高等部文化祭、2日目、演劇部の劇を特等席で見られる券を発行……?!え、ちょっと!先輩!!わたしこれ知らないんですけど?!』
『あ、気づいちゃいました??今年の高等部演劇部の劇はなんと!1日目と2日目で違う劇をやりますからね!』
『それも今初めて聞きましたよ?!!』
『しかも主役はアリシアさんともう1人…スペシャルゲストをお呼びしますので!明日も1位目指して、頑張ってくださいね!』
『え、ちょっと、先輩?!』
『それではまた明日、放送でお会いしましょう!あ、スペシャルゲストの情報は明日放送内ですこーしだけ公開しますので、お楽しみに!』
『わたしの話は無視ですか…もーいいですよ……。……コホン、授賞式は例年通り明日のマラソン大会後に行います。本日はゆっくりと休んでくださいね』
『ヴェスペリア学園中高合同体育祭、本日放送を担当したのは高等部2年ウィチルと』
『高等部1年アリシアでした』
マイクを切るとグランドからのどよめきが聞こえてくる
そりゃそうだ、誰だって混乱する
…1番混乱しているのはわたしだ
「……先輩、どうゆう事ですか?」
ジト目で隣に座るウィチル先輩を見つめる
もう1つの劇のことなんて聞いてない
「ぼくじゃなくて部長に言ってくださいよ。ぼくと部長以外の演劇部員、全員知らないことですから」
「…先輩…部長って、まさか……」
「ええ、イエガー先輩ですよ」
その名前を聞いて思わずため息が出た
あの人いい加減っていうか、突拍子も無いことする人だからなぁ…
「はぁ……またあの人か…」
「まぁまぁ、そう言わずに。もう1つの劇も面白いと思いますよ?」
そうゆう問題じゃない
セリフ覚える量が増えるじゃないか…
「はっはっは、若人は元気でいいねぇ」
ケラケラと笑うレイヴン先生に思わず苛立つ
他人事だからってこの人は…
「レイヴン先生、アリシアまだいますか?」
天幕の向こう側からフレンの声が聞こえてくる
どうやら迎えに来てくれたようだ
「お、アリシアちゃん、お迎えが来たみたいよ」
そう言いながら、レイヴン先生は天幕の入口を開ける
フレンの他にジュディスの姿も目に入った
「あら、随分ぐったりしているわね」
クスリと笑いながらジュディスはわたしの方へ寄ってきた
「…疲れた…」
「ふふ、丸1日喋りっぱなしだったのだもの。無理ないわ。…お疲れ様」
そういうと、わたしに向かって手を差し出してきた
その手を取って立ち上がる
「それじゃあ、ウィチル先輩。また明日ですね」
「はい。明日も放送、頑張りましょうね!」
ニコッと互いに笑いかけあって、その場を後にした
〜帰宅後〜
夕飯も食べ終え、お風呂も済ませたわたしは部屋に戻ってきた
みんなもそれぞれ部屋で休んでいる頃合だろう
明日もあるし、早めに休まないといけないしね
「あー………疲れた………」
ベットの上でぬいぐるみに顔を埋める
1日喋り続けたせいで頬が痛い…
それでも、久しぶりの放送はとても楽しかった
やっぱりわたしのしょうに合っているんだろう
「シアー、お前また髪乾かしてないだろ」
ユーリの声と共にガチャリと部屋の扉が開く音が聞こえた
「って、おまっ!んな濡れた髪でベットに寝転んでるなよ!」
そう言うとわたしの腕を掴んでグッと引き寄せられ、ベットの縁に座らせられた
あまりにも強く引かれたから思わずムッとしてユーリを見上げた
「そんなに頬膨らませてんなって…」
呆れ気味にユーリはドライヤーでわたしの髪を乾かし始めた
「だって、痛かったんだもん」
ドライヤーの音に負けないように、少し大きめの声で言い返す
「…それは悪かった」
「…ユーリは髪乾かしたの?」
「あん?とっくに乾かしてるっての」
優しく髪を梳かしながらユーリは答えた
「ユーリは偉いよねぇ。ちゃんと髪乾かして」
「普通乾かすだろ…お前はもーちっと気にしろよ。折角綺麗な髪なんだから、傷んだらもったいねぇだろ」
「もう…いーよ、そうゆうのー!」
少し恥ずかしくなって顔が熱くなる
綺麗だとか、そういうこと言われるのは本当に慣れない
「ホントの事だから何度だってオレは言うぜ?…ほら、乾いたぜ」
そう言ってドライヤーを置くと、急に押し倒される
「わっ…!」
「ほーら、明日も早いし、もう寝るぞー」
そう言いながら、ユーリは電気を消す
…押し倒されて、それどころじゃないけど、眠いのも事実だ
現に電気が消えて暗くなったせいか、もう眠りそうだ
「おやすみ、シア。…明日、絶対1位になってやるから、ゴールで待っててくれよな?」
「言われなくても、ゴールで待ってるよ。……おやすみ、ユーリ」
ぎゅっと、ユーリに抱き寄せられる
この腕の中が1番落ち着く
そっと頭を撫でられる感触が心地よくて、すぐに目を閉じた
あれから数日…
なんか、ユーリとフレンに走ったのバレてたらしく、今日まで散々心配された
いやもう、走ろうとする度に止められるの、何とかならないかな…
大丈夫だって言ってるのに聞く耳持たずだし…
…まぁ、それはいいとして…
「…うん、大丈夫そう…かな」
姿見鏡の前でクルっと1回転する
いつもよりも少し高めの位置で結んだ髪が回転に合わせて揺れる
競技には参加出来ないけど、せめて服装くらいはちゃんとしておかないと、ね
「シア!そろそろ行こうぜ!」
「…うん!今行くー!」
下の階から聞こえてきたユーリの声に答えて鞄片手に部屋を飛び出した
「うっわ…派手すぎじゃねぇの?」
学校に着くなり、ユーリは苦笑いしながら辺りを見回した
…確かに、例年に比べたら派手かもしれない
「ふふ、先生達も張り切っているのよ。初めての中高合同体育祭なのだもの」
クスリとジュディスが笑いながら言う
「だとしてもよ、浮かれすぎじゃない?」
「…まぁ、いいんじゃない?たまにはさ」
呆れ気味なリタに肩を竦めながら言う
浮かれすぎって言うのには賛成だけど、たまーにならいいと思う
…たまーになら、ね
「さてと…それじゃあわたし、やる事あるから
お昼にね!」
そう言いながらみんなから離れる
「おう、昼になったら門前集合だからな!」
「母さん達が張り切ってお弁当用意してくれているから、必ず来るんだよ!」
「わかってるよー!」
ユーリとフレンの声に答えながら、職員テントの方へと向かった
「お、来た来た。おはようさん、アリシア」
「おはようございます、先生」
テントに着くなり、レイヴン先生の姿がそこにはあった
「おはようございます」
わたしの後に続いて、ウィチル先輩がテントに入ってくる
「うむ、2人ともいるな」
最後にアレクセイ先生がテントに入ってきた
「それじゃあ、最終調整しましょーか」
レイヴン先生はそう言って、マイクの電源を入れていた
『あーあー…テステス…お、大丈夫そうねん』
校庭にレイヴン先生の声が響いて、辺りが少し静かになる
『んじゃまぁ、各クラスの学級委員は出席確認して、本部のテントまで来なさいね〜』
カチッとマイクの電源が切れると、また辺りが騒がしくなる
「アリシアさん、今のうちに軽く最終読み合わせしましょうか」
台本を取り出しながら、ウィチル先輩は言う
「えぇ…入りますか、それ…?結局本番は台本無意味ですよ?」
「…ですね。まぁ問題はないでしょう」
台本をしまいながらウィチル先輩はニヤリと笑った
「なんせ、ぼくらでやるんですから、ね?」
「…まぁ、そういう事ですよ」
ニコッと笑い返すと、彼は満足そうに微笑む
「よし、全クラス集まったぞ」
何枚もの紙を見ながらアレクセイ先生が言う
「んじゃま、いきましょか」
レイヴン先生の合図に、わたしとウィチル先輩は力強く頷いた
…こんなに大勢の前で喋るの、いつぶりだろう
そう思うと、なんだかワクワクしてくる
『あー、んじゃ、全校生徒、気をつけー!』
レイヴン先生の声に校庭が一気に静まり返る
『これより、ヴェスペリア学園中等部・高等部合同体育祭を開催する!
…んじゃ、こっから先は係に交代するわね〜』
ピッシリ締まった筈なのに、先生のその一言で全部吹き飛んだって…
アレクセイ先生めちゃくちゃ睨んでるし…
ウィチル先輩と目で合図を交わすと、最初にマイクを取ったのは先輩だった
『えーっと、式を始める前に、今回の体育祭の進行形、並びに実況を務めます、高等部2年ウィチルと』
先輩はそこまで言うとわたしにマイクを向けてくる
…大丈夫、いつも通りやればいいんだ
『…高等部1年、アリシアです』
わたしが喋った途端、ざわめきが大きくなる
…うわぁ…これ大丈夫かな…
『以上、元中等部演劇部のツートップでお送りして行きます。例年通り、優勝したチームの成績トップクラスには高等部文化祭1日目の演劇部の劇を、先頭で見られる特別券を発券しています!今年はなんと!アリシアさんが主役ですから、各クラス、力を合わせて全力で競技に当たってくださいね!』
……ん?え、?ちょっ……っ?!
『ちょっ、先輩っ!?なんで今言うんです?!それ当日まで秘密って約束じゃないですかっ!?』
唐突なカミングアウトに、マイクの電源切るのも忘れて言ってしまった…
体育祭の優勝チームの中でも特に点を多く獲得したクラスに、文化祭の演劇部の劇の特別券が発行されるのは、中等部も高等部も同じ
合同でも例外はなく、中等部から1クラス、高等部から1クラスずつ最優秀クラスが決められる
それは、確かに前日に理事長先生から前日に全生徒に校内放送で伝えられていた
いたけど……!!!
これもう後でユーリに文句言われるじゃんかぁ……!!
『はいはい、それでは!プログラム1番、ラジオ体操ですよー!体育委員さんよろしくお願いしますね!』
ウィチル先輩はわたしの言葉に耳も傾けずにそう言ってマイクの電源を切った
…なんかもう、若干雄叫びみたいなのがあがってるんだけど…!?
「…先輩………!」
中等部の3年間、毎年文化祭の劇には役をもらって出ていた
1年の時は体育祭の最優秀クラス争いも酷くなかったけど、その後の2年間は争奪戦だった
というのも、だ
1年の時、たまたまわたしとウィチル先輩のダブル主役で劇をやったら、思ってた倍くらい大盛況で、本来1日目だけだったのが、2日目も急遽やることになったくらいだ
で、その後の2年間も、わたしは劇で主役として立つって事前情報がどこからともなく流れてしまい、最前列で見たいと、大乱闘が起きていたのだ
……因みにわたしがいたクラスは中等部3年間負け知らずで、3年連続優勝と最優秀クラスをもぎ取っていた(←だいたいユーリとフレンが無双してたせい)
だから今年は言わないでって、先に言ってたのに…っ!
「仕方ないじゃないですか。こうした方が盛り上がるからってレイヴン先生に言われたんですよ」
「ちょっ、ウィチル!?」
「…先生、後で覚えておいてくださいね…?」
半分睨み気味にレイヴン先生を見ると、引き攣った顔でわたしを見てきていた
あーもう…本当にありえない…
「…はぁ……もう、どうしようもないですし…今は目の前の事だけに集中しますよ…」
そう言ってマイクの方を向く
もうこうなったらやけくそだ
「そうこないとですね!…あ、ほら、体操終わりますよ」
ウィチル先輩の声に耳を傾けると、体操の音楽は終盤を迎えていた
音楽が止まると同時に、ピッと笛の音が鳴った
『…プログラム2番、中等部3年による綱引きです。中等部3年は所定の場所に集まってください。…ついでにプログラム3番、借り物競走に出る人も集まってくださーい。後5分で競技始めますからねー』
「アリシアさん…めちゃくちゃ棒読みですよ…」
マイクの電源を落とした途端に、ウィチル先輩の呆れ声が聞こえてきた
「そう言われましても…ほら、この後からちゃんと元気になりますから、大丈夫ですよ」
ニコッと笑いかけると、先輩は苦笑いしながら入場門の方を見た
…そろそろ、かな
「それじゃあ……いきますか」
ニッと笑いかけながら、再びマイクの電源を入れた
『おっと、C組さん!ここで巻き返しかっ?!』
『いえ、B組さんも負けていないですよ?ここからが本番ですよ!』
わたしとウィチル先輩の声が歓声よりも大きく響く
現在、中等部の綱引きの最中
実況風のアナウンスに先生達もなんか盛り上がってるみたい
(因みに中高どっちもA〜Fクラスまであって、ACEが赤、BDFが白組で対戦してる)
赤組のわたしと、白組のウィチル先輩、チームが違うからより盛り上がる
『おーっ!ここで試合終了の合図だっ!勝ったのは…やった!!C組さんだっ!これで、中等部3年の綱引きは赤の勝ちですねっ!』
『くっ…!初戦を持っていかれましたか…。ですがまだまだここからですよ!プログラム4番障害物競走、プログラム5番高等部の50メートル走に参加する方は所定の位置まで!』
『次はプログラム3番、全学年のクラス代表による借り物競走です!張り切って行きましょー!』
わたしの掛け声で借り物競走に参加する生徒が入場する
…確か、これユーリ出てたはず…
…あ、いた、しかも先頭じゃん((
さて、何引くかなぁ〜?
『さぁさぁ、皆さんスタート位置につきましたね?』
『ではでは、第1走者からいっきますよー!』
無駄にテンションの高いわたしと先輩の声を合図に、体育委員の担当の人がピストルを鳴らした
鳴った途端にユーリがお題箱目掛けて飛び出す
…今更だけど、変なのはいってないよね…?
「アレクセイ先生っ!どこっ?!」
女子生徒の甲高い声が辺りに響く
「…」
声が聞こえた途端、先生はどこかに行ってしまった
『ありゃ、アレクセイ先生が逃亡しましたね』
放送席から逃げ出した先生を見送りながら、どこか他人事のように言う
この競技…中等部の時もだけど、誰かを連れて来いってお題多いんだよねぇ…
そのせいでみんな、敵クラスから逃げようと逃げ回ってる
まぁ…同じクラス同士でも逃げてるけど
『他の先生や生徒も、逃げ回っていますね〜…おーっと!放送席に向かって走ってくるあのシルエットは…高等部1年C組のローウェル君だぁ!』
それを聞いた瞬間にマイクの電源を切る
「…ちょっとわたし席外しま」
そう言って逃げようとした
「バッカ!行くなっ!負けるだろ?!」
が、時すでに遅し…
ユーリにとっ捕まりました←
「いや、わたしが行っても足でまと」
「いにならねぇから!」
ユーリはそう言うと、思い切りわたしの腕を引っ張ってそのままお姫様抱っこされた
いや、めちゃくちゃ目立つよ!?
「っつーことで借りてくな!」
『あっ!ちょっ!ローウェルくーん!?…ありゃぁ、アリシアさん借りて行かれちゃいましたねぇ…ってぼく1人で実況ですか!?寂しいですよ?!』
ウィチル先輩の声も気にせずにユーリは担当の先生の方へ走る
「ねー、これどーするの…めちゃくちゃ目立ってるってー…」
「お前もう既に充分目立ってるだろ?…それに、今年の最優秀賞は、逃せねぇんだよ」
至って真剣な目でユーリが言うからため息しか出ないよ…
…やっぱり今年も最優秀クラス賞狙ってるな…
「おー、ローウェルが1番か。どれどれ…。……あー、はいはい、お前らもういいよ、1番な」
中等部3年の時の担任が担当だったんだけど…
え、何その呆れた目…
「先生、それなんて書いてあります?」
「…【彼女】」
………マジデスカ…
誰だしそんなの書いたの…
先生にもバレたじゃん…!
「あ、アリシアはちゃんと責任もって返して来いよー」
「わーってますよ。流石にこの乱闘の中1人で動かせらんねぇっすよ」
「えー…その言い方はひどーい」
あまりにも先生もユーリも真剣に言うから、なんかもう呆れた
『あっ!アリシアさん!ようやく帰って来ましたね!』
放送席に着くなり、ウィチル先輩が嬉しそうに言う
「ほい、返しに来ましたよっと。…んじゃシア、また後でな」
ユーリはそう言って走って戻って行った
『それでそれで?紙にはなんて書いてあったんですかねぇ〜?』
茶化すようにウィチル先輩が言ってくる
…あーこれ、恥ずかしがったら終わるやつだ
いじり殺される←
『【彼女】って書いてあったらしーですよー』
『おお??いつの間にそんな関係になったんですかねぇ〜?』
『先輩…うるさいですよ?いいじゃないですかいつだってー。…ほら、先輩がそんなところに意識向けてるから、白組さん負けてますよ??
はいはーい!赤組さんその勢いで頑張れ〜!』
『え?あぁっ?!し、白組さーん!今からでも巻き返せる!巻き返せますから頑張ってくださーーいっ!!』
『いや先輩…流石にこの差は諦めるべきですよ…。っあーっと!残りのレースでは巻き返せない程の差が出た!やった!赤組勝利確定ですよ!』
『うっ…流石にこれは…。で、でもまだまだ…っ!これからが本番ですよ!ここで負けても巻き返しのチャンスはいくらだって…っ!』
『はいはい、終了ーっ!全レース、只今終了しましたよーっ!借り物競走の結果は赤組さんの勝利でーす!今年は時間がないのでサクサク行きますよー!次は障害物競走ですよっ!』
『くっ…!つ、次こそは…っ!プログラム6番、中等学部女子によるムカデ競走に参加する生徒は入場門前に集まってくださいね!』
『ついでにプログラム7番、高等学部男子によるパン食い競走に参加する生徒も集まっておいてくださいねー!』
ーーそしてーー
『はいはーいっ!以上で午前の部を終わりとしまーす!』
『午後はプログラム15番、中高等部男子の棒倒し競走から始まりますので!始まる5分前には入場門に集まっておいてくださいね!』
『その次はプログラム16番、中高等部女子の棒取り合戦をするので、準備しておいてくださいね!』
『それではお昼休憩に入ります!午前の部の司会進行並びに実況は高等部1年アリシアと』
『同じく高等部2年ウィチルでしたー!』
『まぁ、と言っても午後もわたし達でやるんですけどねー』
『そういうわけで!午後もよろしくお願いしますねっ!』
そう言ってマイクの電源をオフにする
「…っあぁぁ……疲れたぁ…」
そのまま目の前にある机の上に突っ伏す
流石に4時間近くぶっ通しで喋るのはキツかった
まぁ楽しくはあったけどさ…
「それにしても、大分盛り上がっていますねぇ。流石アリシアさん」
「ウィチル先輩のおかげですよ。わたし1人じゃここまで出来ないですもん」
ウィチル先輩の方を向きながらそう言うと、彼は嬉しそうに目を細めた
「ぼく1人でもこうはなりませんよ。…さ、ぼくらも少し休みましょう。ユーリさん達とお昼食べるのであれば、早く行った方がいいんじゃないですか?」
「あっ、そうでした…!それじゃあ先輩、また後で!」
慌てて立ち上がって、わたしは待ち合わせの場所に急いだ
やばいなぁ…ユーリ達、怒ってなければいいけど…
「アリシア!あんた何処ほっつき歩いていたのよ!」
門の前つくと、案の定リタに怒られた
「ごめん、ごめん!ちょっと疲れちゃってさ」
「そりゃそうだろうな。なんたって4時間ぶっ通しで喋り続けてたもんな」
「それにしても、まさか文化祭まで出るなんて知らなかったよ」
「私もびっくりしました!…でも、いつの間に演劇部に入部してたんです?」
エステルの問に思わず顔が引きつった
「…それはジュディスがよく知ってると思うよ?」
ニコッと笑いながら彼女を見ると、ほんの少し苦笑いをしていた
「あら…そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない」
「全くもう、わたしが1番驚いたんだからね!?」
そう言うが、ジュディスに悪気があったわけじゃないのは知ってる
…知ってるけど、さぁ…
「…ジュディ、お前…まさか勝手に届け出したのかよ…」
事情を察したらしいユーリが大きくため息をついた
「入るつもりだと思ってたから、先に出しておいてあげたのよ」
「わたしが頼んだみたいな言い方しないでよ…
…それより、早くご飯食べよ?わたし、午後も放送だし…」
ふぅ…っとため息をつきながらみんなを促す
ホントにもう、お腹空いてヤバい
「そうだね。行こうか」
フレンの言葉を合図に、ユーリとフレンの両親のいる場所に向かった
2人の両親からお弁当を貰うと、わたし達だけでゆっくり食べて、と言って去って行った
レジャーシートを敷いて、その上にお弁当を並べた
相変わらず美味しそうなご飯だ
「それじゃ、食べようか」
「「いただきます」」
みんなでそう言ってお弁当を食べ始める
「ふふ、やっぱりユーリとフレンのお母さんの
ご飯は美味しいね」
ニコッと笑いながらそう言った
毎年みんなの分のお弁当を作って来てくれていて、本当に有難い
「ええ、とっても美味しいです!」
「また母さんに伝えておくよ」
ニコッと笑いながらフレンはそう言った
毎年みんなでお礼言ってるけど、食費渡そうとするといつも断られるんだよなぁ…
お弁当作るのもタダじゃないし、手間がかかっているだろうから、そこだけは少し申し訳ない…
「それにしても、あんたがまた主役ねぇ」
ご飯を食べながらリタはぽつりと呟いた
「…先に言っておくけど、わたしがやるって言ったわけじゃないからね?」
「わかってるわよ。どーせあのリンゴ頭先輩に言われて無理矢理、でしょ?」
半分興味なさそうにリタは言う
ウィチル先輩とリタは両親が同じ仕事をしているらしく、昔からの仲らしいんだけど…
…まぁ、仲がいいわけじゃない
どちらかと言えばめっちゃくちゃ悪い方だ
いっつも顔合わせる度に言い合いしてるし…
いやまあ言い合いというか、ウィチル先輩がリタに突っかかってるっていうか…
「シアが主役やんなら、ぜってぇ最優秀賞とらねぇとな」
「そうだね。何がなんでも勝たないといけないね」
「…そんな面白い劇じゃないよ?」
「あん?んなもん関係ねーって。シアが出てるか出てねーかが重要なんだよ」
相変わらずの反応に思わずため息が出る
「この調子じゃ、来年もこうなりそうね」
クスリと笑いながらジュディスが言う
…誰のせいだ、誰の
ジト目でジュディスを見つめるとニコッと彼女は笑いかけてきた
……反省してないな、これ
そんなわたしの隣でエステルはプログラムを開き始めた
「えーっと、この後は……ユーリ達が棒倒しで、それが終わったら私たちの棒取りですね」
「棒倒しと棒取りって倒すか取り合うかの違いよね」
「確かにそうだけど、今年の棒倒しは大変そうよね」
「あー…やばいだろうな」
「練習の時点で乱闘だったからね」
遠い目でユーリとフレンは呟く
……これ、怪我人出ないよね…?
「2人とも、怪我だけはしないでね?」
わたしが2人にそう言うが、当の本人達はわたしから目線を逸らす
…………怪我するつもりか、この2人……
「棒倒しもだけど、棒取りも今年は乱闘になりそうじゃないかい?」
話を逸らすようにフレンはエステル達を見た
「あら、そうでもないわよ?」
「むしろ逆よ、逆。中等部はユーリとフレンを狙ってた子達が彼女出来たこと知って、戦意消失してるわよ」
「高等部もそんな感じよ」
「ったく、死ぬ気で頑張ってんのは男子だけだぜ?こっちは最優秀賞かかってるってのにら」
「…だからさっきあんな大胆なことしなきゃよかったのに…」
「ありゃ手に取ったやつが悪かっただけだっての」
「フレンも、わたしが競技してる時にあんなに大声で応援しなくても良いんですよ?」
「エステリーゼが頑張っているんだから応援はしないとね。それに、僕らに彼女が出来たからってやらない彼女達が悪い」
そんな2人の発言にエステルと2人、思わずため息をついた
自分たちが人気者なのを全く理解してないな、この2人…
「それよりアリシア、あんたそろそろ戻らないといけないんじゃない?」
リタが時計をチラッと見ながら声を掛けてきた
時計を見ると、午後の放送をかけないといけない時間が迫っていた
「やばっ!戻らないと…!」
食べ終わったお弁当の蓋を閉じて立ち上がる
「ごめん!もう行くね!おばさんにありがとうございますって伝えて!」
「わーってるよ。…放送、頑張れよ」
「うん!ユーリ達も、残りの競技頑張って!」
早口でそう告げてみんなの元を離れた
少し駆け足で放送席へと急ぐ
ついついのんびり話してしまったのがいたい…
「ごめんなさい!遅くなりました!」
そう言いながら放送席に飛び込んだ
「お、戻ってきたわね。まだ時間あるか、大丈夫よ」
ニコッと笑いながらレイヴン先生がわたしを見た
間に合ってよかった…
ほっとしながら自分の席につく
「息が切れてますけど、大丈夫ですか?」
少し心配そうにウィチル先輩がわたしの顔を覗き込む
「あはは…ちょっと慌てて来たので…」
そこまで言って思い出す、昼の薬を飲むの忘れたことに…
…やばい、放送持たないかも…
「シア!薬忘れてるぞ!」
天幕の外からユーリの声が聞こえる
「アリシア…薬飲んでないのか?」
呆れ気味にアレクセイ先生がわたしを見つめてくる
それに苦笑いするしかできなかった
「ユーリ君、入っていいわよん」
そう言ってレイヴン先生がユーリを中に招き入れた
薬と水筒を持って、肩で息をするユーリの姿が目に入る
「ったく…慌てすぎだっつーの……」
そう言ってユーリはその2つをわたしに手渡した
「…ごめん、完全に忘れてた」
それを受け取って薬を飲む
これ飲んでおかないとホントに放送続けられなくなる
「ふぅ……ありがとう、ユーリ」
「このくらいどうってことねーよ。んじゃオレ戻っから」
そう言ってユーリは戻って行った
そんな様子をウィチル先輩は横でニヤニヤしながら見ていた
「…なんですか?」
「いやぁ?元々心配性だったローウェル君が、更に心配性になっていたなぁ、と思って」
「…やっぱりそう思います?」
「はい、とっても」
…やっぱり周りから見てもそうなんだ…
「2人共、お喋りもいいがそろそろ時間だ」
アレクセイ先生の言葉にわたしとウィチル先輩はマイクの方を向く
さぁ、ラストスパートだ
『あー、あー……よし、大丈夫そうですね。えー、それでは間もなく午後の競技を開始致します!中高等部男子は速やかに入場門前へ集まって下さい!』
『同じく中高等部女子の皆さんも所定の位置へ集まってくださーい!』
わたし達の声に全生徒が動き出す
先生達が誘導しているのがここからでもよく見える
誘導が終わると合図が送られてくる
『では、準備が終わったようなので午後の競技を始めたいと思います!』
『プログラム15番、中高等部男子による棒倒し合戦です!』
その声を合図に、男子生徒達が一斉にグランドに入場して行った
守るチームと攻撃しに行くチームに分かれ位置につく
フレンは守備で、ユーリは攻撃…か
『ではでは、準備はいいですかー?』
『さぁ、白組さん!挽回のチャンスですよー!』
『赤組さん、ここで更に差を付けちゃいましょー!』
『『よーい……』』
パァンッ!!
ピストルを合図に両チームの攻撃チームが相手の陣地に走り出す
誰よりも早くユーリが白組の守備チームの傍に辿りついていた
『おお!赤組さん早い!もう辿りついてる?!』
『赤組さんは守備チームが棒の周りを固める人とそこまで行くのを妨害する人に分かれているみたいですね〜。対して白組さんは棒が倒れないように全員で固めてるみたいですよ』
『え、守備チームの中で役割を分けるのはありなんですか…!?普通全員で守るものじゃ?!』
『わたしに言われても…先生たちが止めてないんで、いいんじゃないないんですか?』
『ず、ずるい…!』
『その文句は先生に言って下さいよー…。あ、ほら先輩、そんなとこに目がいってるうちに、白組さんの棒、倒れそうですよ?赤組さん、ファイトー!』
『…はっ?!え、ちょっ!白組さーん!!耐えて!!耐えてくださーーーい!!』
『赤組さん!!あともうちょっと!もう少………あーっと!ここで終了ーー!!なんと赤組さん!開始早々白組さんの棒を倒したー!!』
『あぁ!!?そ、そんなー…』
『ふっふっふ、これで赤組さん、またまた白組さんとの点数に差をつけましたね!!今年の優勝は赤組さんか?!』
『くっ…!!!まだですよ…!!午後の部はここからが正念場です!!』
『さぁ、どんどん張り切っていきましょー!!』
それから2時間……
体育祭1日目も終わりが近づいてきていた
『さぁ、本日最後の競技となります!』
『最後はチーム対抗リレーとなります!各クラスの代表は指定の位置へ集まって下さい!』
各クラスから代表が男女混合で一人選ばれ、1位を争う最終競技…
確か、わたしのクラスはユーリが選ばれてたはずだけど…
『各クラス代表が出揃ったようですね。この結果で今年の優勝チームが決まります!』
『最優秀クラスの発表は明日となりますが、最後の競技、正々堂々と最善を尽くしてくださいね!』
『それでは…チーム対抗リレー……』
『『よーーーい…………』』
パァンッ!!!
合図と共に最初の走者が走り出す
午後の唐突な白組の追い上げで点差は僅か
もしこのリレーで赤組が負ければ、今年の優勝は白組になる
…ちょっと頑張って欲しいな
『おっと、白組さん速い!!赤組さんを半周分突き放した!!これはもしかしたら、ありますよ!!』
『先輩、まだまだわからないですよ??赤組さんはまだ巻き返せます!!半周くらい余裕ですよ!!』
わたしの言う通り、徐々に距離が狭まってきていた
『白組さん!追いつかれてしまいますよ!!あと一周頑張って下さい!』
『追いつける!!赤組さん、追いつけますよ!!この調子で頑張ってくださいっ!』
『おっと、ここで両チームアンカーにバトンか渡ったー!!白組のアンカーは高等部3年のザギくん、赤組は高等部1年……ロ、ローウェルくん…?!』
あ、これ勝ったわ
『え、ちょ、まっ!アンカーにローウェルくんはずるいですよ!?』
『わたしに言わないでくださいよ…。ユーリ!!あと1周!!頑張ってー!!』
『アリシアさんっ!貴方がそんなこと言ったら…っ!あーほら!差が開いちゃったじゃないですか!!ザギくん頑張ってください!!まだ抜かせますよ!』
『わたしのせいですか?これ……。赤組さんも、みんなで応援しましょー!!』
『くっ…!そう言われると言い返せない!白組さん!!負けじと応援しますよ!!』
後半は応援合戦のように両チーム大声で声援を送る
ユーリの後をザギ先輩が追いかける
2人の距離はだいぶ近い
でも、この調子なら……
パンッパァンッ!
『先にテープを切ったのは赤組だぁ!!やった!勝った!!これで4年連続赤組の優勝だー!!』
『くっ…最後がローウェルくんでなければ…!!』
『ふふ、先輩、負けは負けですよ』
『あともう少しだったんですがねぇ…』
『さて、両チーム、今日1日お疲れ様でした』
『悔いなくやりきることは出来たでしょうか?』
『1日目の結果は赤組の勝利となりますが、体育祭はまだあと1日残っています』
『明日のマラソン大会、1等には例年通り図書券が贈呈されます』
『…えーっと、そして、総合1位を獲得したクラスには本年度は特別に……高等部文化祭、2日目、演劇部の劇を特等席で見られる券を発行……?!え、ちょっと!先輩!!わたしこれ知らないんですけど?!』
『あ、気づいちゃいました??今年の高等部演劇部の劇はなんと!1日目と2日目で違う劇をやりますからね!』
『それも今初めて聞きましたよ?!!』
『しかも主役はアリシアさんともう1人…スペシャルゲストをお呼びしますので!明日も1位目指して、頑張ってくださいね!』
『え、ちょっと、先輩?!』
『それではまた明日、放送でお会いしましょう!あ、スペシャルゲストの情報は明日放送内ですこーしだけ公開しますので、お楽しみに!』
『わたしの話は無視ですか…もーいいですよ……。……コホン、授賞式は例年通り明日のマラソン大会後に行います。本日はゆっくりと休んでくださいね』
『ヴェスペリア学園中高合同体育祭、本日放送を担当したのは高等部2年ウィチルと』
『高等部1年アリシアでした』
マイクを切るとグランドからのどよめきが聞こえてくる
そりゃそうだ、誰だって混乱する
…1番混乱しているのはわたしだ
「……先輩、どうゆう事ですか?」
ジト目で隣に座るウィチル先輩を見つめる
もう1つの劇のことなんて聞いてない
「ぼくじゃなくて部長に言ってくださいよ。ぼくと部長以外の演劇部員、全員知らないことですから」
「…先輩…部長って、まさか……」
「ええ、イエガー先輩ですよ」
その名前を聞いて思わずため息が出た
あの人いい加減っていうか、突拍子も無いことする人だからなぁ…
「はぁ……またあの人か…」
「まぁまぁ、そう言わずに。もう1つの劇も面白いと思いますよ?」
そうゆう問題じゃない
セリフ覚える量が増えるじゃないか…
「はっはっは、若人は元気でいいねぇ」
ケラケラと笑うレイヴン先生に思わず苛立つ
他人事だからってこの人は…
「レイヴン先生、アリシアまだいますか?」
天幕の向こう側からフレンの声が聞こえてくる
どうやら迎えに来てくれたようだ
「お、アリシアちゃん、お迎えが来たみたいよ」
そう言いながら、レイヴン先生は天幕の入口を開ける
フレンの他にジュディスの姿も目に入った
「あら、随分ぐったりしているわね」
クスリと笑いながらジュディスはわたしの方へ寄ってきた
「…疲れた…」
「ふふ、丸1日喋りっぱなしだったのだもの。無理ないわ。…お疲れ様」
そういうと、わたしに向かって手を差し出してきた
その手を取って立ち上がる
「それじゃあ、ウィチル先輩。また明日ですね」
「はい。明日も放送、頑張りましょうね!」
ニコッと互いに笑いかけあって、その場を後にした
〜帰宅後〜
夕飯も食べ終え、お風呂も済ませたわたしは部屋に戻ってきた
みんなもそれぞれ部屋で休んでいる頃合だろう
明日もあるし、早めに休まないといけないしね
「あー………疲れた………」
ベットの上でぬいぐるみに顔を埋める
1日喋り続けたせいで頬が痛い…
それでも、久しぶりの放送はとても楽しかった
やっぱりわたしのしょうに合っているんだろう
「シアー、お前また髪乾かしてないだろ」
ユーリの声と共にガチャリと部屋の扉が開く音が聞こえた
「って、おまっ!んな濡れた髪でベットに寝転んでるなよ!」
そう言うとわたしの腕を掴んでグッと引き寄せられ、ベットの縁に座らせられた
あまりにも強く引かれたから思わずムッとしてユーリを見上げた
「そんなに頬膨らませてんなって…」
呆れ気味にユーリはドライヤーでわたしの髪を乾かし始めた
「だって、痛かったんだもん」
ドライヤーの音に負けないように、少し大きめの声で言い返す
「…それは悪かった」
「…ユーリは髪乾かしたの?」
「あん?とっくに乾かしてるっての」
優しく髪を梳かしながらユーリは答えた
「ユーリは偉いよねぇ。ちゃんと髪乾かして」
「普通乾かすだろ…お前はもーちっと気にしろよ。折角綺麗な髪なんだから、傷んだらもったいねぇだろ」
「もう…いーよ、そうゆうのー!」
少し恥ずかしくなって顔が熱くなる
綺麗だとか、そういうこと言われるのは本当に慣れない
「ホントの事だから何度だってオレは言うぜ?…ほら、乾いたぜ」
そう言ってドライヤーを置くと、急に押し倒される
「わっ…!」
「ほーら、明日も早いし、もう寝るぞー」
そう言いながら、ユーリは電気を消す
…押し倒されて、それどころじゃないけど、眠いのも事実だ
現に電気が消えて暗くなったせいか、もう眠りそうだ
「おやすみ、シア。…明日、絶対1位になってやるから、ゴールで待っててくれよな?」
「言われなくても、ゴールで待ってるよ。……おやすみ、ユーリ」
ぎゅっと、ユーリに抱き寄せられる
この腕の中が1番落ち着く
そっと頭を撫でられる感触が心地よくて、すぐに目を閉じた
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