*1年生
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「…よし!!3週目終了っと!」
エンディングを見ながら指をパチンッと鳴らす
あれからなんだかんだ色々あって、2週間経った今でも学校に行けずじまいで…
体育祭がもうすぐ目の前にまで近づいてきている
わたしにだって係あるのに、ユーリとフレン、それにお医者さんと先生がみんな揃って駄目だって言うからそれさえ出来てないし…
これでまた文句言われたらどうしてくれるんだろう…
そんなこと考えながら、ゲーム機の電源を落として夕飯を作る作業に入る
ここ最近ずっとユーリの代わりに夕飯とかお弁当作ってるけど、なかなかユーリからの評判はいい
「毎日シアの作った飯が食いたい」なんてプロポーズ染みたことを言われたのもまだ記憶に新しい
そんなこと思い出してクスッと笑いながら冷蔵庫の中身を確認する
確か今日から体育祭まで授業無くなって全部練習に当てられるからってフレンとエステル、それにジュディスとリタも泊まりに来るって言ってたから、普段よりも多めにご飯作らないと
ユーリとフレンが泊まるのはわかる
だって2人の家、学校から結構遠いから
でもエステルたちが泊まりに来る理由がわかんない…
リタとジュディスはそんなに家遠く無いはずだし、エステルは毎日送り迎えがあるはずだし…
……とりあえず、今日の夕飯カレーでいいかな…時間ないし……
…まぁ、あの3人のことだ、どうせ「楽しそう!」とか言って便乗したに違いない←
…別に嫌ではないんだけど、さ
ーー数時間後ーー
「ただいまー…」
「もー…なんなのよ、あの教師ら…生徒よりも張り切ってどうすんのよ…」
「あら、楽しくていいじゃない」
「そ、そうゆう問題じゃないかと…」
「ま、まぁ怪我人も出ていないわけだし、とりあえずいいんじゃないかい?」
玄関の方からそんな会話が聞こえてきて顔を上げる
時計の針はもう7時を指していた
…あちゃぁ、毎年恒例とはいえ…やっぱりこの時間になっちゃったか
「シアー、飯にしよーぜー…」
そう言いながら入って来たユーリの表情には、かなり疲れが見えていた
フレンたちも随分ぐったりとした様子だ
「んー…ちょっとだけ待って。セーブするから」
目は画面に向けたまま答えると、呆れたようなため息が後ろから聞こえてきた
「アリシア…君、一体どれだけの時間ゲームをしているんだい?」
「えー?確かに長時間やってるけど…それでも1日8時間くらいだよ?」
「いや、やりすぎよ!?なによ8時間って!」
少し後ろを向いて首を傾げながら答えた途端にリタからの鋭いツッコミを受けた
「え、だって学校いる時間もだいたいそのくらいでしょ?」
「…つまり、普段学校行ってるはずの時間だけゲームに当てているって言いたいのかい?」
「ん!そうゆうこと!」
ニコッと笑うと、本気でため息をつかれた
これでも前よりは抑えてるつもりなんだけど…
「ま、それよりもご飯ご飯!」
そう言いながら立ち上がって、キッチンへと向かう
手を軽く洗ってからお皿を人数分取り出してカレーの入ったお鍋を火にかける
「今日はなーに作ったんだ?」
みんなが居るっていうのにそんなこと気にした素振りも見せずに、ユーリが後ろから抱き着きながらお鍋を覗き込んでくる
「唐突に人数増えたからカレーにしたんだ」
グルグルとかき混ぜながらそう答える
「…量、多くねえか?」
「え?そう…かな?」
「…ま、余ったとしても色々アレンジ出来るし問題ねえか」
「でしょ?…ほら、みんなー!取り来てよー」
温まったところで火を消してお皿に注いでいく
ん、我ながらに上出来だろう
「ったく、あんたら少しは人目を気にしたらどうなの?」
取りに来たリタが呆れ気味にため息をついた
「んー…そう言われてもわたしじゃどうにも出来ないし、ねぇ…?」
苦笑いしながらそう答える
実際問題わたしのせいじゃないし…
「リタ、仕方ないよ。ユーリなんだから」
次に聞こえたフレンの声は諦めが混じっていた
「おいこらフレン、どうゆう意味だよそれ」
あからさまに不機嫌なユーリの声が後ろから聞こえてくる
あーもうこれ、喧嘩モードじゃん…
「はいはい、喧嘩しないのー」
一応言うだけ言っておく
…いやまぁ、無理かもしれないけど…
「…わかってるっての、そんな体力ねーよ」
止まらないと思っていた喧嘩は、わたしが思っていた以上にあっさりと終わりを告げた
あれ珍しいなぁ
まあ、それだけ疲れて居るんだろう
「そう言えば、アリシアはいつから学校に来られるんです?」
不意に思い出したかのようにエステルが問いかけてくる
「あー、お医者さんからは明日から行っていいって言われたよ?」
そう答えると、エステルは嬉しそうに微笑んだ
「そうなんですね!実は今年の体育祭は、お父様に頼んで中高合同にしてもらったんですよ!」
「え?そうなの?」
「はい!これでアリシアに文句言う人も減るはずです」
「そうね。中等部の2年以上が集団になって高等部の外部組威圧する勢いで結束してるしね。さすが人気者のアリシアね。あれ、止めるの無理よ」
エステルの発言に加え、リタのカミングアウトに若干頭がフリーズしかけた
…いや待って
そこまでしなくても…
「ま、そこまでしなくたって、あいつらもう何もしてこねーはずだぜ?」
「そうだね。次何かやったら退学だからね」
シレッとユーリとフレンはそう言った
それ、そんなにシレッと言うことじゃないと思うんだけど…
「ふふ、だからやめておきなさいって注意しておいてあげたのに、言うこと聞かなかった彼らが悪いわね」
クスッと笑ったジュディスの目が怖かったのは気づかなかったことにしよう、うん
「…それよりもさ、ユーリ、そろそろどいてー」
抱き着いてきているユーリの手を軽く叩きながら訴える
もう注ぐの終わったのにユーリが引っ付いてるせいで動けない
「ん……わーったよ」
渋々と言った様子でユーリは離れる
みんなが居なかったら気にしないんだけどさ…
流石に気にするよね…
フレンの目怖いし←
「それじゃ、食べましょ?」
わたしとユーリが席に着くと、ジュディスがそう言って手を合わせた
みんなも手を合わせる
『『いただきます』』
〜次の日〜
「ふぁ……ねむ……」
学校について早々、机に突っ伏した
昨日作った夕飯はかなり評判良くて、みんな美味しいって言ってくれて嬉しかった
…なんか、そのノリで今日のお弁当みんなの分作ることになっちゃったんだけどね…!
流石に全員分は疲れた…
「全く、普段から朝早く起きないからだろう?」
呆れ気味に声をかけて来たのはフレンだ
ユーリは体育委員の仕事で、今日は1人で先に学校に来ている
…まだ、戻って来ないのかなぁ…
「朝弱いんだもん…仕方ないじゃんー…」
ぐでっとしたままそう言い返す
「あははっ、それもそうだったね。珍しく早起きしていたし、頑張っていたからね。今日は許してあげるよ」
クスクスっと笑いながら、フレンは頭を撫でてきた
「…わたし、そこまで子どもじゃない…!」
ムッと頬を膨らませながらそう反論するが、本人はまるで聞いていない
「おいコラ、フレン、朝っぱらから堂々浮気してんなよ」
「浮気なんてしてないだろう?アリシアの扱いは昔から変わっていないよ」
あからさまに喧嘩口調のユーリの声に顔を上げれば、心底詰まらなさそうに顔を歪めているユーリの姿が目に入った
「あ、ユーリ、遅かったね」
体を起こしてグッと伸びをしながら声をかける
「ん、悪ぃ悪ぃ。備品の数が足りなくてな。…ったく、誰だよ昨日片付けちゃんとしてねぇ奴。おかげでシアと居れる時間減ったじゃねぇか」
不機嫌オーラを隠すことも無く、ユーリはわたしに引っ付いてくる
…いや、ここ、学校…なんだけど…
「おーおー、朝からお熱いことで」
聞こえてきた声の方を向けば、ニヤニヤと笑いながらこちらを見てきている友人達の姿が目に入った
「そんなんじゃないって。勝手に引っ付いてきてるだけだよ」
「っとか言って、本当はアリシアも嬉しいくせにー」
同じようにニヤニヤと笑いながら、別の友人が言ってくる
…いや、確かに嫌じゃないけどさぁ…
「感動の再会してるとこ悪いけどさぁ、そろそろ席についてくれないかねぇ、お前さん達」
呆れ気味な声に顔を前に向けると、いつの間に入ってきたのか、レイヴン先生が教卓の前で腕を組んで苦笑いしながらわたし達を見つめていた
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
「ちっ、もう来やがったよ…」
謝ったわたしとは対照的に、ユーリは小声で文句を言いながら離れて席についた
いや、確かにいつもの倍くらい来るの早いけどさ…
「さてと、んじゃま出席は…よし、久しぶりに全員揃ったな」
ニヤリと何処か嬉しそうに微笑みながらレイヴン先生は教室を見回した
「じゃ、今日も今日とて体育祭の練習やるぞー。…あ、アリシアは絶対に参加するなよ?」
「…先生、それわたし学校来た意味ありますか…?」
「あるある、大いにあるぞ!お前さんには別で重要な役割をしてもらうことになっているからな!」
ニヤリと何処か気味の悪い笑みを浮かべて、先生はわたしを見つめてくる
…なんか、嫌な予感がするんだけど…
「そんじゃ、アリシア以外は校庭集合っ!1番最後の奴が今日の片付け係だからなー」
そう言ってレイヴン先生が手を叩くと、みんな一斉に立ち上がった
…そーいえば、片付けって、すっごい面倒だった気がする
「シア、また後でな!」
「絶対に、何があっても練習に参加しに来ちゃ駄目だからね!」
ユーリとフレンはそう言って、真っ先に教室を飛び出した
…早すぎて反論する暇もなかった…
「さてと…んじゃ、アリシアはこっちな?」
そう言ってレイヴン先生が入口の方で手招きしてくる
その先生の後を大人しくついていくと、何故か放送室に連れて行かれた
…いや、まさか、ね…?
「しっつれいしまーす!連れてきましたよー!」
何故かハイテンションでレイヴン先生は扉を開けた
「うるさいぞレイヴン先生。もう少し静かにせんか」
ため息をつきながらジト目でレイヴン先生を見つめているのはアレクセイ先生だ
…あれ、でも確かアレクセイ先生は中等部の担任だったはず…
「おはようございます先生。…あの、なんで高等部にいらっしゃるんですか?」
「今年は中高合同体育祭だからな。体育祭本番の中等部放送担当を任されたものだから、高等部担当と打ち合わせするつもりで来たんだが…」
「……蓋を開けてみれば、レイヴン先生だったと…?」
「…そういうことだ…」
やばい…あのアレクセイ先生から、なんかどす黒いオーラ出てる…!
絶対普段の先生からじゃ出ないようなものがダダ漏れてる…!
「まぁまぁ、同じ担当同士、頑張りましょーよっ!」
ニカッとレイヴン先生は笑って言うけど、アレクセイ先生はすっごい頬ピクピクさせてるんだけど…
「あの……わたし、なんでここに連れて来られたんですか…?」
「ん?あぁ、アリシアには、本番の放送任せようと思ってねっ!」
「……………はい………?」
唐突なカミングアウトに、わたしの思考が停止しました
え、いや……これ本気で言ってるの…?
「え?だってお前さん、演劇部でしょ?こうゆーの得意かな〜と思ってね」
ケラケラと笑いながらレイヴン先生は言ってくる
うわ、本気だったよこの人…
「い、いや、確かにそうですけど……でもわたし、高等部では演劇部入ってないですし…」
確かに中等部では3年間演劇部に入っていたが、高等部に上がってからは、入部届けも出してない
「…え、お前さん、それ本気で言ってる…?」
ものすごく意外そうな目でレイヴン先生は問いかけてくる
「本気ですけど…」
「あれぇ、おっかしいなぁ…高等部の演劇部のリストには入っていたんだけどねぇ…」
そう言いながら、レイヴン先生は冊子を捲っていた
「あ、ほら、やっぱり入ってるわよ?」
そう言って先生が見せてきたページには、確かにわたしの名前が入っていた
……いや、待って、わたし本気で身に覚えがないんだけど……
コンコンッ「失礼します……あっ!アリシアさん!ようやく見つけましたよっ!」
「へ?あっ、ウィチル先輩…っ!?」
「全くもう!演劇部に一度も顔を見せないなんて、どうゆうつもりですかっ!?」
放送室に入って来たのは、中等部の時の演劇部の先輩のウィチル先輩だ
中等部の時はツートップって言われてて、わたしとウィチル先輩が出る劇はいつも大盛況だった
「い、いや、見せるも何も、わたし入部届けなんて出てないですよ…!?」
「そんなわけないですよ!ちゃんとジュディスが持って来たんですから!」
「え、ジュディス…?!」
ウィチル先輩にそう言われて、慌ててジュディスに連絡を入れた
…数秒して返ってきた返信に、若干キレそうになる
『あら、今知ったの?彼の事だからてっきりもう言ってると思っていたわ。
入るつもりだろうと思って、代わりに出してあげておいたのだけれど…』
「……ジュディス……」
キレそう…
いやもうなんか、それを通り越して呆れたっていうか…
「えっと…手違い、ってこと…かな?」
若干寂しそうにウィチル先輩は問いかけてくる
「……そうなりますけど……でも、いいですよ。演劇は楽しいですし、役をやるのは好きですから。…半年もサボってたようなものですけど、それでもよければこれから行きますし」
そう言うと、先輩は嬉しそうに笑った
「全然!むしろウェルカムですよ!先輩達も、アリシアさんが来るのを待っているんですから、ぜひ来てください!!」
目をキラキラさせて先輩はそう言ってきた
あ、これダメだ、断れないやつだ
…いやまぁ断る気はないけどさ…
「あ、でも先に、医師に相談しないとですよね?」
遠慮がちにウィチル先輩が聞いてくる
中等部の時はもちろんお医者さんに許可をもらって、無理のない範囲で舞台に立っていた
「んー…まぁ…多分、先生もわたしが演劇部入ってるものだと思ってるかと…」
というのも、だ
演劇部で役を演じる度に喉を痛めていたから、中等部の3年間、ずっと喉の痛みを和らげる薬も処方してもらっていたんだけど、定期的にもらう薬の中にそれが未だに入ってる
先生も演劇部を辞めたかどうかなんて聞いてこなかったから、わたしも辞めたとは言ってないし、多分まだ続けてると思っているはず…
「じゃあ大丈夫そうですね」
嬉しそうに笑いながらウィチル先輩はわたしを見てきていた
「ジュディス……勝手にそうゆうことはしないでねって、散々言ってあったんだけどねぇ…」
何処か遠くを見つめながらレイヴン先生は呟いた
…って言うか、わたしだけじゃないんだ、被害者…
「…話はまとまったか?そろそろ打ち合わせをしたいのだが…」
ゴホンっと咳払いをしながらアレクセイ先生が言ってくる
…やばい、ここに来た趣旨を完全に忘れてた…
「いいですよー、さっさとやっちゃいましょ」
「…まず、放送担当の生徒だが…ウィチル、本当に2人でやるのか?」
アレクセイ先生は心配そうにウィチル先輩を見た
…え、あ、2人!?
「ぼくとアリシアさんなら問題ないですよ。むしろ、素人が入って来たら邪魔です」
メガネを押し上げながら先輩はキッパリと言い切った
…まぁ、確かにそうだけど…
「ウィチルはこう言っているが、アリシアはどうなんだ?」
「そうですね…2人だと休憩とかなさそうですけど、確かに他の人が入って来たらやりにくいですし…」
「なら2人にお願いしちゃっていいんじゃないっすかね?」
「…では、嫌々でなければ頼む」
「任せてください!…さ、アリシアさん、そうと決まれば早速練習ですよ!」
そう言うとウィチル先輩はわたしの手を引く
「え?あ、いや、先輩っ!?打ち合わせまだ終わっていないのでは…!?」
制止してみるものの、ウィチル先輩の耳にわたしの声は届いていないらしく、そのまま引き摺られるようにして放送室を後にした
……これ、後で怒られたりしないよね……?
「うん、流石アリシアさん。約1年練習してなかったはずなのに、相変わらずですね」
ニッコリと嬉しそうに笑いながらウィチル先輩はわたしを見る
誰もいない体育館で、現在進行形で発声&滑舌練習中なんだけど…
…ん、やっぱり舞台に立って声出すの好きだなぁ
「えへへ、ありがとうございます!」
「この分なら、放送の原稿も多少の読み合わせで大丈夫そうですね。…それじゃあ、ボクはそろそろ練習に戻らないといけないので行きますね。間違っても、校庭に来ては行けませんよ?」
「…先輩までそれ言いますか…。行かないですよー!」
わたしの答えに満足そうに微笑むと、先輩は体育館を後にして行った
…それにしても暇だ
完全にやることがなくなってしまった
まぁ完全にないわけじゃないんだけどさ…
「……仕方ないから、目通して置こうかな…」
そう呟いてさっき先輩から貰った台本を開く
文化祭で発表する劇…『黒ずきんと狼』
…これって、確か内容やばかった気がするんだけど…
そんなこと思いながら台本に目を通す
…半年もいなかったのに、わたしが主役の劇は絶対大盛況だからってとんでもない理由で、主役の黒ずきん役やることにされちゃってるし、内容頭に入れておかないと…
「……うわぁ……」
苦笑いしながらページをめくる
多少内容を変えてあるんだろうけど、やっぱり内容がやばい
誰だし、この台本選んだの…
…しかもわたしが主役って…
黒ずきん役とか絶対わたしのキャラ崩壊待ったなしなんだけど…!
ーーキーンコーンカーンコーンーー
「…あ、チャイム…」
ようやく午前は終了かぁ…
教室戻ったらお昼ご飯かな
ゆっくりと立ち上がって、わたしは体育館を後にした
「くっそ……マジで容赦なさすぎだろ……」
机に突っ伏したままユーリが悪態づく
現在お昼休み、なんだけど…
なんか熱中症の子が続出したらしく、午後の練習大幅に削って休憩するらしい
…熱中症の子を出すまで練習続けるなんて…流石ヴェ学……
息抜きにも手を抜かないんだから…
「それで、アリシアの方は大丈夫なのかい?」
「ん?んー…まぁ、何とかなるよ」
パックのジュースを飲みながらそう答える
放送担当って言うのは当日まで全校生徒に秘密
わたしとウィチル先輩がやるってみんなが知ったら、大騒動になりかねないってアレクセイ先生が既に根回ししてくれているらしい
……まぁ、確かに幾つか心当たりはある……
「ったく、当日まで何してっか秘密なんて、つまんねーの」
「仕方ないじゃん。先生が絶対言うなって言うんだもん」
不服そうな顔をしたユーリにそう言う
教えてあげたいのは山々なんだけど、ユーリに言ったら絶対全校生徒にバレる←
「いいじゃないかい、当日まで楽しみにしていればさ」
そんなユーリに若干呆れた表情を見せながらフレンは言う
「…だな、そうすっか」
ようやく諦めたらしいユーリはそう言って苦笑いすると、わたしに抱きついてきた
あーあ…またこれなんか言われるよ…
…というか、あの子達やけに静かだなぁ…
そう思ってチラッとあの子達の席を見ると、恨めしそうにわたしのことを睨んではきていた
おー、睨んでくるだけで収まってる
「そーいやシア、午後の練習、どうすんだ?」
「んー、どうするって言われても…今年も見てるだけだしねぇ」
唐突なユーリの問いかけに首を傾げる
放送は前日に先輩と軽く読み合わせするだけだし…
かと言って文化祭の劇の台本の方も粗方読み終わって内容も頭に入ってるし…
「お、居た居た…って、お前さん達…ここ学校なんですけどねー」
そんなことを考えていると、空いていた教室の扉からレイヴン先生が入ってきて、呆れ気味にため息をついていた
「あ?んなもん知らねーっすよ。…もしかして羨ましいんすか?」
ユーリがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているのが見なくてもわかるよ…
「ユーリ…失礼だろ?それに先生が言っていることが正しいんだし」
「はっ、そういうお前だってエステルがここに居たら抱き着いてるくせにな」
「あ、ちょ、ユーリ…!」
やばい、ユーリがフレンの地雷踏んだ
「…へぇ、僕に喧嘩売っているのかな…?」
案の定フレンの顔が強張った
あーあ…何してるんだか…
「あん?本当の事言っただけだろ?」
わたしから離れながらユーリはフレンを見る
これ、アレだ、わたしでもとめられないやつだ…
「あー…お前さんら…?」
「先生、ほっときましょう。…それで、何か用事あったんですか?」
「あ、あぁ…午後の時間は記録取るのを手伝ってもらおうと思ってな。それを伝えに来たのよ」
「あー、なるほど…って、この晴天の中ですか…?」
「いやまぁ、流石にテントは出してあるわよん」
苦笑いしながらレイヴン先生は言う
それなら平気…かな
「んじゃま、そう言うことだから、早めに校庭来てね~」
そう言って先生は教室から出て行った
…さてと…
「ユーリ、フレンー…そろそろ喧嘩辞めて校庭行こう?」
「大体お前は」
「そう言う君だって」
わたしの声は全く2人に届いていないらしく、尚言い合いを続けている
「……」プチッ
…いつもいつも、この2人は…
わたしだってそろそろキレるよ…?
というかキレたよ…?
「…あー、もう知らない。わたし先に行く」
そう言って自分の水筒を持って教室を出る
「おい!お前ら!アリシア行っちまうぞ!?」
教室から慌てたクラスメイトの声が微かに聞こえてきたけど知ったこっちゃない
真っ直ぐに下駄箱まで行って靴を履き替えて外に出る
…もうさ、倒れるの覚悟で練習ちょっとだけ出ようかな…
気分的に体動かしたい
「お、早かったな」
レイヴン先生の元に行くと、意外そうな顔をされた
「あー…ちょっとめんどくさくって、放置してきましたっ!」
ニカッと笑って言うと、先生は苦笑いをした
「はは…そーかい…。…んじゃま、とりあえず記録表ね。一応お前さんの記入欄もあるけど…」
ボードを渡しながら先生はチラッとわたしを見てくる
「…1回だけ、走っちゃダメですか?」
そう聞くと、やっぱりとでもいいたげに肩を竦める
「今日は保健の先生も立ち会ってくれてるし、みんなが来る前に1度ならいいわよん。…ただし、1度だけだからね?」
1度という単語を強く強調させて先生は言う
「はーいっ!」
元気よく答えて軽く準備体操を始める
わたしが走ると聞いてか、仲のいい先生たちが集まってくる
…いや、そんなに集まられても困るんだけど…
「…それじゃ、50メートルだけね?…準備はいい?」
「いつでもいいですよー」
そう答えて、スタート位置につく
「位置について……よーい」
ピッ
笛の合図で一気に走り出した
50メートルくらいなら多分平気だろうと全力で走る
ゴール地点には保健の先生が既にスタンバってるのが目に入った
…いや、だから…わたしどんな扱いさ…
ゴールしたと同時に先生に腕を掴まれて強制的に止められる
「はい、それ以上走らないの」
「うぇ……シャスティル先生…」
高等部の保健医のシャスティル先生、ある意味わたしの天敵だ
中等部に双子の妹のヒスカ先生が居るんだけど、2人揃ってわたしは苦手だ
…医師免許持ってる人は全員わたしの敵だ
【理由→自由に行動させてもらえないから】
「タイムは……12秒ね。運動させてもらえていない割りには速い方じゃない?」
レイヴン先生はストップウォッチを見ながらそう言った
「そう…なんですか?」
「そうだと思うわよ?…はい、あなたはもうテントの下で大人しく座った座った」
シャスティル先生はそう言って、半分引き摺るようにわたしをテントの下に連れて行った
「いい?絶っっっ対に、ここから離れてはいけないわよ?絶対よ?」
「先生…わかったから…」
肩を竦めてそう言うと、先生は満足そうに微笑んで少し離れた場所に移動した
…そもそも、そこにいたら離れられないけど…
「んじゃ、記録つけるの、任せたわよん」
レイヴン先生はそう言いながら、記録表をわたしに手渡してきた
「はーい!」
表を受け取ってシャーペンを手に持つ
昇降口からは生徒が続々と出て来ていた
…さてと、頑張りますか
ーーそして数時間後ーー
「はい、じゃー今日はここまで!今朝最後だった奴らは片付けだから、勝手に帰るなよ〜」
先生の声が校庭に響く
辺りはすっかり暗くなっていた
ここから見てた限り、ユーリとフレンの喧嘩はとりあえず収まっていたっぽい
「アリシア!帰りましょう!」
ニコニコと笑いながらエステルが駆け寄って来た
「ん、帰ろっか。鞄取ってくるからちょっと待ってて!」
そう言って椅子から立ち上がる
「いや、僕が全部取ってくるよ。アリシアはユーリと先に帰り始めてて」
「悪ぃな、頼むわ」
…あれ、いつの間に仲直りまで終わったの…?
「ほら、行こうぜシア」
「え?あー…うん、行こっか!」
…ま、いっか、仲直りしてくれたんだったらね
「それにしても、相変わらずユーリとフレンは速いですね!」
「だよねぇ。記録付けてたけどぶっちぎりだったもん」
エステルと2人、そんな話をしながら歩く
当のユーリ本人は何故か無言で後ろを着いてきていた
「ユーリ?どうかしましたか?」
「あ…?あー…いや、なんでもねぇよ」
ほんの少し肩を竦めながらユーリは言う
…変なユーリ…
エンディングを見ながら指をパチンッと鳴らす
あれからなんだかんだ色々あって、2週間経った今でも学校に行けずじまいで…
体育祭がもうすぐ目の前にまで近づいてきている
わたしにだって係あるのに、ユーリとフレン、それにお医者さんと先生がみんな揃って駄目だって言うからそれさえ出来てないし…
これでまた文句言われたらどうしてくれるんだろう…
そんなこと考えながら、ゲーム機の電源を落として夕飯を作る作業に入る
ここ最近ずっとユーリの代わりに夕飯とかお弁当作ってるけど、なかなかユーリからの評判はいい
「毎日シアの作った飯が食いたい」なんてプロポーズ染みたことを言われたのもまだ記憶に新しい
そんなこと思い出してクスッと笑いながら冷蔵庫の中身を確認する
確か今日から体育祭まで授業無くなって全部練習に当てられるからってフレンとエステル、それにジュディスとリタも泊まりに来るって言ってたから、普段よりも多めにご飯作らないと
ユーリとフレンが泊まるのはわかる
だって2人の家、学校から結構遠いから
でもエステルたちが泊まりに来る理由がわかんない…
リタとジュディスはそんなに家遠く無いはずだし、エステルは毎日送り迎えがあるはずだし…
……とりあえず、今日の夕飯カレーでいいかな…時間ないし……
…まぁ、あの3人のことだ、どうせ「楽しそう!」とか言って便乗したに違いない←
…別に嫌ではないんだけど、さ
ーー数時間後ーー
「ただいまー…」
「もー…なんなのよ、あの教師ら…生徒よりも張り切ってどうすんのよ…」
「あら、楽しくていいじゃない」
「そ、そうゆう問題じゃないかと…」
「ま、まぁ怪我人も出ていないわけだし、とりあえずいいんじゃないかい?」
玄関の方からそんな会話が聞こえてきて顔を上げる
時計の針はもう7時を指していた
…あちゃぁ、毎年恒例とはいえ…やっぱりこの時間になっちゃったか
「シアー、飯にしよーぜー…」
そう言いながら入って来たユーリの表情には、かなり疲れが見えていた
フレンたちも随分ぐったりとした様子だ
「んー…ちょっとだけ待って。セーブするから」
目は画面に向けたまま答えると、呆れたようなため息が後ろから聞こえてきた
「アリシア…君、一体どれだけの時間ゲームをしているんだい?」
「えー?確かに長時間やってるけど…それでも1日8時間くらいだよ?」
「いや、やりすぎよ!?なによ8時間って!」
少し後ろを向いて首を傾げながら答えた途端にリタからの鋭いツッコミを受けた
「え、だって学校いる時間もだいたいそのくらいでしょ?」
「…つまり、普段学校行ってるはずの時間だけゲームに当てているって言いたいのかい?」
「ん!そうゆうこと!」
ニコッと笑うと、本気でため息をつかれた
これでも前よりは抑えてるつもりなんだけど…
「ま、それよりもご飯ご飯!」
そう言いながら立ち上がって、キッチンへと向かう
手を軽く洗ってからお皿を人数分取り出してカレーの入ったお鍋を火にかける
「今日はなーに作ったんだ?」
みんなが居るっていうのにそんなこと気にした素振りも見せずに、ユーリが後ろから抱き着きながらお鍋を覗き込んでくる
「唐突に人数増えたからカレーにしたんだ」
グルグルとかき混ぜながらそう答える
「…量、多くねえか?」
「え?そう…かな?」
「…ま、余ったとしても色々アレンジ出来るし問題ねえか」
「でしょ?…ほら、みんなー!取り来てよー」
温まったところで火を消してお皿に注いでいく
ん、我ながらに上出来だろう
「ったく、あんたら少しは人目を気にしたらどうなの?」
取りに来たリタが呆れ気味にため息をついた
「んー…そう言われてもわたしじゃどうにも出来ないし、ねぇ…?」
苦笑いしながらそう答える
実際問題わたしのせいじゃないし…
「リタ、仕方ないよ。ユーリなんだから」
次に聞こえたフレンの声は諦めが混じっていた
「おいこらフレン、どうゆう意味だよそれ」
あからさまに不機嫌なユーリの声が後ろから聞こえてくる
あーもうこれ、喧嘩モードじゃん…
「はいはい、喧嘩しないのー」
一応言うだけ言っておく
…いやまぁ、無理かもしれないけど…
「…わかってるっての、そんな体力ねーよ」
止まらないと思っていた喧嘩は、わたしが思っていた以上にあっさりと終わりを告げた
あれ珍しいなぁ
まあ、それだけ疲れて居るんだろう
「そう言えば、アリシアはいつから学校に来られるんです?」
不意に思い出したかのようにエステルが問いかけてくる
「あー、お医者さんからは明日から行っていいって言われたよ?」
そう答えると、エステルは嬉しそうに微笑んだ
「そうなんですね!実は今年の体育祭は、お父様に頼んで中高合同にしてもらったんですよ!」
「え?そうなの?」
「はい!これでアリシアに文句言う人も減るはずです」
「そうね。中等部の2年以上が集団になって高等部の外部組威圧する勢いで結束してるしね。さすが人気者のアリシアね。あれ、止めるの無理よ」
エステルの発言に加え、リタのカミングアウトに若干頭がフリーズしかけた
…いや待って
そこまでしなくても…
「ま、そこまでしなくたって、あいつらもう何もしてこねーはずだぜ?」
「そうだね。次何かやったら退学だからね」
シレッとユーリとフレンはそう言った
それ、そんなにシレッと言うことじゃないと思うんだけど…
「ふふ、だからやめておきなさいって注意しておいてあげたのに、言うこと聞かなかった彼らが悪いわね」
クスッと笑ったジュディスの目が怖かったのは気づかなかったことにしよう、うん
「…それよりもさ、ユーリ、そろそろどいてー」
抱き着いてきているユーリの手を軽く叩きながら訴える
もう注ぐの終わったのにユーリが引っ付いてるせいで動けない
「ん……わーったよ」
渋々と言った様子でユーリは離れる
みんなが居なかったら気にしないんだけどさ…
流石に気にするよね…
フレンの目怖いし←
「それじゃ、食べましょ?」
わたしとユーリが席に着くと、ジュディスがそう言って手を合わせた
みんなも手を合わせる
『『いただきます』』
〜次の日〜
「ふぁ……ねむ……」
学校について早々、机に突っ伏した
昨日作った夕飯はかなり評判良くて、みんな美味しいって言ってくれて嬉しかった
…なんか、そのノリで今日のお弁当みんなの分作ることになっちゃったんだけどね…!
流石に全員分は疲れた…
「全く、普段から朝早く起きないからだろう?」
呆れ気味に声をかけて来たのはフレンだ
ユーリは体育委員の仕事で、今日は1人で先に学校に来ている
…まだ、戻って来ないのかなぁ…
「朝弱いんだもん…仕方ないじゃんー…」
ぐでっとしたままそう言い返す
「あははっ、それもそうだったね。珍しく早起きしていたし、頑張っていたからね。今日は許してあげるよ」
クスクスっと笑いながら、フレンは頭を撫でてきた
「…わたし、そこまで子どもじゃない…!」
ムッと頬を膨らませながらそう反論するが、本人はまるで聞いていない
「おいコラ、フレン、朝っぱらから堂々浮気してんなよ」
「浮気なんてしてないだろう?アリシアの扱いは昔から変わっていないよ」
あからさまに喧嘩口調のユーリの声に顔を上げれば、心底詰まらなさそうに顔を歪めているユーリの姿が目に入った
「あ、ユーリ、遅かったね」
体を起こしてグッと伸びをしながら声をかける
「ん、悪ぃ悪ぃ。備品の数が足りなくてな。…ったく、誰だよ昨日片付けちゃんとしてねぇ奴。おかげでシアと居れる時間減ったじゃねぇか」
不機嫌オーラを隠すことも無く、ユーリはわたしに引っ付いてくる
…いや、ここ、学校…なんだけど…
「おーおー、朝からお熱いことで」
聞こえてきた声の方を向けば、ニヤニヤと笑いながらこちらを見てきている友人達の姿が目に入った
「そんなんじゃないって。勝手に引っ付いてきてるだけだよ」
「っとか言って、本当はアリシアも嬉しいくせにー」
同じようにニヤニヤと笑いながら、別の友人が言ってくる
…いや、確かに嫌じゃないけどさぁ…
「感動の再会してるとこ悪いけどさぁ、そろそろ席についてくれないかねぇ、お前さん達」
呆れ気味な声に顔を前に向けると、いつの間に入ってきたのか、レイヴン先生が教卓の前で腕を組んで苦笑いしながらわたし達を見つめていた
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
「ちっ、もう来やがったよ…」
謝ったわたしとは対照的に、ユーリは小声で文句を言いながら離れて席についた
いや、確かにいつもの倍くらい来るの早いけどさ…
「さてと、んじゃま出席は…よし、久しぶりに全員揃ったな」
ニヤリと何処か嬉しそうに微笑みながらレイヴン先生は教室を見回した
「じゃ、今日も今日とて体育祭の練習やるぞー。…あ、アリシアは絶対に参加するなよ?」
「…先生、それわたし学校来た意味ありますか…?」
「あるある、大いにあるぞ!お前さんには別で重要な役割をしてもらうことになっているからな!」
ニヤリと何処か気味の悪い笑みを浮かべて、先生はわたしを見つめてくる
…なんか、嫌な予感がするんだけど…
「そんじゃ、アリシア以外は校庭集合っ!1番最後の奴が今日の片付け係だからなー」
そう言ってレイヴン先生が手を叩くと、みんな一斉に立ち上がった
…そーいえば、片付けって、すっごい面倒だった気がする
「シア、また後でな!」
「絶対に、何があっても練習に参加しに来ちゃ駄目だからね!」
ユーリとフレンはそう言って、真っ先に教室を飛び出した
…早すぎて反論する暇もなかった…
「さてと…んじゃ、アリシアはこっちな?」
そう言ってレイヴン先生が入口の方で手招きしてくる
その先生の後を大人しくついていくと、何故か放送室に連れて行かれた
…いや、まさか、ね…?
「しっつれいしまーす!連れてきましたよー!」
何故かハイテンションでレイヴン先生は扉を開けた
「うるさいぞレイヴン先生。もう少し静かにせんか」
ため息をつきながらジト目でレイヴン先生を見つめているのはアレクセイ先生だ
…あれ、でも確かアレクセイ先生は中等部の担任だったはず…
「おはようございます先生。…あの、なんで高等部にいらっしゃるんですか?」
「今年は中高合同体育祭だからな。体育祭本番の中等部放送担当を任されたものだから、高等部担当と打ち合わせするつもりで来たんだが…」
「……蓋を開けてみれば、レイヴン先生だったと…?」
「…そういうことだ…」
やばい…あのアレクセイ先生から、なんかどす黒いオーラ出てる…!
絶対普段の先生からじゃ出ないようなものがダダ漏れてる…!
「まぁまぁ、同じ担当同士、頑張りましょーよっ!」
ニカッとレイヴン先生は笑って言うけど、アレクセイ先生はすっごい頬ピクピクさせてるんだけど…
「あの……わたし、なんでここに連れて来られたんですか…?」
「ん?あぁ、アリシアには、本番の放送任せようと思ってねっ!」
「……………はい………?」
唐突なカミングアウトに、わたしの思考が停止しました
え、いや……これ本気で言ってるの…?
「え?だってお前さん、演劇部でしょ?こうゆーの得意かな〜と思ってね」
ケラケラと笑いながらレイヴン先生は言ってくる
うわ、本気だったよこの人…
「い、いや、確かにそうですけど……でもわたし、高等部では演劇部入ってないですし…」
確かに中等部では3年間演劇部に入っていたが、高等部に上がってからは、入部届けも出してない
「…え、お前さん、それ本気で言ってる…?」
ものすごく意外そうな目でレイヴン先生は問いかけてくる
「本気ですけど…」
「あれぇ、おっかしいなぁ…高等部の演劇部のリストには入っていたんだけどねぇ…」
そう言いながら、レイヴン先生は冊子を捲っていた
「あ、ほら、やっぱり入ってるわよ?」
そう言って先生が見せてきたページには、確かにわたしの名前が入っていた
……いや、待って、わたし本気で身に覚えがないんだけど……
コンコンッ「失礼します……あっ!アリシアさん!ようやく見つけましたよっ!」
「へ?あっ、ウィチル先輩…っ!?」
「全くもう!演劇部に一度も顔を見せないなんて、どうゆうつもりですかっ!?」
放送室に入って来たのは、中等部の時の演劇部の先輩のウィチル先輩だ
中等部の時はツートップって言われてて、わたしとウィチル先輩が出る劇はいつも大盛況だった
「い、いや、見せるも何も、わたし入部届けなんて出てないですよ…!?」
「そんなわけないですよ!ちゃんとジュディスが持って来たんですから!」
「え、ジュディス…?!」
ウィチル先輩にそう言われて、慌ててジュディスに連絡を入れた
…数秒して返ってきた返信に、若干キレそうになる
『あら、今知ったの?彼の事だからてっきりもう言ってると思っていたわ。
入るつもりだろうと思って、代わりに出してあげておいたのだけれど…』
「……ジュディス……」
キレそう…
いやもうなんか、それを通り越して呆れたっていうか…
「えっと…手違い、ってこと…かな?」
若干寂しそうにウィチル先輩は問いかけてくる
「……そうなりますけど……でも、いいですよ。演劇は楽しいですし、役をやるのは好きですから。…半年もサボってたようなものですけど、それでもよければこれから行きますし」
そう言うと、先輩は嬉しそうに笑った
「全然!むしろウェルカムですよ!先輩達も、アリシアさんが来るのを待っているんですから、ぜひ来てください!!」
目をキラキラさせて先輩はそう言ってきた
あ、これダメだ、断れないやつだ
…いやまぁ断る気はないけどさ…
「あ、でも先に、医師に相談しないとですよね?」
遠慮がちにウィチル先輩が聞いてくる
中等部の時はもちろんお医者さんに許可をもらって、無理のない範囲で舞台に立っていた
「んー…まぁ…多分、先生もわたしが演劇部入ってるものだと思ってるかと…」
というのも、だ
演劇部で役を演じる度に喉を痛めていたから、中等部の3年間、ずっと喉の痛みを和らげる薬も処方してもらっていたんだけど、定期的にもらう薬の中にそれが未だに入ってる
先生も演劇部を辞めたかどうかなんて聞いてこなかったから、わたしも辞めたとは言ってないし、多分まだ続けてると思っているはず…
「じゃあ大丈夫そうですね」
嬉しそうに笑いながらウィチル先輩はわたしを見てきていた
「ジュディス……勝手にそうゆうことはしないでねって、散々言ってあったんだけどねぇ…」
何処か遠くを見つめながらレイヴン先生は呟いた
…って言うか、わたしだけじゃないんだ、被害者…
「…話はまとまったか?そろそろ打ち合わせをしたいのだが…」
ゴホンっと咳払いをしながらアレクセイ先生が言ってくる
…やばい、ここに来た趣旨を完全に忘れてた…
「いいですよー、さっさとやっちゃいましょ」
「…まず、放送担当の生徒だが…ウィチル、本当に2人でやるのか?」
アレクセイ先生は心配そうにウィチル先輩を見た
…え、あ、2人!?
「ぼくとアリシアさんなら問題ないですよ。むしろ、素人が入って来たら邪魔です」
メガネを押し上げながら先輩はキッパリと言い切った
…まぁ、確かにそうだけど…
「ウィチルはこう言っているが、アリシアはどうなんだ?」
「そうですね…2人だと休憩とかなさそうですけど、確かに他の人が入って来たらやりにくいですし…」
「なら2人にお願いしちゃっていいんじゃないっすかね?」
「…では、嫌々でなければ頼む」
「任せてください!…さ、アリシアさん、そうと決まれば早速練習ですよ!」
そう言うとウィチル先輩はわたしの手を引く
「え?あ、いや、先輩っ!?打ち合わせまだ終わっていないのでは…!?」
制止してみるものの、ウィチル先輩の耳にわたしの声は届いていないらしく、そのまま引き摺られるようにして放送室を後にした
……これ、後で怒られたりしないよね……?
「うん、流石アリシアさん。約1年練習してなかったはずなのに、相変わらずですね」
ニッコリと嬉しそうに笑いながらウィチル先輩はわたしを見る
誰もいない体育館で、現在進行形で発声&滑舌練習中なんだけど…
…ん、やっぱり舞台に立って声出すの好きだなぁ
「えへへ、ありがとうございます!」
「この分なら、放送の原稿も多少の読み合わせで大丈夫そうですね。…それじゃあ、ボクはそろそろ練習に戻らないといけないので行きますね。間違っても、校庭に来ては行けませんよ?」
「…先輩までそれ言いますか…。行かないですよー!」
わたしの答えに満足そうに微笑むと、先輩は体育館を後にして行った
…それにしても暇だ
完全にやることがなくなってしまった
まぁ完全にないわけじゃないんだけどさ…
「……仕方ないから、目通して置こうかな…」
そう呟いてさっき先輩から貰った台本を開く
文化祭で発表する劇…『黒ずきんと狼』
…これって、確か内容やばかった気がするんだけど…
そんなこと思いながら台本に目を通す
…半年もいなかったのに、わたしが主役の劇は絶対大盛況だからってとんでもない理由で、主役の黒ずきん役やることにされちゃってるし、内容頭に入れておかないと…
「……うわぁ……」
苦笑いしながらページをめくる
多少内容を変えてあるんだろうけど、やっぱり内容がやばい
誰だし、この台本選んだの…
…しかもわたしが主役って…
黒ずきん役とか絶対わたしのキャラ崩壊待ったなしなんだけど…!
ーーキーンコーンカーンコーンーー
「…あ、チャイム…」
ようやく午前は終了かぁ…
教室戻ったらお昼ご飯かな
ゆっくりと立ち上がって、わたしは体育館を後にした
「くっそ……マジで容赦なさすぎだろ……」
机に突っ伏したままユーリが悪態づく
現在お昼休み、なんだけど…
なんか熱中症の子が続出したらしく、午後の練習大幅に削って休憩するらしい
…熱中症の子を出すまで練習続けるなんて…流石ヴェ学……
息抜きにも手を抜かないんだから…
「それで、アリシアの方は大丈夫なのかい?」
「ん?んー…まぁ、何とかなるよ」
パックのジュースを飲みながらそう答える
放送担当って言うのは当日まで全校生徒に秘密
わたしとウィチル先輩がやるってみんなが知ったら、大騒動になりかねないってアレクセイ先生が既に根回ししてくれているらしい
……まぁ、確かに幾つか心当たりはある……
「ったく、当日まで何してっか秘密なんて、つまんねーの」
「仕方ないじゃん。先生が絶対言うなって言うんだもん」
不服そうな顔をしたユーリにそう言う
教えてあげたいのは山々なんだけど、ユーリに言ったら絶対全校生徒にバレる←
「いいじゃないかい、当日まで楽しみにしていればさ」
そんなユーリに若干呆れた表情を見せながらフレンは言う
「…だな、そうすっか」
ようやく諦めたらしいユーリはそう言って苦笑いすると、わたしに抱きついてきた
あーあ…またこれなんか言われるよ…
…というか、あの子達やけに静かだなぁ…
そう思ってチラッとあの子達の席を見ると、恨めしそうにわたしのことを睨んではきていた
おー、睨んでくるだけで収まってる
「そーいやシア、午後の練習、どうすんだ?」
「んー、どうするって言われても…今年も見てるだけだしねぇ」
唐突なユーリの問いかけに首を傾げる
放送は前日に先輩と軽く読み合わせするだけだし…
かと言って文化祭の劇の台本の方も粗方読み終わって内容も頭に入ってるし…
「お、居た居た…って、お前さん達…ここ学校なんですけどねー」
そんなことを考えていると、空いていた教室の扉からレイヴン先生が入ってきて、呆れ気味にため息をついていた
「あ?んなもん知らねーっすよ。…もしかして羨ましいんすか?」
ユーリがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているのが見なくてもわかるよ…
「ユーリ…失礼だろ?それに先生が言っていることが正しいんだし」
「はっ、そういうお前だってエステルがここに居たら抱き着いてるくせにな」
「あ、ちょ、ユーリ…!」
やばい、ユーリがフレンの地雷踏んだ
「…へぇ、僕に喧嘩売っているのかな…?」
案の定フレンの顔が強張った
あーあ…何してるんだか…
「あん?本当の事言っただけだろ?」
わたしから離れながらユーリはフレンを見る
これ、アレだ、わたしでもとめられないやつだ…
「あー…お前さんら…?」
「先生、ほっときましょう。…それで、何か用事あったんですか?」
「あ、あぁ…午後の時間は記録取るのを手伝ってもらおうと思ってな。それを伝えに来たのよ」
「あー、なるほど…って、この晴天の中ですか…?」
「いやまぁ、流石にテントは出してあるわよん」
苦笑いしながらレイヴン先生は言う
それなら平気…かな
「んじゃま、そう言うことだから、早めに校庭来てね~」
そう言って先生は教室から出て行った
…さてと…
「ユーリ、フレンー…そろそろ喧嘩辞めて校庭行こう?」
「大体お前は」
「そう言う君だって」
わたしの声は全く2人に届いていないらしく、尚言い合いを続けている
「……」プチッ
…いつもいつも、この2人は…
わたしだってそろそろキレるよ…?
というかキレたよ…?
「…あー、もう知らない。わたし先に行く」
そう言って自分の水筒を持って教室を出る
「おい!お前ら!アリシア行っちまうぞ!?」
教室から慌てたクラスメイトの声が微かに聞こえてきたけど知ったこっちゃない
真っ直ぐに下駄箱まで行って靴を履き替えて外に出る
…もうさ、倒れるの覚悟で練習ちょっとだけ出ようかな…
気分的に体動かしたい
「お、早かったな」
レイヴン先生の元に行くと、意外そうな顔をされた
「あー…ちょっとめんどくさくって、放置してきましたっ!」
ニカッと笑って言うと、先生は苦笑いをした
「はは…そーかい…。…んじゃま、とりあえず記録表ね。一応お前さんの記入欄もあるけど…」
ボードを渡しながら先生はチラッとわたしを見てくる
「…1回だけ、走っちゃダメですか?」
そう聞くと、やっぱりとでもいいたげに肩を竦める
「今日は保健の先生も立ち会ってくれてるし、みんなが来る前に1度ならいいわよん。…ただし、1度だけだからね?」
1度という単語を強く強調させて先生は言う
「はーいっ!」
元気よく答えて軽く準備体操を始める
わたしが走ると聞いてか、仲のいい先生たちが集まってくる
…いや、そんなに集まられても困るんだけど…
「…それじゃ、50メートルだけね?…準備はいい?」
「いつでもいいですよー」
そう答えて、スタート位置につく
「位置について……よーい」
ピッ
笛の合図で一気に走り出した
50メートルくらいなら多分平気だろうと全力で走る
ゴール地点には保健の先生が既にスタンバってるのが目に入った
…いや、だから…わたしどんな扱いさ…
ゴールしたと同時に先生に腕を掴まれて強制的に止められる
「はい、それ以上走らないの」
「うぇ……シャスティル先生…」
高等部の保健医のシャスティル先生、ある意味わたしの天敵だ
中等部に双子の妹のヒスカ先生が居るんだけど、2人揃ってわたしは苦手だ
…医師免許持ってる人は全員わたしの敵だ
【理由→自由に行動させてもらえないから】
「タイムは……12秒ね。運動させてもらえていない割りには速い方じゃない?」
レイヴン先生はストップウォッチを見ながらそう言った
「そう…なんですか?」
「そうだと思うわよ?…はい、あなたはもうテントの下で大人しく座った座った」
シャスティル先生はそう言って、半分引き摺るようにわたしをテントの下に連れて行った
「いい?絶っっっ対に、ここから離れてはいけないわよ?絶対よ?」
「先生…わかったから…」
肩を竦めてそう言うと、先生は満足そうに微笑んで少し離れた場所に移動した
…そもそも、そこにいたら離れられないけど…
「んじゃ、記録つけるの、任せたわよん」
レイヴン先生はそう言いながら、記録表をわたしに手渡してきた
「はーい!」
表を受け取ってシャーペンを手に持つ
昇降口からは生徒が続々と出て来ていた
…さてと、頑張りますか
ーーそして数時間後ーー
「はい、じゃー今日はここまで!今朝最後だった奴らは片付けだから、勝手に帰るなよ〜」
先生の声が校庭に響く
辺りはすっかり暗くなっていた
ここから見てた限り、ユーリとフレンの喧嘩はとりあえず収まっていたっぽい
「アリシア!帰りましょう!」
ニコニコと笑いながらエステルが駆け寄って来た
「ん、帰ろっか。鞄取ってくるからちょっと待ってて!」
そう言って椅子から立ち上がる
「いや、僕が全部取ってくるよ。アリシアはユーリと先に帰り始めてて」
「悪ぃな、頼むわ」
…あれ、いつの間に仲直りまで終わったの…?
「ほら、行こうぜシア」
「え?あー…うん、行こっか!」
…ま、いっか、仲直りしてくれたんだったらね
「それにしても、相変わらずユーリとフレンは速いですね!」
「だよねぇ。記録付けてたけどぶっちぎりだったもん」
エステルと2人、そんな話をしながら歩く
当のユーリ本人は何故か無言で後ろを着いてきていた
「ユーリ?どうかしましたか?」
「あ…?あー…いや、なんでもねぇよ」
ほんの少し肩を竦めながらユーリは言う
…変なユーリ…