*1年生
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体育祭前の騒動
〜学校が始まって1週間〜
「うわぁ………マジか…………」
黒板に張り出された紙を見て思わずそう声が出た
わたしの頭には、未だに包帯が巻かれたままだ
クラスメイトや先生に散々心配されまくる毎日を未だに送っている
が、今はそんなことよりも『これ』が問題だ
「おーい、シア、何黒板の前で突っ立ってんだよ」
隣から声が聞こえて横目で見ると、やはり、と言うべきか、ユーリが立っている
わたしと付き合っていることが校内に広がったらしく、ユーリもわたしも、告白されることはなくなった
…が、わたしに関しては嫌がらせが酷い
といっても、大抵睨んでくる程度だけど…
酷い人はわたしが1人でいる時を狙って肩パンして来たり、上履きを隠されたこともあったし、わざとプリントを回してこない時もある
まぁ、大抵、ユーリに速攻バレて雷落とされてるんだけどね
で、その肝心のユーリ、わたしが1人でいるのが相当不安らしくて、かなり過保護になってしまった
本当にもう、1人でいられる時間がない程度には……
わたしのことを心配してくれているのはわかっているんだけど、家でまで警戒してるのはちょっとやめて欲しかったりもする
「…………これ」
そんな過保護になってしまった彼に、たった一言だけそう言う
わたしが見つめている紙を見たらしく、あぁ……と小さく声をあげた
その紙には、『体育祭について』という、お知らせが書かれていて、今日、その種目決めをするらしい
……らしい、のだが……
「…やだなぁ………」
肩を落としながらそう呟いた
いやもう本当に、その言葉しか出ない
「ま、シアにとっちゃ、1番嫌いな行事だもんな」
「…………………帰っていい?」
ユーリを見上げながら問いかける
体育祭の話が嫌いな理由……それは、わたしは参加出来ないからだ
幼い頃から身体の弱いわたしは、お医者さんから激しい運動を制限されている
少し走るだけで息が切れるし、長時間運動すると発作が起きてしまう
だから毎年、幼稚園の頃からこの行事だけは不参加なのだ
当然、小学校や中等部から同じ人達はその事情を知っているし、1度小学校の時に出た時に発作起こして倒れたから、逆に出るなと言われるくらいだ
が、問題は外部から来た人たちだ
高等学部は確かにエレベーター方式で上がってきた人の方が多い
でも、少数派だけど外部組もいる
…わたしに嫌がらせしてくるのが、殆ど外部組なのだ
同級生の高等学部からの人たちは当然、わたしの事情を知らない
中等部とは体育祭の日付も違うから、高等学部からの先輩も知らないだろうし
各種目に出られないのは別にいいんだけど、問題はこの学園の体育祭のメイン種目……
全校生徒による、校外『ガチ』マラソン…………
2日間ある内の最終日はそれに費やされるんだけど……
『ガチ』ってついてる通り、本気のマラソンだ
20kmとかじゃなくて、42.195km本気で走るんだ
いやホント……バカだと思う
なんで学生がガチマラソンしないといけないのよ……
当然だけど、わたしは強制不参加
これ出たら、お医者さんに怒られるなんてレベルじゃない
ってか多分死ねると思う
で、当たり前だけど女子の大半がこの種目を嫌がる
……つまり、ね?
不参加なわたしに、当然ながら批判が出るわけ
中等部までは、事情を知ってる人たちが話してくれたりして、みんなわかってくていたんだけど……
今年は絶対、外部組が酷い気がする
「ダメだっての。係決めとかあんだし」
「…………だって、今年はいつもよりも批判、酷そうなんだもん」
「参加出来ないのはアリシアが悪いわけじゃないだろう?医師から止められているんだから」
「あ、フレン、いつの間に」
ユーリがいる方とは反対側にいつの間にかフレンがいた
いつもの事だからあまり驚かないけど
「なんかあったら、オレが片っ端からぶっ飛ばしゃいいんだろ?」
さも当たり前のようにユーリは首を傾げながら言う
……いや、それもっとダメでしょ……
「全く、少しでも話し合いする気はないのかい?」
「…………知ってる?フレンの話し合いはね?一方的なお説教なんだよ……?」
腕を組んで呆れ気味に言ったフレンにそう告げた
…つまり、2人とも穏便に済ませる気がないわけだ
「それよりも、そろそろ先生来るよ」
携帯の画面を見ながらそう言って、席へ向かう
椅子を引いて座ろうとするけど、机の中を見てため息が出る
「あん?どうしたんだよ、シア」
隣の席のユーリが不思議そうに首を傾げながら、わたしの机の中を見る
すると、怪訝そうに顔を顰めて中に入っていた『それ』を取り出す
つい一昨日無くしたと思っていたノート……
殆ど使い終わってたからいいやと思っていたが、マジックで所狭しと悪口が書かれて返ってきていた
わたし、基本的に机の中に置いて帰らないから、こういうの入ってるとすぐわかるんだよね
大きくため息をついて席に座る
と、同時にユーリが思い切り机を叩いた
バンッという大きな音が教室に響く
何事かとクラスメイトの何人かがこちらを怪訝そうに見るが、ユーリの顔を見てさっと青ざめた
「……おい、あいつらどこに行った?」
低く、いつもとは違う声でユーリは問いかける
静まり返った教室に、やけに彼の声が反響した
「あ、あいつらなら…まだ来てねぇと思う」
1人の男子がそう答えた
『あいつら』って言うのは、わたしにいつも嫌がらせしてくる人たちのこと
この1週間、ずーっとユーリがそう呼ぶから、もう学年にその言い方が広まってしまってる
「…………ふーん、まだ来てねぇんだな?」
ユーリはそう言うと自分の席を離れて、いつも主犯となって嫌がらせをしてくる子の席に行く
で、机の中からノートを1冊取り出すと、何事も無かったかのように戻ってくる
「…………お前ら、言うなよ?」
ニコッと笑って言うんだけど、その目は完全にお怒りモードの時の目
教室にいるクラスメイトたちは、青ざめて大きく頷く
「ユーリ…関係ない人たちまで怯えさせてどうするの……」
「抑制するには丁度いいんじゃないかい?まだ手出てない分マシだよ」
「……フレン、そんなんでいいの…?」
「先にやったのは彼女たちだろう?やり返されたって文句は言えないよ」
涼しい顔をしてフレンはそう言った
この2人…怒ると本当に怖い
「さて、なぁフレン、同じことやってもいいと思うか?」
筆箱の中からマジックを取り出しながら、ユーリはフレンを見た
…いや、ダメって言われてもやるつもりでしょ、それ…
「やられてもいいからやったんだろう?問題ないさ。……ちょっとだけ僕も仕返しに参加しようかな」
ユーリの机の方に椅子を近づけて、片手にマジックを持ったフレンは何処か楽しげに見える
「…………仕返しはいいけど、程々に、ね?」
わたしの声が聞こえているかわからないけど、一応2人に声をかけた
わたしのことになると、いつもこうだから困ってしまう
それだけ大事にされてるって事なんだけど、さ
「よーし、授業……っつーか、H.R始めるぞー」
ガラガラッと音を立てて、扉が開いた
入ってきたのはレイヴン先生
「先生ー、またあいつらいませーん」
1人のわたしとそこそこ仲のいい男子が、手を挙げてそう告げた
「なんだ、またか…たく、そんなに退学になりたいんかねぇ」
呆れながら出席簿とにらめっこしている
出席日数に厳しいこの学園は、無断欠席で出席日数が足りなくなったら即退学なのだ
…内心それを願っているのは内緒だが
「今日は大事な話があっから来いって言ってあったんだがな」
出席簿を教卓に置きながら、先生は扉の方を見た
教室が少しざわめく
「あいつらに1番話しておきたかったんだが……まぁ、後で話すとするか」
扉から視線を外すと、珍しく真剣な表情で教室を見渡す
……あぁ、わたしの話だ、これは
「さて、中等部からいるやつらは知ってると思うけど、今度ある体育祭、アリシアは医者から運動を制限されてるから出ることが出来ない。出られなくて歯痒い思いしてんのはアリシアなんだから、それでネチネチ文句言ったりしないよーに。…まぁ、番犬2人に説教食らいたいって言うんならは別だけどな」
そう言って、先生はユーリとフレンを見た
あからさまに、文句言ったら殺すとでも言いたそうなオーラを出している2人に怯えた顔をした生徒が何人いたことか……
「んじゃま、アリシアの分も頑張ろうっ!っつーことで、種目と係決めするぞー」
そう言って先生は黒板に文字を書き始める
…種目、出られない分係頑張らないと
「あーーー…………疲れたぁぁぁ…………」
リビングのテーブルに突っ伏しながら呟く
「お疲れ様、アリシア」
ピトッと頬に冷たいものが当てられる
少し顔をあげると、わたしの好きな飲み物のペットボトルをフレンが頬に当ててきていた
「ほら、喉乾いているだろう?」
「ん…ありがとー」
体を起こして蓋を開け、中の飲み物を飲む
「まさか全校生徒の前でアリシアの話出るとは思わなかったな」
私服に着替えたユーリがため息混じりにリビングへ入ってきた
種目と係決めの後、突然全校集会が開かれた
なにかと思えば、高等学部の生徒全員の前で理事長先生からわたしのことについての話があった
……いや、確かにエステルと仲良いよ……
でも流石にそこまで特別扱いされてる感は出して欲しくなかったわけで……
案の定、外部から来た人たちの目線が痛かった
それ以上に先生たちのそういう人たちへの目線が痛かったけどね
「流石エステリーゼ、アリシアのことを考えて頼んでくれたんだね」
携帯を見ながら、ニコニコとフレンは笑った
「あー、やっぱりエステルだったんだね」
「あれだと公開処刑に近かったけどな」
苦笑いしながら、ユーリはわたしの隣に座った
「でも、これで先生たちの目も光ることだし、中等部1年の時よりは良くなるんじゃないかい?」
「そーだといいけどねぇ……」
大きくため息をつきながら、携帯を取り出す
「大丈夫だっての、なんかありゃオレとフレンでぶっ飛ばすだけだろ?」
さも当たり前のようにユーリはドヤッと笑った
「……程々に、ね?」
苦笑いしながらそう言った
「さてと、アリシア……ちょっと相談なんだけど…」
「ん?何??」
ゲームを起動しながら聞き返す
「…………今日、泊めてくれないか……?」
その発言に、私よりもユーリが驚いた
その証拠にガタッと大きな音が隣から聞こえたし
「んー、わたしは別に構わないけど…なんかあったの?」
「いや……父さんがね……この間アリシアのおじさんと話して以来、しつこくエステリーゼの両親と話がしたいとうるさくてね……」
あからさまに嫌そうな声が前から聞こえてくる
…あぁ、親同士で話したいのか、なるほどね…
「んで、面倒だから逃げたいってわけだな」
「あぁ……」
「……ま、シアがいいってんならいいんじゃねぇの?」
「ユーリ、勝手に話進めないでよ……でもまぁ、さっきも言ったけど私は別に構わないよ。なんなら今日だけじゃなくてもいいし」
面倒って思う気持ちわかるから、と付け足して苦笑いした
…わたしもあの後、お父さんに散々ユーリの事聞かれまくったし……
面倒過ぎて着拒したのもつい最近の話だし…
わたしの答えに、フレンはものすごく嬉しそうな笑顔を浮かべた
「じゃあ、ちょっと着替えとか取ってくる。父さんもまだ仕事中なはずだから、母さんにだけ言ってまた戻ってくるよ」
「ん、りょーかーい!」
ガタッと音を立てて立ち上がると、フレンは早足にリビングから出て行った
「この分じゃ当分2人きりにはなれそうにねぇな」
「んー、まぁでも仕方ないよ。フレンほっとくのも可哀想だし」
起動しかけてたゲームを終了させて、ユーリの方を見る
不服そうにムスッとした顔でわたしを見つめているユーリが一瞬可愛く思えた
「……ユーリ」
名前を呼んで座ったまま両腕をユーリの方に向けて伸ばすと、不機嫌そうだった顔が一瞬で嬉しそうな顔に変わってぎゅっと抱き締めてくる
本当、ユーリの機嫌を取るのは簡単だなぁ
わたしよりも少し体温の高いユーリの温かさが心地よくて軽く目をつぶる
「本当、ずっとこうしてられりゃあいいのにな」
そっと頭を撫でながらユーリはボソリと呟いた
「あはは、ずっとこうしてたら、ご飯食べたりも出来ないよ?」
笑いながらそう言うと、それもそうだなと言って、ユーリも笑う
…もう少しで付き合い始めて1ヶ月
この距離感が随分当たり前になってしまっていた
前と変わらないことだってあるけど、付き合う前に戻りたいとは思えない
そのくらいに、ユーリとの距離は縮まったと思う
「シア」
ユーリの呼ぶ声に目を開けて顔を上げると、そっと頬に彼の手が添えられる
それを合図に軽く目をつぶると唇を塞がれる
触れるだけだけど、長いキス
最近、毎日のようにされるこの行動は未だに慣れない
いつもならわたしが息苦しくなって胸を軽く叩けば離れてくれるのに、今日は何故か離れてくれない
いやむしろ離すもんかって頭の後ろ抑えられる始末だ
流石に息苦しくて少し唇を開いた
これが間違いだったのに気づいたのは数秒後のこと
待ってましたと言わんばかりに、少し開いた隙間から舌をねじ込ませてくる
「んっ?!!!」
わたしの口の中で、ユーリの舌が暴れる
今までされたことの無い行動に頭がついていけない
息苦しさでやめて欲しいと思うのとは裏腹に、もっと、とねだるような感情に頭がぼーっとする
初めての感覚についていけなくなったわたしは、気づいたらユーリの服をぎゅっと掴んでいた
時間にしては数秒くらいなんだろうけど、わたしには数分の出来事に思えた
唇が離れた時には肩で息をしていた
「ふぁ……はぁ………」
「……悪ぃ、シアが可愛すぎてちと我慢出来なくなっちまった」
わたしの背中をそっと擦りながら、申し訳なさそうにユーリは謝ってくる
「……ううん、大……丈夫」
若干俯いて口元を手で覆いながら答える
……嫌、ではない
むしろ嬉しいような感覚に、思考がついていけない
「本当に大丈夫か?……嫌……じゃ…なかったか……?」
心配そうにユーリはわたしの顔を覗き込んでくる
ボンッと音が鳴るんじゃないかと思ったくらい顔が熱くなる
「だっ、だだだだっ!大丈夫!!!/////////大丈夫だからっ!!!/////わっ、わたし、部屋戻るねっ!!/////」
そう言って携帯とペットボトルを掴んでその場から逃げるように走り出す
後ろからユーリの呼ぶ声が聞こえたけど、今は2人きりでいれそうにない
…本当にもう…誰か慣れる方法を教えてください……
〜1週間後〜
「ほらお前ら!しっかり走れー!」
校庭にレイヴン先生の叫び声が響く
最近わかった事だけど、先生は行事に関しては異常なくらいに真面目で気合い入るみたい…
一部の女子たちは若干恨めしそうにわたしを見るけど、その度に周りの先生やらユーリやフレンに睨まれている
体育祭メインイベントのマラソン…に、向けての長距離走の練習が、学年ごと週に3回のペースで始まっていた
わたしは出られないから、先生たちのお手伝い
って言っても、記録とったりタイマーかけたりとかだけどね
流石に1学年分の記録をつけるのはかなり大変
……その分、走らないことに文句言わないで欲しい……
当然、というか、毎回最初にゴールするのはユーリとフレン
2人ともゴールすると、いつも記録取るのを手伝ってくれる
そのせいか……何故かユーリたちがゴールした後の女子たちの視線が異常なくらい痛い
そんな人たちに先生たちの怒声が響くのは最早毎回のことになりつつある
…で、問題が1つ
この前居なかったクラスの外部の女子メンバー……
結局ずーっと来なくて、今日やっと来たんだけど……
……知らないから、なんだろうけど……わたしの前通る度にずーっとブツブツなんか話してるのが嫌でも目に入る
「……あいつら、後でしばくか」
「しばくだけじゃわからないんじゃないかい?1度半殺しにした方がいいよきっと」
「……先生いるんだから物騒な話しないの2人とも……」
大きなため息をついて既にゴールしていた2人を見る
あの日から、フレンは毎日わたしの家に泊まってる
おばさんがわたしがいいなら当分お世話になっておいで、と言ってくれたみたいだ
ユーリとは……相変わらず目が合わせられない…
いやほんとに…どーすればいいですか…
ピピーッ「1度休憩に入る!お前ら水分補給、しっかりしろよー!」
他のクラスの先生がスピーカーでそう言うと、あちこちから話し声があがる
「お、休憩か。フレン、飲み物取ってこようぜ」
「だね。アリシア、ちょっと待っててくれ」
「はーい!」
2人は水筒を取りに荷物置き場の方へ走って行った
2人を待っている間、記録表と睨めっこしていると、不意に近づいてくる足音が聞こえて顔を上げる
ユーリとフレンが居なくなったのをいい事に、あの子たちが待ってましたと言わんばかりに、わたしの方に近づいきていた
…まぁさ……薄々わかってはいたけどね……
……逃げたい、非常に逃げたい……
「ちょっとあんた。なんで走ってないわけ?」
グループのリーダーって感じの子がぶっきらぼうにそう聞いてくる
「先生に聞けばいいじゃない。わたしが何言っても信じないでしょ?」
「はぁ?なんなのよその態度!本当ムカつく!」
いやムカつくも何も……本当のことじゃん
そんなこと考えていたら、ものすごく怒った声が聞こえてくる
「おいお前ら。シアになんの用だよ?」
声の聞こえた方を見れば水筒を2つ持ったユーリの姿が目に入る
思ってたよりも帰ってくるの早かったなぁ
「え…っ!あっ……いや………」
ユーリを見た途端にもじもじとし始める
…駄目だ、わたし本気でこのタイプ嫌い…
「用ねぇならどっか行ってくんね?」
キッパリそう言ってユーリはわたしを隠すように前に座る
「だっ……だって!こいつだけ走ってないから…!!」
「『こいつ』じゃなくてアリシアだからね?」
若干ドスの効いたユーリ以外の声が聞こえてくる
いやまぁ、見なくてもわかるけどフレンだね……
なんか、ユーリ以上に怒ってません……?
「休んでたから知らねぇんだろ?っつーか、休んだやつにとやかく言われる筋合いねぇよな」
「アリシアは身体が弱くて過度な運動は禁止されているんだ。先生方からそれに関して文句言ったりするなと注意されているし、ずっと休み続けていた人が、それに関して文句言える立場ではないんじゃないかい?」
反論する隙すら与えずにユーリとフレンはそう言う
…いや、うん、ごもっともだよね
が、納得がいかないんだか…その子たちは反論してくる
「嘘ついてるだけかもしれないじゃない!」
「医者の診断書があんのにか?冗談、そうゆういちゃもんつけんのやめてくんね?」
「で…でも、走れるかもしれないじゃないですか…!!やらないくせに無理なんて言ってずるいです…!」
ぎゃーぎゃー文句をいい続ける彼女たちに気づいた先生たちがチラチラこちらを見てきているのが視界の隅に映る
騒ぎを聞きつけた外部から来た他の生徒も次第に頷いたりし始めるが、中等部からいた人たちは馬鹿みたいと言いたげに彼らを見つめている
……あぁ、鬱陶しいなぁ……
「……じゃあ、あなたたちはわたしが走って倒れでもしたら……責任、取れる?」
静かに、でも、いつもよりも低い声で問いかけた
「……え?」
「取れるの?取れないの?どっち?」
「と……取ってやるわよ!!本当に身体弱いって言うならねっ!!」
リーダーの子が投げやりにそう叫んだ
「ふーん…………レイヴン先生ー!今の聞きましたかー」
「へ?あ、あぁ…聞いた…けど」
レイヴン先生の方を見て問いかけると、若干引きつった顔でそう返してくれた
先生含め仲のいい何人かの子たちも、わたしがしようとしていることに気づいたのか、全力で止めようと声をかけてくる
でもね?もう我慢が限界なんだよ
「……その言葉、忘れないでね?」
彼女たちの方を見てニコッと笑う
……今、今までで1番、ドス黒い笑顔浮かべてる自信がある
「……シア、本気でやめねぇか?」
「下手したら……また入院沙汰になってしまうよ?」
「え?だって、責任取ってくれるんだよ?ちゃーんとみんな聞いてたでしょ??」
ニコニコと笑いながら準備運動をする
未だにあちこちからやめるように勧める声が聞こえる
それでも、やめるつもりはない
いやだって、やめたら意味無いもん
……マジで本当、退学に追い込んでやりたいくらいにはイラつきました
流石の『ぼく』も我慢の限界なんですよ
「えー……では、全員スタート位置につけーー……アリシア、本当にやめないか…?」
心配そうな先生の声がスピーカー越しに聞こえてくる
「ごめんなさい、やめるつもりはないですっ!」
先生にそう返して、スタート位置につく
「…………あーぁ……オレもう知らね……あいつら退学待ったなしじゃねぇの?」
ボソッとユーリが隣で呟いた
「……とりあえず、タイムは捨ててアリシアの傍に居よう。もうそれしか出来ないよ……」
諦め気味にフレンは項垂れる
「えー……『ぼく』のことは気にしないで、先行っていーのに」
「いや絶対離れねぇ。その状態になったお前放置とか世界が終わりかねねぇ」
「えぇ………それはひどーい」
ものすごく真顔で言ってくるユーリにそう返すと、再びスピーカーから声が聞こえてくる
『準備はいいかー?……位置について………よーい』
パァンッ
合図で一斉に走り出す
普段なら全っ然走れないんだけど、『今』はスピードを出せる
久しぶりだと、風を切るのが気持ちよく感じる
「アリシア…!速度落とそう?!」
左肩にフレンの手が置かれる
「シア!スピード出しすぎだ!」
右肩にはユーリの手が置かれた
「えぇ…別にまだへーきだもん!」
そう言ってスピードをあげようとするけど、2人に抑えられてあげられない
…だって、まだまだ平気そうなのに…
なんて考えながら、渋々ユーリたちと同じペースに変える
…いや、変えなければ良かったと気づいたのはそのすぐ後
「……っ!!!!」
1周目が終わりそうな所で胸が痛くなって上手く呼吸が出来なくなってきた
急にスピード落としたから、身体に負担がかかったんだろう
「おい、シア、平気か?」
すぐにユーリがそう聞いてくる
「わかん………ない…………」
徐々に徐々に、ペースが落ちる
あぁ…今回は意外と早かったなぁ…久々に走ったからかな?
なんて、呑気なこと考えてたら本気で息出来なくなり始めた
「……はっ…………は…………っ」
完全に走ることが出来なくなってゆっくりその場に崩れる
「っ!せ、先生呼んでくる!」
速攻でフレンが傍から離れたことだけはわかった
「シア、おいシア!」
ユーリが隣にしゃがんで寄り添ってくれている
が、息が出来なくて返事が出来ない
「かっ…………ぅ………っ…………はっ……」
視界が歪んで、ぐるぐる回りだす
心配そうに他の友だちも傍に来て声をかけてくれているみたいだけど、ぼわーんと反響して聞き取れない
息苦しさや吐き気、痛みに耐えきれなくなって、ゆっくり意識を手放した
「…………………」イライラ
「…………………」ニコッ
学校の教室、そこでシアに走れと言い出した他校から来た奴ら全員が正座し、向いた先に仁王立ちになってあからさまに苛立ったオレと、笑顔で怒りを隠したフレンはいる
事の発端作り出しやがったやつはいっちばん前でガタガタ震えてる
先生たちにゃ少し外で待ってもらっている
この状態が、かれこれ30分
そろそろ限界なやつが多いらしい
「…………んで?お前らさ……シアになんつったっけ?」
ようやくオレは口を開く
滅多に出さない本気でキレた時の低トーンの声に大半がビクッと肩をあげる
女子の中にゃ泣きそうなのもいるが、んなこと知ったこっちゃねぇ
「なぁ?誰が『嘘つき』だったよ?」
先程そう言ったやつのことを見ると怯えた表情でおどおどし始める
「……………嘘、ついていたかい?君たちの軽率な発言でこうなったこと………理解しているかい?」
満面の笑みを崩さずにフレンは言葉を静かに繋げた
…ぶっちゃけオレよりこいつの方が絶対に怖い
「えっと……………あの……………ご、ごめんなさい…………」
先程までシアと威勢よく張り合っていたやつがそう謝ると、次々と謝罪が聞こえてくる
「……謝って、責任取れると思ってんの?お前」
そいつを睨みながら、オレは言葉を繋げる
「なぁ?お前自分で責任取るっつったよな?どうするわけ?シアさ、過敏な運動したら下手したらそれで死んじまうんだよ。今回は気失う程度で済んだけどよ、もし死んでたらどう責任取ってくれたわけ?お前がシアにその命あげてくれるつもりだった?そんだけの覚悟あって言ったんだよな?」
立て続けにそう言うと、いよいよ泣きだしそうになる
いや、なんで泣くんだよ
自分が悪ぃんだろうが
「あーー………お2人さーん、そろそろいいかい??理事長先生がお話したいって」
遠慮気味に扉を開けて、レイヴン先生が顔を覗かせる
「……ユーリ、後は任せよう?」
フレンの言葉にただ頷いて扉の方へ向かう
「……あ、最後に1つ………お前ら、今後シアになんか言いやがったら………どうなるか、わかるよな?」
振り向いてニコッと笑ってそう言って、教室を出た
「……………半殺し、で済めばいいね?」
そんなフレンの声が背後から聞こえた
今頃、青ざめてんだろうなぁ
そんなこと考えながらフレンと2人、無言で保健室に向かう
軽くノックして扉を開ける
「もー!アリシアは無茶しすぎだよ!」
「まぁ、あれだけしないとわからないような頭悪い奴らばっかだったからって言う理由はわかるけどさぁ…」
「もーちょっと、僕らの気持ちを考えて欲しかったな」
「本気でヒヤヒヤしたよ……」
「ごめん、もうやらないからさ」
保健室に入ってすぐ近くにあるベット
その周りに何人かのシアと仲のいいやつらと、ベットのうえでシアが苦笑いしていた
「お、ユーリにフレン、おかえり〜」
「おぅ、ありがとな、シアについててくれて」
「いーのいーの、アリシアの馬鹿1人にさせてたら、何するかわかんないからね」
「えぇ……馬鹿呼ばわりは酷いなぁ……」
「ははっ!仕方ないよ、止めたのに言うこと聞かなかったんだから」
そう言いながら、様子を見て(監視して)くれていたやつらが、オレとフレンに席を譲ってくれる
「んじゃ、大人しくユーリとフレンのお説教聞いとけよー」
「僕ら、ちょっとあいつらがどうなったか覗きに行ってくるからさ」
「それじゃ、またね〜」
「あぁ、本当にありがとう」
フレンの声を背にして、保健室を出て行った
残ったのはシアとオレとフレンの3人
「…んで、シア?少しは反省してるか?」
「……あれは『ぼく』のせいじゃない、あいつらが悪い」
ムッと頬を膨らませてシアはそう言う
「全く、『まだ』なおってないのかい?」
「だぁって……流石に限界だったし……なんでユーリと付き合ってるだけで嫌がらせ受けなきゃいけないんだし…大体何言っても信じないくせに、嘘つき扱いされる意味もわかんないし」
「そりゃ同感だけどな…いい加減その怒り、鎮めてくれねぇか??」
そう言って頭を撫でると、不服そうな顔で上目使いで見つめてくる
その仕草に思わずドキッとした
…いやほんとにもう……なんで『この状態』の時はそんな可愛いことすんだよ……いや、普段から可愛いけど…
「………ユーリ」
フレンの声にはっとして隣を見ると、あからさまに呆れた顔をしたフレンの顔が目に入る
「可愛い、なんて思ってたりしてないで、今は『元に』戻すことを考えようか?」
「………………わーってるよ」
だいぶ間を開けて答える
とは言ったものの、今回はどうしたら直るだろうか…
「アリシア、今欲しいものはあるかい?」
フレンがそう聞くと、首を傾げながらうーん、と唸る
しばらくそうして唸っていると、何かを思いついたように手を叩く
「…ユーリ」
「「……はい??」」
「だから、ユーリ!」
ハッキリとシアはそう言った
…うん、待て…いやちょっと…思考が追いつかねぇ
隣のフレンも同じらしく、珍しく口を開けたまま唖然としている
「……って言うのは冗談で」
シアのその声にオレもフレンもほっと息をついた
少し安心したというか……本音は残念っていうか……
「ユーリが作ったお菓子食べたい」
何処か不服そうにシアはそっぽを向く
「…はいよ、そのくらいお安い御用で」
髪を一束掬ってそれに唇を落とす
すると満足そうに微笑む
「それじゃあ、そろそろ荷物取ってくるよ。いつまでもここに居るわけにもいかないしね」
そう言ってフレンが立ち上がる
「おう、頼んだぜ」
コクリと頷くと、保健室から出て行った
シン……と静まった保健室……
何か話題をと思って、さっきのを聞いてみることにした
「…なぁシア、さっきのって一体どうゆう」
そう言った途端、顔を赤くして布団に潜る
……いやいや待てって…そんな反応すると思ってなかったんだが……
「…シア?」
ツンツンと突っつきながら声をかける
すると、先程と違い途切れ途切れに話し出す
「……ちょっと1日……くらい…独り占めしたいな…………って、一瞬思っただけ………本当一瞬思っただけだから……っ!!!」
半分投げやり気味にそう答える
…可愛すぎかよ、本当に
「シアがそうして欲しいんなら、両方でもいいぜ?」
布団の上からぎゅっと抱き締める
「…………じゃあ………両方………っ/////」
聞き取れるか取れないかの小声でシアは言う
「お安い御用で」
そう返したのとほぼ同時に、保健室の扉が開いた
バッと離れると、バックを3つ抱えたフレンが立っている
「ほら、持って来たよ」
「サンキュ。…シア、帰るぞ」
そう言うと、布団の中から出て来て頷く
この日はフレンが3人分のバックを持ってくれ、オレはシアをおんぶして帰った
…歩かせるとか、命懸け過ぎて出来ねぇしな…
〜学校が始まって1週間〜
「うわぁ………マジか…………」
黒板に張り出された紙を見て思わずそう声が出た
わたしの頭には、未だに包帯が巻かれたままだ
クラスメイトや先生に散々心配されまくる毎日を未だに送っている
が、今はそんなことよりも『これ』が問題だ
「おーい、シア、何黒板の前で突っ立ってんだよ」
隣から声が聞こえて横目で見ると、やはり、と言うべきか、ユーリが立っている
わたしと付き合っていることが校内に広がったらしく、ユーリもわたしも、告白されることはなくなった
…が、わたしに関しては嫌がらせが酷い
といっても、大抵睨んでくる程度だけど…
酷い人はわたしが1人でいる時を狙って肩パンして来たり、上履きを隠されたこともあったし、わざとプリントを回してこない時もある
まぁ、大抵、ユーリに速攻バレて雷落とされてるんだけどね
で、その肝心のユーリ、わたしが1人でいるのが相当不安らしくて、かなり過保護になってしまった
本当にもう、1人でいられる時間がない程度には……
わたしのことを心配してくれているのはわかっているんだけど、家でまで警戒してるのはちょっとやめて欲しかったりもする
「…………これ」
そんな過保護になってしまった彼に、たった一言だけそう言う
わたしが見つめている紙を見たらしく、あぁ……と小さく声をあげた
その紙には、『体育祭について』という、お知らせが書かれていて、今日、その種目決めをするらしい
……らしい、のだが……
「…やだなぁ………」
肩を落としながらそう呟いた
いやもう本当に、その言葉しか出ない
「ま、シアにとっちゃ、1番嫌いな行事だもんな」
「…………………帰っていい?」
ユーリを見上げながら問いかける
体育祭の話が嫌いな理由……それは、わたしは参加出来ないからだ
幼い頃から身体の弱いわたしは、お医者さんから激しい運動を制限されている
少し走るだけで息が切れるし、長時間運動すると発作が起きてしまう
だから毎年、幼稚園の頃からこの行事だけは不参加なのだ
当然、小学校や中等部から同じ人達はその事情を知っているし、1度小学校の時に出た時に発作起こして倒れたから、逆に出るなと言われるくらいだ
が、問題は外部から来た人たちだ
高等学部は確かにエレベーター方式で上がってきた人の方が多い
でも、少数派だけど外部組もいる
…わたしに嫌がらせしてくるのが、殆ど外部組なのだ
同級生の高等学部からの人たちは当然、わたしの事情を知らない
中等部とは体育祭の日付も違うから、高等学部からの先輩も知らないだろうし
各種目に出られないのは別にいいんだけど、問題はこの学園の体育祭のメイン種目……
全校生徒による、校外『ガチ』マラソン…………
2日間ある内の最終日はそれに費やされるんだけど……
『ガチ』ってついてる通り、本気のマラソンだ
20kmとかじゃなくて、42.195km本気で走るんだ
いやホント……バカだと思う
なんで学生がガチマラソンしないといけないのよ……
当然だけど、わたしは強制不参加
これ出たら、お医者さんに怒られるなんてレベルじゃない
ってか多分死ねると思う
で、当たり前だけど女子の大半がこの種目を嫌がる
……つまり、ね?
不参加なわたしに、当然ながら批判が出るわけ
中等部までは、事情を知ってる人たちが話してくれたりして、みんなわかってくていたんだけど……
今年は絶対、外部組が酷い気がする
「ダメだっての。係決めとかあんだし」
「…………だって、今年はいつもよりも批判、酷そうなんだもん」
「参加出来ないのはアリシアが悪いわけじゃないだろう?医師から止められているんだから」
「あ、フレン、いつの間に」
ユーリがいる方とは反対側にいつの間にかフレンがいた
いつもの事だからあまり驚かないけど
「なんかあったら、オレが片っ端からぶっ飛ばしゃいいんだろ?」
さも当たり前のようにユーリは首を傾げながら言う
……いや、それもっとダメでしょ……
「全く、少しでも話し合いする気はないのかい?」
「…………知ってる?フレンの話し合いはね?一方的なお説教なんだよ……?」
腕を組んで呆れ気味に言ったフレンにそう告げた
…つまり、2人とも穏便に済ませる気がないわけだ
「それよりも、そろそろ先生来るよ」
携帯の画面を見ながらそう言って、席へ向かう
椅子を引いて座ろうとするけど、机の中を見てため息が出る
「あん?どうしたんだよ、シア」
隣の席のユーリが不思議そうに首を傾げながら、わたしの机の中を見る
すると、怪訝そうに顔を顰めて中に入っていた『それ』を取り出す
つい一昨日無くしたと思っていたノート……
殆ど使い終わってたからいいやと思っていたが、マジックで所狭しと悪口が書かれて返ってきていた
わたし、基本的に机の中に置いて帰らないから、こういうの入ってるとすぐわかるんだよね
大きくため息をついて席に座る
と、同時にユーリが思い切り机を叩いた
バンッという大きな音が教室に響く
何事かとクラスメイトの何人かがこちらを怪訝そうに見るが、ユーリの顔を見てさっと青ざめた
「……おい、あいつらどこに行った?」
低く、いつもとは違う声でユーリは問いかける
静まり返った教室に、やけに彼の声が反響した
「あ、あいつらなら…まだ来てねぇと思う」
1人の男子がそう答えた
『あいつら』って言うのは、わたしにいつも嫌がらせしてくる人たちのこと
この1週間、ずーっとユーリがそう呼ぶから、もう学年にその言い方が広まってしまってる
「…………ふーん、まだ来てねぇんだな?」
ユーリはそう言うと自分の席を離れて、いつも主犯となって嫌がらせをしてくる子の席に行く
で、机の中からノートを1冊取り出すと、何事も無かったかのように戻ってくる
「…………お前ら、言うなよ?」
ニコッと笑って言うんだけど、その目は完全にお怒りモードの時の目
教室にいるクラスメイトたちは、青ざめて大きく頷く
「ユーリ…関係ない人たちまで怯えさせてどうするの……」
「抑制するには丁度いいんじゃないかい?まだ手出てない分マシだよ」
「……フレン、そんなんでいいの…?」
「先にやったのは彼女たちだろう?やり返されたって文句は言えないよ」
涼しい顔をしてフレンはそう言った
この2人…怒ると本当に怖い
「さて、なぁフレン、同じことやってもいいと思うか?」
筆箱の中からマジックを取り出しながら、ユーリはフレンを見た
…いや、ダメって言われてもやるつもりでしょ、それ…
「やられてもいいからやったんだろう?問題ないさ。……ちょっとだけ僕も仕返しに参加しようかな」
ユーリの机の方に椅子を近づけて、片手にマジックを持ったフレンは何処か楽しげに見える
「…………仕返しはいいけど、程々に、ね?」
わたしの声が聞こえているかわからないけど、一応2人に声をかけた
わたしのことになると、いつもこうだから困ってしまう
それだけ大事にされてるって事なんだけど、さ
「よーし、授業……っつーか、H.R始めるぞー」
ガラガラッと音を立てて、扉が開いた
入ってきたのはレイヴン先生
「先生ー、またあいつらいませーん」
1人のわたしとそこそこ仲のいい男子が、手を挙げてそう告げた
「なんだ、またか…たく、そんなに退学になりたいんかねぇ」
呆れながら出席簿とにらめっこしている
出席日数に厳しいこの学園は、無断欠席で出席日数が足りなくなったら即退学なのだ
…内心それを願っているのは内緒だが
「今日は大事な話があっから来いって言ってあったんだがな」
出席簿を教卓に置きながら、先生は扉の方を見た
教室が少しざわめく
「あいつらに1番話しておきたかったんだが……まぁ、後で話すとするか」
扉から視線を外すと、珍しく真剣な表情で教室を見渡す
……あぁ、わたしの話だ、これは
「さて、中等部からいるやつらは知ってると思うけど、今度ある体育祭、アリシアは医者から運動を制限されてるから出ることが出来ない。出られなくて歯痒い思いしてんのはアリシアなんだから、それでネチネチ文句言ったりしないよーに。…まぁ、番犬2人に説教食らいたいって言うんならは別だけどな」
そう言って、先生はユーリとフレンを見た
あからさまに、文句言ったら殺すとでも言いたそうなオーラを出している2人に怯えた顔をした生徒が何人いたことか……
「んじゃま、アリシアの分も頑張ろうっ!っつーことで、種目と係決めするぞー」
そう言って先生は黒板に文字を書き始める
…種目、出られない分係頑張らないと
「あーーー…………疲れたぁぁぁ…………」
リビングのテーブルに突っ伏しながら呟く
「お疲れ様、アリシア」
ピトッと頬に冷たいものが当てられる
少し顔をあげると、わたしの好きな飲み物のペットボトルをフレンが頬に当ててきていた
「ほら、喉乾いているだろう?」
「ん…ありがとー」
体を起こして蓋を開け、中の飲み物を飲む
「まさか全校生徒の前でアリシアの話出るとは思わなかったな」
私服に着替えたユーリがため息混じりにリビングへ入ってきた
種目と係決めの後、突然全校集会が開かれた
なにかと思えば、高等学部の生徒全員の前で理事長先生からわたしのことについての話があった
……いや、確かにエステルと仲良いよ……
でも流石にそこまで特別扱いされてる感は出して欲しくなかったわけで……
案の定、外部から来た人たちの目線が痛かった
それ以上に先生たちのそういう人たちへの目線が痛かったけどね
「流石エステリーゼ、アリシアのことを考えて頼んでくれたんだね」
携帯を見ながら、ニコニコとフレンは笑った
「あー、やっぱりエステルだったんだね」
「あれだと公開処刑に近かったけどな」
苦笑いしながら、ユーリはわたしの隣に座った
「でも、これで先生たちの目も光ることだし、中等部1年の時よりは良くなるんじゃないかい?」
「そーだといいけどねぇ……」
大きくため息をつきながら、携帯を取り出す
「大丈夫だっての、なんかありゃオレとフレンでぶっ飛ばすだけだろ?」
さも当たり前のようにユーリはドヤッと笑った
「……程々に、ね?」
苦笑いしながらそう言った
「さてと、アリシア……ちょっと相談なんだけど…」
「ん?何??」
ゲームを起動しながら聞き返す
「…………今日、泊めてくれないか……?」
その発言に、私よりもユーリが驚いた
その証拠にガタッと大きな音が隣から聞こえたし
「んー、わたしは別に構わないけど…なんかあったの?」
「いや……父さんがね……この間アリシアのおじさんと話して以来、しつこくエステリーゼの両親と話がしたいとうるさくてね……」
あからさまに嫌そうな声が前から聞こえてくる
…あぁ、親同士で話したいのか、なるほどね…
「んで、面倒だから逃げたいってわけだな」
「あぁ……」
「……ま、シアがいいってんならいいんじゃねぇの?」
「ユーリ、勝手に話進めないでよ……でもまぁ、さっきも言ったけど私は別に構わないよ。なんなら今日だけじゃなくてもいいし」
面倒って思う気持ちわかるから、と付け足して苦笑いした
…わたしもあの後、お父さんに散々ユーリの事聞かれまくったし……
面倒過ぎて着拒したのもつい最近の話だし…
わたしの答えに、フレンはものすごく嬉しそうな笑顔を浮かべた
「じゃあ、ちょっと着替えとか取ってくる。父さんもまだ仕事中なはずだから、母さんにだけ言ってまた戻ってくるよ」
「ん、りょーかーい!」
ガタッと音を立てて立ち上がると、フレンは早足にリビングから出て行った
「この分じゃ当分2人きりにはなれそうにねぇな」
「んー、まぁでも仕方ないよ。フレンほっとくのも可哀想だし」
起動しかけてたゲームを終了させて、ユーリの方を見る
不服そうにムスッとした顔でわたしを見つめているユーリが一瞬可愛く思えた
「……ユーリ」
名前を呼んで座ったまま両腕をユーリの方に向けて伸ばすと、不機嫌そうだった顔が一瞬で嬉しそうな顔に変わってぎゅっと抱き締めてくる
本当、ユーリの機嫌を取るのは簡単だなぁ
わたしよりも少し体温の高いユーリの温かさが心地よくて軽く目をつぶる
「本当、ずっとこうしてられりゃあいいのにな」
そっと頭を撫でながらユーリはボソリと呟いた
「あはは、ずっとこうしてたら、ご飯食べたりも出来ないよ?」
笑いながらそう言うと、それもそうだなと言って、ユーリも笑う
…もう少しで付き合い始めて1ヶ月
この距離感が随分当たり前になってしまっていた
前と変わらないことだってあるけど、付き合う前に戻りたいとは思えない
そのくらいに、ユーリとの距離は縮まったと思う
「シア」
ユーリの呼ぶ声に目を開けて顔を上げると、そっと頬に彼の手が添えられる
それを合図に軽く目をつぶると唇を塞がれる
触れるだけだけど、長いキス
最近、毎日のようにされるこの行動は未だに慣れない
いつもならわたしが息苦しくなって胸を軽く叩けば離れてくれるのに、今日は何故か離れてくれない
いやむしろ離すもんかって頭の後ろ抑えられる始末だ
流石に息苦しくて少し唇を開いた
これが間違いだったのに気づいたのは数秒後のこと
待ってましたと言わんばかりに、少し開いた隙間から舌をねじ込ませてくる
「んっ?!!!」
わたしの口の中で、ユーリの舌が暴れる
今までされたことの無い行動に頭がついていけない
息苦しさでやめて欲しいと思うのとは裏腹に、もっと、とねだるような感情に頭がぼーっとする
初めての感覚についていけなくなったわたしは、気づいたらユーリの服をぎゅっと掴んでいた
時間にしては数秒くらいなんだろうけど、わたしには数分の出来事に思えた
唇が離れた時には肩で息をしていた
「ふぁ……はぁ………」
「……悪ぃ、シアが可愛すぎてちと我慢出来なくなっちまった」
わたしの背中をそっと擦りながら、申し訳なさそうにユーリは謝ってくる
「……ううん、大……丈夫」
若干俯いて口元を手で覆いながら答える
……嫌、ではない
むしろ嬉しいような感覚に、思考がついていけない
「本当に大丈夫か?……嫌……じゃ…なかったか……?」
心配そうにユーリはわたしの顔を覗き込んでくる
ボンッと音が鳴るんじゃないかと思ったくらい顔が熱くなる
「だっ、だだだだっ!大丈夫!!!/////////大丈夫だからっ!!!/////わっ、わたし、部屋戻るねっ!!/////」
そう言って携帯とペットボトルを掴んでその場から逃げるように走り出す
後ろからユーリの呼ぶ声が聞こえたけど、今は2人きりでいれそうにない
…本当にもう…誰か慣れる方法を教えてください……
〜1週間後〜
「ほらお前ら!しっかり走れー!」
校庭にレイヴン先生の叫び声が響く
最近わかった事だけど、先生は行事に関しては異常なくらいに真面目で気合い入るみたい…
一部の女子たちは若干恨めしそうにわたしを見るけど、その度に周りの先生やらユーリやフレンに睨まれている
体育祭メインイベントのマラソン…に、向けての長距離走の練習が、学年ごと週に3回のペースで始まっていた
わたしは出られないから、先生たちのお手伝い
って言っても、記録とったりタイマーかけたりとかだけどね
流石に1学年分の記録をつけるのはかなり大変
……その分、走らないことに文句言わないで欲しい……
当然、というか、毎回最初にゴールするのはユーリとフレン
2人ともゴールすると、いつも記録取るのを手伝ってくれる
そのせいか……何故かユーリたちがゴールした後の女子たちの視線が異常なくらい痛い
そんな人たちに先生たちの怒声が響くのは最早毎回のことになりつつある
…で、問題が1つ
この前居なかったクラスの外部の女子メンバー……
結局ずーっと来なくて、今日やっと来たんだけど……
……知らないから、なんだろうけど……わたしの前通る度にずーっとブツブツなんか話してるのが嫌でも目に入る
「……あいつら、後でしばくか」
「しばくだけじゃわからないんじゃないかい?1度半殺しにした方がいいよきっと」
「……先生いるんだから物騒な話しないの2人とも……」
大きなため息をついて既にゴールしていた2人を見る
あの日から、フレンは毎日わたしの家に泊まってる
おばさんがわたしがいいなら当分お世話になっておいで、と言ってくれたみたいだ
ユーリとは……相変わらず目が合わせられない…
いやほんとに…どーすればいいですか…
ピピーッ「1度休憩に入る!お前ら水分補給、しっかりしろよー!」
他のクラスの先生がスピーカーでそう言うと、あちこちから話し声があがる
「お、休憩か。フレン、飲み物取ってこようぜ」
「だね。アリシア、ちょっと待っててくれ」
「はーい!」
2人は水筒を取りに荷物置き場の方へ走って行った
2人を待っている間、記録表と睨めっこしていると、不意に近づいてくる足音が聞こえて顔を上げる
ユーリとフレンが居なくなったのをいい事に、あの子たちが待ってましたと言わんばかりに、わたしの方に近づいきていた
…まぁさ……薄々わかってはいたけどね……
……逃げたい、非常に逃げたい……
「ちょっとあんた。なんで走ってないわけ?」
グループのリーダーって感じの子がぶっきらぼうにそう聞いてくる
「先生に聞けばいいじゃない。わたしが何言っても信じないでしょ?」
「はぁ?なんなのよその態度!本当ムカつく!」
いやムカつくも何も……本当のことじゃん
そんなこと考えていたら、ものすごく怒った声が聞こえてくる
「おいお前ら。シアになんの用だよ?」
声の聞こえた方を見れば水筒を2つ持ったユーリの姿が目に入る
思ってたよりも帰ってくるの早かったなぁ
「え…っ!あっ……いや………」
ユーリを見た途端にもじもじとし始める
…駄目だ、わたし本気でこのタイプ嫌い…
「用ねぇならどっか行ってくんね?」
キッパリそう言ってユーリはわたしを隠すように前に座る
「だっ……だって!こいつだけ走ってないから…!!」
「『こいつ』じゃなくてアリシアだからね?」
若干ドスの効いたユーリ以外の声が聞こえてくる
いやまぁ、見なくてもわかるけどフレンだね……
なんか、ユーリ以上に怒ってません……?
「休んでたから知らねぇんだろ?っつーか、休んだやつにとやかく言われる筋合いねぇよな」
「アリシアは身体が弱くて過度な運動は禁止されているんだ。先生方からそれに関して文句言ったりするなと注意されているし、ずっと休み続けていた人が、それに関して文句言える立場ではないんじゃないかい?」
反論する隙すら与えずにユーリとフレンはそう言う
…いや、うん、ごもっともだよね
が、納得がいかないんだか…その子たちは反論してくる
「嘘ついてるだけかもしれないじゃない!」
「医者の診断書があんのにか?冗談、そうゆういちゃもんつけんのやめてくんね?」
「で…でも、走れるかもしれないじゃないですか…!!やらないくせに無理なんて言ってずるいです…!」
ぎゃーぎゃー文句をいい続ける彼女たちに気づいた先生たちがチラチラこちらを見てきているのが視界の隅に映る
騒ぎを聞きつけた外部から来た他の生徒も次第に頷いたりし始めるが、中等部からいた人たちは馬鹿みたいと言いたげに彼らを見つめている
……あぁ、鬱陶しいなぁ……
「……じゃあ、あなたたちはわたしが走って倒れでもしたら……責任、取れる?」
静かに、でも、いつもよりも低い声で問いかけた
「……え?」
「取れるの?取れないの?どっち?」
「と……取ってやるわよ!!本当に身体弱いって言うならねっ!!」
リーダーの子が投げやりにそう叫んだ
「ふーん…………レイヴン先生ー!今の聞きましたかー」
「へ?あ、あぁ…聞いた…けど」
レイヴン先生の方を見て問いかけると、若干引きつった顔でそう返してくれた
先生含め仲のいい何人かの子たちも、わたしがしようとしていることに気づいたのか、全力で止めようと声をかけてくる
でもね?もう我慢が限界なんだよ
「……その言葉、忘れないでね?」
彼女たちの方を見てニコッと笑う
……今、今までで1番、ドス黒い笑顔浮かべてる自信がある
「……シア、本気でやめねぇか?」
「下手したら……また入院沙汰になってしまうよ?」
「え?だって、責任取ってくれるんだよ?ちゃーんとみんな聞いてたでしょ??」
ニコニコと笑いながら準備運動をする
未だにあちこちからやめるように勧める声が聞こえる
それでも、やめるつもりはない
いやだって、やめたら意味無いもん
……マジで本当、退学に追い込んでやりたいくらいにはイラつきました
流石の『ぼく』も我慢の限界なんですよ
「えー……では、全員スタート位置につけーー……アリシア、本当にやめないか…?」
心配そうな先生の声がスピーカー越しに聞こえてくる
「ごめんなさい、やめるつもりはないですっ!」
先生にそう返して、スタート位置につく
「…………あーぁ……オレもう知らね……あいつら退学待ったなしじゃねぇの?」
ボソッとユーリが隣で呟いた
「……とりあえず、タイムは捨ててアリシアの傍に居よう。もうそれしか出来ないよ……」
諦め気味にフレンは項垂れる
「えー……『ぼく』のことは気にしないで、先行っていーのに」
「いや絶対離れねぇ。その状態になったお前放置とか世界が終わりかねねぇ」
「えぇ………それはひどーい」
ものすごく真顔で言ってくるユーリにそう返すと、再びスピーカーから声が聞こえてくる
『準備はいいかー?……位置について………よーい』
パァンッ
合図で一斉に走り出す
普段なら全っ然走れないんだけど、『今』はスピードを出せる
久しぶりだと、風を切るのが気持ちよく感じる
「アリシア…!速度落とそう?!」
左肩にフレンの手が置かれる
「シア!スピード出しすぎだ!」
右肩にはユーリの手が置かれた
「えぇ…別にまだへーきだもん!」
そう言ってスピードをあげようとするけど、2人に抑えられてあげられない
…だって、まだまだ平気そうなのに…
なんて考えながら、渋々ユーリたちと同じペースに変える
…いや、変えなければ良かったと気づいたのはそのすぐ後
「……っ!!!!」
1周目が終わりそうな所で胸が痛くなって上手く呼吸が出来なくなってきた
急にスピード落としたから、身体に負担がかかったんだろう
「おい、シア、平気か?」
すぐにユーリがそう聞いてくる
「わかん………ない…………」
徐々に徐々に、ペースが落ちる
あぁ…今回は意外と早かったなぁ…久々に走ったからかな?
なんて、呑気なこと考えてたら本気で息出来なくなり始めた
「……はっ…………は…………っ」
完全に走ることが出来なくなってゆっくりその場に崩れる
「っ!せ、先生呼んでくる!」
速攻でフレンが傍から離れたことだけはわかった
「シア、おいシア!」
ユーリが隣にしゃがんで寄り添ってくれている
が、息が出来なくて返事が出来ない
「かっ…………ぅ………っ…………はっ……」
視界が歪んで、ぐるぐる回りだす
心配そうに他の友だちも傍に来て声をかけてくれているみたいだけど、ぼわーんと反響して聞き取れない
息苦しさや吐き気、痛みに耐えきれなくなって、ゆっくり意識を手放した
「…………………」イライラ
「…………………」ニコッ
学校の教室、そこでシアに走れと言い出した他校から来た奴ら全員が正座し、向いた先に仁王立ちになってあからさまに苛立ったオレと、笑顔で怒りを隠したフレンはいる
事の発端作り出しやがったやつはいっちばん前でガタガタ震えてる
先生たちにゃ少し外で待ってもらっている
この状態が、かれこれ30分
そろそろ限界なやつが多いらしい
「…………んで?お前らさ……シアになんつったっけ?」
ようやくオレは口を開く
滅多に出さない本気でキレた時の低トーンの声に大半がビクッと肩をあげる
女子の中にゃ泣きそうなのもいるが、んなこと知ったこっちゃねぇ
「なぁ?誰が『嘘つき』だったよ?」
先程そう言ったやつのことを見ると怯えた表情でおどおどし始める
「……………嘘、ついていたかい?君たちの軽率な発言でこうなったこと………理解しているかい?」
満面の笑みを崩さずにフレンは言葉を静かに繋げた
…ぶっちゃけオレよりこいつの方が絶対に怖い
「えっと……………あの……………ご、ごめんなさい…………」
先程までシアと威勢よく張り合っていたやつがそう謝ると、次々と謝罪が聞こえてくる
「……謝って、責任取れると思ってんの?お前」
そいつを睨みながら、オレは言葉を繋げる
「なぁ?お前自分で責任取るっつったよな?どうするわけ?シアさ、過敏な運動したら下手したらそれで死んじまうんだよ。今回は気失う程度で済んだけどよ、もし死んでたらどう責任取ってくれたわけ?お前がシアにその命あげてくれるつもりだった?そんだけの覚悟あって言ったんだよな?」
立て続けにそう言うと、いよいよ泣きだしそうになる
いや、なんで泣くんだよ
自分が悪ぃんだろうが
「あーー………お2人さーん、そろそろいいかい??理事長先生がお話したいって」
遠慮気味に扉を開けて、レイヴン先生が顔を覗かせる
「……ユーリ、後は任せよう?」
フレンの言葉にただ頷いて扉の方へ向かう
「……あ、最後に1つ………お前ら、今後シアになんか言いやがったら………どうなるか、わかるよな?」
振り向いてニコッと笑ってそう言って、教室を出た
「……………半殺し、で済めばいいね?」
そんなフレンの声が背後から聞こえた
今頃、青ざめてんだろうなぁ
そんなこと考えながらフレンと2人、無言で保健室に向かう
軽くノックして扉を開ける
「もー!アリシアは無茶しすぎだよ!」
「まぁ、あれだけしないとわからないような頭悪い奴らばっかだったからって言う理由はわかるけどさぁ…」
「もーちょっと、僕らの気持ちを考えて欲しかったな」
「本気でヒヤヒヤしたよ……」
「ごめん、もうやらないからさ」
保健室に入ってすぐ近くにあるベット
その周りに何人かのシアと仲のいいやつらと、ベットのうえでシアが苦笑いしていた
「お、ユーリにフレン、おかえり〜」
「おぅ、ありがとな、シアについててくれて」
「いーのいーの、アリシアの馬鹿1人にさせてたら、何するかわかんないからね」
「えぇ……馬鹿呼ばわりは酷いなぁ……」
「ははっ!仕方ないよ、止めたのに言うこと聞かなかったんだから」
そう言いながら、様子を見て(監視して)くれていたやつらが、オレとフレンに席を譲ってくれる
「んじゃ、大人しくユーリとフレンのお説教聞いとけよー」
「僕ら、ちょっとあいつらがどうなったか覗きに行ってくるからさ」
「それじゃ、またね〜」
「あぁ、本当にありがとう」
フレンの声を背にして、保健室を出て行った
残ったのはシアとオレとフレンの3人
「…んで、シア?少しは反省してるか?」
「……あれは『ぼく』のせいじゃない、あいつらが悪い」
ムッと頬を膨らませてシアはそう言う
「全く、『まだ』なおってないのかい?」
「だぁって……流石に限界だったし……なんでユーリと付き合ってるだけで嫌がらせ受けなきゃいけないんだし…大体何言っても信じないくせに、嘘つき扱いされる意味もわかんないし」
「そりゃ同感だけどな…いい加減その怒り、鎮めてくれねぇか??」
そう言って頭を撫でると、不服そうな顔で上目使いで見つめてくる
その仕草に思わずドキッとした
…いやほんとにもう……なんで『この状態』の時はそんな可愛いことすんだよ……いや、普段から可愛いけど…
「………ユーリ」
フレンの声にはっとして隣を見ると、あからさまに呆れた顔をしたフレンの顔が目に入る
「可愛い、なんて思ってたりしてないで、今は『元に』戻すことを考えようか?」
「………………わーってるよ」
だいぶ間を開けて答える
とは言ったものの、今回はどうしたら直るだろうか…
「アリシア、今欲しいものはあるかい?」
フレンがそう聞くと、首を傾げながらうーん、と唸る
しばらくそうして唸っていると、何かを思いついたように手を叩く
「…ユーリ」
「「……はい??」」
「だから、ユーリ!」
ハッキリとシアはそう言った
…うん、待て…いやちょっと…思考が追いつかねぇ
隣のフレンも同じらしく、珍しく口を開けたまま唖然としている
「……って言うのは冗談で」
シアのその声にオレもフレンもほっと息をついた
少し安心したというか……本音は残念っていうか……
「ユーリが作ったお菓子食べたい」
何処か不服そうにシアはそっぽを向く
「…はいよ、そのくらいお安い御用で」
髪を一束掬ってそれに唇を落とす
すると満足そうに微笑む
「それじゃあ、そろそろ荷物取ってくるよ。いつまでもここに居るわけにもいかないしね」
そう言ってフレンが立ち上がる
「おう、頼んだぜ」
コクリと頷くと、保健室から出て行った
シン……と静まった保健室……
何か話題をと思って、さっきのを聞いてみることにした
「…なぁシア、さっきのって一体どうゆう」
そう言った途端、顔を赤くして布団に潜る
……いやいや待てって…そんな反応すると思ってなかったんだが……
「…シア?」
ツンツンと突っつきながら声をかける
すると、先程と違い途切れ途切れに話し出す
「……ちょっと1日……くらい…独り占めしたいな…………って、一瞬思っただけ………本当一瞬思っただけだから……っ!!!」
半分投げやり気味にそう答える
…可愛すぎかよ、本当に
「シアがそうして欲しいんなら、両方でもいいぜ?」
布団の上からぎゅっと抱き締める
「…………じゃあ………両方………っ/////」
聞き取れるか取れないかの小声でシアは言う
「お安い御用で」
そう返したのとほぼ同時に、保健室の扉が開いた
バッと離れると、バックを3つ抱えたフレンが立っている
「ほら、持って来たよ」
「サンキュ。…シア、帰るぞ」
そう言うと、布団の中から出て来て頷く
この日はフレンが3人分のバックを持ってくれ、オレはシアをおんぶして帰った
…歩かせるとか、命懸け過ぎて出来ねぇしな…