*1年生
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新学期早々……
~お祭りから2週間後~
あの日から2週間経った
結局、お父さん達はあの後急な仕事が入ったらしくて、わたし達の夏休み中に帰って来れなかった
まぁ、今日か明日帰って来るらしいんだけど…
……そんなことよりも、だ
わたしには1つ、大問題がある
それは……
「うわぁぁぁぁん!!ユゥーリィー!!課題終わってない!!マジどーしようっ!!!」
「うぉっ!?!!シアっ、まっ!!いきなり飛びつくなっつーのっ!!後、こんな時間に大声出すなっての…」
ベッドの淵に座っていたユーリに飛びつくと、案の定呆れたように苦笑いしながら注意された
仕方ないじゃないか……終わらないものは終わらないんだから…
「もー数学とかわけわかんない…二次方程式って何さ…そもそも方程式って何よ……証明もわけわかんないし、図形なんてもっとわかんないし……!!」グスッ
涙目でユーリを見上げる
ユーリがこの仕草に弱いことは、この2週間でわかりきったことだ
「っ~~~!!…おい、シア…それは反則だっての…」
大きくため息をつきながらユーリは私から顔を背ける
……背けても、顔真っ赤なのが見え見えなんだけどね
「だーってぇ…わっかんないんだもん…このままじゃ居残り補習だよ…」グスッ
「そんなんで泣くなっての…後どんだけ残ってんだ?」
ポンポンっと私の頭を撫でながらユーリは聞いてくる
「………数学半分と英語半分…」
ユーリから顔を背けながら答える
だって…怒られるのが目に見えてるんだもん…
「…は??おまっ…今なんつった??」
案の定、ありえない!って顔しながらユーリが振り返ったのが横目に見えた
…そりゃそうだよね…
夏休み、1ヶ月半くらいあったのに半分ずつ終わってないとか聞いたら、そんな反応になるよね…!
「シア……お前なぁ…」
流石にお説教は聞きたくないから、両手で耳を塞ごうとすると、急に視界が反転して目の前にユーリの顔が見える
…つまり、押し倒されたわけだ
「…なーに耳塞ごうとしてんだよ?」
若干引きつった笑顔を向けながら話しかけられる
…あぁ、これ終わったなぁ…
「あー、えーっと…た、たいした意味はないけど…さ…?」
直視出来なくって、ユーリから目を反らす
近い近い近い、近すぎるから…!!
「…はぁ……ったく…あんだけやんなくていいのかってオレ、聞いたよな??」
そう言いながらギュッと、思い切り頬を抓られる
「いふぁっ!?!!」(痛っ!?!!)
あまりにも強く抓られるからどうにかして逃れようとするけど…
うん、無理だよね…!
どう頑張っても勝てないよね…!
「なぁ?それで終わらねぇって泣きつくのは違うよなぁ??」
「ふぉめんなふぁいっ!!ふぉめんっへふぁ!!」(ごめんなさいっ!!ごめんってばぁ!!)
バタバタと足を動かしてみるが、ユーリへのダメージはゼロ…
本当に痛いんだけど…!!
「大体なぁ、ゲームばっかやってっからこーゆーことn」
「アリシア帰ったぞーー!!」バンッ
突然部屋の扉が勢いよく開いた
驚いて扉の方を向くと、海外に行っていたはずのお父さんがそこにいた
…いや、確かに今日帰ってくるのは聞いていたけれど……
まさかこの時間に帰ってくるとは思っていなかった
驚きすぎて私もユーリも思考停止
…まあ、お父さんもこの状況を見て思考停止したのか、唖然としてるけど…
「……あ……えーっと……これは…その……っ!」
最初に口を開いたのはユーリだった
…まぁ…モゴモゴ言ってるから説得力なんてほとんど…いや、全くないんだけど…
「………あ…いや………悪かったな………」スススッ
そうこうしている間に、何か見ちゃいけないものでも見たかのようにお父さんが部屋を出て行こうとする
「えっ、いやいやっ!ちょっとお父さん!待ってって!」ドンッ
「いでっ?!!」
上にいるユーリをお構い無しに突き飛ばして、お父さんの後を追いかけようと、閉まりかけた扉のノブに手をかけようとする
が……
「……引き下がるわけがないだろぉぉぉ!!?!!」バンッ
ガンッ「いったっ?!!」
出て行こうとしていたはずのお父さんが、再び思い切り扉を開け、その拍子に思い切り扉に顔面強打
痛い……
いや、痛いなんてレベルを通り越して目の前に星が見える気がするよ……
「あなたっ!!!何をしているの?!!」
私の声に気づいたのか、お母さんの声が聞こえてきた気がする
……あぁ、全くもう……朝帰るならそう言ってよ……
「……つまり、アリシアがやれと言われてた課題をやっていなくて、終わらないと泣きついてきて、ユーリ君が説教しようとしたところ、アリシアが耳塞ごうとしたからああいう状態になったと?」
「まぁ……そんな感じっすね…」
「……そして、ユーリ君はアリシアと付き合っていると…?」
「アリシアの同意上…お付き合いさせていただいてます…」
今いるのはリビング
そこで、ユーリとお父さんが向かい合って座って話をしている
……話っていうか、お父さんが一方的に質問攻めしてるだけなんだけど…
「……本っ当に同意上なんだな??」
わなわなと握った手を震わせながらユーリに再確認しているのが、見なくてもわかる
……なんで『見てない』かって?
それは、さっきお父さんが思いき扉開けたせいで、頭怪我したから
だから今はお母さんに手当してもらってる最中
「あなた?もういいじゃないの。アリシアだってそう言ってたじゃない」
お母さんはそう言いながら、包帯やら消毒液なんかを片付け始める
「だっ、だがなぁっ?!万が一にでも無理矢理だったr」
「お父さん、しつこい、そんなんじゃないって言ってるじゃん」
そう言いながら、ユーリの隣の椅子に座って、お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べる
久々に食べるお母さんの料理はとっても美味しい
…ユーリも負けてないけどね
「ユーリ君もじゃんじゃん食べてね?まだまだ育ち盛りでしょ??それに、留守にしている間、アリシアがお世話になっているものね」
ニコニコと嬉しそうに笑いながら、お母さんがユーリの分のご飯を持ってくる
「すみません、ありがとうございます」
お母さんにペコっとお辞儀をして、頂きます、と言ってからユーリも食べ始める
「あっ、まだ話は終わってn」
「この子達は学校があるのですよ?それとも、あなたはそれすら邪魔すのですか?」
にっこり笑いながらお母さんはお父さんに言うけど、目が全く笑ってない
本当…お母さんだけは怒らせたくないや……
ピンポーンッ
「はーい!」
チャイムが鳴って、お母さんが玄関へと向かう
この時間だと……多分フレンかな?
「あらぁ!!フレン君じゃない!」
嬉しそうなお母さんの声が聞こえてくる
あー、もうフレンが来るような時間か……
…なんて、のんびりご飯食べながら思うことじゃないか
「朝ごはんちゃんと食べた??時間があるなら食べて行かない??」
お母さん……声大きい……
「えっと…お邪魔します」
そう言いながらフレンが入って来たのが視界の隅に入った
「おはよー、フレン」
フレンの方に顔を向けて、いつも通りに声をかける
と、頭の包帯に気づいたのか、フレンがすっ飛んで来た
「アリシアっ?!!どうしたんだい、その包帯…!!!」
血相を変えて、ものすごい勢いで問い詰めてくる
「あーーー、いや……お父さんが…ねぇ…??」
嫌味たっぷりにジト目で目の前のお父さんを見つめながら言う
すると、なんとなく察してくれたのか、あぁ……とフレンもお父さんの方を見た
「大丈夫かい??」
お母さんが用意してくれた席に腰掛けながら、フレンは聞いてくる
「へーき、へーき~」
軽くそう返す
若干大丈夫じゃないけど、今の私にはそれよりも重大な問題がある
「…それで、肝心の課題の方は終わったのかい?」
フレンのその一言で、一瞬喉にご飯がつっかえそうになった
結局お父さんのせいで手がつけられてない
「終わってねーんだってよ」
フレンの問いに答えられないでいると、ユーリが横から答えてしまった
慌ててユーリの方を向く
「ちょ…!!ユーリ!!フレンにそれ言ったら」
「…アリシア?」
フレンの若干ドスの効いた声に、肩がびくりと震えた
これは…やばい
絶対にやばい
「聞こえなかったかい?」
再度フレンの声が聞こえる
渋々フレンの方を向くと、なんとも言えない笑顔をしたフレンが目に入る
「フ、フレン…その笑顔怖い…」
そう言って立ち上がり、フレンから少しずつ距離をとる
「…その怖い笑顔にさせているのは…一体誰だと思っているんだい??!?」
ガタッと大きな音を立てて、フレンが立ち上がる
「うわっ!?ごめんっ!ごめんってばぁぁぁぁ!!!」
「それを言うのも何度目だいっ?!1度や2度じゃないだろう!?」
全力で逃げるわたしを、全力でフレンが追いかけて来る
体力のないわたしの方が負けるのはほぼ確定だけど、それでも意地でも逃げたい
「シア…諦めて潔く怒られろって」
呆れたようにユーリが言ってくる
「諦めてたまr…きゃっ…!!?」
ユーリに反論しようとした瞬間、何かにつまづいて、見事にスライディングした
あぁ…終わったなこれ…
「いったぁぁぁぁ………」
ゆっくり起き上がりながら足元を見ると、お父さんの鞄が目に入った
……もう一生お父さんのこと許さない
完全にフレンに怒られる、そう思って諦めかけた時
「ちょっ!?アリシア…!大丈夫かい?!」
「…へ?」
先程まで鬼の形相だったフレンが、ものすごく顔を青ざめて駆け寄ってきた
フレン同様ユーリも青ざめた顔をして駆け寄ってくる
状況がわからなくて頭にはてなを浮かべていると、異常なくらいに額が痛いことに気づいた
痛む箇所に軽く触れると、手に血がついた
「……あれ、もしかして切った?」
苦笑いしながら2人を見る
「もしかしなくても切れてるよ!」
「包帯巻いてて切れるって、どんな転び方したんだよ…!!」
わたわたとわたし以上に慌てた様子で、2人は言う
「あなた!あれだけ床に荷物を置きっぱなしにしてはいけないと言ったのに…!!」
「いや、すまん!!俺が悪かった!!だから母さん頼むからその手を下ろしてくれ!」
一方の両親はいつも通りと言うべきか、ものすごく怒ったお母さんがお父さんに説教していた
…それよりも、こっちどうにかして欲しいなぁ
「お母さん……お父さんよりもわたしの方見て欲しいんだけど…」
そう言うと、はっとしてお母さんはわたしに駆け寄ってくる
「そうね……これは、病院に行った方が」
「うん、大丈夫!すぐ治る!」
『病院』の言葉を聞いて、すっと立ち上がる
絶対、何がなんでも行きたくない
「駄目よ!ほら、わがまま言わないで行くわよ!」
そう言うが早いか、お母さんはわたしの手を引く
「いーやーだぁぁぁぁぁ!!!!病院なんて行きたくないぃぃぃぃ!!!!」
「ユーリ君、フレン君、アリシアのことは気にしないで、学校に行っていていいからね」
「え…あ……は、はい、わかりました」
「先生には僕らから伝えておきますね」
「あら、じゃあお願いしようかしら」
わたしの行きたくないはガン無視されてしまい、3人で勝手に話が進められてしまった……
「………………………………」ムスッ
「シアー、いい加減機嫌、直してくれねぇか?」
優しく頭を撫でながらユーリは苦笑いする
今いるのはわたしの部屋
結局、午前中一杯手当に時間がかかって、新学期早々休む羽目になった
レイヴン先生から電話で、そう言う事情ならばと、提出物の期限を伸ばしてもらった
プラスで考えれば、終わっていないものをやる時間が増えたのだが……
「新学期早々休むとか………本当にありえない…………」
何度目かわからないため息をつく
新学期初日だけは、毎回ちゃんと出席してたのに…
「仕方ねぇだろ?怪我しちまったんだから、そっち優先しねぇと先生が驚くっての」
もう何度目かの同じ会話
この状態がかれこれ1時間近く続いていた
「ほら、そろそろ課題やろうぜ?終わるまで手伝ってやるからさ」
そっと親指で頬を撫でながら、困ったようにユーリは笑った
なんだかんだ朝帰ってきたお父さんたちは、夕方にはまた戻ってしまうらしい
だからこう言っているんだろうけど…
「……お父さんが聞いたらひっくり返りそー」
苦笑いしてそう言うと、しーっと人差し指を口元に当てた
付き合ってますって、言っただけであんなんだったお父さんだ
泊まってること知ったら、本気でユーリに殴り掛かりかねない
「まぁ、フレンも付き合うっつってたし、終わるだろ」
そう言うと、わたしの意思は聞かずに課題を広げ始める
……もう本当に見たくないんだけどなぁ……
「って、英語半分っつっても、後単語書くだけじゃねぇか。このくらい、辞書使えばいいんじゃねぇの?」
英語の課題を見ながら、ユーリは言った
「ユーリ……もしかして、天才……?」
全くその案は思いつかなかった……
そっか、そう言われてみれば辞書、あったよね……
「…………相当追い込まれてたんだな、シア……」
苦笑いしながらそう言って、ユーリは英語の課題をわたしの前に置く
「先にこっちからやってろよ。数学はフレンの方が得意だしな」
「はーい」
素直に答えて、課題に手をつける
嫌だ、と言いたいところだが…これ以上嫌がったら本気でゲーム没収されそうだし……
〜数10分後〜
「やぁ、進み具合はどうだい?」
「あーー……それが、なぁ……?」
やって来たフレンに、ユーリの苦い声が聞こえる
が、今のわたしにはそんなの気にしてる余裕がない
「………………あーーー!!!!もう!!!!わかんないっ!!!!!!」
そう叫んでシャーペンを手放す
英語はものの10分程度で終わり、今は最大の難関、数学に取り掛かっていた
…取り掛かって、いるんだけど……
「わっかんないよ………もー図形大っ嫌い……」
そう呟いて机に突っ伏す
数学の中でも、何よりも1番、図形が大嫌いなのだ
面積も体積も、底辺や各辺の求め方もわからない
やれ公式だとか言われても、わからないものはわからない
「全く……ほら、アリシア、もう1度ゆっくり、一緒にやってみよう?」
ユーリと場所を交代しながら、フレンは優しく話しかけてくる
ゆっくりと顔を上げ、もう1度問題に目を向ける
が、やっぱり全くわからない
なんでこんなの勉強しないといけないのさ……
「テストじゃないから教科書見ながらゆっくり考えてみなよ。ほら、この問題なら、教科書の例題と似てるだろう?」
「………あ、本当だ」
「だろう?だから、これの式にこっちの問題の数字を当てはめて計算すればいい」
フレンに言われた通りに計算していく
「………………これ、であってる……?」
恐る恐るフレンに聞く
「うん、あってるよ。この調子で次の問題、これは形が違うけど、求めたいところは同じだから…………」
フレンの説明通りに式を組み立てて、計算していくと、あんなに進まなかった問題がどんどん解けていく
公式とか、未だによくわかんないけど、それでもなんとか終わりそうだ
「……うん、これで全部終わったね」
フレンと勉強を始めてから小1時間、ようやく課題が終わった
「終わったぁぁぁ………ありがとう、フレン、ユーリ」
クルっと振り返りながら2人にお礼を言う
「どういたしまして」
フレンはニコッと笑う
「……いいっての、オレ、特になんもしてねぇし」
が、ユーリはちょっと拗ねたように顔を背ける
…いや、ちょっとじゃない、かなりだ
「ユーリ……素直にどういたしましてくらい言ったらどうだい?」
呆れたようにため息をついてフレンは言った
「…なんもしてねぇのは事実だっての」
依然として少し頬を膨らませたユーリが、ちょっと可愛く思えた
「……まさか、僕に嫉妬してるんじゃないだろうね?」
いたずらっぽくフレンが笑って言うと、ユーリはあからさまに頬を赤らめた
「んな…っ!?!!そ、そんなんじゃねぇよっ!!」
そう言って、ユーリは顔を背ける
思わずクスッと笑ってしまった
「……もー、しょうがないなぁ」
そう言って椅子からおりて、ユーリに近寄る
「…ユーリ!」
「……あ?なん……っ!?!!」
振り向いたユーリの腕の中に飛び込んで、ぎゅっと抱きつく
顔を上げてみれば、顔を真っ赤にしたユーリが見える
「な……なっ………!!!!?!////////」
あからさまに動揺してて、もはや言葉になってないし…
「…ありがとう、ユーリ!」
ニコッと笑ってもう一度そう言う
「ーーーーっ!!!!///////わかった!わかったから退いてくれ!!///////」
顔を真っ赤にしたユーリが可愛くて、本当はもう少し見ていたかったけど、フレンもいるから大人しく退いた
「アリシアー、それに、ユーリ君とフレン君も、お夕飯久しぶりにみんなで食べに行きましょー?」
下の階から、お母さんがそう呼ぶ声が聞こえた
「あっ、呼んでる…2人も行こう?」
交互に見ながら首を傾げる
「おばさんのことだから、僕らの両親も誘っていそうだしね、行こうか」
「……おう///」
未だに顔を赤くしたユーリを連れて、3人で下に降りた
とっても久しぶりに3家族で食べた夕飯は、とても楽しくて、美味しかった
終始、ユーリがお父さん達にいじられまくってたけど、ね?
~お祭りから2週間後~
あの日から2週間経った
結局、お父さん達はあの後急な仕事が入ったらしくて、わたし達の夏休み中に帰って来れなかった
まぁ、今日か明日帰って来るらしいんだけど…
……そんなことよりも、だ
わたしには1つ、大問題がある
それは……
「うわぁぁぁぁん!!ユゥーリィー!!課題終わってない!!マジどーしようっ!!!」
「うぉっ!?!!シアっ、まっ!!いきなり飛びつくなっつーのっ!!後、こんな時間に大声出すなっての…」
【現在の時刻、午前6時】
ベッドの淵に座っていたユーリに飛びつくと、案の定呆れたように苦笑いしながら注意された
仕方ないじゃないか……終わらないものは終わらないんだから…
「もー数学とかわけわかんない…二次方程式って何さ…そもそも方程式って何よ……証明もわけわかんないし、図形なんてもっとわかんないし……!!」グスッ
涙目でユーリを見上げる
ユーリがこの仕草に弱いことは、この2週間でわかりきったことだ
「っ~~~!!…おい、シア…それは反則だっての…」
大きくため息をつきながらユーリは私から顔を背ける
……背けても、顔真っ赤なのが見え見えなんだけどね
「だーってぇ…わっかんないんだもん…このままじゃ居残り補習だよ…」グスッ
「そんなんで泣くなっての…後どんだけ残ってんだ?」
ポンポンっと私の頭を撫でながらユーリは聞いてくる
「………数学半分と英語半分…」
ユーリから顔を背けながら答える
だって…怒られるのが目に見えてるんだもん…
「…は??おまっ…今なんつった??」
案の定、ありえない!って顔しながらユーリが振り返ったのが横目に見えた
…そりゃそうだよね…
夏休み、1ヶ月半くらいあったのに半分ずつ終わってないとか聞いたら、そんな反応になるよね…!
「シア……お前なぁ…」
流石にお説教は聞きたくないから、両手で耳を塞ごうとすると、急に視界が反転して目の前にユーリの顔が見える
…つまり、押し倒されたわけだ
「…なーに耳塞ごうとしてんだよ?」
若干引きつった笑顔を向けながら話しかけられる
…あぁ、これ終わったなぁ…
「あー、えーっと…た、たいした意味はないけど…さ…?」
直視出来なくって、ユーリから目を反らす
近い近い近い、近すぎるから…!!
「…はぁ……ったく…あんだけやんなくていいのかってオレ、聞いたよな??」
そう言いながらギュッと、思い切り頬を抓られる
「いふぁっ!?!!」(痛っ!?!!)
あまりにも強く抓られるからどうにかして逃れようとするけど…
うん、無理だよね…!
どう頑張っても勝てないよね…!
「なぁ?それで終わらねぇって泣きつくのは違うよなぁ??」
「ふぉめんなふぁいっ!!ふぉめんっへふぁ!!」(ごめんなさいっ!!ごめんってばぁ!!)
バタバタと足を動かしてみるが、ユーリへのダメージはゼロ…
本当に痛いんだけど…!!
「大体なぁ、ゲームばっかやってっからこーゆーことn」
「アリシア帰ったぞーー!!」バンッ
突然部屋の扉が勢いよく開いた
驚いて扉の方を向くと、海外に行っていたはずのお父さんがそこにいた
…いや、確かに今日帰ってくるのは聞いていたけれど……
まさかこの時間に帰ってくるとは思っていなかった
驚きすぎて私もユーリも思考停止
…まあ、お父さんもこの状況を見て思考停止したのか、唖然としてるけど…
「……あ……えーっと……これは…その……っ!」
最初に口を開いたのはユーリだった
…まぁ…モゴモゴ言ってるから説得力なんてほとんど…いや、全くないんだけど…
「………あ…いや………悪かったな………」スススッ
そうこうしている間に、何か見ちゃいけないものでも見たかのようにお父さんが部屋を出て行こうとする
「えっ、いやいやっ!ちょっとお父さん!待ってって!」ドンッ
「いでっ?!!」
上にいるユーリをお構い無しに突き飛ばして、お父さんの後を追いかけようと、閉まりかけた扉のノブに手をかけようとする
が……
「……引き下がるわけがないだろぉぉぉ!!?!!」バンッ
ガンッ「いったっ?!!」
出て行こうとしていたはずのお父さんが、再び思い切り扉を開け、その拍子に思い切り扉に顔面強打
痛い……
いや、痛いなんてレベルを通り越して目の前に星が見える気がするよ……
「あなたっ!!!何をしているの?!!」
私の声に気づいたのか、お母さんの声が聞こえてきた気がする
……あぁ、全くもう……朝帰るならそう言ってよ……
「……つまり、アリシアがやれと言われてた課題をやっていなくて、終わらないと泣きついてきて、ユーリ君が説教しようとしたところ、アリシアが耳塞ごうとしたからああいう状態になったと?」
「まぁ……そんな感じっすね…」
「……そして、ユーリ君はアリシアと付き合っていると…?」
「アリシアの同意上…お付き合いさせていただいてます…」
今いるのはリビング
そこで、ユーリとお父さんが向かい合って座って話をしている
……話っていうか、お父さんが一方的に質問攻めしてるだけなんだけど…
「……本っ当に同意上なんだな??」
わなわなと握った手を震わせながらユーリに再確認しているのが、見なくてもわかる
……なんで『見てない』かって?
それは、さっきお父さんが思いき扉開けたせいで、頭怪我したから
だから今はお母さんに手当してもらってる最中
「あなた?もういいじゃないの。アリシアだってそう言ってたじゃない」
お母さんはそう言いながら、包帯やら消毒液なんかを片付け始める
「だっ、だがなぁっ?!万が一にでも無理矢理だったr」
「お父さん、しつこい、そんなんじゃないって言ってるじゃん」
そう言いながら、ユーリの隣の椅子に座って、お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べる
久々に食べるお母さんの料理はとっても美味しい
…ユーリも負けてないけどね
「ユーリ君もじゃんじゃん食べてね?まだまだ育ち盛りでしょ??それに、留守にしている間、アリシアがお世話になっているものね」
ニコニコと嬉しそうに笑いながら、お母さんがユーリの分のご飯を持ってくる
「すみません、ありがとうございます」
お母さんにペコっとお辞儀をして、頂きます、と言ってからユーリも食べ始める
「あっ、まだ話は終わってn」
「この子達は学校があるのですよ?それとも、あなたはそれすら邪魔すのですか?」
にっこり笑いながらお母さんはお父さんに言うけど、目が全く笑ってない
本当…お母さんだけは怒らせたくないや……
ピンポーンッ
「はーい!」
チャイムが鳴って、お母さんが玄関へと向かう
この時間だと……多分フレンかな?
「あらぁ!!フレン君じゃない!」
嬉しそうなお母さんの声が聞こえてくる
あー、もうフレンが来るような時間か……
…なんて、のんびりご飯食べながら思うことじゃないか
「朝ごはんちゃんと食べた??時間があるなら食べて行かない??」
お母さん……声大きい……
「えっと…お邪魔します」
そう言いながらフレンが入って来たのが視界の隅に入った
「おはよー、フレン」
フレンの方に顔を向けて、いつも通りに声をかける
と、頭の包帯に気づいたのか、フレンがすっ飛んで来た
「アリシアっ?!!どうしたんだい、その包帯…!!!」
血相を変えて、ものすごい勢いで問い詰めてくる
「あーーー、いや……お父さんが…ねぇ…??」
嫌味たっぷりにジト目で目の前のお父さんを見つめながら言う
すると、なんとなく察してくれたのか、あぁ……とフレンもお父さんの方を見た
「大丈夫かい??」
お母さんが用意してくれた席に腰掛けながら、フレンは聞いてくる
「へーき、へーき~」
軽くそう返す
若干大丈夫じゃないけど、今の私にはそれよりも重大な問題がある
「…それで、肝心の課題の方は終わったのかい?」
フレンのその一言で、一瞬喉にご飯がつっかえそうになった
結局お父さんのせいで手がつけられてない
「終わってねーんだってよ」
フレンの問いに答えられないでいると、ユーリが横から答えてしまった
慌ててユーリの方を向く
「ちょ…!!ユーリ!!フレンにそれ言ったら」
「…アリシア?」
フレンの若干ドスの効いた声に、肩がびくりと震えた
これは…やばい
絶対にやばい
「聞こえなかったかい?」
再度フレンの声が聞こえる
渋々フレンの方を向くと、なんとも言えない笑顔をしたフレンが目に入る
「フ、フレン…その笑顔怖い…」
そう言って立ち上がり、フレンから少しずつ距離をとる
「…その怖い笑顔にさせているのは…一体誰だと思っているんだい??!?」
ガタッと大きな音を立てて、フレンが立ち上がる
「うわっ!?ごめんっ!ごめんってばぁぁぁぁ!!!」
「それを言うのも何度目だいっ?!1度や2度じゃないだろう!?」
全力で逃げるわたしを、全力でフレンが追いかけて来る
体力のないわたしの方が負けるのはほぼ確定だけど、それでも意地でも逃げたい
「シア…諦めて潔く怒られろって」
呆れたようにユーリが言ってくる
「諦めてたまr…きゃっ…!!?」
ユーリに反論しようとした瞬間、何かにつまづいて、見事にスライディングした
あぁ…終わったなこれ…
「いったぁぁぁぁ………」
ゆっくり起き上がりながら足元を見ると、お父さんの鞄が目に入った
……もう一生お父さんのこと許さない
完全にフレンに怒られる、そう思って諦めかけた時
「ちょっ!?アリシア…!大丈夫かい?!」
「…へ?」
先程まで鬼の形相だったフレンが、ものすごく顔を青ざめて駆け寄ってきた
フレン同様ユーリも青ざめた顔をして駆け寄ってくる
状況がわからなくて頭にはてなを浮かべていると、異常なくらいに額が痛いことに気づいた
痛む箇所に軽く触れると、手に血がついた
「……あれ、もしかして切った?」
苦笑いしながら2人を見る
「もしかしなくても切れてるよ!」
「包帯巻いてて切れるって、どんな転び方したんだよ…!!」
わたわたとわたし以上に慌てた様子で、2人は言う
「あなた!あれだけ床に荷物を置きっぱなしにしてはいけないと言ったのに…!!」
「いや、すまん!!俺が悪かった!!だから母さん頼むからその手を下ろしてくれ!」
一方の両親はいつも通りと言うべきか、ものすごく怒ったお母さんがお父さんに説教していた
…それよりも、こっちどうにかして欲しいなぁ
「お母さん……お父さんよりもわたしの方見て欲しいんだけど…」
そう言うと、はっとしてお母さんはわたしに駆け寄ってくる
「そうね……これは、病院に行った方が」
「うん、大丈夫!すぐ治る!」
『病院』の言葉を聞いて、すっと立ち上がる
絶対、何がなんでも行きたくない
「駄目よ!ほら、わがまま言わないで行くわよ!」
そう言うが早いか、お母さんはわたしの手を引く
「いーやーだぁぁぁぁぁ!!!!病院なんて行きたくないぃぃぃぃ!!!!」
「ユーリ君、フレン君、アリシアのことは気にしないで、学校に行っていていいからね」
「え…あ……は、はい、わかりました」
「先生には僕らから伝えておきますね」
「あら、じゃあお願いしようかしら」
わたしの行きたくないはガン無視されてしまい、3人で勝手に話が進められてしまった……
「………………………………」ムスッ
「シアー、いい加減機嫌、直してくれねぇか?」
優しく頭を撫でながらユーリは苦笑いする
今いるのはわたしの部屋
結局、午前中一杯手当に時間がかかって、新学期早々休む羽目になった
レイヴン先生から電話で、そう言う事情ならばと、提出物の期限を伸ばしてもらった
プラスで考えれば、終わっていないものをやる時間が増えたのだが……
「新学期早々休むとか………本当にありえない…………」
何度目かわからないため息をつく
新学期初日だけは、毎回ちゃんと出席してたのに…
「仕方ねぇだろ?怪我しちまったんだから、そっち優先しねぇと先生が驚くっての」
もう何度目かの同じ会話
この状態がかれこれ1時間近く続いていた
「ほら、そろそろ課題やろうぜ?終わるまで手伝ってやるからさ」
そっと親指で頬を撫でながら、困ったようにユーリは笑った
なんだかんだ朝帰ってきたお父さんたちは、夕方にはまた戻ってしまうらしい
だからこう言っているんだろうけど…
「……お父さんが聞いたらひっくり返りそー」
苦笑いしてそう言うと、しーっと人差し指を口元に当てた
付き合ってますって、言っただけであんなんだったお父さんだ
泊まってること知ったら、本気でユーリに殴り掛かりかねない
「まぁ、フレンも付き合うっつってたし、終わるだろ」
そう言うと、わたしの意思は聞かずに課題を広げ始める
……もう本当に見たくないんだけどなぁ……
「って、英語半分っつっても、後単語書くだけじゃねぇか。このくらい、辞書使えばいいんじゃねぇの?」
英語の課題を見ながら、ユーリは言った
「ユーリ……もしかして、天才……?」
全くその案は思いつかなかった……
そっか、そう言われてみれば辞書、あったよね……
「…………相当追い込まれてたんだな、シア……」
苦笑いしながらそう言って、ユーリは英語の課題をわたしの前に置く
「先にこっちからやってろよ。数学はフレンの方が得意だしな」
「はーい」
素直に答えて、課題に手をつける
嫌だ、と言いたいところだが…これ以上嫌がったら本気でゲーム没収されそうだし……
〜数10分後〜
「やぁ、進み具合はどうだい?」
「あーー……それが、なぁ……?」
やって来たフレンに、ユーリの苦い声が聞こえる
が、今のわたしにはそんなの気にしてる余裕がない
「………………あーーー!!!!もう!!!!わかんないっ!!!!!!」
そう叫んでシャーペンを手放す
英語はものの10分程度で終わり、今は最大の難関、数学に取り掛かっていた
…取り掛かって、いるんだけど……
「わっかんないよ………もー図形大っ嫌い……」
そう呟いて机に突っ伏す
数学の中でも、何よりも1番、図形が大嫌いなのだ
面積も体積も、底辺や各辺の求め方もわからない
やれ公式だとか言われても、わからないものはわからない
「全く……ほら、アリシア、もう1度ゆっくり、一緒にやってみよう?」
ユーリと場所を交代しながら、フレンは優しく話しかけてくる
ゆっくりと顔を上げ、もう1度問題に目を向ける
が、やっぱり全くわからない
なんでこんなの勉強しないといけないのさ……
「テストじゃないから教科書見ながらゆっくり考えてみなよ。ほら、この問題なら、教科書の例題と似てるだろう?」
「………あ、本当だ」
「だろう?だから、これの式にこっちの問題の数字を当てはめて計算すればいい」
フレンに言われた通りに計算していく
「………………これ、であってる……?」
恐る恐るフレンに聞く
「うん、あってるよ。この調子で次の問題、これは形が違うけど、求めたいところは同じだから…………」
フレンの説明通りに式を組み立てて、計算していくと、あんなに進まなかった問題がどんどん解けていく
公式とか、未だによくわかんないけど、それでもなんとか終わりそうだ
「……うん、これで全部終わったね」
フレンと勉強を始めてから小1時間、ようやく課題が終わった
「終わったぁぁぁ………ありがとう、フレン、ユーリ」
クルっと振り返りながら2人にお礼を言う
「どういたしまして」
フレンはニコッと笑う
「……いいっての、オレ、特になんもしてねぇし」
が、ユーリはちょっと拗ねたように顔を背ける
…いや、ちょっとじゃない、かなりだ
「ユーリ……素直にどういたしましてくらい言ったらどうだい?」
呆れたようにため息をついてフレンは言った
「…なんもしてねぇのは事実だっての」
依然として少し頬を膨らませたユーリが、ちょっと可愛く思えた
「……まさか、僕に嫉妬してるんじゃないだろうね?」
いたずらっぽくフレンが笑って言うと、ユーリはあからさまに頬を赤らめた
「んな…っ!?!!そ、そんなんじゃねぇよっ!!」
そう言って、ユーリは顔を背ける
思わずクスッと笑ってしまった
「……もー、しょうがないなぁ」
そう言って椅子からおりて、ユーリに近寄る
「…ユーリ!」
「……あ?なん……っ!?!!」
振り向いたユーリの腕の中に飛び込んで、ぎゅっと抱きつく
顔を上げてみれば、顔を真っ赤にしたユーリが見える
「な……なっ………!!!!?!////////」
あからさまに動揺してて、もはや言葉になってないし…
「…ありがとう、ユーリ!」
ニコッと笑ってもう一度そう言う
「ーーーーっ!!!!///////わかった!わかったから退いてくれ!!///////」
顔を真っ赤にしたユーリが可愛くて、本当はもう少し見ていたかったけど、フレンもいるから大人しく退いた
「アリシアー、それに、ユーリ君とフレン君も、お夕飯久しぶりにみんなで食べに行きましょー?」
下の階から、お母さんがそう呼ぶ声が聞こえた
「あっ、呼んでる…2人も行こう?」
交互に見ながら首を傾げる
「おばさんのことだから、僕らの両親も誘っていそうだしね、行こうか」
「……おう///」
未だに顔を赤くしたユーリを連れて、3人で下に降りた
とっても久しぶりに3家族で食べた夕飯は、とても楽しくて、美味しかった
終始、ユーリがお父さん達にいじられまくってたけど、ね?