*1年生
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夏祭り
朝、暑苦しさと誰かの気配を感じて目が覚める
目を開けて、最初に見えたのはやけに見覚えのある寝間着で
驚いて少し顔を上げると、ユーリの顔が目の前に見えた
「っ~~~~~!!!//////」
驚き過ぎて思わず声をあげそうになった
混乱している頭で必死に考える
最初に思い出したのは、昨日ユーリに告白されて、付き合うことになったこと
…そう言えば、寝る間際にユーリが隣に居た気がする…
それを思い出すと、少し落ち着いてきた
隣に居た、ということはわたしのことだ
きっとまたユーリに抱きついたんだろう
で、もう恋人なわけだし、退かなくてもいいか、でそのままユーリも寝たんだろう
ようやく状況が掴めると、今度は恥ずかしくなる
まさかこんなに早く一緒に寝るだなんて思ってもいなかったし…
「もう……っ////」
まだ寝ているであろうユーリの胸元に顔を埋めてぎゅっと抱きつく
少しでも赤い顔を隠したくて
……後、ちょっと嬉しくてニヤニヤしてるのも隠したくって……
でも、この行動が間違いだった
それに気づくのに数秒かかった
気づいた時には体が反転していて、ユーリの顔と、その後に天上が見える
「ふぇっ!?!!!////」
驚いておろおろしていると、ふっとユーリが笑う
「自分から抱きついといて、なーに顔赤くしてんだよ」ニヤッ
悪戯そうな笑みで見下ろしてくる
その一言で、更に顔が熱くなるのがわかる
もう穴があったら入ってしまいたい…
「くく……ほんっと、シア可愛いなぁ……おはよ」
くすくすと笑いながわたしの上から退いて、ベッドの淵に腰掛けながらにっこりと微笑む
…やっぱりその笑顔、反則です…
「……おはよう//ユーリ//」
ムクっと起き上がって、一呼吸してから微笑む
…まだ顔赤いとか、自分でわかってるから絶対言わないでよね…?
そんなこと考えてると、優しく手で髪を解いていく
頭皮に触れるユーリの指が心地よくて、思わず口元が緩む
やっぱりこうやって過ごせるの、嬉しいや
「相変わらず髪さらっさらだなぁ…何したらこんなになんだよ。オレ居ねえと髪まともに乾かさねぇのに」
少し不満そうにユーリは言う
「いや…ユーリの髪も充分さらさらじゃん」
そう言いながらすっとユーリの髪に手を伸ばして触れると、ものすごく驚いた顔をされる
……え?なんで??
「ユーリ?」
硬直してしまったユーリの名を呼びながら顔を覗き込んで首を傾げる
え、何…本当にどうしたのこれ…?
わけがわからず、ユーリの隣に並ぶように座って考えていると、ようやくユーリが口を開いた
「……シアからオレに触れてくんの……初めて……っつーか……久々………だな……?」
ボソッとそう言われて、ようやく納得した
…そう言えばそうだった…!!
思い出したら今度はわたしが恥ずかしくなった←
「もうっ!!//////余計なこと思い出さないでよ!//////」
かぁっと顔を赤くしたのが面白いのか、驚いた顔から一変していつもの不敵な笑みに変わっていた
「それだけで顔赤くするとか、可愛い過ぎだっての」
そう言うが早いか、ぎゅうっと抱きついてくる
少しだけど、ユーリの鼓動も早く聞こえる
「…なぁ…?確認すっけどさ……オレら、付き合ってん……だよな…?」
ちょっぴり自信なさげに聞いてくる
珍しく自信なさそうだからわたしが驚いた←
「え?……そう、だよ…?////」
『付き合っている』
この言葉って、口に出すのがこんなに難しいものだったろうか?
「……はぁ……良かった……これで違うとか言われたらオレ泣きそーだったわ…」
あんま実感なかったし……と、小声で付け足す
確かに実感はない
いつもと変化がないのだから
あるとすれば、堂々と一緒に寝たりだとか出来ることだろう
「さーてと…着替えて下降りるとしますかね」
パッとわたしから離れて立ち上がると、背伸びをする
なるべく早く降りて来いよ?と、だけ言うと先に部屋を出て行った
わたしも着替えて降りようと思った時、大事なことを忘れていたのに気がついた
「……ああっ!!!!ゲームのイベント昨日までじゃんっ!!!!」
サァっと頭の血が下がる音が聞こえた気がする
完全にやってしまった…
ユーリと過ごすのが楽しすぎて、完全に記憶から消えてしまっていた…
ゲーム以外のことに熱中したのはいつ以来だろう……
その答えは、案外あっさりと見つかった
……あれだ、ユーリが1度引っ越す前だ
あの時まではユーリと遊んでる方が楽しかったなぁ……
どこ行くのにもユーリと一緒だったし、『あの約束』したのも丁度あの時……
って……ということは……
あの時……既にユーリのこと好きだった……?
「いやいやいやいや……っ!!///違う、絶対違う……っ!/////」
思いっきり頭を振って浮かんだ考えを追い払おうとする
いやだって、もしそうだとしたらわたし、とんでもなく鈍感じゃないか……!
自分で『好き』だって気づかずに約束するとか、バカすぎる←
「あーっ!もうっ!/////考えるのやめっ!!/////」
半分叫ぶように呟いて立ち上がる
着替え……の前にとりあえずゲームログインだけでもしないと
机に近づいて携帯の電源を入れると、ゲームの通知と誰かからの着信の通知が来ていた
誰だろうと思いながらも、後回しにしてゲームログインした←
「うっわぁ……やっぱり順位伸びなかったなぁ……」
少し眉を下げてイベントページを見る
最近配信されたばかりの某音ゲー…
好きな声優さんが出てるからって入れて、ものすごくハマった←
いや本当、めっちゃ面白いよ
「うーん……やっぱり勉強よりも、こっちを先にもう少しやっておけば良かったかな…」
「おいこら、いつまでそうしてんだよ?」
「うわっ!?!!!」
携帯と睨めっこしていると、急に後ろから声が聞こえた
驚いて振り向くと、呆れた顔したユーリが隣に立っていた
「ユ、ユーリ……いつからそこに居たの……?」
「『やっぱり順位伸びなかったなぁ……』ってあたりから
その様子じゃ、かなりやりまくってたみたいだな?」
いつもみたいに優しい声でにっこりと笑ってくるけど、目が笑っていないです……
正直言って怖いです…
「あ…あはは……お、怒られる程はやってない……よ……?」
恐る恐るユーリから距離を取ろうと後ろに下がる
笑っているつもり、だけど絶対笑えてない←
いやもうこれ完全にバレてる…
トンッと足に何か当たって、振り向くといつの間にかベッドまで戻ってた←
「あっ、やば…っ!」
気づいた時にはもう遅くって
ドサッと音を立ててベッドに押し倒される
……朝と同じ構図なんだけど……
違う点はユーリの目が笑ってないこと
「え、えーっと……ユーリ……?」
恐る恐る名前を呼ぶと頬をぎゅっと摘まれる
「いふぁっ!?!!ゆーりっ!!いふぁいっ!!」(痛っ!?!!ユーリっ!!痛いっ!!)
「なぁ?オレ言ったよな?ゲームやりすぎんなって言ったよな??ちゃんと注意したよな??」
怒ってる怒ってる怒ってる……っ!!
全力で怒ってる…っ!!
「ふぉめんっへふぁっ!!」(ごめんってばっ!!)
ジタバタと暴れてみるが、どうにもこうにも退いてくれそうにない←
「ほーお?それが謝る時の態度なのか??」
「ゆーりふぁ、ふねっふぇるふぁられしょっ!?」(ユーリが、抓ってるからでしょっ!?)
流石に痛すぎて目に涙が溜まる
本気でそろそろ離してくれませんかね……?
「……ふっ……ははっ!何言ってか分かんねえよ」
さっきまで怒っていたのはどこに行ったのか、楽しそうに目を細めてくくっと喉を鳴らしながら笑い出す
すっと頬から手を離すと、優しくそこを撫でてくる
「いったぁぁぁっ……ユーリのばかぁぁぁ…っ!」
「約束破ったシアが悪ぃんだろ?ま、流石にちとやりすぎちまったか」
ちょっと申し訳なさそうに苦笑いして肩を竦める
……まぁ、確かにわたしが悪いけど……
それよりも、だ
「…ね、ユーリ?とりあえずさ、退いて…?」
目に溜まった涙を指で拭いながらユーリを見上げる
「さて…どーすっかな?」
ニヤッと悪戯そうな笑みを浮かべて見下ろしてくる
…嫌な予感しかしない
ユーリがこの顔をしてる時はいつも何か良からぬことを考えている時だ
どうしたらユーリに退いてもらえるかと頭の中で考えていると…
不意にユーリの顔がぐっと近づく
「ふ……え……??」
ちゅっと頬にキスされたことに気づくのに数秒かかった
驚いて動けなくなる
状況が上手く把握出来ない
……なんでこうなった←
「…さ、先に下行ってっから、早く来いよっ!//」
すっとわたしの上から退くと、そそくさと部屋を出て行った
ベッドに寝そべったまま、ユーリの唇が触れていた頬に触れた
「ユーリ………今……キス……した……?」
ボソッと呟いて、ボンッと音が鳴ったんじゃないかっていきおいで顔が熱くなる
きっと今鏡見たら顔真っ赤だ…っ!
抱きついたりとかはしょっちゅうだけど、キスされるのは記憶の中では初めてだ
いや、髪にはしょっちゅうしてきてたけどさ……それはノーカウントでしょ…?
「……やば……心臓止まりそ……//////」
ポフッと顔を隠すように寝返りを打つ
鼓動が、うるさい
ドクドクと耳の中で反響してる
なんで3日続けてこんなにもドキドキしているんだろ…
「………とりあえず、降りなきゃ……」
ゆっくりとベッドから起き上がる
ユーリ待ってるし、早く着替えて降りなきゃ…
………どんな顔して会えばいいんだろ………
~一方その頃~
「はあぁぁぁぁぁ………っ///////」
盛大にため息をついてテーブルに突っ伏した
いや、ホント、もう……何してんだよオレ……
涙目になって見上げてくるシアが可愛すぎて無意識のうちにキスしてた←
こりゃもう重症かもしれねぇ……
なんであいつあんなに可愛いうえに無防備なんだよ……っ!//
危機感とか覚えてくれねぇかな…
じゃないといつか、本気で襲いそうだ←
いや、いつかっつーか……今にでも襲いそうだけどさ……
「……とりあえず、朝飯でも作るか……」
ボソッと呟いて立ち上がる
少しでもいいから何か他のことに集中していたい
じゃないと、なんか色々崩壊してしまいそうだ←
パンまだ残ってるし、フレンチトースト……は、流石に2日連続は飽きるか…
かと言って普通にトーストっていうのもなぁ……
うーん、と唸りながら冷蔵庫の中を見る
まめにもおかず類はかなり作っていたらしく、タッパーに小分けにして仕舞われている
シアも料理得意なんだから自分で少しは作りゃいいのに
…まあ、オレが居る時はいつも作っちまうから仕方ねえか
それに、シアに料理させっと、たまに指切るし
昨日も敢えて言わなかったけど、指に絆創膏付いてたし
そんなこと考えながら何かないかと漁っていると、ピーマンとかチーズがあるのに気づいた
…ちょっと時間はかかるがピザトーストでも作るか
流石にオレが買った訳じゃねえから、ちょい気は引けるが…
シアのことだ、どうせ夏休み前日の夜にでもネットで食材大量購入して、適当におかず色々作ってしまったんだろう
絶対何買ったとか覚えてない←
その証拠に、パン買ったのとか覚えてなかったしな
クスッと苦笑いしながら食材をもろもろ取り出して作り始める
「……から、ごめんって………」
作っていると、廊下からシアの声が聞こえてきた
…なんか、揉めてるみたいなんだが…
ガチャッとリビングのドアが開くと、誰と話しているのかすぐにわかった
「だーかーらー!昨日はユーリ達が祝ってくれて、遊び疲れて寝ちゃってついさっき起きたんだってば!……もう……わたし16だよ?お母さん達は心配しすぎなんだって!……うん……うん……わかったから!ちゃんと食べてるし、薬も飲んでるって!……うん、大丈夫、大丈夫だから……あーもう!平気だって!!切るよ!?切るからね!?………………もー……泣かないでよ………ん…わかった、それじゃあ来週ね?……うん………うん………それじゃあまたね」
スマホを耳から離すと、大きくため息を付きながらテーブルに突っ伏した
「おばさんとなんかあったのか?」
カウンター越しにそう聞くと首を横に振る
「ちがーう…昨日電話したのに、なんで出なかったんだっ!ってさ…仕方ないじゃん、時差あるんだから」
少し顔をあげて、ブツブツと文句を言い出す
そーいや、転勤先…外国だって言ってたな
「ま、それもそうだよな。夜寝んの早いシアにゃ無理があるよな」
ちょっぴり悪戯っぽくそう言うと、ムッとしてこっちを見てくるのがちらっと見えた
「失礼な……わたしだって起きてる時は起きてるもん…」
「あー、そうだったな、ゲーム熱中してる時なんかはそうだよな?」
不服そうにしているシアにそう言うと、うっ…と言葉に詰まる
まあ、事実だし
第一、オレが居る時に夜更かしした事なんて殆どない
「それよか、来週なんかあんのか?」
オーブンに具を乗せたパンを入れて焼き始めながら聞く
後は焼き上がるのを待つだけだ
「あー……仕事一段落したから、3日だけこっち戻って来るって」
「……マジ?」
いつもはフレンが座っている席に腰掛けながら言う
いや、本当ならかなりヤバイ
オレもフレンも、自分のものを大量に置いてるわけだし…
「マ~ジ~……あー…でも、部屋に関しては平気だよ?お母さん達の部屋、元々一階だったし、ユーリ達が使ってるの知ってるし」
ぐだぁ…としたままシアはそう言う
…なんで知ってるのかツッコミたいところだが、大方シアが言ったのが目に見えてる←
「それよりもー……ユーリと付き合ってること伝えたら、絶対お父さんが発狂する……どーしよ……」
大きくため息を付いて項垂れる
「あー……おじさん、シア大好きだったもんなぁ……」
考えただけで寒気がする
…オレ、最悪殺されそーなんですけど……
「まあ……なんとかなる……かな……?」
苦い顔をして首を傾げる
そんなことオレに聞かれてもなぁ……
首を竦めてそれに答えるのとほぼ同時にオーブンが鳴る
「お、丁度出来たな」
立ち上がってキッチンの方へと向かう
「ふふ、ユーリ居るとご飯作らなくていいから楽~♪」
嬉しそうなシアの声が後ろから聞こえてくる
「おいおい…ちったぁ自分でやれっての…」
オーブンからトーストを取り出して皿の上に乗せる
こいつはいつまでオレに飯作らせるつもりでいるんだか……
苦笑いしながらトレイにトーストの乗った皿を乗せて、席に戻る
テーブルの上に皿を置くと、シアが不思議そうに首を傾げる
「…あれ?野菜系まだ残ってた??」
「……あのなぁ……頼むから何買ったかくらいは覚えててくれよ…」
やっぱりか…と思いつつ、大きくため息をつく
なんでこいつ、こんなに家事とかに興味ねえんだよ……
「あはは……いっつもユーリがそーゆーの管理してくれてるから、つい…ね?」
苦い顔をしながら、明後日の方向に目を向ける
「あのなぁ…そんなんで将来どーするつもりなんだよ?」
呆れ気味にそう聞くと、思ってもみなかった返答が返ってきた
「え……?ユーリに家事やってもらって、わたしが働こうかと……」
ものすごく真剣な目でそう言われて絶句する
…どんだけ家事したくねえんだよ…
「はぁ……とりあえず、さっさと食っちまおうぜ?」
「あはは…それもそうだね!」
ーーーーーーーー
「……あ、ところでさ、シア?」
朝ご飯も食べ終わって、部屋でユーリと勉強している最中、唐突に話し掛けられた
「んー?」
数学の課題と睨めっこしたまま短く返事をする
「今日、近くの神社の夏祭りあるんだってよ。フレンが一緒に行こうってさ」
それを聞いてバッと顔をあげる
「本当に!?」
「おう、フレンとこのおばさんが、シアに浴衣着せんの楽しみにしてるらしいぜ?」
ニッと笑いながらユーリが見つめて来る
去年は行けなかったお祭りに行ける…
それだけで充分嬉しかった
「行くっ!!めっちゃ行きたい!!」
そう言うと、嬉しそうにユーリが目を細める
「そう来なくっちゃな」
嬉しそうにしながら頭を撫でてくる
きっと、今鏡を見たら、ユーリみたいに喜んだわたしの顔が写るんだろうなぁ…
優しく頭を撫でられる感覚に目を細める
ユーリにこうして頭を撫でて貰えるの、本当に好きだ
「…よし、祭りもある事だし、勉強早めに終わらせようぜ?」
すっと手を退けてユーリはトントン、と問題集を指さす
こくん、と頷いてまた睨めっこを始める
1年ぶりのお祭り…
そして、大好きなユーリと、恋人として初めて行くお祭り…
嬉しくて嬉しくて仕方がない
……勉強、早く終わらせないと……!
「シア…公式、間違えてる…」
ふぅ……と息を吐きながらユーリはそう言う
現在午後1時、お昼を食べ終わった後のこと
午前中になんとか終わらせた数学の丸つけをユーリがしてくれてるのだが……
かなり、ヤバイ
中等部で習ったはずの図形が全く出来ていない
うっ……と言葉に詰まる
仕方ないだろう、数学の中で図形は苦手中の苦手分野なのだから
「ふぅ……ま、今日は祭りあるし、この辺で勘弁してやるとしますかね」
パタリとノートを閉じて、勉強道具を片付け始める
「…へ?」
突然の出来事にわたしの頭はついていけず、唖然としてその様子を見る
いやいや……だって、勉強に関してはうるさいユーリがこの反応だよ?
到底信じられない
いや信じられないとかってレベルじゃない
夢でも見てるのかって感じだ…
そんなことを考えてる間に、片付けは終わったらしく、先程と同じようにわたしの目の前に座る
「ほら、ぼけーっとしてないで、さっさと行く準備しようぜ?去年は全く遊べなかったわけだし、今年はうんと遊びまくろう?」
ニッと優しげな笑みを浮かべて見つめて来る
ユーリの気持ちが嬉しくって
気づいた時には、ユーリの胸元に抱きついてた←
「おいおい…そーやって抱きつかれたら、オレ動けねえよ?」
頭の上からユーリの声が聞こえてくる
「ふふ……だってすっごく嬉しいから」
顔を上げてニコッと笑いかける
きっと、『満面の笑み』ってこうゆうことを言うんだろう
鏡を見なくてもわかるくらい、口角があがっているのがわかる
「ははっ、シアが喜んでくれるんならオレも嬉しいよ。…早目にフレンのとこ行って、これでもかっ!ってくらい、沢山写真撮ろうぜ?」
その言葉に大きく頷く
すっとユーリから離れて、急いで準備した
忘れものが無いことと、日焼け止めを塗ったことを確認して、ユーリと2人フレンの家へと向かった
~フレン宅にて~
「わぁ……!!アリシア、とっても可愛いです……!!」
胸の前で手をあわせながら、エステルが目をキラキラさせて言う
おばさんが選んでくれたのは、黒を基調とした浴衣
桜の花が沢山描かれていて、所々に蝶の絵も描かれている
帯は紫で、これにも桜や蝶が描かれている
因みに、髪は普段ユーリが学校に行く時にやってくれる様なハーフアップのお団子で、ゴムには蝶の飾りがついている
「えへへ…ありがとう!そうゆうエステルも可愛いよ?」
一方エステルは、ピンクと白を基調とした浴衣で、薔薇か描かれている
帯はピンクと白のグラデーションのものだ
如何にもエステルらしい浴衣だ
「ふふ、ありがとうございます!」
嬉しそうに少し頬を赤らめてエステルは笑う
「2人共ー、入って平気かい?」
ドアの向こうからフレンの声が聞こえてくる
1度エステルと顔を見合わせて深呼吸する
一拍開けてからいいよ!と声をかける
ガチャッとドアが開くと、やっぱりユーリとフレンも浴衣を着せられたらしく
ユーリはいつもと同じ、黒を基調とした浴衣
フレンは淡い青を基調とした浴衣を着ている
部屋に入った瞬間、ユーリとフレンは絶句して、その場に固まってしまった
わけがわからず、エステルと顔を見合わせて首を傾げる
すると、最初にフレンが顔を真っ赤にさせて顔を背けた
それで状況を把握した
大方わたしとエステルの浴衣姿を見て驚いたんだろう
…で、フレンはエステルが可愛すぎて直視出来なくなった……と
「……シアがそーゆーの着てんの……初めて見た」
左手で口元を隠しながらユーリはそう言う
……あれ?もしかして、ユーリもフレンと同じこと考えてたりするの…?
「ですよね!アリシアすっごく可愛いですよね!」
エステルがわたしの隣で興奮気味にそう言うと、ユーリはかあっと顔を赤くする
待って、そうやって露骨に顔を赤く赤くされると、こっちも赤くなるじゃん…っ!!
「…フレンも、エステルになんか言ってあげなよ?こんなに可愛いんだから」
赤くなりそうなのを隠すようにフレンに呼びかける
が、当の本人は全く微動打にしない
「…………フレンのやつぁほっといて、3人で写真でも撮るか?」
未だに顔を少し赤くさせながら、ユーリが歩み寄ってくる
「ん、それもそうだね」
ニッコリとユーリに笑いかける
「むぅ……一緒に撮りたかったんですが、仕方ないですね…」
エステルがしゅんとしてそう言うと、ものすごい勢いでフレンが吹っ飛んできた←
…え、ちょっと待って、この子怖い…
「ユーリ、早く撮るなら撮ろう!」
さっきまで恥ずかしがってたのは何処へいったのか、ワクワクとしながらエステルの肩を抱いている
「へいへい……全く、厳禁なやつだわ…」
呆れたように苦笑いしながら携帯のカメラを起動させる
「シア、もうちょいこっち来いよ」
「え?う、うん…!」
ユーリに手招きされて、ちょっとドキドキしながら隣に並ぶ
するとフレンがエステルにやっているように、右手で肩を抱き寄せてくる
「…目の前でイチャつくの、やめてくれないかい?」
「はぁ?現在進行形でイチャついてるお前に言われたくねえーよ。それよかもうちっとこっち寄れって、お前だけ途切れてるぜ?」
嫌味ったらしくユーリがそう言うと、エステルがフレンの腕を引っ張って、わたしの隣に引っ付いた
「ふふっ、こうやって写真撮るの、初めてです!」
クスッと笑いながらエステルはそう言う
「わたしも、こうやって撮るのは初めてだよ」
隣にいるエステルに笑いかけながらそう答える
「ほーら、2人共、カメラの方向いとけって」
エステルと目を合わせて頷きあって、カメラの方を向く
「んじゃ……3、2~、1…」
カシャッと音が鳴る
画面には、満面の笑みを浮かべたわたしとエステル、そして、嬉しそうにしているユーリとフレンが写っている
「わぁ…みんなすっごくいい顔してる」
クスッと笑いながらユーリの携帯の画面を見る
「アリシア!2人で撮りましょう!」
ニコッと笑いながらエステルはわたしの方を向く
「ん、そうだね!」
そう言って携帯を取り出して、カメラを起動させる
「いっくよー?…はい、チーズ!」
空いてる手をエステルと繋いでシャッターを切る
こうやって誰かと写真を撮るのもすごい久しぶりだ
「フレン…!撮りましょう?//」
わたしと何枚か写真を撮ると、フレンの方へとエステルは行く
エステルの申し出にフレンは顔を真っ赤にされているのが見える
「おーおー、写真撮るだけで顔真っ赤だな、あいつ」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべてユーリはわたしの隣に並ぶ
あぁ…これは後でフレン、すっごくいじられるんだろうなぁ…
「…ね、ユーリ?わたし達も写真、撮ろ?」
少し首を傾げてそう言うと、一瞬驚いたけど、すぐに笑顔になる
「だな、行く前に1枚撮っとくとしますかね」
自分の携帯を取り出してカメラを起動させると、後ろからぎゅっと抱きついてくる
わたしの肩に顎を乗せて、その状態でカメラを向ける
ユーリの髪が耳に当たって、少しこそばゆい
でも、こうやって写真を撮れるのが嬉しくて
目を細めていると、カシャッとシャッター音が聞こえる
「あっ!もー、合図してよー!」
ムスッとしてユーリの方に顔を向けると、クスッと笑い出す
「悪ぃ悪ぃ、シアが可愛くってつい言うの忘れちまったよ」
わたしから体を離しながらユーリはそう言う
納得いかずにムスッとしていると、手を差し出してくる
「ほーら、早く行こうぜ?」
「エステル達は?」
「あん?あの2人なら、そっちの方でいまだに写真撮ってるぜ?」
ユーリの指さす方を見れば、楽しそうに写真を撮りまくっているのが目に入る
いや…撮りすぎじゃない…?
「ここで撮るより、祭りで撮った方がよっぽどいいだろ?」
ニヤリと笑うユーリに、笑顔で頷いてその手を取った
おばさんにお礼を言うと、服は後で家に届けるから、今日はそのまま帰っていいよと言われた
…その代わり、ものすごく沢山写真撮られたけど…
ーーーーーーーー
「わぁ…!!すっごい久しぶりに来た…!」
神社の近くに来ると、もう沢山の人が溢れている
日も落ちてきて、大分涼しくなっているからだろうか…
「こりゃ、下手したらはぐれそうだな…シア、しっかり手握ってろよ?」
ユーリが握る手に少しだけ力が入った
言葉じゃなくて、ニコッと笑ってそれに答え、わたしも手に力を入れる
ユーリが嬉しそうに目を細めて、ゆっくりと、わたしの歩幅に合わせて歩き出す
久々に来たお祭りはとっても新鮮で
とってもワクワクしながら色々見ながら歩く
屋台を歩きながら見ていると、不意にユーリの携帯が鳴り出す
「あん?誰だよ……って、フレン?」
携帯の画面を見て首を傾げる
通話に出てスピーカーにすると、少し怒ったように話し出す
『ユーリ!なんで先に行ってしまうんだっ!!一緒に、って言ったろ?!』
何処か焦ったようなフレンの声が聞こえる
「あー…悪ぃ、なんか邪魔したらいけないような雰囲気だったもんでつい…な?」
ちょっと悪戯っぽくユーリがそう言うと大きくため息をつく
『あのなぁ…地元の祭りなんだから、当然クラスメイトも沢山来るんだぞ…?僕らはまだしも、君は……』
「へーきだっての、なんかありゃぶっ飛ばすし…んじゃ、邪魔してくんなよー」
『あっ!おいっ!!』
フレンが何か言おうとしたのもお構い無しに通話を切って、そのまま電源を完全に落とした
「…いいの?ユーリ」
首を傾げて聞くと、不思議そうな顔をする
「なんでだ??ほっといても平気だっての」
ニッと不敵に笑うユーリに、何故だかわたしも自然と笑顔になる
「それよか、なんか食おうぜ?勉強尽くしで糖分欲しい」
キョロキョロと周りの屋台を見ながらユーリが言う
「もう…勉強尽くしって、ユーリがやろうって言ったからじゃん」
クスクスと笑いながらそう言うと、うっせーよ、と軽く頭を小突かれる
ユーリと付き合ってから、初めてのデート
すっごくドキドキするけど、もう既にとっても楽しい
「あっ、リンゴ飴売ってるよ?」
ちょっと先に見える屋台を指さす
「お、グッドタイミング」
パチンッと指を鳴らして、嬉しそうに笑う
屋台の前につくと、リンゴ飴を1つだけ買って差し出してくる
「あれ?ユーリが食べるんじゃなかったの?」
「半分こした方が色々食べられるだろ?」
ちょっとだけ顔を赤らめてユーリがそう言う
そういえば、毎年お祭りに来た時はよくみんなと半分こしたりしてたったけ…
それが今年はユーリと2人だけなわけで…
それを考えたら、こっちまで顔が赤くなりそうだ
「ん、それもそうだね!」
赤くなりそうなのを、必死で隠すようにニコッと笑いながらリンゴ飴を受け取る
…まぁ…多分バレバレだろうけど…
一口かじると、飴の甘さと、リンゴの甘酸っぱさが口の中に広がる
「やっぱりお祭りって言ったらリンゴ飴だよねぇ」
「シア、毎年買ってたもんな、リンゴ飴。オレにも一口くれっか?」
ニヤリと悪戯っぽくユーリが笑ったから首を傾げるが、元々ユーリが買ったものだし…と、気にせずに手渡そうとすると、受け取ろうとはせずにそのままパクッとかじりついた
流石に驚いて思考停止
……あ、そうやって食べるつもりだったわけか……
なんであんなに悪戯っぽく笑ったのか、理解した
「うっま、あの屋台あたりだな」
ニコッと笑いながらユーリがそう言う
食べ物に関してユーリが褒めるの、珍しいなぁ
そんなこと考えながらもう一口かじる
…関節キス?そんなの小さい頃からしょっちゅうだったから慣れてる←
リンゴ飴食べた後はたこ焼きとかかき氷とか、綿あめだったり焼きそばだったり、色々食べながら歩いてた
元々わたしもユーリも食べても体質的に太らないし、そんなこと気にせずににすっごい食べた←
因みに両手使う系のもの食べてる時は、人混みから少し離れたとこで止まるか、ユーリがわたしの肩抱いて、わたしがユーリに食べさせてた
付き合いたて、っていうか、最早何処のバカップルだよって感じ
…絶対フレンが隣に居たらおちょくられるよ…
まあ、そのフレンも今頃、エステルと仲良く歩いてるんだろうなぁ
そんなこと頭の隅に置きつつ、ユーリと他愛ない会話しながら色々見て歩いた
やりはしなかったけど金魚すくいとか、スーパーボールすくいとか
昔よくやったなぁ…なんて、笑いながら話した
写真も沢山撮った
2人で並んでる写真やユーリだけの写真、わたしだけの写真
本当にこれでもかっ!ってくらい、沢山撮った
「ん、そろそろ花火上がるんじゃねえか?」
わたしの携帯の画面を見ながらユーリはそう言う
大分暗くなったし、多分そろそろ上がるだろう
「だね、また彼処で観る?」
「だな、彼処なら早々人も」
「ユーリ君……っ!!」
ユーリが話している途中で、後ろから誰かに声をかけられた
振り返ると、以前ユーリに振られた何人かの女子が視界に入る
…あ、前にユーリとフレンに怒られた子達じゃん…
面倒くさそうにユーリはため息をつく
「あん?なんだよ、ぞろぞろ集まりやがって」
不機嫌極まりない声でそう聞くと、1人が半分悲鳴のような声をあげる
「またその子と居て……!!なんで付き合ってもないその子とは一緒に居るのに、私達は避けるのよ…!!」
1人がそう言うと、次々に不満を口にする
うわぁ……うるさい……というか、面倒だなぁ……
呆れてため息しか出ない
ユーリも同じ様で、ものすごく面倒くさそうに顔を顰めている
こちらの話など聞く気も無いらしく、ずっと何かしら言い続けている
話にならない、とユーリが背を向けて行こう、と小声で囁いてくる
コクンと頷いて背を向けた、その時
「なんでその子がいいのよ…っ!!特に可愛いわけでもないのにっ!!」
「そうよ!勉強出来るわけでも、運動出来るわけでもないし、目立った取得なんてないじゃないっ!」
グサッとその言葉が胸に刺さる
確かにその通りと言えばその通りだ
取得なんて、わたし自身わからない
本当のこと、それでも流石にその言われ方は傷つく
ぎゅっと胸の前で右手を握り締め、唇を噛む
「…お前らみたいに自分のいいとこしか言えねぇような奴らには、一生かかってもシアの良さはわかんねぇよ」
不意に黙り込んでいたユーリが口を開く
いつもより、あからさまに低いトーンに彼女達は驚いたのか、声が聞こえなくなる
そして、急に視界が暗くなった
ユーリが抱きついて来たことに気付くまでに、数秒かかる
「後、悪ぃけどオレ、こいつと付き合ってるし、手放す気もねぇから」
その言葉に驚いて顔を上げると、ものすごく嬉しそうな笑顔を浮かべたユーリが見える
……この2日間、なんでこんなに驚くような出来事が続いているのだろうか……
そんな考えも、すぐに消し飛んだ
ヒュ~~~~~~……ドーンッ!!!
ユーリの背後で花火が上がったのが目に入る
大きな花を咲かせて、パラパラと音を立ててすぐに消える
そしてまた、次の花火が上がる
「やっべ!!始まっちまった!!行こうぜ、シア!」
音に気づいたユーリは、わたしから少し離れて手を握り直すと彼女達のことを気にもせずに人混みを掻き分けて、少し早歩きで突き進む
…まぁ、ユーリの早歩きとか、わたしにとっては小走りなんだけどさ…!
しばらく進んだところで、目的の場所にはすぐついた
神社から少しだけ離れた場所にある、小さな公園
昼間は小さい子がよく遊んでるけど、この時間はものすごく暗いからって近寄る人はあまり居ない
この神社のお祭りの時は、いつも三家族揃ってここで花火を観ていた
わたし達しか知らない、絶好の場所だ
「おっ、フレン達も居なさそうだな。やりぃ」
パチンと指を鳴らすと、ポスッとベンチに座り込む
その隣に座ろうとすると、ぐっと腕を引っ張られてユーリの膝の上に座らせられる
「えっ!?あ、ユ、ユーリっ!?///」
顔を上げると、少し心配そうに顔を歪ませてるユーリが目に入る
なんでそんな顔をしてるんだろ…?
訳が分からず首を傾げていると、ぎゅっと抱きつかれる
……今日、いつもよりもものすごく抱きつかれるんだけど……
「ユーリ、どうしたの?」
「…さっきあいつらが言ってたこと、気にしてそーだったから」
心配そうな声に、あぁ…と納得した
「んー…まぁ流石に…ね?本当と言えば本当の事なんだけどね」
苦笑いしながらそう答える
幾ら勉強や運動出来なくても、あの言い方はないだろう
それに、勉強はともかく、運動はちゃんと理由がある
そもそも『出来ない』んじゃなくて『禁止』なんだからどうしようもないじゃないか
「ったく、シアの可愛さ分からねーとかかなしーやつら」
肩に顎を乗せながらユーリは呟く
耳にかかる息が少しこそばゆい
「んー…別に分かって貰えなくてもいいかなぁ」
クスッと笑いながら空を見上げる
沢山の花火が真っ暗な空で咲いている
写真を撮ることさえ忘れてしまうくらい、とっても綺麗だ
「あん?なんでだよ?」
「だって、わたしにだってわかんないし……それに、ユーリだけが知っててくれればいいかなって」
空を見上げたままそう答える
ドキドキと心臓の音がうるさい
花火の音と同じくらい、耳の中で音が反響している
自分で言っておいて恥ずかしくなる
それでも本当のことだから
ユーリだけが知っていてくれれば、それでいい
「……そっか、ま、確かに他のやつに気付かれたりでもしたらオレが困る」
嬉しそうにそう言うと、ユーリも一緒に空を見上げた
「…まぁ……男子には気付かれちゃってるみたいなんだけど……」
「…学校始まったら、絶対シアから離れたくねぇ」
ぎゅっと回された腕に力が入る
…あ、なんか変なスイッチ押した?
「……でも本当、何処がいいんだろ……?」
ボソッ呟いた言葉は、ユーリにバッチリ聞かれていたらしく…
「ん?そうだな…身長の割に小さい手とか」
左手を包み込む様に握りながらそう言ってくる
かあっと顔が熱くなる
意外と手小さいの気にしてるんだけど…!
「すぐ顔赤くさせるとことか、飯とか食ってる時すっげー嬉しそうにニコニコしてるとことか、何するにも必死でやってるとことか、小動物っぽいとことか、オレの隣に居るだけで嬉しそうにしてるとことか、オレ見つけると嬉しそうに駆け寄って来るとことか、オレの為にって一生懸命なんか作ってくれるとこt」
「ユーリストップ、あのね、それユーリから見たわたしなわけで、誰にも当てはまるわけじゃないよ…?」
マンシンガントークの様に1人淡々と喋るユーリを静止する
後半思い切りユーリの私情になってたし…
それに、小動物っぽいって何処が…っ!?
「む?まだまだシアの可愛いとこはあげられるんだが…」
ちょっとだけ残念そうにそう言われる
ムッとしてるユーリがちょっと可愛くって
思わずクスッと笑ってしまう
わたしが笑い出すと、釣られるようにユーリも笑い出す
この時間が、ずっと続けばいいのになぁ…
「シア」
不意に肩に乗せられていた顎が離れて、名前を呼ばれる
見上げるようにユーリの方に顔を向ける
「…来年、また2人で来ようぜ?」
ちょっと顔を赤くさせてそう言ってくる
来年も一緒に来れる…
そう考えただけですごく嬉しくて
ニコッと笑って大きく頷く
花火の写真は撮り損ねちゃったけど…
その代わりに、とってもいい約束が出来た
「よし、帰るとしますかね」
「ん、そうだね!」
ぴょんっとユーリの膝の上から降りて少し前を歩き出す
「おいおい…先行くなっての」
ちょっと呆れ気味にユーリの声が後ろから追いかけてくる
それに合わせるようにくるっと振り向く
「ん?どうした?」
「…ユーリ!ありがとうっ!!」
後ろで手を組んでニッコリと笑う
驚いたのか、一瞬その場で立ち止まったが、すぐにニッと笑って近づいてくる
「シアが喜んでくれたんなら良かったぜ」
そっと頬を輪郭に沿って撫でてくる
くすぐったくて、少し首を窄めて目を細めた
「~~っ!////ほら、早く帰ろうぜ////」
少し上擦った声に目を開けると、何故か顔を赤くしたユーリが目に入る
「…?ユーリ、どうかしたの?」
首を傾げてそう聞くが、なんでもねぇ!っと言ってわたしの手を引いて歩き出す
ますます訳がわからなくて、頭の中はハテナだらけになるけど…
いつもみたく繋ぐんじゃなくて、恋人繋ぎにしてくれていたのが嬉しくって
理由を聞くのも忘れてしまっていた
今までで1番、楽しい夏祭りだった
来年も一緒に、絶対来ようね?
朝、暑苦しさと誰かの気配を感じて目が覚める
目を開けて、最初に見えたのはやけに見覚えのある寝間着で
驚いて少し顔を上げると、ユーリの顔が目の前に見えた
「っ~~~~~!!!//////」
驚き過ぎて思わず声をあげそうになった
混乱している頭で必死に考える
最初に思い出したのは、昨日ユーリに告白されて、付き合うことになったこと
…そう言えば、寝る間際にユーリが隣に居た気がする…
それを思い出すと、少し落ち着いてきた
隣に居た、ということはわたしのことだ
きっとまたユーリに抱きついたんだろう
で、もう恋人なわけだし、退かなくてもいいか、でそのままユーリも寝たんだろう
ようやく状況が掴めると、今度は恥ずかしくなる
まさかこんなに早く一緒に寝るだなんて思ってもいなかったし…
「もう……っ////」
まだ寝ているであろうユーリの胸元に顔を埋めてぎゅっと抱きつく
少しでも赤い顔を隠したくて
……後、ちょっと嬉しくてニヤニヤしてるのも隠したくって……
でも、この行動が間違いだった
それに気づくのに数秒かかった
気づいた時には体が反転していて、ユーリの顔と、その後に天上が見える
「ふぇっ!?!!!////」
驚いておろおろしていると、ふっとユーリが笑う
「自分から抱きついといて、なーに顔赤くしてんだよ」ニヤッ
悪戯そうな笑みで見下ろしてくる
その一言で、更に顔が熱くなるのがわかる
もう穴があったら入ってしまいたい…
「くく……ほんっと、シア可愛いなぁ……おはよ」
くすくすと笑いながわたしの上から退いて、ベッドの淵に腰掛けながらにっこりと微笑む
…やっぱりその笑顔、反則です…
「……おはよう//ユーリ//」
ムクっと起き上がって、一呼吸してから微笑む
…まだ顔赤いとか、自分でわかってるから絶対言わないでよね…?
そんなこと考えてると、優しく手で髪を解いていく
頭皮に触れるユーリの指が心地よくて、思わず口元が緩む
やっぱりこうやって過ごせるの、嬉しいや
「相変わらず髪さらっさらだなぁ…何したらこんなになんだよ。オレ居ねえと髪まともに乾かさねぇのに」
少し不満そうにユーリは言う
「いや…ユーリの髪も充分さらさらじゃん」
そう言いながらすっとユーリの髪に手を伸ばして触れると、ものすごく驚いた顔をされる
……え?なんで??
「ユーリ?」
硬直してしまったユーリの名を呼びながら顔を覗き込んで首を傾げる
え、何…本当にどうしたのこれ…?
わけがわからず、ユーリの隣に並ぶように座って考えていると、ようやくユーリが口を開いた
「……シアからオレに触れてくんの……初めて……っつーか……久々………だな……?」
ボソッとそう言われて、ようやく納得した
…そう言えばそうだった…!!
思い出したら今度はわたしが恥ずかしくなった←
「もうっ!!//////余計なこと思い出さないでよ!//////」
かぁっと顔を赤くしたのが面白いのか、驚いた顔から一変していつもの不敵な笑みに変わっていた
「それだけで顔赤くするとか、可愛い過ぎだっての」
そう言うが早いか、ぎゅうっと抱きついてくる
少しだけど、ユーリの鼓動も早く聞こえる
「…なぁ…?確認すっけどさ……オレら、付き合ってん……だよな…?」
ちょっぴり自信なさげに聞いてくる
珍しく自信なさそうだからわたしが驚いた←
「え?……そう、だよ…?////」
『付き合っている』
この言葉って、口に出すのがこんなに難しいものだったろうか?
「……はぁ……良かった……これで違うとか言われたらオレ泣きそーだったわ…」
あんま実感なかったし……と、小声で付け足す
確かに実感はない
いつもと変化がないのだから
あるとすれば、堂々と一緒に寝たりだとか出来ることだろう
「さーてと…着替えて下降りるとしますかね」
パッとわたしから離れて立ち上がると、背伸びをする
なるべく早く降りて来いよ?と、だけ言うと先に部屋を出て行った
わたしも着替えて降りようと思った時、大事なことを忘れていたのに気がついた
「……ああっ!!!!ゲームのイベント昨日までじゃんっ!!!!」
サァっと頭の血が下がる音が聞こえた気がする
完全にやってしまった…
ユーリと過ごすのが楽しすぎて、完全に記憶から消えてしまっていた…
ゲーム以外のことに熱中したのはいつ以来だろう……
その答えは、案外あっさりと見つかった
……あれだ、ユーリが1度引っ越す前だ
あの時まではユーリと遊んでる方が楽しかったなぁ……
どこ行くのにもユーリと一緒だったし、『あの約束』したのも丁度あの時……
って……ということは……
あの時……既にユーリのこと好きだった……?
「いやいやいやいや……っ!!///違う、絶対違う……っ!/////」
思いっきり頭を振って浮かんだ考えを追い払おうとする
いやだって、もしそうだとしたらわたし、とんでもなく鈍感じゃないか……!
自分で『好き』だって気づかずに約束するとか、バカすぎる←
「あーっ!もうっ!/////考えるのやめっ!!/////」
半分叫ぶように呟いて立ち上がる
着替え……の前にとりあえずゲームログインだけでもしないと
机に近づいて携帯の電源を入れると、ゲームの通知と誰かからの着信の通知が来ていた
誰だろうと思いながらも、後回しにしてゲームログインした←
「うっわぁ……やっぱり順位伸びなかったなぁ……」
少し眉を下げてイベントページを見る
最近配信されたばかりの某音ゲー…
好きな声優さんが出てるからって入れて、ものすごくハマった←
いや本当、めっちゃ面白いよ
「うーん……やっぱり勉強よりも、こっちを先にもう少しやっておけば良かったかな…」
「おいこら、いつまでそうしてんだよ?」
「うわっ!?!!!」
携帯と睨めっこしていると、急に後ろから声が聞こえた
驚いて振り向くと、呆れた顔したユーリが隣に立っていた
「ユ、ユーリ……いつからそこに居たの……?」
「『やっぱり順位伸びなかったなぁ……』ってあたりから
その様子じゃ、かなりやりまくってたみたいだな?」
いつもみたいに優しい声でにっこりと笑ってくるけど、目が笑っていないです……
正直言って怖いです…
「あ…あはは……お、怒られる程はやってない……よ……?」
恐る恐るユーリから距離を取ろうと後ろに下がる
笑っているつもり、だけど絶対笑えてない←
いやもうこれ完全にバレてる…
トンッと足に何か当たって、振り向くといつの間にかベッドまで戻ってた←
「あっ、やば…っ!」
気づいた時にはもう遅くって
ドサッと音を立ててベッドに押し倒される
……朝と同じ構図なんだけど……
違う点はユーリの目が笑ってないこと
「え、えーっと……ユーリ……?」
恐る恐る名前を呼ぶと頬をぎゅっと摘まれる
「いふぁっ!?!!ゆーりっ!!いふぁいっ!!」(痛っ!?!!ユーリっ!!痛いっ!!)
「なぁ?オレ言ったよな?ゲームやりすぎんなって言ったよな??ちゃんと注意したよな??」
怒ってる怒ってる怒ってる……っ!!
全力で怒ってる…っ!!
「ふぉめんっへふぁっ!!」(ごめんってばっ!!)
ジタバタと暴れてみるが、どうにもこうにも退いてくれそうにない←
「ほーお?それが謝る時の態度なのか??」
「ゆーりふぁ、ふねっふぇるふぁられしょっ!?」(ユーリが、抓ってるからでしょっ!?)
流石に痛すぎて目に涙が溜まる
本気でそろそろ離してくれませんかね……?
「……ふっ……ははっ!何言ってか分かんねえよ」
さっきまで怒っていたのはどこに行ったのか、楽しそうに目を細めてくくっと喉を鳴らしながら笑い出す
すっと頬から手を離すと、優しくそこを撫でてくる
「いったぁぁぁっ……ユーリのばかぁぁぁ…っ!」
「約束破ったシアが悪ぃんだろ?ま、流石にちとやりすぎちまったか」
ちょっと申し訳なさそうに苦笑いして肩を竦める
……まぁ、確かにわたしが悪いけど……
それよりも、だ
「…ね、ユーリ?とりあえずさ、退いて…?」
目に溜まった涙を指で拭いながらユーリを見上げる
「さて…どーすっかな?」
ニヤッと悪戯そうな笑みを浮かべて見下ろしてくる
…嫌な予感しかしない
ユーリがこの顔をしてる時はいつも何か良からぬことを考えている時だ
どうしたらユーリに退いてもらえるかと頭の中で考えていると…
不意にユーリの顔がぐっと近づく
「ふ……え……??」
ちゅっと頬にキスされたことに気づくのに数秒かかった
驚いて動けなくなる
状況が上手く把握出来ない
……なんでこうなった←
「…さ、先に下行ってっから、早く来いよっ!//」
すっとわたしの上から退くと、そそくさと部屋を出て行った
ベッドに寝そべったまま、ユーリの唇が触れていた頬に触れた
「ユーリ………今……キス……した……?」
ボソッと呟いて、ボンッと音が鳴ったんじゃないかっていきおいで顔が熱くなる
きっと今鏡見たら顔真っ赤だ…っ!
抱きついたりとかはしょっちゅうだけど、キスされるのは記憶の中では初めてだ
いや、髪にはしょっちゅうしてきてたけどさ……それはノーカウントでしょ…?
「……やば……心臓止まりそ……//////」
ポフッと顔を隠すように寝返りを打つ
鼓動が、うるさい
ドクドクと耳の中で反響してる
なんで3日続けてこんなにもドキドキしているんだろ…
「………とりあえず、降りなきゃ……」
ゆっくりとベッドから起き上がる
ユーリ待ってるし、早く着替えて降りなきゃ…
………どんな顔して会えばいいんだろ………
~一方その頃~
「はあぁぁぁぁぁ………っ///////」
盛大にため息をついてテーブルに突っ伏した
いや、ホント、もう……何してんだよオレ……
涙目になって見上げてくるシアが可愛すぎて無意識のうちにキスしてた←
こりゃもう重症かもしれねぇ……
なんであいつあんなに可愛いうえに無防備なんだよ……っ!//
危機感とか覚えてくれねぇかな…
じゃないといつか、本気で襲いそうだ←
いや、いつかっつーか……今にでも襲いそうだけどさ……
「……とりあえず、朝飯でも作るか……」
ボソッと呟いて立ち上がる
少しでもいいから何か他のことに集中していたい
じゃないと、なんか色々崩壊してしまいそうだ←
パンまだ残ってるし、フレンチトースト……は、流石に2日連続は飽きるか…
かと言って普通にトーストっていうのもなぁ……
うーん、と唸りながら冷蔵庫の中を見る
まめにもおかず類はかなり作っていたらしく、タッパーに小分けにして仕舞われている
シアも料理得意なんだから自分で少しは作りゃいいのに
…まあ、オレが居る時はいつも作っちまうから仕方ねえか
それに、シアに料理させっと、たまに指切るし
昨日も敢えて言わなかったけど、指に絆創膏付いてたし
そんなこと考えながら何かないかと漁っていると、ピーマンとかチーズがあるのに気づいた
…ちょっと時間はかかるがピザトーストでも作るか
流石にオレが買った訳じゃねえから、ちょい気は引けるが…
シアのことだ、どうせ夏休み前日の夜にでもネットで食材大量購入して、適当におかず色々作ってしまったんだろう
絶対何買ったとか覚えてない←
その証拠に、パン買ったのとか覚えてなかったしな
クスッと苦笑いしながら食材をもろもろ取り出して作り始める
「……から、ごめんって………」
作っていると、廊下からシアの声が聞こえてきた
…なんか、揉めてるみたいなんだが…
ガチャッとリビングのドアが開くと、誰と話しているのかすぐにわかった
「だーかーらー!昨日はユーリ達が祝ってくれて、遊び疲れて寝ちゃってついさっき起きたんだってば!……もう……わたし16だよ?お母さん達は心配しすぎなんだって!……うん……うん……わかったから!ちゃんと食べてるし、薬も飲んでるって!……うん、大丈夫、大丈夫だから……あーもう!平気だって!!切るよ!?切るからね!?………………もー……泣かないでよ………ん…わかった、それじゃあ来週ね?……うん………うん………それじゃあまたね」
スマホを耳から離すと、大きくため息を付きながらテーブルに突っ伏した
「おばさんとなんかあったのか?」
カウンター越しにそう聞くと首を横に振る
「ちがーう…昨日電話したのに、なんで出なかったんだっ!ってさ…仕方ないじゃん、時差あるんだから」
少し顔をあげて、ブツブツと文句を言い出す
そーいや、転勤先…外国だって言ってたな
「ま、それもそうだよな。夜寝んの早いシアにゃ無理があるよな」
ちょっぴり悪戯っぽくそう言うと、ムッとしてこっちを見てくるのがちらっと見えた
「失礼な……わたしだって起きてる時は起きてるもん…」
「あー、そうだったな、ゲーム熱中してる時なんかはそうだよな?」
不服そうにしているシアにそう言うと、うっ…と言葉に詰まる
まあ、事実だし
第一、オレが居る時に夜更かしした事なんて殆どない
「それよか、来週なんかあんのか?」
オーブンに具を乗せたパンを入れて焼き始めながら聞く
後は焼き上がるのを待つだけだ
「あー……仕事一段落したから、3日だけこっち戻って来るって」
「……マジ?」
いつもはフレンが座っている席に腰掛けながら言う
いや、本当ならかなりヤバイ
オレもフレンも、自分のものを大量に置いてるわけだし…
「マ~ジ~……あー…でも、部屋に関しては平気だよ?お母さん達の部屋、元々一階だったし、ユーリ達が使ってるの知ってるし」
ぐだぁ…としたままシアはそう言う
…なんで知ってるのかツッコミたいところだが、大方シアが言ったのが目に見えてる←
「それよりもー……ユーリと付き合ってること伝えたら、絶対お父さんが発狂する……どーしよ……」
大きくため息を付いて項垂れる
「あー……おじさん、シア大好きだったもんなぁ……」
考えただけで寒気がする
…オレ、最悪殺されそーなんですけど……
「まあ……なんとかなる……かな……?」
苦い顔をして首を傾げる
そんなことオレに聞かれてもなぁ……
首を竦めてそれに答えるのとほぼ同時にオーブンが鳴る
「お、丁度出来たな」
立ち上がってキッチンの方へと向かう
「ふふ、ユーリ居るとご飯作らなくていいから楽~♪」
嬉しそうなシアの声が後ろから聞こえてくる
「おいおい…ちったぁ自分でやれっての…」
オーブンからトーストを取り出して皿の上に乗せる
こいつはいつまでオレに飯作らせるつもりでいるんだか……
苦笑いしながらトレイにトーストの乗った皿を乗せて、席に戻る
テーブルの上に皿を置くと、シアが不思議そうに首を傾げる
「…あれ?野菜系まだ残ってた??」
「……あのなぁ……頼むから何買ったかくらいは覚えててくれよ…」
やっぱりか…と思いつつ、大きくため息をつく
なんでこいつ、こんなに家事とかに興味ねえんだよ……
「あはは……いっつもユーリがそーゆーの管理してくれてるから、つい…ね?」
苦い顔をしながら、明後日の方向に目を向ける
「あのなぁ…そんなんで将来どーするつもりなんだよ?」
呆れ気味にそう聞くと、思ってもみなかった返答が返ってきた
「え……?ユーリに家事やってもらって、わたしが働こうかと……」
ものすごく真剣な目でそう言われて絶句する
…どんだけ家事したくねえんだよ…
「はぁ……とりあえず、さっさと食っちまおうぜ?」
「あはは…それもそうだね!」
ーーーーーーーー
「……あ、ところでさ、シア?」
朝ご飯も食べ終わって、部屋でユーリと勉強している最中、唐突に話し掛けられた
「んー?」
数学の課題と睨めっこしたまま短く返事をする
「今日、近くの神社の夏祭りあるんだってよ。フレンが一緒に行こうってさ」
それを聞いてバッと顔をあげる
「本当に!?」
「おう、フレンとこのおばさんが、シアに浴衣着せんの楽しみにしてるらしいぜ?」
ニッと笑いながらユーリが見つめて来る
去年は行けなかったお祭りに行ける…
それだけで充分嬉しかった
「行くっ!!めっちゃ行きたい!!」
そう言うと、嬉しそうにユーリが目を細める
「そう来なくっちゃな」
嬉しそうにしながら頭を撫でてくる
きっと、今鏡を見たら、ユーリみたいに喜んだわたしの顔が写るんだろうなぁ…
優しく頭を撫でられる感覚に目を細める
ユーリにこうして頭を撫でて貰えるの、本当に好きだ
「…よし、祭りもある事だし、勉強早めに終わらせようぜ?」
すっと手を退けてユーリはトントン、と問題集を指さす
こくん、と頷いてまた睨めっこを始める
1年ぶりのお祭り…
そして、大好きなユーリと、恋人として初めて行くお祭り…
嬉しくて嬉しくて仕方がない
……勉強、早く終わらせないと……!
「シア…公式、間違えてる…」
ふぅ……と息を吐きながらユーリはそう言う
現在午後1時、お昼を食べ終わった後のこと
午前中になんとか終わらせた数学の丸つけをユーリがしてくれてるのだが……
かなり、ヤバイ
中等部で習ったはずの図形が全く出来ていない
うっ……と言葉に詰まる
仕方ないだろう、数学の中で図形は苦手中の苦手分野なのだから
「ふぅ……ま、今日は祭りあるし、この辺で勘弁してやるとしますかね」
パタリとノートを閉じて、勉強道具を片付け始める
「…へ?」
突然の出来事にわたしの頭はついていけず、唖然としてその様子を見る
いやいや……だって、勉強に関してはうるさいユーリがこの反応だよ?
到底信じられない
いや信じられないとかってレベルじゃない
夢でも見てるのかって感じだ…
そんなことを考えてる間に、片付けは終わったらしく、先程と同じようにわたしの目の前に座る
「ほら、ぼけーっとしてないで、さっさと行く準備しようぜ?去年は全く遊べなかったわけだし、今年はうんと遊びまくろう?」
ニッと優しげな笑みを浮かべて見つめて来る
ユーリの気持ちが嬉しくって
気づいた時には、ユーリの胸元に抱きついてた←
「おいおい…そーやって抱きつかれたら、オレ動けねえよ?」
頭の上からユーリの声が聞こえてくる
「ふふ……だってすっごく嬉しいから」
顔を上げてニコッと笑いかける
きっと、『満面の笑み』ってこうゆうことを言うんだろう
鏡を見なくてもわかるくらい、口角があがっているのがわかる
「ははっ、シアが喜んでくれるんならオレも嬉しいよ。…早目にフレンのとこ行って、これでもかっ!ってくらい、沢山写真撮ろうぜ?」
その言葉に大きく頷く
すっとユーリから離れて、急いで準備した
忘れものが無いことと、日焼け止めを塗ったことを確認して、ユーリと2人フレンの家へと向かった
~フレン宅にて~
「わぁ……!!アリシア、とっても可愛いです……!!」
胸の前で手をあわせながら、エステルが目をキラキラさせて言う
おばさんが選んでくれたのは、黒を基調とした浴衣
桜の花が沢山描かれていて、所々に蝶の絵も描かれている
帯は紫で、これにも桜や蝶が描かれている
因みに、髪は普段ユーリが学校に行く時にやってくれる様なハーフアップのお団子で、ゴムには蝶の飾りがついている
「えへへ…ありがとう!そうゆうエステルも可愛いよ?」
一方エステルは、ピンクと白を基調とした浴衣で、薔薇か描かれている
帯はピンクと白のグラデーションのものだ
如何にもエステルらしい浴衣だ
「ふふ、ありがとうございます!」
嬉しそうに少し頬を赤らめてエステルは笑う
「2人共ー、入って平気かい?」
ドアの向こうからフレンの声が聞こえてくる
1度エステルと顔を見合わせて深呼吸する
一拍開けてからいいよ!と声をかける
ガチャッとドアが開くと、やっぱりユーリとフレンも浴衣を着せられたらしく
ユーリはいつもと同じ、黒を基調とした浴衣
フレンは淡い青を基調とした浴衣を着ている
部屋に入った瞬間、ユーリとフレンは絶句して、その場に固まってしまった
わけがわからず、エステルと顔を見合わせて首を傾げる
すると、最初にフレンが顔を真っ赤にさせて顔を背けた
それで状況を把握した
大方わたしとエステルの浴衣姿を見て驚いたんだろう
…で、フレンはエステルが可愛すぎて直視出来なくなった……と
「……シアがそーゆーの着てんの……初めて見た」
左手で口元を隠しながらユーリはそう言う
……あれ?もしかして、ユーリもフレンと同じこと考えてたりするの…?
「ですよね!アリシアすっごく可愛いですよね!」
エステルがわたしの隣で興奮気味にそう言うと、ユーリはかあっと顔を赤くする
待って、そうやって露骨に顔を赤く赤くされると、こっちも赤くなるじゃん…っ!!
「…フレンも、エステルになんか言ってあげなよ?こんなに可愛いんだから」
赤くなりそうなのを隠すようにフレンに呼びかける
が、当の本人は全く微動打にしない
「…………フレンのやつぁほっといて、3人で写真でも撮るか?」
未だに顔を少し赤くさせながら、ユーリが歩み寄ってくる
「ん、それもそうだね」
ニッコリとユーリに笑いかける
「むぅ……一緒に撮りたかったんですが、仕方ないですね…」
エステルがしゅんとしてそう言うと、ものすごい勢いでフレンが吹っ飛んできた←
…え、ちょっと待って、この子怖い…
「ユーリ、早く撮るなら撮ろう!」
さっきまで恥ずかしがってたのは何処へいったのか、ワクワクとしながらエステルの肩を抱いている
「へいへい……全く、厳禁なやつだわ…」
呆れたように苦笑いしながら携帯のカメラを起動させる
「シア、もうちょいこっち来いよ」
「え?う、うん…!」
ユーリに手招きされて、ちょっとドキドキしながら隣に並ぶ
するとフレンがエステルにやっているように、右手で肩を抱き寄せてくる
「…目の前でイチャつくの、やめてくれないかい?」
「はぁ?現在進行形でイチャついてるお前に言われたくねえーよ。それよかもうちっとこっち寄れって、お前だけ途切れてるぜ?」
嫌味ったらしくユーリがそう言うと、エステルがフレンの腕を引っ張って、わたしの隣に引っ付いた
「ふふっ、こうやって写真撮るの、初めてです!」
クスッと笑いながらエステルはそう言う
「わたしも、こうやって撮るのは初めてだよ」
隣にいるエステルに笑いかけながらそう答える
「ほーら、2人共、カメラの方向いとけって」
エステルと目を合わせて頷きあって、カメラの方を向く
「んじゃ……3、2~、1…」
カシャッと音が鳴る
画面には、満面の笑みを浮かべたわたしとエステル、そして、嬉しそうにしているユーリとフレンが写っている
「わぁ…みんなすっごくいい顔してる」
クスッと笑いながらユーリの携帯の画面を見る
「アリシア!2人で撮りましょう!」
ニコッと笑いながらエステルはわたしの方を向く
「ん、そうだね!」
そう言って携帯を取り出して、カメラを起動させる
「いっくよー?…はい、チーズ!」
空いてる手をエステルと繋いでシャッターを切る
こうやって誰かと写真を撮るのもすごい久しぶりだ
「フレン…!撮りましょう?//」
わたしと何枚か写真を撮ると、フレンの方へとエステルは行く
エステルの申し出にフレンは顔を真っ赤にされているのが見える
「おーおー、写真撮るだけで顔真っ赤だな、あいつ」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべてユーリはわたしの隣に並ぶ
あぁ…これは後でフレン、すっごくいじられるんだろうなぁ…
「…ね、ユーリ?わたし達も写真、撮ろ?」
少し首を傾げてそう言うと、一瞬驚いたけど、すぐに笑顔になる
「だな、行く前に1枚撮っとくとしますかね」
自分の携帯を取り出してカメラを起動させると、後ろからぎゅっと抱きついてくる
わたしの肩に顎を乗せて、その状態でカメラを向ける
ユーリの髪が耳に当たって、少しこそばゆい
でも、こうやって写真を撮れるのが嬉しくて
目を細めていると、カシャッとシャッター音が聞こえる
「あっ!もー、合図してよー!」
ムスッとしてユーリの方に顔を向けると、クスッと笑い出す
「悪ぃ悪ぃ、シアが可愛くってつい言うの忘れちまったよ」
わたしから体を離しながらユーリはそう言う
納得いかずにムスッとしていると、手を差し出してくる
「ほーら、早く行こうぜ?」
「エステル達は?」
「あん?あの2人なら、そっちの方でいまだに写真撮ってるぜ?」
ユーリの指さす方を見れば、楽しそうに写真を撮りまくっているのが目に入る
いや…撮りすぎじゃない…?
「ここで撮るより、祭りで撮った方がよっぽどいいだろ?」
ニヤリと笑うユーリに、笑顔で頷いてその手を取った
おばさんにお礼を言うと、服は後で家に届けるから、今日はそのまま帰っていいよと言われた
…その代わり、ものすごく沢山写真撮られたけど…
ーーーーーーーー
「わぁ…!!すっごい久しぶりに来た…!」
神社の近くに来ると、もう沢山の人が溢れている
日も落ちてきて、大分涼しくなっているからだろうか…
「こりゃ、下手したらはぐれそうだな…シア、しっかり手握ってろよ?」
ユーリが握る手に少しだけ力が入った
言葉じゃなくて、ニコッと笑ってそれに答え、わたしも手に力を入れる
ユーリが嬉しそうに目を細めて、ゆっくりと、わたしの歩幅に合わせて歩き出す
久々に来たお祭りはとっても新鮮で
とってもワクワクしながら色々見ながら歩く
屋台を歩きながら見ていると、不意にユーリの携帯が鳴り出す
「あん?誰だよ……って、フレン?」
携帯の画面を見て首を傾げる
通話に出てスピーカーにすると、少し怒ったように話し出す
『ユーリ!なんで先に行ってしまうんだっ!!一緒に、って言ったろ?!』
何処か焦ったようなフレンの声が聞こえる
「あー…悪ぃ、なんか邪魔したらいけないような雰囲気だったもんでつい…な?」
ちょっと悪戯っぽくユーリがそう言うと大きくため息をつく
『あのなぁ…地元の祭りなんだから、当然クラスメイトも沢山来るんだぞ…?僕らはまだしも、君は……』
「へーきだっての、なんかありゃぶっ飛ばすし…んじゃ、邪魔してくんなよー」
『あっ!おいっ!!』
フレンが何か言おうとしたのもお構い無しに通話を切って、そのまま電源を完全に落とした
「…いいの?ユーリ」
首を傾げて聞くと、不思議そうな顔をする
「なんでだ??ほっといても平気だっての」
ニッと不敵に笑うユーリに、何故だかわたしも自然と笑顔になる
「それよか、なんか食おうぜ?勉強尽くしで糖分欲しい」
キョロキョロと周りの屋台を見ながらユーリが言う
「もう…勉強尽くしって、ユーリがやろうって言ったからじゃん」
クスクスと笑いながらそう言うと、うっせーよ、と軽く頭を小突かれる
ユーリと付き合ってから、初めてのデート
すっごくドキドキするけど、もう既にとっても楽しい
「あっ、リンゴ飴売ってるよ?」
ちょっと先に見える屋台を指さす
「お、グッドタイミング」
パチンッと指を鳴らして、嬉しそうに笑う
屋台の前につくと、リンゴ飴を1つだけ買って差し出してくる
「あれ?ユーリが食べるんじゃなかったの?」
「半分こした方が色々食べられるだろ?」
ちょっとだけ顔を赤らめてユーリがそう言う
そういえば、毎年お祭りに来た時はよくみんなと半分こしたりしてたったけ…
それが今年はユーリと2人だけなわけで…
それを考えたら、こっちまで顔が赤くなりそうだ
「ん、それもそうだね!」
赤くなりそうなのを、必死で隠すようにニコッと笑いながらリンゴ飴を受け取る
…まぁ…多分バレバレだろうけど…
一口かじると、飴の甘さと、リンゴの甘酸っぱさが口の中に広がる
「やっぱりお祭りって言ったらリンゴ飴だよねぇ」
「シア、毎年買ってたもんな、リンゴ飴。オレにも一口くれっか?」
ニヤリと悪戯っぽくユーリが笑ったから首を傾げるが、元々ユーリが買ったものだし…と、気にせずに手渡そうとすると、受け取ろうとはせずにそのままパクッとかじりついた
流石に驚いて思考停止
……あ、そうやって食べるつもりだったわけか……
なんであんなに悪戯っぽく笑ったのか、理解した
「うっま、あの屋台あたりだな」
ニコッと笑いながらユーリがそう言う
食べ物に関してユーリが褒めるの、珍しいなぁ
そんなこと考えながらもう一口かじる
…関節キス?そんなの小さい頃からしょっちゅうだったから慣れてる←
リンゴ飴食べた後はたこ焼きとかかき氷とか、綿あめだったり焼きそばだったり、色々食べながら歩いてた
元々わたしもユーリも食べても体質的に太らないし、そんなこと気にせずににすっごい食べた←
因みに両手使う系のもの食べてる時は、人混みから少し離れたとこで止まるか、ユーリがわたしの肩抱いて、わたしがユーリに食べさせてた
付き合いたて、っていうか、最早何処のバカップルだよって感じ
…絶対フレンが隣に居たらおちょくられるよ…
まあ、そのフレンも今頃、エステルと仲良く歩いてるんだろうなぁ
そんなこと頭の隅に置きつつ、ユーリと他愛ない会話しながら色々見て歩いた
やりはしなかったけど金魚すくいとか、スーパーボールすくいとか
昔よくやったなぁ…なんて、笑いながら話した
写真も沢山撮った
2人で並んでる写真やユーリだけの写真、わたしだけの写真
本当にこれでもかっ!ってくらい、沢山撮った
「ん、そろそろ花火上がるんじゃねえか?」
わたしの携帯の画面を見ながらユーリはそう言う
大分暗くなったし、多分そろそろ上がるだろう
「だね、また彼処で観る?」
「だな、彼処なら早々人も」
「ユーリ君……っ!!」
ユーリが話している途中で、後ろから誰かに声をかけられた
振り返ると、以前ユーリに振られた何人かの女子が視界に入る
…あ、前にユーリとフレンに怒られた子達じゃん…
面倒くさそうにユーリはため息をつく
「あん?なんだよ、ぞろぞろ集まりやがって」
不機嫌極まりない声でそう聞くと、1人が半分悲鳴のような声をあげる
「またその子と居て……!!なんで付き合ってもないその子とは一緒に居るのに、私達は避けるのよ…!!」
1人がそう言うと、次々に不満を口にする
うわぁ……うるさい……というか、面倒だなぁ……
呆れてため息しか出ない
ユーリも同じ様で、ものすごく面倒くさそうに顔を顰めている
こちらの話など聞く気も無いらしく、ずっと何かしら言い続けている
話にならない、とユーリが背を向けて行こう、と小声で囁いてくる
コクンと頷いて背を向けた、その時
「なんでその子がいいのよ…っ!!特に可愛いわけでもないのにっ!!」
「そうよ!勉強出来るわけでも、運動出来るわけでもないし、目立った取得なんてないじゃないっ!」
グサッとその言葉が胸に刺さる
確かにその通りと言えばその通りだ
取得なんて、わたし自身わからない
本当のこと、それでも流石にその言われ方は傷つく
ぎゅっと胸の前で右手を握り締め、唇を噛む
「…お前らみたいに自分のいいとこしか言えねぇような奴らには、一生かかってもシアの良さはわかんねぇよ」
不意に黙り込んでいたユーリが口を開く
いつもより、あからさまに低いトーンに彼女達は驚いたのか、声が聞こえなくなる
そして、急に視界が暗くなった
ユーリが抱きついて来たことに気付くまでに、数秒かかる
「後、悪ぃけどオレ、こいつと付き合ってるし、手放す気もねぇから」
その言葉に驚いて顔を上げると、ものすごく嬉しそうな笑顔を浮かべたユーリが見える
……この2日間、なんでこんなに驚くような出来事が続いているのだろうか……
そんな考えも、すぐに消し飛んだ
ヒュ~~~~~~……ドーンッ!!!
ユーリの背後で花火が上がったのが目に入る
大きな花を咲かせて、パラパラと音を立ててすぐに消える
そしてまた、次の花火が上がる
「やっべ!!始まっちまった!!行こうぜ、シア!」
音に気づいたユーリは、わたしから少し離れて手を握り直すと彼女達のことを気にもせずに人混みを掻き分けて、少し早歩きで突き進む
…まぁ、ユーリの早歩きとか、わたしにとっては小走りなんだけどさ…!
しばらく進んだところで、目的の場所にはすぐついた
神社から少しだけ離れた場所にある、小さな公園
昼間は小さい子がよく遊んでるけど、この時間はものすごく暗いからって近寄る人はあまり居ない
この神社のお祭りの時は、いつも三家族揃ってここで花火を観ていた
わたし達しか知らない、絶好の場所だ
「おっ、フレン達も居なさそうだな。やりぃ」
パチンと指を鳴らすと、ポスッとベンチに座り込む
その隣に座ろうとすると、ぐっと腕を引っ張られてユーリの膝の上に座らせられる
「えっ!?あ、ユ、ユーリっ!?///」
顔を上げると、少し心配そうに顔を歪ませてるユーリが目に入る
なんでそんな顔をしてるんだろ…?
訳が分からず首を傾げていると、ぎゅっと抱きつかれる
……今日、いつもよりもものすごく抱きつかれるんだけど……
「ユーリ、どうしたの?」
「…さっきあいつらが言ってたこと、気にしてそーだったから」
心配そうな声に、あぁ…と納得した
「んー…まぁ流石に…ね?本当と言えば本当の事なんだけどね」
苦笑いしながらそう答える
幾ら勉強や運動出来なくても、あの言い方はないだろう
それに、勉強はともかく、運動はちゃんと理由がある
そもそも『出来ない』んじゃなくて『禁止』なんだからどうしようもないじゃないか
「ったく、シアの可愛さ分からねーとかかなしーやつら」
肩に顎を乗せながらユーリは呟く
耳にかかる息が少しこそばゆい
「んー…別に分かって貰えなくてもいいかなぁ」
クスッと笑いながら空を見上げる
沢山の花火が真っ暗な空で咲いている
写真を撮ることさえ忘れてしまうくらい、とっても綺麗だ
「あん?なんでだよ?」
「だって、わたしにだってわかんないし……それに、ユーリだけが知っててくれればいいかなって」
空を見上げたままそう答える
ドキドキと心臓の音がうるさい
花火の音と同じくらい、耳の中で音が反響している
自分で言っておいて恥ずかしくなる
それでも本当のことだから
ユーリだけが知っていてくれれば、それでいい
「……そっか、ま、確かに他のやつに気付かれたりでもしたらオレが困る」
嬉しそうにそう言うと、ユーリも一緒に空を見上げた
「…まぁ……男子には気付かれちゃってるみたいなんだけど……」
「…学校始まったら、絶対シアから離れたくねぇ」
ぎゅっと回された腕に力が入る
…あ、なんか変なスイッチ押した?
「……でも本当、何処がいいんだろ……?」
ボソッ呟いた言葉は、ユーリにバッチリ聞かれていたらしく…
「ん?そうだな…身長の割に小さい手とか」
左手を包み込む様に握りながらそう言ってくる
かあっと顔が熱くなる
意外と手小さいの気にしてるんだけど…!
「すぐ顔赤くさせるとことか、飯とか食ってる時すっげー嬉しそうにニコニコしてるとことか、何するにも必死でやってるとことか、小動物っぽいとことか、オレの隣に居るだけで嬉しそうにしてるとことか、オレ見つけると嬉しそうに駆け寄って来るとことか、オレの為にって一生懸命なんか作ってくれるとこt」
「ユーリストップ、あのね、それユーリから見たわたしなわけで、誰にも当てはまるわけじゃないよ…?」
マンシンガントークの様に1人淡々と喋るユーリを静止する
後半思い切りユーリの私情になってたし…
それに、小動物っぽいって何処が…っ!?
「む?まだまだシアの可愛いとこはあげられるんだが…」
ちょっとだけ残念そうにそう言われる
ムッとしてるユーリがちょっと可愛くって
思わずクスッと笑ってしまう
わたしが笑い出すと、釣られるようにユーリも笑い出す
この時間が、ずっと続けばいいのになぁ…
「シア」
不意に肩に乗せられていた顎が離れて、名前を呼ばれる
見上げるようにユーリの方に顔を向ける
「…来年、また2人で来ようぜ?」
ちょっと顔を赤くさせてそう言ってくる
来年も一緒に来れる…
そう考えただけですごく嬉しくて
ニコッと笑って大きく頷く
花火の写真は撮り損ねちゃったけど…
その代わりに、とってもいい約束が出来た
「よし、帰るとしますかね」
「ん、そうだね!」
ぴょんっとユーリの膝の上から降りて少し前を歩き出す
「おいおい…先行くなっての」
ちょっと呆れ気味にユーリの声が後ろから追いかけてくる
それに合わせるようにくるっと振り向く
「ん?どうした?」
「…ユーリ!ありがとうっ!!」
後ろで手を組んでニッコリと笑う
驚いたのか、一瞬その場で立ち止まったが、すぐにニッと笑って近づいてくる
「シアが喜んでくれたんなら良かったぜ」
そっと頬を輪郭に沿って撫でてくる
くすぐったくて、少し首を窄めて目を細めた
「~~っ!////ほら、早く帰ろうぜ////」
少し上擦った声に目を開けると、何故か顔を赤くしたユーリが目に入る
「…?ユーリ、どうかしたの?」
首を傾げてそう聞くが、なんでもねぇ!っと言ってわたしの手を引いて歩き出す
ますます訳がわからなくて、頭の中はハテナだらけになるけど…
いつもみたく繋ぐんじゃなくて、恋人繋ぎにしてくれていたのが嬉しくって
理由を聞くのも忘れてしまっていた
今までで1番、楽しい夏祭りだった
来年も一緒に、絶対来ようね?