*1年生
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HappyBirthday
~そして、次の日~
「うー……どーしよ……」
クローゼットの前で睨めっこし始めてもう数10分経っている
時間はまだ朝の6時だが、朝早くに目が覚めてしまったのだ
結局昨日は自分が言った言葉が頭から離れなくて、大好きなゲームにすら集中出来ずどのゲームも惨敗だった
おまけに夕飯作ってる最中に指切っちゃったし…
…流石に意識しすぎかもしれない……
「……やっぱこれにしよっかな」
手に取ったのは以前お母さんが買ってくれたセットコーデ
上はタンクトップに半袖パーカー、下はショートパンツだ
初めて着た時、ユーリがものすごく可愛いを連呼してきたからわたしの中でお気に入りになっていた
さっと寝間着を脱いで、その服を着る
「……うーん……やっぱこれだと隠しきれないか…」
苦笑いしながらユーリに貰ったペンダントをいじる
飾りの部分は隠せても、肝心のチェーンの部分が隠しきれない
「…まぁ、今日は隠さなくてもいいや」
わたしの誕生日だし、以前に誕プレでユーリがくれたものだ
付けていてもおかしくはないだろう
姿見鏡の前でくるっと回っておかしい所がないか確認する
その後で出掛ける時にいつも使っているリュックに、必要なものをしまっていく
財布、タオル、ポーチ、ティッシュ…一番忘れちゃいけないのは持ち運び式の充電器と携帯のコードだ
充電器の充電がMAXなことを確認して、リュックに入れて口を閉める
その後、腕やら顔やら肌が露出しているところに日焼け止めを塗る
肌も弱いから日焼けなんてしたらいろんな意味で死ぬ
日焼け止めも塗り終わったし、 後はユーリを待つだけ……
「って、まだ7時じゃん……」
時計を見て少し驚いた
もうかなり時間が経っていた気がしていたが、どうやらそんなこともなかったらしい
さてどうしようか…
ピロリンッ♪
うーんと唸っていると、携帯の通知音が鳴る
画面を見るとユーリからだった
《今から行くぜ》
「早っ!?え、ちょっ!?早くないっ!?」
驚いて2度見するが、何度見ても『行く』の2文字が見える
いやいやいやいや……早すぎるよ……
確かに朝って言ってたけどさぁ…!!
《え、早っ!!》
とりあえずそう送る
すると、すぐに返信が来た
《シアのことだから、どうせまた朝飯食ってねぇだろ?》
「……あ、やばっ……」
ユーリに言われて思い出す
そう言われてみればまだ食べていない…
いや、厳密に言えば昨日からなのだが…
《ごめんなさい、完全に忘れてました…》
《だと思った。もうすぐ着くから、なんか作ってやるよ》
《了解》
「はぁぁぁ……どーしよ……心の準備が出来てないよぉ……」
携帯の電源を落して頭を抱える
昨日あんなこと口走ったせいで、未だにどんな顔して会えばいいかわからない
『いつも通りに』…と言っても、2週間も会ってないせいで、その『いつも通り』すらわからない
「……とりあえず、下おりよ……」
戸締りとエアコンの電源を切ったのを確認して、荷物を入れたリュックを持って部屋を出た
階段を降りきったところで、ガチャッと玄関のドアが開いた
一瞬びっくりしたが、この時間に来るのは彼だけだ
「おはよ、シア」
いつもと同じく、黒を基調とした服を着たユーリがニコッと微笑む
2週間ぶりに会ったが、見た感じ元気そうだ
「…おはよう、ユーリ」
少し間を開けてそう言う
一応微笑んでいるつもりなのだが、上手く笑えている自身は皆無だ
接し方がわからない、とかいう問題じゃなく、単純にバレたらやばいことが色々あるからだ
…だって、まともにご飯食べていない日何日かあるし…
ゲームやり過ぎて寝てない日だってあるし…
あれだけ怒られて髪乾かさないでダウンした日だって何度かあった
バレるんじゃないかと気が気でない
「流石に2週間も来てねぇと久しぶりって感じすんな
…ほーら、そんなとこで突っ立ってねぇでリビング行こうぜ?」
「へ?あ、うん!」
ユーリの後を追うようにリビングに足を向けた
…よかった、まだバレてなさそう
ほっと胸を撫で下ろす
まぁ、まだまだ安心は出来ないのだが…
リュックをいつも私が座っている隣の椅子の上に置いて腰掛ける
「うー…にしてもここあつぅ……」
ぐだぁっとテーブルに突っ伏す
家の中だと言うのにかなり暑い
まぁ、1日の半分以上を自分の部屋で過ごしていたから、仕方ないと言えば仕方ないが…
「おいおい…このくらいで暑がってたら、外出れねぇんじゃねえか?」
キッチンの方から呆れたような苦い声が聞こえてくる
「だって夏休み入ってから家の外出てないもん…殆どずーっとエアコンかけるし……」
「…まさか、かけっぱなしで寝たりなんてしてねぇよな…?」
咎めるような声でそう問いかけてくる
「流石に寝る前にタイマーちゃんとかけてるって」
苦笑いしながらキッチンの方を向く
こうやってユーリと話すの…すっごく久しぶりな気がする
嬉しくなって、思わずにやけてしまう
やっぱりユーリと一緒に居るこの時間が1番落ち着く
「なーにニヤニヤしてんの?」
ユーリの声が聞こえた方に顔を向けると、トレイを持ったユーリが傍に立っていた
「んー?ユーリとこうやって話すの、久々だなーって」
体を起こしながら悪戯っぽくそう言う
「へいへい…2週間も連絡しなくてすみませんでしたねっと」
全く悪いと思っていないような口調で言いながら、トレイに乗せていたお皿をテーブルの上に置いた
お皿に乗ってるのはフレンチトーストだ
「相変わらず料理得意だよねぇ……っというか、パンなんてあったっけ??」
首を傾げながらユーリに聞く
夏休みに入ってから確かに自分で料理はしていたが、初日におかず系は作り置きしてたし……
そもそも、パンとか買った記憶がない←
「自分の家に何があるかくらい把握しておけよ…」
呆れ気味にそう言いながら私の目の前の席に腰掛ける
「あはは……とっ、とりあえず、いただきますっ!」
話を逸らせようと、慌てて手を合わせて食べ始める
一口食べると、ほんのりとした甘さが口の中に広がる
…ユーリには料理で一生勝てる気がしない…
「やっぱユーリのご飯が1番いいや、めっちゃ美味しい」
「ははっ、そりゃどーも」
ニコニコしながら食べていると、ユーリも嬉しそうに目を細めた
…フレンが居たら、絶対後でおちょくられてる光景だなぁ…
「ごちそうさま!」
「お粗末様でしたっと」
ペロッと完食してお皿を片付けに行く
流石にそれくらいはしないと…ね?
ささっと洗い終えてリビングに戻る
「よし…んじゃ、そろそろ行くとしますかね?」
立ち上がって軽く伸びをしながら聞いてくる
「うん!」
ニコッと笑って、椅子の上に置いていたリュックを手に取る
「忘れもんしてねえか?」
「わたし、そこまで子供じゃないんだけど…」
悪戯っぽく笑ってくるユーリに、ムスッとして言う
はいはいっと言いながらポンッと頭に手を乗せてくる
…いや、わかってないでしょ…
…というか、わたしも忘れてたけど、すっごく大切なこと言われてない…
不満げにユーリを見つめてると、一瞬首を傾げたがすぐに思い出したようだ
「あっ!やべっ!!…シア、誕生日おめでと」
ニコッと優しく微笑む
…その笑顔、反則です…
「ん、ありがとう。でもちょっと言うの遅いって」
軽く肩をすくめると、悪ぃ…と本気で謝ってくる
…まぁ、わたしも忘れてたしなぁ…
「…ふふ、ほーら、早く行こ行こっ!!」
クスッと笑いながらユーリの手を引いて歩き出す
「おわっ!?おいシアっ!?いきなりは危ねぇだろっ!?」
急に手を引っ張られて体制を崩したユーリは、半ばわたしに引きずられるように歩き出す
「ふふっ、ユーリがぼーっとしてるのが悪いのー!」
くすくす笑っていると、呆れたようなため息が聞こえてくる
そんなこと気にせずに、靴を履いて外に出る
2週間ぶりの外の眩しさに、思わず目を細める
思っていたよりも日差しが強い
日焼け止め、一応入れておいて正解だったかな
「シア、帽子被らなくて平気か?」
靴を履きながらユーリが聞いてくる
「ん、へーきへーき!!」
ニコッと笑うと、やれやれと苦笑いしながら外に出てくる
しっかり鍵を掛けて、ユーリと並んで歩き出した
「うわぁ……本当にあっつぅ……」
じんわりと額に汗が滲み出す
歩いてるだけで体力を削ぎ取られそうだ
「おーい、さっきまでの元気はどこいったー?」
「……ユーリ、すっごいすまし顔だけどさ、その格好暑くないの…?」
じとーっと隣に居るユーリを見つめる
黒とかものすごく暑そうなんだけど…
今日は学校行く時と同じようにポニーテールにしてるけどさ…
「いや別に…オレ的にゃシアのその髪の方が暑そうだぜ?」
すっとわたしの髪に触れてくる
…うん、確かに暑い
髪結いてくればよかったかもしれない…
「あはは…ちょーっと失敗したかなぁ…」
「ったく、ゴム持ってっから電車ん中で結いてやるよ」
「さっすがユーリ、女子力高ーい
櫛は持ってるからお願いしまーす」
くすくす笑っていると、こつんと頭を小突かれた
うっせぇよ、と言ってるのが聞こえる
チラッとユーリを見上げると、顔を背けて左手で口元を隠してるのが見えた
ユーリ、いつも恥ずかしがるとすぐにそうするから顔背けててもバレバレなのに…
~電車に揺られて数十分~
わたし達の住んでいるところよりも、少し大きな街まで来た
夏休みのせいもあってか、沢山の人で混みあってる
「わぁ…相変わらず人多いなぁ…」
キョロキョロと辺りを見回すと何処も彼処も人で溢れてる
首を動かすと、それに合わせるように少し高めの位置で結ばれた髪が揺れる
ユーリが結いてくれたおかげで、少し暑さが和らいだ気がする
「こりゃはぐれてもおかしくねぇな」
苦い顔をしながらユーリも見回す
確かにこれははぐれそう……
ユーリを見つけるのは簡単そうだけど、わたしを見つけるのはかなり難しいだろう
「…どうしよっか?」
うーん、と唸りながら首を傾げる
どうしようも何も、はぐれない為の方法なんて限られているが…
「…ほら、行こうぜ?」
すっとナチュラルに手を差し出しながらユーリはニカッと笑う
…これ、取れって意味でいいんだよね…?
「う、うん…!」
頷いて、差し出された手を取って人混みの中を進み出した
心臓の音がやけにうるさい
ユーリと最後に手を繋いだのはいつだろうか…
いや、それ以前に、なんで手を繋いだだけなのにこうも恥ずかしいんだろうか…
しょっちゅうユーリに抱き着かれたりしてたのに…
そう考えると少しだけ顔が熱くなる
……意識しちゃ、駄目だ……
本当に恥ずかしくなる
芽生えかけた感情を必死で抑え込む
付き合ってなくてもいい
隣で並んで居られるこの時間が好きだ
想いを伝えて、ユーリが離れるよりも、このままで居たい
……ただの、わたしのわがままだけれどさ……
ーーーーーー
「うわぁ………綺麗………」
水族館について数分、熱帯魚の水槽の前でじっと泳いでる魚を見つめる
前に来た時もこの水槽の前で止まっていた
1匹1匹がとっても色鮮やかで綺麗な色をしていて、目を奪われてしまう
「本当、熱帯魚好きだよなシア」
隣に居るユーリがくすっと笑う
「ん、だってこんなに綺麗なんだよ?」
カシャッともう何枚撮ったかわからない写真を撮ってユーリを見る
既に10枚は超えてるだろう
「ま、確かに綺麗だよな」
ニッと笑うとユーリも水槽の方に目を向ける
「……家で、飼えないかな……」
水槽の方に目を向けながらポツリと呟く
お父さん達に相談すればなんとかなるかもしれないが……
「熱帯魚って、確か家でも飼育できる種類のが居たと思ったぜ?」
「えっ!?本当に!!」
くるっとユーリに視線を戻すと、しーっと唇に人差し指を当ててくる
「ここ、水族館だから静かにな?
本当だよ、まぁ、オレよりもシアの両親の方が詳しいだろうし、聞いて見りゃいいんじゃねぇの?」
…突然のカミングアウトに思わず大声出しちゃった……
こくんと頷くと満足そうに笑って、人差し指を退ける
…やば…ちょっとドキドキした…
「そっか……うーん……やっぱり帰ったら電話してみるべきかなぁ…」
ドキドキしたのを隠すように手を顎に当てて考える
いや、電話するのは構わないんだ…
ただ今日誕生日だしなぁ……
「ほら、ここばっかじゃなくて、ほかんとこも見てみようぜ?まだまだ時間はたっくさんあんだしさ」
ニヤッといつもの不敵な笑みを浮かべて手を差し出してくる
「…うん!それもそうだね!」
考えるのをやめてその手を取った
やっぱりまだ手を繋ぐとドキドキする
でも、ちょっと嬉しいんだ
ユーリを好いてる他の子達とは違って、こうやって接して貰えることが
…こんなこと、彼女達には絶対に言えないけどね…
熱帯魚のゾーンを抜けた後は色んな魚を見た
普段わたし達が食べてるような魚だったり、滅多に見ない深海魚…
深海魚はちょっと怖かったなぁ……
主に顔が←
怖かった、と言えばサメも見た
…なんでこの水族館、サメだけを集めた水槽かあるのさ…
ユーリはすっごい目キラキラさせてたけど、流石にわたしはサメは苦手だなぁ…
あ、それからクリオネやウミガメも見た
クリオネ飼いたいってユーリに言ったら、ものすごく驚かれた
クリオネ……可愛いと思うんだけどなぁ……
他にも色々見たけど、ヒトデ触れるコーナー出来てたのには驚いた←
わたしは恐る恐る手を入れてたけど、ユーリは平然と触ってたなぁ……
水族館なんて両親と何度も来てたけど、こうやってユーリと2人で来るのは初めてで
何もかもがすっごく新鮮で、2人揃って沢山笑った
移動する時はずっと手を繋いで歩いた
相変わらずドキドキするけどね…
「お、そろそろイルカショー始まるな」
携帯の画面を見ながらユーリが言う
「会場ここから離れてたっけ?」
水族館のパンフレットをパラッと開きながら聞く
「いや、隣がそうだったろ?…ほら、ここ」
わたしが開いたパンフレットをのぞき込んで会場の場所をトントンっとつつく
「それじゃ行こっか」
パンフレットを畳みながらニコッと笑って歩き出した
「凄いっ!!また飛んだっ!!」
バシャァンッと、大きな音と水飛沫を上げてイルカは水に着水する
飛び跳ねる度に大きな歓声が上がる
「すっげぇな…あんだけ高く飛べるなんてな」
ほぉ、っと感心したような声が隣から聞こえる
でも、わたしの意識は完全にイルカ達に向けられていた
高く飛ぶだけじゃなく、すごいスピードで泳いだり、尾ひれだけで泳いだり…
流れている曲に合わせて鳴いたり、飼育員さんを乗せて泳いだり
ずっと見ていられるような光景が目の前に広がっている
『以上でイルカショーを終了とさせていただきます。次の公演は………』
「あーぁ…終わっちゃったね」
少ししゅんとして呟く
もう少し見ていたかったなぁ…
「そんなに落ち込むなっての、昼飯食ってからもう1度見に来ようぜ?」
ユーリがポンッとわたしの頭を撫でる
「え?いいの?」
驚いて顔をあげると、嬉しそうに笑ってるユーリが目に入った
「いいよ、今日はシアの誕生日なんだしさ。それに、お前が喜んでくれてオレも嬉しいし、な?」
嬉しそうにしているユーリの顔はどこか少し赤くなってるような気がする
…気のせいだ、うん、気のせいだよね…?
「…ありがとう!ユーリ!」
ニコッとめいいっぱい微笑む
せめてもの、お礼のつもりで
「っ!!//…ほら、行こうぜ」
「?うん、行こっか…?」
一瞬だけ、ユーリの頬が赤くなった気がしたが、すぐにわたしに背を向けるように歩き出しちゃったから確認出来なかった
気のせい……なの…??
昼ご飯を食べてから少しして、もう1度イルカショーの会場に来た
ユーリがレインコートを買ってくれて、今度は1番前でショーを見た
さっきもすごい迫力だったけど、やっぱり前の方がすごい
イルカが近くで飛び跳ねる度に水飛沫が降ってくるが、あまり気にならなかった
「っわあ……すっごい水飛沫飛んでくるんだね」
「だな…でも、近くで見る方がいいだろ?」
ちょっぴりわくわくした声でユーリが聞いてくる
「うん…っ!!」
一瞬ユーリの方を向いて力強く頷いて、また水槽のイルカの方に目を向ける
何度見てもすごく綺麗で幻想的で…
いつまでも見ていたくなる
ショーが終わると、飼育員さん達が慌ただしく動き始めた
なんだろうと首を傾げていると、アナウンスが聞こえた
『ただ今より、イルカとの触れ合いタイムとなります。先着40名なのでお早めに水槽付近のスタッフに……』
「シア、行くぜ?」
「えっ?あっ!?ユ、ユーリ!?」
いきなり手を引かれて近くの飼育員さんの所に向かう
この状況が、わたしにはまだ理解出来てないです←
…つまり、イルカ、触れるのっ!?
「お、お兄さん達来るの早いねぇ。足元滑るから気をつけて下さいね」
「ん、わかった。シア、大丈夫か?」
「う、うん!」
ユーリの手をぎゅっと握る
階段を1歩1歩上がる度に鼓動が早くなる
こうやってイルカを触れるのは初めてだ
階段をのぼりきると、また別の飼育員さんに連れられて、イルカの近くまで来る
「ゆっくり背中を撫でてあげてくださいね」
こくんと頷いてその場にしゃがんで、恐る恐る手を伸ばす
思っていたよりも冷たくてつるつるした皮膚
優しく撫でると、イルカも嬉しそうに目を細めているのが見える
わたしも嬉しくって口元が緩む
「シア、そろそろ他の人と変わってやんねぇと」
ユーリに肩を叩かれて他にも待ってる人がいるのを思い出す
「ん…そうだね」
すっと手を引っ込めて立ち上がり、飼育員さんにお辞儀してから、ユーリと一緒にその場を後にした
「よかったな、イルカ触れて」
嬉しくってニコニコしていると、ユーリもまた嬉しそうに言ってくる
「うん…!!すっごく嬉しいっ!!」
ユーリの方を向いて笑うと、一緒になって笑う
ユーリのおかげで、普段出来ないような体験を沢山出来た
それだけでも、充分嬉しかった
「さてと、そろそろお土産でも見に行くとしますかねぇ…なんか買ってかねぇと、フレンに文句言われそうだわ」
めんどくせぇ、とでも言いたげに苦笑いする
…確かに文句言われそうだなぁ…
「ん、そうだね!もう一通り見終わったしね!」
「よし、じゃあ行くか」
最早慣れたようにユーリと手を繋ぐ
傍から見たら絶対に付き合っているようにしか見えないと思う←
…ほんと、ユーリにこの気持ちを伝える勇気が欲しい……
そんなことを考えながら、お土産屋さんへと向かって行った
お土産も買い終わったところで、時間はまだ1時
帰るのには早すぎる
どうするか話し合った結果、もう少しこの当たりを見て回ろうという結論に至った
街の中心部、という事もあって色んなお店が沢山並んでいた
特に多かったのが食べ歩きができるようなお店
しかも甘い物が多いときた
甘い物大好きなユーリとわたしだから、当然のように色々買って食べた
クレープやらタピオカジュースやらアイス……
冷たいたい焼きを見つけた時は驚いた
そんなこんなで殆ど食べてばっかだったけど、4時を過ぎたところで帰路についた
「うーんっ!!今日は楽しかったなぁ…っ!!」
地元の駅について電車を降り、うーんっと背伸びをする
こんなに充実した誕生日は初めてだった
「ははっ、シアが楽しかったんならよかったよ」
嬉しそうに笑いながらユーリが隣に並ぶ
…やばい、さっきまで手繋いでるのが当たり前だったから、繋ぎたくて仕方なくなる…っ!!
「今日は本当にありがとう!ユーリ!!」
そんな気持ちを隠そうと慌ててお礼を言う
「気にすんなって、シアの誕生日なんだから」
ニコッと笑いかけてくるユーリの笑顔に、ぎゅっと胸が締め付けられる感覚に襲われる
…1度意識してしまったこの感情を抑え込むのは本当に難しいらしい
「…あっ、楽しすぎてゲームやることすら忘れてたや…」
苦笑いしながら足を進める
わたし自身、ゲームの存在を忘れるのは初めてで驚いてる
フレン達も待ってることだし、早く帰ろうと歩いていると、ユーリが隣に居ないことに気づく
「ユーリ??」
名前を呼びながら振り向くと、少し離れたところで、ユーリが立ち止まってるのが見た
首を傾げていると、何かを決意したようにユーリが口を開いた
「……あのさ、この前……『好きな人いないのか』って聞いてきたろ?」
突然言われて胸がズキッとする
…なんでこのタイミングなの…
「う、うん……聞いた……」
「…あん時はいないって言ったけど、あれ…嘘だ。本当は、いる」
聞こえてきた答えに、思考が停止しそうになる
…きっと、わたしじゃない
そんな気がする
そうでも思っておかないと、心がもちそうになかった
何も言えずにただ黙って俯いてると、足音が聞こえてきた
「…オレが好きのは……
シア、お前だよ」
「………へ………?」
聞こえた言葉に驚いて顔をあげると、すごく真剣な顔をしたユーリが目に入る
予想外の展開に、頭はもうパニック状態だ
「っ!////だからっ!//オレは昔っからずーっと、お前のことが好きなんだっての!////」
真剣な顔から一変、真っ赤になって半分投げやりにそう言ってくる
……夢……じゃないよね……?
「……本当に……??」
間を置いて、少し掠れた声で聞く
「…本当だっての//」
「嘘……じゃない…?」
「当たり前だろ…っ!//」
「……絶対……?」
「っ~!!//あっのなぁっ!!//」
何度も何度も確認されるのが嫌になったのか、ガシッと両肩を掴まれる
「いくらオレがお人好しでもなっ!//髪乾かさないで寝ようとしたり、飯まともに食おうとしない、異性の幼なじみの家に、好きでもねえ限り泊まってまで面倒みたりなんてしねぇってのっ!!///」
その言葉で、完全にわたしの頭は考えることをやめた
だって、肩から伝わってくる温もりは本物だから
「…オレと、付き合ってくれるか…?」
少しだけ不安そうな声で聞いてくる
……そんなの、答えはたった1つだけに決まってる
「…はいっ!!喜んでっ!!わたしも、ユーリが大好き…っ!!」
泣きそうになるのを必死で堪えて笑顔で言う
きっと、そんな努力無駄だろうけど…
それでも精一杯笑う
「~~っ!!!//////っあー……っ///心臓止まりそ…////」
真っ赤になった顔を隠すようにぎゅっとわたしを抱きしめる
ユーリの心臓の鼓動が早い
わたしだって早いけど、それ以上じゃないかってくらい
「ユーリの心臓が止まるのはわたし困るんだけど…」
くすっと笑うと、少しだけユーリの腕に力が入った
「しゃーねぇだろ…////オレだって恥ずかしいんだよっ/////」
「…でも、嬉しいよ?覚えててくれたんだね、あの約束」
「バーカ、忘れるわけねーっての//」
「ふふ…それもそうだね……ほら、早く帰ろう?フレン達来ちゃうよ」
わたしがそう言うとちょっとだけ名残惜しそうに離れる
「だな。…帰ろう、シア」
まだ少し赤い顔で微笑みながら手を差し出してくる
その手をとっても並んで帰路についた
「ふぅ……やっとついたぁ…」
少し肩で息をしながら家の前に立つ
結局、ユーリがもう少しだけ2人で居たい、というからすごく遠まりして帰ってきた
流石にわたしの体力は限界…
「悪ぃ、ちと無理させ過ぎちまったか」
ユーリが心配そうに顔をのぞき込んでくる
「ううん…大丈夫だよ」
ニコッと笑うと安心したように息を吐く
「じゃあ入ろっか」
ガチャッと家の鍵を開けて中に入る
荷物置きに部屋に行こうか迷ったけど、面倒だしそのままリビングでいっか…
まっすぐリビングの方に行き、ドアを開けて部屋の明かりをつけると…
パンッパンッパァンっ!!!
「ふぇっ!?!!」
クラッカーの音と紙吹雪に驚いていると、目の前にはフレンやジュディス、エステルやリタの姿が見えた
突然の出来事に本日2度目の思考停止
「「「「アリシア!誕生日おめでとう!!」」」」
みんなに一斉に言われても、未だに動けずにいた
「お、フレン、サプライズ成功か?」
後ろからユーリの悪戯そうな声が聞こえてきて、ようやく合点がいった
つまり……
「……わたしに内緒で準備してたの…?」
よくよく部屋を見れば、綺麗に装飾されている
みんなで座れるソファーの前のテーブルにはご馳走が沢山乗ってる
「全く、大変だったのよ?ユーリがあんたを連れ出してる間にあたしらで飾り付けしたりね」
「あら、リタが1番張り切ってたじゃないの」
「う、うっさいわね…!!////」
「料理作ったり、ケーキ買いに行ったりもしたね」
「でも、それはそれで楽しかったですね!」
4人ともニコニコしながらそう言ってくる
嬉しくて嬉しくて、涙が出そうだ
今日は何回、泣きそうになればいいんだろう
「ありがとう…っ!!みんな…っ!!」
薄ら目元に溜まった涙を拭いながらみんなに言う
「うふふ、喜んでもらえてよかったわ」
「さぁ、早く食べようか?」
ソファーの方に手招きするみんなについて行く
本当に、今までで1番の、最高の誕生日だ
ーーーーーー
「ふぁ……疲れたぁ……」
ポフッとベッドに倒れ込む
時刻は夜中の10時、もうみんな帰った
…ユーリは泊まってくって言ってたけどね
みんなが用意してくれたご馳走を食べてる時も色々あった
フレンが作ったものは、味が壊滅的な状態だし、リタはリタでなんだかよく分からないものが出来上がってるし…
…もちろん全部、食べたよ…?
だって、折角2人がわたしのためにって作ってくれたんだもん
まぁ、食べきってからわたしはしばらくの間動けないし、ユーリは2人に説教始めるし…
散々と言えば散々だけれど、とっても楽しかった
「……ふふ……」
エステルが誕生日にってくれたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる
もふもふしていて、とっても抱き心地がいい
「なーに1人で笑ってんだよ、シア」
ユーリの声が聞こえて体を起こすと、わしゃわしゃとタオルで髪を拭いてるユーリがみえた
「だって、すっごく楽しかったからさ」
くすくす笑っていると、少しムスッとする
「笑い事じゃすまねぇことだってあったじゃねえかよ」
「それも含めて今日1日がとっても楽しかったの!」
少し語尾を強めて言うとふーん、とだけ言ってドライヤーで髪を乾かし始めた
ユーリにとってはさっきの出来事は笑い事じゃなかったらしい
「……あー、そーいやぁさ」
ドライヤーの音でかき消されないように、少し大きな声で話し出す
「んー?」
「…前に髪乾かしてやってる時にシアが言った言葉、ちゃーんと聞こえてたぜ?」
ニヤッと意地の悪そうな笑みを浮かべて見つめてくる
「ふえっ!?!!//」
…ちょっと待って……!!
それって、まさか…!!
「『親じゃなくて恋人がいい』だっけか?」
依然ニヤニヤしながらわたしの方に体を向ける
恥ずかしくなって、かぁっと顔が熱くなる
「それと寝落ちする寸前で、『ユーリ、好き』って言ったのもな?」
「~~~っ!!!/////」
耐えきれなくなってガバッと布団に潜り込む
絶対聞かれてないって思ってたのに…っ!
恥ずかしすぎて頭の中はもうぐちゃぐちゃだ
「隠れたって意味ねぇっての」
「あっ!?!!」
バサッと布団を剥ぎ取られて、ぬいぐるみも没収された←
せめてもの抵抗と言わんばかりに体を丸めたが、意味は皆無で
わたしの隣に寝転ぶと、顔を隠せないように頬を両手で包んで顔を無理やりあげさせられる
「…顔真っ赤、本っ当に可愛いやつだなぁ」
顔の輪郭に沿って頬を撫でてくる
くすぐったくて、思わず首を窄める
「シア、もう寝ろよ。疲れたろ?」
ユーリにそう言われて段々瞼が重くなってくる
「ん……おやすみ………」
「おう、おやすみ」
そう言ってわたしの意識はフェイドアウトしていった
「……おーおー、気持ちよさそうに寝てんなぁ」
隣に居るシアの頭を撫でながら呟いた
すやすやと少し嬉しそうな顔をして眠っている
堂々とこうして隣で寝そべって居られるのが嬉しくって、オレも目を細める
まだ、あまり付き合ったって実感がない
まぁ、寝顔眺めてるのとかしょっちゅうだしなぁ…
ピロリンッ♪
スマホの通知音が鳴って驚くが、こんな時間に送ってくるやつぁ1人しか居ない
少し体を起こして左腕で体を支えるように肘をつく
近くの棚の上に置いていたスマホを取って、画面を見れば『フレン』の三文字が目に入る
ロックを解除してトークアプリを開けば、案の定言われると思っていた言葉が目に入る
《上手くいったかい?まぁ、心配は要らないと思うけどね》
《おう、お陰様でな》
《ならよかったよ。…君もおめでとう》
《サンキュ、フレン》
フレンはフレンで心配してくれていたのだろう
改めてこうして言われると、ものすごくむず痒いが…
~~~~♪
そんなこと考えていると、誰かから唐突に電話がかかってきた
慌てて出ると聞こえてきた声は以外な人物だった
『ユーリっ!おめでとうございます!!』
「は…?エステルっ!?」
思わず大声を出してしまって、慌てて口を塞ぐ
が、シアの方はそんなこと気にせずにすやすやと眠って居てほっと胸を撫で下ろす
『すまない、ユーリ……止めたんだけど……』
フレンの苦い声が聞こえてくる
…よく見りゃフレンのスマホからかかってきてんだけど…
「…お前ら、一緒に居んのか?」
『はいっ!たまにフレンの家に泊まりに行くんですよ』
とっても嬉しそうな声でエステルは言う
「ふーん、たまにねぇ?」
嫌味の混じった声で話しかけるが、相手はもちろんエステルじゃない
『なっ…!?そ、そう言う君だって、どうせまたアリシアの家に泊まって居るんだろ…っ!?』
少し上擦った声でフレンが反論する
絶対今、顔赤いぞこいつ…
「おう、当たり前だろ?」
しれっと言うと呆れたようなため息が聞こえてくる
…今現在進行形でエステル泊めてるやつにため息つかれたかねーんだけど…
「なー、それよかさフレン?」
『…なんだい?急に真剣そうな声になって…』
「……シアの隣に寝そべってたら抱きついてきたんだけど、オレどーすりゃいいと思う?可愛すぎて死にそうだわ」
ぎゅっと抱きついてきたシアを見下ろしながら言う
いつもは腕にだが、今日は背中に手を回してきている
ほんっと可愛すぎてやばい←
『……1度死ねばいいんじゃないかい?いい加減僕に惚気けてくるの、やめてくれ…』
はぁ……とまたため息が聞こえる
「お前がオレに惚気んのやめたらやめるっつーの」
仕返しと言わんばかりに言うと、なっ!?っと言葉に詰まったフレンの代わりに、エステルが話しかけてきた
『ユーリ!フレン、どんなこと言ってました??』
嬉しそうなわくわくした声が聞こえる
自分のことを話されていたのが相当嬉しかったのだろう
「そうだな……例えば」
『ユーリっ!言わなくていいっ!!エステリーゼも聞かないでくれっ!!』
言おうとした所でフレンに声をかき消されてしまい、舌打ちする
あともう少しだったんだがな…
『そっ、それよりもユーリ!明日近くの神社でお祭りがあるだろうっ!?よかったら行かないかいっ!?』
慌てて話題を反らせようと必死なフレンがいたたまれなくって、仕方ないからのってやることにした←
「祭りか…いいな、それ。行こうぜ」
『それじゃ明日、3時くらいにアリシアと来てくれ。母さんがアリシアに浴衣着せる気満々なんだよ…』
少し呆れたような声でフレンが言う
…そーいやフレンの母親、アリシア大好きだったよなぁ…
「了解、んじゃまた明日な。おやすみ」
『ああ、また明日。おやすみ』
プツッと電話を切って、また棚の上に戻す
祭りなんて行くの久々だな…
去年の夏は受験勉強に追われてたから、何処も出かけてねぇし
…シアがぶーぶー文句言ってたよなぁ…
「今年は思いっきり、遊ぼうな?」
抱きついているシアの髪を溶かしながら声を掛ける
まだ若干毛先が湿っているが、この程度なら良しとしよう
シアを包み込むように腕を回して寝る体勢に入る
オレに抱きついているからか、若干体温が高い
「………やべぇ…………オレ、寝れっかな………」
苦笑いしながら目をつぶる
結局、眠りについたのは日付が変わってからだった
~そして、次の日~
「うー……どーしよ……」
クローゼットの前で睨めっこし始めてもう数10分経っている
時間はまだ朝の6時だが、朝早くに目が覚めてしまったのだ
結局昨日は自分が言った言葉が頭から離れなくて、大好きなゲームにすら集中出来ずどのゲームも惨敗だった
おまけに夕飯作ってる最中に指切っちゃったし…
…流石に意識しすぎかもしれない……
「……やっぱこれにしよっかな」
手に取ったのは以前お母さんが買ってくれたセットコーデ
上はタンクトップに半袖パーカー、下はショートパンツだ
初めて着た時、ユーリがものすごく可愛いを連呼してきたからわたしの中でお気に入りになっていた
さっと寝間着を脱いで、その服を着る
「……うーん……やっぱこれだと隠しきれないか…」
苦笑いしながらユーリに貰ったペンダントをいじる
飾りの部分は隠せても、肝心のチェーンの部分が隠しきれない
「…まぁ、今日は隠さなくてもいいや」
わたしの誕生日だし、以前に誕プレでユーリがくれたものだ
付けていてもおかしくはないだろう
姿見鏡の前でくるっと回っておかしい所がないか確認する
その後で出掛ける時にいつも使っているリュックに、必要なものをしまっていく
財布、タオル、ポーチ、ティッシュ…一番忘れちゃいけないのは持ち運び式の充電器と携帯のコードだ
充電器の充電がMAXなことを確認して、リュックに入れて口を閉める
その後、腕やら顔やら肌が露出しているところに日焼け止めを塗る
肌も弱いから日焼けなんてしたらいろんな意味で死ぬ
日焼け止めも塗り終わったし、 後はユーリを待つだけ……
「って、まだ7時じゃん……」
時計を見て少し驚いた
もうかなり時間が経っていた気がしていたが、どうやらそんなこともなかったらしい
さてどうしようか…
ピロリンッ♪
うーんと唸っていると、携帯の通知音が鳴る
画面を見るとユーリからだった
《今から行くぜ》
「早っ!?え、ちょっ!?早くないっ!?」
驚いて2度見するが、何度見ても『行く』の2文字が見える
いやいやいやいや……早すぎるよ……
確かに朝って言ってたけどさぁ…!!
《え、早っ!!》
とりあえずそう送る
すると、すぐに返信が来た
《シアのことだから、どうせまた朝飯食ってねぇだろ?》
「……あ、やばっ……」
ユーリに言われて思い出す
そう言われてみればまだ食べていない…
いや、厳密に言えば昨日からなのだが…
《ごめんなさい、完全に忘れてました…》
《だと思った。もうすぐ着くから、なんか作ってやるよ》
《了解》
「はぁぁぁ……どーしよ……心の準備が出来てないよぉ……」
携帯の電源を落して頭を抱える
昨日あんなこと口走ったせいで、未だにどんな顔して会えばいいかわからない
『いつも通りに』…と言っても、2週間も会ってないせいで、その『いつも通り』すらわからない
「……とりあえず、下おりよ……」
戸締りとエアコンの電源を切ったのを確認して、荷物を入れたリュックを持って部屋を出た
階段を降りきったところで、ガチャッと玄関のドアが開いた
一瞬びっくりしたが、この時間に来るのは彼だけだ
「おはよ、シア」
いつもと同じく、黒を基調とした服を着たユーリがニコッと微笑む
2週間ぶりに会ったが、見た感じ元気そうだ
「…おはよう、ユーリ」
少し間を開けてそう言う
一応微笑んでいるつもりなのだが、上手く笑えている自身は皆無だ
接し方がわからない、とかいう問題じゃなく、単純にバレたらやばいことが色々あるからだ
…だって、まともにご飯食べていない日何日かあるし…
ゲームやり過ぎて寝てない日だってあるし…
あれだけ怒られて髪乾かさないでダウンした日だって何度かあった
バレるんじゃないかと気が気でない
「流石に2週間も来てねぇと久しぶりって感じすんな
…ほーら、そんなとこで突っ立ってねぇでリビング行こうぜ?」
「へ?あ、うん!」
ユーリの後を追うようにリビングに足を向けた
…よかった、まだバレてなさそう
ほっと胸を撫で下ろす
まぁ、まだまだ安心は出来ないのだが…
リュックをいつも私が座っている隣の椅子の上に置いて腰掛ける
「うー…にしてもここあつぅ……」
ぐだぁっとテーブルに突っ伏す
家の中だと言うのにかなり暑い
まぁ、1日の半分以上を自分の部屋で過ごしていたから、仕方ないと言えば仕方ないが…
「おいおい…このくらいで暑がってたら、外出れねぇんじゃねえか?」
キッチンの方から呆れたような苦い声が聞こえてくる
「だって夏休み入ってから家の外出てないもん…殆どずーっとエアコンかけるし……」
「…まさか、かけっぱなしで寝たりなんてしてねぇよな…?」
咎めるような声でそう問いかけてくる
「流石に寝る前にタイマーちゃんとかけてるって」
苦笑いしながらキッチンの方を向く
こうやってユーリと話すの…すっごく久しぶりな気がする
嬉しくなって、思わずにやけてしまう
やっぱりユーリと一緒に居るこの時間が1番落ち着く
「なーにニヤニヤしてんの?」
ユーリの声が聞こえた方に顔を向けると、トレイを持ったユーリが傍に立っていた
「んー?ユーリとこうやって話すの、久々だなーって」
体を起こしながら悪戯っぽくそう言う
「へいへい…2週間も連絡しなくてすみませんでしたねっと」
全く悪いと思っていないような口調で言いながら、トレイに乗せていたお皿をテーブルの上に置いた
お皿に乗ってるのはフレンチトーストだ
「相変わらず料理得意だよねぇ……っというか、パンなんてあったっけ??」
首を傾げながらユーリに聞く
夏休みに入ってから確かに自分で料理はしていたが、初日におかず系は作り置きしてたし……
そもそも、パンとか買った記憶がない←
「自分の家に何があるかくらい把握しておけよ…」
呆れ気味にそう言いながら私の目の前の席に腰掛ける
「あはは……とっ、とりあえず、いただきますっ!」
話を逸らせようと、慌てて手を合わせて食べ始める
一口食べると、ほんのりとした甘さが口の中に広がる
…ユーリには料理で一生勝てる気がしない…
「やっぱユーリのご飯が1番いいや、めっちゃ美味しい」
「ははっ、そりゃどーも」
ニコニコしながら食べていると、ユーリも嬉しそうに目を細めた
…フレンが居たら、絶対後でおちょくられてる光景だなぁ…
「ごちそうさま!」
「お粗末様でしたっと」
ペロッと完食してお皿を片付けに行く
流石にそれくらいはしないと…ね?
ささっと洗い終えてリビングに戻る
「よし…んじゃ、そろそろ行くとしますかね?」
立ち上がって軽く伸びをしながら聞いてくる
「うん!」
ニコッと笑って、椅子の上に置いていたリュックを手に取る
「忘れもんしてねえか?」
「わたし、そこまで子供じゃないんだけど…」
悪戯っぽく笑ってくるユーリに、ムスッとして言う
はいはいっと言いながらポンッと頭に手を乗せてくる
…いや、わかってないでしょ…
…というか、わたしも忘れてたけど、すっごく大切なこと言われてない…
不満げにユーリを見つめてると、一瞬首を傾げたがすぐに思い出したようだ
「あっ!やべっ!!…シア、誕生日おめでと」
ニコッと優しく微笑む
…その笑顔、反則です…
「ん、ありがとう。でもちょっと言うの遅いって」
軽く肩をすくめると、悪ぃ…と本気で謝ってくる
…まぁ、わたしも忘れてたしなぁ…
「…ふふ、ほーら、早く行こ行こっ!!」
クスッと笑いながらユーリの手を引いて歩き出す
「おわっ!?おいシアっ!?いきなりは危ねぇだろっ!?」
急に手を引っ張られて体制を崩したユーリは、半ばわたしに引きずられるように歩き出す
「ふふっ、ユーリがぼーっとしてるのが悪いのー!」
くすくす笑っていると、呆れたようなため息が聞こえてくる
そんなこと気にせずに、靴を履いて外に出る
2週間ぶりの外の眩しさに、思わず目を細める
思っていたよりも日差しが強い
日焼け止め、一応入れておいて正解だったかな
「シア、帽子被らなくて平気か?」
靴を履きながらユーリが聞いてくる
「ん、へーきへーき!!」
ニコッと笑うと、やれやれと苦笑いしながら外に出てくる
しっかり鍵を掛けて、ユーリと並んで歩き出した
「うわぁ……本当にあっつぅ……」
じんわりと額に汗が滲み出す
歩いてるだけで体力を削ぎ取られそうだ
「おーい、さっきまでの元気はどこいったー?」
「……ユーリ、すっごいすまし顔だけどさ、その格好暑くないの…?」
じとーっと隣に居るユーリを見つめる
黒とかものすごく暑そうなんだけど…
今日は学校行く時と同じようにポニーテールにしてるけどさ…
「いや別に…オレ的にゃシアのその髪の方が暑そうだぜ?」
すっとわたしの髪に触れてくる
…うん、確かに暑い
髪結いてくればよかったかもしれない…
「あはは…ちょーっと失敗したかなぁ…」
「ったく、ゴム持ってっから電車ん中で結いてやるよ」
「さっすがユーリ、女子力高ーい
櫛は持ってるからお願いしまーす」
くすくす笑っていると、こつんと頭を小突かれた
うっせぇよ、と言ってるのが聞こえる
チラッとユーリを見上げると、顔を背けて左手で口元を隠してるのが見えた
ユーリ、いつも恥ずかしがるとすぐにそうするから顔背けててもバレバレなのに…
~電車に揺られて数十分~
わたし達の住んでいるところよりも、少し大きな街まで来た
夏休みのせいもあってか、沢山の人で混みあってる
「わぁ…相変わらず人多いなぁ…」
キョロキョロと辺りを見回すと何処も彼処も人で溢れてる
首を動かすと、それに合わせるように少し高めの位置で結ばれた髪が揺れる
ユーリが結いてくれたおかげで、少し暑さが和らいだ気がする
「こりゃはぐれてもおかしくねぇな」
苦い顔をしながらユーリも見回す
確かにこれははぐれそう……
ユーリを見つけるのは簡単そうだけど、わたしを見つけるのはかなり難しいだろう
「…どうしよっか?」
うーん、と唸りながら首を傾げる
どうしようも何も、はぐれない為の方法なんて限られているが…
「…ほら、行こうぜ?」
すっとナチュラルに手を差し出しながらユーリはニカッと笑う
…これ、取れって意味でいいんだよね…?
「う、うん…!」
頷いて、差し出された手を取って人混みの中を進み出した
心臓の音がやけにうるさい
ユーリと最後に手を繋いだのはいつだろうか…
いや、それ以前に、なんで手を繋いだだけなのにこうも恥ずかしいんだろうか…
しょっちゅうユーリに抱き着かれたりしてたのに…
そう考えると少しだけ顔が熱くなる
……意識しちゃ、駄目だ……
本当に恥ずかしくなる
芽生えかけた感情を必死で抑え込む
付き合ってなくてもいい
隣で並んで居られるこの時間が好きだ
想いを伝えて、ユーリが離れるよりも、このままで居たい
……ただの、わたしのわがままだけれどさ……
ーーーーーー
「うわぁ………綺麗………」
水族館について数分、熱帯魚の水槽の前でじっと泳いでる魚を見つめる
前に来た時もこの水槽の前で止まっていた
1匹1匹がとっても色鮮やかで綺麗な色をしていて、目を奪われてしまう
「本当、熱帯魚好きだよなシア」
隣に居るユーリがくすっと笑う
「ん、だってこんなに綺麗なんだよ?」
カシャッともう何枚撮ったかわからない写真を撮ってユーリを見る
既に10枚は超えてるだろう
「ま、確かに綺麗だよな」
ニッと笑うとユーリも水槽の方に目を向ける
「……家で、飼えないかな……」
水槽の方に目を向けながらポツリと呟く
お父さん達に相談すればなんとかなるかもしれないが……
「熱帯魚って、確か家でも飼育できる種類のが居たと思ったぜ?」
「えっ!?本当に!!」
くるっとユーリに視線を戻すと、しーっと唇に人差し指を当ててくる
「ここ、水族館だから静かにな?
本当だよ、まぁ、オレよりもシアの両親の方が詳しいだろうし、聞いて見りゃいいんじゃねぇの?」
…突然のカミングアウトに思わず大声出しちゃった……
こくんと頷くと満足そうに笑って、人差し指を退ける
…やば…ちょっとドキドキした…
「そっか……うーん……やっぱり帰ったら電話してみるべきかなぁ…」
ドキドキしたのを隠すように手を顎に当てて考える
いや、電話するのは構わないんだ…
ただ今日誕生日だしなぁ……
「ほら、ここばっかじゃなくて、ほかんとこも見てみようぜ?まだまだ時間はたっくさんあんだしさ」
ニヤッといつもの不敵な笑みを浮かべて手を差し出してくる
「…うん!それもそうだね!」
考えるのをやめてその手を取った
やっぱりまだ手を繋ぐとドキドキする
でも、ちょっと嬉しいんだ
ユーリを好いてる他の子達とは違って、こうやって接して貰えることが
…こんなこと、彼女達には絶対に言えないけどね…
熱帯魚のゾーンを抜けた後は色んな魚を見た
普段わたし達が食べてるような魚だったり、滅多に見ない深海魚…
深海魚はちょっと怖かったなぁ……
主に顔が←
怖かった、と言えばサメも見た
…なんでこの水族館、サメだけを集めた水槽かあるのさ…
ユーリはすっごい目キラキラさせてたけど、流石にわたしはサメは苦手だなぁ…
あ、それからクリオネやウミガメも見た
クリオネ飼いたいってユーリに言ったら、ものすごく驚かれた
クリオネ……可愛いと思うんだけどなぁ……
他にも色々見たけど、ヒトデ触れるコーナー出来てたのには驚いた←
わたしは恐る恐る手を入れてたけど、ユーリは平然と触ってたなぁ……
水族館なんて両親と何度も来てたけど、こうやってユーリと2人で来るのは初めてで
何もかもがすっごく新鮮で、2人揃って沢山笑った
移動する時はずっと手を繋いで歩いた
相変わらずドキドキするけどね…
「お、そろそろイルカショー始まるな」
携帯の画面を見ながらユーリが言う
「会場ここから離れてたっけ?」
水族館のパンフレットをパラッと開きながら聞く
「いや、隣がそうだったろ?…ほら、ここ」
わたしが開いたパンフレットをのぞき込んで会場の場所をトントンっとつつく
「それじゃ行こっか」
パンフレットを畳みながらニコッと笑って歩き出した
「凄いっ!!また飛んだっ!!」
バシャァンッと、大きな音と水飛沫を上げてイルカは水に着水する
飛び跳ねる度に大きな歓声が上がる
「すっげぇな…あんだけ高く飛べるなんてな」
ほぉ、っと感心したような声が隣から聞こえる
でも、わたしの意識は完全にイルカ達に向けられていた
高く飛ぶだけじゃなく、すごいスピードで泳いだり、尾ひれだけで泳いだり…
流れている曲に合わせて鳴いたり、飼育員さんを乗せて泳いだり
ずっと見ていられるような光景が目の前に広がっている
『以上でイルカショーを終了とさせていただきます。次の公演は………』
「あーぁ…終わっちゃったね」
少ししゅんとして呟く
もう少し見ていたかったなぁ…
「そんなに落ち込むなっての、昼飯食ってからもう1度見に来ようぜ?」
ユーリがポンッとわたしの頭を撫でる
「え?いいの?」
驚いて顔をあげると、嬉しそうに笑ってるユーリが目に入った
「いいよ、今日はシアの誕生日なんだしさ。それに、お前が喜んでくれてオレも嬉しいし、な?」
嬉しそうにしているユーリの顔はどこか少し赤くなってるような気がする
…気のせいだ、うん、気のせいだよね…?
「…ありがとう!ユーリ!」
ニコッとめいいっぱい微笑む
せめてもの、お礼のつもりで
「っ!!//…ほら、行こうぜ」
「?うん、行こっか…?」
一瞬だけ、ユーリの頬が赤くなった気がしたが、すぐにわたしに背を向けるように歩き出しちゃったから確認出来なかった
気のせい……なの…??
昼ご飯を食べてから少しして、もう1度イルカショーの会場に来た
ユーリがレインコートを買ってくれて、今度は1番前でショーを見た
さっきもすごい迫力だったけど、やっぱり前の方がすごい
イルカが近くで飛び跳ねる度に水飛沫が降ってくるが、あまり気にならなかった
「っわあ……すっごい水飛沫飛んでくるんだね」
「だな…でも、近くで見る方がいいだろ?」
ちょっぴりわくわくした声でユーリが聞いてくる
「うん…っ!!」
一瞬ユーリの方を向いて力強く頷いて、また水槽のイルカの方に目を向ける
何度見てもすごく綺麗で幻想的で…
いつまでも見ていたくなる
ショーが終わると、飼育員さん達が慌ただしく動き始めた
なんだろうと首を傾げていると、アナウンスが聞こえた
『ただ今より、イルカとの触れ合いタイムとなります。先着40名なのでお早めに水槽付近のスタッフに……』
「シア、行くぜ?」
「えっ?あっ!?ユ、ユーリ!?」
いきなり手を引かれて近くの飼育員さんの所に向かう
この状況が、わたしにはまだ理解出来てないです←
…つまり、イルカ、触れるのっ!?
「お、お兄さん達来るの早いねぇ。足元滑るから気をつけて下さいね」
「ん、わかった。シア、大丈夫か?」
「う、うん!」
ユーリの手をぎゅっと握る
階段を1歩1歩上がる度に鼓動が早くなる
こうやってイルカを触れるのは初めてだ
階段をのぼりきると、また別の飼育員さんに連れられて、イルカの近くまで来る
「ゆっくり背中を撫でてあげてくださいね」
こくんと頷いてその場にしゃがんで、恐る恐る手を伸ばす
思っていたよりも冷たくてつるつるした皮膚
優しく撫でると、イルカも嬉しそうに目を細めているのが見える
わたしも嬉しくって口元が緩む
「シア、そろそろ他の人と変わってやんねぇと」
ユーリに肩を叩かれて他にも待ってる人がいるのを思い出す
「ん…そうだね」
すっと手を引っ込めて立ち上がり、飼育員さんにお辞儀してから、ユーリと一緒にその場を後にした
「よかったな、イルカ触れて」
嬉しくってニコニコしていると、ユーリもまた嬉しそうに言ってくる
「うん…!!すっごく嬉しいっ!!」
ユーリの方を向いて笑うと、一緒になって笑う
ユーリのおかげで、普段出来ないような体験を沢山出来た
それだけでも、充分嬉しかった
「さてと、そろそろお土産でも見に行くとしますかねぇ…なんか買ってかねぇと、フレンに文句言われそうだわ」
めんどくせぇ、とでも言いたげに苦笑いする
…確かに文句言われそうだなぁ…
「ん、そうだね!もう一通り見終わったしね!」
「よし、じゃあ行くか」
最早慣れたようにユーリと手を繋ぐ
傍から見たら絶対に付き合っているようにしか見えないと思う←
…ほんと、ユーリにこの気持ちを伝える勇気が欲しい……
そんなことを考えながら、お土産屋さんへと向かって行った
お土産も買い終わったところで、時間はまだ1時
帰るのには早すぎる
どうするか話し合った結果、もう少しこの当たりを見て回ろうという結論に至った
街の中心部、という事もあって色んなお店が沢山並んでいた
特に多かったのが食べ歩きができるようなお店
しかも甘い物が多いときた
甘い物大好きなユーリとわたしだから、当然のように色々買って食べた
クレープやらタピオカジュースやらアイス……
冷たいたい焼きを見つけた時は驚いた
そんなこんなで殆ど食べてばっかだったけど、4時を過ぎたところで帰路についた
「うーんっ!!今日は楽しかったなぁ…っ!!」
地元の駅について電車を降り、うーんっと背伸びをする
こんなに充実した誕生日は初めてだった
「ははっ、シアが楽しかったんならよかったよ」
嬉しそうに笑いながらユーリが隣に並ぶ
…やばい、さっきまで手繋いでるのが当たり前だったから、繋ぎたくて仕方なくなる…っ!!
「今日は本当にありがとう!ユーリ!!」
そんな気持ちを隠そうと慌ててお礼を言う
「気にすんなって、シアの誕生日なんだから」
ニコッと笑いかけてくるユーリの笑顔に、ぎゅっと胸が締め付けられる感覚に襲われる
…1度意識してしまったこの感情を抑え込むのは本当に難しいらしい
「…あっ、楽しすぎてゲームやることすら忘れてたや…」
苦笑いしながら足を進める
わたし自身、ゲームの存在を忘れるのは初めてで驚いてる
フレン達も待ってることだし、早く帰ろうと歩いていると、ユーリが隣に居ないことに気づく
「ユーリ??」
名前を呼びながら振り向くと、少し離れたところで、ユーリが立ち止まってるのが見た
首を傾げていると、何かを決意したようにユーリが口を開いた
「……あのさ、この前……『好きな人いないのか』って聞いてきたろ?」
突然言われて胸がズキッとする
…なんでこのタイミングなの…
「う、うん……聞いた……」
「…あん時はいないって言ったけど、あれ…嘘だ。本当は、いる」
聞こえてきた答えに、思考が停止しそうになる
…きっと、わたしじゃない
そんな気がする
そうでも思っておかないと、心がもちそうになかった
何も言えずにただ黙って俯いてると、足音が聞こえてきた
「…オレが好きのは……
シア、お前だよ」
「………へ………?」
聞こえた言葉に驚いて顔をあげると、すごく真剣な顔をしたユーリが目に入る
予想外の展開に、頭はもうパニック状態だ
「っ!////だからっ!//オレは昔っからずーっと、お前のことが好きなんだっての!////」
真剣な顔から一変、真っ赤になって半分投げやりにそう言ってくる
……夢……じゃないよね……?
「……本当に……??」
間を置いて、少し掠れた声で聞く
「…本当だっての//」
「嘘……じゃない…?」
「当たり前だろ…っ!//」
「……絶対……?」
「っ~!!//あっのなぁっ!!//」
何度も何度も確認されるのが嫌になったのか、ガシッと両肩を掴まれる
「いくらオレがお人好しでもなっ!//髪乾かさないで寝ようとしたり、飯まともに食おうとしない、異性の幼なじみの家に、好きでもねえ限り泊まってまで面倒みたりなんてしねぇってのっ!!///」
その言葉で、完全にわたしの頭は考えることをやめた
だって、肩から伝わってくる温もりは本物だから
「…オレと、付き合ってくれるか…?」
少しだけ不安そうな声で聞いてくる
……そんなの、答えはたった1つだけに決まってる
「…はいっ!!喜んでっ!!わたしも、ユーリが大好き…っ!!」
泣きそうになるのを必死で堪えて笑顔で言う
きっと、そんな努力無駄だろうけど…
それでも精一杯笑う
「~~っ!!!//////っあー……っ///心臓止まりそ…////」
真っ赤になった顔を隠すようにぎゅっとわたしを抱きしめる
ユーリの心臓の鼓動が早い
わたしだって早いけど、それ以上じゃないかってくらい
「ユーリの心臓が止まるのはわたし困るんだけど…」
くすっと笑うと、少しだけユーリの腕に力が入った
「しゃーねぇだろ…////オレだって恥ずかしいんだよっ/////」
「…でも、嬉しいよ?覚えててくれたんだね、あの約束」
「バーカ、忘れるわけねーっての//」
「ふふ…それもそうだね……ほら、早く帰ろう?フレン達来ちゃうよ」
わたしがそう言うとちょっとだけ名残惜しそうに離れる
「だな。…帰ろう、シア」
まだ少し赤い顔で微笑みながら手を差し出してくる
その手をとっても並んで帰路についた
「ふぅ……やっとついたぁ…」
少し肩で息をしながら家の前に立つ
結局、ユーリがもう少しだけ2人で居たい、というからすごく遠まりして帰ってきた
流石にわたしの体力は限界…
「悪ぃ、ちと無理させ過ぎちまったか」
ユーリが心配そうに顔をのぞき込んでくる
「ううん…大丈夫だよ」
ニコッと笑うと安心したように息を吐く
「じゃあ入ろっか」
ガチャッと家の鍵を開けて中に入る
荷物置きに部屋に行こうか迷ったけど、面倒だしそのままリビングでいっか…
まっすぐリビングの方に行き、ドアを開けて部屋の明かりをつけると…
パンッパンッパァンっ!!!
「ふぇっ!?!!」
クラッカーの音と紙吹雪に驚いていると、目の前にはフレンやジュディス、エステルやリタの姿が見えた
突然の出来事に本日2度目の思考停止
「「「「アリシア!誕生日おめでとう!!」」」」
みんなに一斉に言われても、未だに動けずにいた
「お、フレン、サプライズ成功か?」
後ろからユーリの悪戯そうな声が聞こえてきて、ようやく合点がいった
つまり……
「……わたしに内緒で準備してたの…?」
よくよく部屋を見れば、綺麗に装飾されている
みんなで座れるソファーの前のテーブルにはご馳走が沢山乗ってる
「全く、大変だったのよ?ユーリがあんたを連れ出してる間にあたしらで飾り付けしたりね」
「あら、リタが1番張り切ってたじゃないの」
「う、うっさいわね…!!////」
「料理作ったり、ケーキ買いに行ったりもしたね」
「でも、それはそれで楽しかったですね!」
4人ともニコニコしながらそう言ってくる
嬉しくて嬉しくて、涙が出そうだ
今日は何回、泣きそうになればいいんだろう
「ありがとう…っ!!みんな…っ!!」
薄ら目元に溜まった涙を拭いながらみんなに言う
「うふふ、喜んでもらえてよかったわ」
「さぁ、早く食べようか?」
ソファーの方に手招きするみんなについて行く
本当に、今までで1番の、最高の誕生日だ
ーーーーーー
「ふぁ……疲れたぁ……」
ポフッとベッドに倒れ込む
時刻は夜中の10時、もうみんな帰った
…ユーリは泊まってくって言ってたけどね
みんなが用意してくれたご馳走を食べてる時も色々あった
フレンが作ったものは、味が壊滅的な状態だし、リタはリタでなんだかよく分からないものが出来上がってるし…
…もちろん全部、食べたよ…?
だって、折角2人がわたしのためにって作ってくれたんだもん
まぁ、食べきってからわたしはしばらくの間動けないし、ユーリは2人に説教始めるし…
散々と言えば散々だけれど、とっても楽しかった
「……ふふ……」
エステルが誕生日にってくれたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる
もふもふしていて、とっても抱き心地がいい
「なーに1人で笑ってんだよ、シア」
ユーリの声が聞こえて体を起こすと、わしゃわしゃとタオルで髪を拭いてるユーリがみえた
「だって、すっごく楽しかったからさ」
くすくす笑っていると、少しムスッとする
「笑い事じゃすまねぇことだってあったじゃねえかよ」
「それも含めて今日1日がとっても楽しかったの!」
少し語尾を強めて言うとふーん、とだけ言ってドライヤーで髪を乾かし始めた
ユーリにとってはさっきの出来事は笑い事じゃなかったらしい
「……あー、そーいやぁさ」
ドライヤーの音でかき消されないように、少し大きな声で話し出す
「んー?」
「…前に髪乾かしてやってる時にシアが言った言葉、ちゃーんと聞こえてたぜ?」
ニヤッと意地の悪そうな笑みを浮かべて見つめてくる
「ふえっ!?!!//」
…ちょっと待って……!!
それって、まさか…!!
「『親じゃなくて恋人がいい』だっけか?」
依然ニヤニヤしながらわたしの方に体を向ける
恥ずかしくなって、かぁっと顔が熱くなる
「それと寝落ちする寸前で、『ユーリ、好き』って言ったのもな?」
「~~~っ!!!/////」
耐えきれなくなってガバッと布団に潜り込む
絶対聞かれてないって思ってたのに…っ!
恥ずかしすぎて頭の中はもうぐちゃぐちゃだ
「隠れたって意味ねぇっての」
「あっ!?!!」
バサッと布団を剥ぎ取られて、ぬいぐるみも没収された←
せめてもの抵抗と言わんばかりに体を丸めたが、意味は皆無で
わたしの隣に寝転ぶと、顔を隠せないように頬を両手で包んで顔を無理やりあげさせられる
「…顔真っ赤、本っ当に可愛いやつだなぁ」
顔の輪郭に沿って頬を撫でてくる
くすぐったくて、思わず首を窄める
「シア、もう寝ろよ。疲れたろ?」
ユーリにそう言われて段々瞼が重くなってくる
「ん……おやすみ………」
「おう、おやすみ」
そう言ってわたしの意識はフェイドアウトしていった
「……おーおー、気持ちよさそうに寝てんなぁ」
隣に居るシアの頭を撫でながら呟いた
すやすやと少し嬉しそうな顔をして眠っている
堂々とこうして隣で寝そべって居られるのが嬉しくって、オレも目を細める
まだ、あまり付き合ったって実感がない
まぁ、寝顔眺めてるのとかしょっちゅうだしなぁ…
ピロリンッ♪
スマホの通知音が鳴って驚くが、こんな時間に送ってくるやつぁ1人しか居ない
少し体を起こして左腕で体を支えるように肘をつく
近くの棚の上に置いていたスマホを取って、画面を見れば『フレン』の三文字が目に入る
ロックを解除してトークアプリを開けば、案の定言われると思っていた言葉が目に入る
《上手くいったかい?まぁ、心配は要らないと思うけどね》
《おう、お陰様でな》
《ならよかったよ。…君もおめでとう》
《サンキュ、フレン》
フレンはフレンで心配してくれていたのだろう
改めてこうして言われると、ものすごくむず痒いが…
~~~~♪
そんなこと考えていると、誰かから唐突に電話がかかってきた
慌てて出ると聞こえてきた声は以外な人物だった
『ユーリっ!おめでとうございます!!』
「は…?エステルっ!?」
思わず大声を出してしまって、慌てて口を塞ぐ
が、シアの方はそんなこと気にせずにすやすやと眠って居てほっと胸を撫で下ろす
『すまない、ユーリ……止めたんだけど……』
フレンの苦い声が聞こえてくる
…よく見りゃフレンのスマホからかかってきてんだけど…
「…お前ら、一緒に居んのか?」
『はいっ!たまにフレンの家に泊まりに行くんですよ』
とっても嬉しそうな声でエステルは言う
「ふーん、たまにねぇ?」
嫌味の混じった声で話しかけるが、相手はもちろんエステルじゃない
『なっ…!?そ、そう言う君だって、どうせまたアリシアの家に泊まって居るんだろ…っ!?』
少し上擦った声でフレンが反論する
絶対今、顔赤いぞこいつ…
「おう、当たり前だろ?」
しれっと言うと呆れたようなため息が聞こえてくる
…今現在進行形でエステル泊めてるやつにため息つかれたかねーんだけど…
「なー、それよかさフレン?」
『…なんだい?急に真剣そうな声になって…』
「……シアの隣に寝そべってたら抱きついてきたんだけど、オレどーすりゃいいと思う?可愛すぎて死にそうだわ」
ぎゅっと抱きついてきたシアを見下ろしながら言う
いつもは腕にだが、今日は背中に手を回してきている
ほんっと可愛すぎてやばい←
『……1度死ねばいいんじゃないかい?いい加減僕に惚気けてくるの、やめてくれ…』
はぁ……とまたため息が聞こえる
「お前がオレに惚気んのやめたらやめるっつーの」
仕返しと言わんばかりに言うと、なっ!?っと言葉に詰まったフレンの代わりに、エステルが話しかけてきた
『ユーリ!フレン、どんなこと言ってました??』
嬉しそうなわくわくした声が聞こえる
自分のことを話されていたのが相当嬉しかったのだろう
「そうだな……例えば」
『ユーリっ!言わなくていいっ!!エステリーゼも聞かないでくれっ!!』
言おうとした所でフレンに声をかき消されてしまい、舌打ちする
あともう少しだったんだがな…
『そっ、それよりもユーリ!明日近くの神社でお祭りがあるだろうっ!?よかったら行かないかいっ!?』
慌てて話題を反らせようと必死なフレンがいたたまれなくって、仕方ないからのってやることにした←
「祭りか…いいな、それ。行こうぜ」
『それじゃ明日、3時くらいにアリシアと来てくれ。母さんがアリシアに浴衣着せる気満々なんだよ…』
少し呆れたような声でフレンが言う
…そーいやフレンの母親、アリシア大好きだったよなぁ…
「了解、んじゃまた明日な。おやすみ」
『ああ、また明日。おやすみ』
プツッと電話を切って、また棚の上に戻す
祭りなんて行くの久々だな…
去年の夏は受験勉強に追われてたから、何処も出かけてねぇし
…シアがぶーぶー文句言ってたよなぁ…
「今年は思いっきり、遊ぼうな?」
抱きついているシアの髪を溶かしながら声を掛ける
まだ若干毛先が湿っているが、この程度なら良しとしよう
シアを包み込むように腕を回して寝る体勢に入る
オレに抱きついているからか、若干体温が高い
「………やべぇ…………オレ、寝れっかな………」
苦笑いしながら目をつぶる
結局、眠りについたのは日付が変わってからだった