第三章 満月の子と新月
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*二人の隠し事
静かに、ハッキリとフレンは答えた
……そうだろうと、薄々思っちゃいたが……
まさか、本当だったなんて、な……
……けど、じゃあデュークのヤツ、あの時なんで……
……いや、それは後でアリシアに聞きゃわかるか……
「……いいのかよ、オレに言っちまって」
ゆっくりと問いかける
正直、聞いていい話だとは思えない
「…僕もアリアも……君以外に、頼れる人間を知らない。……もう、君にしか、頼めないんだ…」
ほんの少し、掠れた声でフレンは答えた
「…お前らが下町に来たのは、騎士から逃げるため、なんだな」
天然殿下の話を思い出して、小さく呟きながら、フレンを見つめる
「……騎士の中に、アリアを狙っている人間がいるのは、父さんが命懸けで調べて教えてくれたから……理由も一緒に、ね……」
小さく頷きながらそう言うフレンの声には、悲しみが混じっていた
……下町に来た時に親父さんがいなかったのはそうゆうことか
「…話しておきたいことは山のようにあるけど、今はあまり時間もない。……だから、今必要そうな事だけ話す」
そう言って、フレンは顔を上げて『アリシア』を見つめた
「…あの子の様子がおかしい事には、気づいていたかい?」
「気づかねえ方が無理があるっての。ここ最近、コロコロと様子が変わってたんだからな」
「全く……注意してくれと言っていたのに…」
盛大にため息をつきながら、ジト目でフレンは『アリシア』を見ている
「……今、あの子は『二人』の人格に分かれている」
『アリシア』から目を離さずにフレンはゆっくり口を開いた
「臆病で怖がりな主人格の『アリア』、活発でお転婆な二次人格の『アリシア』……二人揃って、あの子は『アリアンナ』でいられる」
「ニジジンカク……ってなんだ?」
聞き慣れない言葉に問い返した
「新月が持つ、一瞬の自己防衛反応だ。……あの力を受け継ぐ者は、どうしても心が脆くなりやすくなる。些細なことで、精神が崩壊してしまう程に……そうなった時、主となる人格の精神崩壊を防ぐ為に現れる人格……それが、二次人格だ
普段は『アリシア』の方が表立って動いている様だけど……あの子からの手紙を読んだ感じでは、時々『アリア』が表に出て来ているみたいだね」
「……なるほどね。最近、妙に変だったのはそのせいか」
あいつの最近の様子の謎がようやく解けた
……中身が変わってるって感じたのは、間違いじゃなかったわけだな
「本来なら、周囲に簡単に悟られることはないはずなんだけどね……今のあの子は、主人格と二次人格で一人称や口調が全く違う
下手に名前を付けたのがよくなかったのかもしれないな……」
困ったように顔を顰めながら、またため息をついていた
「それ、なんか関係あんのか?」
「……『新月の名前には意思が宿る』……そう言われている。あの子は、本来の名前とは別に、偽名とあだ名まで持っているから、それぞれに意思が宿ってしまったんだろうね」
「……それでか、お前が昔、オレがあいつにあだ名付けようとすんの嫌がったの」
苦笑いしながらそう呟いた
ガキの頃、愛称付けた方がもっと仲良くなれんじゃねえかと思って、付けようとする度にフレンに怒られたな……
「んで?それが必要そうだってことは、なんか気をつけねえといけない事でもあんのか?」
「…二次人格は新月の力を持たない。『アリシア』が表に出ている間は、僕らが一番警戒している人物に気づかれることも無い。逆に言えば、『アリア』が表に出ている時は気づかれる可能性が高い。…彼女が表に出ている時は、できるだけ騎士に会わせないで欲しい」
「会わせんなって言われても、どう見分けりゃいいんだ?」
首を傾げながら問いかける
「……『アリシア』の時は、一人称は『ぼく』で、『アリア』の時は『わたし』
僕のことを『兄さん』と呼ぶのは『アリシア』で、『フレ兄』と呼ぶのは『アリア』だ。……それと、『アリア』の時は長髪だから、それで見分けがつくはずだ」
『フレ兄』、それと『長髪』……その言葉に、少し肩が跳ねた
……っつー事は……あれ、どっちも夢じゃねえかもしれないわけ、か……?
「……それと、もう一つ……」
小さく呟いて、フレンが口を閉ざした
どこか迷ったような表情を浮かべて、言葉を探しているようだ
「なんだよ?言ってくれなきゃわかんねえだろ」
少しキツめに問いかける
すると、まだほんの少し迷いながらも、フレンが口を開いた
「……『アリア』が、消えないように気を使ってやって欲しいんだ」
どこか不安そうな声で、フレンは小さく答えた
「……どういう事だ?それ」
「二次人格が現れた……それはつまり、彼女が少しでも、消えたいと思ってしまっていたという事だ」
悲しそうにフレンは『アリシア』を見つめる
「主人格である『アリア』を消させるわけにはいかない。例え、二次人格が残ろうが……主人格が消えてしまえば、二次人格も崩壊する
……それだけは避けたいんだ」
崩壊……っつーことは……死ぬ、ってことか……?
そう考えた瞬間、背筋がゾクッとした
「……そりゃ笑えねえな。アリシアに死なれんのはオレも困る」
小さく息を吐きながら呟いた
新月がどうだかなんて関係なく、それだけは、オレも避けたい
「さすがの君も、好きな人に死なれるのは嫌か」
「なん…っ!?」
呆れ気味に呟かれた言葉に、思わず反応してしまった
なんでこいつまで知ってんだよ……っ!
「僕が気づいていないとでも本気で思っていたのかい?……気づかないわけないだろ、あれだけ露骨に反応してればね」
「……うっせーよ……っ//」
額に手をついて項垂れた
くっそ、アリシアが鈍感だから、こいつも同じだと思ってたのがまずかったな……
「別に止めやしないよ。あの子が嫌がらない限りはね」
深くため息をつきながら、そう答えてくる
止めない、っつー割に、声は嫌そうだな……
「まぁ、さっき話した感じでは大丈夫だとは思うけど……とにかく、今はその二つを守って欲しい」
少し顔を上げると、真剣な顔でオレを見つめてきていた
「……おぅ、わかったよ」
「……それから……さっきも言ったけど、これは他言無用だ。誰にも言わないでくれ。……特に、エステリーゼ様には」
ほんの少し気まづそうにそう言ってくる
「エステルにも、か?」
あいつらに話して欲しくないのはなんとなくわかるが、なんでエステルまで……
オレの問いかけに小さく頷いてフレンは口を開いた
「エステリーゼ様は口を滑らせやすいからね……もし知られて、何かの拍子に騎士の前でそれを口走りでもしたら……」
「一番知られたくねえヤツに知られちまうかもしれない、ってことか」
フレンの言葉に繋げるように呟いた
……確かに、エステルなら何かの拍子に口滑らせてもおかしくねえな
「そういう事だ。…それに、アリアがそれを望んでいない。……だから、できるだけ悟られないようにして欲しい」
「……若干一名、既に疑いまくってんのがいるけどな?まっ、上手く誤魔化しといてやるって」
リタの事を思い出して苦笑いした
あいつも薄々、勘づいていそうな感じはすんだよな…
「…すまないが頼むよ。……それと、最初に言った新月についての事は、話してくれても構わない」
「……いいのか?」
「ああ。あの子から来た手紙を読んだ感じでは、そろそろリタ辺りが問い詰めてきかねなさそうだからね……そっちの方が困る
僕が話していない事で、彼らにも伝えて平気そうな事は……彼女が話してくれるはずだ」
大きく息を吐きながら今度はフレンが項垂れた
……こいつはずっと一人で、あいつを守り続けて来てたんだよな……
「…苦労が絶えねえな」
「……それが、僕の義務……アリアンナとの、約束だからね」
そう言って顔を上げると、またアリシアを見つめていた
愛おしそうで優しげな表情を浮かべて、フレンはジッと、彼女から目を逸らせない
「……よっぽど大事なんだな」
「それはそうさ。新月云々の前に……あの子は、僕の『妹』なんだからね」
微笑みながらそう言うと、フレンが立ち上がる
「お前、これからどうすんだ?」
フレン同様立ち上がりながら、ふと気になったことを問いかけた
「……本当は、あの子と一緒に逃げたいんだけどね。……まだ少し、調べたい事が残っている」
湖に背を向けて、オレから遠ざかりながらフレンは言う
「それが終わるまでは、騎士団を離れられない。……だから、『彼』の命令も、聞かなければならない」
小さくそう呟いて、少し離れたところでフレンが足を止める
「……ユーリ、僕がこれからやる任務は、僕の意思じゃない。それだけは、覚えておいて欲しい」
オレの方は見ずに、フレンは続ける
「……多分、君が一番嫌がる事だとは思う。それでも、従わなければ何が起こるかなんて、容易に想像がついてしまう。……だから、一度くらいは、見逃してくれないかい?」
そう言って振り返ったあいつは、どこか寂しそうに眉を下げて笑っていた
「……バーカ、オレなんて二度も見逃されてんだぞ?言われなくともそうしてやるよ。……アリシアにも言っちまったしな
『何があってもお前らの味方だ』…ってな?
けど、文句言うくらいは勘弁してくれよ?じゃねえと、オレがあいつらに問い詰められそうだ」
苦笑いしながらそう答えた
契約ってやつがなけりゃ、今頃あいつはオレにキレ散らかしてたはずだ
そうでなくとも、本心ではもっとオレに怒りたいはずだろうしな
「ははっ、わかっているよ。……ありがとう、ユーリ」
「お互い様だ」
「隊長、こちらでしたか」
ツリ目の姉ちゃんの声が聞こえて、フレンに背を向けた
「ノードポリカの封鎖、完了しました。急ぎ、ノードポリカへ」
そんな会話を聞きながら、その場から離れる
……さて、どこまで話してくれるかね
ーーーーーーー
「……アリシア」
湖のすぐ傍で座って空を見上げているアリシアに声をかける
オレの声に反応して、ゆっくりと振り返ってきた
「兄さんとの話、終わったみたいだね」
ニコッと笑いながら、そう返してくる
『兄さん』……って事は……
「……今は『二次人格』って方なわけか」
小さく呟きながら、隣に腰を下ろした
「アリアなら、今は寝てるよ。力使いすぎて電池切れたみたい」
カラカラと笑いながらそう答えてくる
「……聞いてたのか?さっき、オレとフレンが話してたこと」
「聞いてはないけど……兄さんが何話してたかは大体予想つくよ。…それにユーリ、どう呼んでいいか一瞬迷ったでしょ?」
少し困ったように眉を下げながら、アリシアはオレを見つめてくる
「…察しがいいな」
そう呟くとニコッと微笑んできた
「……本当は、もう全部話してあげてもいいんだけど……アリアがいないとこで勝手に話したら、ぼく怒られちゃうから……起きるまで、待っててくれる?」
「そのくらい待てるって。タイミング見て話すだろうからってフレンにも言われたからな」
オレの答えにアリシアはホッと息を吐いていた
『アリア』程ではなくとも、不安だったわけ、か
「つか、『力使って』って、どういう事だ?」
「ん?…あー……そのくらいならいっか」
小さくそう呟きながら、茂みの方に目を向けていた
アリシアの見た方を見ると、茂みの中にラピードの姿がチラッと見えたが、すぐにその場から立ち去って行った
「今はもう居ないけど……さっきまで、エステルも居たんだよね。二人の会話、盗み聞きしようとしてたみたいだから、聞こえないようにしてたんだよ」
ため息をつきながら、視線をオレの方に戻して来た
「……なるほどね……そういう事もできるわけか」
「ホントはもっと色々できるけどね〜
……まだ二十歳になってないから、できる事も限られてるんだよね」
膝を抱えながら、少し不服そうに頬を膨らませている
「おーい、アリシア?あんまり喋ると怒られるんじゃねえのかよ?」
そう声をかけると、ビクッと肩が跳ねていた
「……そうだった……」
アリシアはそう呟いてマズいと言わんばかりに顔を顰めた
「自分で言ったクセに忘れてんなって」
「あはは……どうも感情的に動いちゃうんだよねえ……」
頬を掻きながら、アリシアはオレから顔を逸らす
「……今まで勝手してきてたのは、アリシアの方だったわけか」
少し顔を顰めて呟くと、また肩が跳ねていた
「……バレた?」
ゆっくりと、アリシアはオレの方を向いた
引き攣った顔でオレを見つめてくる
「今のでバレねえとでも思ったのかよ?…ったく、詰めが甘いんじゃねえの?」
「あ、あはは〜……えっと、ごめんなさい……」
ジトーっと見つめていると、案外素直に謝ってきた
「そう言うなら、もう勝手すんじゃねえぞ?」
「うっ……それアリアにも言われたんだよなぁ……一応努力はするけど……無意識に身体動いちゃうんだよなぁ……」
小さく唸りながらそう呟いていた
「…オレと勝手しないって約束したのは、アリアの方なわけだ」
「……その通り、だよ」
気まづそうに、アリシアは答える
……ホント、別人みたいに正反対だな
「……なぁ、ちょい聞きたいんだけど……」
ジッとアリシアを見つめて声をかける
「…答えられそうだったら答えるよ?」
そう言うと、アリシアはほんの少し首を傾げた
「……いつからだ?お前がいたの」
フレンから二次人格の話を聞いてから、ずっと気になっていた事を問いかける
もし……出会った時、既に『アリシア』の方だったのなら……
正直、どうしていいかわからない
もし、長く一緒に過ごしてきたのが『アリシア』の方だとしたら……
……あの笑顔を向けてくれるのは『アリシア』だけだったとしたらって考えちまうと、ガラにもなく不安になる
オレの問いに、アリシアは目を見開いていたが、少しするとクスッと笑った
「…二次人格である『ぼく』が出てきたのは、本当につい最近の話だよ。……それまでは、ずーっと『アリア』しかいないよ」
クスクスと笑いながら、彼女は答えた
……ほんの少しだけ、その答えに安堵しちまった
「……隠すのが、上手かったわけだな」
「隠すのが上手いんじゃなくて、使い分けが上手かっただけだよ。……元々、そうやって生きてきていたからね」
懐かしそうで、どこか寂しそうにアリシアは呟いた
「ん…?それ、どうゆう事だ?」
「……お城で生活してた時は、使い分けて生活してたから。貴族と会う時は、大人しくて礼儀正しい聞き分けの良い子、ぼくを守ってくれてた仲のいい騎士の前ではお転婆で活発ないたずらっ子。兄さんや両親、それに……信頼してる騎士の前でだけ、臆病で怖がりな弱い自分で居られた
……ずーっと、そうやって使い分けて生きてきてたから
まぁ……お城から逃げた後は、そこまで細かく使い分けてたりなんてしなかったけどね」
そう言って、アリシアは空を見上げた
反動で外れたフードの下から肩で切りそろえられた金髪が現れて、ほんの少し揺れている
「でも、そうしていたのが当たり前だったから、今まで上手くやってこれたんだと思う。……正直、二次人格の『ぼく』が出てくるなんて、ぼくもアリアも、思ってもいなかったよ」
「それは……話してもいい事なのか?」
「まぁ、このくらいならね?……なんで分かれちゃったかは、アリアが起きてから話すよ」
笑いながらもアリシアはまだ空を見つめていた
「……心配しなくとも大丈夫だよ、ユーリ。君が好きになった『アリシア』は主人格のアリアの方だから。今は……『ぼく』と分かれてるせいで、ちょっと雰囲気違うかもしれないけど、アリアが『ぼく』がいなくても歩けるようになって、『ぼく』と一人になったら、ちゃーんとユーリが知ってる『アリシア』に戻るから」
ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて、アリシアがオレの方に顔を向けてくる
……って、は……っ!?
「な……っ?!」
驚きすぎて、声が出ない
こいつ……今…なんつった……っ!?
「あははっ!ユーリって意外と分かりやすかったんだね〜。分かれる前は、全然気付けなかったけどね〜」
ニヤニヤと笑いながら、アリシアは言ってくる
……気付かれてたのかよ……
いや、つか、それより……っ!
「それ、アリアの方は……っ!?」
「ん〜……どうだろうねえ?気付いてるかもしれないし、気付いてないかもしれないよ?」
ちゃんと答える気はないらしく、未だに笑いながらそう答えてくる
「……リタが性格悪いって言った気持ちが、今ならわかるな……//」
ほんの少し、頬が熱い
顔を見られたくなくて、アリシアから顔を背けた
「えぇ……ユーリまでそれ言うかぁ……
…ま、それに関しては、アリア本人が話すまで聞かないであげてよ」
チラッとアリシアを見ると、困り顔で微笑んでいた
「……わかったよ、聞かないでおくさ」
ふーっと息を吐きながら答えた
……ぶっちゃけ、今すぐにでも聞きたいが、それでなんかあっても困るしな
「……そろそろ戻る?」
そう言いながら、アリシアはフードを被り直した
「……だな……」
短く返して立ち上がろうとしたところで、ふと思い出した
「…いや、待った。もう一個だけ聞かせてくんない?」
座り直して、アリシアを見て首を傾げた
「ん?なに?」
キョトンとした顔でアリシアも首を傾げた
「デュークのヤツと話してた時、あいつなんであんなこと言ったんだ?」
「……あー……それね。……みんなが起きる前にぼくら、デュークに会ってたんだけど…その時にアリアが『少しでいいから新月について話して』って頼んでたの
……で、その後にぼくが話合わせてって言ってあったんだ。……じゃないと、あの人との会話進まなくなるから……」
困ったようにため息をつきながらアリシアは苦笑いする
「なるほどな」
そんなアリシアにつられて苦笑いした
確かにあの時、アリシアが声をかけていなければ、話は進まなかっただろうな
「…さてと!ユーリ、ホントにいい加減、戻ろう?」
そう言って立ち上がるとアリシアはオレに右手を差し出してきた
……正直、その手を取っていいのか、わからない
不問にされたとはいえ、オレの手が汚れているのは確かなんだから
それに……オレを悪だと思わないと言ったのは、恐らく『アリシア』の方だ
……多分、ラゴウの時も……
もしそうだとすると、『アリア』の方の考えは、もしかしたら違うかもしれない
そう考えっと、その手を取っていいのか益々わからない
自分の右手を見つめて、その場から動けなくなってしまった
「……もう、今まで散々手繋いできてたんだから、今更気にしないのっ!」
そういうが早いか、問答無用でアリシアはオレの手を掴んできた
「…言ったでしょう?……ぼく“ら”は、ユーリを悪だなんて、思っていないって」
驚いてアリシアを見上げると、ニッコリと優しく微笑んできていた
「…ユーリは、ユーリなんだから。何も気にしなくて、いいの」
昔から変わらない笑顔を見て、少し心臓が跳ねた
……参ったな……こりゃ一生、敵わなさそうだ
「……そうだな、今更だ。……悪かったよ」
ふっと笑いながらそう答えた
気にすんのも今更だし、大体、アリシアにこうして手を握られたら振り払う事だってできやしないんだ
大人しくぎゅっと握り返し、立ち上がって微笑み返した
そんなオレを見て、アリシアは満足そうに微笑んで歩き出した
「…気にするなんて、らしくないわ。『わたし』が知っているユーリは、そんなの気にしないもの」
クスクスと笑いながらアリシアは……
…いや、待て……?!
口調変わった上に今、『わたし』っつったか……っ?!
「『アリシア』…っ!?」
「……ん?なに?ユーリ」
振り返ったアリシアはキョトンとした顔でオレを見てくる
若干違和感はあるが、その口調はさっきまでオレと話していた『アリシア』の方のものだ
「おま、今、『アリア』じゃ…っ!?」
「…え〜?なんのこと??」
「今若干間が空いたろ…っ!」
「あははっ!そんな事ないって!」
すっかりいつもの口調に戻ったアリシアが楽しそうにクスクスと笑っている
「いや、絶対今一瞬代わっただろ…っ!!」
「さて、どうだろうね〜?代わったかもしれないし、代わってないかもしれないよ?」
いたずらっ子のように笑いながら、アリシアは答える
「ったく……答えるつもりはねえんだな……」
大きくため息をつきながら呟いた
……正直、あまりにも一瞬すぎて、どっちなのかがわからない
アリシアが『アリア』を真似て言っただけの可能性は十分ある
……それでも、そう思ってくれていたら……なんて、ガラにもなく願ってしまう
「ほーら!早く戻ろ?明日の朝寝坊なんてしたら、リタがキレるよ?」
「……そいつは、勘弁して欲しいな」
そう言って、アリシアの傍に寄って手を握って宿屋に向かって歩き始めた
……これでいいのかはわからない
けど、ああ言った手前、いつも通りにしないのもおかしな話だ
手を握った瞬間、アリシアが驚いてたようにも見えたが……すぐにいつものように手を握り返してくる
それが少し嬉しくて、ニヤけそうになるのを必死に抑えながら、宿屋に戻った
