第三章 満月の子と新月
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*新月の秘密
ダングレストの橋の上……
『アリシア』と分かれたあの日と同じように、空を見上げてユーリを待つ
『アリア……ユーリ叩き起して、一緒に来た方がよかったんじゃない?』
少し困ったようなアリシアの声が頭に響く
「(起こさなくても、きっと起きるもの)」
そう答えたところで、聞き慣れた足音が聞こえてきた
「お前なぁ……寝た後にこれはないだろ?」
ユーリの声に振り向くと、さっき置いたメモを片手に苦笑いしていた
『ほーら、ユーリにも言われてるじゃん……』
「だって……みんな中々、ユーリから離れてくれないし、気づいたら一人でどっか行っちゃうんだもの……これが一番、気づかれないと思って」
ユーリとアリシアに同時に答えた
わたしの答えに、ユーリが小さくため息をつきながら、傍に寄って来た
「…… 【マナに命ず、我らが姿、周囲に同化させ、気配を隠せ】」
ユーリが傍に来てからそう呟くと、空気が揺らいだ
昨日の夜みたいに、ユーリが少しだけ辺りを見回す
「昨日のとはまた違う言い回しだな」
首を傾げながら、ユーリがわたしを見てくる
「……今のは、声だけじゃなくて、姿も全部隠すように『命じた』から」
そう言いながら、フードを取った
久しぶりに外したフードから、金色の長髪が現れて、風でほんの少し揺れる
少し驚いているユーリを前に、目を閉じて右手を横に伸ばした
「……『アリシア』」
名前を呼んで、少しすると指先に触れられる感触があった
「な……っ!?」
ユーリの驚いた声がして目を開けると、隣にはアリシアが立っていて……
ユーリは驚いた顔をして、わたしたちを交互に見ていた
「アリア……何も話す前にぼくを引っ張り出さなくたっていいじゃんか……ユーリ、めっちゃ動揺してるよ?」
ほんの少し、頬を膨らませたアリシアがそう言ってくる
「だって……わたしは上手く、話せる自信ないもの……かと言って、引っ込むわけにもいかないじゃない……」
不服そうなアリシアにそう言い返す
「いやまぁ……そりゃそうかもしんないけどさぁ?……って、言ってても始まんないね……アリアが疲れる前に、話そっか」
そう言ってため息をつくと、アリシアはユーリの方を見た
「……オレ、何からツッコんだらいいんだ……?」
額に右手を当てながら、ユーリが項垂れている
「あー……うん、そうだね……とりあえず『これ』から話そっか」
苦笑いしながらアリシアは少し頬を掻くと、軽く深呼吸をして口を開いた
「『新月』の防衛反応の二次人格の話は、兄さんから聞いてると思うけど……『これ』はいわゆる最終段階ってやつ
主人格の心の整理がある程度できると、二次人格も実体を持つようになる。ホントだったら、ぼくとアリアは常に互いに実体を持ったまま徐々に離れて、主人格のアリアが二次人格のぼくがいなくても自分の意思で行動できるようにしてかなきゃいけないんだけど……
今は状況が状況だから、さすがにそこまでできないんだよねえ」
ちょっと困り気味にアリシアは話す
「そういや昨日、『境界線が薄い』とか言ってたな」
「……ええ、言った。それがこうゆうこと」
わたしがそう言うと、ユーリが少し困った顔をした
「参ったねぇ……さすがに二人同時にバラバラに動かれっと、オレ面倒見きれないんだけど?」
「…心配するところ、そこなの?」
少し意外で首を傾げた
他に気にするところ、あると思うけれど……
「そんな心配しなくとも、ぼく、アリアから離れるつもりは毛頭ないから平気だよ。……そうしなくても少しずつ、アリアは自分の意思で行動しようとしてきているからね」
ニコッ笑いながらアリシアがユーリを見る
呑気なアリシアに、ユーリはただ苦笑いしていた
「……じゃ、次は『新月』の話をしよっか
その方が……逃げることになった理由も、わかりやすいから、ね」
声のトーンを落としてアリシアは言う
真剣な声に、ユーリが少し身構えていた
「『新月』って言うのは、世界でたった一人だけに与えられる『称号』なんだ」
「『称号』……か?」
首を傾げたユーリにアリシアが頷いた
「……帝国ができるよりも遥か昔、人と
その女王は特別な力を持っていた。空気中に溢れ過ぎたエアルを体内に取り込んで『マナ』っていうエアルと物質の中間のエネルギーに変換して、一定量を体内に留めておく。定めた量以上の『マナ』が留まらないように、少しずつ体外に放出していく。空気中に放出された『マナ』は時間をかけて、エアルに戻る
……そうやって、エアルが乱れないように
この力は世襲制で、親から子……女王から次の女王へと受け継がれ続けてきた。……国がなくなってからもずーっと。それが、『新月』と『新月の力』だよ」
アリシアの説明をユーリは黙って聞いていた
「『新月の力』はいくつかの性質に分けられて、おおまかに分けると『命令』と『加護』、それに
『命令』は体内に溜めたマナを通して、空気中に漂うマナや『加護』を通して使用するもの……アリアが今使っているこれも『命令』
『加護』には幾つか種類があって、殆どがあげられる人が決まってる。…まぁ、『加護』って言うか『契約』に近いものもあるけどね」
「
不思議そうにユーリが首を傾げで問いかけてくる
そういえば……ユーリの前では一度も使ったこと、なかったかも……
アリシアと顔を見合わせて、少し微笑んでから川の方を向いた
「我が破りしは平穏なる障壁、具現して……グリムシルフィ」
エフミドの丘で唱えた術と同じ術を使う
横目で見たユーリが驚いた顔をしていた
「……確かに光ってねえな……つか、あん時の、お前の仕業だったのか」
ユーリの方を見ると、してやられたとでも言いたげに、苦笑いしていた
ニコッと笑ってユーリの方を向いた
「……そして『加護』」
今度はわたしが口を開く
「これは五つあって……
一つは『皇帝の加護』……これは、帝国ができた時につくられたもの。…と言っても、殆ど飾りみたいなものだけれど……一番最初の皇帝意外でしっかり発動した皇帝はいないから」
「発動しないなんてことあんのか?」
「多分……何か条件があるのだと思うけれど……さすがにその条件については何も資料が残ってなくて、お手上げ状態なの。発動してくれないと、契約の変更もできないから、少し困ってる」
肩を竦めながらそう答えた
どうして条件について残されていないのか……それは、わたしたちにもわからない
「前にエステルが言ってた契約の変更に必要な条件っつーのが加護ってことか……」
小さな声でユーリはそう呟いた
軽く頷いて、また口を開く
「……二つ目は『満月の子の加護』。これも、帝国ができてからつくられたもの。……満月の子の力を抑制する為のものだから、『加護』って言い方は少しおかしいけれど」
「なるほどね……だからベリウスはあんな事言ったのか」
納得したように言うユーリにまた頷き返した
「三つ目に『大切な人の加護』。これは、新月が一番大切な人に与えるもので……発動すれば、術攻撃はほぼ無効化されるし、治癒効果もあるから大抵の怪我もすぐ治る、新月の加護の中で一番強い加護。一番強い分、掛けられるのは一生で一人だけ……それに、発動条件がややこしくて少し面倒……」
小さく呟きながら顔を逸らせた
条件を思い出すと、ほんの少し気恥しいというか……
本当に、あの条件どうにかならないかしら……
「術攻撃無効化な上に治癒効果って……えげつねえな……」
「それだけ、新月にとって『大切な人』っていうのが重要だって事だよ。その人が殺されでもしたら、簡単に精神崩壊するくらいだからね」
若干引き気味なユーリに、あっけ絡んとアリシアが付け加えた
……それ、余計に引かれるだけじゃない、バカ……
「……四つ目に『一時的な加護』。前に話した三つと違って、これは名前の通り一時的なもの……掛けた瞬間に発動するタイプと、事前に掛けておくタイプがあるけれど、どちらも一度だけ攻撃だったりから身を守ってくれるもの。……一度発動したら、次にもう一度掛けられるまで二日は時間空けないといけないけど、何度も使える、ね」
ユーリの反応をあまり見たくなくて、すぐに次の加護の話を始めた
だって……引かれたりしたら嫌だもの……
「…最後が……『守護騎士の加護』……新月は二十歳になった時、自分の傍におく騎士を一人選ぶ。……その人に与える加護。一番強い加護程では無いけれど、攻撃から身を守ってくれる」
話し終えて、小さく息を吐いた
こんなに話したの…初めてかもしれない……
「なるほどね……今の話聞くと、狙われる理由もわからなくねえけど……」
顎を少し摘みながらユーリが何か考えている
「……それと騎士から隠れてんの、なんか意味あるのか?見つかっても、容姿が似てるだけで誤魔化せそうだが……」
不思議そうな顔をしてわたしたちを見てくる
「それは、『加護』の性質のせい、だね」
ほんの少し困り気味にアリシアは言う
「『加護』にはそれぞれ発動させる為の条件と発動させていられる期間がある
発動条件の方は、『皇帝の加護』と『一時的な加護』は力を継いだ後なら何時でも発動させられる。『大切な人の加護』もそうだけど、これは発動条件がややこしくて、すぐには発動させられない
そして、『満月の子の加護』と『守護騎士の加護』は二十歳にならないと発動させることができない。『満月の子の加護』は発動させるのに負荷がかかるし、『守護騎士の加護』の方はそもそも二十歳にならないと決められないからね
……問題なのは、発動期間。『皇帝の加護』と『満月の子の加護』には終わりがない。一度発動すれば、その人が死ぬまで続く
『大切な人の加護』は次の新月への力の譲渡が始まった段階で徐々に弱くなっていって、完全に譲渡が終わると効果が消える。……一番の問題は『守護騎士の加護』……これは、前の新月から次の新月への力の譲渡が終わってもすぐには消えない。新しい新月が二十歳になって、自分で『守護騎士の加護』を与えるまでは消えずに残る」
「それの何が問題なんだ?」
アリシアの説明を聞いて、ユーリが首を傾げた
「……『大切な人の加護』と『守護騎士の加護』を持った人は、新月の居場所を把握できる」
小さな声でそう言うと、ユーリは目を見開いた
「あまりにも離れているとさすがに無理だけれども……傍に行けばわかってしまう……」
そう言う声が震えてしまった
……どうしても、思い出すと震えてしまう……
そんなわたしを、アリシアが抱きしめてきた
「……ユーリ、ぼくらを……『アリアンナ』を狙って、ぼくらのお母様とお父様……それ以外にも、守ろうとしてくれた多くの騎士を殺したのは……他の誰でもない、お母様の守護騎士だよ」
静かに、それでもハッキリとアリシアは答えた
「……そいつ、今も騎士団……っつーか、城にいんのか……?」
恐る恐る、ユーリは問いかけてくる
「いるも何も、ユーリも会ったことあるよ」
「……?」
「今、守護騎士の加護を持っているのは……『アレクセイ・ディノイア』……今の騎士団長だよ」
「なっ!?」
静かに答えたアリシアの声の後に、ユーリの驚く声が聞こえた
「……あん時、よく、バレなかったな……」
驚きつつも、ユーリが問いかけてくる
「あの時は記憶なかったからねぇ……多分そのせいで、上手く感知できなかったんだと思う」
「記憶なかったって……それはホントの話だったんだな」
「……多分、それも防衛反応の一種だと思う
自分が新月と呼ばれていたこと、それに、断片的な事しか覚えていなかったから……
……誰よりも、一番信用して、信頼していた人に……ぼくらは裏切られた。目の前で大切な人達の命が奪われていった……その時、まだ十歳にもなっていないぼくらに取ってそれは、大きな傷になった
……だから、新月に関する記憶全てを忘れることで、二次人格を生まずして精神崩壊を防ごうとしたんじゃないかっていうのが、ベリウスが出した答えだった」
少しだけ寂しそうに、アリシアは答える
「……最近だって、話だったよな、そうなったの」
少しだけ聞づらそうにユーリは問いかけてくる
「…ぼくらが分かれたのは、意見の食い違いのせいだよ。……全部思い出して、立ち向かおうとした『ぼく』と、思い出さず今のままでいたかった『アリア』……その食い違いが大きくなったのは、あの日、バルボスに攫われた時だ」
わたしを抱きしめたまま、アリシアは言葉を繋げていく
「忘れてたって、『新月』である事に変わりはない。……だから、ぼくは思い出したかった。思い出さなきゃ、守れない事だってあるから」
「……わたしは、思い出したく、なかった……思い出してまた……大事な人がいなくなっていくのが、怖かった……それならいっそ……」
そこまで言って、アリシアがわたしの唇に人差し指を当ててきた
「ダメだよアリア、それ以上は。……その言葉口に出して、まーたそう思うようになっちゃったらどうするのさ」
少しムッとしながらそう言ってくる
「……そんなに心配しなくても、もう思わない、よ」
そう言って少しだけ頬をふくらませた
フレ兄程ではないけど、アリシアも心配性なのよね
「なるほどね……丁度様子がおかしいって思った時期からだったわけか」
ため息をついたユーリの方を見ると、苦笑いしてわたしたちを見てきていた
「あれ……?もしかして、バレてた……?」
少し引き攣った声でアリシアが問いかける
「あんだけ勝手するようになって、おかしいと思われねえって本気で思ってたのかよ」
呆れ気味にユーリがアリシアを見つめる
「…だから勝手しないでって何度も言ったのに……アリシアのバカ」
「うっ……ごめんなさい……」
ジト目で見ていると、少ししょんぼりしてアリシアは謝ってくる
「ホント困ったヤツだな、アリシアの方は」
ユーリはそう言いながらも、少しだけ微笑ましそうに、わたしたちを見ていた
「と……とりあえず、話しておかなきゃいけないことはこのくらい、かな…?」
少し咳払いしながら、アリシアがわたしに問いかけてくる
「……ん……かな……?満月の子と
「ぼくらが話さなくとも、説明してくれるのがいるからねぇ〜。……余計な事までベラベラと喋んなきゃいいけど……」
そう言い合って、二人揃ってため息をついた
できればわたしは会いたくないけれど、エステリーゼの為に会わないと……
「……んじゃ、オレから質問、してもいいか?」
少し遠慮気味にユーリが問いかけてくる
「……ん、いいよ」
「『新月が沈んだら災厄が降り掛かる』って言ってたろ?今の話聞いても、どうにもピンと来なくてな」
そう言って少し肩を竦めていた
「……確かにそこは、ちょっと説明不足だった、ね」
小さく呟いて深呼吸する
……あまり話したくはないけれど、全部話すって言ったから、さすがに聞かれたら答えないと……
「……凜々の明星の伝承、知ってる?」
「ん?ああ、エステルから聞いたことあんな」
「……あの伝承は、千年前に、実際に起きたこと、なんだよ」
ゆっくりと、言葉を繋げていく
「十日……たったの十日間、新月の力の継承が終わっていないのに、新月がいなくなった時期があった。その間に、世界は災厄で覆われてしまったの」
わたしの答えに、ユーリが息を飲む
「新月の力の継承っていうのは、具体的に言うと、『命令』と『加護』の譲渡なんだ。エアルをマナに変換して体内に留めたり、それを使って術技を使うのは新月が最初に産んだ子が元から持っているんだけど、その二つは使うのに負担がかかるから徐々に譲渡するんだよ」
「その譲渡が終わらないまま……新月が沈んでしまった……中途半端に譲渡されていた次の新月は、譲渡されなかった力を必死で自分のものにしようとして……本来、数ヶ月かけなければいけないところを、十日で会得した……それでも、もうその時には、災厄は降りかかっていた……」
「だから、新月は沈ませてはいけないんだ。……今は尚のことね。ぼくらの『次』は、まだいないから」
アリシアと交互にそう答えた
何故そんな事になったのかって話だけは、まだしたくない……
わたしだってあんまり思い出したくないし、口にもしたくない……
それに……この話だけは、エステリーゼにだけは、絶対に知られたくないから……
知ってしまったら、あの子はきっと……悲しむから
「……こりゃ責任重大だわ……フレンのヤツ、そんな大事な問題、一人で背負ってたワケか」
大きく息を吐きながら、ユーリが呟く
「基本的には新月が信頼できるって思った人にしか喋っちゃいけないからねえ。まぁ、今は緊急事態だし、例外もあるけど」
「例外っつーと……前に言ってた、フレンが先に話したからどうこうってやつか?」
ユーリの問いにアリシアと一緒に頷いた
「新月が選んだ守護騎士は緊急時、必要があれば自分が信頼している人に新月に関する情報を話してもいいっていう権限がある。どこまで話すかは、守護騎士次第だけど」
「けど、フレンはまだその加護っつーやつは持ってないんだろ?」
「守護騎士かどうかに、加護の有無は関係ない……加護を持っている前の新月の守護騎士は、あくまでも次の守護騎士に加護を渡すまでの、繋ぎにしか過ぎないから……
わたしたちに取っての守護騎士は、フレ兄だけだから…」
交互に答えるわたしたちを、ユーリは少し困り顔で見つめてくる
「どうしたの?ユーリ」
わたしの隣で、不思議そうにアリシアが首を傾げる
「あー……いや、そうやって二人並んで交互に喋られっと、どっちが話してんだか一瞬わかんなくなんなと」
困り気味に笑って、頬を掻きながらユーリが視線を逸らせた
「別にどっちがどっちでもいいけどね?ぼくらは二人合わせて、一人の人間なんだからさ」
クスクス笑いながら、アリシアが答えている
そんなアリシアにちょっと視線を戻したユーリは肩を竦めていた
「……そういや、さっきリタに言ってたこと、二割ウソなんだっけ?」
話題を反らせたかったのか、ユーリがまた問いかけてくる
「うん、そうだよ?ドンに会いに行ったのは、ぼくの意思であって、呼ばれたからじゃないし、ベリウスに会おうとしたのは、ドンからそうしろって言われたんじゃなくて、別の
覚えていたことも、自分が新月って呼ばれていたことと、
「こうやって聞くと、そこそこウソ言ってんだよな……」
ニコッと笑うアリシアに、ユーリが呆れ気味にため息をついた
わたしの二次人格……とは言え、アリシアって、結構平気で嘘つけるのよね……
「でも、新月に関する情報の全てを『二次人格』のぼくが勝手に話すことができないのはホントだよ。アリアが話したいと思った事しか言えない……と言うか、言っちゃいけないから
それに、今はどっから情報漏れるかわかんないしね
後は……新月について知った人が、命かけて情報と新月を守らなきゃいけないのも半分ホント
緊急時に知った人は除外されるから」
「緊急時は除外なんだったら、あいつらにも教えてやってもよかったんじゃないか?」
少し首を傾げながら、ユーリが見つめてくる
……そう、思うよ、ね……
「それは無理だよ、ユーリ」
少し困り気味に微笑みながら、アリシアが肩を竦めた
「『みんなを守るためならバレても構わない』とは思えてても、『話せる』とイコールにはならない。ぼくはみんなに話してあげてもいいって思っているけど、アリアはそうじゃない
……言い方が悪いかもしれないけど……まだ、これを話せる程、アリアはみんなを信用しきれてない。それは、兄さんも同意見だよ。アリアが信用しきっていない以上、ぼくからは話してあげることはできない」
ほんの少し、厳しめの声色でアリシアが告げる
「……『警戒心が異常なくらい強い』って言ってたな。それが原因か」
「まぁそれもあるけど……どちらかと言うと、一番信じてたアレクに裏切られたせいかな
一番信じてた人に裏切られたせいで、元々強かった警戒心が余計強まっちゃってさぁ?……これ以上なんかあったら人間不信になりそうな勢いなんだよなぁ、今」
黙ってしまったわたしの頬をアリシアが突っついてくる
そんなこと言われたって……みんなに自分から話す勇気はないんだもの……
「そんなんでよく、オレに話そうと思ったな?」
不思議そうにしているユーリに思わずポカーンとしてしまった
「そりゃあ……ねえ……?」
呆けているわたしに、アリシアが声をかけてくる
横目で見えるアリシアは、ほんの少し困り顔だった
……そう、だね……
これは……わたしが言わないと、いけない
少し深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた
「…ユーリとは、つい最近って言うほど……短い付き合いじゃ、ないでしょ?」
首を傾げながらそう答える
「……十年近く……傍にいたのだから……信用できない理由はない、よ」
そう言って、目を細めた
……上手く、笑えている、かな……
「下町に騎士が来た時、兄さんが傍にいないと何も言わずにユーリの後ろに隠れてたのに、一度も理由聞かずに隠してくれてたもんね
今でもたまにやるけど、ちゃーんと隠してくれるし、騎士が来てることにぼくが気づいてないと、教えてくれたり、ぼくを隠してくれたりもしてたよね」
わたしの隣でアリシアがクスクスと笑っている声が聞こえる
少し目を開けると、懐かしそうに微笑んでいた
「……それがずっと続いていたのだから……むしろそれで、信用できない方が、不思議だと思うけれど……」
そう言いながらユーリを見ると、何故か目を見開いて固まっていた
「……それが理由じゃ……だめ?」
首を傾げながら問いかける
少し間を空けて、ユーリが微笑んでくる
「……ダメじゃねえよ」
そう言いながらわたしとアリシアの頭に手を乗せてきた
「そんだけ信用されてるっつーのは、嫌じゃねえしな」
少し気恥しそうにユーリが言ってくる
どこか嬉しそうな表情に、昨日みたいに心臓が跳ねる
ドキドキしているのを誤魔化したくて、何も言わずに微笑んだ
「にしても、情報量が多すぎんな……これ以上はさすがにパンクしそうだわ」
「それもそうだよねぇ……今日はこの辺りでやめとこっか。……アリアもそろそろ、電池切れそうだし」
そう言いながら、アリシアが左手を差し出してきた
言われてみると、少し眠いかもしれない……
「……ん……そう、だね……それじゃあ……アリシア、後、お願い……」
「はいはい、わかってるよ。……おやすみ、アリア」
アリシアの左手を右手で取って目をつぶる
そして、そのまま意識を手放した
ーーーー
「……さすがにちょっと、無理させちゃったかなぁ」
そう呟きながらフードを被り直す
命令の効果はもう切れてしまってるし、またいつ騎士が来るかもわかんないから、念の為、ね
「無理させたって、それ平気なのか?」
少し心配そうにユーリが問いかけてきた
「寝れば回復するから、平気だよ」
ちょっとでも安心して欲しくて、ニコッと笑ってそう答えた
実際、寝ればケロッとして起きてくるし
「アリシアの方は呑気だな。……アリアはちと警戒心が強すぎだが……」
苦笑いしているユーリに、ほんの少し肩を竦めた
「でもまぁ、アリアもそのうちみんなの事信用できるようになるよ、きっと
あの子の今の性格って、普段は隠してた部分だし?ユーリがよく知ってる『アリシア』が素だから
……もう少し、みんなの事を知れれば信用できるようになれるって、ぼくは信じてる」
橋の手すりに肘を乗せて頬杖をつきながら川を眺める
周りの明かりで水面が所々キラッと光っていた
「どれが素でもいいんだけどな?まっ、そこは気長に待ってやるとしますかね」
ぼくの隣で同じように頬杖をつきながら、ユーリがぼくの方を見てきてるのが横目に映った
「んー?なんで素がどれでもいいの?」
理由なんてわかってるけど、ちょっと意地悪したくなってユーリの方を見ながらニヤッと笑って問いかけた
「おま…っ、……それ、ワザと聞いてきてんだろ……」
少し顔を顰めてユーリが聞き返してくる
「あははっ、さあ?どうだろうねぇ?」
「ったく……どのアリアも可愛いから以外の理由あっかよ……」
笑っているぼくに、ユーリが少し頬を赤らめながら答えてくる
「知ってる」
短くそう答えると、ユーリはぼくから顔を背けてしまった
「アリシア単体はやりずらいわ……昨日はよく知ってる反応してきたんだがな…」
小さく息を吐きながらそう呟いていた
「同じ反応してあげた方がよかった?」
「バーカ、お前にゃバレてんのに、んな反応されても困るっつーの」
そう言ってぼくの方に顔を戻した
未だに若干、頬が赤く染まっている
「あははっ、それもそうだよね〜」
クスクスと笑いながら答えた
ホントは早く、答えが聞きたいだろうけど……
……ぼくからは、言えない、言っちゃいけない
これは……『アリアンナ』が伝えなきゃいけない言葉だから
「……あ、しまった……もう一個聞くの忘れてたな」
話題を逸らせたかったのか、ユーリがそう呟いて苦笑いした
「答えられそうだったら答えるけど……」
「『満月の子の加護』ってやつ、二十歳にならねえと使えねえんだろ?今年十九なら、まだそれ使えねぇんじゃねえのか?」
少し困ったような顔をして、ユーリはぼくを見つめてくる
「あー……それね」
そう言いながら辺りを見回す
人は……誰もいないみたいだね
「…うん、それなら話しても平気そうだ」
小さく息を吐いてから、静かに口を開いた
「確かに加護はあげられないけど、満月の子の傍に新月がいるだけで、多少は抑制ができるんだよ
……あんまり詳しくは話さないけど、簡単に言えば、新月の力がエアルを抑制するものとして、満月の子の力はその逆、って感じかな」
「ふーん……逆、ねえ……つか、その話してくれるヤツって誰なんだ?」
ユーリにそう問いかけられて思い出した
……そう言えば、言ってない……
アリアに話していいか聞こうにも、寝ちゃって暫くは起きないだろうし……
……仕方ない、か
「……フェロー、だよ」
苦笑いしながらそう答える
後でアリアに怒られるかもしれないけど……これは教えてあげた方が良さそうだし、仕方ない
「は…っ!?なんでそいつの名前が出てくんだ…っ!?」
少し体を起こしながら、焦り気味にユーリが問い返してくる
「詳しくはアリアも寝てるから言わないけど……フェロー、アリアをマジギレさせて、『エステルと話せ』って、アリアが脅してた」
少し顔を顰めながら答えた
「おど……っ!?……ったく、何したらそうなんだか……」
「それは、アリアが起きてから、ね
……さてと、そろそろ戻ろっか、ユーリ」
そう言いながら、軽く伸びをした
夜もだいぶ更けたし、これ以上は明日に影響する
「……だな。これ以上話聞くと、本気でパンクしかねねえし、そもそもアリシアが怒られちまうだろうからな」
少し意地悪くそう言いながら、ユーリが手を差し出してきた
「…行こうぜ、アリシア」
この前みたいに、ぼくと手を繋ごうとする事に迷いはなさそうだ
クスッと笑いながら、ユーリの手を取った
「うん、行こっか」
ニコッと笑ってそう答えると、ユーリが少し嬉しそうに微笑んできた
ぼくらにだけ見せてくれるその笑顔がホントに好きで、油断すると、ついうっかり言っちゃいそうになる
……それだけは、気をつけないとね
ーー翌朝ーー
「で、これからどうする?」
宿屋の前に集まった三人にそう問いかける
「とりあえず、ギルドのケジメつけんのにジュディのとこだな」
ぼくの問いに真っ先に答えたのはユーリだった
「どこにいるか、わかってるの?」
「テムザ山っつーとこにいるらしいって話だ」
ユーリの答えに少し目を見開いた
テムザ山……って、クリティア族の街があるとこじゃん
故郷に帰った……ってことかな
「あたしはもちろん一緒に行くわよ。言ったでしょ?エアルクレーネの調査はあんたたちとするって決めたの」
あんな風に言った後だって言うのに、当たり前のようにリタはそう答えてくる
……突き放すような感じで言っちゃったのに、なんか申し訳ないな……
「わたしも一緒に行きたいです。ジュディスが魔狩りの剣に狙われているかもしれないのに、放っておけない……」
「えっ、そうなの?」
魔狩りの剣にジュディスが……?
となると、やっぱりあの竜、
「あの女を助ける義理なんてないでしょうに」
少し怒りの混じった声でリタは言う
まぁ、リタからしたら、
「……ジュディスは一緒に旅してきた仲間です……」
「オレが行くのは助けるためじゃないぜ。ケジメをつけるためって言ったろ?ジュディが一体、何を知っていて、何を知らないのか……。全部話してもらう。ギルドとしてケジメをつけるために」
厳しめな口調でそう言ったユーリにエステルが悲しげに表情を歪めた
口ではそう言うけど、助ける気満々なんだろうなぁ
「ま、結果助ける事になるかもだけど」
「二人ともジュディスが心配なんですね」
どうやらリタもそのつもりだったらしく、エステルが少し嬉しそうに笑いながら二人を見た
「な、何言ってんの!あくまでついでよ!それよりギルドのケジメっても肝心の
恥ずかしそうに「ついで」と言ったかと思えば、今度はカロルの話題を振ってくる
そう言えば、昨日の夜から姿見てないんだよなぁ……
……大丈夫、かな……
ぼくが心配している横で、どうやらパティも合流したようだ
アイフリードの足跡は見られたみたいで、まだぼくらに着いて来ていいか問いかけてきていた
「構わねえぜ。じゃ、行くか」
そう言って、ユーリが歩き出そうとする
「レイヴンはどうするんです?」
そんなユーリをエステルが引き止める
「さすがに来ないって。ドンがいなくなって、やる事山積みだろうしね」
そう言いながら、ユーリの傍に歩み寄った
「だろうな。おっさんにはおっさんのやることがある」
「……寂しくなりますね……」
少し寂しそうにエステルは呟く
「レイヴンの事だから、そのうちひょっこりと顔出して来そうだけどね?」
クスッと笑いながらそう呟いた
今までだってしょっちゅう突然現れてきたんだから、きっとそのうち会えるだろう
「で、テムザ山っていうのはどこにあるの?」
ユーリの方を見ながらリタが問いかける
確かに行くにしても、場所がわからないと行けないよね
……別に新月に関係してるとこでもないし、調べればわかるし……このくらいならいっか
「…コゴール砂漠の北、デズエール大陸北部の山岳地帯だよ。あの辺りにはクリティア族の街もあるって聞いた事あるから、そこに居るんじゃないかな?」
リタの方を見ながら言うと、驚いた顔をしてリタがぼくを見つめてくる
「あんた……それ……」
何か言おうとしてるけど、肝心な言葉は出てきそうにない
……まぁ、大方の予想はつくけど
「場所なんて調べればわかる事だし、新月に関係ある場所でもないし、別に問題ないよ」
ニコッと笑いながらそう答えた
「……そ、ならいいけど」
少しぶっきらぼうにそう言って、ぼくから顔を背けてしまった
「デズエール大陸までは船、うちの出番じゃな」
ぼくらのそんな会話を他所に、パティは胸を張りながら鼻を鳴らしている
「ああ、船に行こうぜ」
ユーリはぼくの手を掴むと、そのまま船の方へと向かって歩き出した
こうやって手を引かれるのも、だいぶ慣れちゃったなぁ……
船についたぼくらは、カロルが来るのを待つ
中々来なくて、ちょっと心配になりながら船のヘリに寄りかかってダングレストの方向を見ていると、遠くの方から小さく声が聞こえてきた
体を起こしてジッと声の聞こえた方向を見ていると、カロルの姿が見えてきた
「待って〜!!」
大きな声でそう叫びながら駆け寄ってくる
「カロル!」
「カロルなのじゃ!」
カロルの声を聞いたエステルとパティが嬉しそうに声を上げる
船の側まで来ると、カロルが船に飛び乗って来た
「……待って!はあ……はあ……はあ……はあ……。ボクも一緒に行く……。ドンの伝えたかったこと、ちゃんとわかってないかもしれないけど……。
ここで逃げたら……仲間を放っておいたら、もう戻れない気がする……。だから!ボクも行く!一緒に連れてって!!」
息を切らせながら、カロルはそう言う
それが、カロルなりに考えて出した答えなんだろう
「カロル先生が
優しくユーリが声を掛けると、嬉しそうにカロルも微笑んだ
でも、すぐにちょっと真剣な顔をして、
そんな事言うなんてちょっと意外で少し呆けていたら、理由はすぐに本人の口から聞けた
「ボクは……まだ
ジッとユーリを見つめてカロルは言う
そんなカロルに、ユーリは少し困ったように微笑んだ
「……わかった。カロル、がんばれよ」
ユーリの言葉に、カロルは満面の笑みで力強く頷く
リタがちょっと呆れ気味に「暑苦しい」なんて言ってるのを聞きながら二人を見ていると、聞き覚えのある声が上から聞こえてきた
「んむんむ。青春よのう」
見上げると、船室の上にレイヴンが立っていた
「レイヴン!?」
驚きながら名前を呼ぶ
そりゃまた会うだろうとは思っていたけど……こんなに早いとはおもってもない
「若いって素晴らしいねえ」
クスクスと笑いながら、レイヴンが降りてくる
そんなレイヴンに、ユーリが呆れ気味に「何してるんだ」って問いかける
どうやら色々面倒になって、逃げて来たらしい
え、それいいの……?
「ドンに世話になったんでしょ。悲しくないの?」
少し呆れたようにカロルが問いかける
「ああ、悲しくて悲しくて、喉が渇くくらいに泣いてもう一滴も涙は出ない」
「全然、そんなふうに見えないけど」
リタの言う通り、そんな雰囲気全くないんだよなぁ……
けど、結局レイヴンも着いて来るらしい
……そう言えば、ドンが最期になんか言ってたっけ
「大勢の方が賑やかでいいのじゃ」
「これは賑やかじゃなくて、うるさいって言うのよ。前にも言ったでしょ」
楽しそうなパティとは対極的に、リタは鬱陶しそうだ
ぼくは賑やかでいいと思うけどなぁ
「じゃ、デズエール大陸に出発ですね」
「え?なんでデズエールなの?」
エステルの問いにカロルが首を傾げてる
「良いカンしてんじゃないの。察しの通りテム山はコゴール砂漠の北にあるぜ」
小さく口笛を吹きながらレイヴンがエステルを見る
「おっさんも知ってたんだな」
「少年少女の倍以上生きてると人生、色々とあるのよ……って、おっさんもって何よ?」
ユーリの言葉に、レイヴンは首を傾げた
「それ、先にアリシアから聞いたわよ。クリティア族の街もあるってね」
腕を組んで答えるリタに、レイヴンがすごい勢いでぼくの方を見てきた
「アリシアちゃん……それ、平気なのよ?」
心配そうな顔で、恐る恐るそう問いかけてくる
「別に平気だよ、このくらい。……ほら、行くなら早く行こ?」
ニコッと笑ってそう答えた
この反応の仕方……やっぱりそうなんだろうなぁ……
……けど、そうだとしたら……アリアが信用できたとしても、みんなに話す訳にはいかなさそうだ
「フィエルティア号、出発進行なのじゃ」
パティの声を合図に、船は動き出した
*スキットが追加されました
*気づかれた……?
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