第三章 満月の子と新月
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*ユニオンの頭領
あれから数時間……
船は動力を失って、ただ波に流されている
幸か不幸か、前の
パティは進路の確認、カロルとエステリーゼは……それぞれ思うことがあるみたいで、黄昏ちゃってる
……どっちの気持ちもわかる
急に人を殺していた、なんて聞かされたら動揺するだろうし、良かれと思ってした行動が、相手を死なせる事になったら辛い
そんな事を考えながら、空を見上げる
……今日は新月……一月の内で、最も暗い夜……
……そう言えば……『あの日』も……新月、だったかな……
「……アリシア」
少し迷い気味なユーリの声に、ゆっくり振り返った
「……みんなとの話、終わったの?」
少し首を傾げながら問いかけた
何話してたかまでは、知らないけど……さっきからずっと、みんなに声を掛けていたのは知っている
「ああ、終わったよ」
そう言いながら、わたしの隣に並んで立つ
「……なあ、今って」
「ちょっと、待って……?」
問いかけようとしてきたユーリの声を遮って制止する
「……【マナに命ず、我らが音、周囲より遮断せよ】」
小さくそう呟くと、ほんの少しわたしたちの周りの空気が揺らいだ
ユーリも違和感を持ったのか、少しキョロキョロしている
「……あんまりキョロキョロしてると、みんなが不思議がるよ?遮断したの……声だけだから」
船のヘリに寄りかかりながらそう声をかける
「…なるほどね、前にフレンと話してる時にやってたのはこれってワケか」
そう言ってユーリがわたしを見てくる
その問いにただニコッと笑って返した
「今は……『アリア』の方、なんだよな?『アリシア』の方はどうしたんだ?」
少し不思議そうに問いかけてくる
「『アリシア』は……今は寝てるよ。あの子が完全に意識を手放していないと……力は上手く使えないし、負荷もかかるから……
でも、だからと言って、わたしが『アリア』かと言われるとちょっと微妙かな……
……今のわたしは、『アリシア』でも、『アリア』でもなく……二人が交わった、『アリアンナ』、なんだと思う」
少し肩を竦めながら答える
アリシアが眠っているからか……いつも通りに話せる
……やっぱり、この口調に慣れなかったのは、完全に分かれているせい、だったのかな……
「それは……一人に戻った、っつーことか?」
恐る恐る、また問いかけてくる
その問いに首を横に振った
「一時的に交わってるだけ。……もう少ししたら、起きると思うから……また二人に戻るよ」
苦笑いしながらそう答えた
「ふーん……そんなに簡単に戻ったり分かれたりできるもんなのか?」
「それは、わたしたちの境界線が薄くなっているからできるだけだよ。もう……いつ元に戻っても、おかしくはないところまではきてる
……けど、完全に戻るのは、まだ当面無理だと思う」
ユーリから視線を外して、海を見つめる
昼間と違って、空と同じで真っ黒に染まっている
「……戻らなきゃ、守れない人がいる。……そんな事、わかってる……もう、誰かがわたしの前で命を落としていくのは見たくない。伸ばした手が届かないのも、大事な人たちの命が、自分の手から零れ落ちていくのも……もう、嫌だ
何もできずに、失っていくのは……つらいから……」
海を見つめたまま、腕を抱える
ほんの少しだけ、手が震える
「……けど、やっぱり怖いものは怖い……戻ることで、守れない人もいるんだから……『わたし』がいる事で、危険な目に会う人が増えてしまう……また、大事な人が奪われるのは嫌……
それに、完全に、元に戻るってことは……わたしが、一番恐れている人に、見つかりやすくなるって……事だから……
『彼』に会うだけの、勇気は……わたしには、まだ、ない……」
『彼』の事を思い出して、背筋がゾクッとした
前に進みたい気持ちはあっても、不安と恐怖がそれを邪魔してる
……臆病で、怖がりな『アリア』の方が強い……
なんで……『アリシア』は、立ち向かおうと、できるんだろう……
そんな事考えていると、急にユーリに引っ張られた
「わ……っ」
驚いていると、ギュッと抱き締められる
「怖いもんがあんのは普通の事だろ?それでも、頑張ろうとしてんだから、今はそれでいいと思うぜ」
優しい声でそう言いながら、頭を撫でてくる
……最近、よくこうされるね……
「……そう……だけれど……」
「焦って無理したって、いい事ねえぜ?それに、そのせいで消えたいとか願われて、崩壊とかなんとかっつーことになる方が困る」
……っ!!なんで、ユーリがそれを……っ
……って、驚く事じゃない……か……
なんで知ってるかなんて、考えなくともわかる
「……フレ兄、そんな事まで話したんだ……」
そう言って、小さくため息をついた
話していても、二次人格の話だけだと思ってたのに……
「『アリアに消えられんのは困る』って言ってたな」
「もう……心配性なんだから……」
「そんだけお前が大事だってことだろ?」
少し顔を上げると、困ったように微笑みながら見下ろしてきてるユーリが視界に映る
「……わかってるよ、そのくらい。フレ兄は昔からそうだから」
苦笑いしながら、言葉を繋げる
「『僕の大事な可愛い妹』、『アリアは僕が守る』が、昔からの口癖だもん。……ちゃんとわかってる。『新月』だからなんて関係なく……フレ兄は、わたしを大切にしてくれてるって
……ちょっと過保護過ぎるところが、たまに鬱陶しいけど」
そう言って、肩を竦めた
「それは言ってやんなって。フレンのヤツ、拗ねちまうぞ?」
「少しくらいいいよ。フレ兄、不安にさせたくないからって、なんにも教えてくれないんだもの。……何も知らない方が、不安なのに……」
そう言って、ユーリの胸元に額を押し当てる
『大丈夫』、そう、信じたいけど……
……フレ兄は、わたしよりも『彼』に近いところにずっといるから……
「過保護過ぎんのも考えもんだな……ま、あいつなら上手くやんだろ」
そう言いながら、今度は背を撫でてくる
「…フレンなら平気だよ。心配したとこで、ケロッとして戻って来るようなヤツなんだからな」
……そう言われてみれば、いつも何かあっても、心配するだけ無駄だったっけ
そう思い出して、クスッと笑った
「……それも…そうだったね」
「だろ?心配するだけ無駄だっての。…つーかこれ、お前の口癖じゃねえかよ」
意地悪げにそう言われて、驚いて顔を上げた
ニヤッと笑いながら、わたしを見つめてるユーリと目が合う
「忘れてんなよ、バーカ」
驚いて何も言えずにいると、軽く額を弾かれた
……うん、そうだった
『心配するだけ無駄』……それは、『ぼく』がよく、言ってた事だ
そう考えたら、なんだか心配していたのが馬鹿らしくなって、思わず笑ってしまった
「…ふ……あはは……っ……うん、そうだったね。……よくそう言ってた」
自分で言ってたことを忘れていたのがおかしくって、クスクスと笑っていると、ユーリが小さく息を吐いたのが聞こえた
「…やーっと笑ったな?」
「……え?」
なんでそんな事を言われたのかわからなくて、首を傾げた
「『アリシア』の時はよく笑ってんのに、『アリア』の時は全然笑わねえし、今もずっと引き攣った顔して無理に笑おうとしてっから、ちょい心配だったが……そんだけ笑えんなら、大丈夫そうだな」
そう言いながら、わたしの背に回していた手で頬に触れてくる
安心したような優しい顔して見つめられて、心臓が跳ねる
「やっぱ、お前は笑ってる時が一番可愛いわ」
どこか嬉しそうに微笑んでるユーリから、目が離せない
……こういう時、いつも……どう返してたっけ……
少し考えると、答えは案外簡単に浮かんだ
「…もう、すぐそういう事言うんだから……勘違いされるよ?って、いつも言ってるじゃん」
ほんの少し、頬を膨らませて顔を背けた
にやけそうになるのを、必死で堪える
……だって、まだ、伝えてあげられないから
『アリシア』が消えても……一人で立てるようになるまでは、この気持ちを伝えるつもりはない
『アリシア・シーフォ』としてではなく……『アリアンナ・ルイス・ーーーー』として、ユーリに伝えたいから……
「だーから、勘違いってなんの事だって?」
ユーリが首を傾げるのが視界の隅に映る
いつもと変わらない会話に、クスッと笑ってしまった
「……教えてあーげないっ!」
ほんの少し、ユーリから離れて振り返りながらニッと笑って答えた
そこそこ暗いから、バレないとは思うけれど……
……多分、今顔赤いと思う
自分でわかるくらい、頬が熱い
それでも、ユーリの気持ちにわたしが気付いてることも、わたしが抱いているユーリへの気持ちも気付かれたくはなくて
バレないように願いながら、ただ笑ってみせる
「ったく……ホント、隠し事が多いよな」
困ったように微笑みながら、ユーリはため息をついてわたしを見てくる
……とりあえずは、平気そう……?
「…誰だって、隠したい事の一つや二つあるでしょ?……気が向いたら、教えるよ」
クスクス笑いながら答えると、また小さくため息をついていた
「……そういや、さっきから聞こうと思ってたんだけど……」
話題を変えようとしたのか、ユーリが少し聞きずらそうに口を開く
「……オレ、お前のことなんて呼びゃいいんだ?」
少しバツが悪そうに問いかけてくる
「みんなといる時は、いつも通り『アリシア』でいいよ。……表に出ているのが『アリア』でも……二人が交じった『アリアンナ』でも」
「あーいや、そりゃまぁ、あいつらといる時にそれぞれに合わせてコロコロ変えられねえけどさ…?」
そう言いながら、頬を掻いている
……わかってる
ユーリが知りたいのは……そうじゃない
「……二人だけの時は、ユーリが呼びやすいのでいいよ」
少し首を傾げながら言うと、ちょっと驚いた顔をしてわたしを見てくる
「『アリシア』も『アリア』も『アリアンナ』も……全部わたしの名前だから。……全部合わせて、『わたし』だから」
軽く目を閉じてそう答える
『アリアンナ』はお母様が付けてくれた名前
『アリア』はわたしが自分の名前を上手く言えなくてそう言っていたら、フレ兄までそう呼ぶようになって、自然と定着した名前
『アリシア』はわたしを守るために、お父さんがくれた名前
……全部、わたしに取っては、大事な名前
わたしには、選べないから……
「……わかったよ、『アリア』」
ユーリが選んだのは『アリア』だった
……少し意外……
てっきり一番馴染みのある『アリシア』って呼んでくると思っていたから
……でも、嫌ではない
「…分かれている時以外で、フレ兄以外にそう呼ばれるの、久しぶり」
そう言って目を開けてユーリを見る
「ちと迷ったが……『アリアンナ』はちょい呼びずらいっつーか」
ほんの少し気まずそうにユーリが答える
「名前が長いと、略す癖あるもんね、ユーリ
子どもの時も、よくわたしにあだ名付けようとして、フレ兄に怒られてたもんね?」
クスッと笑いながらそう言うと、ほんの少し肩が跳ねていた
「安易に名前付けたらいけねえってフレンから聞いたが……そりゃ知らなきゃ付けそうにもなんだろ」
少し不貞腐れながらそう言ってくる
「あははっ、……それもそうだね」
前と変わらずに会話ができてることが嬉しくって、自然と笑っていた
こんなに笑ったの……いつぶりだろう
「……さてと、もう遅いしそろそろ寝に行かねえか?」
そう言いながら、ユーリが首を傾げる
「……ん、そうだね」
そう答えて、指を弾いた
また少し空気が揺らぐ
周りを見ると、もうみんな寝に行っているみたいで、誰もいなかった
「……行こっか」
ユーリの傍に寄って、左手を差し出した
少し目を見開いて、わたしを見てくる
……わたしがこうしたことに、驚いているわけではなさそう
どちらかと言うと……迷っているんだと思う
「ほら、先に言ったのユーリなんだから、行くよ?」
そう言って、有無も言わさずに手を取った
ユーリがわたしの手を取ることを渋ってた理由なんて、わかりきってる
「……ユーリ、何度だって言うよ。わたしはユーリが悪だとは思わないし……この手が汚れているとも思わないよ」
この想いが、しっかり伝わるように願いながら、ニコッと笑った
……今は、ちゃんと笑えているかな…?
「……そんなに何度も言われなくてもわかってるっての」
唖然としていたユーリが、少し安堵したように息を吐いて微笑んでくる
迷っていたような雰囲気は、もうない
「とか言って、自信なさそうだったくせに」
「うっせーよ……ほれ、さっさと行くぞ?あんまり寝んの遅くなって、寝坊でもしたら、リタどころかカロルやエステルまで怒るぞ?」
マンタイクでアリシアが言ったことと、似たような事を言ってわたしの手を握り返してくる
「…それは少し嫌かも」
そう言いながら、船室に向かって並んで歩いた
中に入ると、さすがにベッドは埋まっている
レイヴンとハリーさんは壁に寄りかかって眠っていた
さすがにわたしはあの体制で眠れる気はしない
どうしようか考えていると、ユーリは無言でわたしの手を引いたまま壁際に寄って行く
壁際に来ると、そのまま腰を下ろして壁にもたれかかった
「……ほれ」
軽く自分の足を叩きながら、わたしを見てくる
「…それ、後で何か言われても知らないよ?」
少し苦笑いしながら首を傾げる
「言わせときゃいいって。こんなんいつもだろ?」
ニヤッと笑いながらそう言ってきた
……内心、そうしてくれるのが少し嬉しかった
大人しくユーリの隣に腰を下ろして、彼の足に頭を乗せて寝転んだ
……うん、やっぱりこれ……落ち着く……
「……おやすみ、アリシア」
「……おやすみ、ユーリ」
そう言い合って、目を閉じた
……アリシア……ちゃんと、起きる…わよね……?
不意に漠然とそんな不安が押し寄せてきた
『……心配しなくとも、ちゃんと起きたよ、アリア』
不安になり掛けていると、ようやく起きたらしいアリシアが声をかけてきた
「(……遅いわ)」
『それはごめんね?……アリア、代わっておく?』
謝りながら、そう問いかけてくる
起きたらきっと……リタは問い詰めようとしてくるものね……
「(……そうしよう、かな……)」
『ん、了解。……おやすみ、アリア』
アリシアのその声を聞いて、意識を手放した
ーーーー
「ふぁ……眠っ……」
欠伸を噛み締めながら、甲板に出る
『アリア』が寝るのが遅かったせいか、ぼくまで眠い
「眠そうだな?」
眠い目を擦っていると、ちょっと苦笑いしながらユーリが声をかけてくる
周りに人は……いなさそうだね
「……さすがに寝るの遅すぎだよ……アリアの夜更かしのせいで、ぼくまで眠い
……まぁ、本人が楽しんでたみたいだから、いいんだけどさ」
小さな声でそう答えて、また欠伸をした
「楽しんでたか?あれ」
「十分楽しんでたと思うよ?……アリアがあんなに笑ってるの……久しぶりだから」
クスッと笑いながらそう答えた
「…それなら、いいんだけどな?」
「あ、アリシア!おはよう!」
ユーリがそう言って来たタイミングで、カロルがぼくに気付いて声をかけてきた
「おはよう、カロル」
「あんたねぇ……ちょっと寝すぎなんじゃない?」
ジト目で、リタがぼくを見つめてくる
「あ、あはは〜……ちょーっと星空見て考え事してたら、寝るの遅くなっちゃって……」
苦笑いしながら咄嗟にそう答えた
「ふ〜ん……?……で、あんた……あたしらに話すことあんじゃないの?」
ニコッと有無を言わさぬ笑みを浮かべて、リタが問いかけてくる
「……なんの話?」
心当たりは沢山あるけど、正直、どれも話せそうにはない
「あんたねぇ……
ベリウスに会ってたって何!?
そう捲し立てながら詰め寄ってくる
……表に出てるの……アリアじゃなくて、ホントに、よかった……
「えぇ……そんな事言われても……ねぇ……?全部知ってるとも限らない、よ?」
頬を掻きながら、リタから視線を逸らす
彼女のあまりの剣幕に、ユーリも若干引いてるし……
……というか、アリアの許可なしに話せるようなの、何一つないじゃんか……
「嘘ね。あんた……最初から、全部知ってたんでしょっ!!」
少しリタに視線を戻すと、どこか憎たらしそうにぼくを睨みつけて来ている
……ん、まぁ……それはそう、だよねえ……
ぼくが満月の子について話していれば、少なくとも、エステルが危険な目にあったり、ベリウスがあんな事になることもなかったかもしれない
いやでも思い出したのがつい最近なのは事実だし……
『……アリシア』
どうしようか迷っていると、アリアの声が頭に響いた
『……ベリウスに会った時の事……記憶がなかった話、していい、よ』
「(……え?マジで?ホントにしていいの?)」
まさかそんな事を言ってくるなんて思ってもいなくて、思わず聞き返した
『…じゃないと、リタのその探り、止まりそうにないでしょ?』
少し困ったように、アリアがそう返してくる
「黙ってないで……なんとか言いなさいよっ!」
アリアの言葉に動揺していると、リタの怒声が聞こえてくる
……仕方ない、か
こうなった時、誤魔化すのがぼくの役割だし、ね
小さくため息をついて、ゆっくり口を開く
「最初から、全部知ってたわけじゃないよ」
ゆっくりリタの方を見ながら、言葉を繋げた
「……ベリウスに会いに行ったのは、ぼくが役目についての記憶をぜーんぶ失ってたからだよ」
ほんの少し、眉を下げて微笑みながらそう答えた
「……え?」
ポカーンとした顔で、リタがぼくを見つめてくる
「…つい最近まで、忘れてたんだ。下町で生活するようになったホントの理由も、アリアが持ってる新月の力の事も……それに関連する全ての事、何もかも、全部ね
覚えていたのは、ぼくには『アリアンナ』って従姉妹がいること、ぼくと……よく似てたってこと……たったそれしか、覚えていなかったんだよ」
肩を竦めながらそう告げる
嘘はついてるけど、殆ど本当のことだ
「けど、ならどうして、ベリウスに会いに行ったのじゃ?」
不思議そうにパティが問いかけてくる
「…『思い出したいなら会いに来い』って、ドン経由で言われたから」
「ドンって……お前まさか、あん時一人でユニオンに戻ったのって……」
「ぼくの横通り過ぎる時に『一人で来い』ってメモ渡されちゃったんだもん。行くしかないじゃん?」
ユーリの方を振り向きながら、そう答える
若干呆れたような顔で、ぼくを見て来ている
……後でちゃんと、色々訂正しないと……
「でも……それじゃあなんで、思い出してから話してくれないのよ……っ!あんたが話せば、エステルは……っ!」
「ぼくには……勝手に話す権限はないから。新月のことも、満月の子のことも、
もし、ぼくがどれか一つでも勝手に話して……そのせいで、アリアに危険が迫ったりでもしたら……その責任、どう取ればいいと思う?」
声を荒らげるリタに、静かにそう告げた
ぼくの言葉に、リタが言葉を詰まらせた
「……話してあげられるものなら、話してあげたいよ。けど、それでアリアにもしもの事があったら……ぼく一人の命で責任が取れるなら、それでもいい。……けど、きっとそうはならない。知った人全員が命をかける覚悟をしなければいけない
『新月』を守る役目を担った人は、守る為に得た必要な情報を、自分の命を掛けてでも外部にもらさないようにしないといけない。それと同時に……万が一の場合には、自分の命を捨ててでも『新月』を守らないといけない
そういう覚悟がなければ、安易に踏み入ってはいけない領域なんだよ、リタ」
ほんの少し、声のトーンを落として告げる
言葉を詰まらせていたのはリタだけじゃない
カロルやパティ、レイヴンもだ
「ぼくが最も優先すべきは『アリア』の身の安全。容姿が似ているぼくは、いざとなればあの子の代わりに自分を差し出す覚悟だってしてる
……みんなに、その覚悟がもてる?
そうでないと言うのなら……お願いだから、これ以上はぼくに何も、聞かないで欲しい」
淡々とそう答える
『ぼく』の事に関しては殆どが嘘
……けど、新月を守る役目を担った人がその覚悟を持たないといけないのは事実だ
「……聞かれて、何も答えられないのは……ぼくだって、つらいから……」
そう言いながら、目を伏せた
これだけは本当の事だ
……話せるなら、話してあげたい
けど……なにが原因で、正体がバレるか分からない
もし、正体がバレて……『あの人』に見つかりなんてでもしたら……
……それこそ、世界の終わりだ
「……リタ、もうこれ以上は本気でやめておけ」
ユーリの制止する声が聞こえたのと同時に、肩に手を置かれた
「話せねえことに歯痒い思いしてんのはアリシアだ。それに、無理に聞き出して、取り返しのつかねえ事になった方が厄介だろ」
静かに、それでもちょっと威圧的にユーリは言う
そこまでしなくとも、もう聞いて来ようとしないと思うけど……
「…………悪かったわよ……」
どこか悔しそうに、リタが謝ってくる
「…ぼくの方こそ……ごめんね、リタ……」
「む……?おーっ!そろそろつくのじゃ!」
リタに謝っていると、パティはそう言って、舵の方へと駆け寄って行く
「……そう言えば、どこ向かってるの?」
小さく息を吐いて、隣にいるユーリを見上げながら、首を傾げた
「ダングレストだよ。ドンに
さっきまでと違って、普段と変わらない様子でユーリは答えてくれた
「……あたし、
リタはそう言うと、そそくさと
「……なぁ、今の話……何割ホント?」
ぼくの耳元で、ユーリが小さく問いかけてくる
その問いに、ニッと笑った
「……二割ウソ」
小さく返すと、ユーリが目を見開いた
けど、すぐに困ったように微笑んでくる
「またそこそこウソ言ってんのな……」
呆れたような声で、そう言ってくる
「嘘も方便、だよ。……機会を見てユーリには、ちゃんと全部話すから」
ニヤッと笑っているぼくに対して、ユーリはただただ苦笑いを浮かべていた
そうこうしているうちに、ダングレストの近くに、船は停止した
ーーーー
「俺はこいつ連れて、ドンのところに顔出してくるわ。長くなりそうだから宿屋で待っててよ。終わったら行くからさ」
ダングレストにつくなり、レイヴンはハリーの首根っこを掴んでそう告げた
そんなレイヴンに、カロルが「一緒に行く」と言い出した
なんか、ドンと話したい事があるみたいだけど……
……ぼくらとは聞けない話って、なんだろ?
「ま、ダメもとで良いんなら」
若干困ったようにレイヴンが答えると、少しだけカロルが笑顔になる
「ありがとう!行ってくるよ!」
そう言うと、カロルはレイヴン達と一緒にユニオンの方へと向かって行った
「
ぼくの後ろで、エステルが小さく呟く
「そりゃ長い話だろ」
そんなエステルに、ユーリが呆れ気味に声をかけた
パティはパティで、記憶の手がかり探しに行っちゃうし
……みんな、自由気ままだよね
「さて、と……。大人しく宿で待ってようぜ」
「うん、そうしよ?」
そう言って、ぼくらは宿屋に向かった
宿屋について、リタはなんとかエステルを元気づけようと、色々話してる
ユーリはさすがにちゃんと寝れてなかったのか、ベッドで横になってるし……
『……ねえ、アリシア……?』
何して待っていようか考えていると、アリアが声をかけてきた
「(ん?どうしたの?)」
『街の空気……なんだか、重くない……?』
どこか不安そうな声で、アリアが問いかけてくる
「(……そりゃそうだよ。ユニオンのせいで、ベリウスが死んだようなもんだもん)」
『……そう、よね……』
悲しげにアリアが呟く
……ぼくもアリアも、わかってる
この後ドンが、どういう決断をするか……
「(……命の代償は命で……だからね……)」
『……それが……『ギルド』、なのよね……』
「(…そうだね……)」
アリアにそう答えたところで、部屋の扉が開いた音が聞こえた
扉の方を見ると、なんとも言えない顔をしたレイヴンが入ってくるところだった
「ユーリ、ユーリ」
ユーリの傍に寄って、名前を呼びながら体を揺するとゆっくり目を開けた
「ん?ああ……寝ちまったか」
くぁ……っと欠伸をしながら起き上がると、そのままベッドの縁に腰掛けた
「寝ぼすけさん、おはよう……って時間でもないか」
「ああ……おっさん……。…カロルは?」
「ユニオン本部で別れたきりなんだけどな。戻ってないのね」
眠そうに問いかけたユーリに、レイヴンが少し苦笑いしながら答えた
カロル……なんか様子変だったし、どうしたんだろ……
「おっさんが戻ってきたんだから、ユニオンの話はまとまったんでしょう。ドンに会ってるんじゃない?」
ちょっと呆れたようにリタがそう言うと、レイヴンが首を横に振った
「それがなあ。ハリーとノードポリカの一件聞いたら、ドン、一人で出てっちまった」
困り気味にレイヴンが答える
「一人で?らしくねぇな。どこに行ったんだ?」
「これは俺様のカンだが……おそらく背徳の館っつ一
その言葉に心臓が跳ねた
驚いていたのはぼくだけじゃなく、みんなも同じだった
「イエガーは手を出さない」……そう、レイヴンは言うけど……
「……っつーわけで、悪いけど今ドンはこの街にいない」
「んじゃ、行くか。
ユーリはそう言うと立ち上がった
万が一にでも、イエガー相手にドンが負けることはないだろうけど……ドンと話したいなら丁度いいタイミングだろう
『……アリシア……わたし……あの人に、会いたくない……』
ポツリとアリアが呟いた
「(どうして?)」
エステルも行くかどうかって話をしている横で、アリアに問い返した
『……嫌な、予感がするの……あの人に会っちゃいけない……そんな気がする……』
不安そうな声でアリアは答える
……アリアがそう言うなら、きっと何かあるんだろう
「(……わかった。じゃあ、そう伝えるよ)」
そう答えて、ユーリに声を掛けようとした時
外から大きな音が聞こえてきた
「何だ?!」
「橋のある方から聞こえたみたい……」
「行ってみましょう!」
三人がそう言い合ってる傍で、レイヴンだけが何が起こってるのか察したように険しい顔をしていた
……ぼくにも、なんとなく予想はつく
慌てるユーリ達の後を静かについて行く
宿屋を出て橋の側まで来ると、すごい人だかりだ
少し離れたところから聞いてる感じ、
そんな人だかりの中に居たらしいカロルが、血相を変えてぼくらの方に駆け寄ってくる
「ユーリ!みんな!どうしよう?!ギルド同士の戦争になっちゃう!」
あわあわとしながら「ドンがいれば……」とカロルは呟く
そんなカロルにユーリは、
一緒に来るか問われて、カロルは少し迷いを見せた
「もしいなかったら……。ドンを探してる間に戦いになっちゃったら……。ユーリ……どうしよう……?どうしたらいいんだろう……?」
オロオロとカロルはユーリに問いかける
カロルが迷うのも無理は無い
ユニオンと
「背徳の館はオレたちだけで大丈夫だろ。カロルは自分の思うようにやるといい」
焦っているカロルを宥めるように、ユーリは優しくカロルに声をかける
一瞬、カロルが目を見開いてユーリを見た
「う、うん……じゃあボク、みんなと話してくる!」
すぐにそう言って力強く頷くと、また人だかりの方へと駆け寄って行った
「これで良かったのでしょうか?」
「仕方ないわ。ドンを追う事とここに残って街を守ること、同時には出来ないんだから」
少し不安そうなエステルにリタが言う
彼女の言う通り、全部同時には無理だ
「オレたちも行くぞ」
ユーリがそう言って、ぼくの手を取ろうとする
「…ごめん、ユーリ。ぼくも残るよ」
背中で腕を組んでそう告げたぼくを、ユーリが驚いた顔をして見つめてくる
「え……?どうしてです?」
キョトンとした顔で、エステルがぼくを見つめてくる
「カロル一人置いてくの、心配だから」
ちょっとだけ肩を竦めてそう答える
「…いいの?こいつ、あんたいないと無茶するんじゃない?」
訝しげな顔してリタがぼくを見てくる
「ぼくの代わりに見張ってくれる子がいるから大丈夫だよ。…ね?ラピード?」
「ゥワンッ!!」
ぼくが声をかけると、「任せろ」と言わんばかりに一声鳴いて、ラピードがユーリの傍に寄った
そんなラピードに、ニコッと笑いかける
「ユーリが無茶したら、後で教えてね」
「ワオーンッ!」
「ラピード、てめぇ……」
ちょっと鬱陶しそうに、ユーリがラピードを睨んでいた
そんなユーリの姿に、クスッと笑ってしまった
「……お前も、無茶すんなよ?」
諦めたかのようにため息をついて、どこか不安そうにユーリがぼくを見てくる
「ん、わかってるよ」
ぼくがそう答えると、ちょっと心配そうにしながらユーリはみんなを連れて街の外へと向かって行った
「(……しばらく外で様子見てよっか、アリア)」
『……そうね』
ユーリ達を見送った後、必死でみんなを止めようと声を掛けようとしているカロルを見守りながら、帰りを待った
みんなが街を出て暫くして、
緊迫した空気の中、ユーリ達が出て行った街の入り口の方を見た一人の男の人が声を上げた
「ドンが帰って来たぞ!」
その声に振り返ると、ゆっくりとドンが歩いて来るのが目に入る
「てめぇら、そんなところで何してやがんだ」
「ドン!
問いかけたドンに、焦った様子で彼は告げる
「そうか。もう来ちまったか……」
ドンはそう呟きながら、チラッとぼくを見た
「……てめぇら、広場まで案内してやれ。すぐに戻る」
そう指示して、ドンはユニオン本部の方へと足を向けた
「娘っ子、ちょっと来てくれねぇか?」
ぼくを見ながらそう声をかけてくる
「……うん、いいよ」
そう答えて、ドンの後に続いた
彼が向かったのは、あの日と同じ彼の部屋
「さてと……ベリウスには無事会えたみてぇだな?お嬢」
部屋の扉を閉めながら、ドンが優しく微笑んでくる
「……うん、会えたよ。……ちょっと待ってね?」
そう言って、目を閉じた
ーーーー
ゆっくり、目を開ける
視界に映るドンは、寂しげに微笑んでいた
「……ドン、ありがとう。……お陰で全部……思い出せた」
ゆっくり、静かにそう告げる
「はっはっは!そりゃ何よりだ。……お嬢に最期に会えて、よかったよ」
そう言って、ドンが腕を広げた
……やっぱり、そうなのね……ドン……
ドンに駆け寄って、広げられた腕の中に飛び込んだ
「……お嬢、気ぃ落とすなよ?ベリウスが死んだのも、今から起きることも、お嬢のせいじゃねぇ。これは、ユニオンと
わたしを宥めるように背を撫でながら、ドンは言ってくる
「それ、でも……ベリウスを、殺したのは……」
「それはお嬢じゃねえ。お嬢はベリウスのヤツを救ったんだ。こうなっちまった原因は、あの馬鹿を止められなかった俺にあんだ
……自分を責めちゃいけねぇよ、お嬢」
わたしに伝わるようにと、ハッキリと言ってくる
「……また、大事な人がいなくなってしまうのね……」
ほんの少し、声が掠れる
「はっは!お嬢、俺も大事な人にいれてくれるのか?」
「当たり前……でしょ……?」
泣かないように、必死で堪えながら答える
「お嬢……わかってくれとは言わねぇ。けど、それが『ギルド』ってやつなんだ」
静かに、ドンはそう言う
「……わかってる……納得はしたく、ないけれど……わかってる」
そう言いながら、ゆっくりと顔を上げる
「本当は……逝かないでって言いたいけれど……それじゃあ示し、つかないものね……」
ゆっくり目を細めた
泣かないように必死で耐えていたけど、涙が頬を伝った
これが最期になってしまうなら、せめて微笑んであげたかったけれど……上手く微笑んであげられている自信はない
「……お嬢、俺の分まで長生きしてくれねえか?……俺の分まで、
真剣な声でドンはそう言ってくる
「…あはは……っ、ドン、言われなくてもわたし、ドンより
「ん?そうか?そりゃあ悪ぃこと言ったな」
豪快にドンが笑う
この笑い声を聞くのも……最期なのよね……
「……そろそろ時間だな。もう戻らねえと、馬鹿共が喧嘩おっぱじめちまう」
少し名残惜しそうに、ドンがわたしから離れて行く
「お嬢、おめぇは絶対に見るなよ?」
扉に向かいながら、そう言ってくる
わたしを心配して、そう言ってくれたんだろう
……けれど……
「……ドン、見ないから……近くに居ても、いい?」
ちょっと首を傾げながらそう伝えると、ドンの足が止まる
「……最期に『祈らせて』?……ちゃんと、天国にいけるように」
静かにそう言うと、ドンが勢いよく振り返った
少し驚いた顔してわたしを見てくるけれど、すぐに笑い出す
「はっはっ!俺の為に『祈って』くれるのか。……そいつぁ断れねえな」
寂しげに微笑みながら見つめてくるドンと、目が合った
「お嬢、元気でな」
「……うん、大好きだよ、ドン」
わたしの返しに微笑むと、ドンは部屋を後にした
……わたしも、行かないと……
ーーーー
背徳の館から戻って来たオレ達に、カロルが駆け寄って来た
ドンの様子がおかしいと……
おっさん曰く、最初から死ぬ気だったそうだ
……それもそう、か
偽の情報で他所のギルドの頭潰しておいて、ごめんなさいじゃ済まされるわけがねぇ
それを聞いたカロルは真っ先にドンの元へと走って行く
その後に、オレらも広場に向かった
大勢に囲まれて、ドンは静かに正座して佇んでいる
「すまんが誰か介錯頼む」
最期にと声をかけるヤツら全員と言葉を交わすと、そう声を張り上げた
だが、それに応えようとするヤツはいない
……仕方ねえ、か
「……オレがやろう」
そう言って歩み寄った
じいさんの覚悟を無碍にはできない
「おめえも損な役回りだな」
少し笑いながら、じいさんはそう言ってくる
「お互い様だ」
「はっ、違いねえ。ユーリ。おめえの将来を見てみたかったがな。俺は先に地獄で休んでるとするぜ……っと、言いたいところだったんだがな」
そう小さく呟いて、視線を逸らした
じいさんの視線の方向に目を向けると、そこにいたのはアリシアだった
手を組んで俯いてる姿は、何かを祈っているようだ
「……お嬢がああやって祈っちまってるからな。地獄にゃいけなさそうだ」
薄らと微笑みながら、じいさんは言う
「あんた……まさか、何か知ってんのか?」
小声でそう問いかける
いや、聞くまでもねえか……
最初に会った時の反応からして、何か知ってんのは明らかだ
「……ユーリ、今回は俺が見るなと伝えたが……お嬢の目の前で誰かを死なせるな。…お嬢は優しく、脆い子だ。自分の目の前で、誰かが死ぬのを異常なまでに恐れてやがる。お嬢を守るっつーんなら、覚えておくんだな」
オレの問いには答えずに、じいさんは小声でそう言ってくる
答えるつもりはねえ、か……
まぁ……こんなとこでできる話でもねえし、な
「お嬢の事、頼んだぞ」
「……忠告は、しっかり受け取った。あんたに言われなくとも、あいつはオレが守るっての」
そう答えると、じいさんは少し笑った
「ふん。おめぇの減らず口、忘れねぇぞ」
「オレもあんたの覚悟忘れないぜ。ドン・ホワイトホース」
静かにそう言って刀を振り上げる
周りから、ドンを呼ぶ声が響き渡る
「てめえら、これからはてめえの足で歩け!てめえらの時代を拓くんだ!いいな!」
最期にそう言い残し、小刀を腹に突き立てる
それに合わせて、オレも刀を振った
……この感触だけは、一生忘れられないんだろうな……
暫く街はざわめいていたが、少し落ち着きを見せ始めた
塞ぎ込んでるカロルに声をかけたりしていたら、だいぶ日が落ちていた
一先ず今日はここで休もうっつー話になって、宿屋で寝てたんだが……
目が覚めちまって起き上がったら、またアリシアの姿がない
あいつ……またどこに……
ベッドから抜け出そうと手をついたら、何かに触れた
触れたものを拾い上げる
【橋の上で、待ってる】
端的に書かれたその文字は、アリシアの字だ
これは……ようやく、って事か?
小さく深呼吸をしてから立ち上がる
……さて、どんな話が待ってるんだか……
