第三章 満月の子と新月
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*始祖の隷長と聖核
カドスの喉笛を抜けたぼくらは、ノードポリカへと戻って来た
意外と……前とあんまり雰囲気、変わらないかも
「この前の大会の騒動考えれば、普通の警備って感じ」
「魔物が逃げ出して、大変でしたからね」
キョロキョロと辺りを見回していると、リタとエステルのそんな会話が聞こえた
「なーんか不気味だよね……あんなに厳戒態勢だったのに」
「だな。こりゃおっさんの言うとおり、騎土団め、何か企んでやがるな」
険しい顔で辺りを見ながらユーリが返してくる
兄さん……ホントに何するつもりなのさ……
「ベリウスに会えるのは新月の夜……丁度今夜ね」
ジュディスが空を見上げながらそう呟いた
そう言えば、昨日の夜の月は殆ど隠れてたっけ
「じゃ、宿で一休みしてから、ベリウスに会いに行きますか」
ホッと息を吐きながら、レイヴンが提案してきた
「そうだね〜……会う前に、ちょっと休憩しよ」
チラッとレイヴンを見ながらそう答えた
うーん……考えても仕方ないのはわかってるけど、やっぱり気になるんだよなぁ……
あの声、何度思い出しても『彼』だし……
けど、名前も違えば見た目も違う
そもそも、騎士辞めてギルドに入るとは思えないんだよなぁ……
……いや、『彼』の性分にはギルドの方が合ってるかもしれないけど……
さっきの事を考えてるぼくの横で、パティが付いて来るとかどうとか話してる
まぁ……またひょっこり現れそうではあるし、別にいいとは思うけど……
『付いて来るのはいいけれど……あんまり、ユーリに引っ付いて欲しくない、かも……』
ポツリとアリアが呟く声が聞こえた
「(だよねぇ……ぼくもそう思う)」
嫌そうな声に思わず苦笑いしてしまう
ならさっさと言えばいいのに……とは言わないけどさ
「フレンのヤツも、もうこの街に入ってるんだろうな」
ユーリの声に顔を上げると、ジッと闘技場の方を見つめていた
「どうでしょう……?」
「もろもろとっとと片づけて、フレンのヤツを問い詰めなきゃな」
「問い詰めなきゃ」って言ってるけど、少し困ったような顔をしている
ユーリは……何か、兄さんから言われたのかな?
「兄さんのとこ行く時は、ぼくも連れて行ってよ?」
そう言いながら首を傾げて、ユーリを見た
「わかってるよ」
ユーリはそう答えると、ぼくの手を引いて闘技場の方に歩き出した
そのまま宿屋に行って、ぼくらは夜まで休んだ
ーーーー
日が落ちて、辺りが暗くなった頃
ぼくらは宿屋の前に集まっていた
「みんな覚悟はいいか」
みんなを見回しながら、ユーリが問いかける
「……い、いいよぉ……」
「あんた震えてるわよ」
声を震わせながら答えたカロルに、リタが呆れた顔をしていた
「ま、ギルドの大物にして、人魔戦争の黒幕って話だしな」
頭の後ろで手を組みながらレイヴンが苦笑いして、カロルを見てる
「なに、相手は同じ人間だ。怖がることはねえって」
ニッと笑いながら、ユーリがカロルを見た
……人間……じゃないんだよなぁ……
「(……ねえ、アリア?ベリウス……ぼくらに声、かけてくると思う?)」
みんなの会話を聞きながらアリアに問いかける
『ん……多分……?フェローみたいに、口滑らせることはないと思うけれど……』
少し自信なさげに、アリアは答える
「(となると問題は、どこまで喋っちゃうか、だよねえ……ぼくに話合わせてくれればいいんだけど……)」
『ベリウスなら……そうしてくれる、って思う』
「(……そうだね。そう願おっか)」
「それじゃあ、ベリウスに会いに行くぞ」
アリアにそう答えたタイミングで、ユーリがそう声をかけてきた
ゆっくりと頷いて、ベリウスがいる闘技場奥の部屋に向かって歩き始めた
長い階段を上った先、以前と同じように、ナッツが扉の前に立っている
「ベリウスに会いに来た」
ナッツに向かって、ユーリがそう声をかけた
「あんたたちは……たしか……」
そう言いながら、チラッとぼくの方を見てくる
みんなに気づかれないように、ユーリの背に少し隠れながら右手の人差し指を唇に当てた
ベリウスが言うならともかく、前に来た事をナッツからはできれば話して欲しくないし……
伝わればいいんだけど……
「…ドン・ホワイトホースの……使い、だったかな」
ぼくの意図を察してくれたのか、ナッツはぼくから視線を外した
よかった、伝わったみたい
ゆっくりと右手を下ろす
「そそ。そゆワケだから通してもらいたいんだけど」
レイヴンがそう声をかける
「そちらは通っても良いが……。他の者は控えてもらいたい」
少し言いづらそうにそう言って、ナッツが首を横に振った
それが不服だったらしいカロルとリタが、少しキツい口調でナッツに詰め寄っている
そりゃ……簡単には会わせられないよねえ……
下手したら大騒ぎになりかねないもん…
……けど、彼女の事だからきっと……
《よい。皆通せ》
半月前にも聞いた声が辺りに響く
「
《良いというておる》
渋るナッツに、ベリウスは語気を強めた
何もそこまで強く言わなくてもいいと思うけど……
「……わかりました。くれぐれも中で見たことは、他言無用で願いたい」
彼女の言葉に渋々承諾したナッツは、そう言いながらぼくらを見回した
「他言無用……?どうして?」
「それが我がギルドの掟だからだ」
不思議そうに首を傾げたカロルにナッツがハッキリとそう答える
「わかった。約束しよう」
「この先に我が主ベリウスはいる」
ユーリが答えると、ナッツは扉を開けた
彼を先頭にみんなが扉を潜って行く
みんなが先に進んだのを確認してから、ナッツに近づく
「……ありがとう、何も言わないでくれて」
ニコッと笑いながらそう伝えた
「ベリウス様から他言無用と言われていたから、当然の事をしたまでだ。……早く追いかけた方がいいのでは?」
「…ん、そうするよ」
少しだけ心配そうにそう言ったナッツにもう一度お礼を言って、扉を潜った
【二次人格よ】
駆け足で階段を上っていると、不意にベリウスの声が頭に響いた
「(ん?なにー?)」
アリアと喋る時と同じように、声には出さずに言葉を返す
【わらわはそなたに話しかけてもよいのか?】
少し迷っているような声で問いかけてくる
「(アリア、どうする?)」
正直話しかけてきてもいいけど、勝手にそう返事をしたら、またぼくが怒られるからアリアに問いかける
『……いいよ、ベリウス。……けど、今は……わたしは新月じゃなく、『アリシア・シーフォ』……アリアンナ、の、従姉妹……だから、ね?』
ハッキリと、アリアはそう答えた
【ほほ、考えたのう。……ならば、その体で話そうぞ】
少し楽しげに笑うベリウスの声が聞こえる
……二人も同時に頭の中で声が響くの、ちょっと変な感じする……
「(それでお願い。タイミングは、君に任せるよ)」
【うむ】
ベリウスとの会話が終わったところで、みんなに追いついた
丁度、扉の前にたどり着いたところみたい
ぼくが遅れてた事には……気づいていないみたいだ
「……開けるぜ?」
そう言って、ユーリが扉を押し開ける
前来た時と同じく、真っ暗な部屋
あまりの暗さにみんなが慌てていると、壁を一周するように青い火が浮かび上がった
明るくなった部屋の中に、ベリウスは静かに佇んでいた
「なっ、魔物……!」
怯え気味にカロルがベリウスを見て声を上げる
「ったく、豪華なお食事付きかと期待してたのに、罠とはね」
そう言いながら、ユーリが刀を抜こうとする
あ、これまずい……?
「罠ではないわ。彼女が……」
「ベリウス?」
ジュディスの言葉に繋げるようにそう言って、エステルが首を傾げた
《いかにも。わらわがノードポリカの
凛とした声で、彼女は答える
彼女の答えに、ユーリは刀を納めた
その様子を見て、小さく息を吐く
よかった……向かって行こうとしなくて……
「あなたも、人の言葉を話せるのですね」
《先刻そなたらは、フェローに会うておろう。なれば、言の葉を操るわらわとてさほど珍しくもあるまいて》
エステルの言葉に、どこか楽しげに笑いながらベリウスは言う
フェローに会ってても、珍しいと思うのが普通だけどなぁ……
「あんた、
ユーリの問いに、ベリウスが頷いた
この街を作ったのは自分だと、ハッキリと彼女は答える
そんなべリウスと会話しながら、レイヴンが書状を渡しているのを黙って聞いてた
人魔戦争にドンが参加してた事とか、それが
……二人とも、あの戦争に参加してたんだね……
「街を襲うのもいれば、ギルドの長やってんのもいる。
ほんの少し、不思議そうにユーリがそう言った
《そなたら人も同じであろう》
それに対し、べリウスは笑いながら答える
確かに彼女の言う通り、だね
人も
《して、いつまでそこに隠れておるつもりじゃ?我らが同胞の生き写しよ》
不意にベリウスがそう問いかけてくる
その言い回しに、思わず肩が跳ねた
……もう少し、言い方なかったのかな……
「……別に隠れてるつもりはないけど……
半月ぶりだね、べリウス」
ほんの少し、フードを取りながらそう答えた
ぼくの答えに、みんな驚いた顔してぼくを見てくる
ん、まぁ……そうなる、よね
「え……?半月ぶり……って……」
《ほほ、意外にも半月経っておったか。あの日はそなたと久々に話す事ができて楽しかったぞ?》
楽しげにべリウスはそう言ってくる
「そりゃぼくも楽しかったけどね?」
苦笑いしながら、そう答える
……実際、楽しい話は一切してないけど……
「まさか、お前が会いたかった人って……」
「べリウスだよ?」
恐る恐る問いかけてきたユーリに、サクッと答えた
「で、でも、べリウスって新月の晩にしか、会ってくれないんじゃ……?」
《その者は特別じゃ。我らが同胞の生き写しにして、かの者を守る役目を担った者じゃからのう
行方を眩ませてしもうたかの者について、できるだけ早く、多くの情報を共有しておく必要があったのじゃが……情報の共有よりも、昔話に花が咲いてしもうたがの》
カロルの問いに答えたのはべリウスだった
どこか楽しげなベリウスに、少し苦笑いした
……意外にも、ノリノリで嘘つくじゃん……
これ、話合わせるのはぼくの方になりそうだね…
まぁ……こう言ってくれれば、フェローの時も誤魔化しやすいからいいけど、ね
……どうせこの会話、どっかで聞いてるんだろうし
「……と言うか、いい加減その生き写しって言うの、やめて欲しいんだけど……なんで君たち、みんな揃ってそう言ってくるのさ」
小さくため息をつきながらそう返す
《それはすまぬな。そなたがあまりにも、我らが同胞に似ているもので、ついそう呼んでしまうのじゃ》
そう答えたベリウスは、少し優しげな表情を浮かべていた
「似ている……って、『同胞』とは、アリアンナの事…です……?」
恐る恐る、エステルはベリウスに問いかける
《左様じゃ》
短くハッキリとべリウスが応える
べリウスを見つめて、エステルが目を見開いていた
《かの者は人ではあるが、その力はわらわたち
そこまで言ってジッと彼女はぼくを見つめてくる
「(アリア、どこまで話す?)」
また注意される前に、アリアに問いかける
『……加護、単語だけなら……言ってもいい、よ?』
「(ん、了解)」
《……その後、進展はあったのかの?》
アリアとの会話が終わったのを見越して、べリウスが問いかけてくる
少し大袈裟に肩を竦めて口を開いた
「残念ながらダメだね。大体、君たちが今見つけられない状況なのに、新月の加護のないぼくが見つけられるとでも思う?」
《ふむ……それもそうじゃのう……困ったものよ。彼女さえ居れば、フェローもわざわざ満月の子を狙おうとなどせんかったじゃろうに……》
困り気味にそう言いながら、べリウスがエステルを見た
「……わかるの?エステルが満月の子だって……」
何か言いたげな目でリタは一瞬ぼくを見てきたけど、今はそれよりも『満月の子』の方が気になるみたいで、すぐにべリウスの方を見た
「我ら
「エステリーゼといいます。満月の子とは、いったい何なのですか?わたし、フェローに忌まわしき毒と言われました。あれはどういう意味なんですか?」
エステルは少しベリウスに近づいて一気にそう捲し立てる
《ふむ。それを知ったところでそなたの運命が変わるかはわからぬが……》
ベリウスがそう言って、話そうとしだした時
急に大きな物音が部屋に響いた
「なんの騒ぎだよ、いったい」
レイヴンが顔を顰めて部屋を見回していると、急に部屋の扉が開かれた
「遂に見つけたぞ、
そう言って部屋に入って来たのは、魔狩りの剣の二人だった
ティソンとクリント……とか言ったっけ?
なんでこんなタイミングで……
「闘技場で凶悪な魔物どもを飼い慣らす、人間の大敵!覚悟せよ、我が刃の錆となれ!」
クリントはそう叫ぶと大剣を抜いた
騎士団を警戒してたけど……まさかギルドの方が、ベリウスを狙って来るなんて……
《こやつらはわらわが相手をせねば抑えられぬようじゃ。そなたら、すまぬがナッツの加勢にいってもらえぬか》
ベリウスはそう言いながら立ち上がる
「あんたは大丈夫なのかよ!?」
少し心配そうに、ユーリが問いかける
《たかが人などに後れは取りはせぬ》
自信ありげにベリウスはユーリにそう答えた
ユーリはそれに頷くと、みんなに声をかけて扉に向かって走り出した
『ベリウス……っ!』
悲鳴じみたアリアの声が、頭の中で反響する
【案ずるでない、主人格よ。……さあ、そなたも早く行くのじゃ】
次いで、優しく宥めようとしてくるベリウスの声が響く
「(……アリア、行こう?)」
ゆっくりと、アリアに声をかけた
こんなに不安そうにしてるのに、アリアの許可なしに勝手にユーリ達を追うことはできない
『……ベリウス……絶対……無事で、いて……』
【うむ、承知した】
『……アリシア、行こ……?』
「(…うん、行こっか、アリア)」
そう答えて、急いでユーリ達を追いかけた
階段を駆け下りていると、徐々に血の匂いがしてくる
ポツポツと、倒れている人の姿も、目に入る
「ひどい……。これをナンが……?」
みんなに追いつくと、信じられない、とでも言いたげなカロルの声が聞こえた
ユーリが近くに倒れ込んでる人の傍に駆け寄って声をかけると、ナッツを助けてくれ、と言って、そのまま力尽きてしまった
見ていられなくて、フードの裾をギュッと掴んで俯く
……目に映る光景が、『あの日』と重なってしまう
これは、アリアに見せるわけにはいかない
絶対に……これ、だけは……
「アリシア?」
そうしていると、ユーリが呼ぶ声が聞こえた
少しだけ顔を上げると、心配そうに顔を歪めたユーリが目に映る
「……平気、か?」
小さく、ハッキリとそう問いかけてくる
その問いに首を横に振った
「……正直、今、この場所の光景を……目に入れたく、ない。……アリアにだけは……見せたく、ない……」
小さくそう呟いて、ギュッと目を閉じた
アリアは何も言って来ないけど、きっと今、ベリウスの事が不安で不安で仕方ないはずだ
……それなのに、『あの日』を思い出すような光景まで、見せるなんてできない
「……わかった。そのまま目瞑ってな?」
優しげなユーリの声が聞こえると、軽くフードを引っ張られた
…多分、もっと深く被せようとしてくれたんだと思う
そんな事考えてると、急に足が地面から離れた
「わ……っ!?」
突然だったから、思わず声が出た
「とりあえず、さっさと闘技場の方に向かうとしますかね」
そう言いながら歩き出したらしく、体が揺れる
「アリシア……どうかしたの?」
少し不安そうにカロルが問いかけてくる
「…そりゃ、突然こんなもん見ちゃったら動けなくなっても仕方ないわよ。ベリウスと顔馴染みって事は……あの中に、顔馴染みが居たかもしれんでしょ?」
答えないぼくの代わり、と言ってはなんだけど、レイヴンがそう言っているのが聞こえてきた
……レイヴンも、的確なタイミングで擁護してきてくれるんだよね……
「それ、連れてって平気なの?」
訝しげなリタの声が聞こえてくる
「さすがにここに置いてけねえだろ?」
そんなリタに、ユーリが呆れ気味に答えた
……死体さえなければ……大丈夫なんだけど……
「ユーリの言う通りね。それに、ここで彼女を放置していくのは、掟に反するわ」
「そういうことだ」
ジュディスの言葉にユーリはそう返すと、一気に階段を駆け上がった
少しでも早く、その場から離れようとしてくれている
「(……アリア?大丈夫?)」
その間に、アリアに声をかける
『……平気……平気、だよ、アリシア……』
震えた声で、アリアは返してくる
「(全然平気じゃなさそうだけど……)」
『…本当に、平気……。だって……アリシアと、ユーリが……頑張って、くれているから……』
声は不安そうだけど、それでも確かにアリアはそう答えてきた
「(…平気って言葉、ぼく信じるからね?)」
『……うん』
小さく息を吐いて、ユーリの肩を軽く叩いた
「…どうした?」
「……闘技場、人が倒れてなさそうだったら、下ろして?」
小さな声でそう伝える
さすがに、みんなに聞かれる訳にもいかないし…
「……平気なのか?」
少し訝しげな声でユーリが問いかけてくる
「さっきみたいに人が倒れてさえなければ、ね
それに、いつまでもこうしているわけにも……いかないでしょ?」
目は閉じたまま、そう答える
本当は一刻も早くこの場から立ち去りたいけど……
でも、ベリウスを見捨てるわけにはいかない
彼女の頼みを無碍にする訳にはいかない
「……無理はすんなよ?」
「わかってるよ。……アリアがダメそうになったら、すぐに引くから」
ぼくがそう答えると、ユーリがぼくを下ろした
ゆっくり、目を開ける
……うん、ここは平気そうだ
「闘技場は現在、魔狩りの剣が制圧した!速やかに退去せよ!」
辺りを見回していると、カルボクラムでも聞いた女の子の声が響いた
「ナン!もうやめてよ!」
その声に、カロルが悲鳴に近い声を上げる
ギルド同士の抗争は厳禁だとか、これはユニオンからの依頼だとか、そんな話をしている
ドンがそんな事、頼むわけがない
だって彼は、ベリウスの事を知っているはずなんだから……
「お前……ハリー!?」
驚いた声を上げたレイヴンが見ている方向を見ると、金髪の少年の姿が見えた
レイヴンによると、ドンの孫らしい
それより、ナッツは……
目の前の二人から視線を逸らすと、遠くの方で跪いているナッツの姿と、そのナッツに武器を向けてる三人の男の姿が見えた
『……アリシア……っ!』
「(わかってるよ、アリア…っ!)」
慌てて彼の方に駆け寄る
「アリシア!?」
後ろからユーリが呼ぶ声が聞こえたけど、止まる訳にはいかない
……目の前で、誰かを死なせたくないから……
刀を抜きながら、ナッツと三人の間に割って入る
「なんだ、貴様!」
「生憎だけど……君たちみたいな人に名乗る名前は持ち合わせてないよ。……怪我人相手に寄ってたかるような、最低な人たちにはね」
ほんの少しフードを上げてギロッと睨みつける
自分でもびっくりするくらい、低い声が出た
ぼくの声に驚いたのか、僅かに三人が後ずさる
「……君たちの相手は、ぼくがしてあげるよ」
そう言って、間髪入れずに突っ込んだ
さすがに殺しちゃうわけにはいかないから、とりあえず三人が持っている武器を薙ぎ払う
ぼくの動きについていけなかったのか、三人はその場に立ち尽くしていた
そのまま一人ずつ蹴っ飛ばす
全く防御もして来なかったからか、見事に壁に激突して、三人揃って伸びていた
「その程度でぼくに喧嘩売ってくるの、百年は早いよ」
吐き捨てるようにそう呟いて刀を納めた
「大丈夫ですか!?」
後ろからエステルの声が聞こえて振り返ると、丁度ナッツに治癒術を掛けているところだった
「アリシアっ!」
焦った顔でぼくを呼びながらユーリが駆け寄って来る
「……ごめん、つい動いちゃった」
怒られる前にそう伝える
でも、あそこで動いていなかったら……って考えると、ちょっとゾッとする
「……怪我、してねえよな?」
「ん、してないよ」
ユーリの問いにそう答えると、ぼくの頭に手を乗せてくる
「なら、今はいいさ」
少し優しい声で、そう言ってくる
怒られなかったことに少し安堵していると、上からガラスの割れる音がした
驚いて見上げると、ベリウスとさっきの二人が落ちてきた
「ベリウス様!」
回復が終わったらしいナッツが、少し悲鳴じみた声でベリウスを呼ぶ
《ナッツ。無事のようだの。まだやるか、人間ども!》
肩で息をしながら、ベリウスが語気を強めて問いかける
重症……ではなさそうだけど、怪我はしているみたいだ
治してあげたいけど、ぼくは治癒術が使えない
……そう、『ぼく』は
「(アリア、どう)」
アリアにどうするか尋ねようとした時だった
「すぐに治します!」
エステルがベリウスに駆け寄って治癒術を使おうとするのが目に映った
《ならぬ、そなたの力は……!》
「ダメっ!!エステル!!」『ダメっ!エステリーゼ…っ!!』
ぼくとアリアが同時にそう叫んで駆け寄ろうとするけど、もう……遅かった
ベリウスの体が光り始めて、彼女が苦しみだした
「こ、これは……いったい……」
唖然とした顔で、エステルはベリウスを見つめる
《ぐぁああああっつつ!》
苦しそうな声を上げると、ベリウスが暴れ出す
『ベリウス……っ!しっかりして……っ!』
泣きそうなアリアの声が頭に響く
これは……色んな意味で、まずい
アリアもだけど……エステルも……
「わたしのせい……?」
小さな声で、エステルが呟いたのが聞こえる
「あのまま暴れられると闘技場が崩れっちまうぜ!」
まずそうに顔を顰めながら、レイヴンが叫ぶ
「ベリウス様!お気を確かに!ベリウス様!!」
ナッツも必死に声をかけるけど、ベリウスは止まりそうにない
……暴走した
「戦って止めるしかないのか!?」
「でも、こんなの相手に手加減なんて出来ないわよ!こっちがやられちゃうわ!」
「そんなのって……!」
「でも……やるしかなさそうなのじゃ」
みんな悔しそうにベリウスを見つめている
やりたくないのは、みんなも同じなんだ……
見境なく暴れるベリウスが、いよいよぼくらの方を向いた
みんなは既に戦闘態勢に入っていて、向かって来たベリウスの相手をしている
「(……アリア、どうする?)」
刀に手をかけながら声をかける
ほんの僅かに、ぼくの手が震えている
ぼく自身の意思なのか、それとも、アリアの意思なのか……それはわからないけど……
……ぼくだって、やりたくない
時間をかければ、ユーリたちでもベリウスは止められると思う
でも、そうなるとこっちの被害も甚大だ
今ここで……ベリウスを一撃で鎮められるのは……
『……アリシア……止めないと……』
意を決したように、アリアがそう呟いた
アリアが決心したのはいい
でも一つだけ、問題がある
「(けど……そうなると……)」
『……わかっている、よ……。……暫く、アリシアと『話せない』ことは……』
少し不安そうに、アリアが言う
そう、暫くの間、『ぼく』は完全に意識を手放していないといけない
そうすると、アリアに何かあっても、すぐに代わってあげられない……
……それが、少し不安だ
『……でも今は……ユーリ、が、いるから……』
小さな声で、アリアは答える
……ここでユーリに伝えた事が活きるなんて……
タイミングが良いんだか、悪いんだか……
「(……わかった。とりあえず、ユーリの傍にまではぼくが行くから……その後は、暫く任せるよ、アリア)」
『……うん、頑張る……よ』
アリアの返事を聞いて、一気にユーリの元に駆け出した
ーーーー
「ちぃ……っ!さすがに手強いな……っ」
小さく舌打ちしながら、ベリウスから距離を取る
さすが
これしか止める方法がないのは悔しいな……
エステルの力と
……フェローが狙う理由は、これも一つの原因なんだろうな……
そう考えながらもう一度、ベリウスに向かおうとした時
急に後ろから服を引っ張られた
「おわっ!?……アリシア……っ?!」
振り返ると、オレの服を引っ張っていたのはアリシアだった
てっきり、ベリウスとの戦闘が嫌で離れていたものだと思ってたんだが……
オレの服を掴んだまま、彼女は俯いて口を閉ざしている
「アリシア、わりぃけど、後に」
「…ユーリ」
掴んでいる手を離すように言おうとしたが、小さな声で、アリシアはオレの名前を呼んでくる
……さっきまでと、雰囲気が、変わった……?
「……ごめんね、少し……『わたし』の姿、隠しててくれない…?」
何度か聞いた事のある不安そうな声……それに、『わたし』……って、事は……!
「……いいのか?今、出てきちまって」
小さくそう問いかける
この状況でまさか『アリア』の方が出て来るとは思わなかった
「……そう、じゃないと……止めて、あげられない……から……」
そう言う声は微かに震えていて、よく見ると、オレの服を掴んでいる手も震えていた
それがこの状況に対する恐怖からなのか、それとも、『同胞』と言っていたベリウスのあの姿を見てしまったせいなのかはわからない
……それでも、ベリウスを止める為に、頑張って出て来たって事、か
「……わかった。けど、あんまここで止まってっと不審に思われっから、できるだけ手短にな?」
そう言って軽く頭を撫でた
「ん……わかってる」
アリアはそう呟くと、大きく深呼吸をして、顔を上げた
今にも泣きそうな目でベリウスの方を、彼女はジッと見つめる
「……【マナに命ず、我が同胞に纏まり付きしエアルを霧散させ……同胞に、安らかな眠りを与えよ】」
聞き慣れない言葉をアリアが呟いた瞬間、再び、ベリウスの体が光に包まれた
「な、何よっ!?」
リタの悲鳴が聞こえたと思ったら、辺りが光に包まれる
あまりの眩しさに、目を閉じる
光が収まって、目を開けるとベリウスは地面に伏していた
「お、おさまった……?」
「今のは……一体……?」
何が起こったかわからず、みんな揃って辺りを見回す
オレにもよくわからないが……それでも、今のは間違いなく、『アリア』がやった事だ
……っつーことは、あれが『新月の力』ってやつ、か
「……ごめんね……ベリウス……」
オレの後ろで、アリアが小さく呟いていた
彼女が呟いたのと同じタイミングで、またベリウスの体が薄らと光り始める
「ごめんなさい……。わたし……わたし……」
ベリウスの傍にしゃがみこんで、声を震わせながら、エステルが謝っている
《気に……病むでない……。そなたは…わらわを救おうとしてくれたのであろう…?
力は己を傲慢にする……だが、そなたは違うようじゃな。他者を慈しむ優しき心を……大切にするのじゃ……。フェローに会うがよい……。この運命を確かめたいのであれば……》
謝るエステルに、ベリウスは優しげな声でそう伝えていた
《ナッツ、世話になったのう。この者たちを根むでないぞ……》
「ベリウス様!!」
そう言ったベリウスを見つめて、ナッツが崩れ落ちる
《……そして、同胞の生き写しよ……》
ベリウスの声に、アリアがオレの後ろから少し顔を出す
《彼女に……伝えてはくれぬか……?…そなたのせいでは、ないと……自身の身を守る為に、姿を眩ませたそなたに……非はないのだと……
…そなたは、決して……沈んではならぬ……。…この世界で……唯一無二の存在、なのじゃから……》
「……伝える……伝えるよ……ベリウス……」
震えた声でそう答えたアリアに、ベリウスは薄らと微笑む
そしてそのまま、ゆっくり目を閉じた
ベリウスを包んでいた光が一瞬だけ強くなって、すぐに収まる
彼女のいた場所には……いつかに見た、
《わらわの魂、蒼穹の水玉を我が友、ドン・ホワイトホースに》
その声を最後に、ベリウスの声は聞こえなくなった
……
「そこまでだ!全員、武器を置け!」
唖然としている内に、ツリ目の姉ちゃんの声が辺りに響いた
「ちっ、来ちまいやがった」
軽く舌打ちをして、声の聞こえた方を見ると彼女と目が合う
恨めしげにオレを見てくると、「全員捕らえろ!」と周りに指示を出し始めやがった
騎士達がオレらに向かって来た瞬間、パティが煙幕を張った
「逃げ道を確保したのじゃ!急ぐのじゃ!」
その声に、全員出口に向かって走り出す
……が、エステルだけがその場から動かずにいた
「……ラピード!」
少し前にいたラピードに声をかけると、すんなりとこっちに引き返して来る
「わりぃ、ちとこいつ、頼めるか?」
オレから引っ付いて離れそうにないアリアを見ながらそう問いかける
「ゥワンッ!」
一声鳴くと、ラピードがアリアの服の裾を咥えて軽く引っ張る
「……ユーリは……?」
怯えた声で、アリアは短く問いかけてくる
「大丈夫だよ。あそこで動かねえでいるお姫様引っ張って来るだけだ。……すぐに追いかける」
頭を撫でながらそう伝える
連れたまま、エステルを引っ張りに行ってもいいが……ここは騎士が多すぎる
できれば早めに闘技場から離しておいてやりたい
「……約束、だよ……?」
そう言いながら、左手の小指を出してくる
「おぅ、約束だ」
ニッと笑いながらそう言って、小指を絡めた
その動作に、ほんの少しアリアが安心したような表情を見せた
「……ラピード、頼んだ」
「ワンッ!」
もう一度ラピードにそう言うと、アリアは大人しく、ラピードと共に出口の方へと走り出した
……さてと、さっさと連れて行くとしますかね
ーーーー
闘技場から抜け出して、長い階段を駆け下りてる途中で、ユーリとエステリーゼが合流した
……よかった……ちゃんと、戻って来てくれた
安心して、小さく息を吐いた
「こりゃ、完全に騎士に制圧されてんな」
宿屋の手前で立ち止まって、ユーリが呆れたようにため息をついた
どこから逃げるか、なんて話をみんながしている間、フードの深めに被り直して俯いた
フレ兄……なんで、こんな事……
そんなこと、考えてもわからない
ただ……きっと、何か理由がある……
……そう、信じたい……
「ユーリ・ローウェル、そこまでだ!」
大嫌いな金属音と共に、ソディアさんの声が聞こえた
ほんの少し顔を上げると、ユーリの事を憎たらしそうに睨んでいた
……相変わらず、ユーリに対する当たりが強すぎる……
「エステリーゼ様も、お戻りください。フレン隊長が心配してます」
宥めるような声でそう言ったウィチルさんに対し、リタが「エステルは帰らない!」と言って、詠唱を始めた
それに合わせるようにウィチさんも詠唱を始める
二人の術が同時に発動してぶつかり合い、煙が辺りに立ち込めた
「よし、港に急げ!」
ユーリはそういうなり、わたしの手を取って走り出した
これは……いつも、アリシア越しに見ていた光景だ……
……なんとなく、安心する……
港へ向かって走っていると、その手前に見覚えのある人影を捉えて立ち止まった
「……兄、さん……」
小さくそう呟いた
「こっちの考えはお見適しってわけ」
わざとらしくため息をつきながらユーリがそう言った
「……エステリーゼ様と、手に入れた石を渡してくれ」
どこか嫌そうに、フレ兄は告げる
……騎士団まで、探しているなんて……
もし、これが……『彼』の意思なら……
……絶対に、
「渡してくれ」
そう言いながらフレ兄が剣に手を伸ばした
……どこからどこまでが本気なのか、わからない……
わたしから手を離して、ユーリがフレ兄に詰め寄って行く
「お前、なにやってんだよ。街を武力制圧って、冗談が過ぎるぜ。任務だかなんだか知らねえけど、力で全部抑え付けやがって……
それを変えるために、お前は騎士団にいんだろうが。こんなこと、オレに言わせるな。お前ならわかってんだろ」
怒りの籠った声で、ユーリはフレ兄に問いかける
その問いに、フレ兄は答えずにただ俯いていた
「なんとか言えよ。これじゃ、オレらの嫌いな帝国そのものじゃねえか。ラゴウやキュモールにでもなるつもりか!」
ユーリが語気を強めてそう言うと、ゆっくりと、フレ兄が口を開いた
「なら、僕も消すか?ラゴウやキュモールのように」
静かに、落ち着いた声で……フレ兄はハッキリと問い返した
「え……それって……?」
わたしの後ろで、カロルが言葉を失っていた
……それも、そうだよね……
「おまえが悪党になるならな」
フレ兄同様に、ユーリも静かに落ち着いた声でそう返した
二人とも、そう言い合ってるけど……本気、ではなさそう……?
「そいつとの喧嘩なら別のとこでやってくんない?急いでるんでしょ!?」
リタがそう言いながら港の方に駆けて行く
ユーリは小さく舌打ちすると、わたしの方に戻って来て、また手を引かれた
チラッと見たフレ兄の横顔は、どこか悔しそうに見えた
「男どもは錨をあげて!」
先に船に乗っていたリタがそう声を上げる
「ほれ、男は錨だってさ」
いつの間にか、レイヴンも船に乗っていた
「レイヴン!どこに……」
「こいつも一緒に乗せてやってくれ」
カロルの問いには答えずに、レイヴンはチラッと後ろを見る
そこには、ドンの孫が立っていた
彼も一緒に……って、どうしてだろう?
気にはなるけれど、今は早く……この場から逃げたい……
全員が船に乗ったのを確認すると、パティが船を操縦し始めた
港から出て少しすると、目の前には沢山の軍船がいた
この中を通り抜けるの……少し無謀なんじゃ……
そう考えていると、急に船の速度が上がる
「何、この出力!この
後方から、リタの声が聞こえた
少し振り返ると、
一体……どうして…?
呑気なカロルとパティの声を背にして、
「なにするんです!」
「な、やめてえっ!!」
エステルとリタの悲鳴が聞こえたと思ったら、今度は爆発音が聞こえた
慌てて駆け寄ると、黒煙を上げる
「どうして……?」
掠れた声で、リタは問いかける
「……私の道だから」
少し申し訳なさそうに、ジュディスがそう言ったタイミングで、いつかに見た竜が現れた
「あいつ、バカドラ!」
少し恨めしそうにリタが声を上げると、ジュディスはそのま竜に跨った
……あの竜……昔、どこかで見たような……
ユーリの制止も虚しく、ジュディスはそのまま飛び去ってしまった
