第三章 満月の子と新月
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*満月の子と新月の関係
ーーヨームゲンーー
「それじゃあ、ゆっくり休んでおくれ」
「…ありがとう、ございます」
ニッコリと笑ってそう返す
クロームが連れて来てくれたのは、ヨームゲンという街
リタとエステリーゼが探してる街の名前ね……
まだ、残ってたのね
街の入口で下ろしてもらったら、たまたま宿屋の人がわたしたちを見つけて、みんなを運んでくれた
みんなは……まだ、起きそうにない
ユーリが眠っているベッドの縁に座って、小さく息を吐いた
……動けた……わたし、ちゃんと……動けたんだわ……
『…決心、ついたみたいだね、アリア。もう大丈夫そうかな?』
不意にアリシアが話しかけてくる
「(そう、だけれど……でも、まだいて欲しいわ)」
『もう…アリアはわがままなんだから……けど、そうだね。まだいなくなる訳にはいかなさそうだ』
そう言って、アリシアがクスッと笑う
『だってまだ…『抜けない』でしょ?』
「(……うん……そう、ね……)」
刀の柄を優しく撫でる
……まだ、これを握るだけの勇気は、ない……
『それに、まだまだ怯え気味だもんね〜。ユーリなんて、もう気づいてそうだけど?』
意地悪げに、アリシアが言ってくる
「(そんな事言われても……)」
『あははっ!ごめんごめんっ!ところで、アリア?少し街中、見に行ってみない?』
話題を反らせたかったのか、アリシアはそう提案してくる
……まぁ、ここで待ってても、何も出来ないものね……
一応治癒術はみんなにかけたから、後は起きるの待ちだし……
「(……ちょっと待って……)」
アリシアにそう言って、紙とペンを取り出す
ユーリ宛にメモを書き、傍に置いて立ち上がった
「(……行きましょ、アリシア)」
『ん、行こっか、アリア』
そう言い合って、宿屋を出た
そんなに大きな街ではないけど、砂漠の中にあるとは思えないくらい、緑で溢れてる
……何となく、雰囲気が変……?
砂漠の中に、これだけ緑豊かな場所があるのも、そうなのだけれど……
……少し、違和感がある……
そんな事考えながら、街中を散策してると、懐かしい人影が、大きな屋敷に入って行くのが見えた
『アリア……、あれ……』
どうやらアリシアも気づいたみたい
「(……行ってみましょ)」
そう言って、屋敷に駆け寄った
扉の前で小さく深呼吸をして、ゆっくりと扉を開けた
中にいた、懐かしい人影に、自然と頬が緩んだ
「……『デューク』」
フードを脱いで、わたしがそう声をかけると、彼はゆっくりと振り返る
少し驚いたような顔をして、わたしを見てくる
「…思い出した、ようだな。『新月』……いや、アリアンナ殿」
ゆっくりと口を開いたデュークは、殆ど無表情だけれど、少しだけ嬉しそうに目を細めていた
「……えぇ、思い出したわ」
ニッコリと笑い返す
「だが……その様子……二次人格は覚醒したまま、か」
デュークの言葉に苦笑いしながら、右腕を真横に伸ばして目をつぶった
指先に誰かが触れた感触があって、目を開けると、右隣にはわたしと瓜二つな子が立っている
違うのは髪の長さだけだろう
「……なるほど、『実体』を持っているという事は、元に戻る準備は、殆ど終わっているのだな」
わたしたちを見ながら、デュークは淡々と言葉を繋いでいった
「…なーんか、昔よりも愛想なくなっちゃったんじゃない?デューク」
腰に手を当てて、少し困ったように笑いながら、アリシアがデュークを見ている
「ふふ……昔から、愛想良く、が苦手だものね、デューク?」
わたしがそう言うと、デュークは少し顔を背けてしまった
「ところでさ?君、『鞘』どこにやったの?」
刀を取りながら、アリシアはデュークに問いかけた
……そうね……折角会えたのだから、それも聞いて置かないと……
「……城の、『あの部屋』のクローゼットの中、だ」
少し言いづらそうにデュークは答えた
……『あの部屋』……って……
「えぇ……なーんでそんな所に隠すのさ……そこ、アリアが一番行きたくないとこなんだけど?」
ギューッとわたしに抱きつきながら、アリシアはデュークに言う
……そこには、まだ、行きたくないわ……
「…すまない。そこが一番、安全だったのだ」
申し訳なさそうな声で、デュークが謝ってくるのが聞こえた
「参ったなぁ……どうやって取り行こう……」
呆れ気味にため息をつきながら、アリシアはわたしの背を撫でてくる
「……別に、急ぎでもないし……ゆっくり、で、いいんじゃない……?」
「そう?……アリアがいいって言うならいいんだけどさ?」
「どうせ……わたし、まだ刀……抜けないから……」
「……なんか、ごめん……」
小さく呟いたわたしに、アリシアが謝ってくる
別に……気にしてはないのだけれど……
「この先は、ずっと主人格でいるつもりなので?」
少し遠慮気味にデュークは問いかけてくる
その問いに、わたしは首を横に振った
「まだしばらくは、『アリシア』に代わっててもらうつもり。そうじゃないと、『彼』に……簡単に見つかってしまうから……」
「そうだねえ……『あの人』には、バレたくないもんね」
わたしから離れながら、アリシアは頷く
「……そうか」
「…デューク、一つだけ……お願いしてもいいかしら?」
デュークを見ながら体の後ろで手を組んで、首を傾げた
「内容による」
「……エステリーゼたちが、ここに来たら……わたしの事は伏せて、『新月』について、知ってること……少しでもいいから、話してあげて欲しいの」
ジッとデュークを見つめてそう伝えた
「……わかった。他の誰でもない、あなたがそれを望むなら……そうしよう」
真剣な目でわたしを見つめ返して来ながら、デュークはそう答えてくれた
「……そろそろ、戻られた方がいいのでは?」
少しだけ、寂しそうに、デュークはそう言ってくる
「……うん、そうね……アリシア?」
「はいはい、わかってるわかってる〜」
呑気にそう言いながら、アリシアはわたしに手を伸ばしてくる
「それじゃあ……またね、デューク」
デュークに微笑んで、アリシアと手を重ねて目を閉じた
ゆっくりと目を開ける
「……頼んだぞ。『二次人格』よ」
『ぼく』を見たデュークはそう告げる
「君も心配性だよね〜。安心してよ、『アリア』は必ずぼくが守るし、時が来たらちゃーんと元に戻るから」
そう言いながらフードを軽く被った
「あ、そうだ。次ここに来る時、多分ぼくだと思うから……ぼくが喋りだしたら、話合わせてくれる?」
デュークを見つめながら問いかける
「何故だ?」
「だって君、『新月』と『満月の子』同じに見られるの嫌いじゃん?ぼくの仲間、絶対失言しそうだからさ
そうなったら、話進まなくなるでしょ?だから、進まなさそうだな〜って思ったら、ぼく口開くから、合わせてよ?」
ニコッと笑いかけると、ほんの少し、デュークの肩が跳ねた
「……わかった」
渋々ながら、デュークは頷いた
「ん、ありがとう。じゃ、ぼくもう行くね?」
「……ああ」
短い返事を聞いて、屋敷を後にした
『……はぁ……怖かった……』
小さな声で、アリアが呟く
「(もう、引っ込んだ途端弱気になるんだから……そう言うけど、またぼくら、境界線が曖昧になりつつあるの、わかってる?)」
『わかってるわ、そんな事……それでも、怖かったものは、怖かったの……』
不服そうな声に思わず苦笑いした
さっきのが荒治療になったみたいで、ようやく、アリアも決心がついたようだけど……
……さすがに、素直に喜べないんだよなぁ……
『いつか……絶対、フェローに文句言わないと……』
「(ん、そうだね?うんと文句言ってやろ?なんなら一、二発殴っても良いと思うけど?)」
『それは……できそうだったら……かしら?』
「(ま、そうだね〜)」
『……早く、戻りましょ?多分そろそろ……みんな、起きているから』
「(だね。心配させないように、早く行こっか!)」
アリアにそう返して、ぼくは走り出した
ーーーーーー
薄れてく視界で、アリシアがゆっくり、得体の知れない魔物に歩み寄って行く
「(……バカ……やめろって……頼むから、逃げてくれ……)」
そう声に出したくても、それすらできない
止めようと、手を伸ばしたくても、動かない
何か、アリシアが言ってたが、それすらもう聞こえない
薄れていく意識の中で、最後に見たアリシアは……
……フードが外れ、金色の長髪をなびかせていた……
「……っ!!アリシア……っ!」
ガバッと飛び起きた
視界には見慣れない景色が映る
確か、砂漠で意識を失ったはずなんだけど……
ここは……宿屋……か……?
だとしても、どこのだ……?
回らない頭で考えようとしてみるが、どうにもわからない……
右手で額を押さえる
……さっきのは………一体……?
確かに、アリシアは昔は髪伸ばしてはいたが……あそこまで長くはなかったし、そもそも最近は伸ばしてるところも見ない
……幻覚、か……?
軽く深呼吸して、辺りを見回す
リタとカロルはまだ眠ってんな……他のヤツは……
見回していると不意に、左手に何かが触れた
視線を落とすと、一枚の紙が置いてあった
拾い上げると、見慣れた綺麗な字がそこには書いてある
【ユーリへ
少し街の中見て来るね
外には出ないから、心配しないで
アリシアより】
「……ったく……大人しく待っててくれりゃよかったのに……」
小さくため息をついて苦笑いする
メモ残して行っただけ、まだマシだが…
「さて……と」
小さく呟いて立ち上がり、部屋を後にした
建物の外に出ると、砂漠とは思えないほど、緑に溢れた街が視界に入ってくる
「おはよう」
辺りを見回していると、ジュディの声が聞こえた
声のした方を見ると、ジュディとエステルが橋の上にいた
「おはようさんのチューはいらんかの?」
パティの声に、少し視線を落とすとニコニコとオレを見上げて来ていた
そんなパティの頭を軽く撫でて、二人の方に歩み寄った
「ユーリ、もう大丈夫ですか?」
「ああ。おまえらこそ、大丈夫なのか?」
エステルの問いかけにそう問い返すと、三人とも、揃って頷いてきた
「オレら砂漠でぶっ倒れたよな?それが何で街にいるんだ?」
「誰かが助けてくれたようだけれど……」
「それが誰だか、分からないんです……」
少し困ったように二人は言った
まぁ……オレがぶっ倒れる前に全員ぶっ倒れてたし、見てるわけねえか
「助けた夫婦は?」
「わたしたちと一緒に、街に連れてこられたみたいです」
「みたい、ってことは、あの二人も見てないのか」
「彼らも気を失っていたようね」
あの夫婦までぶっ倒れてたのか……
こうなると本当に誰にもわから……
……いや、わかりそうなのが一人、いるな……
「なぁ、アリシア見てないか?」
三人を見回しながら問いかける
「いえ……わたし達が起きる前に、もう起きていたみたいで、この辺りでは見かけていないです」
おいおい……どこまで行ったんだよ……
「彼女が傍にいないのは不安かしら?」
「違うって。あいつ、オレが気失う前は起きてたから。なんか知ってるかもしれねえって思ってな」
首を少し傾げながらそう答えた
「あら、そうだったの。今、優しいおじさんがこの街のこと、調べに行ってくれているから、一緒に戻って来るかもしれないわよ?」
「優しい……?ああ、おっさんね」
ジュディの言い方に思わず苦笑いしてしまった
おっさんの事だから、ジュディの頼みを断りきれなかったんだろうな
「あっ、リタ、カロル、こっちです!」
そうこうしている内に、ようやく二人も目覚めたらしく、エステルがオレの後ろに向かって手を振っている
その右手には、見慣れない羽根が握られていた
「それは?」
「目が覚めた時、手元にあったんです」
不思議そうに少し首を傾げながら、エステルは答える
「あの魔物に羽根なんてなかったけど……」
リタの言う通り、羽根のはの字もなかったはずだ
「フェローの羽根ね、それ」
ジュディの言葉に全員が驚いた
これが……フェローの?
いやだとしても、あの場にいなかったのに、なんで……
「そう言えば……あの魔物って、結局どうなったんです?」
「言われてみればそうね。倒せたのかしら?」
そう言って、二人がオレを見て来る
「オレにもわかんねえよ。少なくとも、オレは倒してねえ」
肩を竦めながらそう答えた
「では、それもアリシアが知っているかもしれませんね」
そう話していると、背後から足音が聞こえてきた
振り返るとおっさんと、ラピードが並んで歩いていて、そのラピードの後ろにフードを浅く被ったアリシアがいた
「ったく、どこ行ってたんだよ?」
「えぇ……ちゃーんと置き手紙して行ったのに……街の中ウロウロしてただけだよ〜」
少しムッとしながら、オレの方に近寄って来る
「おじさまも、おかえりなさい」
「なんで俺が調べに行かなきゃなんないの」
ニコッと笑ったジュディに対して、おっさんが不機嫌そうに顔を歪める
「私が行っちゃうと、あなたとエステルたちを置いて行くことになるでしょ。それは危ないもの」
クスッと笑いながら、ジュディは答える
確かに、ジュディの言う通りかもな
「……危ないおっさんでも結構だけど……どうやら、ここがヨームゲンって街らしいぜ」
不服そうにしながら、おっさんは告げる
まだ街……残ってたのか
「魔物を退けるために
カロルは少し不思議そうに首を傾げる
「なるほど。この街、結界ないものね」
空を見上げながら、リタが呟く
言われて見りゃ、結界ねえよな……
「だから魔物を退ける方法ってのを探しておったのじゃな」
「でも、あれは千年も前の話でしょ」
おっさんの言う通り、千年前の話なはずだ
今の今まで、よく街が残ってたな
「ああ。それに結界なしで暮らしてるなんて妙だ」
「そうだよね」
おかしな状況に、全員揃って首を傾げる
「んー、とりあえずさ?街の人に
オレらを見回しながらアリシアはそう言ってくる
確かに、それが早い、か
「だな。…けど、その前に」
「ん?」
「あの魔物、どうなったんだ?」
アリシアの方を見ながら問いかける
「あー……あいつ?ユーリが倒れてちょっとしたら、興味無くしたのか消えちゃったよ?」
「消えちゃったって……いなくなったんじゃなくて?」
「出て来た時と同じように、急に目の前から消えたから、消えちゃった以外の言いようがないんだけど……」
少し困ったような表情を浮かべて、アリシアは答える
「アリシアはここまで連れて来て下さった方を見ましたか?」
「それが……変な魔物消えたら気抜けて、ぼくも気失っちゃってたから……わかんないんだよねぇ……
目が覚めた時には、もうこの町の入口だったし、街の人が宿屋まで連れて行ってくれた事だけは知ってるんだけど……」
ハッキリと、アリシアは答える
……見てない、ねえ……
ほんの少し違和感はあるが、問い詰めたって答えやしないだろう
「……ま、知らねえなら仕方ないな。箱の事、聞きに行こうぜ?」
そう言って、アリシアの手を取って歩き出した
箱の事を知ってるヤツを探しながら歩いてテラスまで来ると、そこにいた女が急に声をかけてきた
「その箱……ロンチーの持っていた……!」
エステルが持ってる箱を見ながら問いかけてくる
「この箱について何かご存知なんですか?」
「私の恋人が持っていた箱です……それをどこで?」
ゆっくりと頷きながら彼女は答える
「アーセルム号って名前の船だけど……」
「では、ロンチーに会いませんでしたか?」
少し食い気味に、彼女は問いかけてくる
「えっと、ボクたちが見たのはその、船の方だけなんだ」
「そ、そうですか……」
カロルがそう答えると、ガックリと肩を落とした
あんな幽霊船に、恋人が乗ってるって…?
「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
違和感を感じていると、ジュディが彼女に名前を聞いた
「あ、私ユイファンと言います」
その名前には聞き覚えがある
あの日記に書かれていた名前だ
……一体こりゃ……どういう事だ?
「あんた、
そう問いかけると、彼女はまた頷く
「結界を作るために必要なものだと、
「はい。わたしたち届けにきたんです」
エステルがそう答えると、彼女は鍵を取り出した
その鍵を箱に刺して回すと、あっさりと箱が開き、中から綺麗な水晶が出て来た
これが……
リタが彼女に
こいつも気にはなるが、それよりも、なんで鍵を持っていたのかが気になる……
これを届けようとしたヤツは、千年も昔のヤツだ
それなのに、なんでそいつのことをまだ知ってるヤツがいんだ……?
「ご、ごめんなさい、私よくわからないんです……とにかく、結界を作るために
不意にそんな言葉が聞こえて来た
……三年?
「……三年、ね。そりゃ心配するわな」
とりあえず、彼女にそう返すが……年数がかみ合っていない
「なんか色々話がおかしくない?」
「話がかみ合ってませんね」
「千年の間違いなんじゃないん?」
「それじゃ、彼女、何歳?」
ヒソヒソと意見を言い合うが、どう考えてもわかりそうにはない
「その
不意にジュディが、彼女に問いかけた
「え?あ、街の一番奥の家に」
そう言って指さした方向には、周りよりも少し大きめの家があった
「
「…それもそうだよね〜」
今の今まで黙りこくってたアリシアが、呑気にそう言いながら頭の後ろで手を組んでいた
「あのぉ……それじゃあ、
少し遠慮気味に彼女は問いかけてくる
「うん、いいよ」
アリシアがニコッと笑って答えると、彼女はペコッと頭を下げた
「じゃ、すいません、お願いします」
そう言うと、彼女は海の方を見つめた
「行ってみよう」
カロルの言葉を合図に、今度は奥の家に向かった
家の前について扉を開ける
「邪魔するぜ」
そう言って中に入って、視界に入った人物は……デュークだった
「え……この人が……?」
「あんたは……」
カロルもリタも驚いてデュークを見ている
「……ここに何をしに来た?」
ぶっきらぼうにそう問い掛けてくる
「こいつについて、ちょっとな」
デュークに歩み寄って、
「わざわざ、悪いことをした」
「いや……まあなりゆきだしな」
「そうか……だとするなら奇跡だな」
すると急にリタが「変な
ま、エフミドやカルボクラムの
「これは
「術式が刻まれていない
「一般的には
その答えに驚いた
まさか、おとぎ話って言われてる
ましてや、目の前のそれがそうだとは、思ってもいない
「これが
一番驚いてたのはおっさんだ
まじまじと
「それに、
デュークはそう言いながら、オレらに背を向ける
「え……?」
「かの者はもう死んだ」
静かに、ハッキリとそう答える
「そりゃ、困ったな。そしたら、そいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ないものだ」
オレの言葉にそう返すと、
「あ〜、何すんの!待て待て待て!」
おっさんが止める前に、以前にも見た光が辺りを包む
光が収まると、
「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」
「あっちゃ〜。せっかくの
残念そうにおっさんは頭に手を当てて項垂れる
「
世に混乱をもたらす……ねえ……
だとしても、何も壊さなくたっていいだろ……
「
エステルは首を傾げながらそう問いかける
「この街に、結界も救いも不要だ。ここは悠久の平穏が約束されているのだから」
どこか意味深な言葉をいいながら、デュークは窓の方へと視線を向ける
「でも、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「なぜ、フェローのことを知っている」
エステルの言葉に、少し声のトーンを落として問い返してきた
「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知ってんだな」
「知っていることを教えてくれませんか?わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」
エステルが問い返すと、デュークは少し目をつぶった
そして、ゆっくりと口を開く
「……なるほどな。……この世界には
「満月の子って伝承の……もしかして、
「その通りだ」
「どうしてその
エステルは更にデュークに問いかける
ここで全部わかりゃ、フェローを探す必要もなくなんだけど……
「真意は
冷たい声で、ハッキリとデュークは告げる
……ま、そう簡単にゃいかねえよな
「……が、一つだけ、満月の子を
ゆっくりとエステルの方を向きながら、デュークは言葉を続ける
「お前の祖先は、決して手を出してはいけない方に手を出した。民を人質に自分たちの都合のいい契約を結ばせ、縛り付けた。……千年経った今なお、かの者の自由は奪われたままだ」
どこか蔑むように、デュークは告げる
一体、何のことを言ってんだ……?
「契約……?まさか……『新月』……?」
ポツリと、エステルが呟く
……そういや、初代の皇帝と契約をしたって言ってたな……
「え?でも、エステルとアリアンナって子、遠縁なんじゃないの?」
カロルがそう言った瞬間
「満月の子と『あの方』を同じと思うな!」
急に、デュークが声を荒らげた
殆ど無表情に近い顔しか見てこなかったが、今はほんの少し、怒っているように見える
「『あの方』は世界にとって、なくてはならない方。決して沈ませてはならない。……満月の子と、同じと思うな」
ほんの少し睨み気味に、デュークはエステルを見つめている
……こいつ、なんでここまで怒ってんだ……?
「……やっぱり、そうだ」
小さく呟きながら、アリシアがジッとデュークを見つめる
「ずーっと、どこかで会ってた気がしたけど……君、アリアの傍に、よく居た人だ」
「……よく、覚えていたな。お前とは、数回しか会った事がないと思うが」
「そりゃ、アリアが懐いてたし?あの子が懐いてる騎士って、ぼく三人しか知らないもん」
どこか懐かしそうに微笑みながら、アリシアがデュークを見つめる
…って、騎士…っ!?
「では……あなたは……」
「…今はもう元だ。アリアンナ殿が居ない帝国に、誓う忠義などない」
ぶっきらぼうに、デュークはそう返す
まさか、こんなところで、『新月』について知ってそうなヤツに出くわすとはな……
「んで?あんた、なんでそんなに同じに見られんのが嫌なんだよ?」
「… 満月の子は世界を脅かす脅威であり、新月は世界を守る守護者であり、根本的に全く別の人間だ
そもそも、満月の子と新月に、血縁関係はない
千年前の満月の子らは、新月との間に子を生そうと試みたそうだが……力の性質が真逆なせいで、子はなせなかったそうだ。……以来、新月はそれまでの姓ではなく、『ヒュラッセイン』を名乗るよう強要されている
…ただ、満月の子らが、自分たちの傍に新月を置いておきたいという為だけに」
デュークの言葉に、エステルが目を見開いて口元を隠した
「……嘘……そんな……」
崩れ落ちそうなエステルの傍にアリシアが駆け寄る
「っと……あのさぁ…君、もう少しオブラートな言い方なかったの?」
ジトーっとデュークを見つめながら、アリシアはエステルの背を撫でていた
そんなアリシアから、デュークが気まづそうに顔を背けた
「ホント、昔っからそうだよねぇ……愛想がないっていうか、他人に冷たすぎって言うか……
アリアに見られたら、怒られるよ?」
「……お前を見ていると、アリアンナ殿の姿がチラつくな……もう去れ。これ以上は、何も話す事はない」
そう言って、デュークはオレらに背を向けた
そんなデュークに、アリシアはただため息をついていた
「…行こ、みんな」
そう言うと、エステルを支えながら、扉の方へ歩き出した
……やっぱり、あいつは何かを知っている
けど……さっきのデュークとの会話……
……アリシアとアリアンナは別人、ってこと、だよな……?
ーーーー
「エステル、大丈夫?」
家の前の階段にエステルを座らせて背を撫でる
全くデュークってば……何もあんな話を教えなくても…
一番、知られたくなかった事なんだけど……
『けれど……デュークが知ってるのは、多分……そのくらいよ……』
「(あー……そうだっけ?)」
『仮に力のことを知っていたとしても……それは、
「(……デュークなら、そこまではしてくれないね……)」
小さくため息をつきながら、エステルを見る
これ、どうしたらいいんだろ……
「……あんた、さっきの話、知ってたの?」
不意に聞こえた声に顔を上げると、訝しげにリタが見つめてきていた
「知らないけど……でも、エステルとアリアに血縁関係がないのは、なんとなく気づいてたよ
昔アリアがそんなような事、ボソッと言ってたから」
「え?なんて?」
「『エステリーゼとヨーデルとは、本当は姓が違うのに……』って」
ハッキリとそう答えた
……嘘は、言ってない
これは、昔兄さんに、本当に言ったことだから
「それ、なんで言わなかったのよ?」
「言う必要なかったから。アリアはエステルのことも、ヨーデル様のことも……本当に弟や妹のように見てたの、知ってるから。例え血縁関係がなかったとしても、アリア本人がそう思ってるんだから、変に言わない方がいいと思って」
そう言って、肩を竦めた
これも本当のことだ
本当に……二人のことを、そう思ってる
「はぁ……その感じ、あんた他にも何か隠してそうよね」
ジトーっとリタがぼくを見つめてくる
……これは、ちょっとまずいなぁ……
いくらアリアの決心がついたとは言え、兄さんに相談なしで、勝手に話す訳にはいかないし……
大体、エステルにはまだ知られるわけにいかない
ぼくらは『あの人』に見つかるわけにいかないんだから……
口の軽いエステルに教えて、どこから漏れるかわからないし……
それ言ったら、カロルもなんだけど
「リタも疑い深いなぁ……ぼくがホントに、知ってると思う?」
苦笑いしながら首を傾げる
リタはただ無言でぼくを見つめてくる
「んー、そんなに問い詰めようとせんでもよくない?アリシアちゃんも、話せることなら話してくれんじゃないの?」
沈黙が続いてると、レイヴンはそうぼくを擁護してくる
……ちょっと意外、かも
「……ま、それもそうね」
渋々ながら、リタも納得はしてくれてみたい
「ぼくがなんか知ってる前提で話されてもなぁ……ホントに何も知らないかもよ?」
ニヤッと笑いながら答える
「あんた……ほんっと性格悪いわよね」
「えー?そんな事ないって!それよりエステル、大丈夫?」
隣にいるエステルにもう一度声をかけると、ゆっくりと顔を上げた
「……アリアンナは……全て、知っているのでしょうか……?」
悲しそうな顔で、恐る恐るぼくに問いかけてくる
「そこまでは知らないけど……でも、アリアは優しい子だから、知ってたとしても、エステルやヨーデル様を嫌いになったりしないと思うよ?」
ニコッと笑ってそう答える
嫌いになるはずがない
祖先がやった事と、エステル達は関係ないんだから
「ほーら、いつまでもそんな顔してないの!」
そう言ってエステルの頬を突っつく
「……アリアに会った時に、そんな顔してたら、あの子泣いちゃうよ?」
ぼくの言葉に、エステルが一瞬目を見開いた
けど、すぐに寂しそうに微笑む
「そう……ですね。アリシアの言う通り、です。……もし会えたら……笑っていないと、彼女も泣いてしまいますね」
「それで?これからどうするの?」
さっきから全く喋らないユーリ達を見ながら問いかける
「あたしはこの街に残る。調べたいことがあるから」
真っ先にリタはそう答えた
「調べたいことです?」
「
そう言うリタにユーリ達が呆れた顔をしていた
……まぁ、そうだよね
だって、リタ……帰りのこと、何も考えてないでしょ……
「そう……残念。砂漠一人で大変だと思うけど、頑張って」
ジュディスがそう言うと、どうやら思い出したらしく、顔を顰めて俯いた
「う……そうか……砂漠越えないとダメなんだった」
「調べもんの間ぐらい俺らもいていいんでない?
少し頭を抱えてるリタに、レイヴンがそう答える
「また砂漠へ行くなら、のんびりと準備でもするのじゃ。もう行き倒れは勘弁なのじゃ」
パティの言う通り、だね……
あれは、もう嫌だな……
「そうだな。出発は明日にするか。リタ、一日あればいいだろ?」
ユーリがそう声をかけると、リタが頷いた
「ええ。十分よ。あ、ありがと……一応礼いっとく」
……珍しい、リタが素直にお礼言うなんて
「はは。どういたしまして。じゃあ明日の朝、街の出口集合な」
「うん、わかった」
カロルの声を合図に各々、街の中に散った
さてと……自由行動って言われても、何しようかなぁ……
『……アリシア、フレ兄に手紙、出さない?』
「(……それもそうだね)」
アリアの意見に同意して、宿屋に向かおうとする
『あ、でもその前に、ユーリに言っておかないと……また怒られるわよ?』
「(……忘れてた……)」
アリアが言ってくれなきゃ、また怒られるところだった……
慌てて、ユーリの方に近づく
「ユーリ、ぼく宿屋にいるね?」
そう声をかけると、驚いた顔してぼくを見てくる
「……なんでそんなに驚いてるのさ……」
ムッと頬を膨らませながら、ユーリを見つめる
「……いや、アリシアの事だから、まーた勝手にいなくなるもんだと思ってたから、な?」
そう言って、苦笑いしながら、ぼくの頭を撫でてくる
「もう……勝手に動かないって、ちゃんと約束したじゃん」
「ははっ、悪かったよ」
困ったように笑いながら、ユーリは言ってくる
「とりあえず、宿屋にいるからね?」
「はいよ」
ユーリの手が離れてから、宿屋の方に向かって歩き始めた
「(もう……酷いなぁ、ユーリ)」
『それはアリシアが悪いと思うわ……今まで勝手してきたんだもの……』
「(うっ……アリアにそう言われると、言い返せない……)」
アリアとそんな会話をしながら宿屋に戻った
ベッドに腰掛けて、紙とペンを取り出す
『……ね、今、出ても平気かしら……?』
「(珍しい……アリアがそんな事言うの。……まぁ、大丈夫だと思うよ)」
そう言って、左腕を横に伸ばして、目を閉じた
指先に触れられた感触を感じて目を開けると、アリアが隣に座っている
「急にどうしたの?アリア」
「……ね、アリシア……」
不安そうな声で、アリアが口を開いた
「……まだ、見つかってないわ。アリシアがいなくなっても、傍にいるって……思える方法……」
寂しそうに、アリアが呟く
ちょっと驚いて、目を見開いた
「アリア……もしかして、それ言うために出てきたの?」
「……そうだけれど?」
首を傾げたアリアに、思わず苦笑いした
「んー……そうだなぁ……」
腕を組んで、唸りながら首を傾げる
確かにそんなに時間もないからそれも考えないといけない
けどなぁ……方法、ねぇ……
「……やっぱり、そんな方法……ないのかしら……」
泣きそうな声で、アリアは呟いた
「まぁ…難しい話なのは確かだけど……」
そう言って、ふと思い出した
「そう言えばアリア、一人に戻ったら口調は戻すつもりなの?」
「そのつもり……だけれども……?」
その答えを聞いて、一つ、思いついた
「…ねえ、試しにさ?ぼくと同じ口調にしてみない?」
ニコッと笑いながら、そう問いかけた
「……え?」
「そうしておけば、『傍にいる』ってわからなかったとしても…『ぼくがいた』って事は、ずーっと覚えていられるでしょ?」
ぼくの答えに、アリアはポカーンと見つめてくる
けど、少しすると泣きそうな顔でクスクスと笑い出した
「あはは……っ、なに、それ……、アリシアって、時々変なこと言うわね……っ」
「そうかな?……けど、それが一番現実的だと思うけどなぁ」
そう言って苦笑いした
「ふふ……っ、……それも、そうかもしれないわね」
ニッコリと笑いながら、アリアはぼくを見てくる
「大体、ぼくはまだまだいなくなるつもりはないからね?ちゃーんと、アリアが一人でも歩けるようになるまではいなくなったりしないって」
「……それ、約束よ?アリシア」
「もちろん!約束だよ、アリア」
そう言い合って、ぼくらは笑う
ようやく、ここまで来たんだ
ようやく……アリアが『また』、笑ってくれた
もう二度と……この笑顔は消させたくない
『ぼく』はその為に、ここにいるのだから
