第三章 満月の子と新月
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*砂漠の魔物 〜彼女の覚悟〜
ーー翌朝ーー
全員が起きる前に目が覚めて、ゆっくりと起き上がった
隣では、大人しくアリシアが眠っている
……昨日の、ありゃ……夢、か……?
そっと左の頬に触れる
夢だったのか、夢じゃないのか……わからない
寝ぼけてたとしても、アリシアは今までそういう事をしてきた事はないし……
ガキの頃、友人が面白半分でアリシアにやらせようとして、フレンが激怒してたこともあったくらいだから、それを考えればやりそうにはねぇし……
それに……内緒だっつって唇に当ててた手……左、だったよな……?
いつもなら、右手なのに……
……つか、『フレ兄』って……フレンのこと、だよな?
そんな呼び方、してたか……?
夜中のアリシアを思い出すと、色々引っかかる
昼間に大勢騎士がいたにも関わらず外に出た事もだが……
必死に普段通りを装おうとはしてたが……どこか不安そうなあの表情と声……
あれは、あいつらがよく顔を出すようになった後、騎士が下町に来た時によく見た顔で、よく聞いた声だ
最近じゃ殆ど見ることもなかったが……
……いや、つい最近、ノードポリカでも似たような顔してたな……
ここ最近……妙におかしい
急に、無理無茶の範囲がデカくなったり、極度の人見知りのくせして、砂漠に行くための準備頼んだりしたかと思えば、今度は怯えてるくせにそれを無理に隠そうとしたり……
見た目は同じでも、中身だけがコロコロと代わっているような気がしてならない……
頬を触っていた手を下ろして、アリシアをジッと見つめる
正直……何か知ってるだろうとは思っちゃいたが……昨日のあの感じだと、色々知っていそうだ
問い詰めたい気持ちがないわけじゃねぇが……あんな怯えた顔されちゃ、聞くに聞けねぇわな……
苦笑いしながら、アリシアの頬を撫でる
この先、アリシアが何か隠しているのがわかったとしても……またあんな顔されるワケにもいかねぇし、問い詰められねぇな……
「……んー……」
そんな事考えながら撫でていると、アリシアが小さく唸って、ゆっくり目を開けた
「おはよ、アリシア」
「……ん……おはよう、ユーリ」
眠そうな目を擦りながら起き上がって、ニコッと笑いかけてくる
「……なぁ、夜中寝る前のこと、覚えてるか?」
そう問いかけると、キョトンとした顔で首を傾げた
「ユーリと話した後の事?……ぼく、なんかしたっけ?」
不思議そうにアリシアは問い返してくる
……やっぱ、オレの気のせい……か……?
「いや、なんでもねぇよ」
少し肩を竦めながらそう返すと、ますます首を傾げた
そうこうしているうちに、他のヤツらも起き出した
ーーーー
起きてから、ぼくが寝てる間のことを聞いた
エステルの依頼はとりあえず終わり……って形になったみたい
この先は、ギルドの掟に反するからついて行くのだと
ホント……昔からエステルは一度言い出したら聞かないんだから……
軽く身支度をして、宿屋の受付に向かった
受付の傍に騎士の姿はない
さすがに四六時中見張ってるわけじゃないみたいだね
「世話になったな」
ユーリが受付の人に声をかけると、本当に砂漠に行くのかと再度聞かれた
まぁ……普通は止めるよねぇ
けど、行かないわけにはいかないからね
ユーリたちと宿屋の受付の人が話してるのをジッと見る
……ユーリ、意外と普通……だね
正直、もう少し何か言ってくるだろうって思ってたんだけど……
いや、まぁ……あれを問い詰められても困るから、別に聞いて来ないならそれでいいんだけど……
『……もう少し、問い詰められておけばよかったのに……』
少し不服そうにアリアが呟いたのが聞こえた
「(……そんなこと言うなら、問い詰められてる時にアリアと無理矢理にでも代わるよ?)」
そう返すと、アリアは黙り込んでしまった
全くもう……
「ところでさ、ここにいたあの騎士、何?」
不意に聞こえたリタの声にハッとした
……まずい、全く話聞いてなかった……
「ずっと見張られてて、おっさん、緊張しちゃったよ」
レイヴンがヘラヘラとしながら、頭の後ろで手を組んで受付の人を見つめている
「……あれは、監視です。住民が外から来た方と勝手に話をしないようにと……理由はわかりませんが執政官命令で、私のような商売人以外は外出禁止なのです」
小さな声で、彼はそう答えた
執政官命令って……こんなとこにも執政官なんていたっけ?
「なるほど……だから、街中に住民の姿が見えないんだな」
「ここでも執政官が悪だくみしてるのかな」
そう言ってカロルが首を傾げる
どこに行っても……やっぱり、貴族は変わらない
「つい最近まで執政官なんていなかったのに、とうとうここに来て……」
「そうなんです?」
ため息をつきながら発された言葉にエステルが首を傾げた
「ええ。最近、ノードポリカで騎士団が動いているとか。遂に騎士団がベリウスの捕縛に乗り出したみたいで、この街に帝国の執政官が赴任してきたのもその波紋みたいですね」
その言葉に息を飲む
……騎士団が……ベリウスを……?
心臓がバクバクと跳ねる音が大きくなる
どうして、そんな……
「騎士団がベリウスを捕まえるの!?」
驚いたのはぼくだけじゃなく、カロルやみんなも同じだった
「なんでも闘技場の
受付の人は尚言葉を続ける
嘘だ……ベリウスが、そんな……
『……アリシア、落ち着いて?わたしより、あなたが焦って、どうするのよ……』
頭にアリアの言葉が響いてハッとする
……アリアの言う通りだ
彼女の代わりのぼくが焦って、彼女を不安にさせるわけにいかない
「(……ごめん、あんまりにも唐突で……ちょっと、取り乱した)」
みんなに気付かれないように注意しながら、少し深呼吸をした
彼の話では、どうやらこの街ではそう言われているってことらしい
……けど、なんでそんな話に……
『……大丈夫……?』
不安そうにアリアが声をかけてくる
「(……大丈夫だよ。ごめんね、アリア)」
アリアにそう答えると、宿屋の入口から騎士が入って来て、昨日と同じ位置に立った
「ご利用ありがとうございました」
何事もなかったかのように受付の人がそう言ってお辞儀をしてきた
さっきの話が気になるらしいカロルが問いかけようとしたけど、ユーリがそれを遮った
「世話になったな。湖に水汲みに行くぞ」
ぼくらにそう言うと、ぼくの手を引いてユーリが歩き出した
その後をみんなが慌てて着いてくる
湖について、ぼくらは水を汲んだ
思っていたより水筒は小さめだけど、まぁ、このくらいあれば十分か
いよいよ砂漠に向かおうとしたところで、子どもの叫び声が聞こえた
振り返ると、二人の騎士が小さな子ども二人を相手に揉めている
お父さんとお母さんがどうの……って声が聞こえたけど……
フードを深めに被り直していると、ユーリが子どもたちの方に駆け寄った
「執政官とやらの代わりに、オレが叱っといてやるよ」
ユーリが騎士に声をかけると、口出しするな、と騎士がユーリを見た
……大丈夫かな、あれ……
殴り倒したりしなければいいけど……
そんな事考えてると、エステルもユーリの元に向かって行った
「許してあげてください。わたしが直接、この子たちに代わって執政官に頭を下げます」
真剣な顔で、エステルが騎士を見つめると、二人は何か話した後、大人しく引いて行った
あれ……騎士にエステルのことバレてないかな?
少し苦笑いしながら、ユーリたちの方に歩み寄った
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
嬉しそうな顔で二人はユーリとエステルにお礼を言っていた
「お父さんとお母さん、どうしたの?」
子どもたちの傍によって、目線を合わせながら問いかける
「んーとね、シッセイカン様の馬車に乗せられて砂漠に連れてかれちゃった……フェローのチョーサするんだって」
その答えに息をのんだ
ベリウスだけでなく、フェローまで……?
心臓が跳ねる音が、ヤケに大きく聞こえる気がした
「でも、フェローの調査って何をする気よ?」
「それに街の人を利用してって事だよね?酷くない?」
リタとカロルのそんな会話が聞こえてくる
街の人を利用するのも確かに問題だけれど……
問題なのは、そこじゃない
……『あの人』、まさか……
今まで感じなかった不安が一気に押し寄せてくる
『……駄目そうね、アリシア……』
不意にアリアの声がまた響いた
「(……みたい、だね……昨日ので、若干……アリアに引っ張られてるかな……?)」
アリアと会話してる横で、ジュディスが両親を探そうと、砂漠に入ろうとしている子どもたちを止めていた
『……そう、かもしれないわね。……砂漠に入ったら……代わる?』
「(まさか、そう言われる日がくるとは……)」
内心苦笑いしながらアリアに答える
正直、それはまだまだ先の話だと思っていた
『そんなんじゃ、余計に怪しまれちゃうわ……
砂漠なら、早々騎士も来ないだろうから……それに、「みんなの前で代わったら?」って言ったの……アリシアじゃない?』
「(あはは……そうだったね……じゃ、砂漠入ったら交代って事で)」
「私、ウソはつかないわ。……いいでしょう?カロル」
アリアと会話を終えると、ジュディスがそう言ってるのが聞こえた
あんまり話、聞いてなかったけど……
この子たちの代わりに、両親探すのかな……?
「うん。いいよ」
普段なら渋るカロルが、あっさりとオッケーを出した
その理由はすぐにわかった
「義をもってことを成せ、ですよね」
エステルが言った言葉は、ギルドの掟だ
たしかに、ここで見捨てでもしたら、それは不義だよね
「ありがとう!お姉ちゃんたち」
「お礼にこれ、あげる!」
二人はそう言って、ジュディスに何か手渡すとそのまま走り去って行った
立ち上がって、ジュディスの手の中にあるものを見る
「ガラス玉?」
その手の中には、キラキラと輝く小さなガラス玉が握られていた
子どもにとっては宝物……だね
「素敵な宝石だわ」
優しく微笑みながら、ジュディスはぎゅっとガラス玉を握りしめた
「仕事の報酬ですね」
ニコニコと笑いながらエステルがジュディスを見る
「先払いしてもらった分、きっちり働かないとな、カロル」
「そうだね」
カロルがそう言うと、みんな砂漠の方に向かって歩き出した
……それにしても……
「……フェローの調査……か……」
小さく呟いて顎に指をあてた
……なんだか、どんどん良くない方に事態が動いている気がするんだよなぁ……
「アリシア、ボサっとしてると置いてかれるぜ?」
ハッとして顔を上げると呆れたように微笑んでるユーリが目に映った
「ごめん、ちょっとボーッとしてた」
「ったく、ほら、行こうぜ?」
そう言って、ユーリは手を差し出してくる
小さく頷いて、その手を取って歩き始めた
『……アリシア、そろそろ……』
街の入口が近づいて来たところで、アリアが声をかけてくる
「(……ん、そだね。ごめんね……アリア……)」
『いいわ、別に……だって、またフェローやベリウスの話題が出たら、アリシア、口滑らそうだもの……』
そう言われてしまって、少し苦笑いする
ぼくがしっかりしなきゃいけないのに……
……やっぱり、ぼくが……『アリア』が思っている以上に回復は早そうだ
……昨日のユーリのおかげ、かな?
そんなことを考えながら、軽く目をつぶった
ーーコゴール砂漠ーー
「……影一つない、ですね」
辺りを見回しながら、エステリーゼが呟く
どこを見ても砂まみれ
日差しを遮るものは全くなく、ものすごく暑い
フードを被ってるお陰なのか、わたしはあまり辛くはない
……エステリーゼ……こんなところに、一人で来ようとしていたなんて……さすがに無謀すぎよ……
「この暑さ、想像以上だね……」
「準備なしで放り出されたらたまんねぇな」
ラピードの傍にしゃがみながら、ユーリが呟く
ユーリ……服も黒いし、余計暑そうね……
「あのおっさんは、準備なしでも平気そうよ」
少し遠くを見ながらリタが呟く
その方向を見ると、元気に飛び跳ねてるレイヴンが見えた
……前から思っていたけど……どこかで会ってる気がするのよね……
でも、どこで……?
「おっさん……暑くないのか?」
少ししんどそうに、ユーリがレイヴンに問いかける
「いや暑いぞ、めっちゃ暑い、まったく暑いぞ!」
その言葉とは裏腹に、声は元気だし、その場で一回転しているのだけれど……
……うん、昔会ったことがあったとしても、なかったとしても……今はすごく鬱陶しいわ……
「うっとうしい……」
リタも同じことを考えてたみたいで、頭に手を当てながら項垂れてる
「暑いって言われるたびに……温度が上がっていく気がします」
「水の補給を忘れないようにしときゃ大丈夫よ」
「サボテン、ですね……」
しんどそうに、エステリーゼがレイヴンと会話してる
こんなところ、水なしじゃ、倒れてしまうし……こまめに補給しないと……
そこでふと思い出した
「……あの子たちの両親、何も、準備してないよね……」
ポツリと呟くと、ジュディスがわたしの方を向いて頷いた
「ええ……あの子たちの依頼を先、にしていいかしら?」
ジュディスはそう言って、カロルとエステリーゼを交互に見る
……フェローを探さないといけないのもそうなんだけれど……それよりもまず、あの子たちの両親を見つけてあげないと……
……わたしはあまりフェローに会いたくないのだけれど……
でも、エステリーゼは引いてくれなさそうだから……
例え会えたとしても……お願いだから、余計なこと、口走らないで欲しいわ……
「……よし、二人の両親を探そうぜ」
どうしたらいいのか迷っているカロルを見かねたらしいユーリが、そう言って立ち上がった
すると、タイミングが良いのか悪いのか、空から鳴き声が聞こえて来た
……これは、フェローね……
まだ心の準備、できていないのに……
けれど、降りてくる気はなかったらしく、フェローはどこかへと飛び去って行ったようだ
その事に安心して、小さく息を吐いた
「今のフェローの?」
聞こえた鳴き声に、エステリーゼが反応する
「やっぱりフェローはこの砂漠にいたんだ!」
嬉しそうに、カロルがその場で跳ねているけれど……わたしはあまり、嬉しくはないのよね……
「急かすなって。あの子どもたちの依頼が終わったら、存分に相手してやるからさ」
ユーリが空を見上げてそう呟いたのが聞こえる
……めちゃくちゃ喧嘩腰ね……
そんなユーリに、小さくため息をつきながら、子どもたちの両親を探して、砂漠を歩き始めた
砂漠を歩き回り始めて、どのくらい経ったかしら……
相変わらず、レイヴンは先頭で元気に飛び跳ねてる
その少し後ろを、わたしは歩く
「ほれ、たらたら歩くと余計疲れるぞ〜」
わたしの後ろの方を見ながら、元気に声をかけてる
立ち止まって振り返ると、しんどそうなユーリ達の姿が目に映る
みんな……そんなにしんどいのかしら……?
「なんで、そんな元気なの……?」
うぅ……っと小さく唸りながら、カロルがレイヴンを見ている
「いるよな、人がバテてる時だけ、元気なヤツ……」
顔を顰めて、呆れ気味にユーリが呟く
この中じゃ、ユーリが一番暑いわよね……
「ぶっ飛ばしたい……」
拳を握りしめながら、リタはレイヴンを睨む
まぁ……その気持ちは、わからなくないわ
「ムダに動くなよ」
「そんな元気もないわ……」
ユーリの言葉に、リタは首を横に振って、少し俯いていた
「というか……アリシア……暑くないの……?」
しんどそうな声で、カロルが問いかけてくる
「……まぁ……そんなには……?さすがに、レイヴンみたいに飛び回る元気、ないけど……」
ほんの少し、肩を竦めながら答えた
……バレない……よね……?
『……アリア、もー少し、元気よく話した方がいいかもよ……?』
ちょっと遠慮気味に、アリシアが声をかけてきた
そんな事言われても……
アリシアの口調で喋るの、難しいんだもの……
「フードが、日除けになっているのかも……ですね……」
少しふらふらとしながら、エステリーゼが呟く
……大丈夫、かしら……?
「ん……かもね?」
「ところで、あんた、こんな砂漠に何しに来てたの?」
短く言葉を返したら、今度はリタが、ジュディスに問いかけていた
…確かに、少し気になるかも……?
「ここの北の方にある山の中の街に住んでたの、私、友達のバウルと一緒にね」
ニッコリと笑いながら、ジュディスは答えた
山の中の街……そう言えば、何処かの山にクリティア族の街があるって……昔、お母様が言ってたわね……
「それにしても何かを探す余裕はなさそうね。これは」
ジュディスはそう言いながら、みんなを見回した
「まったくな。自分の命繋ぐのに精一杯だ……」
辛そうな表情でユーリが答える
これは……少しまずそう、ね……
「……早めに、何か手がかり、探そ?」
そう言って、また歩き出す
手がかり……と言っても……この砂まみれの場所に、そんなものあるのかしら……
何かないかと、キョロキョロと辺りを見回しながら歩くけど、めぼしいものは見つからない
「ちょっと……このへんで……休憩に、しない……?」
苦しそうなリタの声に、また足を止めて振り返ると、カロルとエステリーゼ、リタはかなりしんどそうな顔をしていた
ユーリもしんどそうだけど……三人よりはまだマシ、なのかしら……?
「まったくしょうがないねぇ」
レイヴンが頭の後ろで手を組みながら、呆れ気味に呟いている
休憩したい気持ちもわかるけれど……さすがにここでは、ちょっと……
「あ〜!」
そんな事考えてると、カロルが大声を上げて走り出した
「お?ついにひとり壊れた?」
びっくりしていると、ちょっと楽しそうに笑いながらレイヴンがそう言ったのが聞こえた
あの……それは呑気に言う事じゃ……
「水っ!」
カロルに続いて、リタも大声を上げて走り出した
水……?
二人が走っていった方向を見ると、小さなオアシスが薄らと見えた
あぁ……だから元気になったのね……
「あ、ちょっと、気をつけて、砂に足を取られたら、危ないですよ!」
ちょっと呆れていると、エステリーゼも二人を追いかけて走り出して行った
「なんだよ……まだ元気じゃねえか」
大きくため息をつきながら、ユーリが項垂れるのが視界に映る
うん……まぁ……その気持ちもわかるわ
「おっさんも行くか!」
さっきからずーっと元気なレイヴンも、更に元気よく走って行く
「……みんな、まだまだ元気そう」
「ったく、力の出し惜しみしやがって……オレらも行こうぜ?」
ユーリはそう言って、わたしに手を差し出してくる
小さく頷いて、その手を取って並んでみんなが向かった方に歩き出した
……こうして歩けるの、少し嬉しい、かも……
『……ユーリ、今昨日のこと聞いてきたりしてくれないかな……』
むっとした声が頭に響く
けれど、いつもみたいな元気な声じゃなくて
どちらかと言うと、不安そうな声で……
「(それ……わたしが答えなきゃいけなくなるじゃない……そうなったら、アリシア、交代よ?)」
ちょっと意地悪くそう言ってみる
『うっ……もう勘弁してってば〜…っ!//ぼくが悪かったよっ!//』
そしたらすぐに、またいつもの声に戻った
けれど……まだどこか、不安そうな感じというか……
……もう、『時間』、来てしまったのかしら……
「(アリシア……まだ、消えないわよね……?)」
『……大丈夫……大丈夫だよ、アリア。ぼくは、まだ居なくならないから』
アリシアの言葉に、少し安堵した
いつかは……一人に戻らないといけない……
そんな事、わかっているけれど……
……でも、まだ……もう少し……本当に、後もう少しで、いいから…………この、ままで……
ーーオアシスーー
「生き返った……」
「ほんと、もうダメかと思った」
水の中でリタとカロルが呟く
「おお、おお、これからの未来をしょって立つ若者が情けないね」
やれやれと首を横に振りながらおっさんが言うと、リタが睨みつけていた
おっさんは元気すぎなんだっつーの……
まぁ……それを言ったらアリシアもだが……
オレから手を離したアリシアは、水辺に寄って水筒に水を汲んでいた
砂漠に入ってから……雰囲気が昨日の夜と、似てんだよな……
けど、昨日の夜よりはまだ明るい方……か?
「……みんな、ちゃんと水、汲んだ?」
そう言って、アリシアは立ち上がってオレらを見回しながら首を傾げた
「はい、カロル、汲んどいたわ。はい、リタも」
そう言ってジュディが二つの水筒を差し出す
いつの間に汲みに行ったんだ……?
「他は平気だな」
アリシアの傍にしゃがんで、水を汲みながらエステルとラピード、おっさんを見る
三人とも汲み終わっていたらしく頷いていた
「んじゃ、先へ行きますか」
そう言って立ち上がって、アリシアの手を取って歩き始めた
大人しく、オレと手を繋いだままアリシアは歩くが……
昨日あんだけ一人で動き回ってたくせに、今日はヤケに大人しいな……?
いつもに比べて口数も少ねぇし……
……まぁ、今はそんな事、考えてる余裕なんて、殆どねえんだけど……
「おっ……?」
少し歩いたところで、急におっさんが立ち止まった
「何やってんだ、おっさん」
オレらも足を止めて、おっさんを見る
「いやほら、そこなんか変な生き物がいるなーって」
おっさんが指さした方向を見ると、砂の中で、『何か』がモゾモゾと動いているのが見えた
「なんだ!?」
声を上げた瞬間、『何か』がこっちに向かって動き出した
「……あれって……」
アリシアが小さく呟いて、首を傾げたのと同じタイミングで、その『何か』にガッと足を掴まれた
「ユーリなのじゃ!」
驚いたオレの視界に映ったのはパティだった
……勘弁してれ……心臓止まるかと思ったわ……
「やっぱり……パティ。……砂の中で、宝探し?」
どうやら気づいていたらしアリシアが、パティを見ながら問いかけた
いや、気づいてたなら言ってくれないかねえ……
「ご名答なのじゃ」
ニッコリと笑いながら、パティは砂の中から出てくる
「…探してるお宝、見つかりそう?」
「全然なのじゃ。それに、うちの目的はお宝ではないのじゃ」
「記憶を取り戻す、ですよね?」
エステルの問いに、パティが頷く
「んで?まだその記憶とやらは戻ってこないのか?」
「うむ、そのようなのじゃ。でも、うちの旅はまだまだこれからなのじゃ」
ニッと笑いながら、パティは答えた
記憶がねえ割に、前向きなヤツだな
「ねぇ、こんなところでおしゃべりしてたら、行き倒れになるわよ」
オレたちを呆れたような目で見ながら、リタがため息をついた
確かに……その通り、か
「……だな」
エステルとリタが、パティについてくるよう言って、半ば強引にパティも加わった
ま、こんなとこに一人で居させんのもな…?
再び、アルフとライラの両親を探しながら砂漠を歩き始める
「ねぇ……あそこ……」
パティと合流して、少し経った頃、アリシアが何かを見つけた
アリシアが指さした先には、二人、人が倒れていた
「行くぞ!」
急いで駆け寄ると、まだ息はある
すかさずエステルが二人に治癒術をかけると、二人ともゆっくりと起き上がった
起き上がった二人に水筒を渡すと、相当喉が渇いていたらしく、一気に水を飲んでいた
見た限り、二人とも水筒らしきものは持っていない
……こんなとこで、飲水なしかよ
顔も見たことの無い執政官に苛立ちを覚えた
「助かりました。ありがとうございます…!お礼を……といっても、今は何も持ち合わせがなくて……」
男の方がそう言ってオレらを見回す
「ああ、いいっていいって、そんなの」
「いえ、そういうわけには行きません。ぜひ、お礼にマンタイクまで取りに来てください」
そう返したオレに男は引かずに言い返して来るが……
……今、マンタイクって言ったか?
「あなたたち、もしかしてアルフとライラの両親かしら?」
ジュディが確認すると、どうやら本当に二人の両親らしい
なんとか見つけることはできたわけだな
子どもたちのことを話すと、二人は慌てて帰ろうとする
「焦らないで。二人だけで帰れると思う?」
が、それをジュディが宥めた
彼女の言う通り、二人だけでは帰れねえだろうな
「そ、それは……無理です……ね」
「ちょっと落ち着いて、ね」
ガックリと少し悔しそうに項垂れる二人にジュディが優しく声をかけている
その時だった
砂漠の入口で聞こえた鳴き声がまた聞こえてきた
今度は……かなり近いな
「この先みたいねぇ」
おっさんが見た方向には狭い道がある
……声の聞こえてくる方向はそっちだ
「ようやくご対面か。干からびるとこだったぜ」
そう言いながら、その道の方に向かおうとした瞬間、いきなり誰かに服を掴まれた
「おっと……?……アリシア?どうした?」
振り返ると、服を掴んでいたのはアリシアだった
フードで顔は見えねえけど……
僅かにオレの服を掴む手が震えている
明らかに、何かに怯えている
……何に怯えてるのかはわかんねえけど……昔から変わんねえな
「……どうしたんだよ?」
もう一度そう声をかけて、頭に手を乗せると、ほんの少し、肩が跳ねた
「あ……ごめん……」
そう呟いて、オレの服から手を離すと、右手を胸に当てていた
「……急に鳴き声聞こえたから、ちょっとびっくりしただけ。もう、大丈夫だよ」
そう言って顔を上げたアリシアはニコッと笑った
今の今まで怯えていたはずなのに、その雰囲気はもうどこにもない
「…そうか?んじゃ……行こうぜ?」
急にまた変わった事に少し違和感があるが、聞いたところではぐらかされるだけだ
今はそれよりもフェローだ
……聞くのは、その後だってできるんだからな
ーーーーー
フェローの声が聞こえた場所に、ぼくらは来た
もう……急にあんなに近くで自己主張しないで欲しかったなぁ……
アリア、怯えちゃったじゃんか……
『……ごめんね……アリシア……』
「(いーっていーって、これはフェローが悪い)」
申し訳なさそうなアリアの声にそう返す
それよりも……なんか声色……ちょっと変わった……?
「なにかおかしい……気をつけて」
身構えながら、ジュディスが言う
声はどんどん、フェローのものから離れていく
「フェローじゃない……」
「ああ……声の調子が変わりやがったな」
みんなが警戒していると、前方から嫌な気配を感じた
「あ、あれ……!」
カロルがそう叫んだ瞬間、目の前に変な生き物が姿を現した
……あれ……もしかして……
「何!?気持ちワルッ!」
悲鳴に近い叫び声をリタが上げる
その意見には同意だ
ものすごく気持ち悪い……
「あんな魔物……ボク知らない……」
怯えた声でカロルが呟いて、後ずさりしているのが、視界の端に映る
「ワン!ワン!ワン!」
普段魔物如きじゃ怯えないラピードさえ、怯え気味に威嚇している
「なんか……やばそうだね……」
目の前の異常な存在を見つめながら呟いた
『アリシア……あれ、もしかしたら……』
少し確信があるかのように、アリアが呟いた
……アリアがそう反応するなら、多分、『あれ』なんだろう……
「(……かも、ね……けど、そうなると……)」
『……今のみんなじゃ、勝てないわ……』
不安そうに、アリアは呟く
これは……逃げるしかなさそうだ
「に、逃げよう……!」
カロルの声を合図に後ずさるけど、『あれ』は、ぼくらに向かって近づいて来る
向こうは……やる気満々ってことかな……
「こっちに来ます!」
「ちっ、やるしかねぇってことか!」
『あれ』を睨みつけながら、ユーリが刀を抜いた
それに合わせてぼくらも武器を構える
……『アリア』なら、『あれ』も倒せるだろうけど……
……でも、ただでさえ、フェローのせいで怯えてるアリアと今変わる訳にはいかない
ぼくが……何とかしないと……っ!
そう、意気込んだのはいいけど……
「絡みつけ!
全然攻撃が通用しない……
……これ、まずいね……
「はあ……ボク……もう、だめ……」
目の前の『あれ』はまだ倒せていないけど、この暑さのせいもあって、みんな次々に倒れて行く
どうしよう……このまま、じゃ……
『……嫌……嫌……っ!』
頭の中で、アリアの声が木霊する
「さすがの……俺様も、限界……」
いつの間にか、残っているのはぼくとユーリだけ……
そのユーリも、限界そうだ
……倒れて行ったみんなが……『あの日の光景』と重なって心臓が跳ねる
『…もう、誰も……失いたくない……っ、誰も……わたしの前で、死なせたく……ない……っ』
悲鳴じみたアリアの声が聞こえる
……ぼくだって、そんなの嫌だ
「……こりゃ、やべぇ……っ」
そう呟いて、ユーリが倒れ込むのが視界に映る
「……っ!ユーリ……っ!」
慌ててユーリの傍に寄ってその場にしゃがんだ
「…お前……だけ、でも………」
ユーリが小さく、何か呟いていたけど、ちゃんとは聞き取れなかった
……それでも、何を言いたかったのか……何となく、わかってしまった
…嫌だ……また、大事な人を、失うのは……
『…大事な人を……守れないのは、もう……嫌……っ!』
アリアがそう叫んだ瞬間、強制的に、ぼくの意識が引っ張られた
ゆっくりと立ち上がって、『あれ』を睨みつける
一歩、また一歩……ゆっくり、近づく
「……フェローの……バカ……っ!」
そう言いながら胸の前で手を組んで、少し頭を下げた
みんな気を失ってるから気づかれないだろうし……
……もう、気づかれてもいい
隠して、こんなことになるくらいなら……
また、『目の前で』、誰かを失うくらいなら……っ
……もう、大事な人を、誰かに、奪われるのは……嫌……っ!
勢いよく頭を上げると、弾みでフードが脱げた
……砂漠に入ってから、ずっと隠してた長髪が少しなびく
「我が貫くは、純粋なる意思……具現して……っ!シアンディーム…っ!」
唱えた術が、『あれ』を貫いて、何事も無かったかのように、その場から姿を消した
それと同時に、空から羽根が一枚降ってきた
これ……フェローの、ね……
羽根を掴んでキッと睨みつけた
……フェローのバカ……っ!
《……良かったのですか?『新月』よ》
その声に顔を上げると、クロームが空から降りてきていた
「……もう、いいの。……わたしの前で、誰かが傷付くくらいなら……また、『目の前で』誰かを失うくらいなら……バレたって、もう、構わない」
クロームを見つめて、ハッキリと答える
……今の『わたし』は、どっちなんだろう?
それも……もう、わからない
《……あなたがそう決めたのであれば、私が言うことは何もありません。……とりあえず、彼らを『あの街』に運びましょう》
クロームが見つめる先には、緑の生い茂った街が薄らと見えた
……こんなところに、あんなに緑豊かな街……?
少し気にはなるけど、今は早く、みんなを連れて行ってあげないと……
「……ねえ、クローム……フェローに伝言、お願いできるかしら?」
クロームの背にみんなを乗せながら問いかける
《ええ、勿論》
「……じゃあ、伝えて?『エステリーゼと会って、話をしてあげて。わたしの大切な人、傷つけたのだから……わたしのお願い、一つくらい聞いてくれるわよね?』って」
ニッコリと笑顔を浮かべてクロームを見る
……絶対、許してあげないんだから……
《わかりました。貴方の気持ちとともに……必ず、伝えましょう。さぁ、貴方も乗って下さい》
クロームの声に頷いて背に乗った
わたしが乗ったのを確認すると、クロームはその場から飛び立った
