第三章 満月の子と新月
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*水と黄砂の街・マンタイク
砂ばかりの道を歩くこと数分、ぼくらはオアシスの街に辿り着いた
「静かな街だな」
街の中は閑散としていて、所々に騎士の姿が見える
「うぇ……こんなところにも騎士がいるし……」
そう言いながらフードを深めに被り直す
顔、見られるわけにはいかないからね
「少なくとも、前来た時はあんな物騒な人たちはいなかったわね」
騎士の方を見ながら、ジュディスは腕を組んだ
……兄さんが言ってた通り、ホントに色んなとこに騎士が派遣されてるみたい
でも、なんで……?
そんなこと考えてるうちに、パティは宝を探しに行くと言って、去って行った
「とりあえず、自由行動にしないか?」
ユーリがそう言ってみんなを見回す
「賛成〜……何するにしてもちょっと休憩したい……」
「だね……ぼくも疲れたし休みたいな」
気だるげなリタに同意しながら軽く欠伸をした
闘技場での大会からここまで、戦闘続きだったし……
正直もうヘトヘト……
「じゃ、日が落ちたら宿屋の前で落ち合おうぜ」
「わかったわ」
ジュディスが答えたのを合図に各々街の中に散って行った
「ユーリ、ぼく宿屋にいるね?」
「別に構わねえけど……勝手にうろつくなよ?」
「わかってるって……そんな体力ないし、それに……こんなとこ、一人でなんてウロウロできないよ」
訝しげにみつめてくるユーリに、少し頬を膨らませながら答えた
さすがにこんなに騎士がいるところで一人でうろつく訳にはいかない
「……ま、それもそうか」
少し騎士の方を見ながら、ユーリが小さく呟いた
「大人しくしてろよ?」
「はーい、ちゃんと宿屋で待ってるよ」
再度釘を指してきたユーリにそう答えて、宿屋に入った
受付カウンターのすぐ側にも騎士がいる
「いらっしゃいませ、水と黄砂の街マンタイクへようこそ」
「泊まれる??」
そう聞くと、受付の人が騎士の方を少し気にしながら受付けをしてくれた
どうせ後からユーリたちも来るだろうし、ついでに全員分の手続きも済ませてもらった
「あ、ついでになんだけど……ちょっと砂漠に用事があるから、行く為の用意してもらえると助かるんだけど……」
「さ、砂漠に……ですか?もちろん、構いませんが……」
「じゃあお願い」
ニコッと笑ってそう伝えて、受付を後にした
にしても、宿屋の中にまで騎士がいるなんて……
なんでこんなにいるんだか……
そんなこと考えながら部屋に入る
窓際のベッドに腰掛けて、刀を外してジッと見つめる
……何度見ても、やっぱり鞘だけ『違う』んだよなぁ
あの人……鞘どこにやったんだろ……?
考えてもわかりそうにはない
軽く頭を振って刀をベッドの側に立てかける
そしてそのままベッドに倒れ込んで目を閉じた
「……つっかれたぁ……」
誰に言うわけでもなく、小さくそう呟く
自分で動いたとは言え、さすがに連戦は疲れる……
『もう……だから、あの時ユーリに任せればよかったのに……』
不機嫌なアリアの声が頭に響く
「(いや……ホントにごめん……兄さんの手紙読んであの人の話も聞いたらさ?なんとなーく兄さん出て来そうな気がしたから……ああやって話しておかないと、アリアも不安だったかと……)」
『……そう、だったとしても……その後、勝手に追いかけたりしなければ、そんなに疲れなかったんじゃないかしら……?一回目は、わたしも出たのに……結局逃がしていたし……』
「(いやぁ……あの箱の中身が『あれ』かもって思ったら、つい……ね)」
『……バカアリシア……』
「(いやホント……ごめんて……)」
怒っているようで、呆れているような声に思わず苦笑いした
ぼくらの立場が逆……もしくは、ぼくがいなかったら……
アリアだって同じことをしただろうに、とは言わなかった
それ言ったら、余計に怒らせちゃうから……ね
『……それにしても……エステリーゼ、本当にフェローに会うつもりなの……?』
どこか不安そうにアリアが呟く
「(だと思うよ?ユーリたちも止めはしないだろうし……だからぼくも準備頼んだんだし)」
『わたし……フェローに会いたくないわ……絶対口滑らせるもの……』
「(……まぁ……確かにやりかねないよねえ……でも、いつかはみんなに話さなきゃいけないし、フェローが口滑らせたら、それはそれでいいんじゃない?)」
『……みんなを巻き込むの……わたし、嫌よ……』
不安そうなアリアの声が頭に響く
アリアの気持ちが理解できないわけじゃないけど、それでも……
「(いつまでも隠してたら、みんな怒るよ、きっと)」
『……どうして、そう思うの……?』
「(だって、みんな困ってる人みたらほっとけないじゃん?それが知り合いや仲間なら尚更ね。…頼ってもいいって、ぼくは思うよ)」
『……それで、みんなが危険な目にあったとしても……?』
「(フェロー探してる今だって、十分危険でしょ?それに、隠してたら守れない事だってある。みんなに隠してて……『あの人』相手に、みんなを守れると思う?」
そう問いかけると、アリアは黙り込んでしまった
正直、ぼくは『あの人』に勝てる自信がない
例え、兄さんと二人で挑んだとしても……
それはきっと、アリアも同じだ
「(アリア、別にぼくも、今すぐ話そうとは思っていないよ。フェローがうっかり口滑らせても、どうにか誤魔化してみせるって。ただ)」
『「いつか話す覚悟はしてね」……でしょ?』
ぼくが言い切る前にアリアが言葉を被せてきた
「(……またアリアにセリフ取られた……)」
『アリシアが言いたいことくらい……わかるわ。……全部、わかってる……。……それでも……恐怖が強くて、そっちに全部引っ張られてしまう……
どうしたら……アリシアみたいに、思えるのかしら……』
「(んー……たまにはみんなといる時に、ぼくと代わってみたらいいんじゃない?夜中にコソコソなんてしないでね)」
そう言うと、アリアはまた黙り込んでしまった
そこまで難しいこと言ったつもりはないんだけどなぁ……
「(ふぁ……ぼくちょっと寝たいから、ついでに今代わっておく?)」
『嫌よ……だって今、ユーリからの説教待ちでしょ?怒られるのが嫌だからって……わたしと代わろうと、しないで欲しいわ……』
不機嫌そうにアリアが言ってくる
……さすがにダメか……
「(冗談だって、冗談!ホントに代わるわけないじゃん?)」
『もう……』
「(でも、眠いのはホントだから……ちょっとだけ、寝るよ?)」
『……わかったわ、おやすみ、アリシア』
「(ん、おやすみ、アリア)」
アリアにそう言って、ぼくは意識を手放した
ーーーー
日が落ち始めて、オレらは宿屋前で合流した
合流して早々、エステルが一人で行くなんて言い出したが……
どうにか説得して、全員で向かう事に決まった
ま、最初からそのつもりだったんだが
「あれ……?そういえば、アリシアは?」
キョロキョロと辺りを見渡しながらカロルが呟いた
そういや……いないな……
「また勝手に出歩いてんじゃないの?」
「さすがにそれはねぇと思いたいがな……宿屋にいるって言ってたし、一休みがてら行ってみようぜ」
そう言って宿屋の中に入った
「あ、あなた方、もしかして、フードを被った方のお連れさんですか?」
オレを見るなり、受付の男が少し怯えた様子で声をかけてくる
原因は……傍にいる騎士、か?
「そうだけど……」
「そ、それなら、お代は頂いていますから、ごゆっくりしてください。……あ、それと……砂漠に行く為の準備をお願いされたのですが……本当に行かれるんですか?」
どうやら先に来ていたアリシアが色々話通してくれていたみたいだが……
……あいつ、よくそこまで話出来たな……?
「ああ、頼む」
そう答えると、出発前までには準備しておくと言われた
軽く礼を言ってアリシアのとこに向かうと、窓際のベッドの上でぐっすりと眠っていた
「ったく……大人しくしてろとは言ったが……」
苦笑いしながら、彼女が眠っているベッドの縁に腰掛けて、頬をつついた
が、熟睡しているらしく、起きる気配は全くない
「ふふ、相当お疲れのようね」
「あんだけ動き回ってたんだから、当然っちゃ当然だわな」
微笑ましそうに笑いながら、ジュディとおっさんがアリシアを見る
「ほんとお転婆よね。昔からこうなわけ?」
呆れたようにため息をつきながら、リタがオレを見てきた
「……ま、若干ガキの頃より酷くはなってるけどな?」
答えるのに少し間が空いてしまった
なんせ、以前に比べるとあからさまにお転婆度が増してんだからな
「へぇ……ちょっと意外。アリシアって、見た目は大人しそうだから」
「そう、ですね……」
眠っているアリシアをじっと見つめながら、エステルが何か考え込んでいた
大方、『アリアンナ』とか言うヤツに似てる、とかだろうが……
そんなことを考えて、ふとさっきの事を思い出した
「なあ、エステル、一つ聞いてもいいか?」
「……?なんです?」
不思議そうにエステルがオレを見て首を傾げてきた
「さっきイエガーが言ってたのって、どういう事か知ってるか?」
そう問いかけると、あからさまに気まずそうに俯いてしまった
「ラゴウが処刑される予定だったって話?」
「ああ、あんだけのことしたくせに、あっさり無罪放免になったヤツが、どうしてそんな事になったのか……気になるだろ?」
「確かにそうよね。帝国の法律じゃ、貴族……ましてや評議会の人間に太刀打ちできるとも思えないし?」
リタも不思議そうにエステルを見るが、当の本人は黙ったまま視線を合わせようとはしなかった
「その顔は何か知っているのね」
ジュディがそう言うと、エステルの肩がピクッと跳ねた
「……ま、言えねぇって言うなら無理にとは言わねぇが」
「あ……いえ……そういうわけでは……」
そう言いながら、エステルはチラッとアリシアを見た
「アリシアちゃんには聞かせたくない、ってことかしらね?」
おっさんが問いかけると、エステルが静かに頷いた
「この様子じゃ、当分起きやしねぇよ」
もう一度、アリシアの頬をつついてみるが、やっぱり反応しない
一度熟睡すると、中々起きねぇんだよな……
アリシアが起きないと確信を持てたのか、エステルがゆっくりと口を開いた
「……帝国には、公表されている法律とは別に、もう一つ……主に、貴族と皇族向けの法律があるんです」
「別の法律?」
「はい。その全てが新月に関するものであり、公表されているものと違い、帝国が建国して以来、一度も内容が変わったことのない……古くから守られ続けているものなんです
その中に……『新月に危害を加えた者、もしくは加えようと企てた者、それに加担した者は、役職や身分を問わず、死刑とする』……と、いう一文があるんです……」
ほんの少し、言いづらそうにエステルが答えた
「……つまり、ラゴウのヤツは……」
「……恐らく、彼女が失踪したあの日の出来事に……何か、関係していたんだと思います」
シン……と部屋が静まり返る
貴族ですら破れない法律……そんなものがあったなんてな……
それも、全てアリシアの従姉妹に関係があるものだとは……
エステルが聞かせたくなかったのも無理ないな
「けど、なんで一度も変更された事がないの?そんな法律、貴族たちが嫌がるでしょ?」
不思議そうに首を傾げながら、カロルが問いかける
確かに……貴族たちが自分たちに不利なもんを変えようとしないのはおかしいな
「法律……と言いましたが、どちらかと言うと、『契約』に近いんです。初代皇帝と、当時の新月が交わしたもので、条件を満たさなければ、例え皇帝であろうと新月であろうと、変更ができない……と、ヨーデルが言っていました」
「その条件って?」
「それが……誰にもわからないそうなんです……
契約全てが、新月を守る為のものではありませんし、過去に何度も変更を試みていたみたいなんですが……
肝心の条件が記された書物は、残っていないそうで……」
少し困ったような顔をしてエステルが答えた
「残ってないって……そんなことありえるの?」
訝しげな顔をしてカロルがリタを見た
まあ……そんな大事なもんが何一つ残ってねぇのも変な話だ
「……ありえなくはないんじゃない?」
「あら、どうしてかしら?」
「前にエステルが言ってたでしょ?『新月に関する文書は残ってない』って。そこまで徹底してるんだったら、残ってなくても不思議じゃないでしょ」
「……そう言われりゃ、確かにそうだな」
確かにそう考えると、リタの言う通り、残ってなくても不思議ではねぇが……
……けど……なんでそこまでして、情報を遮断する必要があるんだ?
「……怪しいわよね、その『新月』っていうの」
腕を組みながら、リタがポツリと呟く
「だな。ただの守り人ってわけじゃなさそうだ」
「エステル、本当に他に何も知らないの?」
ほんの少し首を傾げながら、リタがエステルの方を向いた
リタに見つめられたエステルは小さく唸りながら、首を傾げて考え込んでいた
黙ってエステルの言葉を待ってると、ゆっくりとエステルが口を開いた
「……そういえば……彼女の母君が
「嘘……!?エステル以外にもそんな事ができるやつがいるってこと……!?」
エステルの言葉に、真っ先に反応したのはリタだった
驚いた顔をしてエステルを凝視していた
……それもそう、か
まさかエステル以外にもそんなヤツがいるだなんて、オレだって思わなかった
魔導士からしたら、そんなヤツがほいほい出て来たらたまんねぇよな……
「あのさ……ずっと聞いてなかったんだけど、エステルとそのアリアンナって子、どういう関係なの?」
不意にカロルがそんな問いをエステルに投げた
「そういやそうだったな」
「その……明確にどうと言われたことがないので、絶対という訳ではないんですけど……遠縁の親戚……だと思います。ヨーデルが彼女を『姉様』と呼んでいますし、彼女もわたしと同じヒュラッセインを名乗っていましたから」
少し自信なさげにエステルが答える
性が同じなら、確かに親族なはずだが……
にしては、なんでわざわざ『新月』なんて呼んでんだ?
「親戚って言うなら、
リタもやはりそこが気になったみたいだ
腕を組んだまま考え込んでるが、こればかりは本人に直接聞いて見ない事にはわからねぇだろ
……その本人もわかってんのかは知らねぇけど
「ま、考えたってわからねぇもんはわからねぇだろ」
「……それもそうね……」
小さく呟きながらため息をついていた
「アリシアも……何も知らないよね……?」
オレの傍で寝ているアリシアを見ながらカロルが呟く
「多分な。まあ……知ってたとしても、そう簡単に教えてはくれなさそうだけどな」
そう言いながらアリシアに視線を落とした
当の本人は未だに起きる気配がない
今までの反応からして、アリシアは多分、何か知っている
オレにも隠している事は……きっと、その事なんだろう
けど、わかんねぇのはなんでそんなに隠したいか、なんだよな……
「エステル、他に何か思い出せることってない?」
未だに気になるのか、リタが再度エステルに問いかける
「……そう言えば……ヨーデルが以前、新月の加護が」
「……ん……」
エステルが話し出そうとしたのと同時に、アリシアが身動ぎした
慌てて、エステルが口を塞ぐと、ゆっくりと上半身を起こして、目を擦っていた
「お、ようやく起きたわね」
今の今まで黙っていたおっさんが、アリシアを見ながら呟いた
そういや……この手の話に食いつきそうなのに、ヤケに大人しかったな……
「……んー………」
小さく唸りながらアリシアは目を開けるが、まだ眠いのか半開きの目でボーッとしている
「まだ眠そうだな……もう夜だし、もうちょい寝たらどうだ?」
そう言って、苦笑いしながらアリシアの頭を撫でた
本当は怒りたいこともあるんだが……こんな顔されちゃ、怒るに怒れねぇわ……
「…………ん……」
また小さく唸ると、そのままベッドに倒れ込んだ
ホント、仕方ねぇヤツ……なんて考えてたら、急に体が傾いた
「ぅお……っ!?」
倒れそうになって慌てて左手をついたが、これは……だいぶまずいな……
オレが倒れかけた原因は、アリシアに引っ張られたから
オレの右腕に抱きついて、またすやすやと眠っていた
「ふふ、本当に仲がいいわね、あなた達」
くすくすと笑いながら、ジュディがオレらを見てくる
「ったく……いつかはやると思ってたけど……」
苦笑いしながらアリシアに視線を向ける
……本当、勘弁してくれねぇかね……
「あんたら……それで本当に付き合ってないわけ?」
呆れたようにリタが問いかけてくる
「あら、そうだったの?そういう関係だと思っていたのだけれど」
「違うってーの。こいつ、昔から寝ぼけるとオレやフレンに引っ付くクセがあんだよ」
「でもユーリ……たまにアリシアのこと膝枕して寝てるよね?」
不意にカロルに言われ、思わず肩が跳ねた
しまった……見られてたか……
「旅をし始めた時もそうしてましたよ?」
……そういや、旅を始めたばっかの時、エステルの前でやってたな……
「なによなによ、本当はそうゆう関係なんじゃないの〜?」
ニヤニヤしながらおっさんがこっちを見てくる
「だから違うって」
「でも、ユーリはアリシアのこと好きですよね?」
「んな……っ!!///」
否定した矢先にそう言われ、頬が熱くなる
……エステルにはその話……したな……
つか、リタとカロルも気づいてるしな……
「あら、ならそう言ってしまえばいいのに」
楽しそうな表情でジュディが言ってくる
「……それが伝わりゃ、どんだけ楽か……」
思わず小さくそう言ってしまった
「アリシアって、めちゃくちゃ鈍感だもんね。ユーリが結構分かりやすい反応してても、ポカーンとしてるし」
「気づけてもらえないなんて、あんたも大変ね」
「……もういいから、さっさと寝るぞ……っ」
「ま、そうした方がよさそうねぇ」
依然ニヤニヤとしながらも、おっさんがそう言ってベッドに横になると、他のヤツらもベッドに横になった
大人しく引いてもらえたのはいいが……この先、どうしたもんかね……
ことある事にいじられそうだわ……
……まぁ……それでも、アリシアから離れる気は毛頭ないんだが
抱きつかれた右腕は抜こうと思えば抜けるが、それでアリシアを起こすわけにもいかねぇし……
抜け出すのを諦めて、そのまま彼女の隣に寝そべった
右隣を見れば、どこか安心したかのように眠っているアリシアが目に映る
……ほんと、可愛いヤツ……
「……おやすみ、アリシア」
小さく呟きながら軽く頭を撫でて、オレも目をつぶった
ーーーーー
部屋が静まり返ってから少しして、カロルの寝言が聞こえ始めたあたりで、ゆっくりと目を開けた
視界に映るのは……寝ているユーリの姿……
ユーリも寝ていたことに、少しだけ安堵した
……本当は、アリシアが寝てからずっと起きていて……
けど、ちょっと起き上がろうと思ったら……みんなが部屋に来てしまうし……
エステリーゼも『新月』について話はじめてしまうから、寝たフリをして聞いていた
さすがに、『あの事』をエステリーゼが知っていたとは思っていなくて……
それだけは話して欲しくなくて、咄嗟に眠いフリしながら起きて、ユーリに抱きついて、また寝たフリしてしまった、けれど……
……さっきの、みんなの会話が……頭から、離れない……
……『誰』が『誰』を好きって……?
そんなこと考えながらユーリを見てると、急に頬が熱くなった
自分の心臓の音がうるさいくらい体の中で響いてる
少し気持ちを落ち着かせたくて、ユーリの腕を離す
……今、なら……そんなに騎士もいないだろうし……暗がりなら、バレない……わよね……?
静かにベッドから降りて、フードを深めに被り直して、そのまま外に出る
やっぱり深夜だからか、昼間みたいにそんなに騎士はいない
そのことに少し安心しながら、街中を歩いていると、目の前に湖が見えた
……そう言えばここ、オアシスだったかしら……
湖の辺に腰を下ろして、両手を地面について空を見上げた
真っ黒な空に輝く星と、満月から少し欠けた月…
黒い空が、なんとなく、ユーリを連想させる……
……もう……何しても、思い出してしまうわ……
「……アリシア、起きてる……?」
小さな声で問いかけた
『ふぁ……起きてるけど……アリア、さすがに声出すのはまずいよ……』
まだ少し眠そうな自分の声が、頭の中に響く
殆ど逆でしか話したことがないから……なんか、変な感じ……
「(……さっきの、聞いていた……?)」
今度は声に出さずに、恐る恐る訊ねてみた
『ん……まぁ一応、ね?』
「(……あれ……って、どういう、意味……?)」
そう聞くと、アリシアが大きくため息をついた
『アリア……ぼくが言えた事じゃないけどさ、さすがにそれは気付こうよ……ぼくだって気付いたんだから』
呆れたような自分の声に、少しむっとしてしまった
「(そんなこと、言われても……わからないわ……)」
『……まぁ、それはわかるよ?……兄さんに可愛がられすぎた弊害かもね……ぼくだって、ユーリがしてくる事は、兄さんと同じで妹みたいだからだって思ってるからって、さっきまで思ってたし』
「(……違うの……?)」
少し困ったように言ってくるアリシアにそう返すけど……本当は……わかってる
……けれど、まだどこかで、違うって……思ってしまう……
『ちょっと違うかなぁ。……どちらかと言うとユーリのは、お父様がお母様にしてた事と同じだよ』
確信があるかのようなその答えに心臓が跳ねた
「(じゃあ……わたしたちと……同じ、って……こと……?)」
『うん、そうだね』
どこか嬉しそうにアリシアは言う
……確かに、本当にそうなら嬉しい、けれど……
「(……でも……)」
『アリア、言わなくてもいいよ、わかってるから。今のまま、ユーリに気持ちを伝えることはできないって言いたいんでしょ?……だから、元に戻った時に、伝えよう?』
そう、もし、本当だとして……
ユーリがどちらを好きなのかがわからない
元気で活発な『ぼく』なのか
臆病で怖がりな『わたし』なのか
……その、どちらもなのか……
「(……誰かを好きになったり、誰かに好かれたりって……嬉しいのと同時に……つらいのね……)」
『……ん、そうだね……』
「(……それなのに……どうして、こんなに……好きなのだろう……)」
言葉にすると、はっきりわかる
わたしは、ユーリが好き……
ちゃんと、好きなんだ……
ずっと一緒にいたいし、傍にいて欲しい
……でも、だからこそ……わたしは、ユーリに伝えたくない……
わたし自身のことも、この想いも……
わたし自身のことを伝えて、ユーリを巻き込みたくない……
……あの日のように……『あの人』に、ユーリを殺されたくない……
また、大事な人を……奪われたくない……
それに……元に戻って、気持ちを伝えたとして……
もしも、ユーリが好きなのが、元気で活発な『ぼく』の方だけだったら……?
臆病で怖がりな『わたし』は、好きではなかったら……
……きっと、『わたし』は、また消えたいって、願ってしまう……
『アリシア』と替わりたいって、願ってしまう
替わってしまったら……どうなるか、わかっているけれど……
それでも、きっと……耐えられないから……
『大丈夫だよ、アリア。きっと、ユーリはどっちも好きでいてくれるから』
「(……そう、かしら……?)」
『そうだよ。だって、昔はユーリの前でもしょっちゅう、今のアリアみたいに怯えてたじゃん?それを知ってても好きって言ってるんだからさ
……まぁ、それはこの先、ユーリを見てればわかるよ』
宥めるようにアリシアが言ってくる
……本当に……そう、だったらいいんだけれど……
『ところで……アリア、そろそろ代わっておく?いい加減、ユーリが探しに来そうだし』
不意にそう言われて気づいた
……確かに、だいぶ長く外にいるから……
そろそろユーリが気づいて探しに来ても、おかしくない……
……きっと、また怒るわよね……
……けれど……
「(……ううん、いいわよ……代わりに、怒られてあげる)」
少し……ほんの少しだけ、傍でユーリの様子を見たくて、そう答えた
それに……ちょっと、したい事もあるし……ね?
『うげ……その言い方……アリア、なんか企んでない……?』
「(……どうだろう、ね……?)」
アリシアにそう返したところで、背後から足音が聞こえた
……この音は、知ってる音だ
「ったく……まーたこんな時間に出歩きやがって」
その声にゆっくり振り返ると、呆れた顔をしたユーリが立っていた
「……目、覚めちゃったから……ちょっと気分転換、したくって」
ほんの少し、肩を竦めながらそう答えた
……口調、気をつけないと……
「ほんと、いい加減大人しくしておいて欲しいんだけどな?毎回急にいなくなられっと、オレの心臓持たねぇって」
少し怒りながらそう言って、わたしの隣に腰を下ろした
「……ごめんね、今度は……ちゃんと、声かけるよ」
わたしがそう答えると、ユーリがちょっと驚いた顔をした
「……珍しいな、素直に言うこと聞くなんて」
「失礼、だなぁ……たまには、ちゃんと聞いてるはず……なんだけど……」
少しむっとしながらそう答えた
これでも完全にアリシアと分かれる前は、聞く時は聞いてたはずなんだけれど……
「ここ最近、全く聞いてくんなかったから驚いてんの
……ま、聞いてくれんだったらありがたいわ」
そう言って微笑むと、わたしの頭を撫でてくる
……いつも思うけど、ユーリ、頭撫でるの好きよね……
「つか、昼間あんなに騎士がいんの見てたくせに、よくここまで一人で来れたな?」
少し不思議そうに首を傾げながら、ユーリが問いかけてくる
「……夜、だから……あんまりいないと、思って」
「あー……まぁ、確かに昼間よりはいねぇけど」
「それに……暗いから、よく見えないかなって」
「……一応、ちゃんと考えはしたんだな。けど、あんまこういうことしてっと、またフレンに怒られるぜ?」
「それは……嫌、かも……」
ユーリの言う通り、確かにフレ兄が知ったら怒りそう……
「んじゃ、一人で出歩くなよ?」
「……気をつけるよ」
そう言って肩を竦めた
出歩くなって言われても、アリシアが勝手に出歩きそうだし……
『……アリア、ぼくだって兄さんに怒られるの嫌だから、さすがにもうしないって』
少しむっとしたような声が頭に響いた
「(……アリシアは、そう言って、わたしの言うことなんて……聞いてくれないもの……)」
『……ごめんて……』
そう呟くと、アリシアは黙ってしまう
……今話しかけられても困るから、いいんだけれど……
「そろそろ戻らねぇか?まだ眠いんだろ?」
わたしの頬を撫でながら、ユーリが問いかけてくる
……今の話し方だと、眠そうに聞こえる……のかしら?
「……もう少しだけ、ここに居ちゃ、ダメ……かな?」
首を傾げながらユーリを見て問いかけると、何故かユーリが目を見開いて、固まってしまった
なんでかわからなくて、更に首を傾げる
「……もう少し、だけ……だからな?」
少し上擦った声でそう言うと、わたしから顔を背けてしまった
月明かりでしか、顔が見えないけれど……
少し、頬が赤い気がする……?
……カロルが言ってた、『わかりやすい反応』って、これのこと……かしら……?
……言われてみれば……ユーリがこんな反応するの、わたしにだけ……かも……?
そう考えたら、なんだか少し嬉しくて
クスッと笑いながら、また空を見上げた
星空をジッと見ていたら、ようやく気持ちも落ち着いた
ユーリはさっきの言葉以来、黙り込んでいる
ちょっと気になって横目で見ると、わたしと同じように、空を見つめていた
飽きないのか、なんて、前に聞いてきたくせに……
意外と、ユーリもちゃんと……星空見てるんだ
そんなこと考えながら、また空に視線を戻す
……星空を見てると落ち着くようになったの……いつだったかしら……
「……なあ、アリシア?」
不意にユーリが声をかけてきた
ゆっくりとユーリの方を向くと、少し迷ってるような表情でわたしを見て来ていた
「……なあに?」
首を傾げると、少し言いづらそうに口を開いた
「アリアンナって従姉妹の……『新月』っての、本当に……何も知らない、のか……?」
遠慮がちに、それでも確かにそう問いかけてきた
驚いて、ユーリから少し視線を逸らせる
『えっ、今このタイミングで……それ聞いてくる?!』
頭の中で、あたふたと慌てている自分の声が響く
正直……聞いてくるだろう……とは、ちょっと思っていた
ユーリなら……何かに気づいていても……おかしくないから……
『アリア……っ!今すぐ代わろう?!ね、ねっ!?』
正直……アリシアの言う通り……確かに、そうした方が……いいんだと思う……
……けれど……どうしてだろう……
今……代わっちゃ、いけない気がする……
「(……大丈夫、だから、アリシア)」
そう伝えると、アリシアは口を閉ざした
多分……すごく、驚いてるんだと思う
……わたしだって、そんなこと言えるなんて思っていなかったから、自分でも驚いてる
でも……ここで、アリシアに任せてしまったら……
『わたし』はずっと……前に進めない気がする
軽く深呼吸して、ゆっくりと、ユーリに視線を戻す
……こういう時……アリシアなら……
……ううん、『元』のわたしなら……きっと……
「……知ってるって……そう答えたら、どうする?」
少し体を屈めて、首を傾げながらユーリを見つめた
かなり驚いたのか……目を見開いて、わたしを見つめてくる
「……話すまで、聞いてくる……?」
ほんの少しだけ、声が震える
『元』のわたしなら、きっと、しっかりと言えたんだろうけれど……
……やっぱり、問い詰められたら……って考えると、少しだけ怖い……
ユーリが答えるのを黙って待ってたけれど……
中々答えてくれなくて……見つめてるのが少し、気まずくなって、ユーリから視線を反らせたら、急に引っ張られた
「わ……っ!?」
驚いて、小さく声が出たのと同時に、ぎゅっと抱きしめられる
まるで、壊れ物にでも触れるかのように優しく……
「……んなことしねぇって。前に言ってたろ?『話せる時が来たら話す』って。……そん時まで待ってるって」
優しく、宥めるような声でそう言いながら、ユーリが背中を撫でてくる
みんなの前じゃ聞かないトーンの声……
……あぁ、『アリシア』が言ってたことって……こうゆう事、なのかしら
昔から、わたし“達”にしか、ユーリはこうゆう事しないし……こんなに優しい声も、普段じゃ聞けない
「お前とフレンが隠してることを話してもらえんの、何年待ってると思ってんだ?今更待てねぇなんて、言わねぇよ。……だから、そんな顔すんなよ」
尚優しい声で、ユーリはわたしを宥めようとしてくる
そんな顔……って、言われても……今、どんな顔してるかなんて、わからない……
……けれど、ユーリの反応からすると……泣きそうな顔……でも、しているのかしら……?
別にそんなつもりはなかったんだけれど……
「……大丈夫、これ以上、もう何も聞かねぇからさ」
何も言わなかったせいか、ユーリがまた、優しくそう言ってくる
少しだけ顔を上げると、ちょっと寂しそうな、困ったような表情で微笑みながら、わたしを見下ろしてるユーリが目に映った
普段あまり見ないその表情に、ドキッとした
「……うん……」
そう答えるのが精一杯で、それ以上は何も言えなかった
「……さてと、いい加減戻るか」
いつもの様にニッと笑いながら、ユーリが言ってくる
まるで、さっきまでの話をなかったことにしたいかのように……
……変に気、使わせちゃったかしら……
「……そう、だね……戻ろっか」
そう言うと、わたしから離れて立ち上がって、手を差し出して来る
その手を取って立ち上がって、並んで宿屋に戻った
宿屋に戻ると、さすがにまだみんな眠っていた
さっき横になっていたベッドにもう一度横になると、当たり前のようにユーリも隣に寝そべってくる
……まぁ、さすがに他のベッドに行っちゃったら、朝起きた時にみんな不思議がるわよね
「ほら、もっかい寝とこうぜ?」
小さな声で、ユーリがそう言って頭を撫でてくる
「……そう、だね……」
小さく呟いて、ジッとユーリを見てると、不思議そうにユーリが見つめ返してくる
……今しかない、かしら……
少し体を起こして、グッとユーリとの距離を縮めて、そのまま、ユーリの頬に唇を当てた
『アリア……っ!?!!』
悲鳴に近い声で、アリシアが呼んでくる
自分でやったとは言え、少し頬が熱い気がする
……アリシアも、きっと顔赤くしてるんでしょうね……
軽く触れて離れると、またユーリは目を見開いて固まってた
「……フレ兄には内緒、だよ?……おやすみ、ユーリ」
唇に人差し指を当てながら、ニヤッとちょっといたずらっ子のように笑って、ユーリに背を向けて寝転んで、目をつぶった
『アリア……っ!!何してるのさ……!』
「(……アリシアがいつも、わたしを困らせるから……ちょっと仕返し。……後、任せたわよ?)」
『〜〜〜っ!!あーもう!さっきのはそういう事か……っ!やっぱり代わっておけばよかった!!もー!!どーしろって言うのさぁぁ!!!/////』
頭の中で、ギャーギャーとアリシアが騒いでるけど、そんなのお構い無しに意識を手放した
*スキットが追加されました
*だから言ったのに……
*仕返し成功
