第三章 満月の子と新月
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*カドスの喉笛
魔物の溢れ返った闘技場はフレンに任せ、オレらはラーギィを追いかけたアリシアとラピード、ジュディを追った
宿屋の側まで行くと、ジュディの姿が見えた
「街の外に逃げられたわ」
少し悔しそうにジュディは顔を歪めていた
「……逃げ足の早い野郎だ。アリシアは?」
「ラピードと一緒に追いかけて行ってしまったわ」
「あのお転婆娘……ちったぁ大人しくしてて欲しいんだがな……」
そう言って大きくため息をつきながら項垂れた
ダングレストを離れてからというもの、あからさまに無茶する規模がデカくなった気がする
やっぱ、バルボスのとこでなんかあったのか?
「それにしても、なんで、ラーギィさんが……」
困惑した表情で、カロルはオレの方を見てくるのが視界の端に映って、顔を上げた
「どうやら、嵌められたっぽい?」
「そうらしいな」
苦い顔をしながら言ったレイヴンに同調する
「でも、どうしてフレンがここに?」
首を傾げながらエステルはオレらを見回した
「さあな?アリシアとなんか喋ってたみたいだが……歓声がデカすぎて聞き取れなかったからな」
「じゃ、それは彼女が知っているかもしれないわね」
「そうね。そこは後で問い詰めましょ」
ジュディとリタはそう言い合ってニッコリと笑顔を浮かべていた
「程々にしてやれよ?」
苦笑いしながら、そんな二人を見た
さすがにそれくらいはすんなり答えてくれそうではあるが……
「それにしてもあの箱を奪っていくなんて」
思い出したようにジュディが呟く
確かにそこは引っかかる
珍しいもんに違いはねえんだろうが、狙われる理由は全くもって検討がつかねえ
そもそも、オレらだって、箱の中身を詳しくは知らねぇんだ
「
不思議そうに、エステルは首を傾げた
「わかってるのはあたしの魔術があの箱のせいで暴走したってことくらいかしら。あんなふうに
そう言って、リタは考え込もうとする
「ねえ、喋ってる暇あったら、アリシアちゃんたち追いかけた方がいいんじゃないの?」
苦い顔で頬を掻きながら、レイヴンはそう言った
おっさんの言うことも最もだな……
「だな。ほっといたら、次何やらかすかわかんねえしな」
そう言って、オレらは街の出口の方へと向かった
街の入口に近付くと、ちょうどアリシアとラピードが街の中へ入って来るのが目に入った
「アリシア!」
そう呼んで駆け寄ると、まずい、とでも言いたそうに顔を歪めた
「あ、あはは〜……ごめん、逃げられちゃった」
頬を掻きながら気まずそうにアリシアは言う
「一応、ラピードがこれ取ってくれたから、追いかけはできるけど……」
恐らくラーギィのものであろう布の切れ端を手渡そうとしてくるが、今はそれよりも、だ
「そんなことより、勝手に一人で追っかけんなっての」
そう言いながら、アリシアの頭を軽く小突こうとしたが、伸ばした手は届かなかった
「うぉっ!?……おい、ラピード……!」
原因は、アリシアの足元にいたラピードだ
アリシアにオレが近付こうとすると、頭でオレの足を押して来る
「ゥーーー…………」
若干威嚇してくるかのように唸りながら、オレを見てくる
「ラ、ラピード!?何もそこまでしなくっても……ぼくが悪いんだから仕方ないってば」
慌ててアリシアが止めようと、ラピードの傍に寄ってしゃがんで抱きつくと、唸るのをやめ、今度は彼女に頭を擦り付けていた
「あははっ!ラピード、くすぐったいって」
「ラピードって……あんなにアリシアに懐いてたっけ?」
追いついて来たカロルたちは不思議そうに、アリシアとラピードを見ていた
「いや……まあ、確かにオレよりゃ懐かれてるとは思うけど……」
不思議なのはオレも同じだ
いくら懐いていても、ラピードは普段ここまでしない
「何かあったのかしら?」
ジュディが問いかけると、笑いを止めて、アリシアはキョトンとした顔してオレらの方を見てくる
「ラーギィ捕まえられなかったこと以外、別に何もなかったよ?ね、ラピード?」
「ゥワン!」
笑顔で答えるアリシアにラピードが同調した
……やっぱあからさまに前より懐いてんな……
チラッとオレの方をラピードが見てくるが、何となく勝ち誇ったかのような表情を浮かべていて、少しイラッとした
「ま、とりあえず無事だったわけだし、追いかける事もできるんだから、良しとしてあげましょうや」
どこか安心したような表情で、おっさんはアリシアを見ていた
「そうね。今は彼を追わなければいけないわ」
「あの箱を取り返さなきゃ!」
ジュディとリタもそう言って街の入口の方を睨みつけていた
……確かに、それもそうか……
今はやる事がある
問い詰めるのは諸々片付けてからでも、遅くない
「……だな。それに、だ」
「ギルドは裏切りを許さない」
真剣な声で、おっさんが言葉を繋げた
それにカロルも頷く
「西の山脈は、旅支度のないまま通り抜けるのは無理だと思うから追い詰められそうよ」
「さっさと追いかけて、捕まえないとね」
アリシアはラピードから離れ、立ち上がるとクルッとまた入口の方へ体を向けた
「闘技場の方は大丈夫でしょうか?」
不安そうにそう呟いて、エステルは闘技場の方を見つめている
こりゃまたほっとけない病がでたな……
「じゃ、エステルたちはここで待ってる?」
どうするか考えていると、不意にカロルがそう声をかける
驚いたエステルはカロルを見た
「これはギルドの問題だしな。お嬢ちゃんたちが着いてくる理由はないわな」
おっさんの言う通り、エステルが着いてくる必要はない
ま、届けたいって言ってた箱はどうすんだよ、とは言いたいところだが……
「ゴメン、エステル、あたしは行くわ。あの箱が気になるし。それにあの箱盗んだバカに落とし前つけたいから」
アリシアの方に近寄りながら、リタはハッキリそう告げた
「わたしは……」
「自分で決めな」
尚迷っているエステルに、少しキツめに声をかける
あんまりジュディばっかに言わさせるわけにもいかねぇしな
「い、行きます」
少し迷いながらも、エステルはそう答えた
「そっか。ま、闘技場の方は大丈夫だろ」
「兄さんならきっと上手くやってくれるしね。ほら、行こ?」
ニコッと笑いながら、アリシアは闘技場の方を少し見たが、すぐにまた入口の方へと視線を戻して歩き始める
その後にオレらも続いた
「そういや、アリシア、さっきフレンと何話してたんだ?」
歩きながらアリシアに問いかける
「ん?……あー、手合わせしてる時の話?」
オレの方を少し向きながら首を傾げる
「て、手合わせって……あれで……?」
若干引き気味にカロルがアリシアを見る
まぁ……そんなことだろうとは思ってたけどな
「あはは、兄さんも本気なんて出してなかったよ?」
楽しそうにくすくすと笑いながらアリシアは答える
相当楽しかったんだな……
「で?それはいいけど何話してたのよ?」
「こんなとこで何してるの?って聞いたくらいだよ?」
訝しげに問いかけるリタに対し、アリシアはそう言った
「ふーん……」
「フレンはなんて言ってたんです?」
「騎士団の任務で言えないってさ」
エステルの問いに、少し不満げにアリシアは答えた
また言えない、か
相変わらずその辺、真面目すぎるだろ
「任務ってなんだろう?」
「さあ?まぁ、少なくともエステル連れ戻しに来たわけじゃなさそうだったよ?ぼくがいることに驚いてたし」
「ま、驚くのも無理ねえだろ。アリシアがああいうのに出るなんて、あいつも思ってなかっただろうしな?」
アリシアの隣に並んで、少し嫌味っぽく言ってみると、少し不服そうにオレの方を見上げてくる
「ぼくだって、たまにはそういう気分な時もあるよ」
むっと頬を膨らませて見上げてくる姿は幼い頃のままで、いつまでも見てたら少し頬が緩みそうだった
「へいへい、わかりましたよっと」
そう言って、アリシアの手を握って少し前を歩く
変わった気がしたのは気のせい……だったか…?
ーーカドスの喉笛ーー
「見あたらないわね」
辺りを見回しながらリタが呟く
ラピードが匂いを追って、たどり着いたのは薄暗い洞窟だ
「ここを進んだんでしょうか」
洞窟の先を見つめて、エステルが呟く
「これを抜けて山の向こうに逃げたってこと?」
それにレイヴンが首を傾げた
「えぇ……この先進んでたら追いかけるの面倒だね」
少し顔を顰めて呟く
記憶を思い出したせいか……できれば薄暗いところ、あまりいたくないんだよね
アリアがめっちゃくちゃ嫌がってるし、抜けるなら抜けるで早く進みたい
「それにここは、カドスの喉笛って言われてて、プテロプスって強い魔物が棲んでて危険なとこなんだって、前にナンが言ってた」
そんなこと考えてると、険しい顔でカロルが言う
多分、カロルは進みたくないんだろうなぁ
「ワン!」
すると、急にラピードが走り出す
物陰まで走って行くと、何かを咥えて出てきた
「あわわわ……は、離してく、ください」
引っ張り出されたのはラーギィだった
そんなところに隠れて、本気で見つからないとでも思ってたのかな……
「隠れてオレたちをやり過ごすつもりだったらしいな」
ため息をつきながら、ユーリはラーギィを睨みつけていた
「さぁて、じっくり話を聞かせてもらわないとな」
「オレたちを闘技場に立たせてどうするつもりだったんだ」
レイヴンとユーリがそう問い詰めるけど、ラーギィは口を開こうとはしなかった
「とにかく、箱を返しなさい!」
話そうとしないラーギィに対して、リタは怒鳴り気味にそう言って手を伸ばした
「ししし、仕方ないですね」
そう言って彼が指を鳴らすと、目の前に赤目の集団が出てきた
「
なんでこんなところに……
そんなこと考えてる暇もなく、
慌てて刀を抜いて応戦する
大して強くはなかったから、戦闘自体はすぐ終わったけど、その間にラーギィは奥へと逃げてしまった
「
刀を納めながら、ユーリが呟いた
あぁ……だから出て来たのか……
「手伝うフリして、研究所のものかすめ取って横流ししてたのね……許せない……あいつら……」
リタは怒りで声を震わせながら、ラーギィの進んだ洞窟の奥を睨みつけていた
そう言えば船の上でカウフマンと横流しがどうとかって話してたっけ……
……ちゃんと聞いてなかったから、あんまり覚えてないけど
「正しいギルドで有名な
余程ショックだったのか、少し声のトーンを落としてカロルが呟いていた
そんなカロルを横目に、ジュディスが奥へ進もうと歩き始めた
「待って、ジュディス!危ないってば!」
それを、カロルが慌てて止める
「あら、でも追わないと逃がしちゃうわ」
真剣な表情でジュディスがそう告げた
確かにジュディスの言うことは最もだ
ここで、逃がすわけにもいかない
「なぁ、もうやめとこうぜ。俺様、ベリウスに手紙渡す仕事まだなのに、ノードポリカから離れちゃったらまたドンに、しんどい仕事回されちまう」
レイヴンも乗り気ではないらしく、ぼくらを制止してくる
「じゃあ、レイヴンはノードポリカで待ってたらいいと思うよ?」
そう言ってぼくはジュディスの隣に並んだ
あんまり進みたくはないけど、でもこんなところで立ち止まって逃がすくらいなら、先に進んだ方がいい
「あたしは追いかけるわよ。あんなヤツに遺跡から出た大切な
握りしめた拳をわなわなと震わせながら、リタはそう叫んだ
うわぁ……だいぶお怒りだぁ……
「わたしも……行きます!」
「何言ってんの!あんたは待ってなさい」
一緒に行くと言い出したエステルをリタが止めようとするけど、その程度じゃ到底諦めてはくれない
……まぁ、ぼく“ら”的には、一緒に来てくれた方が今はいいんだけど……
「はっは。こりゃ
ニヤッと笑いながら、ユーリはカロルを見た
ついに諦めたらしいカロルがほんの少し肩を落としている
「……そうだね。エステルの護衛がボクたちの仕事だもんね」
少し渋々ではあったものの、カロルはそう言って歩き始めた
「みんなで行けば、きっとなんとかなるわ」
ニコッとジュディスも笑うと、洞窟の奥へと歩き始めた
それにリタとエステルも続いて行く
「ん〜俺様行かなくてもいい?」
ユーリを待っていると、そんなレイヴンの声が聞こえた
「ああ、ドンのお使い、がんばれよ」
少し興味なさそうに言って手を振ると、ぼくの方へ来てまた手を引かれた
「………………なんだよ、引き止めてくれよ〜」
歩いていると、少し悲しそうなレイヴンの声が聞こえた
そう思ったら、今度は追いかけてくる足音がした
「……結局ついて来るんだ」
ほんの少し後ろを見ながら苦笑いする
まぁ……エステル見張れとも言われてるらしいし、追いかけてくるか
しばらく洞窟の中を進んでいると、不意に物陰から音がした
魔物でも出たのかと思って足を止めると「よっこいせ」と、声が聞こえた
あれ、この声……もしかして……
「うわぁっ……!……ってパティ……?」
物音のした場所のすぐ近くにいたカロルが驚きの声を上げた
あ、やっぱりパティだ
よく会うなぁ
「おっ……また会ったの」
「そんなところから出て来て、やっぱりアイフリードのお宝を探してるのか」
ニコニコと笑うパティにユーリが問いかけると、彼女は頷いた
「ねぇ、そのお宝ってどんなものなの?」
「聞いて驚け、それは
どこか誇らしげにパティが言う
……え、それって……お母様が絶対に人に教えちゃいけないって言ってたものと、同じ名前じゃん……
さすがのエステルも知らないみたいで首を傾げてた
……さすがにこれ、知ってるのバレたらまずいかも
そう思って、少しフードを深めに被り直して黙った
パティは得意げに
「……ねぇ、ノードポリカで聞いたパティがアイフリードの孫って……本当?」
そう思ってた時、カロルが遠慮気味にそう問いかけた
レイヴンが少し楽しげにその話に乗っかった
話の流れが変わった事に、少しだけほっとした
「でもさ……嘘でしょ?アイフリードの孫なんて」
「本当、なのじゃ!……たぶん……」
嘘、と言われたことに、パティは最初こそ強く言い返したものの、少し自信なさげだった
「なんでたぶんなの?」
「たぶんというのは推測のことなのじゃ」
ぼくの言葉にパティがそう答えるけど、いやそういう事じゃなくて…-
「アリシアは、なんで、自分のおじいさんのことを推測で話してるか、って聞いてるのよ」
リタはそう言いながら、パティに詰め寄った
……あれ?『おじいさん』……?
「あう。それは、うちが記憶喪失だから、なのじゃ」
リタの言葉の違和感よりも、どこか悲しげに答えたパティの言葉の方に意識を持っていかれた
驚いたのはぼくだけじゃなく、リタとカロルも同じだったみたい
二人とも言葉を失っていた
記憶喪失……って、意外となる人いるもんなのかな……
ぼくと違って、パティは昔の記憶全部ないみたいだけど……
「じゃあ、アイフリードの孫ってのは、本当かどうかわからないってこと?」
「絶対、本当なのじゃ!……たぶん……」
レイヴンの問いかけに、またパティは少し声を荒らげるけど、すぐに自信なさそうになる
それ……どっちなの……
「あぁっ、もおっ!絶対なのかたぶんなのかどっちよ!」
曖昧な答えに痺れを切らしたらしいリタが怒鳴った
「わからないから
むっとしながらパティは答える
「つまり、記憶を取り戻すために、じいさんかもしれないアイフリードに会いたい。そのアイフリードを探し出すために
「のじゃ。いつの日か祖父ちゃんに会えるのじゃ」
ユーリの言葉に、どこか嬉しそうにパティはそう言うけど、やっぱり『おじいちゃん』って言葉が気になる……
だって、アイフリードって……
「そんなことより、紅の箱、追いかけなくていいのかしら?」
その事を考えようとすると、今度はジュディスの声に思考が引っ張られた
そうだ、今はそんなこと考えてる暇はない
慌ててぼくらは先に進もうと少し走り出すけど、何故かパティもついてくる
「あんた、何でついて来てんのよ」
足を止めて、リタがパティを呆れ気味に見た
「うちもこっちに行くつもりだったのじゃ」
ニコニコと笑いながら、パティは答える
一緒に行こう、と言ったエステルに、嬉しそうにパティが頷くけど……
「危ないかもしれないのに、そんな簡単に決めていいの?」
ぼくがそう言うと、パティはニッと笑った
「承知の上なのじゃ。何かあったら力になるぞ」
自信ありげなパティに少しだけ苦笑いして、ぼくらはまた、奥へ進み始めた
少し進んで行くと、ようやくラーギィの姿が見えて来た
今度こそ、絶対捕まえてやる……!
そう意気込んだのもつかの間、突然、辺りが赤く光り始めた
慌てて、ぼくらは足を止めた
これは……エアルの暴走……!?
「ケーブ・モックのと同じだわ!ここもエアルクレーネなの?」
驚いた顔でリタが辺りを見回す
「強行突破……!」
ぼくの手を離して、ユーリが飛び込んで行こうとするけど、エステルがそれを止めた
さすがにこの量のエアルに触れるのは危険すぎる
……普通は、ね
「(……アリア、『君』なら行けるよね?)」
『無理無理無理……っ!みんなの前で代わったりしたら、絶対バレるわ……っ!後、ここ怖いから嫌……っ!』
うーん……やっぱりダメか……
そうこうしている内に、ラーギィが更に奥へ逃げようとしていた
「あ、こらっ!」
慌てて追いかけようとしたけど、彼が行こうとしていた先にも、同じ現象が起きていた
これ……どうしたらいいんだろ……
そう思っていたら、今度は地面が揺れ始めた
「こ、この揺れはいったい……」
ラーギィが呟いた瞬間、どこから出てきたのか大きな魔物が目の前に現れた
「あれがカロルの言ってた魔物か!?」
「ち、違う……あんな魔物、見たことない……」
ユーリの問いに、怯えながらカロルは答える
……いや、違う……
目の前にいるのは、もしかして……
【無事に記憶は、取り戻せたようですね】
頭の中に響いてくる声は、以前に聞いた事がある声だった
「(……うん、ありがとう、クローム)」
真っ直ぐに、彼女の瞳を見つめる
【……エアルは私が取り除きます。ですから、主人格と代わるのはやめた方がいいでしょう】
そう言うと、クロームはエアルを吸収し始めた
その様子をリタたちは驚いて見つめている
少しすると、エアルの濃度が害のない程度にまで治まった
……けど、ラーギィも含めて、みんな動けないみたいだ
どこか悔しそうにユーリがクロームを睨んでいるのが視界の端に映った
【では、後は頼みましたからね。必ず……取り返してください】
「(……うん、そのつもりだよ)」
クロームにぼくが答えると、彼女は飛び上がった
その瞬間に、ラーギィ目掛けて走り出した
「アリシアっ!?」
ユーリの驚く声が聞こえたけど、そんなのお構い無しに、ラーギィに手を伸ばす
後……もう少し……っ!
けど、伸ばした手は届かず、動けるようになったらしいラーギィはまた逃げて行ってしまった
「〜〜っ!!もうっ!!逃げないでよ……っ!!」
ほんの少し睨みつけながら、後ろで止めてくるユーリの声も無視して、ラーギィを追いかけた
『アリシア……っ!勝手したら、また怒られるわ……っ!』
「(だからって、ユーリたち待ってて箱取り返せなかったらまずいでしょ?クロームにも頼まれたんだし)」
『もう……ほんとに知らないわよ……?』
「(わかってるって)」
「ゥワンッ!!」
アリアと会話してると、不意にラピードの鳴き声がした
足元に視線を落とすと、いつの間にか、ラピードが傍にいた
「来てくれたの?」
「ァオーンッ!」
ぼくが問いかけると、肯定するように一声鳴いた
「……よしっ!じゃあさっさと捕まえよっ!」
ニッと笑ってそう言って、ラーギィを追いかける
少しすると、ラーギィが足を止めた
何事かとぼくらも足を止めると、ラーギィの視線の先にはコウモリみたいな魔物がたくさん飛んでいた
魔物に気を取られてるらしく、ラーギィはぼくらに気づいていない
すかさずラピードがラーギィの元に駆け寄って、彼から箱を奪うと、ぼくの方へ蹴り飛ばして来た
「ラピード、ナイス!」
足元に飛んできた箱を拾い上げながら、ラピードに笑いかけた
「くっ、こここ、ここは……ミーのリアルなパワーを……!」
ラーギィがそう言うと、彼の胸の辺りが怪しく光り出して、眩しくて軽く目をつぶった
再び目を開けた時には、目の前にいたのはラーギィじゃなくて、ノードポリカでキュモールといた変な口調の人だった
確か……イエガー……だったかな
「ふん。そういう仕掛けか」
後ろから聞こえた声に振り返ると、いつの間にかユーリたちが追いついていた
「どういうことです……?」
不思議そうにエステルが問いかけるけど、イエガーはただ笑っているだけだった
「今はあれこれと考えてる暇はなさそうよ」
ジュディスはそう言うと、武器を構えようとする
「おーコワイで〜す。ミーはラゴウみたいになりたくないですヨ」
怪しい笑みを浮かべながら、イエガーは首を横に振る
ラゴウの名前に、ぼくの傍に来たユーリの目元が少しピクッと動いたのが見えた
「ラゴウ……?ラゴウがどうしたんですか?」
「ちょっとビフォアにラゴウの死体がダングレストの川下でファインドされたんですよ。ミーもああはなりたくネー、ってことですヨ」
イエガーの言葉に、その場にいた全員が息を飲んだ
……まさか、ユーリがやったって……バレてない、よね……?
ユーリをチラッと見ると口を閉じたまま、険しい顔をしてイエガーをただ睨みつけていた
「ラゴウが……死んだ……?どうして?」
戸惑いながらエステルは問いかける
「それはミーの口からはキャンノットスピークよ」
イエガーはそう言って、ユーリを見つめる
彼の目からなんとなくわかる……
……彼には、バレてしまっているんだ……
でも、何故かそれを言わずにいる……
一体……どうして……
「ミーがスピークできるのは、議会は犯人をキャプチャーする気はノー、ということだけネ」
ニヤリと少し不気味な笑みを浮かべながら、イエガーは腰に手を当てた
「え……?なぜ……?」
「ラゴウはセパレートケースで、近々エクセキューションされる予定だったそうですヨ。手間が省けて、議会は結果オーライってことですネ」
彼はくすくすと笑いながら、エステルの呟きに答えた
その言葉に、エステルが絶句した
イエガーが言った言葉の意味を理解できるのは、この中ではエステルだけだろう
「それ、どういうこと……?」
驚いた顔でカロルがイエガーに問いかけるけど、彼はもう、これ以上話す気はないみたい
『評議会が……死刑を決行する……って………まさか……』
「(……うん、その、まさか、だろうね……)」
アリアの言葉にそう返すと、黙り込んでしまった
一度処罰を免れたラゴウが、『別件』での処罰が確定していた……
評議会議員でさえ、処罰を免れない理由は……一つしかない
「ゴーシュ、ドロワット、後は任せましたヨー」
イエガーの声にハッとして、慌てて声の聞こえた方を見ると、魔物を二人の女の子に任せて、彼は逃げようとしていた
「あ、ちょっと……っ!!」
「イエー、また会いましょう?シーユーネクストタイムね!」
追いかけようとしたぼくを、どこか懐かしそうに見て言うと、彼は走り去って行ってしまった
……あの表情……どこかで……
そんなこと考えてる余裕もなく、バラバラだった魔物が一体の元へ集まると、大きな魔物の形を成した
その魔物に、二人の女の子は弾き飛ばされてしまっていた
「こいつだ!プテロプスだよ!」
魔物を見たカロルはそう叫ぶ
イエガーを追いかけたいけど、さすがにこいつを躱して行くのは無理だ
やるしかない、か
ぼくが刀を抜くと、みんなも武器を構えた
プテロプスは確かに強かったけど、小さい魔物一体一体はそこまで脅威ではなくて、指揮を執っていたやつを倒したら、あっさりと倒すことができた
戦闘が終わって、真っ先にエステルは地面に膝をついている二人に治癒術をかけようとするけど、二人はそれを拒否した
エステルの忠告も聞かず、二人は煙幕をはって逃げてしまった
どうやらラピード対策で、匂いの強い煙使ったみたい……
「あいつらを追うぞ」
少し慌てた声でユーリはそう言って、真っ先に駆け出した
「あ、ユーリ!」
慌ててぼくらも後を追うけど、少し進んだら急に熱気が襲ってきた
「うっ……な、なに、この熱気……」
嫌そうに少し後ろに下がりながら、リタが前を睨みつけた
「……洞窟で山の向こうに抜けてしまったのじゃ」
真っ直ぐに出口を見つめてパティが呟く
「それってつまり……」
「コゴール砂漠だわ……」
呟くようにジュディスが言った
これが、砂漠……
まだ洞窟から出てさえないのに、それでもここまで暑さが押し寄せてくるなんて……
……どんだけ暑いんだろ、これ……
「あらら……来ちゃったわねぇ」
どこか嫌そうにレイヴンが呟いた
「……わたし……やっぱり、フェローに会いに行きます」
意を決したようにエステルがぼくらを見て言う
それをカロルが慌てて止めようとした
多分、イエガーを追いかけたいからなんだろうけど……
「まあ、盗られた箱も戻ってきたし、もういいんでない?」
慌てるカロルにレイヴンはそう言った
「だねぇ。ちゃんと返すものは返してもらったし……また次の機会でいいんじゃない?」
不満そうなユーリを見上げながらレイヴンの言葉に同調した
今は仕事中なんだから、これ以上、他のことに目を向けてちゃダメだ
「……いつまでもあいつらを追っかけてるわけにもいかねーしな……しゃあねぇ……次会ったらケリつけるぜ」
ようやくユーリも諦めてくれたようだ
けど、今度はリタが、本気で行くのかと騒ぎ出した
止めたいリタと、行きたいエステル……
どっちも譲らなくて、話は平行線……
……ぼく、そろそろここから出たいんだけど……
そう思ってたら、ジュディスが口を開いた
砂漠が三つの地域に分かれてて、西部の中央部の間に、オアシスの街があるみたいだ
「込み入った話はとりあえず、そこでしようってことだよな?」
ユーリが問いかけるとジュディスは頷いた
「それがいい、おっさん底冷えしていかんのよ」
寒そうに手を擦り合わせながらレイヴンが言う
「ぼくも賛成〜。ノードポリカに戻るにしても、一度ここから出たいなぁ」
「パティはどうするの?」
カロルがパティに問いかけると、彼女も街までついてくるそうだ
「……リタ……」
「……わかったわよ」
リタも渋々ながら同意した
「じゃ、早く行こ〜」
そう言って歩き出そうとすると、手を引っ張られた
「うわっ!?」
「お前はいい加減勝手に動くなっつーの。また先に一人で行って、こんなとこで迷子にでもなったらどうすんだよ?」
ぼくの手を引っ張ったのはユーリだったらしく、怒った顔してぼくを見下ろしていた
……あー……やっぱ怒ってるよねえ……
『……だから、言ったのに……アリシアの、バカ……』
呆れたようなアリアの声が頭に響いた
「うっ……ごめんなさい……」
アリアとユーリに同時に謝る
「ったく……少なくとも、街つくまでは一人行動禁止だからな?」
ユーリはそう言うと、ぼくの手を引いて歩き出した
『……バカアリシア……』
「(……いや、ホントにごめん……)」
ユーリに怒られたせいか、あからさまに不機嫌になってしまったアリアにもう一度謝るけど……
……これは、しばらく、二人とも許してくれなさそうだな……
