第三章 満月の子と新月
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*闘技場の黒幕
ーー翌朝ーー
目が覚めてから、ぼくがみんなと別れた後のことを聞いた
ベリウスには新月の晩にしか会えないから、また日を改めることになったこと
その間に砂漠とか諸々情報を集めようって話になったこと
それと……パティのこと
お父様も旧友だったアイフリードに、孫なんていたんだ……
小さい時に会ったけど、呑気で豪快な人だったよなぁ……
「おめぇが先に手を出したんだろうが!」
「はあ?なに言ってんだ!」
そんな話をしながら、街を歩いていると、言い争う声が聞こえてきた
声のした方を見ると、二人の男の人が、武器を構えて睨み合ってるのが目に入った
それと、その横であわあわとしてる男の人
こんな街中で武器構えるなんて、危ないなぁ
呑気にそんなこと考えてると、上の方で、ルビィが飛んでるのが薄らと見えた
ユーリたちは喧嘩してる人たちの方見てるし……少しなら大丈夫、かな?
そう思って、少しだけ、ユーリたちから離れた
みんなから、姿がギリギリ見える位置で止まって、手を上に伸ばすと、ルビィが降りてきた
嘴には手紙を咥えている
手紙を受け取ると、ルビィはすぐに飛び去って行った
いつものマークを確認してから、手紙を開いた
『……アリア、と書いていいのかはわからないけど……まずは、記憶が戻ったようで、よかった、のかな……?僕的には、あまり喜ばしくないことも起きてるみたいだけど……』
アリアから、兄さんに手紙書いた、とは確かに聞いたけど……
さては、包み隠さず全部書いたな……
『とりあえず、『黒幕』の正体のことはわかった。あまり信じたくなかったけど……あの後少し、気になることもあったから、ね……。今、各地に騎士が派遣されている。“二人とも”十分気をつけて行動するんだよ?僕はしばらくノードポリカにいるから、なにかあったら、闘技場に来てくれ
……それと、ユーリたちのギルドに入るのは、仕方ないから許すよ。今はその方が、安全だろうからね』
手紙はそこで終わっていた
ノードポリカって……ここ?
闘技場にいるって……何してるんだろ……
手紙をしまいながら考えてると、ぼくの横をさっきのあわあわしてた男の人が通り過ぎて行った
「アリシア……昨日の今日で、また勝手に動くなっての」
ユーリの声に振り返ると、呆れた顔したユーリがぼくの方に近寄って来ていた
「ごめんごめん、ルビィが兄さんからの手紙持って来てくれてたから、つい」
肩を竦めながらそう答えた
「フレンからです?」
「うん。……カロル、兄さんの説得、終わったよ」
エステルの問いに短く答えて、カロルを見ながらニコッと笑った
「え?……じゃ、じゃあ……!」
どこか嬉しそうに目を輝かせながら、カロルがぼくを見つめてくる
「ぼくも誓い、立てるよ」
そう言うと、カロルは嬉しそうにその場で飛び跳ねていた
「本当にいいって言ったのかよ?」
疑い深そうにユーリが問いかけてくる
「言われてないのに入ったら、ぼく怒られるじゃん……兄さんに怒られるの、ぼくやだよ?」
少し頬を膨らませて、睨み気味にユーリを見た
兄さんに怒られるの嫌なことくらい、ユーリだって知ってる癖に……
「あら、彼女が誓いを立てるの、不満なのかしら?」
ユーリの傍に来たジュディスは、背中で手を組んで、少し屈みながらユーリの顔を覗き込んでいた
「いや、別に不満ってわけじゃねーけど……」
ジュディスから顔を逸らしながら、ユーリは気まずそうに頬を掻いていた
「……ダメって言われたのにお前が入ったりなんてしたら、オレもあいつに怒られるだろ」
少し考えた後、ユーリはそう答えた
……絶対、そんな理由じゃないと思うんだけど……
「平気って言ってるのに、疑い深いんだから……ま、もし本当に怒られそうになったら、代わりに怒られておいて?」
ニヤッと笑いながら言うと、ユーリは大きくため息をついた
「とりあえず、ラーギィのとこ行くか」
軽く頭を振ってから、ユーリはそう言って、ぼくの手を引いて歩き出した
「ラーギィ……って、なんで?」
「おま……それも聞いてなかったのか……オレらに頼みたい事があるんだとよ。だから、話だけでも聞きに行こうぜって話してたんだけど?」
問いかけたぼくに、呆れたようにユーリは言ってくる
「……聞いてなかったのはごめん……でも、頼みって、なんだろね?」
「さあな?ま、聞いてみりゃわかんだろ」
ーーーー
闘技場の奥、人が全くいない場所にラーギィはいた
こんな人気のないところじゃないと話せないことって、なんなんだろ?
「受けるかどうかはまだ決めてないぜ。話を聞いてからだ」
ラーギィに向かって、ユーリは少し冷たくそう言った
まぁ、受ける前提って思われても嫌だからね……
「じ、実は、
彼の言葉に、ぼくらは驚いた
乗っ取りなんて、そんな物騒なこと考える人がいるんだ……
「でも、なんであんたがそれ止めようとしてんの?別のギルドの事だし、放っておけばいいじゃない」
訝しげな顔をしてリタが問い詰める
リタの言う通りだとぼくも思う
「パ、
ラーギィはリタの問いかけにそう答えた
……それなら、止めたい気持ちも納得かな
調査してる時に、急に
……まあ、ベリウスが人間に負けることなんて、早々ないとは思うけど……
「も、もし別の人間が上に立って、こ、この街との縁が切れたら、
……なんで、その単語、この人が知ってるんだ……?
「
不思議そうにカロルは首を傾げた
「あ、すみません……こ、この街を作った古い一族で、我がギルドこの街の渡りをつけてくれたと聞いています」
ラーギィの答えに、少し安心した
古い一族って認識ならよかった……
「ふーん、古い一族……ね」
訝しげにそう呟いて、ユーリは少し考え込んでいた
カロルはジュディスにクリティア族のことか問いかけてたけど、ジュディスはただ肩を竦めただけで、はっきりとは答えなかった
ジュディスも……何か知っていそうなんだよなぁ……
「んで、どこの誰なのよ、その物騒なヤツって」
頭の後ろで手を組みながら、レイヴンはラーギィに問いかける
「と、闘技場のチャンピオンです」
「チャンピオンって?」
ラーギィの答えに、思わず問い返してしまった
「や、奴は大会に参加し、正面から
「そりゃ、
ラーギィの説明に、レイヴンは苦い顔して納得してた
……つまり、ちゃんと大会に出て勝ち進んでるから、追い出せないってこと、かな?
「で、早い話が、オレたちに大会に出て、そいつに勝てって話なんだな」
小さくため息をつきながら、ユーリが言うと、ラーギィは頷いた
「まわりくどい……そいつの目的って本当に闘技場の乗っ取りなわけ?」
未だに訝しげな顔をしたまま、リタは再び問いかける
「もも、もちろん、おお、男の背後には
少し語気を強めながら、ラーギィはそう答えた
「
少し顔を顰めながら呟いた
カロルは、「まさか」、って驚いてたけど……
「キュモールと
カロルの方に顔を向けながら、ユーリはそう言った
確かにこれは止めなきゃいけない案件かもしれないけど……
でも……なんか、引っかかるっていうか……
ぼくの横では、エステルが暴走しかけて、ジュディスが叱り気味に声かけてるけど、そんな会話、あんまり頭に入って来なかった
仮に
じゃあ、なんで、兄さんがここに……?
……まさか、ね……?
「あ、あの、すみません、難しいでしょうか?」
ラーギィの問いかけに、ハッとして顔を上げた
これは考えたところでわからない
きっと……答えは闘技場にあるから
「難しくは無いわ」
ぼくが口を開く前に、ジュディスが答えた
あまり乗り気じゃなさそうだったから、その答えに少し驚いた
「え?」
驚いたのはぼくだけじゃなく、エステルも同じようだった
キョトンとした顔して、ジュディスを見ていた
「やるんでしょう?話を聞いてしまったし」
カロルの方を向きながら、ジュディスは問いかけた
「う、うん。ギルドとしても放っておけない話、かもしれないし……」
少し動揺しながらも、カロルが頷く
「んじゃ、誰が出るわけ?」
リタはそう言って、ぼくらを見回した
「エステルやリタ、レイヴンにはお願い出来ないよ。これは
カロルがそう答えると、真っ先にユーリとジュディスが動いた
「悪ぃけど、ジュディと、どこかでぶつかるのは勘弁だな」
「あら?私はやってもよかったのに、残念。今回はおとなしくしてるわ」
出る気満々だったジュディスは少し残念そうにしながらも、すぐに諦めた
確かにユーリなら、問題なく勝ち進められると思うけど……
「……ね、ユーリ、それ、ぼくじゃダメ?」
そう声をかけると、ユーリが驚いた顔してぼくを見てきた
「おまっ……それ、本気か?」
「本気じゃなきゃ言わないって……ぼくだってギルドの一員なんだし、いいでしょ?それに……ぼく、そんなに弱くないから」
ニッと笑ってそう言った
やっぱり、さっきの兄さんの手紙に書いてあった最後の文が、どうしても気になる
まさか兄さんがそんなこと、考えてるなんて思いたくはないけど……
アリアのためにも、少しでも不安の種はなくしておきたい
「……はぁ……アリシアは一度言い出したら、中々折れてくれねえしな……但し、怪我すんなよ?」
ユーリはすぐに折れてそう言ってくる
「大丈夫大丈夫っ!……ってことで、カロル、ぼくでいいよね?」
ニコッと笑いながら、カロルの方を見た
少しおどおどしながらも、カロルは頷いてくれた
「あの……お、お引き受けくださるので……」
「ああ。チャンピオン倒しゃ、ギルドの名もあがるしな。オレ達にとっても悪い話じゃない」
ラーギィの問いにユーリはそう答えてニッと笑った
「では、じゅ、準備が出来たら、う、受付で、手続きしてください」
ラーギィはそう言って、この場を去って行った
「じゃ、ぼくらも行こっか?」
来た道の方に体を向けながら、みんなに声をかけた
……なんか、ユーリとレイヴンの視線が少し気になるけど、それは気にしないでおこう……
ーーーー
闘技場の受付で、アリシアは手続きをしていた
オレはは少し離れたところで、その様子を見ていた
「にしても、あの子が出るなんて……意外ね」
ポツリとリタがそう呟く
「ユーリ……本当によかったの?」
少し不安げな表情をして、カロルが見上げてくる
「一度言い出したら言うこと聞かねぇしな。それに、あいつはオレより腕いいから、大丈夫だとは思うが……」
カロルの方に視線を向けてそう答えた
実力があるのは認めているが、それでも、万が一をどうしても考えちまうな……
「その彼女、どうやら手続き終えたみたいよ?」
ジュディの声にアリシアの方を見ると、オレらの方に駆け寄って来てるところだった
「終わったよ〜。もう少ししたら開催だってさ」
少し深めにフードを被り直しながら、アリシアはそう言った
「んじゃ、客席の方行くか。……無理すんなよ?」
そう言って、アリシアの頭に手を置いた
「大丈夫、わかってるから!」
口角を少し上げながらそう答えて、アリシアは階段を駆け上がって行った
「……気合い十分、って感じねえ」
そんなアリシアの後ろ姿を、おっさんがどこか懐かしげに見つめていた
幽霊船降りて以来、なんかおっさんも変なんだよな……
「ほれ、おっさん。早くしねえと置いてくぞ?」
ボケッと突っ立ってるおっさんに声を掛けてから、オレらは客席の方へと向かった
「お待たせしました!ただいまより、闘技大会を開催します!」
司会の声が会場に響き渡る
客席は多くの人で溢れかえっていた
……アリシア、あいつ、平気か……?
「さあ、本日の一回戦!闘技場のニューフェイス!フレッシュギルド、
その声と共に、アリシアが出てきた
「アリシア!!無理すんなよっ!」
「アリシア〜っ!頑張ってください!」
「アリシアならきっと大丈夫だよ」
「ケガしないように、ほどほどに〜」
オレらがそう声をかけると、少しだけこちらを向いて手を振って来た
「出たかったわ、私も」
「まだ言ってるし」
オレらの後ろではジュディとリタがそんな会話をしていた
そうこうしているうちに、一回戦が始まる
アリシアは技も殆ど使うことなく最初の相手を倒した
二回戦、三回戦も、共に危なげなく勝ち進んでいった
「アリシア、すごいね!」
隣で興奮気味にカロルがアリシアを見つめていた
「アリシアちゃんも、頑張るわねえ〜」
おどけ気味にレイヴンはそう言ったが、どこか不安げな表情を浮かべている
「まだまだ盛り上がっていくぜぃ!そう!次こそメインイベント!
紹介しよう、大会史上、無敗の現闘技場チャンピオン!」
司会の声が響くと、最後のチャンピオンらしき人物が奥から出てくる
見た事のある人影に、言葉を失った
「ワォーン!」
ラピードが一番最初にその姿に反応する
「え……!?」
「ど、どういうこと?」
次いで、エステルとカロルも驚きの声を上げた
何故なら……出てきた奴は……
「甘いマスクに鋭い眼光!フレーーン・シーーフォ!」
オレらもよく知ってる、フレンだったからだ
「……こりゃ、嵌められたかね……」
小さくため息をつきながら、アリシアとフレンを見下ろした
ーーアリシアsideーー
三回戦までの相手は大した事もなく、結構簡単に倒せた
珍しく起きてるらしいアリアが、終始頭の中で話しかけてくること以外は今のところ問題ないかな
『もう……っ!!どうしてユーリに任せておかないの……っ!』
再び聞こえてくるアリアの声に、思わず苦笑いした
「(ごめんってば。ちょっと気になることがあってさ。……アリア、そろそろ少し黙ってて欲しいな?)」
「まだまだ盛り上がっていくぜぃ!そう!次こそメインイベント!
紹介しよう、大会史上、無敗の現闘技場チャンピオン!」
そう声をかけたのと同時に、司会の声が辺りに響いた
納得はしてなさそうだけど、アリアは大人しく口を閉ざした
さすがに話しながらじゃ相手出来そうにないし……ね
「甘いマスクに鋭い眼光!フレーーン・シーーフォ!」
チャンピオン紹介の声に思わずため息が出た
できれば、違ってて欲しかったんだけどなぁ……
「……っ!!アリシア……!!なんで、こんなところに……」
ぼくを見た兄さんは驚きの声を上げた
「んー……闘技場を乗っ取ろうとしてる黒幕を倒してくれって頼まれたんだけど……これ、嵌められちゃったみたいかな」
刀を構えながら、兄さんを見る
……最後に兄さんと手合わせしたのは、いつだったっけ?
「どうやら、そうらしいね」
深く息を吐きながら、兄さんも剣を構えた
数秒見つめ合って、ぼくらは同時に駆け出した
迷わずに、兄さん目掛けて刀を振り下ろす
「危ないじゃないか」
盾で防ぎながら、少し怒った顔を兄さんはする
「だって、さすがに手抜くわけにもいかないじゃん?」
ぼくがそう言うと、兄さんは盾で刀を押し返してくる
少し後ろに飛ぶと、今度は兄さんが剣を振り下ろしてきて、それを受け止めた
「だとしても、少しは手加減をしてほしいな?」
「そう言うけどさ、兄さん全然余裕そうじゃんか」
兄さんに勝てない事なんてわかってはいるけど、あまりにも余裕そうなのがちょっとムカつく
「……今は、『アリシア』なんだよね?」
剣を交えながら、兄さんは問いかけてくる
これだけ歓声が大きければ、早々聞かれることもない……かな
「『アリア』は基本、出て来ないよ。今は起きてるみたいだから、会話は聞いてると思うけどね」
攻撃を交わしながらそう答える
話しかけてこなくても、アリアが不安そうにしているのがわかる
「それで、兄さんはなんでこんなとこいるの?」
少し距離を取ってそう問いかけた
「……騎士団の任務だ。それ以上は言えない」
少し言いずらそうに、でもはっきりと兄さんは答える
……ぼくにも言えないこと、か
「……そっか」
小さく呟いて、また兄さんに向かって行く
あんまりしつこく聞いて、兄さんが答えた事が、アリアに取って良くないことだったら嫌だから……これ以上は、聞いてはいけない
「兄さん、張り切りすぎて、あんまり無理しちゃダメだよ?」
兄さんの剣を受け止めながら、そう言って笑いながら首を傾げた
「張り切っているのはアリシアの方じゃないかい?」
そう言って、兄さんも笑った
まあ、確かに久々に兄さんと剣を交えるのは楽しくて、ちょっと張り切ってるかもしれない
「それで、そろそろエステリーゼ様を返してくれないかな?」
「ええ……それ、ぼくに言う?本人に直接言った方がいいって」
「エステリーゼ様は、僕の言うことに耳を貸してくださらない」
「……兄さん、知ってる?エステルは、ぼくらの言うことも聞いてなんてくれないよ?」
そう言いながら、後ろに飛んだ
観客席は大盛り上がりで、歓声が響き渡ってる
……さてと、どうしようか……
負けてあげてもいいけど、ギルドの名誉もかかってるしなぁ……
そんな事考えてると、ぼくと兄さんの間に、何かが降ってきた
「うわっ!?」
驚いて、落ちてきた何かから距離を取ろうと、もう一度後ろに下がった
土煙が晴れると、そこには一人の男の人が立っていた
……あれ、この人、どこかで……?
「アリシアっ!!」
キョトンとしてその人を見てると、ユーリの声が傍で聞こえた
振り返ると、何故かユーリが客席から降りてきていた
「ユーリ……なんでここに?」
首を傾げてユーリを見るけど、ユーリはぼくじゃなく、目の前にいる男の人を睨みつけていた
「ユーリ!オレに殺されるために生き延びた男よ!感謝するぜ!」
ユーリを見るなり、男の人はどこか嬉しそうにそう言った
……あ、思い出した、ハルルで見た暗殺者のうちの一人だ
確か……ザギ、だっけ?
「生き延びたのはお前のためじゃねぇぞ」
「オレを初めて傷つけたおまえを、オレは絶対この手で殺す!」
「やる気出すなら、もっと別のことにしとけよ」
呆れ気味に、ユーリはザギと会話をしている
会話……というか、一方的な言い合い……?
「見ろぉ!」
そう叫ぶと、左腕を上げた
禍々しいその腕は、見てるだけで嫌な感じがする
『あれ……もしかして、
「(うげ……ホントに?腕
頭の中で聞こえた、アリア言葉に、思わず顔を顰めた
さすがにあれは気色悪い……
「あ、ジュディス!」
そんなこと考えてると、エステルの声が聞こえてきた
振り返ると、今度はみんなが降りて来ていた
これ、もう大会どころじゃないね……
……まあ、どう終わらせようか迷ってたから、別にいいけどさ……
「どうだ、この腕は?おまえのせいだ。おまえのためだ!くくくく!」
狂ったように笑いながら、ザギはただユーリだけを見つめていた
「さぁ、この腕をぶちこんでやるぜ!ユーリ!」
そう叫んで、ユーリに左腕を向けた
「しつこいと嫌われるぜ!」
刀を構えながら、ユーリも叫ぶ
こうなったらやるしかないか
ぼくらも武器を構えて、ザギとの戦闘が始まった
「おらおらっ!!!さっきの威勢はどこ行ったんだ!?」
剣を振り回しながら、どこか楽しげに彼はそう叫んだ
攻撃範囲が広すぎて迂闊に近づけない
……リタにまたなんか言われるかもしれないけど……仕方ない
そう思って左手で投げナイフを取り出して、ザギ目掛けて投げる
「降り注げ!!
投げたナイフは氷の礫のようにザギに降り注いだ
「が……っ!?」
当たったのはいいけど、何故か嬉しそうな顔してぼくの方を見てくる
これ……まずいやつかな……
『もう……目付けられちゃったじゃない……』
「(あー……やっぱそう思う?)」
頭の中に響いたアリアの声に、思わず苦笑いした
「はははっ!!お前もいいなっ!!」
ニィッと気味の悪い笑みを浮かべると、ぼくの方目掛けて走って来た
「うげっ……別にぼく、君とタイマンなんてしたくなんいだけど……っ!!」
そう言いながら距離を取る
さて、ここからどうしたものか……
全然ダメージ入ってなさそうなんだよなぁ……
『
「(壊したいのは山々だけど、どうやったら壊せるんだか……)」
「アリシア!そのまま引き付けてて!」
逃げながらアリアと会話してると、リタの声がした
チラッと見ると、エステルとリタが術の用意をしてる
……何か、いい案でもあるのかな?
言われた通りに、適度に相手しながら逃げ回ってると、不意にザギが左腕を空に掲げた
そう言えば……さっきからなんかずっとそんな動きしてたっけ……?
「リタ!エステル!今だよ!」
「フォトン!」「ファイヤーボールっ!!」
カロルの合図と共に、既に用意していたらしい二人の術が、ザギに当たり、腕の
「獅子咆哮っ!!」
そのタイミングで、待ってましたと言わんばかりにユーリが技を食らわせていた
ええ……いつからぼく囮に使われる予定だったの……
まともに攻撃を受けたザギは、その場に両膝をついた
ようやく戦闘終わり……かな
「うっ………ぐあぁぁっ!!」
ザギが苦しそうな声をあげると、腕の
「リタ……?あれ、暴走してない……?」
ぼくの問いかけに、「無茶な使い方するから!」と、悲鳴じみた声を上げてたけど……
いや、それもだけど、壊れてるのが原因なんじゃ……
そんな事考えてたら、どこからか魔物が闘技場内に溢れてきた
兄さん曰く、見世物用の魔物らしい
どうやら今ので
今度は魔物退治かぁ……
連戦で、ぼくもう疲れたんだけど……
そんなこと考えながら、魔物を切り倒していくけど、キリがない
「こりゃ、ちょいとしんどいねえ」
さすがに他のみんなもしんどいらしく、レイヴンが弱音を吐いてた
「口じゃなくて、手動かして」
そんなレイヴンにリタはそう言うと詠唱を始める
けど……なんか、ちょっと変……
いや、変ていうか……あれ暴走なんじゃ
そう思った瞬間、普段よりも威力の高いファイヤーボールが敵目掛けて放たれた
「ちょっと……どういうこと!?」
打った本人さえ威力に驚いてる
いや、ホント……今何が起こったの……?
「この箱のせい……?」
エステルはそう言いながら、アーセルム号から持って来た箱を見つめていた
あの箱の中に入ってる
そう思った瞬間、その箱をどこに潜んでいたのかラーギィがかっさらって行った
「あ、こらーっ!」
慌てて逃げるラーギィを追いかける
ぼくの後に、ジュディスとラピードも追いかけて来た
仮に中身が『あれ』だったら……絶対に渡しちゃいけない……!
ラーギィは意外と逃げ足が早く、中々追いつけない
さすがに街中で投げナイフは危ないし、投げられないよなぁ……
中々追いつけないでいると、ラーギィは街の外まで逃げてしまう
「もうっ!ラピード、行くよ!」
「ワンッ!!」
ラピードに声をかけて、ぼくは結界の外に飛び出した
ジュディスは入口付近で追いかけるのを諦めたらしく、着いてきてない
……それなら、好都合、だね
「(アリア、少しだけ代われる?『あれ』、取り返しておかないとまずそうだ)」
『……怖い……けど、頑張ってみるわ……』
アリアは怯えながらもそう答えた
その答えに、ぼくは大きく深呼吸をして、目を閉じた
ゆっくりと、目を開ける
周りに人がいないとしても……やっぱり恐怖が勝ってる
……でも、アリシアの言う通り、逃してはいけないから……
『あれ』は、人の手に……渡っちゃ、いけない……
「……ラピード……行くよ……っ!」
「ゥオーンッ!!」
そう声をかけて、その場に立ち止まる
ラピードはスピードを上げて、ラーギィさんと更に距離を詰めようとしていた
「……乱れ、飛んで、翠影……っ!ウィンドニードル!」
ラーギィさん目掛けて、風の針が吹いていく
術に気づいたラーギィさんが、術を避けようとして、ほんの少し後ろに下がってくる
そこに、追いついたラピードがラーギィさんの服に噛み付いた
慌てて彼はラピードから離れて、また走って行ってしまったけれど……
……でも、ラピードはちゃんと収穫があったみたい
服の切れ端を咥えて、わたしのところに戻ってくる
「……お疲れ様、ラピード」
寄ってきたラピードの傍でしゃがんで頭を撫でると、嬉しそうに擦り寄って来くる
ふわふわな毛の感触が心地いい
少し心が落ち着く、けれど……もう、これ以上は……
「(……アリシア、も、代わって……?)」
『よく頑張ったね、アリア。後は任せて……ゆっくり休んで?』
優しく言ってくる声に、わたしは目を閉じた
目を開けると、ラピードが少し心配そうな顔して、ぼくを見て来ていた
「そんな顔しなくても平気だよ、ラピード。……今の、みんなには内緒だからね?」
唇に人差し指を軽く当てながらそう言ってウィンクした
「ワンッ!!」
わかってる、とでも言いたげにラピードは鳴いて、ぼくに擦り寄って来る
「さてと……街に戻ろっか!……ユーリ、怒ってなきゃいいけど……」
立ち上がって軽く伸びをしながら、苦笑いした
衝動的だったとは言え、さすがに勝手し過ぎちゃったしなぁ……
「ワフゥ……」
少し呆れたように鳴きながら、ラピードが足元に寄ってくる
「……ま、考えても仕方ないね〜。大人しく、怒られよっか」
「ゥワンッ」
ため息をつきながらラピードを見ると、大丈夫だ、と言いたげに見上げてきていた
もう一度、ラピードの頭を軽く撫でて、街の方へと足を進めた
