第三章 満月の子と新月
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*いざ出航
「あれ、ヨーデル……」
港へ向かってるいる途中、ぼくらが向かってる方向からヨーデルが従者と共に歩いて来るのが目に入った
「あ……みなさん、またお会いしましたね」
ニッコリと微笑みながら、彼は声を掛けてくる
「時期皇帝候補殿が、こんなとこで何やってんだ?」
「ユーリ……もう少し言い方あるんじゃないの?」
少し嫌味の混じった言い方に、思わず言い返してしまった
そんなこと聞かなくったって、おおよそ検討は付いてるだろうし
「ドンと友好協定締結に関するやり取りを行っています」
ユーリの問にヨーデルは迷いもせずにそう答えた
サラッと機密っぽいこと言ってるけど、大丈夫なのかな……
「うまくいってます?」
「それが……順調とはいえません」
ほんの少し、ヨーデルの表情が曇る
「だろうなぁ。ヘラクレスってデカ物のせいで、ユニオンは反帝国ブーム再燃中でしょ」
頭の後ろで手を組みながら、レイヴンが言う
確かにあんなものが帝国にあるって知ったら、友好協定なんて言ってられないかも…
「その影響で帝国側にも友好協定に疑問の声があがっています」
「ドンが帝国に提示した条件は対等な立場での協定だったしな」
「あんなのがあったら、対等とはいえないわね」
「ええ……事前にヘラクレスの事を知っていれば止められたのですが……」
ほんの少し悔しそうにヨーデルは顔を歪めた
…でも、これは彼のせいじゃない
もし知っていたとしても、今の彼には騎士団に指示を出す権限がない
それはつまり、止められる可能性はとても低いという事だ
ヨーデルもそれはわかっているみたいだけど……
「なら、話は簡単だ。皇帝になればいい」
あっけからんと、ユーリはヨーデルに言う
「……それは……」
エステルが何か言おうとしたけど、肝心の続きは出てこない
……まぁ、それもそうだよね
機密事項だろうし、そう簡単には……
「私がそのつもりでも、今は帝位を継承できないんです」
「なんでよ」
「帝位継承には
リタの問いにはっきりと答えるヨーデルに、少し驚いた
その話を平気でする事にも驚いたけど、
「……それに、今は姉様が居ませんから……」
ヨーデルは悲しそうな声で呟いた
「姉様って、アリアンナってやつだよな?なんでそいつが必要なんだよ」
そんなヨーデルに、ユーリは遠慮なく問いかける
「姉様は『新月』です。『新月』とは、代々皇帝一族を支えてきた、守り人です。継承の儀で彼女に認められて、初めて皇帝の座を継ぐ事ができるのです」
ヨーデルははっきりとそう告げる
それ……言っちゃっていいのかな……
エステルなんて、驚いて言葉失ってるけど……
「……だからラゴウは……」
ぼくの隣で、ユーリが何か呟く
「どうしたの、ユーリ?」
上手く聞き取れなくて、少し見上げながらユーリに問いかけた
「……なんでもねえよ」
そう言って、ぼくの頭に手を乗せてくる
なんでもない、って言う割には、ちょっと怖い顔してたけどなぁ……
「それにしても、皇帝候補が道ばたへもへも歩いてて良いの?」
リタの問いかけに、ヨーデルはヘリオードに向かってるって答えてる
まあ、あそこの方が近いし、連絡取るのも楽だよね
「ヨーデル様……そろそろ……」
ヨーデルの後ろにいた従者が少し遠慮気味に声を掛けた
結構話しちゃってたし、無理もないか
けど、ヨーデルはすぐに返事をせずに、何か考えてるみたいだ
「……先に街の入口の方へ向かっててもらえますか?私もすぐに向かいます」
従者の方を見て、ニコッと笑いながらヨーデルはそう言ったけど……
それ、大丈夫なの……?
案の定、従者の方はいい顔をしなかったけど、ヨーデルは全く譲りそうにない
ただニコニコと笑顔を浮かべているヨーデルに折れたのか、渋々、従者の方は先に歩き出した
「ヨーデル、いいんです?」
不思議そうにエステルが首を傾げて、ヨーデルを見てた
…うん、それはぼくも知りたい
「ええ。……彼には、聞かせたくなかったので」
ほんの少し、申し訳なさそうにヨーデルは言う
「聞かせたくないって、どういうこと?」
「ユーリさん、お願いがあります」
リタの問いには答えず、ヨーデルは真剣な顔で、真っ直ぐにユーリを見つめた
「もし、あなた方が旅をする先で、姉様……アリアンナを見つけたら……彼女を、騎士団に引き渡さないでください。誰にも言わず……そっとしておいてあげて欲しいのです」
少し迷いながらも、ヨーデルははっきり言った
想像していなかった言葉に、思わず反応しかけてしまう
「おいおい……そいつがいなきゃ、帝位は継承できねぇんだろ?」
呆れた声でユーリが問い返した
「ええ、そうです。……ですが、今の城に、姉様を連れ帰る事はできません」
「あら、それは何故かしら?」
「騎士団内部に、姉様を狙う者がいます」
ジュディスの問いに答えたヨーデルの言葉に、心臓が少し跳ねた
少し早くなっている鼓動を鎮めようと、胸に手を当てながら、少しだけ俯いた
「嘘……そんな……」
ヨーデルの答えに驚いたのは、エステルも同じだった
「その者を見つけ処罰しない限り、あの日の惨劇が、再び起こる可能性があります。……私は、姉様をまた危険に晒したくはありません。もし今、どこかで平穏に暮らしているというのであれば……再び会うことが叶わなくとも、その方がいいのです」
寂しげな声でヨーデルは言う
きっと本音は、一緒に暮らしたいなんだろうけど……
それでも、『アリアンナ』の安全が第一だと、口調からわかる
「……わかった。見かけたとしても、誰にも言わねえよ」
少しため息をつきながら、ユーリが答えた
「アリシアも、それでいいんだよな?」
ユーリの声に少し顔を上げると、ぼくの方を見ながら、首を傾げていた
「……うん、それでいいと思うよ。……アリアが無事なら……それで……」
少し深呼吸をしてから、そう答えた
鼓動もようやく、落ち着きを取り戻した
「ありがとうございます。……それでは、失礼します」
ニコッと笑うと、ヨーデルは街の入口の方へ向かって歩き出した
「騎士が皇族を……って、そんなことありえるの?」
ヨーデルが離れてから、カロルが不思議そうに首を傾げていた
「まぁ……ありえなくはないんじゃないかな?」
「そうね。さっきの彼の話では、継承にはその子が必要みたいだもの。皇帝になりたい人なら、欲しがっても無理はないんじゃないかしら」
「……自分が帝位を継承する事よりも、身内を守る方が大事、か……帝国のお偉いさんも、大変ねぇ〜」
おどけながら言うレイヴンの声に、少し違和感があった
なんか……少し、寂しそうだった気がする……
「つか、本当によかったのかよ、アリシア」
「何が??」
ユーリの声に顔を上げると、呆れ気味にぼくを見下ろしていた
「何がって、さっきの話だよ。お前だって、会いたいだろ?」
「あー……うん、まぁ……」
ユーリの問いかけに、言葉が詰まる
どう答えても、きっとまた疑うんだろうしなぁ……
「確かにもう一度……会えるなら、会いたいし、また一緒に居たいけど……それで、アリアが危険な目に合うくらいなら……見つけても、何もしない方がいいんだよ、きっと」
そう言って、笑ってみせた
少しぎこちないかもしれないけど……
「……そっか、なら、いいんだけどな」
ユーリはこれ以上問い詰めるつもりはないらしく、ぼくの頭を軽く撫でてくる
「ほら、みんな行こ?」
ぼくがそう言うと、みんな港へ向かって歩き出した
ーーー港ーーー
「あんなに沢山、勘弁してくれ〜!」
「命がいくつあっても足りねえよ!」
港につくとそんな声が聞こえてきた
声のした方向を見ると、二人の男の人が街の方へと走って向かって行くのが見えた
「何かあったのかな?」
そう呟いて首を傾げていると、見覚えのある赤い髪の女の人が視界に入った
「待ちなさい!金の分は仕事しろ!しないなら返せ〜っ!」
相当お怒りらしく、ブラックリストに追加!なんて言ってる
「あの人、確かデイドン砦で……」
エステルも思い出したみたいで、小さく呟いていた
「ユーリにすっごい興味津々だった人だよね〜」
頭の後ろで手を組みながら、隣にいるユーリを見上げた
「ああ、あん時の……」
少し嫌そうな声で、ユーリは呟いた
「し、知り合いなの?」
驚いた顔でカロルはぼくたちを見てくる
「前にちょっと、ね?カロルこそ、知り合いなの?」
「知り合いって……五大ギルドの一つ、
少し興奮気味にカロルは答えた
うーん……そう言われてもよくわかんないんだけど……
「つまり、ユニオンの重鎮よ」
少し首を傾げてると、レイヴンがわかりやすく教えてくれた
あぁ……そりゃ、驚きもするか……
「いいこと思いついた……!」
何かを思いついたらしいカロルが声を上げる
「どうした、カロル」
「あの人なら、海渡る船出してくれるかもしれないよ」
ユーリの問いかけにニコッと笑うと、カロルは早速、彼女の元へと向かい始めた
ぼくらも後を追って歩いて行くと、船の前で少し苛立った様子で腕を組んで立っているカウフマンさんを見つけた
彼女の方も、近づいてくるぼくらに気づいたようで、こっちを向いた
「あら、あなたはユーリ・ローウェル君。いいところで会ったわ」
どこか嬉しそうに、カウフマンさんは笑ってユーリを見る
ユーリ、あの時名乗ってないのに……
手配書の効果って恐ろしい……
「ねえ、あなたにピッタリの仕事があるんだけど」
ニコニコと笑いながら、カウフマンさんは提案してくる
本当にユーリの事気に入りすぎじゃないかな……この人……
「ってことは荒仕事か」
ため息混じりにユーリが問い返すと、満足そうに笑みを浮かべていた
「察しのいい子は好きよ。聞いてるかもしれないけど、この季節、魚人の群れが船の積荷を襲うんで大変なの」
困ったとでも言いたげにため息をつきながら、カウフマンさんは答えるけど……
それなら、いつもどうしてたのさ……
「あれ?それっていつも、他のギルドに護衛を頼んでるんじゃ……」
カロルも同じ疑問を持ったらしく、首を傾げながら問いかけていた
「それがいつもお願いしてる傭兵団の
他の傭兵団は骨なしばかり。私としては頭の痛い話ね」
……え、
「その傭兵団はなんてところ……ですか?」
少し引きつった声でカロルが再び問いかける
「
あ、やっぱり……
「誰かさんが潰しちゃったから」
小さな声で、リタがジト目でユーリを見つめながら呟いてた
「誰かさん…って言うか、ぼく以外みんな同罪なんじゃ……」
ぼくがそう返すと、リタは少し気まづそうにぼくから視線を逸らした
「生憎と今、取り込み中でね。他を当たってくれ」
あまり彼女と関わりたくないらしいユーリは、そう言うと彼女に背を向けた
「え、ユーリ!船のことお願いするんでしょ?」
「あら、船って?」
カロルが慌ててユーリにそう声をかけると、カウフマンさんがそれに反応した
「オレたちもギルド作ったんだよ」
ユーリは振り返って、少し面倒くさそうにそう答える
カロルは嬉しそうに、カウフマンさんにギルド名を伝えていた
「素敵。それじゃ商売のお話しましょうか」
ユーリがギルドに入った事が相当嬉しいのか、満面の笑みでカウフマンさんは提案してくる
けど、ユーリは請けるつもりは全くないらしく、他の仕事中と言って、断ろうとしていた
そんなに嫌なのかな……
「それなら商売じゃなくて、ギルド同士の協力って事でどう?それならギルドの信義には反しなくってよ?……うちと仲良くしておくと、色々お得よ〜?」
それでも、カウフマンさんも引き下がるつもりはないみたいで、更に提案して来た
これ、どうするんだろ……
カロルはもう頭パンク寸前そうだけど……
「……分かったよ。けどオレたちはノードポリカに行きたいんだ。遠回りはごめんだぜ」
パンク寸前のカロルを見て、ユーリが折れた
折れはしたけど、ちゃんと意見を通そうとするのがユーリらしい
「構わないわ。魚人が出るのは、ここの近海だもの」
ユーリの言葉に、カウフマンさんはニコッと笑った
「こちらとしてはよその港に行けさえすれば、それでいいの。そしたら、そこからいくらでも船を手配できるから」
ニコニコと笑顔を浮かべながら、そう答える
いくらでもって……ホントにすごいギルドなんだなぁ……
「契約成立かしら?」
返答がない事に、カウフマンさんは首を傾げて問いかけてくる
「なんか、いいように言いくるめられた気がする」
「さすが天下の
少し不服そうに呟くリタと、レイヴンはその隣で、ケラケラと笑ってそう言う
確かに、話を進めるのが上手いなぁ
「いいんじゃない?これでデズエール大陸に渡れる訳だし」
「そうだね。ぼくらはそこに行けたらいいしね〜」
ジュディスの言葉に同意しながら、ユーリを見上げる
まだどこか不服そうな顔して、ユーリはカウフマンさんを見ていた
「もうひとついい話をつけてあげる」
不服そうなユーリの視線に気がついたらしいカウフマンさんがもう一つ提案をしてくる
それは、無事にノードポリカに辿り着けたら、この船を譲ってくれるって事だった
カロルは嬉しそうに目をキラキラさせて、船を見つめていた
「ボロ船だけど、破格の条件には違いないわね」
「でしょ、でしょ?」
ジュディスの言葉に、カウフマンさんは大きく頷きながら、ユーリを見る
「どうだかな。魚人ってのが、それだけ厄介だって話だろ」
ユーリは吐き捨てるように呟く
あー……でもまぁ、そう言うことになるの……かな?
「そこはご想像にお任せするわ」
ニコッと笑顔を浮かべたまま、カウフマンさんはユーリを見つめていた
あんまり納得はいっていないらしいユーリは、まだ疑い深そうにカウフマンさんを見ている
これはダメなやつだなぁ……
ほっといたら、いつまでも話進まなさそう……
「ま、仮にそうだとしても、なんとかなるでしょ」
ユーリを見上げながら、ニコッと笑いかける
……一瞬驚いたように目を見開いてたのは気にしない事にしよう
「ったく、呑気だな……しょうがねぇか」
ついに折れたらしいユーリは、そう言って苦笑いしながらぼくを見る
「素敵!契約成立ね!さ、話はまとまったんだから、仕事してもらうわよ?」
嬉しそうに笑ってカウフマンさんはそう言った
ユーリが引き受けてくれたのが嬉しいのか、ようやく船を出せるのが嬉しいのかはわからないけど……
「準備できたら声かけてちょうだい」
そう言って、一足先に船に乗って行った
「渋ってた青年を一発で納得させるとは……アリシアちゃんは恐ろしいわ〜」
その声に振り返ると、レイヴンが苦笑いしながらぼくを見ていた
「そうかな?」
首を傾げてレイヴンを見つめ返すと、ほんの一瞬、目を見開いてた
すぐに苦笑いに戻っちゃったから、気のせいかもしれないけど……
「ほーら、いいからオレ達も、さっさと乗ろうぜ?」
ユーリはそう言って、ぼくの手を引く
ぼくをあまり見ないようにしてるのか、顔は真っ直ぐ前を向いてたけど、少しだけ、頬が赤くなってる気がした
そんなユーリに、クスッと笑いながら、大人しく後に続いた
ぼくらが船に乗ると、すぐに出航した
カウフマンさんから操縦士のトクナガさんを紹介され、次からは自分達で探すように言われた
エステルとユーリが積荷の事を気にしていたけど、そこは気にしても仕方ないと思って、ぼくはずっと海を眺めていた
こんなに静かで綺麗な海なのに……
「魚人なんて、ホントに出るのかなぁ…」
「出会わなければいいですよね」
ぼくが呟いた言葉にエステルが反応した
「でも世の中、そんなに甘くないわよ」
「若いのに、ずいぶん悲観的なのね」
「現実的って言って」
そんなレイヴンとリタの会話を聞きながら、水面を見た
真っ青な色は、なんとなく兄さんを思い出させる
……兄さん、大丈夫かな……
そんな事を考えていると、急に船が揺れた
「来たわね」
「皆さん気をつけて!」
カウフマンさんとトクナガさんの声に振り返ると、船の上に魔物が現れた
「うぇ……ホントに出た……」
そう呟きながら刀を抜いて、魔物を見る
「ちょっと……波酔いしたのじゃ……」
見つめていると、一体の魔物から、そんな声が聞こえてきた
カロルとエステルが怯えてるけど……
でも、あの声……どこかで……
「喋ってると舌噛むぜ!」
少し考え耽っていると、ユーリの声が聞こえてくる
……うん、今はそんな事考えてる場合じゃないね……
聞こえた声が少し気になるけど、倒すのが先だ
魔物自体はそんなに強くなくて、ものの数分でカタがついた
「さすがね。私の目に間違いはなかったわ」
満足そうに微笑みながら、カウフマンさんが呟いているのが聞こえた
「とほほ……
ガックリと肩を落として、レイヴンが呟いている
……
「
「そうそう」
ユーリの問いかけにレイヴンは少し面倒そうに短く答えた
「それっておとぎ話でしょ。あたしも、前に研究したけど、理論では実証されないってわかったわ」
アホらしとでも言いたげな口調でリタが言う
研究好きなリタが言うならそうなんだろうけど……
なんだろ、ぼく、どこかでそれ……聞いた事あるような……
「ま、おとぎ話だって言われてるのは、おっさんも知ってるよ」
「どうしてそんなものを、探すんです?」
不思議そうにレイヴンに問いかけるエステルの声にハッとする
……今考えたところで、記憶が朧げなぼくには思い出せそうにないし、気にしないでおこう
「そりゃ………ドンに言われたからね」
少し間を空けてレイヴンは嫌そうな顔で答えた
それだけが理由じゃなさそうな雰囲気だけど……
そんな会話をしてると、倒したはずの魔物のうちの一体が急に動き出す
「まだ生きています……!」
エステルの声に、再び刀を握る
けど、魔物はその場で身動ぎするだけで、襲いかかって来ようとはしない
不思議に思って、刀を握る手から少し力が抜けたタイミングで、魔物が何かを吐き出してそのまま倒れた
「パティ!?」
魔物の中から出て来たのは、パティだった
「快適な航海だったのじゃ……」
少し気持ち悪そうにしながらパティは呟く
「魔物に飲み込まれてて、航海も何もないだろ」
呆れ気味にユーリはパティに言うけど、当の本人はニコニコと笑っていた
「こんなところで、何してたんです?」
「お宝探して歩いてたら、海に落っこちて、魔物と遊んでたのじゃ」
エステルの問いに、パティはどこか楽しそうな声で答えた
「あはは……よかったね、栄養分にされなくて……」
呑気なパティに、思わず苦笑いした
「……なんでもいいけど、このまま、船出していいかしら」
少し不機嫌そうにカウフマンさんが問いかけてくる
そう言えば……船、止まってたっけ
「ああ、頼む」
ユーリがそう答えたのと同時に、トクナガさんの悲鳴が聞こえて来た
慌てて彼の方に行くと、まだ魔物が残っていたらしく、彼を襲おうとしているところだった
「ちぃっ……!まだ一匹いやがったか……」
ユーリは舌打ちすると、素早く魔物を倒した
魔物が全部いなくなったのを再度確認してから、エステルがトクナガさんに治癒術を使った
「一応、治癒術はかけましたが……当分安静にしていた方がいいです」
治癒術をかけ終わったエステルはカウフマンさんに向かってそう言う
でも、トクナガさんが安静にしないといけないって事は……船の操縦、誰がするんだろ……?
「困ったわね……あなたたちの中で誰か操縦できる人……いるわけないわよね」
ぼくらを見回しながらカウフマンさんは残念そうに呟く
そりゃ、まあ……ぼくらは無理だって
「うちがやれるのじゃ」
そう思っていると、パティが声を上げた
「パティ、操縦できるの?」
「世界を旅する者、船の操縦くらいできないと笑われるのじゃ」
首を傾げて問いかけると、パティはニコッと自信ありげに笑ってそう答えた
うーん……それならもう少し周りを注意した方がいい気がするけど……
「それじゃあ、船の操縦はあなたにお願いするわ」
ニコッと笑いながらカウフマンさんがそう言うと、パティは舵を取った
彼女が言っていたことは本当だったらしく、船が再び動き出す
船が動き出すと、カウフマンさん達は船室に入って行った
「わぁ……パティすごい」
操縦しているパティの隣に行って声をかける
なんか……ちょっと楽しそう
「それ、ぼくにもできるかな……」
「うちが教えるから、やってみるかの?」
首を傾げながら問いかけると、パティがそう問い返してくる
ちょっと嬉しくて、お願いしようとしたら、急に後ろに引っ張られた
「わっ!?」
「アリシア……お前、まーた余計なこと覚えようとしてるだろ」
ぼくを引っ張ったのはユーリだったらしく、呆れた顔して、ぼくの顔を覗き込んできた
「えー……操縦は余計な事じゃないと思うんだけど……」
「あんまりお転婆してっと、フレンに怒られるぜ?」
ムッと頬を膨らませるぼくに、ユーリはそう言ってくる
……確かに、兄さんに怒られるのは嫌だなぁ……
「うー……ごめんね、パティ。なんかダメみたい」
「む……それは残念なのじゃ。じゃが、また機会があったら、その時教えてあげるのじゃ」
ぼくの方を向いて、少し残念そうに笑うと、パティはすぐにまた前を向いた
「ったく……お前ほんと、面倒見られに来てるんじゃねえのか?」
呆れ顔で笑いながら、ユーリは問いかけてくる
「別にそんなことないってばー!」
そう言って、ユーリを見上げると元々外れかかっていたらしいフードが落ちてしまった
……まぁ、ここ海の上だし、いっか
「……あんたがフード取ったとこ、初めて見た気がするわ」
少し驚いた顔で、リタが僕を見ながらそう言ってきた
みんなを見ると、どうやら驚いたのはリタだけじゃなかったらしく、エステルやカロル、レイヴンも驚いた顔をしていた
「あー……まぁ、ここなら騎士もいないだろうしねえ」
ニコッと笑いながら答える
その瞬間、レイヴンがぼくから顔を背けたのが視界の端に映った
ユーリ達は気づいてないみたいだけど……レイヴン、どうしたんだろ?
「本当に……アリアンナそっくりです……」
少し掠れたような声で、エステルが呟いたのが聞こえた
「だからぁ……違うって何度も言ってるじゃん」
少しフードを被り直しながら、それに答える
「ぼくはアリシア、アリシア・シーフォだよ」
エステルを真っ直ぐに見つめてそう告げる
「でもじゃあ、なんでずっとフード被ってるの?」
不思議そうにカロルは首を傾げてぼくを見てくる
「だって、ずーっとアリアと間違えられるんだもん……」
少し目を伏せながらそう答えた
我ながら、よく平気で、こんな嘘言えるようになったなぁって思う
「あ……えと……ごめんなさい」
少ししゅんとしながら、エステルが謝ってくる
「別にいいよ、もう慣れっ子だから」
ニコッと笑いながら、エステルを見た
「ま、とりあえず、ノードポリカまで頼むぜ、パティ」
ユーリは話題を終わらせようとしたのか、パティに向かってそう声をかけた
しばらくの間、ぼくらは船の上で待機だ
*スキットが追加されました
*新月って?
