第三章 満月の子と新月
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*現状と手紙
ーートリム港宿屋ーー
トリムの宿屋に着いたぼくらは現状報告をし合った
ぼくらはユーリ達がギルドの立ち上げ、最初の依頼主がエステルだと伝え、レイヴンはここまで追っかけてきた経緯を話してくれた
「成る程な、ユニオンとしては帝国の姫様がぶらぶらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」
レイヴンの話を聞き、ユーリは納得したようだ
「ドンはもうご存知なんですね。私が次の皇帝候補であるって事」
「そそ、なもんでドンにエステルを見ておけって言われたんさ」
「監視って事? あんま気分良くなくない?」
不機嫌に顔を顰めながら、カロルはレイヴンを見る
「そんなものです?」
「あれ…? ボクだけ?」
エステルの答えに、不思議そうに首を傾げている
「エステルは立場上慣れてるんだろ」
「ま、ともかく、追っ駆けて来たらいきなり厄介事に首突っ込んでるし、おっさん着いてくの大変だったわよ」
ほんの少し膨れながらレイヴンはそう言った
それなら着いて来なければよかったのになぁ…
「…でも、どうしてエステルを?」
「帝国とユニオンの関係を考えたら当然の事かもしれねぇな」
「腹を探り合ってるとこだからなぁ。動きを追っておきたいのさ」
確かにユーリとレイヴンの言う通りなんだろう
友好協定を結ぶと言っても今の今までいがみ合ってきた仲だ
そんな簡単にはいかないだろう
「んで、あんた等はフェローってのを追ってコゴール砂漠に行こうとしてると」
「はい」
エステルの答えにリタはあからさまに顔を顰めた
「砂漠がどういうとこか、解ってる?」
「暑くて、乾いてて、砂ばっかの所でしょ」
「簡単に言うわね。そう簡単じゃないわよ」
カロルの返答に思い切りため息をつく
ぼくも砂漠に関して詳しくはないけど、危険な所な事くらいは知っている
「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」
「それから?」
「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」
「…ツッコみたい事は沢山あるけど…お城に帰りたくなくなったって事じゃないんだよね?」
「えと…それは」
その質問に、エステルは口籠った
…きっと本音は帰りたくない、なんだろう
「おっさんとしては城に戻ってくれた方が楽なんだけどなぁ」
「ごめんなさい。わたし、知りたいんです。フェローの言葉の真意を…」
なんの説明もなしに『世界の毒』と言われたのだから、そう考えるのが普通だろう
「ま、デズエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」
リタとエステルの間に流れた重い空気を、レイヴンが割って入るように話し出す
手には一通の封筒が握られていた
「その手紙の内容、知ってるの?」
「ん、ダングレストを襲った魔物に関する事だな。お前さん達の追っているフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物の事知ってるって事だ」
「…!」
ベリウス……まさかレイヴンも用があるなんて……
「こりゃオレ達もベリウスってのに会う価値が出て来たな」
レイヴンから手紙を受け取ったユーリは流し読みしながらそう言った
「っつー訳で、おっさんも一緒に連れてってね」
「解ったよ。でも一緒にいる間はちゃんと凛々の明星 の掟は守ってもらうよ」
「了解、了解~。んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないからそこんとこもよろしくな」
「どうして凛々の明星 に入らないのです?」
ヘラヘラと笑うレイヴンにエステルは不思議そうに首を傾げる
「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。レイヴンだって一応、天を射る矢 の人間だしね」
「一応ってなんだよ」
カロルの言い方が気に食わなかったのか、ほんの少し不機嫌そうにレイヴンは彼を見る
「ま、ノードポリカならどうせ通り道だ。アリシアも用事があるみたいだし、丁度いいだろ」
手紙をレイヴンに返しながら、ユーリはぼくを見る
「おろ?アリシアちゃんも??」
「あー…うん。ちょっと会いたい人が居て…ね?」
そう答えるとレイヴンはふーんと言って、じっとぼくを見つめてくる
…今、そんなおかしなこと言ったかな…?
「そういや、あんたもこいつらのギルドに入った訳じゃないのよね?」
「うん、そうだけど…どうして?」
「別に?あんたなら入りそうって思っただけよ」
それだけ言うと、リタは顔を背ける
「話しは終わり? じゃああたしそろそろ休むわ」
たった一言そう言うと、彼女は足早に部屋を出ていく
「リタは…どうするんでしょう?」
「さぁ、な」
「とりあえず明日は港に行ってみよう」
カロルのその掛け声で話し合いは終了し、自由時間となった
部屋に戻るとベッドの縁に座っているリタがいた
「ねえ…あいつ等、本当にそのフェローとかいう奴にエステルを会わせるつもり?」
ぼくが入ってくるのを見ると、唐突に話し始める
「あの子、そいつに毒って言われたんだっけ?」
「そんな風に言われて、気にするなって言う方が難しいと思うよ?」
「だからって皇位継承のごたごたから目を背けてもあの子の為になんないでしょ」
「リタの言い分もわかるけど、エステルが自分で決めた事にぼくは反対しないよ」
「…で、あんたはどうするの?」
「ぼく?」
唐突に話をぼくのことに切り替えられ首を傾げる
「会いたい人っていうのに会った後よ。どうするつもりなの?」
「うーん…そうだなぁ……。その人に会って次第ではあるけど、出来ればユーリ達に着いていこうかなって思ってるよ。ユーリ、ほっといたらまた無理無茶しそうだからね」
「…ねぇ、なんであいつらのギルド入らないわけ?ユーリが心配ならギルドに入って、一緒に行動した方がいいんじゃないの?」
ハルルの樹のことがあって、ぼくを疑ってるからか、ものすごく突っ込んでくるなぁ…
「そりゃだって…ぼくがギルドに入ったりしたら、兄さん倒れちゃいそうだし……今手紙で説得してる最中なのー!」
そう言って少し頬を膨らませてみる
…隠し事してるの、バレバレかもしれないけど
「…やっぱり、あんたもなんか隠してるわよね。会ったばかりの時のエステルと同じで」
「……仮にもしそうだったとして、無理矢理にでも聞き出そうとする?」
「………いいえ、やめとくわ。あんたの事だから、話せることなら教えてくれるでしょ。そうやってはぐらかすってことは、教えられないってことなわけでしょ」
「さぁ?もしかしたらホントに何もないかもよ?」
「……あんた、意地悪いって言われない?」
「えー…そんな事ないって」
クスリと笑いながら言うと、やっと諦めたのかリタはそれ以上聞いてこなかった
「じゃ、ぼくちょっと外の空気吸ってくるね」
そう言ってぼくは部屋を出た
外に出ると冷たい海風が吹いていた
ちょっと前ならこんなに自由に外を出歩くなんて考えも出来なかった
下町にいる時はいつもビクビクしていたから…
すっかり日も落ちて、真っ暗になった空を見上げる
キラキラと輝く星がとても綺麗だ
ボーッと空を眺めていると、一羽の鳥がぼく目掛けて飛んできているのが目に入った
驚いていると、ぼくの傍の手すりに止まる
その嘴には一通の手紙がくわえられていた
手紙を受け取り、封を見るといつものマークが押してあった
「…兄さんから預かって来てくれたんだね。ありがとう」
そう言って頭を撫でる
暗がりでよく見えないけど、多分鳩、かな?
すぐどこかに行っていまうと思っていたが、早く手紙を見ろと言わんばかりに、小さな瞳でぼくを見つめてくる
恐る恐る封を開けて手紙を広げる
『アリシア、手紙読んだよ。君の記憶を戻す手掛かりが見つかったこと、喜ぶべきなんだろう。ただ、本当に喜んでいいのか…正直わからないんだ。思い出さない方がアリアの為になるんじゃないのかと……どうしてもそう思ってしまうんだ。でも、アリアがそうしたいのであれば、僕が止める権利はないね。
本当であれば、僕が一緒に行ってあげたいんだが……。それが難しいのは僕自身わかっている。
悔しいけど、今はユーリ達と行動した方がいい。
ここ最近、君を探す動きが大きくなりつつあるから、僕は騎士団内から警戒を続ける。アリアも、外を出歩く時は絶対にフードを被って、ユーリから離れないでくれ。
追伸:一緒に入ってる鈴を鳴らせばこの鳩…ルビィが来るから、今後手紙はこの子を通して渡してくれ』
「ルビィっていうんだね。…これから宜しくね」
そう言って、もう一度頭を撫でるとルビィは小さく鳴いて飛び去って行った
その姿を見送って、手紙をポーチにしまう
「アリシア?」
後ろから聞こえた声に思わず肩が跳ねる
振り返ると、そこに居たのはユーリだった
「…なぁんだ、ユーリかぁ…びっくりした」
「ったく、宿屋に居ねぇから何処に居るのかと思えば…こんな時間に何してんだ?」
そう言いながら、ユーリはぼくの隣に来る
「寝れないから外の空気吸いに」
「ふーん…お前ホント夜空見ながらボーッとしてんの好きだよな」
「…星を見てると落ち着くんだよね」
そう言いながら視線を空へと向ける
真っ黒な空に、キラキラと星が瞬いている
この風景を見るのが、昔から好きなんだ
「毎日見てたら飽きねぇのか?」
「飽きないよ。同じに見えても、毎日少しずつちがうもん」
「そうかぁ?オレには違いがわかんねぇけどな」
そう言って少しつまらなさそうにしながらも、ぼくと同じように空を見上げるユーリの姿が視界の端に映る
つまらないなら戻ればいいのに……
そう思いながらも、隣に居てくれるのはやっぱり嬉しい
「よく見たら星空って全然違うんだよ?特にお月様は毎日形が変わっていくし」
「そういやそうだったか。…今日はだいぶ細い形してんな」
「ついこの間新月だったからね。これから毎日少しずつ丸くなって行くんだよ」
じっと月を見つめながらそう伝える
1人で見上げるのもいいけど、誰かと一緒に見上げるのも悪くないかな
「……ホント、好きだよな。そんなに見上げて首痛くなんねぇのか?」
そう問いかけられて、少しユーリの方に顔を向けると、いつからそうしていたのかわからないけど、ぼくの方に少し体を向けて、じっと見つめてきていた
ほんの少し呆れ気味で、だけど、何故か嬉しそうなその表情に、思わずドキッとした
「…よく見上げてるから、もう慣れちゃったよ」
ドキッとしたのを誤魔化そうと、少し微笑んでからまた空に視線を戻した
「そっか」
ユーリはそう一言だけ言うと、ポンッとぼくの頭に手を乗せてきた
「ほら、星空が好きなのはわかったから、そろそろ戻ろうぜ?明日も朝早いしな」
顔を反らせると、パサッとフードが取れる
…兄さんの手紙にフード取るなって書かれてたけど、ここには今騎士もいないし、少しなら平気だろう
視界に映ったユーリは少し困ったように微笑んでいた
「んー、そうだね。朝起きれないのは困るもんね」
そう言ってユーリの方に体を向けて、外れたフードをしっかりとかぶり直す
「だろ?ほら、行こうぜ」
当たり前のようにユーリはぼくの手を引いて歩き出す
もうそんなに小さな子どもじゃないのに…
でも、こうやって手を引かれるのは嫌じゃなくて、ユーリに手を引かれたまま、ぼくらは宿屋へ戻った
ーー翌日ーー
ロビーに出るとリタ以外のメンバーが集まっていた
ユーリはぼくを見ると行こうと声を掛けるが、エステルはリタのことが気になるようで、どうするのかと問いかけてくる
昨日の感じだと来るつもりなんだとは思うけど…まだ出て来ないなぁ
ジュディスはリタにもやる事があるからと言う
…気が変わった、のかな?
そんなことを考えていると、ユーリの後ろの扉が開く音がした
「で、港から船、だっけ?」
振り返ると満面の笑みを浮かべたリタが扉の前に立っているのが目にはいる
どうやら付いてくる気満々のようだ
「お前もついてくんのか?」
「ええ」
「なんか用事があったんでないの?」
「騎士団長から依頼されたエアルクレーネは調査報告済み。他のエアルクレーネはどの道旅しながら見て回るつもりだったから」
「つまり、調査の為に私たちを利用するってことかしら?」
「まあね。へリオードの時みたいに酷い目に遭わないとも限らないわけだし、一人よりも、あんたたちと一緒の方がとりあえず安心よね」
「相変わらずいい性格してるぜ」
半分呆れているユーリを他所に、エステルはリタと旅ができることが嬉しそうだ
当のリタ本人は照れ隠しなのか別になんて言ってるけど、顔は嬉しそう
「それじゃあ、港に行こっか」
「だな」
そう言って、ぼくとユーリ先頭にぼくらは宿屋を後にした
ーートリム港宿屋ーー
トリムの宿屋に着いたぼくらは現状報告をし合った
ぼくらはユーリ達がギルドの立ち上げ、最初の依頼主がエステルだと伝え、レイヴンはここまで追っかけてきた経緯を話してくれた
「成る程な、ユニオンとしては帝国の姫様がぶらぶらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」
レイヴンの話を聞き、ユーリは納得したようだ
「ドンはもうご存知なんですね。私が次の皇帝候補であるって事」
「そそ、なもんでドンにエステルを見ておけって言われたんさ」
「監視って事? あんま気分良くなくない?」
不機嫌に顔を顰めながら、カロルはレイヴンを見る
「そんなものです?」
「あれ…? ボクだけ?」
エステルの答えに、不思議そうに首を傾げている
「エステルは立場上慣れてるんだろ」
「ま、ともかく、追っ駆けて来たらいきなり厄介事に首突っ込んでるし、おっさん着いてくの大変だったわよ」
ほんの少し膨れながらレイヴンはそう言った
それなら着いて来なければよかったのになぁ…
「…でも、どうしてエステルを?」
「帝国とユニオンの関係を考えたら当然の事かもしれねぇな」
「腹を探り合ってるとこだからなぁ。動きを追っておきたいのさ」
確かにユーリとレイヴンの言う通りなんだろう
友好協定を結ぶと言っても今の今までいがみ合ってきた仲だ
そんな簡単にはいかないだろう
「んで、あんた等はフェローってのを追ってコゴール砂漠に行こうとしてると」
「はい」
エステルの答えにリタはあからさまに顔を顰めた
「砂漠がどういうとこか、解ってる?」
「暑くて、乾いてて、砂ばっかの所でしょ」
「簡単に言うわね。そう簡単じゃないわよ」
カロルの返答に思い切りため息をつく
ぼくも砂漠に関して詳しくはないけど、危険な所な事くらいは知っている
「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」
「それから?」
「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」
「…ツッコみたい事は沢山あるけど…お城に帰りたくなくなったって事じゃないんだよね?」
「えと…それは」
その質問に、エステルは口籠った
…きっと本音は帰りたくない、なんだろう
「おっさんとしては城に戻ってくれた方が楽なんだけどなぁ」
「ごめんなさい。わたし、知りたいんです。フェローの言葉の真意を…」
なんの説明もなしに『世界の毒』と言われたのだから、そう考えるのが普通だろう
「ま、デズエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」
リタとエステルの間に流れた重い空気を、レイヴンが割って入るように話し出す
手には一通の封筒が握られていた
「その手紙の内容、知ってるの?」
「ん、ダングレストを襲った魔物に関する事だな。お前さん達の追っているフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物の事知ってるって事だ」
「…!」
ベリウス……まさかレイヴンも用があるなんて……
「こりゃオレ達もベリウスってのに会う価値が出て来たな」
レイヴンから手紙を受け取ったユーリは流し読みしながらそう言った
「っつー訳で、おっさんも一緒に連れてってね」
「解ったよ。でも一緒にいる間はちゃんと
「了解、了解~。んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないからそこんとこもよろしくな」
「どうして
ヘラヘラと笑うレイヴンにエステルは不思議そうに首を傾げる
「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。レイヴンだって一応、
「一応ってなんだよ」
カロルの言い方が気に食わなかったのか、ほんの少し不機嫌そうにレイヴンは彼を見る
「ま、ノードポリカならどうせ通り道だ。アリシアも用事があるみたいだし、丁度いいだろ」
手紙をレイヴンに返しながら、ユーリはぼくを見る
「おろ?アリシアちゃんも??」
「あー…うん。ちょっと会いたい人が居て…ね?」
そう答えるとレイヴンはふーんと言って、じっとぼくを見つめてくる
…今、そんなおかしなこと言ったかな…?
「そういや、あんたもこいつらのギルドに入った訳じゃないのよね?」
「うん、そうだけど…どうして?」
「別に?あんたなら入りそうって思っただけよ」
それだけ言うと、リタは顔を背ける
「話しは終わり? じゃああたしそろそろ休むわ」
たった一言そう言うと、彼女は足早に部屋を出ていく
「リタは…どうするんでしょう?」
「さぁ、な」
「とりあえず明日は港に行ってみよう」
カロルのその掛け声で話し合いは終了し、自由時間となった
部屋に戻るとベッドの縁に座っているリタがいた
「ねえ…あいつ等、本当にそのフェローとかいう奴にエステルを会わせるつもり?」
ぼくが入ってくるのを見ると、唐突に話し始める
「あの子、そいつに毒って言われたんだっけ?」
「そんな風に言われて、気にするなって言う方が難しいと思うよ?」
「だからって皇位継承のごたごたから目を背けてもあの子の為になんないでしょ」
「リタの言い分もわかるけど、エステルが自分で決めた事にぼくは反対しないよ」
「…で、あんたはどうするの?」
「ぼく?」
唐突に話をぼくのことに切り替えられ首を傾げる
「会いたい人っていうのに会った後よ。どうするつもりなの?」
「うーん…そうだなぁ……。その人に会って次第ではあるけど、出来ればユーリ達に着いていこうかなって思ってるよ。ユーリ、ほっといたらまた無理無茶しそうだからね」
「…ねぇ、なんであいつらのギルド入らないわけ?ユーリが心配ならギルドに入って、一緒に行動した方がいいんじゃないの?」
ハルルの樹のことがあって、ぼくを疑ってるからか、ものすごく突っ込んでくるなぁ…
「そりゃだって…ぼくがギルドに入ったりしたら、兄さん倒れちゃいそうだし……今手紙で説得してる最中なのー!」
そう言って少し頬を膨らませてみる
…隠し事してるの、バレバレかもしれないけど
「…やっぱり、あんたもなんか隠してるわよね。会ったばかりの時のエステルと同じで」
「……仮にもしそうだったとして、無理矢理にでも聞き出そうとする?」
「………いいえ、やめとくわ。あんたの事だから、話せることなら教えてくれるでしょ。そうやってはぐらかすってことは、教えられないってことなわけでしょ」
「さぁ?もしかしたらホントに何もないかもよ?」
「……あんた、意地悪いって言われない?」
「えー…そんな事ないって」
クスリと笑いながら言うと、やっと諦めたのかリタはそれ以上聞いてこなかった
「じゃ、ぼくちょっと外の空気吸ってくるね」
そう言ってぼくは部屋を出た
外に出ると冷たい海風が吹いていた
ちょっと前ならこんなに自由に外を出歩くなんて考えも出来なかった
下町にいる時はいつもビクビクしていたから…
すっかり日も落ちて、真っ暗になった空を見上げる
キラキラと輝く星がとても綺麗だ
ボーッと空を眺めていると、一羽の鳥がぼく目掛けて飛んできているのが目に入った
驚いていると、ぼくの傍の手すりに止まる
その嘴には一通の手紙がくわえられていた
手紙を受け取り、封を見るといつものマークが押してあった
「…兄さんから預かって来てくれたんだね。ありがとう」
そう言って頭を撫でる
暗がりでよく見えないけど、多分鳩、かな?
すぐどこかに行っていまうと思っていたが、早く手紙を見ろと言わんばかりに、小さな瞳でぼくを見つめてくる
恐る恐る封を開けて手紙を広げる
『アリシア、手紙読んだよ。君の記憶を戻す手掛かりが見つかったこと、喜ぶべきなんだろう。ただ、本当に喜んでいいのか…正直わからないんだ。思い出さない方がアリアの為になるんじゃないのかと……どうしてもそう思ってしまうんだ。でも、アリアがそうしたいのであれば、僕が止める権利はないね。
本当であれば、僕が一緒に行ってあげたいんだが……。それが難しいのは僕自身わかっている。
悔しいけど、今はユーリ達と行動した方がいい。
ここ最近、君を探す動きが大きくなりつつあるから、僕は騎士団内から警戒を続ける。アリアも、外を出歩く時は絶対にフードを被って、ユーリから離れないでくれ。
追伸:一緒に入ってる鈴を鳴らせばこの鳩…ルビィが来るから、今後手紙はこの子を通して渡してくれ』
「ルビィっていうんだね。…これから宜しくね」
そう言って、もう一度頭を撫でるとルビィは小さく鳴いて飛び去って行った
その姿を見送って、手紙をポーチにしまう
「アリシア?」
後ろから聞こえた声に思わず肩が跳ねる
振り返ると、そこに居たのはユーリだった
「…なぁんだ、ユーリかぁ…びっくりした」
「ったく、宿屋に居ねぇから何処に居るのかと思えば…こんな時間に何してんだ?」
そう言いながら、ユーリはぼくの隣に来る
「寝れないから外の空気吸いに」
「ふーん…お前ホント夜空見ながらボーッとしてんの好きだよな」
「…星を見てると落ち着くんだよね」
そう言いながら視線を空へと向ける
真っ黒な空に、キラキラと星が瞬いている
この風景を見るのが、昔から好きなんだ
「毎日見てたら飽きねぇのか?」
「飽きないよ。同じに見えても、毎日少しずつちがうもん」
「そうかぁ?オレには違いがわかんねぇけどな」
そう言って少しつまらなさそうにしながらも、ぼくと同じように空を見上げるユーリの姿が視界の端に映る
つまらないなら戻ればいいのに……
そう思いながらも、隣に居てくれるのはやっぱり嬉しい
「よく見たら星空って全然違うんだよ?特にお月様は毎日形が変わっていくし」
「そういやそうだったか。…今日はだいぶ細い形してんな」
「ついこの間新月だったからね。これから毎日少しずつ丸くなって行くんだよ」
じっと月を見つめながらそう伝える
1人で見上げるのもいいけど、誰かと一緒に見上げるのも悪くないかな
「……ホント、好きだよな。そんなに見上げて首痛くなんねぇのか?」
そう問いかけられて、少しユーリの方に顔を向けると、いつからそうしていたのかわからないけど、ぼくの方に少し体を向けて、じっと見つめてきていた
ほんの少し呆れ気味で、だけど、何故か嬉しそうなその表情に、思わずドキッとした
「…よく見上げてるから、もう慣れちゃったよ」
ドキッとしたのを誤魔化そうと、少し微笑んでからまた空に視線を戻した
「そっか」
ユーリはそう一言だけ言うと、ポンッとぼくの頭に手を乗せてきた
「ほら、星空が好きなのはわかったから、そろそろ戻ろうぜ?明日も朝早いしな」
顔を反らせると、パサッとフードが取れる
…兄さんの手紙にフード取るなって書かれてたけど、ここには今騎士もいないし、少しなら平気だろう
視界に映ったユーリは少し困ったように微笑んでいた
「んー、そうだね。朝起きれないのは困るもんね」
そう言ってユーリの方に体を向けて、外れたフードをしっかりとかぶり直す
「だろ?ほら、行こうぜ」
当たり前のようにユーリはぼくの手を引いて歩き出す
もうそんなに小さな子どもじゃないのに…
でも、こうやって手を引かれるのは嫌じゃなくて、ユーリに手を引かれたまま、ぼくらは宿屋へ戻った
ーー翌日ーー
ロビーに出るとリタ以外のメンバーが集まっていた
ユーリはぼくを見ると行こうと声を掛けるが、エステルはリタのことが気になるようで、どうするのかと問いかけてくる
昨日の感じだと来るつもりなんだとは思うけど…まだ出て来ないなぁ
ジュディスはリタにもやる事があるからと言う
…気が変わった、のかな?
そんなことを考えていると、ユーリの後ろの扉が開く音がした
「で、港から船、だっけ?」
振り返ると満面の笑みを浮かべたリタが扉の前に立っているのが目にはいる
どうやら付いてくる気満々のようだ
「お前もついてくんのか?」
「ええ」
「なんか用事があったんでないの?」
「騎士団長から依頼されたエアルクレーネは調査報告済み。他のエアルクレーネはどの道旅しながら見て回るつもりだったから」
「つまり、調査の為に私たちを利用するってことかしら?」
「まあね。へリオードの時みたいに酷い目に遭わないとも限らないわけだし、一人よりも、あんたたちと一緒の方がとりあえず安心よね」
「相変わらずいい性格してるぜ」
半分呆れているユーリを他所に、エステルはリタと旅ができることが嬉しそうだ
当のリタ本人は照れ隠しなのか別になんて言ってるけど、顔は嬉しそう
「それじゃあ、港に行こっか」
「だな」
そう言って、ぼくとユーリ先頭にぼくらは宿屋を後にした
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