第三章 満月の子と新月
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*住民の失踪
ヘリオードに着くと前に来た時よりも閑散としていた
「なんだか……以前より閑散としてません?」
「ああ。なんか人が少なくなってる気がするな」
「そう言えば、あれかなぁ…」
「あら?どうしたの?」
「ダングレストで聞いたんだけど、街の建設の仕事がキツくて、逃げ出す人が増えているんだって。本当か嘘か知らないけどさ」
「へぇ…そんな噂あったんだ」
そう言いながら辺りを見回す
…本当にそれだけなんだろうか
なんか…違う気がする
「ほっとけない」
「え…?」
ユーリの言葉に反応したのはエステルだった
「って顔してるわね」
「だったらまず宿に行って作戦会議だね。魔導器 の様子も見に行かなきゃだし」
「だな。エステルのほっとけない病も出ちまったし」
「だって、ほっとけないじゃないですか」
「それはわかるよ」
苦笑いしながら彼女を見る
「じゃあ、いこう!宿屋に出発~」
カロルはそう言って宿屋に向かって走って行った
「張り切ってるなぁ、カロル」
「ユーリとギルドを作れたのがホントに嬉しいんですね」
「別に、カロルのために作ったんじゃないんだけどな」
「でも無関係ってわけでもないのでしょう?あなたにとって」
「さぁてな。ほら、オレたちもさっさと宿屋に行こうぜ」
そう言ってユーリは歩き出す
その後をぼくらもついて行った
そして時間も遅かったから、そのままここに泊まることになった
カタン………
「………ん…………」
真夜中、みんなが寝静まった頃
小さな物音が聞こえて目が覚める
部屋の中を見回すと、ユーリとジュディスの姿がない
こんな時間に二人揃って何処に行ったんだろ…?
なんでかわからないけど二人が気になって、そっと自分が寝ていたベッドから抜け出して外に出た
どうやら宿屋の外にまで出たらしく、中では見つけられなかった
ユーリに外に出たのバレたら怒られそうだけど、でも一度気になったものは気になるのだ
バレないことを願いながら外に出る
すると、案外早くに二人を見つけた
ぼくには全然気づいていないらしく、話し声が聞こえてくる
「前………街………テル……た……ジュ…………な?」
「目…………ね。……が…………か………て」
「そ………性……ね」
よく聞き取れなくて、そっと近くに寄ってみる
「フェローってのもエステルを狙ってた。なんか関係あんのか?バウルって相棒と」
「…上手く説明出来そうにないわ」
そんな会話が耳に入る
途中から聞いてるからなんの事かわからない
けど、案外すぐにその答えは出て来た
「否定はしないんだな。狙った事」
ユーリのその言葉と、さっきほんの少し聞こえてきていた言葉でおおよその予想は出来た
前にここで襲われたって言ってた竜使いの正体が恐らくジュディスなのだろう
…そして、その狙いはエステルだったんだ
「嘘は得意じゃないの」
「…解った。もう聞かねえよ。でも、またエステルを狙うようなら…」
「心配しないで、もうそんな事しない。保証するわ」
「本当か」
少しキツめの口調のユーリの声が聞こえて顔を上げると、いつになく真剣な表情の彼の顔が見えた
「どう言えば、信用して貰えるかしら?」
「…嘘は得意じゃないんだっけか」
少し考え込んだ後、ユーリはそう言ってクスリと笑った
「ええ」
「なら、その言葉を信じるよ」
ユーリはそう言って、こちらを向いた
…やばい…!
部屋戻らないと怒られる…!
そう思って、慌てて部屋に引き返す
部屋に戻って、ぼくに当てられたベッドの中に潜り込んで寝たフリをする
ほんの少しして、部屋の扉が開く音がした
…戻ってきた、のかな…?
布団に潜り込んだまま、ぎゅっと目を瞑ったぼくには見えないからわからない
けど、ソファーの軋む音が微かに聞こえてきて、それがユーリがそこにいる証になった
…バレて…なさそう?
流石に顔を出したらバレてしまいそうだし、出られないなぁ…
とりあえず、今は寝なきゃ……
~次の日~
「とりあえず街の様子を見て回りましょう」
チェックアウトを終えると、エステルがそう提案した
「暴走した魔導器 も見に行かなきゃだね」
カロルの言葉に頷いてぼくらは外に出た
相変わらずの雨が少し鬱陶しい
魔導器 の傍に行くと、もう完全に落ち着いたようで、特に異常は見られなかった
「周囲の異変もおさまっていますね」
「うん。あの後は暴走とかしてないみたいだ」
そんな会話をしていると、騎士団の派出所の方から見覚えのある人影が見えた
「あれ、あいつら、ノール港で会った……」
「あの時のお姉ちゃん!」
そう言って駆け寄って来たのはラゴウの家で助けたポリーと、そのケラスさんだった
「お元気でしたか?」
エステルがそう問いかけると、二人は頷いた
「どちら様?」
「前に助けたんだよ、ノール港で」
ジュディスの問に、カロルは端的に答える
「あの時は、本当にありがとうございました」
ケラスさんは再びぼくらに向かってお礼を言ってくる
初めて出会ったあの時よりは表情が和らいでいる
「お父さんは、一緒じゃないの?」
キョロキョロと辺りを見回しながらエステルは問いかける
言われてみれば、ティグルさんの姿が見えない
その問いかけに、ポリーはあからさまに肩をガックリと落とした
「それが、ティグルの……夫の行方は、三日前からわからなくて…」
ケラスさんの言葉に息を飲む
まさか、本当に人がいなくなってるの…?
「あの噂、ホントっぽいよ……」
カロルも小さな声でユーリに囁く
ユーリはそれ頷くとケラスさんを見る
「心当たりはないのか?」
「はい…。いなくなる前の晩も、貴族になるためがんばろうと……」
「貴族になるため…?」
有り得ない単語に思わず聞き返してしまった
「この街が完成すれば、私たち、貴族としてここに住めるんです」
ケラスさんから返ってきた言葉は思わぬものだった
「え?それ、ちょっとおかしいです」
「え?」
「貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得ることの出来た者に与えられるものである、です」
エステルはそう答える
事実、それが正しい貴族のなり方なのだ
「で、ですが、キュモール様は約束してくださいました!貴族として迎えると!」
「キュモールって……騎士団の?」
「はい。この街の現執政官代行です」
キュモール……が、かぁ……
そう言って人を集めているんだろうなぁ…
「キュモールがねぇ……」
案の定、ユーリも呆れ顔だ
「けどさ、今皇帝の椅子は空っぽなんだし、やっぱり、おかしいよ」
「そんな……じゃあ私たちの努力はいったい。それに、ティグルは……」
「お父さん、帰ってこないの……?」
「あの、ユーリ……」
絶望に満ちた顔をした二人を目の前に、エステルはユーリに声をかける
…彼女の言いたいことは大方わかる
それは、ユーリも同じらしい
「ギルドで引き受けられないかってんだろ」
そう言ってユーリはカロルを見る
「報酬はわたしが後で一緒に払いますから」
カロルの方を向いて彼女もそう言う
オドオドと二人を何度かカロルは見つめる
いくら首領 だからって、これは可哀想…
「えと……じゃ、いいよ」
二人の圧に押されたらしいカロルはそう答える
…こんなんでいいのだろうか……
「え?ですが……」
「次の仕事は人探しね」
ケラスさんの言葉を遮るようにジュディスが言う
「ま、キュモールがバカやってんなら、一発殴って止めねえとな」
「…一発じゃ止まらないでしょ。あの顔台無しにするくらいしないと」
ぼくの言葉にカロルが少し怯えたように肩を竦めたのが視界に映った
「はい。騎士団は民衆を守るためにいるんですから」
「こ、行動は慎重にね。騎士団に睨まれたら、ボクらみたいな小さなギルド、簡単に潰されちゃうよ」
「了解」
「わたしたちがきっとお父さんを見つけます。待っててね」
「そういうわけだ。引き受けたよ」
若干強引ではあるけど、こうしてぼくらはティグルさんを探すことになった
手始めに、騎士がずっーと立っている昇降機の先を探ることになった
いかにも何かしてますよって雰囲気醸し出さてるし、それが無難だよね
大勢で行くと不自然だから、まずユーリ一人で近づくことになり、ぼくらは魔導器 の傍で待つことになった
…ユーリの事だから、早々に強行突破しそうだけど……
でも、ぼくのそんな不安は必要なかったらしく、ユーリは騎士と二、三言話すと直ぐに戻って来た
「よかった…ユーリの事だから、強行突破しちゃうかと思った…」
どうやらカロルも同じことを考えていたらしく、ホッと胸を撫で下ろしながらそう言った
「慎重に、が首領 の命令だったからな」
「でも、どうやって通ります?」
「やはり強行突破が単純で効率が高いと思うけれど」
「それは禁止だよ!とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ」
「連れ出せれば…って、どうやって?」
あまりにも強行突破を禁止するカロルに思わず聞きかえす
ぼくもその方が手っ取り早いと思うし…
「……色仕掛け、とか?」
まさかの言葉に思わず返す言葉を見失った
ええ……色仕掛けって…そんなのに引っかかる騎士いないかと……
「じゃあ……ジュディ、やるか?」
「あら、私はアリシアが適任だと思うわよ?」
「……へ?」
突然ジュディスに振られて思考が停止しかかった
いやいや、待って、なぜぼく!?
こうゆうのはジュディス担当でしょ?!
「あなたカワイイもの。男の人のハートを射止めるのにはピッタリよ?」
「……待って、ジュディス。意味わかんないんだけど……!」
「大丈夫よ、女は気合いで服を着るものよ?」
「いやいや、ぼくはやらな」
「さ、お店に行きましょ」
そう言ってジュディスはぼくの言葉を全く聞かずに手を引いて歩き出した
なんでぼくがやる流れになってるの…?!
お店に来て数十分、未だにジュディスはあーでもない、こーでもないと服を漁ってる
ぼくはもう諦めモードでそんな彼女を見ています……
ユーリやエステルも止めてくれないし、カロルも哀れみの目で見てくるだけだし……
周りが敵だらけだよ……
「あら、これいいわね」
ようやく彼女の納得する服が見つかったらしく、そんな声が聞こえてくる
「さ、アリシア、着替えましょ?」
そう言って彼女はぼくの手を引く
……もうどうにでもなれ…!
「……ジュディ……本当にそれでいくのか……?」
ユーリの絶句した声が聞こえる
…うん、そりゃそうだろうね…
だって、今のぼくはメイド服にネコミミつけてるんだもん……
しかもめっちゃミニスカだし……
思ってたよりも露出少ないのはいいけど…!
でもこれはこれで……
「あら、どこか変かしら?」
「変って全部……まぁ……いいか…」
ジュディスの圧に押されたのか、ユーリは口を噤んだ
いや助けてよホント……
「ねぇ…ほんとにやるの?」
「ここまでしたんだもの。やらないわけにはいかないでしょ?」
にっこりと微笑んだ彼女だが、否定は許さないって、書いてある…
「…はぁ……カロル……後で覚えててよね…」
「ええ?!なんでボク?!」
「言い出しっぺだからだろ?」
「……行こ、さっさと終わらせて着替えたい」
そう言ってぼくは歩き出した
もうこうなったら早めに終わらすに限る
広場に戻ると、ユーリ達は魔導器 の後ろに隠れた
……さて……やりますか……
「……あ、あの!そこの騎士様……!」
そう言って騎士に近づく
服を見る限り見習いっぽいし、大丈夫…なはず…
「ん?私の事ですかね?」
「あの……ぼ………わ、わたし………貴方に一目惚れしてしまって……!」
口元に指を当てながら、ほんの少し視線を逸らす
我ながらよくこんなこと言えるな……
「ええ?!わ、私に、ですか?」
「は、はい…。…少し、ほんの少しだけでいいので……わたしとお茶をしてくださいませんか…?」
「し、しかし…今は勤務中で、ここを離れるわけには……」
「そこをどうかお願い出来ませんか……?」
そう言ってほんの少し首を傾げる
騎士の肩が少し跳ねたのが見えた
これ……もしかして、いける…?
「し、しかし……」
オドオドとしながら騎士はなんとか断ろうとしているみたい
……ここまできたんだ、もうやけだ……!
「……お茶がお気に召さないのでしたら……」
そう言いながら騎士との距離を一気に詰める
「…わたしとイイコト、しませんか?」
耳元で囁くように呟く
「…!!そ、そこまで仰られるのなら、喜んで……!」
……マジですか……
え、嘘、釣れちゃったよ……
「まぁ、嬉しい!さ、こちらへ行きましょう?」
とりあえずユーリ達のとこに連れてかなきゃ
騎士を連れて魔導器 の裏に行くと、速攻でユーリとジュディスが騎士を落とした
「結局、最終的には殴り倒すんだね…」
「これ以上はアリシアが危ないもの」
カロルの呟きにジュディスはにっこりと微笑んだ
…誰のせいだ、誰の
「アリシア、さっき騎士に何言ったんです?」
「んー?秘密、だよ」
……あんなのエステルに教えられるわけがない……
「とりあえずアリシア、服着替えて来いよ」
「ん、そーする!ついでにこれ預けて来ちゃうね」
そう言ってお店に戻って着替えを済ます
あー……やっぱりいつもの服が一番いいよ…
「はい、次はこれ」
広場に戻ると、ジュディスが兜を持ってユーリとカロルを見ていた
「え?何?!」
「騎士の格好してた方が動きやすいでしょ」
「オレがか?」
「カロルでもいいわよ」
ニッコリと笑顔を浮かべてジュディスは兜を差し出す
……ここはカロルがやればいいと思うけどなぁ……
「そうだな…」
ユーリはしばらく考え込むと、チラッとぼくの方に目線を向けた
ま、まさか、またぼく……?
そんなこと勝手に思ってると、ユーリはジュディスから兜を受け取り、そのままカロルに手渡した
「ほい、次カロル先生頑張ってな」
「え、えぇ!?な、なんでボクっ?!ユーリがやってよ!」
「作戦を言い出した張本人はカロルだろ?」
「うぅ………」
カロルはそう唸ると、渋々兜を受け取り被った
「うっ……息苦しい…」
「大丈夫だって、すぐに慣れるさ」
「…そんなこと言って、ユーリだって兜被った事ないくせに……」
ポツリと呟くと、うるせ、とでも言いたげに軽く頭を小突かれた
「おいっ!お前こんなところで何してるんだ?!」
突然聞こえてきたカシャンっという金属音と声に思わず肩をすくめる
「え…?」
先程気絶させた騎士と同じ隊服の騎士は、ぼくらに目も向けずにカロルに声を掛けていた
「派出所が大変な事になってんだ!さっさと行くぞ!」
「え、あ、ちょっ…まっ…!!」
何が何だかわからないまま、カロルはその騎士に連れて行かれてしまった
「えっと…止めなくてよかったんです…?」
「いや……唐突過ぎて対処出来なかった…」
「とりあえず、後を追いましょ?」
ジュディスの言葉に頷いて、ぼくらはカロルの後を追いかけることになった
あまり騎士のいる場所には近づきたくないけど……でも、それも仕方ない、か……
派出所に来ると、中から何か声と争うような音が聞こえてくる
誰かが中で暴れているらしい
ユーリが扉を開けると、そこに居たのはリタだった
「あたしをこんな所に閉じ込めて!タダで済むと思ってんの?!」
「お、おお、落ち着け!い、今責任者を呼んでくるから!」
「うるさい!!吹っ飛べ!!」
騎士の言葉そっちのけでリタは派出所内にファイヤーボールを打ちまくっている
あーあ……これ、大丈夫かなぁ……
そもそもなんでこんなところに……
「おいおい……随分派手に暴れてんな」
「ん…?なんであんたらがここにいるのよ?」
「そりゃこっちのセリフだっての」
「あれ?カロルは?」
そう言いながら辺りを見渡すが、それらしき影は見つからない
すると、木箱の下からひょこっと顔を出してきた
どうやら埋もれていたらしい
「うぅ……酷いよ、リタ……」
半分泣きそうな声でカロルは訴えるがリタは知らないとでも言いたげに目を逸らした
「落ち着きました?」
外に出てしばらくしてからエステルはリタに問いかける
「ええ……」
「それで、リタはどうしてこんなところに?」
「ここの魔導器 が気になったから調査の前に見ておこうと思って寄ったの」
「で、余計なことに首を突っ込んだと。面倒な性格してんな」
「一体、何に首を突っ込んだんですか?」
エステルの問いかけに、リタはゆっくりと話し始めた
夜中、労働キャンプに魔導器 が運び込まれていたこと
何に使われているのかを調べる為に忍びこんだこと
そして……その先で住民が騎士に脅され、無理矢理働かされていたこと
運び込まれていた魔導器 は兵器魔導器 だったこと…
「まさか……またダングレストを攻めるつもりなんじゃ!?」
「でも、どうして?友好協定が結ばれるって言うのに……」
不思議そうにエステルは呟く
…まぁ、彼女がそう思っても無理ない…か…
「キュモールの奴だろ。きっとギルドとのやくそくなんて、屁とも思ってないぜ」
「ユーリの知ってる人なの?」
「おまえも前に一度、会ってるだろ、カルボクラムで」
ユーリがそう言うと、カロルは一瞬考え込む
が、すぐに思い出したらしく、ほんの少し苦笑いした
「ここで話し込むのもいいけれど、何か忘れていないかしら?」
「だね、まずはティグルさんを助け出さないと」
そう言うと、エステルは強制労働のことや、魔導器 の事まで考え始めた
そんなにいっぺんには片付けられないのに…
そんな彼女に、ユーリは一つずつ片付けていこうと声を掛けた
「それじゃ、下に降りよっか」
そうしてぼくらは広場に戻ったが…
「隠れて……!!」
先頭を歩いていたリタが、何かに気づきそう言った
慌てて結界魔導器 の裏に隠れると、キュモールと一人の男が昇降機に乗っているのが見えた
「おお、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「ふん、アレクセイの命令になんて耳を貸す必要はないね。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
「その時がきたら、ミーが率いる海凶の爪 の仕事、誉めて欲しいですよ」
「ああ、わかっているよ、イエガー」
「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイ。それをリメンバーですヨー」
「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
「尊敬はしていマース。バット、海凶の爪 の仕事は別デスヨ」
「ふふっ……僕はそんな君のそういうところが好きさ。でも心配ない、僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよね。そのくせ、友好協定だって?」
「イエー!オフコース!」
「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。君たちから貰った武器で!」
そこまで話して、ようやく下へと降りて行った
…長かった…
「あのトロロヘアー、こっち見て笑ったわよ」
怒り気味にリタは言う
確かにこっち見てたよなぁ…
「明らかにオレたちのこと、気づいてたな」
「あたしたちをバカにして……!」
「ホント、相変わらずというか…くだらない事しか考えてないね、あの薄気味悪い人」
フードを深く被りながら呟く
…この下には騎士が沢山いる…
そう思うと、少し不安になる
「とりあえず、この下に捕らわれてる人たちみんな、解放してやろうぜ。あのバカ共から」
ユーリの言葉にみんな頷く
こんな馬鹿げた事のために働かされてるなんて、可哀想すぎる
絶対、許しちゃダメだ
不安を抱えながらも、ぼくもみんなの後に続いて昇降機に乗った
強制労働させられてる人たちに逃げるように伝えながら、ぼくらは奥へと進んだ
途中、何度か騎士と戦闘になったけど…
一番奥には大きなテントが貼ってあった
「あら?さっきの人たちよ」
そこに、さっきの二人がいた
イエガー、と呼ばれていた方は兄さんを狙っていた赤眼の集団と何か話しているのが見える
「それに、赤眼の一団も…!」
「キュモールが赤眼の連中の新しい依頼人って事みたいだな」
彼が合図すると、赤眼の集団は何処かへと行ってしまった
「ねぇ、もしかして、あの変な言葉のやつが赤眼の首領 じゃないのかな?」
「どうも、それっぽいな」
そっと、ぼくらはテントに近づく
その中に、ティグルさんの姿が見えた
大分疲弊しているみたいだが、そんなのお構い無しに、キュモールは働かせようとする
バレる不安よりも、今は怒りが強い
ユーリは無言で動き出すと、キュモール目掛けて石を投げた
…あーあ、慎重にってカロルが、散々言ってたのに…
「ユーリ・ローウェル!どうしてここに!?」
恨めしそうなキュモールの声が聞こえる
同時にエステルもユーリの隣に並んだ
「ひ、姫様も……!」
ユーリの時とは打って変わって、ほんの少し焦ったような声が聞こえた
エステルが出てきたらそりゃそんな反応になるだろう
でも、それで怯むような奴じゃないのがキュモールだ
開き直った彼は、イエガーに指示を出す
自分でやらないところも彼らしい…のかな?
「イエース、マイロード。ユーに恨みはありませんが、これもビジネスでーす」
そう言って、彼は武器を手に取る
戦闘になると思った、その時
「キュ、キュモール様!フレン隊です!」
一人の騎士がそう慌てていた
兄さん…丁度いいタイミングだね
「さっさと追い返しなさい!」
「ダメです、下を調べさせろと押し切られそうです!」
「下町育ちの恥知らずめ……!」
「……恥知らず……?」
その言葉に、思わず反応してしまった
確かに兄さんは強引なところもあるけど…
でも、こんな薄気味悪い奴なんかの、何倍も騎士に向いてる
「お、おい、アリシア!」
ぼくがキレかけているのを察したらしいユーリが声を掛けてくる
キュモールもぼくが居ることに気づき、ほんの少し後ずさりした
「…そんなダッサイ隊服着てるあなたの方が…」
そう言いながら、刀を鞘から抜く
「おいおい待て待て…!!」
慌ててユーリが止めようとしてくるけど、もう遅い
「…兄さんの何倍も恥知らずよ……!!!」
そう言って刀を振り下ろす
間一髪、の所で、彼はイエガーに助けられてしまった
「ゴーシュ、ドロワット」
ぼくらから離れた彼がそう呼びかけると、二人の少女が上から降りてきた
片方は緑の髪、もう片方は紅い髪で、二人とも同じ服を着ていた
「ここはエスケープするのがベター、オーケー?」
彼がそう言うと、緑髪の子が煙幕を張った
キュモールは逃げ際によくある捨て台詞を放って逃げて行った
エステルはすぐに追いかけようとする
が、それをカロルが静止した
今のぼくらはティグルさんを助けることが目的で、彼を追いかけることではないのだから、当然のことだろう
それでも尚不服そうなエステルに、リタはどうするのかと、問いかける
すると、後ろから兄さんの声が聞こえてきた
どうやら降りて来られたみたいだ
「…兄さん来たし、ここは任せてもいいんじゃない?」
刀を鞘に収めながら呟く
「アリシア…?!」
驚く兄さんの声が聞こえてくる
ま、こんな所にいるなんて、夢にも思わない、か
その間にユーリはティグルさんに自分で帰るように伝えていた
追いかけると決め、ユーリを先頭にみんな走り出した
「ユーリ!それにエステリーゼ様も…!」
後ろから兄さんが追いかけてくる
兄さんとしてはエステリーゼに帝都に戻ってもらいたいだろうし、当たり前の反応だろう
「兄さん!これ!」
そう言いながら、兄さんに手紙を投げ渡す
「あとお願いね!!」
そう伝えて、兄さんの返事も聞かずに、ぼくもユーリ達に続いた
「……見あたりません……」
ヘリオードからか暫く歩いてキュモール達を探したが、既に遠くに逃げてしまったらようで見つけられない
「結局逃がしちゃったみたいね」
小さくため息を付きながらリタが呟く
「ここはどの辺なんだろう?」
「……トルビキアの中央部の森ね。トリム港はここから東になると思うわ」
「それじゃあ、このまま港に行った方がいいかもね」
「え?キュモールはどうするんです!?放っておくんですか?」
ぼくの提案にエステルは声を荒らげる
確かにキュモールも気になるけど…
「フェローに会うというのがあなたの旅の目的だと思っていたけど」
エステルに近づきながらジュディスは言う
「そ、それは……」
「あなたのだだっ子に付き合うギルドだったかしら?凛々の明星 は」
険しい顔で彼女はエステルに問いかける
言い方はキツいが、彼女の言う通りだ
エステルの為に、ユーリとカロルはギルドを作ったのではない
そして、ジュディスも……その為にギルドに入ったわけじゃない
「……ご、ごめんなさい。わたしそんなつもりじゃ……」
「ま、落ち着けってこった。それにフレンが来たろ。あいつに任せときゃ、間違いないさ」
シュンとしたエステルにユーリはそう声を掛けた
「ちょっと、フェローってなに?凛々の明星 ?説明して」
「そうそう、説明してほしいわ」
リタの言葉に便乗するように、何処かで聞いたような声が聞こえた
声のした方を見ると、何故かレイヴンがそこにはいた
「ちょ、ちょっと何よアンタ!」
「もう天才魔道少女、もう忘れちゃったの?レイヴン様よ」
「何よ、アンタ!」
語気を強めてリタはもう一度同じ言葉を繰り返した
…そんなに嫌いなんだ…
「だから、レイヴン様……んっとに怖いガキンチョね」
「んで?何してんだよ」
「おまえさん達が元気すぎるからおっさんこんなとこまでくるハメになっちまったのよ」
「……?」
「どういうこと?」
カロルと二人、首を傾げる
「ま、トリム港の宿にでもいってとりあえず落ち着こうや。そこでちゃんと話すからさ」
「いつまでもここに居てもしゃあねぇしな。とりあえずトリム港ってのはオレも賛成だ」
「はい、構いません。ごめんなさい、わがまま言って」
ジュディスの方を向いて、エステルはもう一度そう言った
「じゃあ行くか」
こうして、レイヴンと一緒に、ぼくらはトリム港へと向かうこととなった
*スキットが追加されました
*彼女について2
ヘリオードに着くと前に来た時よりも閑散としていた
「なんだか……以前より閑散としてません?」
「ああ。なんか人が少なくなってる気がするな」
「そう言えば、あれかなぁ…」
「あら?どうしたの?」
「ダングレストで聞いたんだけど、街の建設の仕事がキツくて、逃げ出す人が増えているんだって。本当か嘘か知らないけどさ」
「へぇ…そんな噂あったんだ」
そう言いながら辺りを見回す
…本当にそれだけなんだろうか
なんか…違う気がする
「ほっとけない」
「え…?」
ユーリの言葉に反応したのはエステルだった
「って顔してるわね」
「だったらまず宿に行って作戦会議だね。
「だな。エステルのほっとけない病も出ちまったし」
「だって、ほっとけないじゃないですか」
「それはわかるよ」
苦笑いしながら彼女を見る
「じゃあ、いこう!宿屋に出発~」
カロルはそう言って宿屋に向かって走って行った
「張り切ってるなぁ、カロル」
「ユーリとギルドを作れたのがホントに嬉しいんですね」
「別に、カロルのために作ったんじゃないんだけどな」
「でも無関係ってわけでもないのでしょう?あなたにとって」
「さぁてな。ほら、オレたちもさっさと宿屋に行こうぜ」
そう言ってユーリは歩き出す
その後をぼくらもついて行った
そして時間も遅かったから、そのままここに泊まることになった
カタン………
「………ん…………」
真夜中、みんなが寝静まった頃
小さな物音が聞こえて目が覚める
部屋の中を見回すと、ユーリとジュディスの姿がない
こんな時間に二人揃って何処に行ったんだろ…?
なんでかわからないけど二人が気になって、そっと自分が寝ていたベッドから抜け出して外に出た
どうやら宿屋の外にまで出たらしく、中では見つけられなかった
ユーリに外に出たのバレたら怒られそうだけど、でも一度気になったものは気になるのだ
バレないことを願いながら外に出る
すると、案外早くに二人を見つけた
ぼくには全然気づいていないらしく、話し声が聞こえてくる
「前………街………テル……た……ジュ…………な?」
「目…………ね。……が…………か………て」
「そ………性……ね」
よく聞き取れなくて、そっと近くに寄ってみる
「フェローってのもエステルを狙ってた。なんか関係あんのか?バウルって相棒と」
「…上手く説明出来そうにないわ」
そんな会話が耳に入る
途中から聞いてるからなんの事かわからない
けど、案外すぐにその答えは出て来た
「否定はしないんだな。狙った事」
ユーリのその言葉と、さっきほんの少し聞こえてきていた言葉でおおよその予想は出来た
前にここで襲われたって言ってた竜使いの正体が恐らくジュディスなのだろう
…そして、その狙いはエステルだったんだ
「嘘は得意じゃないの」
「…解った。もう聞かねえよ。でも、またエステルを狙うようなら…」
「心配しないで、もうそんな事しない。保証するわ」
「本当か」
少しキツめの口調のユーリの声が聞こえて顔を上げると、いつになく真剣な表情の彼の顔が見えた
「どう言えば、信用して貰えるかしら?」
「…嘘は得意じゃないんだっけか」
少し考え込んだ後、ユーリはそう言ってクスリと笑った
「ええ」
「なら、その言葉を信じるよ」
ユーリはそう言って、こちらを向いた
…やばい…!
部屋戻らないと怒られる…!
そう思って、慌てて部屋に引き返す
部屋に戻って、ぼくに当てられたベッドの中に潜り込んで寝たフリをする
ほんの少しして、部屋の扉が開く音がした
…戻ってきた、のかな…?
布団に潜り込んだまま、ぎゅっと目を瞑ったぼくには見えないからわからない
けど、ソファーの軋む音が微かに聞こえてきて、それがユーリがそこにいる証になった
…バレて…なさそう?
流石に顔を出したらバレてしまいそうだし、出られないなぁ…
とりあえず、今は寝なきゃ……
~次の日~
「とりあえず街の様子を見て回りましょう」
チェックアウトを終えると、エステルがそう提案した
「暴走した
カロルの言葉に頷いてぼくらは外に出た
相変わらずの雨が少し鬱陶しい
「周囲の異変もおさまっていますね」
「うん。あの後は暴走とかしてないみたいだ」
そんな会話をしていると、騎士団の派出所の方から見覚えのある人影が見えた
「あれ、あいつら、ノール港で会った……」
「あの時のお姉ちゃん!」
そう言って駆け寄って来たのはラゴウの家で助けたポリーと、そのケラスさんだった
「お元気でしたか?」
エステルがそう問いかけると、二人は頷いた
「どちら様?」
「前に助けたんだよ、ノール港で」
ジュディスの問に、カロルは端的に答える
「あの時は、本当にありがとうございました」
ケラスさんは再びぼくらに向かってお礼を言ってくる
初めて出会ったあの時よりは表情が和らいでいる
「お父さんは、一緒じゃないの?」
キョロキョロと辺りを見回しながらエステルは問いかける
言われてみれば、ティグルさんの姿が見えない
その問いかけに、ポリーはあからさまに肩をガックリと落とした
「それが、ティグルの……夫の行方は、三日前からわからなくて…」
ケラスさんの言葉に息を飲む
まさか、本当に人がいなくなってるの…?
「あの噂、ホントっぽいよ……」
カロルも小さな声でユーリに囁く
ユーリはそれ頷くとケラスさんを見る
「心当たりはないのか?」
「はい…。いなくなる前の晩も、貴族になるためがんばろうと……」
「貴族になるため…?」
有り得ない単語に思わず聞き返してしまった
「この街が完成すれば、私たち、貴族としてここに住めるんです」
ケラスさんから返ってきた言葉は思わぬものだった
「え?それ、ちょっとおかしいです」
「え?」
「貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得ることの出来た者に与えられるものである、です」
エステルはそう答える
事実、それが正しい貴族のなり方なのだ
「で、ですが、キュモール様は約束してくださいました!貴族として迎えると!」
「キュモールって……騎士団の?」
「はい。この街の現執政官代行です」
キュモール……が、かぁ……
そう言って人を集めているんだろうなぁ…
「キュモールがねぇ……」
案の定、ユーリも呆れ顔だ
「けどさ、今皇帝の椅子は空っぽなんだし、やっぱり、おかしいよ」
「そんな……じゃあ私たちの努力はいったい。それに、ティグルは……」
「お父さん、帰ってこないの……?」
「あの、ユーリ……」
絶望に満ちた顔をした二人を目の前に、エステルはユーリに声をかける
…彼女の言いたいことは大方わかる
それは、ユーリも同じらしい
「ギルドで引き受けられないかってんだろ」
そう言ってユーリはカロルを見る
「報酬はわたしが後で一緒に払いますから」
カロルの方を向いて彼女もそう言う
オドオドと二人を何度かカロルは見つめる
いくら
「えと……じゃ、いいよ」
二人の圧に押されたらしいカロルはそう答える
…こんなんでいいのだろうか……
「え?ですが……」
「次の仕事は人探しね」
ケラスさんの言葉を遮るようにジュディスが言う
「ま、キュモールがバカやってんなら、一発殴って止めねえとな」
「…一発じゃ止まらないでしょ。あの顔台無しにするくらいしないと」
ぼくの言葉にカロルが少し怯えたように肩を竦めたのが視界に映った
「はい。騎士団は民衆を守るためにいるんですから」
「こ、行動は慎重にね。騎士団に睨まれたら、ボクらみたいな小さなギルド、簡単に潰されちゃうよ」
「了解」
「わたしたちがきっとお父さんを見つけます。待っててね」
「そういうわけだ。引き受けたよ」
若干強引ではあるけど、こうしてぼくらはティグルさんを探すことになった
手始めに、騎士がずっーと立っている昇降機の先を探ることになった
いかにも何かしてますよって雰囲気醸し出さてるし、それが無難だよね
大勢で行くと不自然だから、まずユーリ一人で近づくことになり、ぼくらは
…ユーリの事だから、早々に強行突破しそうだけど……
でも、ぼくのそんな不安は必要なかったらしく、ユーリは騎士と二、三言話すと直ぐに戻って来た
「よかった…ユーリの事だから、強行突破しちゃうかと思った…」
どうやらカロルも同じことを考えていたらしく、ホッと胸を撫で下ろしながらそう言った
「慎重に、が
「でも、どうやって通ります?」
「やはり強行突破が単純で効率が高いと思うけれど」
「それは禁止だよ!とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ」
「連れ出せれば…って、どうやって?」
あまりにも強行突破を禁止するカロルに思わず聞きかえす
ぼくもその方が手っ取り早いと思うし…
「……色仕掛け、とか?」
まさかの言葉に思わず返す言葉を見失った
ええ……色仕掛けって…そんなのに引っかかる騎士いないかと……
「じゃあ……ジュディ、やるか?」
「あら、私はアリシアが適任だと思うわよ?」
「……へ?」
突然ジュディスに振られて思考が停止しかかった
いやいや、待って、なぜぼく!?
こうゆうのはジュディス担当でしょ?!
「あなたカワイイもの。男の人のハートを射止めるのにはピッタリよ?」
「……待って、ジュディス。意味わかんないんだけど……!」
「大丈夫よ、女は気合いで服を着るものよ?」
「いやいや、ぼくはやらな」
「さ、お店に行きましょ」
そう言ってジュディスはぼくの言葉を全く聞かずに手を引いて歩き出した
なんでぼくがやる流れになってるの…?!
お店に来て数十分、未だにジュディスはあーでもない、こーでもないと服を漁ってる
ぼくはもう諦めモードでそんな彼女を見ています……
ユーリやエステルも止めてくれないし、カロルも哀れみの目で見てくるだけだし……
周りが敵だらけだよ……
「あら、これいいわね」
ようやく彼女の納得する服が見つかったらしく、そんな声が聞こえてくる
「さ、アリシア、着替えましょ?」
そう言って彼女はぼくの手を引く
……もうどうにでもなれ…!
「……ジュディ……本当にそれでいくのか……?」
ユーリの絶句した声が聞こえる
…うん、そりゃそうだろうね…
だって、今のぼくはメイド服にネコミミつけてるんだもん……
しかもめっちゃミニスカだし……
思ってたよりも露出少ないのはいいけど…!
でもこれはこれで……
「あら、どこか変かしら?」
「変って全部……まぁ……いいか…」
ジュディスの圧に押されたのか、ユーリは口を噤んだ
いや助けてよホント……
「ねぇ…ほんとにやるの?」
「ここまでしたんだもの。やらないわけにはいかないでしょ?」
にっこりと微笑んだ彼女だが、否定は許さないって、書いてある…
「…はぁ……カロル……後で覚えててよね…」
「ええ?!なんでボク?!」
「言い出しっぺだからだろ?」
「……行こ、さっさと終わらせて着替えたい」
そう言ってぼくは歩き出した
もうこうなったら早めに終わらすに限る
広場に戻ると、ユーリ達は
……さて……やりますか……
「……あ、あの!そこの騎士様……!」
そう言って騎士に近づく
服を見る限り見習いっぽいし、大丈夫…なはず…
「ん?私の事ですかね?」
「あの……ぼ………わ、わたし………貴方に一目惚れしてしまって……!」
口元に指を当てながら、ほんの少し視線を逸らす
我ながらよくこんなこと言えるな……
「ええ?!わ、私に、ですか?」
「は、はい…。…少し、ほんの少しだけでいいので……わたしとお茶をしてくださいませんか…?」
「し、しかし…今は勤務中で、ここを離れるわけには……」
「そこをどうかお願い出来ませんか……?」
そう言ってほんの少し首を傾げる
騎士の肩が少し跳ねたのが見えた
これ……もしかして、いける…?
「し、しかし……」
オドオドとしながら騎士はなんとか断ろうとしているみたい
……ここまできたんだ、もうやけだ……!
「……お茶がお気に召さないのでしたら……」
そう言いながら騎士との距離を一気に詰める
「…わたしとイイコト、しませんか?」
耳元で囁くように呟く
「…!!そ、そこまで仰られるのなら、喜んで……!」
……マジですか……
え、嘘、釣れちゃったよ……
「まぁ、嬉しい!さ、こちらへ行きましょう?」
とりあえずユーリ達のとこに連れてかなきゃ
騎士を連れて
「結局、最終的には殴り倒すんだね…」
「これ以上はアリシアが危ないもの」
カロルの呟きにジュディスはにっこりと微笑んだ
…誰のせいだ、誰の
「アリシア、さっき騎士に何言ったんです?」
「んー?秘密、だよ」
……あんなのエステルに教えられるわけがない……
「とりあえずアリシア、服着替えて来いよ」
「ん、そーする!ついでにこれ預けて来ちゃうね」
そう言ってお店に戻って着替えを済ます
あー……やっぱりいつもの服が一番いいよ…
「はい、次はこれ」
広場に戻ると、ジュディスが兜を持ってユーリとカロルを見ていた
「え?何?!」
「騎士の格好してた方が動きやすいでしょ」
「オレがか?」
「カロルでもいいわよ」
ニッコリと笑顔を浮かべてジュディスは兜を差し出す
……ここはカロルがやればいいと思うけどなぁ……
「そうだな…」
ユーリはしばらく考え込むと、チラッとぼくの方に目線を向けた
ま、まさか、またぼく……?
そんなこと勝手に思ってると、ユーリはジュディスから兜を受け取り、そのままカロルに手渡した
「ほい、次カロル先生頑張ってな」
「え、えぇ!?な、なんでボクっ?!ユーリがやってよ!」
「作戦を言い出した張本人はカロルだろ?」
「うぅ………」
カロルはそう唸ると、渋々兜を受け取り被った
「うっ……息苦しい…」
「大丈夫だって、すぐに慣れるさ」
「…そんなこと言って、ユーリだって兜被った事ないくせに……」
ポツリと呟くと、うるせ、とでも言いたげに軽く頭を小突かれた
「おいっ!お前こんなところで何してるんだ?!」
突然聞こえてきたカシャンっという金属音と声に思わず肩をすくめる
「え…?」
先程気絶させた騎士と同じ隊服の騎士は、ぼくらに目も向けずにカロルに声を掛けていた
「派出所が大変な事になってんだ!さっさと行くぞ!」
「え、あ、ちょっ…まっ…!!」
何が何だかわからないまま、カロルはその騎士に連れて行かれてしまった
「えっと…止めなくてよかったんです…?」
「いや……唐突過ぎて対処出来なかった…」
「とりあえず、後を追いましょ?」
ジュディスの言葉に頷いて、ぼくらはカロルの後を追いかけることになった
あまり騎士のいる場所には近づきたくないけど……でも、それも仕方ない、か……
派出所に来ると、中から何か声と争うような音が聞こえてくる
誰かが中で暴れているらしい
ユーリが扉を開けると、そこに居たのはリタだった
「あたしをこんな所に閉じ込めて!タダで済むと思ってんの?!」
「お、おお、落ち着け!い、今責任者を呼んでくるから!」
「うるさい!!吹っ飛べ!!」
騎士の言葉そっちのけでリタは派出所内にファイヤーボールを打ちまくっている
あーあ……これ、大丈夫かなぁ……
そもそもなんでこんなところに……
「おいおい……随分派手に暴れてんな」
「ん…?なんであんたらがここにいるのよ?」
「そりゃこっちのセリフだっての」
「あれ?カロルは?」
そう言いながら辺りを見渡すが、それらしき影は見つからない
すると、木箱の下からひょこっと顔を出してきた
どうやら埋もれていたらしい
「うぅ……酷いよ、リタ……」
半分泣きそうな声でカロルは訴えるがリタは知らないとでも言いたげに目を逸らした
「落ち着きました?」
外に出てしばらくしてからエステルはリタに問いかける
「ええ……」
「それで、リタはどうしてこんなところに?」
「ここの
「で、余計なことに首を突っ込んだと。面倒な性格してんな」
「一体、何に首を突っ込んだんですか?」
エステルの問いかけに、リタはゆっくりと話し始めた
夜中、労働キャンプに
何に使われているのかを調べる為に忍びこんだこと
そして……その先で住民が騎士に脅され、無理矢理働かされていたこと
運び込まれていた
「まさか……またダングレストを攻めるつもりなんじゃ!?」
「でも、どうして?友好協定が結ばれるって言うのに……」
不思議そうにエステルは呟く
…まぁ、彼女がそう思っても無理ない…か…
「キュモールの奴だろ。きっとギルドとのやくそくなんて、屁とも思ってないぜ」
「ユーリの知ってる人なの?」
「おまえも前に一度、会ってるだろ、カルボクラムで」
ユーリがそう言うと、カロルは一瞬考え込む
が、すぐに思い出したらしく、ほんの少し苦笑いした
「ここで話し込むのもいいけれど、何か忘れていないかしら?」
「だね、まずはティグルさんを助け出さないと」
そう言うと、エステルは強制労働のことや、
そんなにいっぺんには片付けられないのに…
そんな彼女に、ユーリは一つずつ片付けていこうと声を掛けた
「それじゃ、下に降りよっか」
そうしてぼくらは広場に戻ったが…
「隠れて……!!」
先頭を歩いていたリタが、何かに気づきそう言った
慌てて
「おお、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「ふん、アレクセイの命令になんて耳を貸す必要はないね。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
「その時がきたら、ミーが率いる
「ああ、わかっているよ、イエガー」
「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイ。それをリメンバーですヨー」
「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
「尊敬はしていマース。バット、
「ふふっ……僕はそんな君のそういうところが好きさ。でも心配ない、僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよね。そのくせ、友好協定だって?」
「イエー!オフコース!」
「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。君たちから貰った武器で!」
そこまで話して、ようやく下へと降りて行った
…長かった…
「あのトロロヘアー、こっち見て笑ったわよ」
怒り気味にリタは言う
確かにこっち見てたよなぁ…
「明らかにオレたちのこと、気づいてたな」
「あたしたちをバカにして……!」
「ホント、相変わらずというか…くだらない事しか考えてないね、あの薄気味悪い人」
フードを深く被りながら呟く
…この下には騎士が沢山いる…
そう思うと、少し不安になる
「とりあえず、この下に捕らわれてる人たちみんな、解放してやろうぜ。あのバカ共から」
ユーリの言葉にみんな頷く
こんな馬鹿げた事のために働かされてるなんて、可哀想すぎる
絶対、許しちゃダメだ
不安を抱えながらも、ぼくもみんなの後に続いて昇降機に乗った
強制労働させられてる人たちに逃げるように伝えながら、ぼくらは奥へと進んだ
途中、何度か騎士と戦闘になったけど…
一番奥には大きなテントが貼ってあった
「あら?さっきの人たちよ」
そこに、さっきの二人がいた
イエガー、と呼ばれていた方は兄さんを狙っていた赤眼の集団と何か話しているのが見える
「それに、赤眼の一団も…!」
「キュモールが赤眼の連中の新しい依頼人って事みたいだな」
彼が合図すると、赤眼の集団は何処かへと行ってしまった
「ねぇ、もしかして、あの変な言葉のやつが赤眼の
「どうも、それっぽいな」
そっと、ぼくらはテントに近づく
その中に、ティグルさんの姿が見えた
大分疲弊しているみたいだが、そんなのお構い無しに、キュモールは働かせようとする
バレる不安よりも、今は怒りが強い
ユーリは無言で動き出すと、キュモール目掛けて石を投げた
…あーあ、慎重にってカロルが、散々言ってたのに…
「ユーリ・ローウェル!どうしてここに!?」
恨めしそうなキュモールの声が聞こえる
同時にエステルもユーリの隣に並んだ
「ひ、姫様も……!」
ユーリの時とは打って変わって、ほんの少し焦ったような声が聞こえた
エステルが出てきたらそりゃそんな反応になるだろう
でも、それで怯むような奴じゃないのがキュモールだ
開き直った彼は、イエガーに指示を出す
自分でやらないところも彼らしい…のかな?
「イエース、マイロード。ユーに恨みはありませんが、これもビジネスでーす」
そう言って、彼は武器を手に取る
戦闘になると思った、その時
「キュ、キュモール様!フレン隊です!」
一人の騎士がそう慌てていた
兄さん…丁度いいタイミングだね
「さっさと追い返しなさい!」
「ダメです、下を調べさせろと押し切られそうです!」
「下町育ちの恥知らずめ……!」
「……恥知らず……?」
その言葉に、思わず反応してしまった
確かに兄さんは強引なところもあるけど…
でも、こんな薄気味悪い奴なんかの、何倍も騎士に向いてる
「お、おい、アリシア!」
ぼくがキレかけているのを察したらしいユーリが声を掛けてくる
キュモールもぼくが居ることに気づき、ほんの少し後ずさりした
「…そんなダッサイ隊服着てるあなたの方が…」
そう言いながら、刀を鞘から抜く
「おいおい待て待て…!!」
慌ててユーリが止めようとしてくるけど、もう遅い
「…兄さんの何倍も恥知らずよ……!!!」
そう言って刀を振り下ろす
間一髪、の所で、彼はイエガーに助けられてしまった
「ゴーシュ、ドロワット」
ぼくらから離れた彼がそう呼びかけると、二人の少女が上から降りてきた
片方は緑の髪、もう片方は紅い髪で、二人とも同じ服を着ていた
「ここはエスケープするのがベター、オーケー?」
彼がそう言うと、緑髪の子が煙幕を張った
キュモールは逃げ際によくある捨て台詞を放って逃げて行った
エステルはすぐに追いかけようとする
が、それをカロルが静止した
今のぼくらはティグルさんを助けることが目的で、彼を追いかけることではないのだから、当然のことだろう
それでも尚不服そうなエステルに、リタはどうするのかと、問いかける
すると、後ろから兄さんの声が聞こえてきた
どうやら降りて来られたみたいだ
「…兄さん来たし、ここは任せてもいいんじゃない?」
刀を鞘に収めながら呟く
「アリシア…?!」
驚く兄さんの声が聞こえてくる
ま、こんな所にいるなんて、夢にも思わない、か
その間にユーリはティグルさんに自分で帰るように伝えていた
追いかけると決め、ユーリを先頭にみんな走り出した
「ユーリ!それにエステリーゼ様も…!」
後ろから兄さんが追いかけてくる
兄さんとしてはエステリーゼに帝都に戻ってもらいたいだろうし、当たり前の反応だろう
「兄さん!これ!」
そう言いながら、兄さんに手紙を投げ渡す
「あとお願いね!!」
そう伝えて、兄さんの返事も聞かずに、ぼくもユーリ達に続いた
「……見あたりません……」
ヘリオードからか暫く歩いてキュモール達を探したが、既に遠くに逃げてしまったらようで見つけられない
「結局逃がしちゃったみたいね」
小さくため息を付きながらリタが呟く
「ここはどの辺なんだろう?」
「……トルビキアの中央部の森ね。トリム港はここから東になると思うわ」
「それじゃあ、このまま港に行った方がいいかもね」
「え?キュモールはどうするんです!?放っておくんですか?」
ぼくの提案にエステルは声を荒らげる
確かにキュモールも気になるけど…
「フェローに会うというのがあなたの旅の目的だと思っていたけど」
エステルに近づきながらジュディスは言う
「そ、それは……」
「あなたのだだっ子に付き合うギルドだったかしら?
険しい顔で彼女はエステルに問いかける
言い方はキツいが、彼女の言う通りだ
エステルの為に、ユーリとカロルはギルドを作ったのではない
そして、ジュディスも……その為にギルドに入ったわけじゃない
「……ご、ごめんなさい。わたしそんなつもりじゃ……」
「ま、落ち着けってこった。それにフレンが来たろ。あいつに任せときゃ、間違いないさ」
シュンとしたエステルにユーリはそう声を掛けた
「ちょっと、フェローってなに?
「そうそう、説明してほしいわ」
リタの言葉に便乗するように、何処かで聞いたような声が聞こえた
声のした方を見ると、何故かレイヴンがそこにはいた
「ちょ、ちょっと何よアンタ!」
「もう天才魔道少女、もう忘れちゃったの?レイヴン様よ」
「何よ、アンタ!」
語気を強めてリタはもう一度同じ言葉を繰り返した
…そんなに嫌いなんだ…
「だから、レイヴン様……んっとに怖いガキンチョね」
「んで?何してんだよ」
「おまえさん達が元気すぎるからおっさんこんなとこまでくるハメになっちまったのよ」
「……?」
「どういうこと?」
カロルと二人、首を傾げる
「ま、トリム港の宿にでもいってとりあえず落ち着こうや。そこでちゃんと話すからさ」
「いつまでもここに居てもしゃあねぇしな。とりあえずトリム港ってのはオレも賛成だ」
「はい、構いません。ごめんなさい、わがまま言って」
ジュディスの方を向いて、エステルはもう一度そう言った
「じゃあ行くか」
こうして、レイヴンと一緒に、ぼくらはトリム港へと向かうこととなった
*スキットが追加されました
*彼女について2