第二章 水道魔導器
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『…ねぇ、本当に、思い出したいと思うの…?記憶がなくても、こんなにたくさん、狙われるのに……怖く、ないの…?』
「…怖いよ。どうしようもないくらいに、怖いよ」
「でも、逃げていたっていつか捕まってしまうかもしれない。…忘れていたって、『ぼく』が『わたし』であることは変わらない」
『それでも、忘れていることで救われることもあるよ…?』
「確かにそうかもしれない。…でも、救えないものだってある。忘れていることで、失うものもある」
「ぼくは………『ぼく』はもう、大切な人を失いたくない」
「忘れていて、大切な人を失うくらいなら、思い出して、つらくても悲しくても、大切な人を護りたい。…お父様とお母様、お父さんがそうだったように…」
『…わからない、どうしてそう思えるの……?『あなた』は『わたし』なのに……どうして、そんなに強くいられるの……?』
『……『わたし』には、まだ……そう、思えないよ……』
*己の正義のために
「…う……」
冷たい風に目が覚める
ゆっくりと目を開くと、見知らぬ場所にいた
…おかしいな…さっきまで誰かと話していたはずなんだけど…
というかここ…どこだろう…?
辺りを見回してみると、武器とか箱とか色々置いてあって倉庫っぽい感じだ
…えーっと…そもそもなんでここにいるんだっけ…?
確か、みんなでバルボスを追い詰めて…
で、
「……あー……連れ攫われたんだっけ……」
ゆっくりと身体を起こしながらため息をつく
幸いなことに縛られてたりはしなかった
刀もちゃんとあるみたい
…意外と間抜け、なのかな…?
武器なんて持たせてたらぼく逃げちゃうよ?
「…それにしても、なんでぼくのこと…」
小さく呟きながら立ち上がる
…そう言えば、連れ攫われた時あの人…何か言ってた気がするけど…
なんだっけ…?
覚えてないや…
「…ユーリのところに戻らないと」
小さく呟いて扉に近づいた
…その時、扉の向こうから声が聞こえてきた
取っ手に伸ばしかけていた手を思わず引っ込めた
「…たく、
「さぁ?何か考えでもあるんだろ?」
「っつってもなぁ、見張ってる俺らは退屈じゃねえか」
「文句言うなって。ま、ここに来るような奴は早々いないだろうけどな」
…まぁ、そうだよね…
流石に見張りくらいはいるよね…
うーん、そこまで抜けてはいなかったかぁ…
さて、どうするかなぁ…
ユーリが助けに来てくれるっていう可能性もなくはないけど…
…あまりそれには頼りたくないなぁ…
「ん?おい!お前…どこから入って来た!?」
不意に扉の外が騒がしくなる
…何だろう?
とりあえず隠れておこうかな…
静かに音を立てないように物陰に身を隠す
…外にいるのがユーリ達ならいいんだけど…
暫く争うような音が続いた後に、ギィ…っと扉の開く音が聞こえてきた
ぼくを呼ぶ声は聞こえて来ないし…
…誰…?
「…ここにいたか」
ぼくの視界に映ったのは、いつかに出会った白髪の人
…確か、デュークさん…だったかな
「…なんで、ここに…?」
ぼくがそう聞くと彼は何故かぼくの頭を撫でてきた
「…?」
「もうすぐ、お前の仲間がここに来る。…それまで、大人くし待っていられるか…?」
真っ直ぐにぼくを見つめて、デュークさんはそう言った
どこか寂しげで、それでいて、不安そうな表情に、少し胸が締め付けられた
「…はい、待って、いられます」
そう言って真っ直ぐ彼の目を見る
ぼくの瞳よりほんのり薄い紅い瞳…
「……そうか。ならば、私はもう行く。……また会おう、次は……記憶を取り戻した後で…な」
そう言った彼の目は、とても優しさが滲み出ていて…
今までの無表情が嘘みたいだ
「…えぇ、また…会いましょう」
そう言ってぼくは微笑んだ
デュークさんは軽く頷くと、去って行った
「さてと……デュークさんにはああ言ったけど……さすがにここじゃ見つけてもらえそうにないよなぁ……」
小さくそう呟いて、扉の方を見る
幸いにもデュークさんが倒してくれた見張りの人以外の気配は近くにない
…少し、外に出てみよう
扉の外に出てみると、何かの配管や歯車がたくさんあるのが目に入る
要塞っていうか、なんかの機械の中みたい…
「アリシア…っ!!!」
「ふぇ?…うわっ!?!!」
ぼくを呼ぶ声に振り返ろうとすると、『誰か』に抱きつかれた
…いや、誰かなんてすぐにわかった
カシャリという聞き慣れた金属音、背中に当たる固く冷たい感触…
…これは、どう考えても兄さんだ
「…兄さん…流石にいきなり抱きつかれるとびっくりするんだけど…」
頭を後ろに向けながらそう言う
当の本人は聞く耳持たずというか、心ここに在らずというか…ぼくの声なんて聞こえていなさそう…
「フレンー!大丈夫ですかー?!」
上の方からエステリーゼの声が聞こえて見上げると、一個上の階にみんながいるのが見えた
…って、え…あれ、ちょっと待って…
「……兄さん……まさか、あそこから飛び降りてくるなんてこと……」
そう言うと、ほんの少し兄さんの肩がビクッと上がった
…いや、普段なら全然気にしないんだけどさ…
…ここ、どう見ても二階分くらいの高さあると思うんだけど…!?
「アリシア、フレン!今ボクたちもそっちに行くからね!」
「…うん、わかったー!」
カロルの呼びかけにそう答えると、みんなの姿が見えなくなった
「…『フレ兄』」
ぼくがそう呼ぶと、『フレ兄』は凄い勢いでぼくから離れる
「アリシア…っ!その呼び方は…っ!」
「誰も居ないし、小声で言ったもん。…それよりほら、足見せてよ?怪我してるのバレバレだよ?」
ニッコリと笑ってそう言うと、『フレ兄』は渋々と足の装備を外した
しゃがんでぼくが足に触れると、痛みを堪えるようなうめき声が聞こえた
やっぱり挫いてるし…
半分呆れながらも、それだけぼくのことが心配だったんだって考えると申し訳なかった
「…快方の光よ宿れ、ファーストエイド」
小さく詠唱すると、『フレ兄』が使うようなファーストエイドと似た術が発動する
「…はい、終了!」
手を退けてニコッと笑いかける
「…ありがとう、アリア」
半分諦めたらしい『フレ兄』はそう言ってぼくの頭を撫でた
こうして頭を撫でられるのは嬉しくて思わず目を細める
「フレン!大丈夫ですか?!」
エステリーゼの声のした方を見ると、みんなが駆け寄って来ているのが見えた
「えぇ、大丈夫です」
「ったく、どこのどいつだったか?オレに無茶すんなって言ったのは。お前も充分無茶してるだろ」
「そうだよ、兄さん。ユーリのこと言えないよ」
「…お前もだよ、アリシア」
ユーリに同調して言うと、何故かそのユーリに軽く頭を小突かれた
「へ?なんで??」
首を傾げてユーリを見ると、大きくため息をつかれた
「あのなぁ、バルボスに突っ込んでいってそのままとっ捕まったのはどこの誰だったよ?」
「…誰だろう、そんなドジっ子は…」
…やばい、ユーリがめちゃくちゃ怒ってる…!
声だけでわかるくらいにめちゃくちゃ怒ってる!
「お前だってのバカ。勝手に突っ込みやがって。マジでヒヤヒヤしたんだぜ?」
「うっ……ごめんなさい…」
そう言って俯く
流石に無茶をしすぎてしまったみたい…
ユーリが怒るのも無理ないよね…
「…ま、無事みてぇだし、今回は許してやるよ。ただし、次はねぇからな?」
ユーリの声と共に、頭に手を乗せられた感触がして、思わず顔を上げる
目の前には、少し困ったように笑ってるユーリの顔が見えて…
…なんだろう、心臓の音が、やけに大きく聞こえてくる気がする
「…うん、わかった!」
返事を返さないのはおかしいし、普段どおり笑ってそう返す
それでも、このドキドキは中々治らなくて…
…ぼく、どうしちゃったんだろ?
「アリシア、あんた、あいつに何もされてないわよね?」
ジッとリタがぼくを見つめながら問いかけてくる
「んー、多分大丈夫、だと思うよ」
ほんの少し首を傾げながらそう答える
正直なところ、ぼくにだって分からないし…
「多分って…全くあてにならない答えね」
「そんな事言われても…ぼくついさっき目覚めたばかりだし…」
そう言って少し苦笑いしながら頬をかく
「呑気ねぇ…こっちは散々な目に合ってたっていうのに」
「散々な目って?」
ぼくが聞き返すと、何故かみんな黙り込んでしまった
…え、待って、ぼくなんか言っちゃいけないこと言った…かな…?
「とりあえず、帰りながら話したらどうかしら?ここにいつまでもいても何も始まらないわ」
聞き慣れない声の方を見ると、青い長髪のクリティア族の女性がエステリーゼの傍にいた
誰…この人…
「だな。落ち着いたところで話さねぇと、アリシアがパンクしそうだしな」
そう言ってユーリは苦笑いした
…ごめん、既にぼくの頭はパンク済みだよ…
それから、ダングレストに戻るまでにぼくのいない間の話を聞いた
クリティア族の女性…ジュディスのこととか、
バルボスは、ぼくがどこにいるかを言う前に死んでしまったらしく、探すのに苦労した話もされた
ジュディスと兄さんは
本当、なんで彼がついて来るのかはよくわからない
「それにしても、兄さんと騎士団長さんはラゴウをどうするつもりなんだろう?」
頭の後ろで手を組みながらポツリと呟く
ここまでの事態を騎士団もほってはおけないとは思うんだけど…
…相手はラゴウ、だしなぁ…
「さぁな。ま、ここから先はあいつの仕事で、オレらにゃどうにもできねーな」
さほど興味なさげに隣でユーリは呟く
…ま、それもそうなんだけどさぁ…
「とりあえず、アリシアも疲れたでしょ?先に宿屋で休んでなよ!」
「ですね!体に異常がないかも見ておきたいですし」
そう言ってエステリーゼとカロルは何故かぼくを休ませようとしてくる
…ぼく、そんなに体調面に関して信用ないんだろうか…
「そうね。これ以上うろつかれて、倒れられても困るし」
「…みんな揃ってさ、酷くない?」
「これはどう考えてもお前が悪いな」
「うぇ……ぼくそんなに体調悪くしてないと思うけど…」
「ほーら、いいからさっさと宿屋行くぞ」
ユーリはそう言うと、ぼくの手を引いてズカズカと宿屋の方へと歩いていく
…これ、絶対、ぼくの歩幅考えてくれてないでしよ…!!
宿屋についてから暫くの間、エステリーゼとリタに散々体に異常がないかを調べられた
そこまでされるようなことはしてないと本気で思うんだけどなぁ…
ぼくのことを散々心配したみんなは今、バルボスとの一件で疲れているみたいで部屋で休んでる
で、余力の余ってるぼくはダングレストの街をのんびり見て回っている
時間的には夜だし、ユーリには止められたけど外の空気を吸って一人で考え事もしたかったし
大きな橋の上で、川を見つめながら考える
ユーリたちと合流する前、意識の奥で、確かに『ぼく』は誰かと話してた
失った記憶を取り戻したい『ぼく』と、記憶を取り戻すことを拒んでいる『誰か』……
……ううん、『誰か』、なんてわかってる
あれはきっと、自分のことを『わたし』と言っていた時の『ぼく』だ
臆病で、怖がりで……みんなが死んでしまったのは自分のせいだと
『わたし』さえいなければ…って、考えていた時の、『ぼく』自身だ
話し方を変えても、見た目を変えても、『わたし』が臆病な事には変わりないんだ
もしもまた…『わたし』のせいで誰かが傷ついたら……そう考えると、どうしようもないくらいに怖い
…でも、だからと言って、今のままじゃきっと駄目なんだ
怖がっていたって何も変わらない
逃げ続けてても、きっとまた…大切な人が傷ついてしまう
…だから、『ぼく』は……
この恐怖に立ち向かわないといけないんだ
でないと、また………大切な人を失ってしまう
そんなのは……もう、嫌だ
『………どうして、そんなに………』
聞き覚えのある声が、頭に響く
この声を、『ぼく』は知っている
「……『ぼく』はもう、これ以上逃げたくなんてないんだ。……『君』だって、わかるでしょ?」
空を見上げながらそう問いかける
真っ暗な夜空に無数の星が瞬いている
…いつもと違うのは、その空に月がないことくらいだ
……そっか、今日は、新月だったっけ……
『……わからないよ……だって、『わたし』は怖いんだもの………』
聞き慣れたその声は、今にも消えてしまいそうなほど小さな声でそう答える
「『ぼく』だって、怖いよ。……でも、逃げてても、何も変わらない。お母様から教わった事だって、ちゃんと思い出したい。……きっと、『ぼく』が新月って呼ばれることに大事な意味があるはずだから」
『………そう………』
聞き慣れた声は、小さく呟くと、それ以上何も言って来なくなった
「……今の声………やっぱり………」
ゆっくりと顔を川の方へと向ける
飽きるくらい聞いてきたあの声の意味を、『ぼく』は、なんとなく察していた
「…………あーぁ、兄さんが知ったら倒れちゃいそうだなぁ」
わざとそう声に出して頭の後ろで手を組んだ
『今のぼくの状態』を兄さんが知ったら、きっと帝都に戻れって言い出すんだろうなぁ
……でも、戻るわけにはいかない
だって、『ぼく』は、思い出したいから
忘れてしまった記憶、全部を……
「ーーーーーー?」
「ーーーーー、ーーーーーー」
考え事をしていると、遠くから誰かの話し声が聞こえてくる
何故か嫌な予感がして、咄嗟にすぐ側にあった物陰に身を隠した
…この、声…
「全く、フレン・シーフォめ…覚えていて下さいね」
その声と言葉に、背筋かぞわりとする
…ラゴウだ
どうしよう、このままここに居たら…
「ぐぁっ!?」
「がは…っ!」
打開策を模索していたぼくの耳に突然入ってきたのは悲鳴に近い声と水音だった
ラゴウの悲鳴も聞こえてくるけど、何が起きてるかはわからない
そっと物陰から顔を出す
「……え……?」
見えた光景に、小さく声が漏れる
目に入ったその人影が知ってる人だったから
目に入った光景を、理解したくなかったから
あの髪はどう見てもユーリで
手に持っているのは彼の愛刀で
それから赤い何かが滴っていて
月明かりに照らされたその顔に浮かぶ表情は、冷たくて
その場面を…ぼくは見ていない
…けど、この状況は…
認めたくない、けど、否定できない
「……ユーリ……?」
無意識に、物陰から出ながらぼくは彼の名を呼んでいた
「…っ!?…アリシア…」
ぼくの名前を呼ぶユーリの声は少し掠れていて
向けられた顔は驚きと寂しさが混じっていて
「…なんで、ユーリなの…?」
ぼくの口からはそんな言葉しか出てこなくって
頭の中もなんでユーリが、としか思いつかなくって
「…バカは死んでも治らねぇって言うだろ?…誰かやらなきゃ、アイツはいつまでも他人を貶める。…たまたま、オレだっただけさ」
そう言って微笑むユーリの顔には寂しさが残っている
そんなユーリを見ていられなくって
気づいたらぼくはユーリに抱きついていた
「っ!?…あのなぁ…いきなり抱きつきに来んなっての。危ねぇだろ?」
ぼくに注意してくるユーリの声はどことなく苦しそうで
いつもなら頭を撫でてくれるはずなのに、今はそれがなくって
変に胸が締め付けられて、息がしにくい
つらそうで、寂しそうにしてるユーリを見たくない
ぼくがユーリに抱くこの感情はなんなんだろう?
…そんなの、きっと、『ぼく』は知ってる
「…ユーリ、ぼくはさ、ユーリがしたことがいい事だって言ってあげられない。どんな理由があったって、人の命は奪っちゃいけないから」
ユーリの胸に頭を当てたままゆっくりしゃべる
ーー『ぼく』が抱いてるこの感情の正体なんて、とっくにわかってて ーー
ーー それでも、臆病な『わたし』がそれを認めようとしない ーー
「ははっ、フレンみたいなこと言うな。…ま、間違ってはねぇな。オレがしたことは大罪なわけだしな」
そう言って笑うユーリの声はとっても寂しそうで、今にも消えてしまいそうだ
ーー 認めてしまったら、何かが崩れる気がしてしまってーー
ーー『わたし』はそれが怖いんだーー
ーー …だから、ね?ーー
「でも、だからと言って、それが悪だとは言わないよ」
ユーリにこの言葉が伝わるように、ハッキリと言う
ーー もう少し…もう少しだけ、この感情を見てないフリをさせて ーー
「…っ…」
「だって、あの人も人の命を沢山奪ったんだもん。貴族だって人に変わりないし、命の天秤があったとしても、その重さは他の人と変わりないよ。…あの人はよくてユーリが駄目なんて事ないんだ」
顔を上げて真っ直ぐユーリを見る
いつもならありえないくらいに表情は動揺してて
ぼくがこんなこと言うなんてきっと思っていなかったんだろう
ーー …まだ言わない …ううん、まだ言えないーー
ーー 『ぼくら』の問題が解決するまで、この感情に蓋をしよう ーー
「それにね、ユーリ。ぼくはユーリが悪だなんて思ってないよ?ユーリは沢山の人の命を守ったんだもん。…だから、ぼくはユーリが悪だって思わない」
ユーリからそっと離れてぼくに触れようとしなかった手を握る
ほんの少し冷たくて、微かに震えてる
いくらユーリだって、人の命を奪うことが怖くないわけがないんだ
むしろその逆で、怖かったに違いない
でもきっと、強がってそう言わないんだ
自分の弱い所を見せないのがユーリだから
「…ほんっと、かなわねぇな」
フッとユーリの表情が和らいだ
ぼくが握っている手とは反対の手でいつもみたいに頭を撫でてくる
「…ありがとな、アリシア」
そう言ってくる声はいつも通りで
その表情はいつもと同じ自信に満ちた笑顔で
…あぁ、やっぱり、そうだ
ーーぼくは、『ぼくら』はユーリが…ーーだ ーー
「…ほら、ユーリ。そろそろ宿屋に戻ろ?」
「…あぁ、そうだな」
そう言い合って、ぼくらは宿屋に足を向けた
『なんで、“あなた”はそんなに簡単に決断できるの?』
「だって、自分で決断しなきゃ、何も守れないよ」
『…わたしにはできない。だって、怖いもの。わたしのせいで、沢山の大切な人を失った。これ以上もう、失いたくないの。…『彼』への気持ちだって、伝えてしまったら今と同じではいられないかもしれないじゃない』
「いつまでも逃げてたって、ぼく“ら”は結局誰も守ることはできないよ。大切な人を失うのは怖い。失いたくない。…だからぼくは立ち向かうんだ。…怖がっていたら、何も進まないよ」
『…“あなた”はわたしなのに、なんでこんなにも考えが違うの?』
「さぁ?なんでだろうね。それはわからないよ」
『…わたしにも、そんな勇気、あるのかな?』
「きっとあるはずだよ。だって“君”はぼくなんだから」
『…勇気が出るまで、わたしの“代わり”をしてくれる?』
「もちろん。…待っててあげるから、ちゃんと勇気出してくるんだよ?ーーー」
『…うん。それまで、お願いね。ーーーー』
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