第二章 水道魔導器
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*次期皇帝候補
「皆さん、助けて頂きありがとうございます」
トリム港につくと、ヨーデルがユーリたちに軽く会釈した
「ね、こいつ誰?」
リタは後ろからエステリーゼを軽くつつく
「えっと…ですね」
彼女はヨーデルを見つめながら口を噤んだ
…そりゃ、簡単に教えられないよね……
「今宿を用意させてる。詳しい話はそこで
それでいいね?」
兄さんがそうユーリに言うと、彼はゆっくり頷いた
「……アリシア、ちょっといいかい?」
ぼくを見ながら兄さんは手招きしてくる
軽く頷いて兄さんに駆け寄るとヨーデルから少し距離を取った
「…ユーリと一緒に居るか、僕と一緒に来るか」
耳元でぼくだけに聞こえるように話しかけてくる
「………ユーリと居るよ。兄さん、ヨーデルと居ないとでしょ?」
「…ああ………すまない」
「大丈夫だよ。……ぼくは、平気だよ」
ニコッ笑ってユーリの方に駆け寄った
兄さんはヨーデルの傍に戻って軽くお辞儀すると、彼を連れて宿に向かった
「フレンと何話してたんだ?」
兄さんたちが居なくなった後にユーリが聞いてきた
「ユーリから離れるな、だってさ!」
ニコリと笑ってそう言った
「…それ、どうゆう意味でだ?」
訝しげにユーリは聞き返してくる
「んー……さぁ?ユーリが危なっかしいから見張っとけってことじゃないかな?」
顎に手を当てながら首を傾げると、ユーリは大きくため息をつきながら腰に手を当てて項垂れた
そして苦笑いすると、ぼくの手を引いて歩き出した
宿について、部屋に入る前にフードを被り直した
ヨーデルに気づかれたらやばいし…
エステリーゼやリタ、カロルは首を傾げてたけどユーリは気にもしないで扉を開けた
中に入ると、ソディアさんとウィチルさん、それに兄さんとヨーデルと………
「……っ!」
ぼくは慌ててユーリの背に隠れて服を掴んだ
…そこには、ラゴウが居た
「あっ!!」
「おや?この方々は?」
誰かわからないと言わんばかりにラゴウは首を傾げた
「船の事故で都合のいい記憶喪失にでもなったか?いい治癒術師紹介してやるよ」
「はて…?記憶喪失も何もあなた方には初めてお会いしましたよ?」
首を傾げて顎髭を撫でながらニヤリと笑う
「何言ってんだよ!」
「執政官、あなたの罪は明白です。彼らがその一部始終を見ているのですから」
兄さんはそう言いながらラゴウに近づく
…けど…多分
「何度も申した通り、名前を騙った何者かが私を陥れようとしたのです。いやはや、迷惑な話ですよ。」
「ウソ言うな!魔物のエサにされた人たちを、あたしはこの目でみたのよ!」
否定したラゴウにリタは激しく反論する
「さあ、フレン殿、貴公はこのならず者と評議会の私とどちらを信じるのですか?」
兄さんはそう聞かれて悔しそうに下唇を噛んだ
騎士である以上、兄さんは簡単に評議会の人間を信じないとは言えないんだ
「決まりましたな。では、失礼しますよ」
勝ち誇ったようにニヤリと気味の悪い笑みを浮かべて、ラゴウはうやうやしくお辞儀する
そして、ぼくらの傍を通り過ぎようとする
「………『それ』、どうしたんですか?」
横を通ったラゴウに顔を向けずに声をかける
「はい?」
「服の裾、焦げている上に破けてますよ。…ぼくが攻撃して服が少し破けたあなたに似た人と同じところが」
ぼくがそう言うと驚いたように服を見た
「…変、ですね?ぼくらとお会いするのは初めてなのでしょう?……何をそんなに慌てているのですか?」
フードの下で薄っすらと口角を上げる
別に今すぐどうにかしようなんて思ってない
…ただ少しでも動揺させられればいい
「…き、気のせいではありませんか…?」
あからさまに動揺した声で彼はそう言うと少し駆け足で部屋を出て行った
「…アリシア…あんた、やるわね」
少し驚いた声でリタが声をかけてくる
「…やられっぱなしはムカつくもん。ちょっとでも煽れたんだったらそれで今は勘弁してあげようかなって」
ニヤッとしながらすこしだけフードを上げた
「で、こいつは何者よ?」
リタは再びヨーデルに向かって指をさした
「この方は……」
そこまで言って兄さんは言葉に詰まった
そんなに簡単に紹介できるような人でもないし、仕方ないかな
「この方は次期皇帝候補のヨーデル殿下です」
言いにくそうにしていた兄さんの代わりに、エステリーゼが彼の傍に歩み寄って言う
カロルは一人だけ信じられないと言いたげにしていたが、それ以外のメンバーはどこか納得したように考え込んだ
「あくまで候補の一人ですよ」
凛とした透き通った声でヨーデルは言う
久しぶりに聞いた彼の声は最後に会った時よりも低くなっていた
背も伸びてすっかり大人びてしまったけど、雰囲気はあの頃と全く変わっていない
「殿下ともあろうお方が、執政官ごときに捕まる事情をオレは聞いてみたいね」
少し挑発的にユーリは兄さんに言った
エステリーゼが兄さんに何か言おうとするが、それを首を振って静止した
…大方の予想はついてる
ぼくが…『わたし』がいないから、混乱してるんだ
「市民には聞かせられない事情ってわけか。エステルがここまで来たのも関係してんだな」
「……」
ユーリの言葉にエステリーゼは口を噤んだ
「ま、好きにすればいいさ」
どこか投げやりに、諦めたようにユーリは言った
「目の前で困ってる連中をほっとく帝国のごたごたに興味はねえ」
「ユーリ……そうやって帝国に背を向けて何か変わったか?人々が安定した生活を送るには帝国の定めた正しい法が必要だ」
兄さんはそう言いながら、背を向けたユーリに近づく
…これは、やばい
「けど、」
「はいはい、ストップストップ」
兄さんとユーリの間に割って入る
「アリシア…!まだ話が」
「ユーリが言いたいのは、正す為に出世してる間に苦しんでる人たちを見捨てるわけにはいかないって言いたいんでしょ」
ぼくがそう言うと、ユーリは少し項垂れる
「兄さんがいいたいのは、だからって目を背けてたら何も変わらないってことでしょ」
今度は兄さんを見てそういうと、ユーリ同様項垂れた
「二人の言い分はわかるけどさ…兄さん、そんなこと言うなら事情話してくれないとぼくらだってどうにも出来ない。ユーリはユーリなりに、兄さんの手の届かない人たちを助けてる
ユーリ、兄さんが話そうとしないなら話すまで問い詰めるくらいしなよ。それでも話さなかったら喧嘩したっていい。けど、兄さんは兄さんなりに助けてる人がいる
二人とも、互いに手の届かない人たちを助け合ってるだから、きつい口調で言い合いしない!…わかった?」
「けれど」「でもな」
「『けれど』でも、『でもな』でもない!!お互い様だって何回も言ってるじゃん!!二人はぼくより子どもかっ!?大人なんだから少しは考えろっ!!」
言い訳しようとした二人に向かって叫ぶように言うと、ビクリと肩が跳ねた
「…はい、二人に質問です。ぼくは何歳でしようか」
「……十八……だな」
言いずらそうにユーリが呟く
「うん、そうだね。…で?二人は何歳でしたっけ?」
「………二十一、だね……」
ユーリ同様兄さんも言いずらそう呟いた
「そうだよね?ぼくのほうが三つ下だよね??…なんで歳下に毎回毎回怒られてるんですか?!ぼくだってしないよそんなこと!!」
「…すまない」「…わりぃ…」
「はい。じゃあこの事で喧嘩するのやめね。次同じことで喧嘩したら、両成敗、だよ?」
ニコッと笑いながら投げナイフを取り出すと、わかりやすいくらいに二人揃って青ざめた
「…………オレ、外で頭冷やしてくるわ…」
ユーリはそう言って一人外へ出て行った
「えっと……アリシア……?」
「………ごめんね、見苦しかったよね」
遠慮気味に話しかけてきたエステリーゼに苦笑いしながら言う
「あなたはどうされるんですか?」
ヨーデルはエステリーゼに向かって問いかける
彼女は、少し迷い気味に兄さんに近づく
「行ってもいいのでしょうか?」
「何故ですか?」
「ユーリと旅をしてみて、変わった気がするんです。帝国とか、世界の景色が……それと、私自身も……」
そう言ったエステリーゼをヨーデルは優しげに見つめている
「そうですか……わかりました。少年!」
兄さんは置いて行かれたことに苛立っているような雰囲気のカロルに声をかける
「え……ボ、ボク……!?」
余程驚いたようでカロルは素っ頓狂な声をあげた
「ユーリに彼女を頼むと伝えておいてくれ」
「は、はい!」
「いいんですか…?」
エステリーゼは遠慮気味にフレンに問掛ける
「私がお守りしたいのですが、今は任務で余力がありません。それに、ユーリの傍なら、私も安心出来ます」
優しく微笑みながら兄さんは答える
「フレンはユーリを信頼しているんですね」
「ええ」
自信に満ちた表情で兄さんはエステリーゼを見た
…だったら、喧嘩、しないで欲しいんだけど……
「話がまとまったところで、そろそろ行かない?あいつ、見失うわよ?」
「大丈夫だよ。ぼく置いては行かないから」
「……あんたのその自信はどっから出てくるのよ……」
ふーっと息をつきながらリタがぼくを見つめてくる
「ユーリ、ぼくには弱いから」
ニコッと笑って言うと、今度はため息をつかれた
「アリシア……」
「…大丈夫だよ、兄さん。わかってるからさ」
心配そうに見つめてきた兄さんにそう言って笑いかける
リタたちと顔を見合わせると、三人は先に部屋の外に出た
ラピードと一緒に部屋の外に出ようと扉に向かう
「……あの」
ドアノブに手をかけたところで、ヨーデルに声をかけられた
「………なんでしょうか?」
ゆっくり振り向いて首を傾げる
ぼくを見つめてくるヨーデルの瞳はどこか寂しそうで、何かに縋るような色をしていた
「…………前に、どこかでお会いしていませんか?例えば……お城の中、とか」
ヨーデルにそう聞かれて、一番驚いたのは兄さんだった
…ヨーデルには気づかれると思ってた
だって……毎日のように会っていたんだから
「…誰にも言いません。ここだけの秘密にします。……だから……どうか、『姉様』だと………言ってください…………」
消え入りそうな声で少しだけ目元に涙を溜めてヨーデルは聞いてくる
「……アリア………」
ボソッと兄さんが耳元でいつものあだ名で呼んでくる
「……ワンっ」
一声鳴いて、ラピードがぼくを見上げてくる
外に人の気配がないから早くしろって見つめてくる
「………はぁ……そうやってお願いしてくるのはズルいよ……『ヨーデル』」
そっとフードを取って苦笑いしながら手を広げた
そうすると、嬉しそうに笑って飛びついて来た
「やっぱり…姉様だったんですね……!港でお会いした時から、そうであって欲しいと思っていました…!!」
涙ぐみながらヨーデルは言葉を繋げていく
「えっと、あの……ヨーデル様……」
オドオドしながら、兄さんはヨーデルに話しかける
「……大丈夫ですよ、フレン。姉様とあなたが従兄弟だということは知っています。……何か、わけがあってあなたの妹として暮らしているのでしょう?」
目元に溜まった涙を拭いながらヨーデルはニコッと兄さんを見た
「……誰にも言いません。私たち三人の秘密です。私も…皆さんの前ではアリシアと呼びます。…ですが……たまに、姉様と呼んでも、いいですか…?」
「……いいよ。兄さんと、ぼく……わたしだけの前だったら、呼んでもいいよ」
ニッコリと笑ってヨーデルの頭を撫でる
そうすると、嬉しそうに目を細めた
「あ、ラピードも、内緒だよ?」
「ゥワン!!」
ぼくの言葉に反応して、任せろと言わんばかりに尻尾を振ったラピードの背を優しく撫でる
「それじゃ、ぼくそろそろ行くね。…またね、ヨーデル。兄さん、ヨーデルのこと、お願いね」
そう言って今度こそ部屋を出ようとする
「あ、姉様…!」
「ん?」
「……エステリーゼには言わなくていいのですか?」
「…………あの子、嘘つくの苦手だから。……まだ、お城には戻れないし……戻れるようになってから、かな」
「……そう、ですか……わかりました」
寂しそうに笑いながらそう言ったヨーデルの頭をもう一度撫でて、今度こそ部屋の外に出た
フードを被って宿屋を出ると、街の入口付近でたむろしてるユーリたちを見つけた
「遅せぇよアリシア」
ぼくに気づいたユーリが少し不機嫌そうにしながら手招きしてくる
「えへへ、ごめんごめん」
頬を掻きながら苦笑いする
「何してたんだ?」
「部屋出ようとしたら兄さんがブツブツ文句言ってたから」
そう言うと、どこか納得したようにあー……と声をあげた
…兄さん、ごめんね。ちょっと怒られた事にしておいて
「懲りないわね、あんたの兄貴も」
呆れ気味にリタはため息をついた
「兄さんも子どもだからねえ?」
そう言いながらユーリをちらっと見た
「うっせ、ほら行くぞ」
ユーリはそう言ってぼくの手を引いた
「へ?行くって、どこに??」
「紅の絆傭兵団 っていう、水道魔導器 の魔核 盗んだギルドの向かった先、だよ」
ニヤッと何処か自信ありげに笑ってユーリは言う
こうして、ぼくらはユーリを先頭に次の場所へと向かった
*スキットが追加されました
*約束
「皆さん、助けて頂きありがとうございます」
トリム港につくと、ヨーデルがユーリたちに軽く会釈した
「ね、こいつ誰?」
リタは後ろからエステリーゼを軽くつつく
「えっと…ですね」
彼女はヨーデルを見つめながら口を噤んだ
…そりゃ、簡単に教えられないよね……
「今宿を用意させてる。詳しい話はそこで
それでいいね?」
兄さんがそうユーリに言うと、彼はゆっくり頷いた
「……アリシア、ちょっといいかい?」
ぼくを見ながら兄さんは手招きしてくる
軽く頷いて兄さんに駆け寄るとヨーデルから少し距離を取った
「…ユーリと一緒に居るか、僕と一緒に来るか」
耳元でぼくだけに聞こえるように話しかけてくる
「………ユーリと居るよ。兄さん、ヨーデルと居ないとでしょ?」
「…ああ………すまない」
「大丈夫だよ。……ぼくは、平気だよ」
ニコッ笑ってユーリの方に駆け寄った
兄さんはヨーデルの傍に戻って軽くお辞儀すると、彼を連れて宿に向かった
「フレンと何話してたんだ?」
兄さんたちが居なくなった後にユーリが聞いてきた
「ユーリから離れるな、だってさ!」
ニコリと笑ってそう言った
「…それ、どうゆう意味でだ?」
訝しげにユーリは聞き返してくる
「んー……さぁ?ユーリが危なっかしいから見張っとけってことじゃないかな?」
顎に手を当てながら首を傾げると、ユーリは大きくため息をつきながら腰に手を当てて項垂れた
そして苦笑いすると、ぼくの手を引いて歩き出した
宿について、部屋に入る前にフードを被り直した
ヨーデルに気づかれたらやばいし…
エステリーゼやリタ、カロルは首を傾げてたけどユーリは気にもしないで扉を開けた
中に入ると、ソディアさんとウィチルさん、それに兄さんとヨーデルと………
「……っ!」
ぼくは慌ててユーリの背に隠れて服を掴んだ
…そこには、ラゴウが居た
「あっ!!」
「おや?この方々は?」
誰かわからないと言わんばかりにラゴウは首を傾げた
「船の事故で都合のいい記憶喪失にでもなったか?いい治癒術師紹介してやるよ」
「はて…?記憶喪失も何もあなた方には初めてお会いしましたよ?」
首を傾げて顎髭を撫でながらニヤリと笑う
「何言ってんだよ!」
「執政官、あなたの罪は明白です。彼らがその一部始終を見ているのですから」
兄さんはそう言いながらラゴウに近づく
…けど…多分
「何度も申した通り、名前を騙った何者かが私を陥れようとしたのです。いやはや、迷惑な話ですよ。」
「ウソ言うな!魔物のエサにされた人たちを、あたしはこの目でみたのよ!」
否定したラゴウにリタは激しく反論する
「さあ、フレン殿、貴公はこのならず者と評議会の私とどちらを信じるのですか?」
兄さんはそう聞かれて悔しそうに下唇を噛んだ
騎士である以上、兄さんは簡単に評議会の人間を信じないとは言えないんだ
「決まりましたな。では、失礼しますよ」
勝ち誇ったようにニヤリと気味の悪い笑みを浮かべて、ラゴウはうやうやしくお辞儀する
そして、ぼくらの傍を通り過ぎようとする
「………『それ』、どうしたんですか?」
横を通ったラゴウに顔を向けずに声をかける
「はい?」
「服の裾、焦げている上に破けてますよ。…ぼくが攻撃して服が少し破けたあなたに似た人と同じところが」
ぼくがそう言うと驚いたように服を見た
「…変、ですね?ぼくらとお会いするのは初めてなのでしょう?……何をそんなに慌てているのですか?」
フードの下で薄っすらと口角を上げる
別に今すぐどうにかしようなんて思ってない
…ただ少しでも動揺させられればいい
「…き、気のせいではありませんか…?」
あからさまに動揺した声で彼はそう言うと少し駆け足で部屋を出て行った
「…アリシア…あんた、やるわね」
少し驚いた声でリタが声をかけてくる
「…やられっぱなしはムカつくもん。ちょっとでも煽れたんだったらそれで今は勘弁してあげようかなって」
ニヤッとしながらすこしだけフードを上げた
「で、こいつは何者よ?」
リタは再びヨーデルに向かって指をさした
「この方は……」
そこまで言って兄さんは言葉に詰まった
そんなに簡単に紹介できるような人でもないし、仕方ないかな
「この方は次期皇帝候補のヨーデル殿下です」
言いにくそうにしていた兄さんの代わりに、エステリーゼが彼の傍に歩み寄って言う
カロルは一人だけ信じられないと言いたげにしていたが、それ以外のメンバーはどこか納得したように考え込んだ
「あくまで候補の一人ですよ」
凛とした透き通った声でヨーデルは言う
久しぶりに聞いた彼の声は最後に会った時よりも低くなっていた
背も伸びてすっかり大人びてしまったけど、雰囲気はあの頃と全く変わっていない
「殿下ともあろうお方が、執政官ごときに捕まる事情をオレは聞いてみたいね」
少し挑発的にユーリは兄さんに言った
エステリーゼが兄さんに何か言おうとするが、それを首を振って静止した
…大方の予想はついてる
ぼくが…『わたし』がいないから、混乱してるんだ
「市民には聞かせられない事情ってわけか。エステルがここまで来たのも関係してんだな」
「……」
ユーリの言葉にエステリーゼは口を噤んだ
「ま、好きにすればいいさ」
どこか投げやりに、諦めたようにユーリは言った
「目の前で困ってる連中をほっとく帝国のごたごたに興味はねえ」
「ユーリ……そうやって帝国に背を向けて何か変わったか?人々が安定した生活を送るには帝国の定めた正しい法が必要だ」
兄さんはそう言いながら、背を向けたユーリに近づく
…これは、やばい
「けど、」
「はいはい、ストップストップ」
兄さんとユーリの間に割って入る
「アリシア…!まだ話が」
「ユーリが言いたいのは、正す為に出世してる間に苦しんでる人たちを見捨てるわけにはいかないって言いたいんでしょ」
ぼくがそう言うと、ユーリは少し項垂れる
「兄さんがいいたいのは、だからって目を背けてたら何も変わらないってことでしょ」
今度は兄さんを見てそういうと、ユーリ同様項垂れた
「二人の言い分はわかるけどさ…兄さん、そんなこと言うなら事情話してくれないとぼくらだってどうにも出来ない。ユーリはユーリなりに、兄さんの手の届かない人たちを助けてる
ユーリ、兄さんが話そうとしないなら話すまで問い詰めるくらいしなよ。それでも話さなかったら喧嘩したっていい。けど、兄さんは兄さんなりに助けてる人がいる
二人とも、互いに手の届かない人たちを助け合ってるだから、きつい口調で言い合いしない!…わかった?」
「けれど」「でもな」
「『けれど』でも、『でもな』でもない!!お互い様だって何回も言ってるじゃん!!二人はぼくより子どもかっ!?大人なんだから少しは考えろっ!!」
言い訳しようとした二人に向かって叫ぶように言うと、ビクリと肩が跳ねた
「…はい、二人に質問です。ぼくは何歳でしようか」
「……十八……だな」
言いずらそうにユーリが呟く
「うん、そうだね。…で?二人は何歳でしたっけ?」
「………二十一、だね……」
ユーリ同様兄さんも言いずらそう呟いた
「そうだよね?ぼくのほうが三つ下だよね??…なんで歳下に毎回毎回怒られてるんですか?!ぼくだってしないよそんなこと!!」
「…すまない」「…わりぃ…」
「はい。じゃあこの事で喧嘩するのやめね。次同じことで喧嘩したら、両成敗、だよ?」
ニコッと笑いながら投げナイフを取り出すと、わかりやすいくらいに二人揃って青ざめた
「…………オレ、外で頭冷やしてくるわ…」
ユーリはそう言って一人外へ出て行った
「えっと……アリシア……?」
「………ごめんね、見苦しかったよね」
遠慮気味に話しかけてきたエステリーゼに苦笑いしながら言う
「あなたはどうされるんですか?」
ヨーデルはエステリーゼに向かって問いかける
彼女は、少し迷い気味に兄さんに近づく
「行ってもいいのでしょうか?」
「何故ですか?」
「ユーリと旅をしてみて、変わった気がするんです。帝国とか、世界の景色が……それと、私自身も……」
そう言ったエステリーゼをヨーデルは優しげに見つめている
「そうですか……わかりました。少年!」
兄さんは置いて行かれたことに苛立っているような雰囲気のカロルに声をかける
「え……ボ、ボク……!?」
余程驚いたようでカロルは素っ頓狂な声をあげた
「ユーリに彼女を頼むと伝えておいてくれ」
「は、はい!」
「いいんですか…?」
エステリーゼは遠慮気味にフレンに問掛ける
「私がお守りしたいのですが、今は任務で余力がありません。それに、ユーリの傍なら、私も安心出来ます」
優しく微笑みながら兄さんは答える
「フレンはユーリを信頼しているんですね」
「ええ」
自信に満ちた表情で兄さんはエステリーゼを見た
…だったら、喧嘩、しないで欲しいんだけど……
「話がまとまったところで、そろそろ行かない?あいつ、見失うわよ?」
「大丈夫だよ。ぼく置いては行かないから」
「……あんたのその自信はどっから出てくるのよ……」
ふーっと息をつきながらリタがぼくを見つめてくる
「ユーリ、ぼくには弱いから」
ニコッと笑って言うと、今度はため息をつかれた
「アリシア……」
「…大丈夫だよ、兄さん。わかってるからさ」
心配そうに見つめてきた兄さんにそう言って笑いかける
リタたちと顔を見合わせると、三人は先に部屋の外に出た
ラピードと一緒に部屋の外に出ようと扉に向かう
「……あの」
ドアノブに手をかけたところで、ヨーデルに声をかけられた
「………なんでしょうか?」
ゆっくり振り向いて首を傾げる
ぼくを見つめてくるヨーデルの瞳はどこか寂しそうで、何かに縋るような色をしていた
「…………前に、どこかでお会いしていませんか?例えば……お城の中、とか」
ヨーデルにそう聞かれて、一番驚いたのは兄さんだった
…ヨーデルには気づかれると思ってた
だって……毎日のように会っていたんだから
「…誰にも言いません。ここだけの秘密にします。……だから……どうか、『姉様』だと………言ってください…………」
消え入りそうな声で少しだけ目元に涙を溜めてヨーデルは聞いてくる
「……アリア………」
ボソッと兄さんが耳元でいつものあだ名で呼んでくる
「……ワンっ」
一声鳴いて、ラピードがぼくを見上げてくる
外に人の気配がないから早くしろって見つめてくる
「………はぁ……そうやってお願いしてくるのはズルいよ……『ヨーデル』」
そっとフードを取って苦笑いしながら手を広げた
そうすると、嬉しそうに笑って飛びついて来た
「やっぱり…姉様だったんですね……!港でお会いした時から、そうであって欲しいと思っていました…!!」
涙ぐみながらヨーデルは言葉を繋げていく
「えっと、あの……ヨーデル様……」
オドオドしながら、兄さんはヨーデルに話しかける
「……大丈夫ですよ、フレン。姉様とあなたが従兄弟だということは知っています。……何か、わけがあってあなたの妹として暮らしているのでしょう?」
目元に溜まった涙を拭いながらヨーデルはニコッと兄さんを見た
「……誰にも言いません。私たち三人の秘密です。私も…皆さんの前ではアリシアと呼びます。…ですが……たまに、姉様と呼んでも、いいですか…?」
「……いいよ。兄さんと、ぼく……わたしだけの前だったら、呼んでもいいよ」
ニッコリと笑ってヨーデルの頭を撫でる
そうすると、嬉しそうに目を細めた
「あ、ラピードも、内緒だよ?」
「ゥワン!!」
ぼくの言葉に反応して、任せろと言わんばかりに尻尾を振ったラピードの背を優しく撫でる
「それじゃ、ぼくそろそろ行くね。…またね、ヨーデル。兄さん、ヨーデルのこと、お願いね」
そう言って今度こそ部屋を出ようとする
「あ、姉様…!」
「ん?」
「……エステリーゼには言わなくていいのですか?」
「…………あの子、嘘つくの苦手だから。……まだ、お城には戻れないし……戻れるようになってから、かな」
「……そう、ですか……わかりました」
寂しそうに笑いながらそう言ったヨーデルの頭をもう一度撫でて、今度こそ部屋の外に出た
フードを被って宿屋を出ると、街の入口付近でたむろしてるユーリたちを見つけた
「遅せぇよアリシア」
ぼくに気づいたユーリが少し不機嫌そうにしながら手招きしてくる
「えへへ、ごめんごめん」
頬を掻きながら苦笑いする
「何してたんだ?」
「部屋出ようとしたら兄さんがブツブツ文句言ってたから」
そう言うと、どこか納得したようにあー……と声をあげた
…兄さん、ごめんね。ちょっと怒られた事にしておいて
「懲りないわね、あんたの兄貴も」
呆れ気味にリタはため息をついた
「兄さんも子どもだからねえ?」
そう言いながらユーリをちらっと見た
「うっせ、ほら行くぞ」
ユーリはそう言ってぼくの手を引いた
「へ?行くって、どこに??」
「
ニヤッと何処か自信ありげに笑ってユーリは言う
こうして、ぼくらはユーリを先頭に次の場所へと向かった
*スキットが追加されました
*約束