第二章 水道魔導器
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*エフミドの丘に潜む魔物
「そっか……さっきのが兄さんのこと狙ってる暗殺者なんだ」
少し浅めにフードを被り直しながらそう言った
ノール港に向かう途中、先程の赤眼が兄さんを狙ってる暗殺者集団だってことを聞いた
それと、その集団の一人……『ザギ』って名前の人に、ユーリがよくわかんない因縁つけられたことも
そんな物騒な話を聞きながら、足を進める
カロルの話だとノール港に行くには『エフミドの丘』という場所を抜けないといけないらしい
だからぼくらは今、そこへ向かっている
「そう言えばアリシア、さっきのフレンからの手紙なんて書いてあったんだ?」
不意にユーリがそんなことを聞いてくる
もちろんそんな問いかけ想像してなかったから思わず肩がビクッとした
「……後で二人きりでじっくり話そうかって」
少し間を開けてそう答えた
まぁでも、間違ったことは言ってないはず…
「あんた、そんなに怒られるしたの?」
疑い深い目でリタがぼくを見つめてくる
ハルルの樹のことはなんとなく誤魔化したけど、彼女のぼくに対する不信感は消えていないらしい
「んー……怒られることはしてない……はず」
「大方、フレンに何も相談無しにオレに付いて来たからだろ。あいつ、極度の心配性だからな」
半ば呆れ気味にユーリはそう言った
…まぁ、それに関してはなにも否定出来ない……
そんな会話をしていると、エフミドの丘と思われる場所についた
すると、カロルがキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回して首を傾げた
「どうしたんだよ、首傾げて」
「おっかしいなぁ…ついこの間まで結界があったはずなんだけど」
そう言いながら空を見上げる
「こんな人も住んでいない所に??」
「随分と贅沢だな」
ぼくが首を傾げてすぐに、ユーリは呆れた声で言う
確かにこんなところに結界魔導器 なんて贅沢すぎる
「あんたの見間違えじゃない?結界魔導器 の設置位置はあたしも全部把握てしてるけど、こんなところに設置されていないわよ」
ありえない、というように若干攻撃的な強い口調でリタはそう答えた
魔導士だから、知ってて当然なんだろう
けれど、カロルはそれに少し強く反論した
「リタが知らないだけでしょ。ここ最近設置されたってナンが言ってたし」
「『ナン』って誰です?」
『ナン』という聞き覚えのない名前にエステリーゼが首を傾げる
「え、えっと……ギルドの仲間だよ!ぼ、ボクちょっと、情報集めてくる!」
オドオドしながらそう言うと、カロルは一人先に走り出してしまった
「あたしもちょっと行ってくる」
カロルの後を追いかけるようにリタも走り出した
「あっ!二人ともー!」
ぼくが慌てて声をかけるが、止まる様子はなかった
「もー……みんな集団行動できないんだから」
「おいおい、それお前が言うか?」
小さくため息をついたぼくに、ユーリが呆れ気味にそう行ってくる
「えっと……とりあえず、追いかけましょう?」
ユーリに言われたことは不服だけれど二人とはぐれるもの探すの大変になりそうだし、エステリーゼの提案に首を縦に振って歩き始めた
リタに追いつくと、結界魔導器 の残骸みたいなものが、道のど真ん中に倒れているのが目に入った
無言でそれに彼女が近づくと、近くにいた調査員と思われる人が止めようと前に立ちはだかる
「こらこら、部外者は立ち入り禁止だよ」
「帝国魔導器研究所のリタ・モルディオよ。通してもらうから」
「アスピオの魔導士の方でしたか……。し、失礼しました。ああ、勝手をされては困ります!上に話を通すまでは…」
調査員らしき人を押しのけてリタは結界魔導器 の残骸に近寄って行った
「あの強引さ、オレにも分けて欲しいね」
腕を組みながらユーリは苦笑いする
「んー……ユーリにはなくてもいいと思うけどなぁ」
そう呟きながらフードを少し深く被る
ほんの一瞬、ちらっと騎士の姿が見えたからだ
「三人とも聞いて!それが一瞬だったらしいよ!槍でガツン!魔導器 ドカンで!空にピューって飛んで行ってね!」
興奮気味にカロルが教えてきてくれるが、効果音ばかりで何が言いたのか全くわからない
「……誰が何をどうしたって?」
あまりにもわからなさすぎる説明にユーリが聞き返す
「竜に乗ったやつが!結界魔導器 を槍で!壊して飛び去ったんだってさ!」
今度は一語一語丁寧に教えてくれた
「竜に人……?」
「んなバカな」
「そんな話、初めて聞きました」
当然ながらぼくらは半信半疑
竜に人が乗るなんてありえない
「ボクだってそうだけど、見た人がたくさんいるんだよ。『竜使い』が出たって」
「『竜使い』………ね」
そう呟いて顎に手を当てた
……なんか、聞いたことあるような……ないような………
「ちょっと放しなさいよ、何すんの!?」
リタの怒鳴り声の聞こえた方向に顔を向けると、何故か両腕を騎士に抑えられた彼女の姿が見えた
「なんか騒ぎ起こしてるよ」
若干ため息混じりにカロルが呟いた
「この魔導器 の術式は、絶対、おかしい!」
「おかしくなんてありません。あなたの言ってることの方がおかしいんじゃ…」
「あたしを誰だと思ってるのよ!?」
「存じています。噂の天才魔導士でしょ。でも、あなたにだって知らない術式のひとつくらいありますよ!」
「こんな変な術式の使い方して、魔導器 が可哀想でしょ!」
「ちょっと!見ていないで捕まえるのを手伝ってください!」
暴れようとし始めたリタを取り押さえようと、更に騎士が集まり出す
これは流石にヤバそう…
ユーリたちから少し離れてすぐに隠れられそうなけもの道の近くまでくる
「……乱れ飛べ、交わるは我が破りし平穏る障壁……グリムシルフィ」
みんなに聞こえないように小さく呟いてすぐに隠れた
騎士のぐぁっ!とか言う声が聞こえてきてたし、多分ちゃんと発動できてるはず…
「くそ!誰だ!!」
そんな声とカシャリと金属音が辺りに響く
「ん?おまえ、確か手配書の…」
怯える暇もなく、ユーリのことがバレてしまった
…というか、あんな下手くそな絵でよくわかるなぁ…
そんな呑気なこと考えているうちに、騎士を倒してきたみたいで、ユーリたちもこの道に入ってきた
「ふ〜、振り切ったか」
「おつかれ」
ユーリの隣に並びながら声をかける
「…お前、ああなるって気づいてたろ?」
「さぁ…?どうだろうね?」
ユーリの問いかけにサラッとあしらった
「それよりも、誰よあんな術使ったやつ…!」
少し悲鳴混じりにリタが言う
「あんな術……初めて見ました……」
少し驚いた声でエステリーゼも言った
「…どんな術だったの?」
何も知らない風に問いかける
「なんっつーか、緑色の人みたいな形のやつが出てきてリタの周りにいた奴らだけ吹き飛ばされた……でいいのか?」
「んー…と言うよりも、風が切りつけてたって感じじゃなかった?」
ユーリとカロルが少し首を傾げながら教えてくれた
…よかった、ちゃんと出来てたみたい
「……あんた、誰か使ってそうな人とか見なかったの?」
また疑い深い目でリタがじっとぼくのことを見つめてくる
「んー……見てないと思うけどなぁ…」
考えるフリをしながら答える
見なかったも何も、やったのぼくなんだけどね
「それにしても無茶しすぎですよ、リタ」
エステリーゼがリタの方向きながら注意する
「あの魔導器 、おかしかったからつい…」
「おかしいって、また厄介ごとか?オレの両手はいっぱいだからその厄介事は他所にやってくれ」
手をひらひらさせながら、ユーリは素っ気なく言った
「その言い方は可哀想でしょ…ぼくは手空いてるから手伝ってあげられるよ!」
ニコッと笑いかけながらリタに言う
「厄介事なんて可愛い言葉で済めばいいけど……どの道、あんたたちには関係ないわよ」
どこか突き放すような口調でリタが呟いて、ぼくらに背を向けた
ここまで拒絶されると、ちょっと傷つく…
「ユーリ・ローウェル!!どこに逃げよったぁぁ!!!」
ユーリが獣道を進もうとすると、ルブランの声が聞こえてきた
「呼ばれてるわよ、有名人」
「またかよ……」
大きくため息をつきながらユーリは項垂れた
「エステリーゼ様〜出てきてくださいであ〜る」
「アリシア殿も出てきて欲しいのだ!」
続いてアデコールとボッコスの声も聞こえてくる
エステリーゼは兎も角……なんでぼくまで……
「あんたら問題多いわね。一体何者よ?」
ジト目でぼくらを見回しながらリタが言う
「それよか、早く行こうぜ。捕まんのは面倒だ」
ユーリはリタの問いに答えずにそう言って獣道を歩き始めた
「あっ、待ってよー!」
先に歩き出したユーリの後にぼくらはついて行った
少し歩いたところで見たことの無い花が咲いているのが目に入った
「これ、なんだろ?」
「ふーん、山ん中じゃ、こんな花咲くんだ」
物珍しそうにリタは花を眺めながら、そっと手を伸ばす
「リタ、触っちゃダメ!」
触れるか触れないかギリギリのところで、エステリーゼが叫んでリタを止めた
「ビリバリハの花粉を吸い込むと目眩と激しい脱力感に襲われる、です」
「へぇ……これビリバリハって言うんだ…」
じーっと花を見つめながら呟く
旅をしてて思ったけどエステリーゼは随分博識だ
「ふーん………」
リタはそう呟くと、カロルの後ろに回る
なんとなく嫌な予感がしてビリバリハから少し離れる
それとほぼ同時に、リタがカロルの背を押した
「ちょ、何を……」
カロルが軽くビリバリハに触れると大量の花粉が彼目掛けて降りかかる
「あ、ゴメン!」
どこか楽しそうに笑いかけながらリタは全く謝る気がなさそうに言う
「カロル、大丈夫です?」
エステリーゼは声をかけながら治癒術をかける
…やっぱり、武醒魔導器 の魔核 が光ってない
多分、リタはそれを確認しようとしたんだろうな
「治癒術に興味あんのか?」
リタに近寄りながら、ユーリは少し低い声で声をかけた
「別に……」
エステリーゼを見つめていた彼女は、顔を背けながら答えた
そして、背を向けて少しユーリたちから離れる
「………リタ、見ただけでなんで魔核 が光ってないか、わかったりするの?」
隣に来たリタに小声で話しかける
「……わからない………けど、あたしが探してる公式に、エステリーゼが一番近いのは確かね……」
「…公式……?」
「そうよ。……まぁ、あんたに言っても分からないと思うけど……」
どこか好奇心に満ちたような口調でリタは言った
リタが探してる公式……って、なんの事なんだろう?
「うぅ、ひどいよ、リタ〜」
治ったカロルが少し泣きそうな声でそう訴えた
「だから、ごめんって言ったでしょ」
半分投げやりにリタはそう答える
ごめんって言われても……あれは嫌だろうなぁ…
「平気なら行くぞ」
「ビリバリハに注意して進まないとね!」
ぼくがそう言うと、みんな頷いてユーリを先頭に歩き始めた
しばらく進んで、少し広い空間に出た
カロル先頭にそこを通り過ぎようとした時、魔物の咆哮が聞こえてきた
「何……?」
そう呟いてキョロキョロと辺りを見回す
「うわぁぁぁ!!」
カロルが後ろを向いたのと同時に叫び声をあげる
慌てて振り返ると、今まで見た魔物よりも少し大きめの魔物の姿が目に入った
「あ、あれ、ハルルの街を襲った魔物だよ!」
カロルはそう言いながら魔物を指さす
「へぇ、こいつがね。生き残りってわけか」
「ほっといたらまたハルルの街を荒らしに行くわね、多分」
「だね。今は結界があるけど、こんなの近くにいたりしたら落ち着いて生活出来ないよ」
そう言いながら刀を引き抜いた
再び魔物の咆哮が響いたのと同時に、戦いの火花が散った
「虎牙破斬!!」
「爪竜連牙斬!」
「煌めいて、魂揺の力…フォトン!」
「ゆらめく焔、猛追…ファイヤーボール!」
「臥竜アッパー!」
「グォオォォォォオ!!!!」
一斉に攻撃を仕掛けるが、敵の体力はあまり減らない
おまけに、下手に近づくと毒攻撃してくるから迂闊にちかづくことさえできないし…
「…あーもう!面倒くさい!」
そう叫びながら、周りを見てみる
何か、使えそうなもの……
見回していると、視界にビリバリハの花が映った
…あれ、使えるかも
「リタ!ぼくがあれ引きつけるから、ビリバリハ目掛けてなんでもいいから術打って!」
「はぁ?!あんた、何言って……あぁ、その手があったわね」
ニヤッとリタは笑うと力強く頷いてくれた
それを合図に魔物目掛けて走り出す
魔物の注意がぼくに向いたところで勢いよく後ろに下がって、ビリバリハに誘導する
「ゆらめく焔、猛追…ファイヤーボール!」
リタの詠唱が聞こえたのと同時に真上に飛ぶ
ビリバリハにファイヤーボールが当たると、その花粉が魔物の目の前で放散された
当然対処できなかった魔物はそれを吸い込んで身動きを止めた
「そのままいい加減倒れろっ!爆砕陣!!」
技を繰り出しながら魔物の真上に着地する
呻き声をあげた魔物は、そのまま地に伏した
ぴょんっと魔物の上から飛び降りて鞘に刀を納める
「ったく、無茶すんだから…けど、おかげで助かったな」
苦笑いしながらユーリも刀を鞘に納めた
「な、なーんだ、手応えゼロだったね」
少し怯えながらカロルは武器を仕舞う
「でも、この先もまだ何匹も出てくるかも……」
不安そうにエステリーゼがそう言った
「んー、大丈夫じゃない?あの手の魔物って縄張り意識強そーだし」
「それ……どっからそんな自信が出てくるの?」
「ぼくの勘かな。大丈夫!ハズレたことないから!」
ビシッと人差し指でカロルを指差しながら言う
「……アホっぽ……」
「ま、実際アリシアの勘がハズレたことねぇからな。後は、そうならないことみんなで祈ろうぜ」
ユーリはそう言いながら歩き始めた
「あ!ユーリ待ってよ!」
そう言ってユーリの隣に駆け寄った
「もー、歩くの早いよ!」
むっとしながらそう言う
「早くねぇっての…それに、のんびりしてらんねぇだろ?」
ユーリはそう言いながら前から目を離さない
何か考え込んでいるような表情に、声をかけられなくなった
少し進むと、今度は崖に出た
「うわあ……」
エステリーゼは物珍しそうに目の前に広がる光景を眺めている
そして、崖の際まで掛けて行った
「これ…って……」
後ろからは少し驚いたリタの声も聞こえる
それもそうだろう
…だって、ぼくらの目の前には……
「……海………」
小さく呟きながら、エステリーゼの少し後ろに立った
「ユーリ、海ですよ、海」
嬉しそうに何度もエステリーゼは言う
「わかってるって。……風が気持ちいいな」
「本で読んだことはありますけど、私、本物をこんなに間近で見るのは初めてなんです!」
少し興奮気味に彼女はそう言う
普通、結界の外に出ることなんて滅多にないから当然ではあるだろう
旅を続ければ、もっと面白いものが見れるとカロルは言う
…エステリーゼにそれが出来るかどうかはわからないけど……
「旅が続けば……もっといろんなことを知ることができる…」
「そうだな……オレの世界も狭かったんだな」
ポツリとユーリは呟く
「……珍しいね。素直な感想言うなんて」
ぼくがそう言うと、うっせぇとでも言いたげに苦笑いして見つめてくる
が、すぐに目線を海に戻した
ユーリも相当この景色が気に入ったんだろう
かく言うぼくも、海から目を離せずにいた
……初めて、ではない気がするんだ
この景色を見るのは……
昔、見たような気もしなくない
……でも、思い出せない……
「これがあいつの見てる世界か」
ユーリの声にはっとして、彼を見る
どこか悔しそうで……だけど、目の奥は寂しそうだった
「もっと前に、フレンはこの景色を見たんだろうな」
「任務で世界各地を回って居ますからね」
「追いついて来いなんて、簡単に言ってくれるぜ」
苦い顔でユーリはそう呟いた
カロルはノール港はすぐだから追いつけると言う
…でも、ぼくは知ってる。
兄さんの追いついて来いは、ただ早く来いって意味じゃないってことを
…多分、ユーリも気づいてる
だから悔しそうにしてるんだ
「さあて、ルブランが出てこないうちに行くぞ」
ユーリがそう言うとカロルが近づいてくる
「ノール港はここを出て海沿いの街道を西だよ。もう目の前だから」
もうすぐで兄さんに会える……
いや、お説教が待ってるぼく的にはあんまり会いたくないんだけど……
「海はまたいくらでも見られる。旅なんていくらでもできるさ」
海から目を離さないエステリーゼにユーリは簡単にそう言う
すると、少し不服そうにエステリーゼはユーリを見る
「その気になりゃな。今だってその結果だろ?」
再びそう声をかけると、ゆっくりと視線を海に戻す
「………そうですね」
何か吹っ切れたかのように、薄らと微笑んだ
「ほら、先に行っちゃうよ」
カロルはそう言って先に歩き出す
「あ、カロルー、気をつけないと落ちるよ?」
ぼくがそう注意した瞬間に、崖から落ちそうになる
……普通、気づくと思うんだけど……
「バカっぽい……」
リタはそう呟くとゆっくりと歩き始めた
エステリーゼとユーリもその後に続く
ラピードと最後尾を歩いていると、お墓のようなものを見つけた
「…あれ………?これ…って………」
足を止めてじっとそれを見つめる
……これ、見たことがある気が………
「………誰だ?そこに居るのは」
いつかの時に聞いた声に驚いて振り返ると、そこにはやはりデイドン砦で出会った男の人がいた
「……またお前、か………」
「またって失礼じゃないですか……?……あなたは、誰?ぼくの……『わたし』のこと、知ってるの?」
前に聞けなかった質問をぶつけてみる
答えてくれるかどうか…わからないけど
「…………知っている、と言ったらどうする?」
隠そうともせずに彼はそう言った
「っ!!!…まさか……あなたも『わたし』を狙ってるの……?」
思わず後ずさりする
バレていない……そう思ってたのに……
「いいや違う。私は味方だ」
男の人は優しい声でそう言ってくる
「味方……?」
「あぁ……だがお前は今、大切なことを忘れている。…それが、何故だかは私にはわからないが……」
少し寂しそうに彼は言葉を繋ぐ
「……私はデュークだ。お前が全てを思い出したら、その時に教えてやろう。…何故、お前のことを知っているかを」
デュークさんはそう言うと、森の中へと姿を消してしまった
「……なんだったんだろ………」
胸の前で手を組みながら呟く
初対面なのに、何故か落ち着く感じがした
……なんで、だろ……
「おーい!アリシア!!置いてくぞ?!」
少し離れたところからユーリの声が聞こえてくる
デュークさんと話すことに夢中ですっかり忘れてた
「……今行く!!」
そう声をかけてから、お墓の前で軽く手を合わせる
…なんとなく、こうした方がいい気がして…
手を合わせ終わると、ユーリたちの行った方向へ走って行った
「…………記憶喪失…………では無さそうだな」
アリシアが去るとデュークは茂みの中から姿を表した
ゆっくりとした足取りでお墓の前にやってくると、膝をついて手を合わせる
「…………『新月』は何故、ああなってしまったか………お前は、知っているのか?『ーーーーー』よ……」
墓石に向かって彼は呟くが、返事が帰ってくることはない
「……また来る。……さらばだ、友よ」
墓石に向かって声をかけると、ゆっくりと立ち上がってその場を去って行った
*スキットが追加されました
*利き手について
「そっか……さっきのが兄さんのこと狙ってる暗殺者なんだ」
少し浅めにフードを被り直しながらそう言った
ノール港に向かう途中、先程の赤眼が兄さんを狙ってる暗殺者集団だってことを聞いた
それと、その集団の一人……『ザギ』って名前の人に、ユーリがよくわかんない因縁つけられたことも
そんな物騒な話を聞きながら、足を進める
カロルの話だとノール港に行くには『エフミドの丘』という場所を抜けないといけないらしい
だからぼくらは今、そこへ向かっている
「そう言えばアリシア、さっきのフレンからの手紙なんて書いてあったんだ?」
不意にユーリがそんなことを聞いてくる
もちろんそんな問いかけ想像してなかったから思わず肩がビクッとした
「……後で二人きりでじっくり話そうかって」
少し間を開けてそう答えた
まぁでも、間違ったことは言ってないはず…
「あんた、そんなに怒られるしたの?」
疑い深い目でリタがぼくを見つめてくる
ハルルの樹のことはなんとなく誤魔化したけど、彼女のぼくに対する不信感は消えていないらしい
「んー……怒られることはしてない……はず」
「大方、フレンに何も相談無しにオレに付いて来たからだろ。あいつ、極度の心配性だからな」
半ば呆れ気味にユーリはそう言った
…まぁ、それに関してはなにも否定出来ない……
そんな会話をしていると、エフミドの丘と思われる場所についた
すると、カロルがキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回して首を傾げた
「どうしたんだよ、首傾げて」
「おっかしいなぁ…ついこの間まで結界があったはずなんだけど」
そう言いながら空を見上げる
「こんな人も住んでいない所に??」
「随分と贅沢だな」
ぼくが首を傾げてすぐに、ユーリは呆れた声で言う
確かにこんなところに
「あんたの見間違えじゃない?
ありえない、というように若干攻撃的な強い口調でリタはそう答えた
魔導士だから、知ってて当然なんだろう
けれど、カロルはそれに少し強く反論した
「リタが知らないだけでしょ。ここ最近設置されたってナンが言ってたし」
「『ナン』って誰です?」
『ナン』という聞き覚えのない名前にエステリーゼが首を傾げる
「え、えっと……ギルドの仲間だよ!ぼ、ボクちょっと、情報集めてくる!」
オドオドしながらそう言うと、カロルは一人先に走り出してしまった
「あたしもちょっと行ってくる」
カロルの後を追いかけるようにリタも走り出した
「あっ!二人ともー!」
ぼくが慌てて声をかけるが、止まる様子はなかった
「もー……みんな集団行動できないんだから」
「おいおい、それお前が言うか?」
小さくため息をついたぼくに、ユーリが呆れ気味にそう行ってくる
「えっと……とりあえず、追いかけましょう?」
ユーリに言われたことは不服だけれど二人とはぐれるもの探すの大変になりそうだし、エステリーゼの提案に首を縦に振って歩き始めた
リタに追いつくと、
無言でそれに彼女が近づくと、近くにいた調査員と思われる人が止めようと前に立ちはだかる
「こらこら、部外者は立ち入り禁止だよ」
「帝国魔導器研究所のリタ・モルディオよ。通してもらうから」
「アスピオの魔導士の方でしたか……。し、失礼しました。ああ、勝手をされては困ります!上に話を通すまでは…」
調査員らしき人を押しのけてリタは
「あの強引さ、オレにも分けて欲しいね」
腕を組みながらユーリは苦笑いする
「んー……ユーリにはなくてもいいと思うけどなぁ」
そう呟きながらフードを少し深く被る
ほんの一瞬、ちらっと騎士の姿が見えたからだ
「三人とも聞いて!それが一瞬だったらしいよ!槍でガツン!
興奮気味にカロルが教えてきてくれるが、効果音ばかりで何が言いたのか全くわからない
「……誰が何をどうしたって?」
あまりにもわからなさすぎる説明にユーリが聞き返す
「竜に乗ったやつが!
今度は一語一語丁寧に教えてくれた
「竜に人……?」
「んなバカな」
「そんな話、初めて聞きました」
当然ながらぼくらは半信半疑
竜に人が乗るなんてありえない
「ボクだってそうだけど、見た人がたくさんいるんだよ。『竜使い』が出たって」
「『竜使い』………ね」
そう呟いて顎に手を当てた
……なんか、聞いたことあるような……ないような………
「ちょっと放しなさいよ、何すんの!?」
リタの怒鳴り声の聞こえた方向に顔を向けると、何故か両腕を騎士に抑えられた彼女の姿が見えた
「なんか騒ぎ起こしてるよ」
若干ため息混じりにカロルが呟いた
「この
「おかしくなんてありません。あなたの言ってることの方がおかしいんじゃ…」
「あたしを誰だと思ってるのよ!?」
「存じています。噂の天才魔導士でしょ。でも、あなたにだって知らない術式のひとつくらいありますよ!」
「こんな変な術式の使い方して、
「ちょっと!見ていないで捕まえるのを手伝ってください!」
暴れようとし始めたリタを取り押さえようと、更に騎士が集まり出す
これは流石にヤバそう…
ユーリたちから少し離れてすぐに隠れられそうなけもの道の近くまでくる
「……乱れ飛べ、交わるは我が破りし平穏る障壁……グリムシルフィ」
みんなに聞こえないように小さく呟いてすぐに隠れた
騎士のぐぁっ!とか言う声が聞こえてきてたし、多分ちゃんと発動できてるはず…
「くそ!誰だ!!」
そんな声とカシャリと金属音が辺りに響く
「ん?おまえ、確か手配書の…」
怯える暇もなく、ユーリのことがバレてしまった
…というか、あんな下手くそな絵でよくわかるなぁ…
そんな呑気なこと考えているうちに、騎士を倒してきたみたいで、ユーリたちもこの道に入ってきた
「ふ〜、振り切ったか」
「おつかれ」
ユーリの隣に並びながら声をかける
「…お前、ああなるって気づいてたろ?」
「さぁ…?どうだろうね?」
ユーリの問いかけにサラッとあしらった
「それよりも、誰よあんな術使ったやつ…!」
少し悲鳴混じりにリタが言う
「あんな術……初めて見ました……」
少し驚いた声でエステリーゼも言った
「…どんな術だったの?」
何も知らない風に問いかける
「なんっつーか、緑色の人みたいな形のやつが出てきてリタの周りにいた奴らだけ吹き飛ばされた……でいいのか?」
「んー…と言うよりも、風が切りつけてたって感じじゃなかった?」
ユーリとカロルが少し首を傾げながら教えてくれた
…よかった、ちゃんと出来てたみたい
「……あんた、誰か使ってそうな人とか見なかったの?」
また疑い深い目でリタがじっとぼくのことを見つめてくる
「んー……見てないと思うけどなぁ…」
考えるフリをしながら答える
見なかったも何も、やったのぼくなんだけどね
「それにしても無茶しすぎですよ、リタ」
エステリーゼがリタの方向きながら注意する
「あの
「おかしいって、また厄介ごとか?オレの両手はいっぱいだからその厄介事は他所にやってくれ」
手をひらひらさせながら、ユーリは素っ気なく言った
「その言い方は可哀想でしょ…ぼくは手空いてるから手伝ってあげられるよ!」
ニコッと笑いかけながらリタに言う
「厄介事なんて可愛い言葉で済めばいいけど……どの道、あんたたちには関係ないわよ」
どこか突き放すような口調でリタが呟いて、ぼくらに背を向けた
ここまで拒絶されると、ちょっと傷つく…
「ユーリ・ローウェル!!どこに逃げよったぁぁ!!!」
ユーリが獣道を進もうとすると、ルブランの声が聞こえてきた
「呼ばれてるわよ、有名人」
「またかよ……」
大きくため息をつきながらユーリは項垂れた
「エステリーゼ様〜出てきてくださいであ〜る」
「アリシア殿も出てきて欲しいのだ!」
続いてアデコールとボッコスの声も聞こえてくる
エステリーゼは兎も角……なんでぼくまで……
「あんたら問題多いわね。一体何者よ?」
ジト目でぼくらを見回しながらリタが言う
「それよか、早く行こうぜ。捕まんのは面倒だ」
ユーリはリタの問いに答えずにそう言って獣道を歩き始めた
「あっ、待ってよー!」
先に歩き出したユーリの後にぼくらはついて行った
少し歩いたところで見たことの無い花が咲いているのが目に入った
「これ、なんだろ?」
「ふーん、山ん中じゃ、こんな花咲くんだ」
物珍しそうにリタは花を眺めながら、そっと手を伸ばす
「リタ、触っちゃダメ!」
触れるか触れないかギリギリのところで、エステリーゼが叫んでリタを止めた
「ビリバリハの花粉を吸い込むと目眩と激しい脱力感に襲われる、です」
「へぇ……これビリバリハって言うんだ…」
じーっと花を見つめながら呟く
旅をしてて思ったけどエステリーゼは随分博識だ
「ふーん………」
リタはそう呟くと、カロルの後ろに回る
なんとなく嫌な予感がしてビリバリハから少し離れる
それとほぼ同時に、リタがカロルの背を押した
「ちょ、何を……」
カロルが軽くビリバリハに触れると大量の花粉が彼目掛けて降りかかる
「あ、ゴメン!」
どこか楽しそうに笑いかけながらリタは全く謝る気がなさそうに言う
「カロル、大丈夫です?」
エステリーゼは声をかけながら治癒術をかける
…やっぱり、
多分、リタはそれを確認しようとしたんだろうな
「治癒術に興味あんのか?」
リタに近寄りながら、ユーリは少し低い声で声をかけた
「別に……」
エステリーゼを見つめていた彼女は、顔を背けながら答えた
そして、背を向けて少しユーリたちから離れる
「………リタ、見ただけでなんで
隣に来たリタに小声で話しかける
「……わからない………けど、あたしが探してる公式に、エステリーゼが一番近いのは確かね……」
「…公式……?」
「そうよ。……まぁ、あんたに言っても分からないと思うけど……」
どこか好奇心に満ちたような口調でリタは言った
リタが探してる公式……って、なんの事なんだろう?
「うぅ、ひどいよ、リタ〜」
治ったカロルが少し泣きそうな声でそう訴えた
「だから、ごめんって言ったでしょ」
半分投げやりにリタはそう答える
ごめんって言われても……あれは嫌だろうなぁ…
「平気なら行くぞ」
「ビリバリハに注意して進まないとね!」
ぼくがそう言うと、みんな頷いてユーリを先頭に歩き始めた
しばらく進んで、少し広い空間に出た
カロル先頭にそこを通り過ぎようとした時、魔物の咆哮が聞こえてきた
「何……?」
そう呟いてキョロキョロと辺りを見回す
「うわぁぁぁ!!」
カロルが後ろを向いたのと同時に叫び声をあげる
慌てて振り返ると、今まで見た魔物よりも少し大きめの魔物の姿が目に入った
「あ、あれ、ハルルの街を襲った魔物だよ!」
カロルはそう言いながら魔物を指さす
「へぇ、こいつがね。生き残りってわけか」
「ほっといたらまたハルルの街を荒らしに行くわね、多分」
「だね。今は結界があるけど、こんなの近くにいたりしたら落ち着いて生活出来ないよ」
そう言いながら刀を引き抜いた
再び魔物の咆哮が響いたのと同時に、戦いの火花が散った
「虎牙破斬!!」
「爪竜連牙斬!」
「煌めいて、魂揺の力…フォトン!」
「ゆらめく焔、猛追…ファイヤーボール!」
「臥竜アッパー!」
「グォオォォォォオ!!!!」
一斉に攻撃を仕掛けるが、敵の体力はあまり減らない
おまけに、下手に近づくと毒攻撃してくるから迂闊にちかづくことさえできないし…
「…あーもう!面倒くさい!」
そう叫びながら、周りを見てみる
何か、使えそうなもの……
見回していると、視界にビリバリハの花が映った
…あれ、使えるかも
「リタ!ぼくがあれ引きつけるから、ビリバリハ目掛けてなんでもいいから術打って!」
「はぁ?!あんた、何言って……あぁ、その手があったわね」
ニヤッとリタは笑うと力強く頷いてくれた
それを合図に魔物目掛けて走り出す
魔物の注意がぼくに向いたところで勢いよく後ろに下がって、ビリバリハに誘導する
「ゆらめく焔、猛追…ファイヤーボール!」
リタの詠唱が聞こえたのと同時に真上に飛ぶ
ビリバリハにファイヤーボールが当たると、その花粉が魔物の目の前で放散された
当然対処できなかった魔物はそれを吸い込んで身動きを止めた
「そのままいい加減倒れろっ!爆砕陣!!」
技を繰り出しながら魔物の真上に着地する
呻き声をあげた魔物は、そのまま地に伏した
ぴょんっと魔物の上から飛び降りて鞘に刀を納める
「ったく、無茶すんだから…けど、おかげで助かったな」
苦笑いしながらユーリも刀を鞘に納めた
「な、なーんだ、手応えゼロだったね」
少し怯えながらカロルは武器を仕舞う
「でも、この先もまだ何匹も出てくるかも……」
不安そうにエステリーゼがそう言った
「んー、大丈夫じゃない?あの手の魔物って縄張り意識強そーだし」
「それ……どっからそんな自信が出てくるの?」
「ぼくの勘かな。大丈夫!ハズレたことないから!」
ビシッと人差し指でカロルを指差しながら言う
「……アホっぽ……」
「ま、実際アリシアの勘がハズレたことねぇからな。後は、そうならないことみんなで祈ろうぜ」
ユーリはそう言いながら歩き始めた
「あ!ユーリ待ってよ!」
そう言ってユーリの隣に駆け寄った
「もー、歩くの早いよ!」
むっとしながらそう言う
「早くねぇっての…それに、のんびりしてらんねぇだろ?」
ユーリはそう言いながら前から目を離さない
何か考え込んでいるような表情に、声をかけられなくなった
少し進むと、今度は崖に出た
「うわあ……」
エステリーゼは物珍しそうに目の前に広がる光景を眺めている
そして、崖の際まで掛けて行った
「これ…って……」
後ろからは少し驚いたリタの声も聞こえる
それもそうだろう
…だって、ぼくらの目の前には……
「……海………」
小さく呟きながら、エステリーゼの少し後ろに立った
「ユーリ、海ですよ、海」
嬉しそうに何度もエステリーゼは言う
「わかってるって。……風が気持ちいいな」
「本で読んだことはありますけど、私、本物をこんなに間近で見るのは初めてなんです!」
少し興奮気味に彼女はそう言う
普通、結界の外に出ることなんて滅多にないから当然ではあるだろう
旅を続ければ、もっと面白いものが見れるとカロルは言う
…エステリーゼにそれが出来るかどうかはわからないけど……
「旅が続けば……もっといろんなことを知ることができる…」
「そうだな……オレの世界も狭かったんだな」
ポツリとユーリは呟く
「……珍しいね。素直な感想言うなんて」
ぼくがそう言うと、うっせぇとでも言いたげに苦笑いして見つめてくる
が、すぐに目線を海に戻した
ユーリも相当この景色が気に入ったんだろう
かく言うぼくも、海から目を離せずにいた
……初めて、ではない気がするんだ
この景色を見るのは……
昔、見たような気もしなくない
……でも、思い出せない……
「これがあいつの見てる世界か」
ユーリの声にはっとして、彼を見る
どこか悔しそうで……だけど、目の奥は寂しそうだった
「もっと前に、フレンはこの景色を見たんだろうな」
「任務で世界各地を回って居ますからね」
「追いついて来いなんて、簡単に言ってくれるぜ」
苦い顔でユーリはそう呟いた
カロルはノール港はすぐだから追いつけると言う
…でも、ぼくは知ってる。
兄さんの追いついて来いは、ただ早く来いって意味じゃないってことを
…多分、ユーリも気づいてる
だから悔しそうにしてるんだ
「さあて、ルブランが出てこないうちに行くぞ」
ユーリがそう言うとカロルが近づいてくる
「ノール港はここを出て海沿いの街道を西だよ。もう目の前だから」
もうすぐで兄さんに会える……
いや、お説教が待ってるぼく的にはあんまり会いたくないんだけど……
「海はまたいくらでも見られる。旅なんていくらでもできるさ」
海から目を離さないエステリーゼにユーリは簡単にそう言う
すると、少し不服そうにエステリーゼはユーリを見る
「その気になりゃな。今だってその結果だろ?」
再びそう声をかけると、ゆっくりと視線を海に戻す
「………そうですね」
何か吹っ切れたかのように、薄らと微笑んだ
「ほら、先に行っちゃうよ」
カロルはそう言って先に歩き出す
「あ、カロルー、気をつけないと落ちるよ?」
ぼくがそう注意した瞬間に、崖から落ちそうになる
……普通、気づくと思うんだけど……
「バカっぽい……」
リタはそう呟くとゆっくりと歩き始めた
エステリーゼとユーリもその後に続く
ラピードと最後尾を歩いていると、お墓のようなものを見つけた
「…あれ………?これ…って………」
足を止めてじっとそれを見つめる
……これ、見たことがある気が………
「………誰だ?そこに居るのは」
いつかの時に聞いた声に驚いて振り返ると、そこにはやはりデイドン砦で出会った男の人がいた
「……またお前、か………」
「またって失礼じゃないですか……?……あなたは、誰?ぼくの……『わたし』のこと、知ってるの?」
前に聞けなかった質問をぶつけてみる
答えてくれるかどうか…わからないけど
「…………知っている、と言ったらどうする?」
隠そうともせずに彼はそう言った
「っ!!!…まさか……あなたも『わたし』を狙ってるの……?」
思わず後ずさりする
バレていない……そう思ってたのに……
「いいや違う。私は味方だ」
男の人は優しい声でそう言ってくる
「味方……?」
「あぁ……だがお前は今、大切なことを忘れている。…それが、何故だかは私にはわからないが……」
少し寂しそうに彼は言葉を繋ぐ
「……私はデュークだ。お前が全てを思い出したら、その時に教えてやろう。…何故、お前のことを知っているかを」
デュークさんはそう言うと、森の中へと姿を消してしまった
「……なんだったんだろ………」
胸の前で手を組みながら呟く
初対面なのに、何故か落ち着く感じがした
……なんで、だろ……
「おーい!アリシア!!置いてくぞ?!」
少し離れたところからユーリの声が聞こえてくる
デュークさんと話すことに夢中ですっかり忘れてた
「……今行く!!」
そう声をかけてから、お墓の前で軽く手を合わせる
…なんとなく、こうした方がいい気がして…
手を合わせ終わると、ユーリたちの行った方向へ走って行った
「…………記憶喪失…………では無さそうだな」
アリシアが去るとデュークは茂みの中から姿を表した
ゆっくりとした足取りでお墓の前にやってくると、膝をついて手を合わせる
「…………『新月』は何故、ああなってしまったか………お前は、知っているのか?『ーーーーー』よ……」
墓石に向かって彼は呟くが、返事が帰ってくることはない
「……また来る。……さらばだ、友よ」
墓石に向かって声をかけると、ゆっくりと立ち上がってその場を去って行った
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