第二章 水道魔導器
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*手紙と指名手配
「あんたら、あたしの小屋で待っててよ。あいつ警備員に引渡してくるから」
アスピオにつくなり、リタはそう言った
まぁ、あの人ほっとくわけにはいかないけど…なんでぼくら待たせるんだろ?
「それは構わねぇが…あそこの奴らが入れてくれるかどうか」
そう言いながら、ユーリは入り口を見た
「あぁ…そうね…なら、これ持って行きなさい。これあれば通れるはずだから」
リタはユーリに髪を手渡した
横から覗くと『通行証』と書いてあるのが見えた
「サンキュ」
ユーリがお礼を言うと、リタは走って中に入って行った
「んじゃ、行きますか」
その言葉で、ぼくらはアスピオの中へ入って行った
「リタ遅いなぁ」
パタンっと本を閉じて仕舞いながら入り口の方を見た
その近くでは、エステリーゼがウロウロと落ち着きなく歩き回ってる
「フレンが心配なら何も言わずに出て行くか?」
ゴロンと寝転んだユーリが彼女を見ずにそう聞く
「いえ……ちゃんとお礼を言わないと」
「なら落ち着けって」
「ユーリはくつろぎすぎでしょ…」
苦笑いしながら別の本を手に取った
魔導器 関連の本は読んでいてとっても面白い
「で、ユーリたちはこれからどうするの?」
ユーリの隣に座ったカロルがそう聞いてくる
「ぼくとユーリの目的は魔核 ドロボウだから、トリム港かな」
パラパラとページを捲りながら答える
「それならノール港だね」
「ん?黒幕がいんのはトリムだろ?」
不思議そうにユーリは問いかける
「確かカプアって、ノール港とトリム港ってあるんだよね?」
「そう!帝都のあるイリキア大陸にはカプア・ノール港 、向かって隣のトリビキア大陸側にカプア・トリム、二つで一つの街なんだ!」
「ふーん、だからノール港なわけだ」
「エステルはどうするの?」
「エステリーゼは兄さん追いかけるんでしょ?」
本から目を離さずにそう問いかける
「あ、はい!なので、一度ハルルに戻ろうと思います」
「んじゃ、オレらもハルルだな」
何処か当たり前のようにユーリは呟く
「ええ!?そんなにのんびりしてていいの?逃げられちゃうよ!?」
「黒幕さんのお家はトリム港みたいだし、大丈夫じゃないかな?………逃げたら、見つかるまで追いかけるだけだし………」
ポツリと最後の方は小さく呟いた
下町のみんなのためにも、絶対に取り返さないと
「待っとけとは言ったけど……くつろぎすぎよ」
リタの声に本から顔をあげると、入り口で呆れ気味にユーリをジト目で見つめていたのが見えた
彼女が戻ってくると同時に、ユーリはすっと立ち上がった
「あ、リタ!さっきの人どうなりましたか?」
「さぁ、今頃檻の中ででひーひー言ってるじゃない?」
中に入りながらリタはニヤリと不敵な笑みを浮かべる
「それで、あたしの疑いは晴れたのかしら?」
腰に手を当てながら、リタはユーリを見る
「そーだな。お前はドロボウしてるよりも、研究してる方がお似合いだな
…疑って悪かった」
「……いいわよ、別に」
ユーリが謝ると、リタはふぃっと顔を背けた
「では、私たちはこの辺りで失礼しますね」
「何、もう行くの?」
少し以外そうにリタは首を傾げる
「モタモタしてたら、兄さん次のとこ行っちゃいそうだからね」
そう言いながら伸びをする
「兄さんって、あのフレンとかいう騎士の青臭いの?」
「フレンに会ったんですか?」
「えぇ、遺跡のドロボウとっ捕まえるのに協力してくれないかって」
面倒だったから断ったけど、と、少しどうでも良さそうにリタは付け足す
「青臭いって………まぁ、騎士としてはまだまだなんだろうけど……」
少しむっとしながらリタを見つめる
「な…何よ?」
「あー、気にすんな。こいつ、フレンが親代わりみたいなもんだから、あいつのこと悪く言うやつに食いかかる癖あんだよ」
ポスッとぼくの頭に手を乗せながらユーリは言った
ジト目でユーリを見上げると、大きくため息をつかれた
「リタだって、悪気があったわけじゃねぇっての。誰だってフレンのやつ見たら最初はそう思うさ」
宥めるようにぼくに言い聞かせてくる
……わかってはいるけど、いざ人にそれを言われるとなんかこう……イラつくっていうか……
「ったく、お前ってやつぁ……」
半分睨み気味に見つめていると、被っていたフードを少し深く被せられる
「落ち着けって、な?」
諦め気味に苦笑いしながら、頭を撫でてくる
「えっと……なんでフードなんです……?」
「ん?あぁ、こいつ、昔っからフード被ってっから、こうしてやっと落ち着くんだよ」
「……変わってるわね」
そう言って、リタはぼくを見た
変わってるって言われても…なぁ……
「ま、ほっといてあげてくれよ」
そう言ってユーリはぼくの手を引いて歩き出す
「あっ、ユーリ!…それではリタ、お礼はまた後日」
「……わかったわ」
エステリーゼとリタのそんな会話が後ろから聞こえてきた
「……ユーリ、兄さんハルルにいると思う?」
少しフードをあげながら聞く
「なんでだよ?」
前を向いたまま、ユーリは聞いてくる
「だって……兄さんだよ?」
「お前……さっきリタに当たってた癖に自分で言うか?」
「ぼくだからいーの!…それに、兄さんの事だから、誰かに言伝だけ頼んで次のとこ行ってそうだもん」
そう言うと、あぁ……と小さく呟いた
あの兄さんの事だから、エステリーゼのことユーリに任せて先に進みそうだ
「ユーリ!アリシア!待ってよー!」
後ろから聞こえてきたカロルの声に足を止めて振り返る
カロルとエステリーゼが少し駆け足で近づいて来るのが見えた
「二人とも……早いって……!」
息を切らせながら、カロルとエステリーゼが追いつい
「……悪ぃ、アリシア大人しくさせんのに集中しすぎて忘れてたわ」
そっぽを向きながらユーリは謝った
…いや、これもぼくのせいなの…?
納得いかなくて、半分睨みながらユーリを見上げる
「……オレが悪かった。だからそんな目で見てくんなよ……」
苦笑いしながら謝ってくるが、何も答えずにふいっと顔を背けた
「…リタ、見送りならここまででいいぞ?」
ユーリのその言葉にちらっとリタの小屋の方を見ると、何故か彼女の姿が見えた
…でも、リタの性格だと見送りとかしなさそう
「違うわ、あたしも一緒に行く」
「え??なんで?」
「ハルルに行くんでしょ?それなら、結界魔導器 の様子見ないと。壊れたままにしとけないでしょ?」
当たり前だというようにリタは言った
「結界魔導器 ならボクらで直したよ?」
「はぁ?素人がどうやって?」
リタの言葉に思わずギクッと肩が上がった
……これ、もしかしてちょっとやばい……?
「アリシア?」
「……何??ユーリ」
「何じゃねぇよ。どうした?顔少し青いぞ?」
顔をのぞき込みながらユーリが聞いてくる
……考え込み過ぎちゃったかな
「………大丈夫、なんでもない」
首を横に振りながらフードを少し深く被り直した
ユーリはちょっと不思議そうに首を傾げるけど、それ以上何も聞いてこなかった
エステリーゼとカロルも、特に何か聞いてくることはなかった
……リタだけが、怪しそうにぼくのことを見ていたのには、あえて気づかないフリをした
「ますます怪しいわね……」
「そう思うんなら、勝手についてこいよ」
ユーリはそう言うと、ぼくの手をとって歩き始めた
ーーーーーーーーーー
「嘘……もう満開の時期なの?!」
ハルルについて早々、リタは絶句した
綺麗な花弁がヒラヒラと舞い散っている
しばらくじっと樹を見つめた後、リタは勢いよく樹の元に走って行った
「あっ、おい!リタ!」
「行っちゃたよ……」
制止したユーリの声も気にせずに走って行った彼女に、カロルは呆れ気味にため息をついた
「おや、お戻りですか」
聞き慣れない声に思わずユーリの後ろに隠れる
「アリシア大丈夫だって。ここの長だよ」
「先程探していたお嬢さんですか?驚かせてしまったようですね」
ちょっと申し訳なさそうに謝ってくる
ユーリの後ろからちょっとだけ顔を出して首を横に振った
「悪ぃな。自分より歳上相手にゃすっげぇ人見知りなんだわ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。おぉ、そう言えば騎士様からお手紙を預かりましたよ!」
そう言ってユーリに紙を二枚手渡していた
一枚目は、紛れもなく指名手配書だ
「………ユーリ」
じーっとユーリを見つめる
「おいおい……オレ、そこまでされるようなことしてねぇぞ?……っつーか、五千ガルドってなんだよ……低すぎだろ」
ぼくを見て軽く肩を竦めると、手配書に目を戻した
「突っ込むとこ…そこなの?」
どこか残念そうに言ったユーリに、カロルは呆れ気味に呟いた
「もう一枚には何が書いてあるんです?」
エステリーゼに促されるともう一枚の紙をぼくに渡してくる
……読みたくないんだな……
「『僕はノール港に行く。早く追いついてこい。……それと、アリシアのことで話あるから、覚悟しといてくれよ』……だって、ユーリ」
「追いついてこいねぇ……ったく、余裕だな。…っつーか、怒られんのオレだけか」
ぼくが読んだ手紙を取り上げながらユーリは言った
「あ、後暗殺者に気をつけろって」
「なんだよ、やっぱ狙われてるのわかってたんだな」
ちょっとため息をつきながら、ユーリは肩を竦める
「それと、お嬢さんにも」
そう言って長さんはぼくにも手紙を手渡してきた
ユーリのとは違って、ちゃんと封筒に入ってる
封には月のマークが入っていた
「……………ごめん、ちょっと向こう行くね」
そう言って、返事も聞かずにその場を離れた
……ぼくと兄さんの間の秘密のメッセージ
月のマークは誰にも見られちゃいけないって意味
なんとなくハルルの樹の根元に向かってみると、リタは居ないみたいだった
樹の根元に寄りかかって、手紙を開く
『アリシア、ユーリと一緒に結界の外に出たことは百歩譲って許すよ。下町にずっといるよりも、外に出た方が騎士の目から少しは離れられるだろうし、ユーリも一緒だから心配はしてない。でも、このハルルの樹……直したのアリアだろ?その事で話があるから、ノール港についたらちゃんと僕のところに来るだよ?……怒鳴ったりきつく叱ったりしないから、約束だよ』
「…………バレてるし……………」
苦笑いしながら手紙を綺麗に戻して、軽く目をつぶった
『アリア』………兄さんと二人だけで会話すると、たまにそう呼ばれる
昔よく使ってくれていたあだ名……
そう呼んでもらえると、やっぱり嬉しい
…でも、今はそれよりも、リタをどう誤魔化すか考えないと……
「あんた…何してるのよ?」
その声に目を開けると、リタの姿が目に入った
「…ちょっと考え事ー」
ニコッと笑ってそう答えた
「ふーん、何考えてたわけ?」
どこかぼくの考えを見透かしたように、リタは問いかけてくる
「んー……兄さんのこと……とか」
「…嘘ね。大方、あたしをどう誤魔化そうかとか考えてたんでしょ?」
予想通りというのもなんだけど、やっぱりバレてたみたい……
うわぁ……兄さんに怒られそう……
「……………仮にそうだったとしたら、どうするの?」
「別に。あんたはエステリーゼみたいに魔導器 使ってないわけじゃないし。どうしたのか知りたいだけよ」
…あぁ、やっぱりリタも気づいてたんだ
流石魔導器 研究者な事だけある
「……そっか。でも、ぼくも何も知らないよ。気づいたら直ってたんだから」
苦笑いして、そう答えた
「……………そう。ならいいわ」
「二人揃って、何してんだ?」
リタの後ろから、ユーリがゆっくり歩いてやってくるのが見えた
「……別に?エステリーゼのこと話してただけよ」
リタはそう言ってユーリの方を見た
一瞬だけぼくに目線で話を合わせろって言いたげに見つめられた
「エステルの?」
「……エステリーゼ、治癒術使う時、魔導器 使ってないから」
リタに合わせるように、そう答えた
「なんだ、お前らも気づいてたのか」
ちょっと関心したようにユーリは言う
…つまり、ユーリも気づいてたんだ
「ま、魔導器 使わずにそんなことされちゃ、魔導師からしたら大問題だもんな」
「そりゃそうよ。あの子みたいな子いたら、あたしら魔導師は形無しよ!」
若干悲鳴じみた声でリタは言う
……まぁ………そうだよね……
魔導器 あっての魔導師なわけだし……
それが無くても術とか使われちゃったら困るよね……
「……まぁ、だからと言ってエステリーゼを目の敵になんてしないわ」
ふんっ、と鼻を鳴らしながらリタは腕を組んだ
「…ついてくんのは構わねぇが、必死になりすぎてエステルに変なことすんなよ?あいつは魔導器 じゃなくて、人間なんだからよ」
「……わかってるわよ、そんなこと」
ユーリはリタに釘を刺すと、来た道を戻って行った
「……………必死にもなるわよ……
……だって……………………………」
何かをリタは呟いていたが、ぼくには聞き取れなかった
「……アリシア、さっきの話、内緒にしといてあげる。……だから、エステリーゼのこと、ちょっと手伝って。気になったことがあったら教えてくれるだけでいいから」
「………ん、そのくらいならいいよ」
そう言ってフードを取りながらリタの前に立って右手を出す
少し恥ずかしがりながらも、リタはその手を取ってくれた
「……じゃ、これで友達だね!」
ニコッと笑ってそう言う
同年代の友達はこれで二人目だ
「友達って……あんた、ちょっとエステリーゼに似てるわよね……」
恥ずかしそうに、でも少し呆れ気味にリタは言う
「えぇ……そうかな?」
「……ま、あんたの方が関わりやすいけど」
リタはそう言うと、来た道を先に歩き出した
「……………今日は、出てきてくれなかったなぁ」
軽くハルルの樹を見上げながら呟く
ドリアード……君にはどうしたら、もう一度会えるんだろう?
「アリシア、行くわよ!」
リタの呼び声に、すぐ行く!と返事をして、坂道を駆け下りた
「おいおい……こんなとこまで追っかけて来たのかよ。暇人だな」
ユーリたちに追いつくと、少し見慣れた隊服を着た騎士が目に入った
「うげぇ……ルブランじゃん」
フードを被り直しながらユーリの後ろに隠れた
「むむ??アリシア殿、何故ここに?…ま、まさかユーリ・ローウェルと共犯なのか?!」
ルブランから、そんな見当違いな言葉が飛び出した
「そんなわけないじゃん…大体、ぼくそんなこと今までしてないの、一番よく知ってるでしょー!」
むっとしながらそう言い返した
むしろ、暴走して掴みかかりに行こうとするユーリを止めていてあげてたと思う
「ルブラン小隊長、アリシア殿は流石にユーリと共犯などしないと思うのだ!」
「もし関わっていたとしても、無理矢理やらされている可能性があるのであーる!」
アデコールとボッコスは、何故かぼくの擁護にまわる
……いっつもなんだけど、未だに理由はわかってない
まぁ……おかげで捕まったことないからいいんだけどさ
「なんと……エステリーゼ様を拉致しただけでなく、フレン小隊長の妹を脅迫とは……!!」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ……」
盛大にため息をつきながら、ユーリは項垂れた
確かにこれは項垂れるしかないよね……
「待ってください!私の話をちゃんときいてください!!」
エステリーゼは弁明しようと必死で三人に話しかける
でも、この三人聞く耳持たないからなぁ……
「あーもう!うっさいわね!帰らないって言ってるでしょ?!」
リタはそう叫ぶと、三人目掛けてファイヤーボールを放った
……これ、大丈夫かな……
「……エステリーゼ、どうする?このままぼくらについてくるか、三人と帰るか。……君が決めることだよ」
ユーリの背から出て、エステリーゼの前に立ってそう聞いた
「私は…………まだ、帰りません」
少し考えながらも、はっきりとそう答えた
「懸命な判断ね。あーゆー馬鹿には、口で言ってもわからないもの」
「あっ!ユーリ、あれ!!」
突然カロルがそう叫びながら指をさした
その方向には、いつかの赤眼の姿が見えた
「ちっ、しつこいやつらだな……お前ら、先街の外出てろ!」
ユーリはそう言って、ルブランたちの方に行った
「アリシア、行きましょう!」
エステリーゼの声に頷いて、ぼくらは先に街の外に出た
*スキットが追加されました
*不思議な二人
*友達
「あんたら、あたしの小屋で待っててよ。あいつ警備員に引渡してくるから」
アスピオにつくなり、リタはそう言った
まぁ、あの人ほっとくわけにはいかないけど…なんでぼくら待たせるんだろ?
「それは構わねぇが…あそこの奴らが入れてくれるかどうか」
そう言いながら、ユーリは入り口を見た
「あぁ…そうね…なら、これ持って行きなさい。これあれば通れるはずだから」
リタはユーリに髪を手渡した
横から覗くと『通行証』と書いてあるのが見えた
「サンキュ」
ユーリがお礼を言うと、リタは走って中に入って行った
「んじゃ、行きますか」
その言葉で、ぼくらはアスピオの中へ入って行った
「リタ遅いなぁ」
パタンっと本を閉じて仕舞いながら入り口の方を見た
その近くでは、エステリーゼがウロウロと落ち着きなく歩き回ってる
「フレンが心配なら何も言わずに出て行くか?」
ゴロンと寝転んだユーリが彼女を見ずにそう聞く
「いえ……ちゃんとお礼を言わないと」
「なら落ち着けって」
「ユーリはくつろぎすぎでしょ…」
苦笑いしながら別の本を手に取った
「で、ユーリたちはこれからどうするの?」
ユーリの隣に座ったカロルがそう聞いてくる
「ぼくとユーリの目的は
パラパラとページを捲りながら答える
「それならノール港だね」
「ん?黒幕がいんのはトリムだろ?」
不思議そうにユーリは問いかける
「確かカプアって、ノール港とトリム港ってあるんだよね?」
「そう!帝都のあるイリキア大陸にはカプア・ノール港 、向かって隣のトリビキア大陸側にカプア・トリム、二つで一つの街なんだ!」
「ふーん、だからノール港なわけだ」
「エステルはどうするの?」
「エステリーゼは兄さん追いかけるんでしょ?」
本から目を離さずにそう問いかける
「あ、はい!なので、一度ハルルに戻ろうと思います」
「んじゃ、オレらもハルルだな」
何処か当たり前のようにユーリは呟く
「ええ!?そんなにのんびりしてていいの?逃げられちゃうよ!?」
「黒幕さんのお家はトリム港みたいだし、大丈夫じゃないかな?………逃げたら、見つかるまで追いかけるだけだし………」
ポツリと最後の方は小さく呟いた
下町のみんなのためにも、絶対に取り返さないと
「待っとけとは言ったけど……くつろぎすぎよ」
リタの声に本から顔をあげると、入り口で呆れ気味にユーリをジト目で見つめていたのが見えた
彼女が戻ってくると同時に、ユーリはすっと立ち上がった
「あ、リタ!さっきの人どうなりましたか?」
「さぁ、今頃檻の中ででひーひー言ってるじゃない?」
中に入りながらリタはニヤリと不敵な笑みを浮かべる
「それで、あたしの疑いは晴れたのかしら?」
腰に手を当てながら、リタはユーリを見る
「そーだな。お前はドロボウしてるよりも、研究してる方がお似合いだな
…疑って悪かった」
「……いいわよ、別に」
ユーリが謝ると、リタはふぃっと顔を背けた
「では、私たちはこの辺りで失礼しますね」
「何、もう行くの?」
少し以外そうにリタは首を傾げる
「モタモタしてたら、兄さん次のとこ行っちゃいそうだからね」
そう言いながら伸びをする
「兄さんって、あのフレンとかいう騎士の青臭いの?」
「フレンに会ったんですか?」
「えぇ、遺跡のドロボウとっ捕まえるのに協力してくれないかって」
面倒だったから断ったけど、と、少しどうでも良さそうにリタは付け足す
「青臭いって………まぁ、騎士としてはまだまだなんだろうけど……」
少しむっとしながらリタを見つめる
「な…何よ?」
「あー、気にすんな。こいつ、フレンが親代わりみたいなもんだから、あいつのこと悪く言うやつに食いかかる癖あんだよ」
ポスッとぼくの頭に手を乗せながらユーリは言った
ジト目でユーリを見上げると、大きくため息をつかれた
「リタだって、悪気があったわけじゃねぇっての。誰だってフレンのやつ見たら最初はそう思うさ」
宥めるようにぼくに言い聞かせてくる
……わかってはいるけど、いざ人にそれを言われるとなんかこう……イラつくっていうか……
「ったく、お前ってやつぁ……」
半分睨み気味に見つめていると、被っていたフードを少し深く被せられる
「落ち着けって、な?」
諦め気味に苦笑いしながら、頭を撫でてくる
「えっと……なんでフードなんです……?」
「ん?あぁ、こいつ、昔っからフード被ってっから、こうしてやっと落ち着くんだよ」
「……変わってるわね」
そう言って、リタはぼくを見た
変わってるって言われても…なぁ……
「ま、ほっといてあげてくれよ」
そう言ってユーリはぼくの手を引いて歩き出す
「あっ、ユーリ!…それではリタ、お礼はまた後日」
「……わかったわ」
エステリーゼとリタのそんな会話が後ろから聞こえてきた
「……ユーリ、兄さんハルルにいると思う?」
少しフードをあげながら聞く
「なんでだよ?」
前を向いたまま、ユーリは聞いてくる
「だって……兄さんだよ?」
「お前……さっきリタに当たってた癖に自分で言うか?」
「ぼくだからいーの!…それに、兄さんの事だから、誰かに言伝だけ頼んで次のとこ行ってそうだもん」
そう言うと、あぁ……と小さく呟いた
あの兄さんの事だから、エステリーゼのことユーリに任せて先に進みそうだ
「ユーリ!アリシア!待ってよー!」
後ろから聞こえてきたカロルの声に足を止めて振り返る
カロルとエステリーゼが少し駆け足で近づいて来るのが見えた
「二人とも……早いって……!」
息を切らせながら、カロルとエステリーゼが追いつい
「……悪ぃ、アリシア大人しくさせんのに集中しすぎて忘れてたわ」
そっぽを向きながらユーリは謝った
…いや、これもぼくのせいなの…?
納得いかなくて、半分睨みながらユーリを見上げる
「……オレが悪かった。だからそんな目で見てくんなよ……」
苦笑いしながら謝ってくるが、何も答えずにふいっと顔を背けた
「…リタ、見送りならここまででいいぞ?」
ユーリのその言葉にちらっとリタの小屋の方を見ると、何故か彼女の姿が見えた
…でも、リタの性格だと見送りとかしなさそう
「違うわ、あたしも一緒に行く」
「え??なんで?」
「ハルルに行くんでしょ?それなら、
当たり前だというようにリタは言った
「
「はぁ?素人がどうやって?」
リタの言葉に思わずギクッと肩が上がった
……これ、もしかしてちょっとやばい……?
「アリシア?」
「……何??ユーリ」
「何じゃねぇよ。どうした?顔少し青いぞ?」
顔をのぞき込みながらユーリが聞いてくる
……考え込み過ぎちゃったかな
「………大丈夫、なんでもない」
首を横に振りながらフードを少し深く被り直した
ユーリはちょっと不思議そうに首を傾げるけど、それ以上何も聞いてこなかった
エステリーゼとカロルも、特に何か聞いてくることはなかった
……リタだけが、怪しそうにぼくのことを見ていたのには、あえて気づかないフリをした
「ますます怪しいわね……」
「そう思うんなら、勝手についてこいよ」
ユーリはそう言うと、ぼくの手をとって歩き始めた
ーーーーーーーーーー
「嘘……もう満開の時期なの?!」
ハルルについて早々、リタは絶句した
綺麗な花弁がヒラヒラと舞い散っている
しばらくじっと樹を見つめた後、リタは勢いよく樹の元に走って行った
「あっ、おい!リタ!」
「行っちゃたよ……」
制止したユーリの声も気にせずに走って行った彼女に、カロルは呆れ気味にため息をついた
「おや、お戻りですか」
聞き慣れない声に思わずユーリの後ろに隠れる
「アリシア大丈夫だって。ここの長だよ」
「先程探していたお嬢さんですか?驚かせてしまったようですね」
ちょっと申し訳なさそうに謝ってくる
ユーリの後ろからちょっとだけ顔を出して首を横に振った
「悪ぃな。自分より歳上相手にゃすっげぇ人見知りなんだわ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。おぉ、そう言えば騎士様からお手紙を預かりましたよ!」
そう言ってユーリに紙を二枚手渡していた
一枚目は、紛れもなく指名手配書だ
「………ユーリ」
じーっとユーリを見つめる
「おいおい……オレ、そこまでされるようなことしてねぇぞ?……っつーか、五千ガルドってなんだよ……低すぎだろ」
ぼくを見て軽く肩を竦めると、手配書に目を戻した
「突っ込むとこ…そこなの?」
どこか残念そうに言ったユーリに、カロルは呆れ気味に呟いた
「もう一枚には何が書いてあるんです?」
エステリーゼに促されるともう一枚の紙をぼくに渡してくる
……読みたくないんだな……
「『僕はノール港に行く。早く追いついてこい。……それと、アリシアのことで話あるから、覚悟しといてくれよ』……だって、ユーリ」
「追いついてこいねぇ……ったく、余裕だな。…っつーか、怒られんのオレだけか」
ぼくが読んだ手紙を取り上げながらユーリは言った
「あ、後暗殺者に気をつけろって」
「なんだよ、やっぱ狙われてるのわかってたんだな」
ちょっとため息をつきながら、ユーリは肩を竦める
「それと、お嬢さんにも」
そう言って長さんはぼくにも手紙を手渡してきた
ユーリのとは違って、ちゃんと封筒に入ってる
封には月のマークが入っていた
「……………ごめん、ちょっと向こう行くね」
そう言って、返事も聞かずにその場を離れた
……ぼくと兄さんの間の秘密のメッセージ
月のマークは誰にも見られちゃいけないって意味
なんとなくハルルの樹の根元に向かってみると、リタは居ないみたいだった
樹の根元に寄りかかって、手紙を開く
『アリシア、ユーリと一緒に結界の外に出たことは百歩譲って許すよ。下町にずっといるよりも、外に出た方が騎士の目から少しは離れられるだろうし、ユーリも一緒だから心配はしてない。でも、このハルルの樹……直したのアリアだろ?その事で話があるから、ノール港についたらちゃんと僕のところに来るだよ?……怒鳴ったりきつく叱ったりしないから、約束だよ』
「…………バレてるし……………」
苦笑いしながら手紙を綺麗に戻して、軽く目をつぶった
『アリア』………兄さんと二人だけで会話すると、たまにそう呼ばれる
昔よく使ってくれていたあだ名……
そう呼んでもらえると、やっぱり嬉しい
…でも、今はそれよりも、リタをどう誤魔化すか考えないと……
「あんた…何してるのよ?」
その声に目を開けると、リタの姿が目に入った
「…ちょっと考え事ー」
ニコッと笑ってそう答えた
「ふーん、何考えてたわけ?」
どこかぼくの考えを見透かしたように、リタは問いかけてくる
「んー……兄さんのこと……とか」
「…嘘ね。大方、あたしをどう誤魔化そうかとか考えてたんでしょ?」
予想通りというのもなんだけど、やっぱりバレてたみたい……
うわぁ……兄さんに怒られそう……
「……………仮にそうだったとしたら、どうするの?」
「別に。あんたはエステリーゼみたいに
…あぁ、やっぱりリタも気づいてたんだ
流石
「……そっか。でも、ぼくも何も知らないよ。気づいたら直ってたんだから」
苦笑いして、そう答えた
「……………そう。ならいいわ」
「二人揃って、何してんだ?」
リタの後ろから、ユーリがゆっくり歩いてやってくるのが見えた
「……別に?エステリーゼのこと話してただけよ」
リタはそう言ってユーリの方を見た
一瞬だけぼくに目線で話を合わせろって言いたげに見つめられた
「エステルの?」
「……エステリーゼ、治癒術使う時、
リタに合わせるように、そう答えた
「なんだ、お前らも気づいてたのか」
ちょっと関心したようにユーリは言う
…つまり、ユーリも気づいてたんだ
「ま、
「そりゃそうよ。あの子みたいな子いたら、あたしら魔導師は形無しよ!」
若干悲鳴じみた声でリタは言う
……まぁ………そうだよね……
それが無くても術とか使われちゃったら困るよね……
「……まぁ、だからと言ってエステリーゼを目の敵になんてしないわ」
ふんっ、と鼻を鳴らしながらリタは腕を組んだ
「…ついてくんのは構わねぇが、必死になりすぎてエステルに変なことすんなよ?あいつは
「……わかってるわよ、そんなこと」
ユーリはリタに釘を刺すと、来た道を戻って行った
「……………必死にもなるわよ……
……だって……………………………」
何かをリタは呟いていたが、ぼくには聞き取れなかった
「……アリシア、さっきの話、内緒にしといてあげる。……だから、エステリーゼのこと、ちょっと手伝って。気になったことがあったら教えてくれるだけでいいから」
「………ん、そのくらいならいいよ」
そう言ってフードを取りながらリタの前に立って右手を出す
少し恥ずかしがりながらも、リタはその手を取ってくれた
「……じゃ、これで友達だね!」
ニコッと笑ってそう言う
同年代の友達はこれで二人目だ
「友達って……あんた、ちょっとエステリーゼに似てるわよね……」
恥ずかしそうに、でも少し呆れ気味にリタは言う
「えぇ……そうかな?」
「……ま、あんたの方が関わりやすいけど」
リタはそう言うと、来た道を先に歩き出した
「……………今日は、出てきてくれなかったなぁ」
軽くハルルの樹を見上げながら呟く
ドリアード……君にはどうしたら、もう一度会えるんだろう?
「アリシア、行くわよ!」
リタの呼び声に、すぐ行く!と返事をして、坂道を駆け下りた
「おいおい……こんなとこまで追っかけて来たのかよ。暇人だな」
ユーリたちに追いつくと、少し見慣れた隊服を着た騎士が目に入った
「うげぇ……ルブランじゃん」
フードを被り直しながらユーリの後ろに隠れた
「むむ??アリシア殿、何故ここに?…ま、まさかユーリ・ローウェルと共犯なのか?!」
ルブランから、そんな見当違いな言葉が飛び出した
「そんなわけないじゃん…大体、ぼくそんなこと今までしてないの、一番よく知ってるでしょー!」
むっとしながらそう言い返した
むしろ、暴走して掴みかかりに行こうとするユーリを止めていてあげてたと思う
「ルブラン小隊長、アリシア殿は流石にユーリと共犯などしないと思うのだ!」
「もし関わっていたとしても、無理矢理やらされている可能性があるのであーる!」
アデコールとボッコスは、何故かぼくの擁護にまわる
……いっつもなんだけど、未だに理由はわかってない
まぁ……おかげで捕まったことないからいいんだけどさ
「なんと……エステリーゼ様を拉致しただけでなく、フレン小隊長の妹を脅迫とは……!!」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ……」
盛大にため息をつきながら、ユーリは項垂れた
確かにこれは項垂れるしかないよね……
「待ってください!私の話をちゃんときいてください!!」
エステリーゼは弁明しようと必死で三人に話しかける
でも、この三人聞く耳持たないからなぁ……
「あーもう!うっさいわね!帰らないって言ってるでしょ?!」
リタはそう叫ぶと、三人目掛けてファイヤーボールを放った
……これ、大丈夫かな……
「……エステリーゼ、どうする?このままぼくらについてくるか、三人と帰るか。……君が決めることだよ」
ユーリの背から出て、エステリーゼの前に立ってそう聞いた
「私は…………まだ、帰りません」
少し考えながらも、はっきりとそう答えた
「懸命な判断ね。あーゆー馬鹿には、口で言ってもわからないもの」
「あっ!ユーリ、あれ!!」
突然カロルがそう叫びながら指をさした
その方向には、いつかの赤眼の姿が見えた
「ちっ、しつこいやつらだな……お前ら、先街の外出てろ!」
ユーリはそう言って、ルブランたちの方に行った
「アリシア、行きましょう!」
エステリーゼの声に頷いて、ぼくらは先に街の外に出た
*スキットが追加されました
*不思議な二人
*友達