第二章 水道魔導器
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*呪いの森
デイドン砦から西側……薄暗い森の入口にぼくらは立っている
ここが、カウフマンさんから教えて貰った道らしい
「ここがそう?」
ユーリの方を向いて、念の為聞き返す
「クオイの森っつってたから、あってんだろ」
そう言ってユーリは進もうとする
「ま、待ってください!」
「ん?どうしたエステル」
「今……クオイの森……って、言いましたか…?」
何処か不安そうな、ありえないとでも言いたげにエステリーゼはユーリに問いかけた
「ん?そう聞いたが…」
「呪いの森!」
「呪いの森??」
「はい、一度入ったら呪われてしまうと言う噂があるんです」
少し身震いしながら、エステリーゼは答えた
呪い……そんなの、あるわけないのになぁ
「なるほど、それがお楽しみってわけか」
ユーリはどこか楽しそうに笑うと、唇の隙間から少し舌を覗かせる
「ユーリ、楽しむのは程々にしよーね」
若干呆れ気味にユーリに声をかけた
彼がこうゆう反応をした時、大抵ろくな事を考えていない
「……わーってるよ。程々に、な」
少し不服そうにしながらも、先頭をきって歩き始める
「…エステリーゼ、行こう?」
おどおどとしているエステリーゼにそう声をかけて、手を差し出す
ぼくの手とクオイの森をしばらく交互に見つめると、観念したかのようにぼくの手を取った
ぼくら二人は手を繋いだまま、ユーリの後を追いかけた
「それにしても、暗いねこの森」
森の中を歩き始めて数十分、木々が所狭しと生えたこの森は、陽の光が全くと言うくらいに入って来ない
呪いなんてなくても、これじゃあ不気味すぎて入ろうなんて思う人は居ないだろう
相変わらずおどおどとしながら、エステリーゼはぼくに引っ付いている
「アリシア…お前良くそれで歩けるよな…」
若干驚いたようにユーリはぼくを見つめてくる
「そりゃあ、兄さんがいたらエステリーゼと立場反対だもん」
躊躇いもせずにそう答えた
呪いどうのが怖いから、なんて理由ではないが騎士が来た時に家に帰る道は兄さんに引っ付いて帰っていた
今のエステリーゼみたいに…ね
「あー、なるほどな」
ユーリはそう言うと、前を向いて再び歩き始める
「…ごめんなさい、アリシア、もう一人でも大丈夫です」
エステリーゼはそう言って、おどおどしながらもユーリの後ろをついていく
無理しなくてもいいのに…と心の中で苦笑いして、二人の後を追いかけた
しばらく歩くと、開けた空間に出た
そこには壊れた魔導器 らしきものの残骸が転がっている
「これ……なんでしょう?」
エステリーゼがそれを見つけて、首を傾げた
「んー……なんか、魔導器 みたいな感じするけどね」
「なんでんなもんがこんなとこにあんだ?」
ぼくがそう言えば次はユーリが首を傾げた
…仲良しか、この二人は……
「えー……そこまではぼくだってわかんないよ。ただ、魔導器 っぽいなぁって思っただけだもん」
ふいっと顔を背けながらそう答える
何故だかぼくよりも仲良さそうに見えて、イライラする
…なんだろ、この感じ……
「まっ、そんなの気にしてもしゃあねぇか。さっさと行こうぜ」
全く気にもしないで、ユーリは歩き出した
ぼくもその後について行こうとしたが、エステリーゼがその場に立ち止まっていることに気づいて、足を止める
「エステリーゼー!ほら、行こう?」
そう声をかけるが、本人は全く聞いていないのか、じっと魔導器 らしき塊を見つめ続ける
軽くため息をついて、彼女の元へと近寄る
何故兄さんが心配だとかあんなに騒いでいたのに、こうも簡単に他のものに目を向けられるんだろうか……
傍まで来て肩を叩こうとした時、エステリーゼが徐ろにそれに手を伸ばした
すると、目が眩むほどの光と風ががそれから放たれた
「きゃっ!!!」「わっ!!!?!」
咄嗟に自分の前にバリアを張ってしまったが、突風に体を支えきれず、その場に尻もちをついた
「いったぁ…………」
「アリシア!エステル!大丈夫か!?」
あわてたユーリが傍に駆け寄って来た
「ぼくはびっくりしただけだけど…エステル、気失っちゃったみたい」
隣に倒れているエステリーゼの顔を覗き込みながら言う
顔色も悪くはなさそうだし、しばらくしたら目が覚めるだろう
「そっか……んじゃ、ここで少し休憩すっか」
ほっと息を吐きながら、ユーリはエステリーゼを抱き抱えて魔導器 の残骸のようなものの傍から離れる
ラピードが、自分の上に頭を乗せろと言わんばかりに、ユーリがエステリーゼを下ろそうとした場所に伏せる
「ラピード優し〜」
その場に座ったまま笑う
さっきので腰を抜かしたのか、思うように足が動かなかったのだ
「…アリシア、やっぱり大丈夫じゃねーんじゃねぇかよ」
ジト目でぼくを見つめながらユーリは近づいてくる
「『エステリーゼよりは』って意味だもんね」
おどけてそう言うと、ユーリは困ったように笑いながらぼくを抱き上げる
「しょうがねぇ奴だな、本当に」
そう言ってエステリーゼの傍まで来ると、ぼくを抱えたままその場に座り込んだ
「このままでいいの?エステリーゼ、起きたら驚くんじゃない??」
「平気平気、こんなんいつもだろ」
ちょっぴり嬉しそうに笑いながら頭を撫でてくる
いやまぁ、確かに下町じゃいつもの事だけど…
初対面のエステリーゼが見たら驚くって、絶対に
「にしても、本当髪切ったらフレンそっくりだよな」
くるくると毛先を巻きながらじっとぼくの顔を見てくる
「んー、そりゃ兄妹だしねぇ」
ニコッと笑いながらそう答えた
「違うのは目の色と性格だな。…アリシアが結界の外に出たって知ったら、フレンの奴ひっくり返っちまうんじゃねぇの?」
そう言って悪戯っぽく笑う
「確かに……兄さんなら有り得る」
それに合わせて、クスッとぼくも笑う
あの兄さんのことだ、絶対驚く
…っていうか、怒られそうでもあるけど…
「まっ、会ったら二人揃って説教待ちだな」
「うぇ……それはやだなぁ……兄さん、怖いもん…」
「大丈夫だっての、オレのせいにすりゃいいんだから」
「そうゆう訳にはいかないよ。ぼくが自分で行くって言ったんだから」
ムッと頬をふくらませてそう言った
「へいへい…わーったよ」
苦笑いすると、そっとユーリの隣にぼくを下ろす
「さて……なんか食えるもん落ちてねぇかな」
立ち上がりながら辺りを見回す
「お、これ食えそうだな」
そう言って近くに落ちていたオレンジ色の木の実を持ち上げた
「いや…落ちてるもの食べるのはダメでしょ…」
ジト目そう言うと、ユーリは若干肩を竦めた
「…まっ、それもそうだな。んじゃ…サンドウィッチでも作るとしますかね」
そう言うと、また元の場所に座って下町のみんなから貰った食材を取り出す
「本当、色んな物くれたよね」
ユーリの荷物を見ながら呟いた
グミに食材…ガルドに地図……それに、魔物との戦闘で使えそうなアイテムを沢山貰っていた
戦闘で使えそうな物は兎も角としても、食材やガルドはみんなだってそんなにストックがあるわけじゃないだろうに…
「本当、寄越しすぎなんだよな…おまけに、見ろよこれ」
そう言って一枚の紙を渡してくる
それを受け取って、中に書かれた文字を読む
「『アリシアを泣かせたら、フレンに言いつけるからな!』……って、自分が対抗してくるわけじゃないんだ…」
明らかに友人が書いたであろうその文に、思わず笑みがこぼれる
相変わらずと言うべきか、ユーリがぼくになにかするとすぐに兄さんに言いつけるんだから…
「ったく、たまったもんじゃねぇよな。帰ったら真っ先に仕留めに行ってやる」
笑いながら冗談混じりにユーリは肩を竦める
「程々にしてあげてね?」
手紙を綺麗に折りたたんでユーリに返す
心底いらなさそうな顔をしたけど、ちゃんと受け取ってまた荷物の中にしまった
「さてと…アリシア、先に食っとくか?」
「うん、そうしよっかな」
そう答えると、ユーリはサンドウィッチを手渡してくれる
相変わらず、料理得意だなぁ
小さい頃はぼくの方が得意だったけど、今はユーリの方が腕は上だろう
…そう言えば、今日ご飯食べるの始めてかもしれない……
そんなこと考えながらサンドウィッチを口に運んだ
そこまで凝ったものじゃないけど、それでもやっぱり美味しい
「…ん、美味しい」
「ははっ、そりゃよかったよ」
「……なんか知らない間にユーリに越されてる気がして腹立つ」
心底嬉しそうに隣で笑っているユーリをジト目で見る
「そうかぁ?オレが得意なのは創作料理だけだぞ?既存のレシピ通りには作れねぇぜ?」
「だから凄いんじゃん。創作料理の方が難しいんだよ?」
「んー…でも、オレはアリシアが作ってくれる飯の方が好きだぜ?」
しれっと真顔でユーリはそう答えた
「…ユーリって、さらっと『好き』って言うよね」
「嫌か?」
「そーじゃないけどさぁ…勘違いされるよ?」
「ん?何がだ??」
「……うん、もういいよ…」
ため息をつきながら、パクッとサンドウィッチにかぶりつく
「なんなんだよ、一体…」
「もういいってばー!……ご馳走様、美味しかったよ」
ニコッとユーリに微笑みかけると、何故か一瞬驚いた顔をする
でも、すぐに笑顔になった
「お粗末様、お前が喜んでくれたならよかったよ」
ニカッと笑うその顔に、何故かまた心臓がドクンっと大きく鳴った気がした
最近、やたら多いなぁ……
寝不足だからかな…?
そんなこと考えてたら、急に眠気が襲ってきた
そう言えばもう二日もまともに眠ってない
流石に体が眠気に耐えられそうになかった
「ふぁ……ユーリー……少し寝てても平気?」
「エステルもまだ目覚めそうにねぇし、眠いんなら今のうちに寝とけよ」
「ん…じゃーそうするー……流石に……二日連続徹夜は………きつい………」
目を擦りながら後ろに倒れようとする
「そっちじゃなくて、こっち来いよ」
そう言って私の肩を抱き寄せて自分の膝の上に頭を乗せて頭を撫でる
「えへへ……やったぁ……」
「本当、オレの膝の上で寝るの好きだよな」
「ん………ここ……落ち着くの………」
撫でてくる手の心地いい感覚に目を閉じる
睡魔はもうすぐ近くまで来ていた
「ほれ、わかったからもう寝ろっての」
ユーリの声が聞こえたのと同時に意識はフェイドアウトしていった
「ったく、寝てねぇのバレバレなんだっての」
クマのできた目元をそっと撫でる
今朝会った時からそれは気づいていた
寝てなくても精々昨日だけだと思っていたが、まさか二日も寝てなかったとは…
「………料理だろうが、『好き』なんて、お前以外にほいほい言わねぇーよ、バーカ」
そっと頭にキスを落とす
「………ん…………?」
「お、目覚めたかエステル」
「……あれ……?私………」
エステルはゆっくりと起き上がりながら、キョロキョロと左右を見渡す
見た感じじゃ大丈夫そう…だな
「あれに触ろうとして急に倒れたんだよ。大丈夫か?」
「あ……はい、大丈夫、です」
そう言ってその場に座り直す
「にしても、なんで急に倒れたんだ?」
「多分エアルに酔ったんだと思います」
「エアルって、空気中に漂ってるっていう、あれか?」
「はい、濃いエアルは体に毒ですから」
「ふーん…なるほどね」
と言ったものの、正直エアルに関しては何も知識がない
名前とそうゆうものがあるって言うことしか知らない
「まっ、とりあえずサンドウィッチでも食うか?」
「あっ、はい、頂きます!」
先程作ったサンドウィッチを手渡すと嬉しそうに笑ってそれを受け取る
そしてそれを口に頬張ると、少しして驚いた顔をした
「これ…ユーリが作ったんです?」
「ん?そうだけど」
「ユーリは料理も出来るんですね!とっても美味しいです!」
満面の笑みを浮かべて彼女はそう言った
「んな大したもんは出来ねぇけどな」
肩を竦めて笑う
こうして誰かに褒められるのはやはり嬉しかったりする
まぁ、誰に褒められようがアリシアに褒められた時が一番嬉しいのだが
「ご馳走様でした。……アリシアも、気を失ってしまったのですか?」
「ん?あぁ、こいつは単純に眠くなっただけみたいだから平気だよ」
ポンポンっと眠ったアリシアの頭を撫でる
「時間も時間だし、エステルももう少し休んどけよ」
「……わかりました、そうしますね」
エステルは再び横になると、そのまま目を閉じた
「………さて、どうしようかねぇ」
小さくそう呟いた
オレも寝たいとこではあるが、全員寝てて魔物に襲われるとか洒落にならねぇしな
「ゥワンッ!」
先程までエステルの枕をしていてくれたラピードが一声鳴いて、オレら三人の前に座り込んだ
「見張っててくれんのか?」
「ワオーーーン」
任せろと言わんばかりに吠える
本当、頼りになる相棒だな
「んじゃ、ちと頼んたぜ」
そう言って真後ろにあった木に寄りかかって目を閉じた
〜翌朝〜
「ふぁ…………」
目が覚めると森の中にいた
一瞬焦ったが、そう言えば結界の外に出たんだっけ…
それなのに思い切り熟睡してしまった
…ユーリに膝枕してもらうといっつもそんな感じで気づいたら寝てた、なんてしょっちゅうだ
「ワンッ」
「ラピード…おはよ〜」
ゆっくり起き上がって、ニコッと笑ってそう言うと嬉しそうに尻尾を振る
ぐっと伸びをする
そして、傍で眠っているユーリを見る
規則正しい寝息が微かに聞こえてくる
「……気持ちよさそーに寝てるなぁ」
そう呟いて、ユーリの頬をつつく
すると、ん……と小さく身じろぎした
……可愛い……
…ユーリに言ったら怒られそうだから、絶対口には出せないけど
「そろそろ起きろーーユーリーー」
ユーリの肩を揺すりながら声をかける
「……ん………?アリシア………?」
寝ぼけた声でそう呟いて目を擦る
「もー、寝ぼけてるの?ほら、いつまでも寝てないのー」
立ち上がって今度はエステリーゼのところへ行く
ユーリ同様肩を揺する
「エステリーゼも、そろそろ起きよ」
「ぅ……ん………?あっ…!!おはようございます!」
少し寝ぼけていたみたいだけど、ユーリよりはマシだろう
「ユーリは……まだ寝ているんですか?」
「起きてはいるみたいだけど…これは寝ぼけてるかなぁ」
エステリーゼもユーリの頬をつついたりしてみたが、やはり起きそうにない
「もういっその事置いて行っちゃうかな」
冗談混じりにそう言うと、すぐ飛び起きた
「…アリシア、それ洒落になんねぇよ…」
大きくため息をついて項垂れる
「だって、エステリーゼの目的は兄さん見つけることでしょ?早く連れて行ってあげないと」
キッパリそう答えれば顔を上げて苦笑いした
「だな。んじゃ行きますかね」
エステリーゼと一度視線を合わせて力強く頷いた
彼女が立ち上がったのを見ると、ユーリを先頭に歩き出した
歩き始めて数分…
「おっ、あれ出口っぽいな」
ユーリが指さした方向を見ると、明るい光が目に入る
陽の光を久しぶりに見た気がする
「もうさっさと抜けちゃお」
とは言ったものの…あれがさっきみたいな広場みたいなとこだったらどうしようかな…
そんなことを考えなが歩いていると、不意にガサガサッと大きな音が茂みの中から聞こえてきた
その音に二人も気づいたみたいで、その茂みに目を向ける
「エッ、エッグベアめ!覚悟っ!!」
その声と共に、男の子がその身なりに合わない大剣を握りしめて茂みからエステリーゼ飛び出してきた
が、当然ながらエステリーゼ目掛けて振り下ろそうとしたその大剣の重さに少年自体が振り回されてしまったらしく、見事にエステリーゼをはずしてくるくると回り始めた
ユーリと目を合わせると、苦笑いして剣を鞘から抜いて少年の武器目がけて、剣を振り下ろした
綺麗に少年の武器に当たり、大剣の先が折れその衝撃で少年はその場に尻もちをついた
「いったた……」
「あの…大丈夫でs」
「うわぁぁぁぁ!!!こっち来ないで!!」
そう叫ぶと先が折れた大剣を自分の体の前でぶんぶん振り回す
……こんなに臆病な少年がなんでこんな所にいるんだか……
「落ち着いてよ、ぼくら魔物なんかじゃないんだから」
ぼくがそう声をかけると、振り回していた大剣を下ろし辺りをキョロキョロと見回す
「あ、あれ…?!魔物が女の人に…!?」
「んなわけねぇだろ」
「あ……あはは……そっ、そうだよね!」
少年は苦笑いして頭の後ろを掻くとぴょんっと立ち上がった
「ボクはカロル・カペル。ギルド『魔狩りの剣』のメンバーだよ!」
どこか誇らしげに少年…カロルは胸を張った
「初めましてカロル。私はエステリーゼって言います。エステルって呼んで下さい!」
「ユーリだ、ユーリ・ローウェル。こっちは相棒のラピード」
「ゥワンッ!」
「…アリシア・シーフォ」
嬉しそうにカロルに話しかけたエステリーゼとは対照的に、ぼくは名前だけを告げた
「三人とも、この森に入ろうとしてるんでしょ?それならボクが」
「いいえ、私たちこの森を抜けてきたんです」
エステリーゼがカロルの言葉を遮ってそう答えると、彼は驚いた顔をみせる
「えぇっ!?呪いの森を?!!じゃ、じゃあさ!エッグベア、見かけなかった??」
「いや…見てねぇと思うぜ?」
ユーリがそう答えると、カロルは残念そうに肩を落として俯く
「そっか………じゃあボクも一度ハルルに戻ろうかな………(ナンが怒ってそうだし)ボソッ………うん!」
小声で何かを呟くと『うん!』と言う掛け声と共に顔をあげた
「じゃあボクがハルルまで案内してあげるよ!」
胸を張りながらカロルはそう言った
ユーリはしょうがねぇとでも言いたげに苦笑いしながら、「じゃあ頼むよ」と声をかけた
ユーリのことだろうからカロルが怖がりだとわかっててその提案を承諾したんだろう
誰よりも生き生きとした表情で、カロルは先頭を歩き始めた
*スキットが追加されました
*森の噂
デイドン砦から西側……薄暗い森の入口にぼくらは立っている
ここが、カウフマンさんから教えて貰った道らしい
「ここがそう?」
ユーリの方を向いて、念の為聞き返す
「クオイの森っつってたから、あってんだろ」
そう言ってユーリは進もうとする
「ま、待ってください!」
「ん?どうしたエステル」
「今……クオイの森……って、言いましたか…?」
何処か不安そうな、ありえないとでも言いたげにエステリーゼはユーリに問いかけた
「ん?そう聞いたが…」
「呪いの森!」
「呪いの森??」
「はい、一度入ったら呪われてしまうと言う噂があるんです」
少し身震いしながら、エステリーゼは答えた
呪い……そんなの、あるわけないのになぁ
「なるほど、それがお楽しみってわけか」
ユーリはどこか楽しそうに笑うと、唇の隙間から少し舌を覗かせる
「ユーリ、楽しむのは程々にしよーね」
若干呆れ気味にユーリに声をかけた
彼がこうゆう反応をした時、大抵ろくな事を考えていない
「……わーってるよ。程々に、な」
少し不服そうにしながらも、先頭をきって歩き始める
「…エステリーゼ、行こう?」
おどおどとしているエステリーゼにそう声をかけて、手を差し出す
ぼくの手とクオイの森をしばらく交互に見つめると、観念したかのようにぼくの手を取った
ぼくら二人は手を繋いだまま、ユーリの後を追いかけた
「それにしても、暗いねこの森」
森の中を歩き始めて数十分、木々が所狭しと生えたこの森は、陽の光が全くと言うくらいに入って来ない
呪いなんてなくても、これじゃあ不気味すぎて入ろうなんて思う人は居ないだろう
相変わらずおどおどとしながら、エステリーゼはぼくに引っ付いている
「アリシア…お前良くそれで歩けるよな…」
若干驚いたようにユーリはぼくを見つめてくる
「そりゃあ、兄さんがいたらエステリーゼと立場反対だもん」
躊躇いもせずにそう答えた
呪いどうのが怖いから、なんて理由ではないが騎士が来た時に家に帰る道は兄さんに引っ付いて帰っていた
今のエステリーゼみたいに…ね
「あー、なるほどな」
ユーリはそう言うと、前を向いて再び歩き始める
「…ごめんなさい、アリシア、もう一人でも大丈夫です」
エステリーゼはそう言って、おどおどしながらもユーリの後ろをついていく
無理しなくてもいいのに…と心の中で苦笑いして、二人の後を追いかけた
しばらく歩くと、開けた空間に出た
そこには壊れた
「これ……なんでしょう?」
エステリーゼがそれを見つけて、首を傾げた
「んー……なんか、
「なんでんなもんがこんなとこにあんだ?」
ぼくがそう言えば次はユーリが首を傾げた
…仲良しか、この二人は……
「えー……そこまではぼくだってわかんないよ。ただ、
ふいっと顔を背けながらそう答える
何故だかぼくよりも仲良さそうに見えて、イライラする
…なんだろ、この感じ……
「まっ、そんなの気にしてもしゃあねぇか。さっさと行こうぜ」
全く気にもしないで、ユーリは歩き出した
ぼくもその後について行こうとしたが、エステリーゼがその場に立ち止まっていることに気づいて、足を止める
「エステリーゼー!ほら、行こう?」
そう声をかけるが、本人は全く聞いていないのか、じっと
軽くため息をついて、彼女の元へと近寄る
何故兄さんが心配だとかあんなに騒いでいたのに、こうも簡単に他のものに目を向けられるんだろうか……
傍まで来て肩を叩こうとした時、エステリーゼが徐ろにそれに手を伸ばした
すると、目が眩むほどの光と風ががそれから放たれた
「きゃっ!!!」「わっ!!!?!」
咄嗟に自分の前にバリアを張ってしまったが、突風に体を支えきれず、その場に尻もちをついた
「いったぁ…………」
「アリシア!エステル!大丈夫か!?」
あわてたユーリが傍に駆け寄って来た
「ぼくはびっくりしただけだけど…エステル、気失っちゃったみたい」
隣に倒れているエステリーゼの顔を覗き込みながら言う
顔色も悪くはなさそうだし、しばらくしたら目が覚めるだろう
「そっか……んじゃ、ここで少し休憩すっか」
ほっと息を吐きながら、ユーリはエステリーゼを抱き抱えて
ラピードが、自分の上に頭を乗せろと言わんばかりに、ユーリがエステリーゼを下ろそうとした場所に伏せる
「ラピード優し〜」
その場に座ったまま笑う
さっきので腰を抜かしたのか、思うように足が動かなかったのだ
「…アリシア、やっぱり大丈夫じゃねーんじゃねぇかよ」
ジト目でぼくを見つめながらユーリは近づいてくる
「『エステリーゼよりは』って意味だもんね」
おどけてそう言うと、ユーリは困ったように笑いながらぼくを抱き上げる
「しょうがねぇ奴だな、本当に」
そう言ってエステリーゼの傍まで来ると、ぼくを抱えたままその場に座り込んだ
「このままでいいの?エステリーゼ、起きたら驚くんじゃない??」
「平気平気、こんなんいつもだろ」
ちょっぴり嬉しそうに笑いながら頭を撫でてくる
いやまぁ、確かに下町じゃいつもの事だけど…
初対面のエステリーゼが見たら驚くって、絶対に
「にしても、本当髪切ったらフレンそっくりだよな」
くるくると毛先を巻きながらじっとぼくの顔を見てくる
「んー、そりゃ兄妹だしねぇ」
ニコッと笑いながらそう答えた
「違うのは目の色と性格だな。…アリシアが結界の外に出たって知ったら、フレンの奴ひっくり返っちまうんじゃねぇの?」
そう言って悪戯っぽく笑う
「確かに……兄さんなら有り得る」
それに合わせて、クスッとぼくも笑う
あの兄さんのことだ、絶対驚く
…っていうか、怒られそうでもあるけど…
「まっ、会ったら二人揃って説教待ちだな」
「うぇ……それはやだなぁ……兄さん、怖いもん…」
「大丈夫だっての、オレのせいにすりゃいいんだから」
「そうゆう訳にはいかないよ。ぼくが自分で行くって言ったんだから」
ムッと頬をふくらませてそう言った
「へいへい…わーったよ」
苦笑いすると、そっとユーリの隣にぼくを下ろす
「さて……なんか食えるもん落ちてねぇかな」
立ち上がりながら辺りを見回す
「お、これ食えそうだな」
そう言って近くに落ちていたオレンジ色の木の実を持ち上げた
「いや…落ちてるもの食べるのはダメでしょ…」
ジト目そう言うと、ユーリは若干肩を竦めた
「…まっ、それもそうだな。んじゃ…サンドウィッチでも作るとしますかね」
そう言うと、また元の場所に座って下町のみんなから貰った食材を取り出す
「本当、色んな物くれたよね」
ユーリの荷物を見ながら呟いた
グミに食材…ガルドに地図……それに、魔物との戦闘で使えそうなアイテムを沢山貰っていた
戦闘で使えそうな物は兎も角としても、食材やガルドはみんなだってそんなにストックがあるわけじゃないだろうに…
「本当、寄越しすぎなんだよな…おまけに、見ろよこれ」
そう言って一枚の紙を渡してくる
それを受け取って、中に書かれた文字を読む
「『アリシアを泣かせたら、フレンに言いつけるからな!』……って、自分が対抗してくるわけじゃないんだ…」
明らかに友人が書いたであろうその文に、思わず笑みがこぼれる
相変わらずと言うべきか、ユーリがぼくになにかするとすぐに兄さんに言いつけるんだから…
「ったく、たまったもんじゃねぇよな。帰ったら真っ先に仕留めに行ってやる」
笑いながら冗談混じりにユーリは肩を竦める
「程々にしてあげてね?」
手紙を綺麗に折りたたんでユーリに返す
心底いらなさそうな顔をしたけど、ちゃんと受け取ってまた荷物の中にしまった
「さてと…アリシア、先に食っとくか?」
「うん、そうしよっかな」
そう答えると、ユーリはサンドウィッチを手渡してくれる
相変わらず、料理得意だなぁ
小さい頃はぼくの方が得意だったけど、今はユーリの方が腕は上だろう
…そう言えば、今日ご飯食べるの始めてかもしれない……
そんなこと考えながらサンドウィッチを口に運んだ
そこまで凝ったものじゃないけど、それでもやっぱり美味しい
「…ん、美味しい」
「ははっ、そりゃよかったよ」
「……なんか知らない間にユーリに越されてる気がして腹立つ」
心底嬉しそうに隣で笑っているユーリをジト目で見る
「そうかぁ?オレが得意なのは創作料理だけだぞ?既存のレシピ通りには作れねぇぜ?」
「だから凄いんじゃん。創作料理の方が難しいんだよ?」
「んー…でも、オレはアリシアが作ってくれる飯の方が好きだぜ?」
しれっと真顔でユーリはそう答えた
「…ユーリって、さらっと『好き』って言うよね」
「嫌か?」
「そーじゃないけどさぁ…勘違いされるよ?」
「ん?何がだ??」
「……うん、もういいよ…」
ため息をつきながら、パクッとサンドウィッチにかぶりつく
「なんなんだよ、一体…」
「もういいってばー!……ご馳走様、美味しかったよ」
ニコッとユーリに微笑みかけると、何故か一瞬驚いた顔をする
でも、すぐに笑顔になった
「お粗末様、お前が喜んでくれたならよかったよ」
ニカッと笑うその顔に、何故かまた心臓がドクンっと大きく鳴った気がした
最近、やたら多いなぁ……
寝不足だからかな…?
そんなこと考えてたら、急に眠気が襲ってきた
そう言えばもう二日もまともに眠ってない
流石に体が眠気に耐えられそうになかった
「ふぁ……ユーリー……少し寝てても平気?」
「エステルもまだ目覚めそうにねぇし、眠いんなら今のうちに寝とけよ」
「ん…じゃーそうするー……流石に……二日連続徹夜は………きつい………」
目を擦りながら後ろに倒れようとする
「そっちじゃなくて、こっち来いよ」
そう言って私の肩を抱き寄せて自分の膝の上に頭を乗せて頭を撫でる
「えへへ……やったぁ……」
「本当、オレの膝の上で寝るの好きだよな」
「ん………ここ……落ち着くの………」
撫でてくる手の心地いい感覚に目を閉じる
睡魔はもうすぐ近くまで来ていた
「ほれ、わかったからもう寝ろっての」
ユーリの声が聞こえたのと同時に意識はフェイドアウトしていった
「ったく、寝てねぇのバレバレなんだっての」
クマのできた目元をそっと撫でる
今朝会った時からそれは気づいていた
寝てなくても精々昨日だけだと思っていたが、まさか二日も寝てなかったとは…
「………料理だろうが、『好き』なんて、お前以外にほいほい言わねぇーよ、バーカ」
そっと頭にキスを落とす
「………ん…………?」
「お、目覚めたかエステル」
「……あれ……?私………」
エステルはゆっくりと起き上がりながら、キョロキョロと左右を見渡す
見た感じじゃ大丈夫そう…だな
「あれに触ろうとして急に倒れたんだよ。大丈夫か?」
「あ……はい、大丈夫、です」
そう言ってその場に座り直す
「にしても、なんで急に倒れたんだ?」
「多分エアルに酔ったんだと思います」
「エアルって、空気中に漂ってるっていう、あれか?」
「はい、濃いエアルは体に毒ですから」
「ふーん…なるほどね」
と言ったものの、正直エアルに関しては何も知識がない
名前とそうゆうものがあるって言うことしか知らない
「まっ、とりあえずサンドウィッチでも食うか?」
「あっ、はい、頂きます!」
先程作ったサンドウィッチを手渡すと嬉しそうに笑ってそれを受け取る
そしてそれを口に頬張ると、少しして驚いた顔をした
「これ…ユーリが作ったんです?」
「ん?そうだけど」
「ユーリは料理も出来るんですね!とっても美味しいです!」
満面の笑みを浮かべて彼女はそう言った
「んな大したもんは出来ねぇけどな」
肩を竦めて笑う
こうして誰かに褒められるのはやはり嬉しかったりする
まぁ、誰に褒められようがアリシアに褒められた時が一番嬉しいのだが
「ご馳走様でした。……アリシアも、気を失ってしまったのですか?」
「ん?あぁ、こいつは単純に眠くなっただけみたいだから平気だよ」
ポンポンっと眠ったアリシアの頭を撫でる
「時間も時間だし、エステルももう少し休んどけよ」
「……わかりました、そうしますね」
エステルは再び横になると、そのまま目を閉じた
「………さて、どうしようかねぇ」
小さくそう呟いた
オレも寝たいとこではあるが、全員寝てて魔物に襲われるとか洒落にならねぇしな
「ゥワンッ!」
先程までエステルの枕をしていてくれたラピードが一声鳴いて、オレら三人の前に座り込んだ
「見張っててくれんのか?」
「ワオーーーン」
任せろと言わんばかりに吠える
本当、頼りになる相棒だな
「んじゃ、ちと頼んたぜ」
そう言って真後ろにあった木に寄りかかって目を閉じた
〜翌朝〜
「ふぁ…………」
目が覚めると森の中にいた
一瞬焦ったが、そう言えば結界の外に出たんだっけ…
それなのに思い切り熟睡してしまった
…ユーリに膝枕してもらうといっつもそんな感じで気づいたら寝てた、なんてしょっちゅうだ
「ワンッ」
「ラピード…おはよ〜」
ゆっくり起き上がって、ニコッと笑ってそう言うと嬉しそうに尻尾を振る
ぐっと伸びをする
そして、傍で眠っているユーリを見る
規則正しい寝息が微かに聞こえてくる
「……気持ちよさそーに寝てるなぁ」
そう呟いて、ユーリの頬をつつく
すると、ん……と小さく身じろぎした
……可愛い……
…ユーリに言ったら怒られそうだから、絶対口には出せないけど
「そろそろ起きろーーユーリーー」
ユーリの肩を揺すりながら声をかける
「……ん………?アリシア………?」
寝ぼけた声でそう呟いて目を擦る
「もー、寝ぼけてるの?ほら、いつまでも寝てないのー」
立ち上がって今度はエステリーゼのところへ行く
ユーリ同様肩を揺する
「エステリーゼも、そろそろ起きよ」
「ぅ……ん………?あっ…!!おはようございます!」
少し寝ぼけていたみたいだけど、ユーリよりはマシだろう
「ユーリは……まだ寝ているんですか?」
「起きてはいるみたいだけど…これは寝ぼけてるかなぁ」
エステリーゼもユーリの頬をつついたりしてみたが、やはり起きそうにない
「もういっその事置いて行っちゃうかな」
冗談混じりにそう言うと、すぐ飛び起きた
「…アリシア、それ洒落になんねぇよ…」
大きくため息をついて項垂れる
「だって、エステリーゼの目的は兄さん見つけることでしょ?早く連れて行ってあげないと」
キッパリそう答えれば顔を上げて苦笑いした
「だな。んじゃ行きますかね」
エステリーゼと一度視線を合わせて力強く頷いた
彼女が立ち上がったのを見ると、ユーリを先頭に歩き出した
歩き始めて数分…
「おっ、あれ出口っぽいな」
ユーリが指さした方向を見ると、明るい光が目に入る
陽の光を久しぶりに見た気がする
「もうさっさと抜けちゃお」
とは言ったものの…あれがさっきみたいな広場みたいなとこだったらどうしようかな…
そんなことを考えなが歩いていると、不意にガサガサッと大きな音が茂みの中から聞こえてきた
その音に二人も気づいたみたいで、その茂みに目を向ける
「エッ、エッグベアめ!覚悟っ!!」
その声と共に、男の子がその身なりに合わない大剣を握りしめて茂みからエステリーゼ飛び出してきた
が、当然ながらエステリーゼ目掛けて振り下ろそうとしたその大剣の重さに少年自体が振り回されてしまったらしく、見事にエステリーゼをはずしてくるくると回り始めた
ユーリと目を合わせると、苦笑いして剣を鞘から抜いて少年の武器目がけて、剣を振り下ろした
綺麗に少年の武器に当たり、大剣の先が折れその衝撃で少年はその場に尻もちをついた
「いったた……」
「あの…大丈夫でs」
「うわぁぁぁぁ!!!こっち来ないで!!」
そう叫ぶと先が折れた大剣を自分の体の前でぶんぶん振り回す
……こんなに臆病な少年がなんでこんな所にいるんだか……
「落ち着いてよ、ぼくら魔物なんかじゃないんだから」
ぼくがそう声をかけると、振り回していた大剣を下ろし辺りをキョロキョロと見回す
「あ、あれ…?!魔物が女の人に…!?」
「んなわけねぇだろ」
「あ……あはは……そっ、そうだよね!」
少年は苦笑いして頭の後ろを掻くとぴょんっと立ち上がった
「ボクはカロル・カペル。ギルド『魔狩りの剣』のメンバーだよ!」
どこか誇らしげに少年…カロルは胸を張った
「初めましてカロル。私はエステリーゼって言います。エステルって呼んで下さい!」
「ユーリだ、ユーリ・ローウェル。こっちは相棒のラピード」
「ゥワンッ!」
「…アリシア・シーフォ」
嬉しそうにカロルに話しかけたエステリーゼとは対照的に、ぼくは名前だけを告げた
「三人とも、この森に入ろうとしてるんでしょ?それならボクが」
「いいえ、私たちこの森を抜けてきたんです」
エステリーゼがカロルの言葉を遮ってそう答えると、彼は驚いた顔をみせる
「えぇっ!?呪いの森を?!!じゃ、じゃあさ!エッグベア、見かけなかった??」
「いや…見てねぇと思うぜ?」
ユーリがそう答えると、カロルは残念そうに肩を落として俯く
「そっか………じゃあボクも一度ハルルに戻ろうかな………(ナンが怒ってそうだし)ボソッ………うん!」
小声で何かを呟くと『うん!』と言う掛け声と共に顔をあげた
「じゃあボクがハルルまで案内してあげるよ!」
胸を張りながらカロルはそう言った
ユーリはしょうがねぇとでも言いたげに苦笑いしながら、「じゃあ頼むよ」と声をかけた
ユーリのことだろうからカロルが怖がりだとわかっててその提案を承諾したんだろう
誰よりも生き生きとした表情で、カロルは先頭を歩き始めた
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*森の噂