第二章 水道魔導器
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*魔物の襲撃
「ふーん…ぼくがあれだけ言ったのに、結局捕まってたんだね」
隣を歩くユーリをジト目で睨んだ
「悪かったっての…オレだって捕まるつもりはなかったんだぞ?キュモールの馬鹿が来なきゃ捕まらずにすんだっつーのに」
苦笑いしながら、ユーリは肩を竦めた
「捕まったのはユーリが悪いんだからキュモールのせいにしないの。……で、脱獄したと思えば、貴族のお嬢様たぶらかして逃走っと」
「べ、別にたぶさかされたわけじゃないです!私が頼んだんです!」
「おいこら、アリシア。だーれがたぶらかすかよ」
冗談のつもりで言ったのだが、エステリーゼもユーリも本気にしたらしく
エステリーゼはものすごく慌ててるし、ユーリは若干怒ってる
ぼくらは今、デイドン砦へと向かっている
魔核 ドロボウを追いかけるのがユーリとぼくの目的だけど、一緒についてきたエステリーゼは、兄さんに身の危険を知らせる為についてきてるんだとか
で、その肝心な兄さんは巡礼中で、ハルルへ向かったらしい
ハルルへ向かうためには、デイドン砦を通らないといけないらしいから、一番最初の目的地はそこになった
兄さんなら、自分の身の危険くらい気づいているだろうけど、ね
「冗談だって………にしても、兄さんもガールフレンド出来たんだったら教えてくれればいいのに」
そう言って頭の後ろで手を組む
ぼくと兄さんが兄妹なことも、エステリーゼに話した
フレンからそんな話聞いたことありません!ってすっごい膨れていたのはついさっきの話だ
エステリーゼと兄さんがそんな関係じゃないことは百も承知だけど、彼女をからかうのが楽しいくて、ついそんな言葉が口から出た
「ガっ、ガールフレンドでもありません!フレンにはお城でよくお話してもらっていただけで…!」
「…エステル、あんまり反論しねぇ方がいいぞ?こいつ、人の反応見て楽しんでるだけだからな」
ポンッと頭の上に手を乗せられる
「えー、なんで言っちゃうのさユーリ」
ムッ頬を膨らませると、呆れ顔で見つめてくる
「あんまりいじめてやんなっての」
「……そう言うアリシアは、ユーリと付き合ってないんです?」
ぼくとユーリを交互に見ながらエステリーゼはそう聞いてくる
「??なんで??」
エステリーゼの方を見ながら首を傾げる
「だって、すっごく仲良いですし、二人の距離感も近くないですか?」
「んー……別に付き合ってるとかってわけじゃないよ?距離感が近いのは、小さい頃からよく面倒見てもらってたからじゃないかなぁ」
そう答えて前を向く
正直、恋愛感情って言うものはわからない
好きとか嫌いとか、ぼくにはあまり理解が出来ないんだ
「それよりほら!早く行こ行こ!」
そう言って、少し前をラピードと一緒に歩く
そんな話よりも、結界の外の世界の方が、今のぼくには興味があるんだ
「あっ!アリシア!」
「ったく、これじゃ面倒見るために来たんだか、見られるために来たんだかわかんねぇな」
大きくため息をつきながら、ラピードと先を歩くアリシアを見つめる
お転婆で活発的なアリシアの事だから、こうなることはなんとなく予想していたが…
「ほらエステル、早く追いかけようぜ?」
「……ユーリはアリシアのこと、好きなんです?」
「あん?なんで今そんな話すんだ?」
首を傾げてエステルを見る
「さっき、アリシアがいる所では話ずらそうって顔してたので…」
少し遠慮気味にエステルは俯く
「なるほどね…ま、さっきのアリシアの様子見見てわかると思うが……あいつ、自分の恋愛事情について疎いんだわ。ナンパされようが告白されようが気づかねぇんだよ…」
歩く速度は落とさずに言葉を繋ぐ
下町の住民なら、一度は必ずアリシアに告白してるんだが…
それに全く気づかないのがアリシアだ
「ってことは、やっぱりユーリはアリシアが好きなんです?」
食いつくようにエステルは聞いてくる
「まぁ……な?でも、全く気づかねぇんだよなぁ、あいつ。だから、言わないでおいてくれ」
「…いいんですか?それで」
「ま、いつかは気づいてくれることを信じるしかねぇな、今は」
「ユーリー!!!エステリーゼーー!!!はーやーくーー!!」
離れた所で、アリシアがオレらの名前を呼びながら手を振っている
「ったく、落ち着かねぇお嬢さんだことで…
今行くから待ってろ!!…エステル、走れっか?」
そう聞いて、手を差し出す
「あ、はい!」
差し出したオレの手に、エステルは自分の手を乗せた
そして、並んでアリシアの方へと駆け出した
「…………あれ?」ズキッ
胸に手を当てて首を傾げる
ユーリとエステリーゼがこちらに向かって走ってくる
いや、それはいいんだけど…
手を繋いで走ってる二人を見て、何故だか胸が痛んだ
なんでそうなったか、理由はわからない
けど、何故かすごく痛い
「クゥン?」
ラピードの鳴き声にはっとして足元を見ると、どこか心配したようなラピードが目に映る
「…大丈夫だよ、ラピード」
しゃがんで微笑みながら頭を撫でる
ふわふわした毛の感覚が落ち着く
「ったく、先に行きすぎだっての」
顔を上げると、息を切らせたユーリとエステリーゼの姿が目に入った
「ごめんごめん、楽しくなっちゃってつい」
少し苦笑いしてそう答えた
いつの間にか、胸の痛みはなくなっている
(気の所為、だよね。きっと)
「さっ、行こっか」
そう言って立ち上がる
「おう、今度はもうちっとゆっくり歩いてくれよな?」
「はーい!わかってるよ!」
ニコッと笑って答える
帝都とハルルの街中間、デイドン砦はもうすぐ目の前だ
「なんか、厳重体制って感じだねぇ…」
砦に着いて早々、フードを深く被る
『砦』って言うくらいだからわかってたけど、やはり騎士がいる
しかも、かなり多い
「ユーリを追ってきたんでしょうか…?」
不安そうに顔を歪めながらエステリーゼは呟いた
「さぁな…ま、さっさと超えちまった方がいいだろ。ただ、行動は慎重にな」
「そうだね…騎士が多いとこ、あんまり居たくないし…」
そう言ってユーリの背に隠れる
これは、いつまで経っても変わらないと思う
「?アリシア、そんなに騎士が苦手なんです?」
不思議そうに首を傾げながら、エステリーゼは見つめてくる
「気にしないでやってくれ。昔っからだからさ」
ユーリは気にする素振りも見せずに歩き出す
その後をピッタリとくっつく
エステリーゼも後ろから来ている……はずだった
「あれ?エステリーゼ…??」
気配がしなくて振り返ると、エステリーゼは商人の元にいた
「…慎重にって言葉、理解してんのかねぇ、あのお嬢様は……」
大きくため息をつくと苦笑いする
「……わかってない気がする」
ユーリに合わせて、ぼくも苦笑いした
本当は早く抜けちゃいたいんだけど、エステリーゼを置いて行くわけにもいかないから、ぼくらは彼女のもとに足を向けた
「いらっしゃい」
ぼくらを見るなり、商人のおじさんは声をかけてくる
「こんなところでお店開いてて、お客さんくるの?」
ふと思った素朴な疑問をすると、ユーリは横目で言うなと訴えてきていた
「いやぁ、本当はハルルに行きたいんだけどねぇ……なんでもこの先に魔物の群れが出たらしくて、みーんな足止めくらっちゃってるんだよ」
苦笑いしながらおじさんはそう教えてくれた
「魔物ねぇ…」
隣でユーリはそう呟いた
「ふーん……教えてくれてありがとう、おじさん」
そう言ってその場を去ろうとする
「あ…!おじさん、私も行きますね!」
後ろで、エステリーゼがそう声をかけたのが聞こえた
「さて、どうすっかねぇ」
そう言ってユーリは腕を組んだ
「?何がです?」
エステリーゼはそれに首を傾げた
「え…さっきの話、聞いてなかったの?」
ぼくがそう言うと、更に首を傾げる
「この先、魔物が出てて通れねぇんだってさ」
少し苦笑いしながらユーリは手短にそう言った
「そんな…フレンはこの先のハルルに向かったのに…」
肩を落としながらエステリーゼは言う
こんなところで足止めをくらうなんて思っていなかったし、当然の反応だろう
「…ちょっと情報収集でもしてみっか」
「そうだね、エステリーゼほっといたら一人で勝手に行っちゃいそうだもんね」
そう言ってユーリの案に賛成した
「二人とも…ありがとうございます!」
嬉しそうに彼女は笑った
…まぁ、ぼくとしても長時間、騎士のいる所にいたくはないし、ね
デイドン砦の塀の上、一番高いところに登って砦の向こう側……ハルルへ続く平原を見る
視力なら誰よりもいい自信がある
「アリシアー、どうだー?」
「んー………、ちょっと微妙かなぁ…」
下から聞こえた声にそう返す
見た限り、砦のすぐ近くでいくつもの土煙が上がっているのが見える
あれ全部魔物なんだろうし、通り抜けるのはほぼ不可能そうだ
「………駄目、どこもかしこも土煙上がってて、抜けられそうにない」
ユーリの傍に飛び降りながら言う
「さて…どうしたものかねぇ」
ユーリはうーん、と顎に手を当てる
待つのが本当は得策なんだろうけど、待ってる余裕はない
エステリーゼもぼくも、いい案がないか考える
…そんな時だった
「……誰??」
背後に人の気配を感じて振り向く
すると、銀色の綺麗な長髪の人が目に入る
顔だけ見たら女の人っぽいんだけど、服装から見て男の人なんだろう
「……………」
その人は、ぼくの問いには答えずにただ砦の向こう側をじっと見つめている
「あの、何が見えるんですか?」
恐る恐るエステリーゼが聞くと、一瞬だけこちらを向く
フードは被ったまま、だけど、その人の瞳は、確かにぼくの目を見つめた
ほんの数秒、けれど何故かその数秒が長く感じた
「…………この世界の真理」
ぼくから目を離して、また遠くを見つめながら、たった一言そう呟いた
何を言っているのか理解出来なくて、ぼくもユーリも、エステリーゼも首を傾げる
「………………その血筋、いつまで隠せはしないぞ」
「………え?」
離していたはずの視線を真っ直ぐぼくに向けて、その人は真剣な声でそう言った
そして、ぼくの返事は聞かずにその場を去って行く
……鼓動が、うるさい
嫌なくらいにドクンと大きな音を立てている
…何故バレたんだろう
バレたかは定かではないけど、でも、あの口調はどう聞いても『わたし』を知っているようだった
「……今の、どういう意味でしょう?」
不安そうにエステリーゼが首を傾げた
「さぁな…?考えたってわかんねぇし、あんな得体の知れねぇやつの言葉、気にする必要ねぇだろ」
そう言ってユーリは考えるのをやめて顔を上げる
…確かにユーリの言う通りだ
気にしてたってどうにも出来ない
…だって、バレているとは限らない
それに、さっきの人は誰かに言いふらすような雰囲気もなかった
騎士団にバレなければ、それでいい
「ほら二人とも、そろそろ下降りるぞ」
「………うん、そうだね。ここに居てもどうしようもないしねぇ」
頭の後ろで手を組む
「ですね…」
未だに気にした様子でエステリーゼは少し振り返る
……エステリーゼも、なんか隠してるのかな?
下に降りると、突然大きな地鳴りが聞こえてくる
カンッカンッカンッカンッ!!!!
「魔物の群れだ!!門を閉めろ!!」
けたたましい音と共に、門がゆっくりと閉まりだした
「門が閉まるわ!急いで!!」
赤髪の女の人が、上から外へ声を掛けていた
「うわ…やばそう」
半分他人事のように呟く
実際、自分が外に居る側だったらそんなこと思えないんだろうけど…
「急げ!!急いで閉めるんだ!!」
「門を閉め切るのを待って!!まだ外に人が残ってる!!!」
閉め切ろうとする騎士達に、彼女は静止をかけるが聞く耳を持とうとしない
「……ったく、しゃーねぇな……アリシア、お前とエステルは此処で待ってろ!」
「へ?…ちょっ!?ユーリ!!」
ぼくらに声をかけると、ユーリはラピードと一緒に門の方へ駆け出す
「あっ!!ユーリ!!待ってください!!」
「エステリーゼ……!!駄目だって!!」
エステリーゼに静止をかけるが、そんなことお構い無しに、彼女も門の方へ駆け出す
門は既に、ラピードによって閉じることを中断されている
そのラピードの傍にぼくは駆け寄る
外には子どもと、怪我をした男性が一人…
ユーリは子どもの元に、エステリーゼは男性に駆け寄ったのが目に映る
怪我をした男性に、エステリーゼは治癒術をかけた
(……あれ、エステリーゼ……今………)
あまりよく見えなかったけど、確かに今、エステリーゼの武醒魔導器 が光らなかった気がする
術を使えば、絶対に光るはずなのに…
気の所為…かな…?
「あっ…!!ぬいぐるみさん…!!」
そんなことを考えていると、女の子の声が聞こえる
どうやら、ぬいぐるみを落としてしまったみたいだ
「ちっ…!!」
門の前で女の子を下ろすと、ユーリはUターンする
「えっ!!ユーリ!?!!」
止める間もなく、一目散にぬいぐるみの方へ駆け寄ると、掴み取ってまたこちらへ走り出す
門番が動けるようになってしまったみたいで、再び門が閉まり出す
「ユーリ!!!!」
隣からエステリーゼの悲痛な声が聞こえる
チラッと見ると、とても心配そうに顔を歪めた彼女が目に映る
「ユーリ!早く!!」
苦笑いしながらユーリに声をかけた
多分間に合うと思うけど、一応声かけてあげないと後で拗ねられそうだし
門が閉まるギリギリで、ユーリは門の内側へスライディングした
そして、閉まると同時に魔物がぶつかる音が辺りに響き渡った
「ほい、もう落とすんじゃねぇよ」
女の子にぬいぐるみを渡しながら、ユーリは微笑んだ
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「本当にもう、なんとお礼を言えばいいか…!」
「怪我まで治して頂いて、本当にありがとうございます」
先程助けた人たちが、エステリーゼとユーリの元にお礼を言いに来る
「いえいえ!皆さんが無事で本当に良かったです!」
自分の事のように嬉しそうにしながら、エステリーゼはそう答えた
「皆無事でよかった………あ、あれ…?」
助けた人たちが離れると、エステリーゼはその場にしゃがみ込んだ
足の力が抜けた…の方が正しいのかもしれないけど
「ははっ、安心した途端それか」
そう笑いながら、ユーリも座り込んだ
それにならって、ぼくも座る
「結界の外ってこんなに危険なんですね…」
当たり前のことをエステリーゼは意外そうな表情で呟いた
「まぁそうだろうね。結界の中とは違って、何処にでも魔物はいるもんね」
「そうですよね………。ここに結界を置くことは出来ないのでしょうか…?」
首を傾げながら、エステリーゼはぼくを見つめてくる
「んー、結界魔導器 は貴重品だし、こうゆう所には置けないんじゃないかな」
顎に手を当てて答える
結界魔導器 がホイホイ出てきたら、きっと今頃世界中に結界が貼られているだろうし…
第一に、だ
「そもそも、帝国が一般市民のために、っていうのは考えにくいよな」
「同感」
ユーリの言う通り、自分本位な帝国の評議会と貴族たちのことだ
自分たちのためには使いそうだけど、一般市民のために、なんていうのは考えにくい
…それは、ぼくが下町に逃げた時から今までの様子を見て、痛いほどにわかった事だ
エステリーゼはそれを聞くとガックリと方を落とした
そんな話をしていると、カシャッカシャッと、大嫌いな音が聞こえてくる
思わず隣にいたユーリに抱きつく
「そこの三人、少し話を聞きたい」
近づいて来た騎士はそう声をかけてくる
少し顔をあげると、ユーリとエステリーゼが顔を見合わせているのが見えた
今、騎士の元に行く訳にはいかない
…いや、ぼくに関しては何時だって行きたくないけど…
「何故に通さんというのだ!?魔物など、この俺様の拳で倒すというものを!」
突然、門の方から叫び声が聞こえた
そちらを見ると、一人の男が騎士と言い合いをしていた
その近くには、仲間と思わしき人影が数人ある
「だから!そう簡単に倒せるやつじゃないと言っているんだ!!」
騎士は負けじと怒鳴り声をあげる
「貴様、我々の実力を侮ると言うのだな?」
男がそう言うと、近くに居た大剣を背に掛けた男は、その柄に手をかけた
「おい、やめろ!!」
周りの騎士たちは緊急事態と見た様で、一目散に門の方へと集まり出す
「我ら魔狩りの剣を甘く見るとどうなるか、思い知らせてやる!」
「ちっ!これだからギルドの連中は……」
ぼくらの近くにいた騎士もそちらへと向かって行った
「今のうちだ!行くぞ!」
ユーリの合図でエステリーゼとラピードが立ち上がる
「アリシア、立てるか?」
硬直してしまったぼくに、ユーリは優しく聞いてくる
無言で頷いてゆっくり立ち上がると、その後に立ち上がったユーリに手を引かれて、その場から遠ざかる
来た方の門の前まで来ると、その足を止めた
「はぁ……これじゃあ当分、進めそうにねぇな」
困ったようにハルルは続く道のある門の方を見つめながら、ユーリは呟いた
「ねぇ貴方たち、私の下で働かない?」
少し聞き覚えのある声に振り返ると、先程避難誘導していた赤髪の女の人がそこにいた
「報酬は弾むわよ?」
ジャラッと、明らかにガルドの入ったと思われる袋を手に持って、彼女はユーリを見た
肝心のユーリは全く興味がなさそうに明後日の方向を見ると、ぼくに目で合図してその場を立ち去ろうとする
「おい、お前ら社長 に対して失礼だぞ。返事はどうした」
ユーリの態度が気に入らなかったようで、傍に居たお付の人っぽい男の人は不機嫌そうに言う
「確かに返事をしなかったぼくらが悪いけど、名乗りもしないでお金で吊ろうとするもの失礼だと思うな」
頭の後ろで手を組んで横目で見る
「お前らっ!!」
今にも飛びかかって来そうな勢いで、男の人は足を前へ踏み出す
それを、赤髪の女の人は手を前に出して静止した
「予想通り、面白い子たちだわ。私は幸福の市場 のカウフマンよ。商売から流通まで仕切らせてもらっているわ」
彼女は満足そうに笑いながら、そう言った
「ふーん、ギルド、ねぇ?」
あからさまに興味無さそうにユーリが呟く
すると、再び大きな地鳴りが辺りに響く
「私、今困ってるのよね、あの地鳴りの原因のせいで」
「あれって一体なんなんですか?」
そうエステリーゼが首を傾げる
「平原の主ね。簡単に言ってしまえば、魔物の親玉かしら」
「魔物の親玉って……そんなのいるんだ」
あんな群れの親玉なんて、どれだけ大きいんだろうか…
「何処か別の場所から抜けられることは出来ないのでしょうか」
エステリーゼは困り顔でカウフマンさんに聞く
「さぁ?平原の主が居なくなるのを気長に待つしかないんじゃないかしら?」
「急いだって仕方ねぇってわけだ」
「そんなの待っていられません!私、他の人にも聞いてきます!」
そういうが早いか、エステリーゼは一人で走り出す
「あっ!エステリーゼ!!」
ユーリに目で合図を送って、ぼくはその後を追いかけた
少し探して、砦の宿屋近くでエステリーゼの姿を見つけた
ムスッとした表情でその場に座り込んでいた
「エステリーゼ」
ぼくが声をかけると、ちょっと驚いた顔をしてから、ふいっと顔を背けた
「少し休憩しているだけです」
「別にぼくはそれを聞きに来たわけじゃないよ」
苦笑いしながらそう言って、彼女の前に座る
「兄さんのこと、心配なのはわかるけどさ、少し冷静になって行動しないと。騎士に見つかったら、それこそ兄さん探してる余裕なくなるよ?」
ぼくは優しく、エステリーゼにそう言った
「…アリシアは、フレンが心配じゃないんです?」
ゆっくり顔をこちらに向けながら、そう問いかけて来た
「んー…そこまで心配ではないかなぁ。…だって、ぼくのお兄ちゃんだもん。強いし、それに、警戒心高いし、案外気づいてたりしそうだからね」
クスッと笑いながら答えた
確かに不安なところが、ゼロというわけじゃない
でも心配したところで、どうにも出来ないんだ
それならば、信じるしかない
ぼくの兄さんの実力と、持ち前のあの冷静さを
「………アリシアは強いですね」
「そう、かな??」
コテンッと首を傾げる
『強い』と言われても実感がない
……まだ、そう言われる程ではない気がするんだ
「おーい、二人とも。別ルートで抜ける方法、見つけたぞ」
「本当ですか!?」
ユーリの声に、エステリーゼは嬉しそうな顔をしながら立ち上がった
「おう、騎士に絡まれる前にさっさと行こうぜ?」
ぼくとエステリーゼを見ながら、ユーリはそう言った
「賛成、騎士に絡まれるのはもうごめんだよ」
立ち上がりながら苦笑いする
二人と顔を見合わせて、ユーリを先頭に向け道へと歩き出した
*スキットが追加されました
*フレンとの関係
「ふーん…ぼくがあれだけ言ったのに、結局捕まってたんだね」
隣を歩くユーリをジト目で睨んだ
「悪かったっての…オレだって捕まるつもりはなかったんだぞ?キュモールの馬鹿が来なきゃ捕まらずにすんだっつーのに」
苦笑いしながら、ユーリは肩を竦めた
「捕まったのはユーリが悪いんだからキュモールのせいにしないの。……で、脱獄したと思えば、貴族のお嬢様たぶらかして逃走っと」
「べ、別にたぶさかされたわけじゃないです!私が頼んだんです!」
「おいこら、アリシア。だーれがたぶらかすかよ」
冗談のつもりで言ったのだが、エステリーゼもユーリも本気にしたらしく
エステリーゼはものすごく慌ててるし、ユーリは若干怒ってる
ぼくらは今、デイドン砦へと向かっている
で、その肝心な兄さんは巡礼中で、ハルルへ向かったらしい
ハルルへ向かうためには、デイドン砦を通らないといけないらしいから、一番最初の目的地はそこになった
兄さんなら、自分の身の危険くらい気づいているだろうけど、ね
「冗談だって………にしても、兄さんもガールフレンド出来たんだったら教えてくれればいいのに」
そう言って頭の後ろで手を組む
ぼくと兄さんが兄妹なことも、エステリーゼに話した
フレンからそんな話聞いたことありません!ってすっごい膨れていたのはついさっきの話だ
エステリーゼと兄さんがそんな関係じゃないことは百も承知だけど、彼女をからかうのが楽しいくて、ついそんな言葉が口から出た
「ガっ、ガールフレンドでもありません!フレンにはお城でよくお話してもらっていただけで…!」
「…エステル、あんまり反論しねぇ方がいいぞ?こいつ、人の反応見て楽しんでるだけだからな」
ポンッと頭の上に手を乗せられる
「えー、なんで言っちゃうのさユーリ」
ムッ頬を膨らませると、呆れ顔で見つめてくる
「あんまりいじめてやんなっての」
「……そう言うアリシアは、ユーリと付き合ってないんです?」
ぼくとユーリを交互に見ながらエステリーゼはそう聞いてくる
「??なんで??」
エステリーゼの方を見ながら首を傾げる
「だって、すっごく仲良いですし、二人の距離感も近くないですか?」
「んー……別に付き合ってるとかってわけじゃないよ?距離感が近いのは、小さい頃からよく面倒見てもらってたからじゃないかなぁ」
そう答えて前を向く
正直、恋愛感情って言うものはわからない
好きとか嫌いとか、ぼくにはあまり理解が出来ないんだ
「それよりほら!早く行こ行こ!」
そう言って、少し前をラピードと一緒に歩く
そんな話よりも、結界の外の世界の方が、今のぼくには興味があるんだ
「あっ!アリシア!」
「ったく、これじゃ面倒見るために来たんだか、見られるために来たんだかわかんねぇな」
大きくため息をつきながら、ラピードと先を歩くアリシアを見つめる
お転婆で活発的なアリシアの事だから、こうなることはなんとなく予想していたが…
「ほらエステル、早く追いかけようぜ?」
「……ユーリはアリシアのこと、好きなんです?」
「あん?なんで今そんな話すんだ?」
首を傾げてエステルを見る
「さっき、アリシアがいる所では話ずらそうって顔してたので…」
少し遠慮気味にエステルは俯く
「なるほどね…ま、さっきのアリシアの様子見見てわかると思うが……あいつ、自分の恋愛事情について疎いんだわ。ナンパされようが告白されようが気づかねぇんだよ…」
歩く速度は落とさずに言葉を繋ぐ
下町の住民なら、一度は必ずアリシアに告白してるんだが…
それに全く気づかないのがアリシアだ
「ってことは、やっぱりユーリはアリシアが好きなんです?」
食いつくようにエステルは聞いてくる
「まぁ……な?でも、全く気づかねぇんだよなぁ、あいつ。だから、言わないでおいてくれ」
「…いいんですか?それで」
「ま、いつかは気づいてくれることを信じるしかねぇな、今は」
「ユーリー!!!エステリーゼーー!!!はーやーくーー!!」
離れた所で、アリシアがオレらの名前を呼びながら手を振っている
「ったく、落ち着かねぇお嬢さんだことで…
今行くから待ってろ!!…エステル、走れっか?」
そう聞いて、手を差し出す
「あ、はい!」
差し出したオレの手に、エステルは自分の手を乗せた
そして、並んでアリシアの方へと駆け出した
「…………あれ?」ズキッ
胸に手を当てて首を傾げる
ユーリとエステリーゼがこちらに向かって走ってくる
いや、それはいいんだけど…
手を繋いで走ってる二人を見て、何故だか胸が痛んだ
なんでそうなったか、理由はわからない
けど、何故かすごく痛い
「クゥン?」
ラピードの鳴き声にはっとして足元を見ると、どこか心配したようなラピードが目に映る
「…大丈夫だよ、ラピード」
しゃがんで微笑みながら頭を撫でる
ふわふわした毛の感覚が落ち着く
「ったく、先に行きすぎだっての」
顔を上げると、息を切らせたユーリとエステリーゼの姿が目に入った
「ごめんごめん、楽しくなっちゃってつい」
少し苦笑いしてそう答えた
いつの間にか、胸の痛みはなくなっている
(気の所為、だよね。きっと)
「さっ、行こっか」
そう言って立ち上がる
「おう、今度はもうちっとゆっくり歩いてくれよな?」
「はーい!わかってるよ!」
ニコッと笑って答える
帝都とハルルの街中間、デイドン砦はもうすぐ目の前だ
「なんか、厳重体制って感じだねぇ…」
砦に着いて早々、フードを深く被る
『砦』って言うくらいだからわかってたけど、やはり騎士がいる
しかも、かなり多い
「ユーリを追ってきたんでしょうか…?」
不安そうに顔を歪めながらエステリーゼは呟いた
「さぁな…ま、さっさと超えちまった方がいいだろ。ただ、行動は慎重にな」
「そうだね…騎士が多いとこ、あんまり居たくないし…」
そう言ってユーリの背に隠れる
これは、いつまで経っても変わらないと思う
「?アリシア、そんなに騎士が苦手なんです?」
不思議そうに首を傾げながら、エステリーゼは見つめてくる
「気にしないでやってくれ。昔っからだからさ」
ユーリは気にする素振りも見せずに歩き出す
その後をピッタリとくっつく
エステリーゼも後ろから来ている……はずだった
「あれ?エステリーゼ…??」
気配がしなくて振り返ると、エステリーゼは商人の元にいた
「…慎重にって言葉、理解してんのかねぇ、あのお嬢様は……」
大きくため息をつくと苦笑いする
「……わかってない気がする」
ユーリに合わせて、ぼくも苦笑いした
本当は早く抜けちゃいたいんだけど、エステリーゼを置いて行くわけにもいかないから、ぼくらは彼女のもとに足を向けた
「いらっしゃい」
ぼくらを見るなり、商人のおじさんは声をかけてくる
「こんなところでお店開いてて、お客さんくるの?」
ふと思った素朴な疑問をすると、ユーリは横目で言うなと訴えてきていた
「いやぁ、本当はハルルに行きたいんだけどねぇ……なんでもこの先に魔物の群れが出たらしくて、みーんな足止めくらっちゃってるんだよ」
苦笑いしながらおじさんはそう教えてくれた
「魔物ねぇ…」
隣でユーリはそう呟いた
「ふーん……教えてくれてありがとう、おじさん」
そう言ってその場を去ろうとする
「あ…!おじさん、私も行きますね!」
後ろで、エステリーゼがそう声をかけたのが聞こえた
「さて、どうすっかねぇ」
そう言ってユーリは腕を組んだ
「?何がです?」
エステリーゼはそれに首を傾げた
「え…さっきの話、聞いてなかったの?」
ぼくがそう言うと、更に首を傾げる
「この先、魔物が出てて通れねぇんだってさ」
少し苦笑いしながらユーリは手短にそう言った
「そんな…フレンはこの先のハルルに向かったのに…」
肩を落としながらエステリーゼは言う
こんなところで足止めをくらうなんて思っていなかったし、当然の反応だろう
「…ちょっと情報収集でもしてみっか」
「そうだね、エステリーゼほっといたら一人で勝手に行っちゃいそうだもんね」
そう言ってユーリの案に賛成した
「二人とも…ありがとうございます!」
嬉しそうに彼女は笑った
…まぁ、ぼくとしても長時間、騎士のいる所にいたくはないし、ね
デイドン砦の塀の上、一番高いところに登って砦の向こう側……ハルルへ続く平原を見る
視力なら誰よりもいい自信がある
「アリシアー、どうだー?」
「んー………、ちょっと微妙かなぁ…」
下から聞こえた声にそう返す
見た限り、砦のすぐ近くでいくつもの土煙が上がっているのが見える
あれ全部魔物なんだろうし、通り抜けるのはほぼ不可能そうだ
「………駄目、どこもかしこも土煙上がってて、抜けられそうにない」
ユーリの傍に飛び降りながら言う
「さて…どうしたものかねぇ」
ユーリはうーん、と顎に手を当てる
待つのが本当は得策なんだろうけど、待ってる余裕はない
エステリーゼもぼくも、いい案がないか考える
…そんな時だった
「……誰??」
背後に人の気配を感じて振り向く
すると、銀色の綺麗な長髪の人が目に入る
顔だけ見たら女の人っぽいんだけど、服装から見て男の人なんだろう
「……………」
その人は、ぼくの問いには答えずにただ砦の向こう側をじっと見つめている
「あの、何が見えるんですか?」
恐る恐るエステリーゼが聞くと、一瞬だけこちらを向く
フードは被ったまま、だけど、その人の瞳は、確かにぼくの目を見つめた
ほんの数秒、けれど何故かその数秒が長く感じた
「…………この世界の真理」
ぼくから目を離して、また遠くを見つめながら、たった一言そう呟いた
何を言っているのか理解出来なくて、ぼくもユーリも、エステリーゼも首を傾げる
「………………その血筋、いつまで隠せはしないぞ」
「………え?」
離していたはずの視線を真っ直ぐぼくに向けて、その人は真剣な声でそう言った
そして、ぼくの返事は聞かずにその場を去って行く
……鼓動が、うるさい
嫌なくらいにドクンと大きな音を立てている
…何故バレたんだろう
バレたかは定かではないけど、でも、あの口調はどう聞いても『わたし』を知っているようだった
「……今の、どういう意味でしょう?」
不安そうにエステリーゼが首を傾げた
「さぁな…?考えたってわかんねぇし、あんな得体の知れねぇやつの言葉、気にする必要ねぇだろ」
そう言ってユーリは考えるのをやめて顔を上げる
…確かにユーリの言う通りだ
気にしてたってどうにも出来ない
…だって、バレているとは限らない
それに、さっきの人は誰かに言いふらすような雰囲気もなかった
騎士団にバレなければ、それでいい
「ほら二人とも、そろそろ下降りるぞ」
「………うん、そうだね。ここに居てもどうしようもないしねぇ」
頭の後ろで手を組む
「ですね…」
未だに気にした様子でエステリーゼは少し振り返る
……エステリーゼも、なんか隠してるのかな?
下に降りると、突然大きな地鳴りが聞こえてくる
カンッカンッカンッカンッ!!!!
「魔物の群れだ!!門を閉めろ!!」
けたたましい音と共に、門がゆっくりと閉まりだした
「門が閉まるわ!急いで!!」
赤髪の女の人が、上から外へ声を掛けていた
「うわ…やばそう」
半分他人事のように呟く
実際、自分が外に居る側だったらそんなこと思えないんだろうけど…
「急げ!!急いで閉めるんだ!!」
「門を閉め切るのを待って!!まだ外に人が残ってる!!!」
閉め切ろうとする騎士達に、彼女は静止をかけるが聞く耳を持とうとしない
「……ったく、しゃーねぇな……アリシア、お前とエステルは此処で待ってろ!」
「へ?…ちょっ!?ユーリ!!」
ぼくらに声をかけると、ユーリはラピードと一緒に門の方へ駆け出す
「あっ!!ユーリ!!待ってください!!」
「エステリーゼ……!!駄目だって!!」
エステリーゼに静止をかけるが、そんなことお構い無しに、彼女も門の方へ駆け出す
門は既に、ラピードによって閉じることを中断されている
そのラピードの傍にぼくは駆け寄る
外には子どもと、怪我をした男性が一人…
ユーリは子どもの元に、エステリーゼは男性に駆け寄ったのが目に映る
怪我をした男性に、エステリーゼは治癒術をかけた
(……あれ、エステリーゼ……今………)
あまりよく見えなかったけど、確かに今、エステリーゼの
術を使えば、絶対に光るはずなのに…
気の所為…かな…?
「あっ…!!ぬいぐるみさん…!!」
そんなことを考えていると、女の子の声が聞こえる
どうやら、ぬいぐるみを落としてしまったみたいだ
「ちっ…!!」
門の前で女の子を下ろすと、ユーリはUターンする
「えっ!!ユーリ!?!!」
止める間もなく、一目散にぬいぐるみの方へ駆け寄ると、掴み取ってまたこちらへ走り出す
門番が動けるようになってしまったみたいで、再び門が閉まり出す
「ユーリ!!!!」
隣からエステリーゼの悲痛な声が聞こえる
チラッと見ると、とても心配そうに顔を歪めた彼女が目に映る
「ユーリ!早く!!」
苦笑いしながらユーリに声をかけた
多分間に合うと思うけど、一応声かけてあげないと後で拗ねられそうだし
門が閉まるギリギリで、ユーリは門の内側へスライディングした
そして、閉まると同時に魔物がぶつかる音が辺りに響き渡った
「ほい、もう落とすんじゃねぇよ」
女の子にぬいぐるみを渡しながら、ユーリは微笑んだ
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「本当にもう、なんとお礼を言えばいいか…!」
「怪我まで治して頂いて、本当にありがとうございます」
先程助けた人たちが、エステリーゼとユーリの元にお礼を言いに来る
「いえいえ!皆さんが無事で本当に良かったです!」
自分の事のように嬉しそうにしながら、エステリーゼはそう答えた
「皆無事でよかった………あ、あれ…?」
助けた人たちが離れると、エステリーゼはその場にしゃがみ込んだ
足の力が抜けた…の方が正しいのかもしれないけど
「ははっ、安心した途端それか」
そう笑いながら、ユーリも座り込んだ
それにならって、ぼくも座る
「結界の外ってこんなに危険なんですね…」
当たり前のことをエステリーゼは意外そうな表情で呟いた
「まぁそうだろうね。結界の中とは違って、何処にでも魔物はいるもんね」
「そうですよね………。ここに結界を置くことは出来ないのでしょうか…?」
首を傾げながら、エステリーゼはぼくを見つめてくる
「んー、
顎に手を当てて答える
第一に、だ
「そもそも、帝国が一般市民のために、っていうのは考えにくいよな」
「同感」
ユーリの言う通り、自分本位な帝国の評議会と貴族たちのことだ
自分たちのためには使いそうだけど、一般市民のために、なんていうのは考えにくい
…それは、ぼくが下町に逃げた時から今までの様子を見て、痛いほどにわかった事だ
エステリーゼはそれを聞くとガックリと方を落とした
そんな話をしていると、カシャッカシャッと、大嫌いな音が聞こえてくる
思わず隣にいたユーリに抱きつく
「そこの三人、少し話を聞きたい」
近づいて来た騎士はそう声をかけてくる
少し顔をあげると、ユーリとエステリーゼが顔を見合わせているのが見えた
今、騎士の元に行く訳にはいかない
…いや、ぼくに関しては何時だって行きたくないけど…
「何故に通さんというのだ!?魔物など、この俺様の拳で倒すというものを!」
突然、門の方から叫び声が聞こえた
そちらを見ると、一人の男が騎士と言い合いをしていた
その近くには、仲間と思わしき人影が数人ある
「だから!そう簡単に倒せるやつじゃないと言っているんだ!!」
騎士は負けじと怒鳴り声をあげる
「貴様、我々の実力を侮ると言うのだな?」
男がそう言うと、近くに居た大剣を背に掛けた男は、その柄に手をかけた
「おい、やめろ!!」
周りの騎士たちは緊急事態と見た様で、一目散に門の方へと集まり出す
「我ら魔狩りの剣を甘く見るとどうなるか、思い知らせてやる!」
「ちっ!これだからギルドの連中は……」
ぼくらの近くにいた騎士もそちらへと向かって行った
「今のうちだ!行くぞ!」
ユーリの合図でエステリーゼとラピードが立ち上がる
「アリシア、立てるか?」
硬直してしまったぼくに、ユーリは優しく聞いてくる
無言で頷いてゆっくり立ち上がると、その後に立ち上がったユーリに手を引かれて、その場から遠ざかる
来た方の門の前まで来ると、その足を止めた
「はぁ……これじゃあ当分、進めそうにねぇな」
困ったようにハルルは続く道のある門の方を見つめながら、ユーリは呟いた
「ねぇ貴方たち、私の下で働かない?」
少し聞き覚えのある声に振り返ると、先程避難誘導していた赤髪の女の人がそこにいた
「報酬は弾むわよ?」
ジャラッと、明らかにガルドの入ったと思われる袋を手に持って、彼女はユーリを見た
肝心のユーリは全く興味がなさそうに明後日の方向を見ると、ぼくに目で合図してその場を立ち去ろうとする
「おい、お前ら
ユーリの態度が気に入らなかったようで、傍に居たお付の人っぽい男の人は不機嫌そうに言う
「確かに返事をしなかったぼくらが悪いけど、名乗りもしないでお金で吊ろうとするもの失礼だと思うな」
頭の後ろで手を組んで横目で見る
「お前らっ!!」
今にも飛びかかって来そうな勢いで、男の人は足を前へ踏み出す
それを、赤髪の女の人は手を前に出して静止した
「予想通り、面白い子たちだわ。私は
彼女は満足そうに笑いながら、そう言った
「ふーん、ギルド、ねぇ?」
あからさまに興味無さそうにユーリが呟く
すると、再び大きな地鳴りが辺りに響く
「私、今困ってるのよね、あの地鳴りの原因のせいで」
「あれって一体なんなんですか?」
そうエステリーゼが首を傾げる
「平原の主ね。簡単に言ってしまえば、魔物の親玉かしら」
「魔物の親玉って……そんなのいるんだ」
あんな群れの親玉なんて、どれだけ大きいんだろうか…
「何処か別の場所から抜けられることは出来ないのでしょうか」
エステリーゼは困り顔でカウフマンさんに聞く
「さぁ?平原の主が居なくなるのを気長に待つしかないんじゃないかしら?」
「急いだって仕方ねぇってわけだ」
「そんなの待っていられません!私、他の人にも聞いてきます!」
そういうが早いか、エステリーゼは一人で走り出す
「あっ!エステリーゼ!!」
ユーリに目で合図を送って、ぼくはその後を追いかけた
少し探して、砦の宿屋近くでエステリーゼの姿を見つけた
ムスッとした表情でその場に座り込んでいた
「エステリーゼ」
ぼくが声をかけると、ちょっと驚いた顔をしてから、ふいっと顔を背けた
「少し休憩しているだけです」
「別にぼくはそれを聞きに来たわけじゃないよ」
苦笑いしながらそう言って、彼女の前に座る
「兄さんのこと、心配なのはわかるけどさ、少し冷静になって行動しないと。騎士に見つかったら、それこそ兄さん探してる余裕なくなるよ?」
ぼくは優しく、エステリーゼにそう言った
「…アリシアは、フレンが心配じゃないんです?」
ゆっくり顔をこちらに向けながら、そう問いかけて来た
「んー…そこまで心配ではないかなぁ。…だって、ぼくのお兄ちゃんだもん。強いし、それに、警戒心高いし、案外気づいてたりしそうだからね」
クスッと笑いながら答えた
確かに不安なところが、ゼロというわけじゃない
でも心配したところで、どうにも出来ないんだ
それならば、信じるしかない
ぼくの兄さんの実力と、持ち前のあの冷静さを
「………アリシアは強いですね」
「そう、かな??」
コテンッと首を傾げる
『強い』と言われても実感がない
……まだ、そう言われる程ではない気がするんだ
「おーい、二人とも。別ルートで抜ける方法、見つけたぞ」
「本当ですか!?」
ユーリの声に、エステリーゼは嬉しそうな顔をしながら立ち上がった
「おう、騎士に絡まれる前にさっさと行こうぜ?」
ぼくとエステリーゼを見ながら、ユーリはそう言った
「賛成、騎士に絡まれるのはもうごめんだよ」
立ち上がりながら苦笑いする
二人と顔を見合わせて、ユーリを先頭に向け道へと歩き出した
*スキットが追加されました
*フレンとの関係