リクエスト作品
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「ジューンブライドっていいですよねぇ…」
少し休憩、とダングレストの宿屋でお茶をしている最中、唐突にエステルが呟く
あまりにも急な発言に驚いて、飲んでいたお茶を吹き出した者も少なくない
「ゲホッ!ゲホッ!……エ、エステリーゼ様……?急にどうされたのですか?」
ゴホゴホと咳き込みながらフレンが聞く
「あ…いえ、これを見ていたら特集が乗っていたので…」
エステルは、ダングレウォーカーを持ち上げながらそう言う
「あら、今回は花嫁と花婿特集なのね」
ニッコリと微笑みながらジュディスが言うと、力強く頷く
「はい!これ見てたら、ちょっと羨ましくなっちゃって」
軽く肩を竦めながら、エステルはそう言う
「花嫁と花婿と言えば…アリシアちゃんと青年は式挙げないわけ??」
ニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべてレイヴンは、並んで座っている二人を見つめる
アリシアとユーリは顔を見合わせると、困ったように苦笑いし合って肩を竦める
「挙げねーのかって言われても……なぁ?」
「まあ……ねぇ……?」
「むむ?うちらには言えぬことでもあるのかの?」
パティが二人に問いかけるがそれには答えようとせず、明後日の方向を向いてしまう
「何よその反応…本気で言えないこと、あるわけ?」
咎めるようなリタの声に、二人は再び顔を見合わせる
中々二人が口を割ろうとしない中、カロルが二人に声をかける
「ユーリとアリシア、この特集の撮影の手伝いに呼ばれてたよね?これ、まだ発売されてないし」
首を傾げてカロルが聞くと、二人同時にギクリッと肩をあげる
そう、これは二人が撮影を手伝ってくれたからと、発売前に貰ったものなのだ
その反応に、大方の検討がついたのか、フレンがジト目で二人を見つめる
「まさかとは思うけど、ついでに…ってノリで簡単に済ませてなんてないだろうね?二人とも」
隠しきれないと判断したのか、ユーリが盛大にため息を漏らす
「…いや……あんまりにもシアが可愛すぎるから、つい……って言うか……『あれ』着たシア、誰かに見せんの嫌だったっつーか…」
普段では有り得ないくらい歯切れが悪い
ガシガシと頭を掻きながらどう説明すべきかと困っている
「もう……だから面倒になるよって言ったじゃん……」
呆れ気味にアリシアがユーリを見つめる
「しゃーねぇだろ…あのシア見せるとか出来ねえよ……ましてやおっさんに見させられねえし…」
ムスッと不機嫌そうに眉を寄せてユーリは言う
「……あ!ありましたよ!二人の写真!」
エステルの言葉にお茶を飲んでいたアリシアが驚いて咳き込む
「ゲホッゲホッ…!!エっ!エステルっ!!それ貸してっ!!」
慌ててエステルから奪い取ろうとするが、すっと避けられてしまい、挙句の果てにジュディスに後ろから羽交い締めにされる
そうしている間に、ぞろぞろとエステルの周りに皆集まり出す
「うわぁ……アリシア、綺麗……」
少し頬を赤らめながら、カロルは写真を見つめる
ドレスの型自体はとてもシンプルなものだが、真っ白ではなくほんのりと赤みがかった色をしていて、彼女の赤髪といい具合に馴染んでいた
「ユーリもカッコイイのじゃ…!」
少し興奮気味にパティは写真を見つめる
普段の服装からは考えられない、真っ白なタキシードを身にまとっていて、珍しくきっちりと着ている
「……くっ………」
写真を見て、フレンは笑いを堪えるように口元を隠しながら後ろを向いた
「おいこら、フレン…笑うなら普通に笑えっつーの…」
大きくため息付きながら、ユーリは項垂れる
だから嫌だとあの時断ったというのに……と、後悔する
「くっ……はははっ……す、すまない…あまりにも似合って無さすぎて…くくっ」
抑えきれなくなったのか、お腹を抱えて笑い出す
流石にこれは笑いすぎだろう
「いやぁ…にしても、本当、アリシアちゃんは可愛いわねぇ……」
食い入るように写真を見つめてレイヴンが呟く
当の本人は、既にジュディスから解放されており、耳まで真っ赤に染めてうずくまっていた
「内緒で挙げた式の話、聞きたいわね」
クスッと悪戯そうに微笑みながら、ジュディスは二人を見つめる
「おっ!おっさんも知りたーい!」
一人が言い出せば、次々に知りたいと言い出す
「あー……いや……それはちょっと……な?」
苦笑いしながらユーリは目線をアリシアへと向ける
ユーリを見上げるように顔をあげて首を横に振る
言ったら殺す、とでも言いたげな表情で彼女はユーリを見つめた
「いいじゃないかい、教えてくれたって」
いつの間にそこに居たのか、フレンはユーリに詰め寄る
「話したくねぇもんは話したくねぇんだっての」
肩を竦めながら、目の前の幼馴染みを静止するが、それで引くような彼らではない
アリシアが口が堅いことを知っているがゆえ、ここぞと皆ユーリに詰め寄る
アリシアは苦い顔をしながら、少し離れてその様子を眺めながら、『あの日』のことを思い出していた
~二週間程前~
「はぁ……なんでオレが……」
「もう…それならフレンに代わってもらえばよかったのに」
嫌そうにため息を付くユーリに、呆れたようにアリシアが言う
二人は今、ダングレウォーカーの編集部の前へとやって来ていた
ギルドの依頼で『花嫁役を出来る人を…!』と、カロルが頼まれ、ならば付き合っているユーリとアリシアが行けばいい
…等と言われ、半強制に二人が受けることになった
もちろんユーリは嫌だと断ったのだが、『それなら僕が…』とフレンが立候補するものだから、嫌々付いてきたのだ
「大体、必要なのは花嫁役だろ?花婿役は必要ねーだろ」
「だーかーらー、嫌ならフレンに任せれば良かったじゃん」
尚も嫌がっているユーリにアリシアは呆れを通り越して苛立つ
何度も同じことを言われて、流石に頭にきてしまっている
「あら、もう来てくれたのね!」
声の聞こえた方向に顔を向けると、依頼してきた編集長のエリスが歩み寄って来ていた
「エリスさん、こんにちは」
「こんにちは、ごめんなさいね急に……花嫁役だけじゃなくて花婿役も来れなくなっちゃって」
大きなため息をつきながら彼女は項垂れる
「あはは……エリスさんも大変ですね……」
苦笑いしながらアリシアは言う
花婿役も居なくなったと聞いて、ようやくユーリも納得した
…まぁ、それとやる気になったかは別問題なのだが
「なーるほど、それでオレが呼ばれたわけね」
ふぅ…と面倒くさそうにため息をつく
「…ユーリ、もう一回言うけどさ、そんなに嫌ならフレンと代わりなってば…」
「逆になんでシアがそんなにノリノリなのかがオレは知りたいがな」
「……どっかの誰かさんが、面倒くさがって式挙げようとしてくれないから、こうゆう時じゃないと着れないんだもん」
半分拗ねているよう口調でいいながら、ジト目でアリシアはユーリを見上げる
確かに指輪は貰っていたが、女性なら一度くらいウェディングドレスを着てみたいと思うのが普通だろう
そんなアリシアの不満に答えずに、ユーリは明後日の方向を向いてしまう
ユーリとて面倒臭いだけが理由ではない
むしろ挙げてあげたいと思ってはいる
が、いざそれを言うとなると恥ずかしくて言えそうにないし、第一式を挙げるとなると、フレンやおっさん、凛々の明星のメンバー達がここぞとばかりに集まるのが目に見えている
彼らが来たりでもしたら、茶化されるのは明白
そもそも、ウェディングドレスを着たアリシアを誰かに見せる等ということ自体、ユーリは嫌なのだ
だからこそこの撮影も反対していたのだが…
遠まわしに言いすぎてアリシアにその真意が伝わっていないのが現状だ
「あら、じゃあ写真撮るついでにあげちゃいます?」
クスッと笑いながらエリスが聞く
すると、え?っと二人同時に声を上げる
「二人の撮影場所、丁度海の見える綺麗な場所なのよ。滅多に人も来ないし、私達離れた所で待っててあげるから」
引き受けてくれたしね?とニッコリと微笑む
「…だって!ユーリ!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべて再びユーリを見上げる
ここまで露骨に嬉しそうにされてしまうと、流石のユーリも断るなど出来ない
「…ふぅ……わーったよ、ちゃんとやるっての」
肩を竦めて苦笑いすると、アリシアは嬉しそうにガッツポーズをした
こりゃはめられたな…と心の中で苦笑する
「ふふ、じゃあ早速行きましょうか」
エリスはそう言いながら手招きする
軽やかな足取りでアリシアはその後を付いていく
自分とは同い歳に見えない子供っぽい行動に、ユーリはため息をつく
そこが彼女らしさでもあるのだが、もう少しだけ大人になって欲しい
「ユーリ!!はーやーくー!!」
「へいへい……今行きますよっと」
中からアリシアの呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと足を踏み出す
未だに気は乗らないが、あれほどアリシアが喜んでいるのであるから、今更やめるなどと到底言えない
この際、どうにでもなれ!っと、半分投げやりな気持ちで、ユーリは二人の後に続いた
~数十分後~
「……あんた、絶対に産まれてくる性別間違えてるよ……」
「あん?そりゃどーゆう意味だよ……」
着替えを終えたユーリに、手伝いをしていた男性がボソリと呟く
それに、あからさまに不機嫌な声で聞き返す
今、ユーリは普段の服装からは考えられない真っ白な衣装を身にまとっている
ワイシャツの上に深緑のベスト、ネクタイはベストと同じ色で、真っ白なタキシードを着ている
自前の長髪は低い位置で一纏めにしていて、胸ポケットには紫色の造花のブローチがついている(因みに靴は真っ白な革靴)
確かに、パッと見た感じでは男装している女性に見えなくはない
もう少し身長が低ければ絶対に間違われているレベルだ
「いやぁ、最初に頼んでいたモデルよりもすごくいいよ!ある意味ドタキャンしてくれて正解かもしれん」
かっかっかっと、盛大に笑いながら男性はユーリの背を軽く叩く
こちらとしては、慣れない服装を着させられていてとても笑って済ませられそうにないのだが…と、本音が喉元まででかかる
が、別段褒められて悪い気がする訳でもなく、むしろ少々嬉しくもあったためその言葉をぐっと抑え込んだ
「…ま、確かにたまには悪くねえかもしんねぇが……」
じっと服を眺めながらユーリは呟く
一言で言えば落ち着かない
なんせこんなにきっちりした服を着るのは騎士団以来であったし、元々この手の服が苦手なユーリにとっては落ち着かないのだ
「にしても、花嫁さんの方は随時時間かかってんなぁ…大方、髪を結くのに苦戦してるんだろうが……彼女、あんたより髪長かったしな」
チラッと隣の部屋に続く扉を見ながら男性は言う
確かにアリシアの方が断然長い
長い、とかいうレベルじゃない
腰よりもさらに下、太ももの当たりにまで伸ばされているその髪を結くのは、かなり時間がかかるのが目に見えている
「編集長ー?こっちは終わってますよー?」
「あ、終わってた??こっちも終わってるから、入って来ていいわよー!」
男性が大声で声をかけると、エリスは同じ様に大声で答える
「なんだ、終わってるなら早く言って下さいよ…それじゃ、隣に行きましょか」
「はいよ」
ブツブツと小声で文句を言う男性の後に続いてユーリも隣の部屋に入る
部屋に入った途端、男性がピタリと動きを止めた
それは、ユーリも同じだ
「あら!ユーリさんもいい感じねぇ!でもまぁ…アリシアさんには敵わないわね」
ユーリを見たエリスは、満足そうに鼻を鳴らす
真っ白ではなく、少し赤みがかったベアトップで、ふんわりとした少し丈の短めなドレス
靴はいつも履いているブーツよりも少し高めのクロスリボンシューズ
これも、少し赤みがかった色をしている
所々にリボンが沢山ついていて、ベールには蝶の柄のレースがついていて、肘の上辺りまである純白のグローブを付けている
グローブにも手首のあたりにちいさなリボンがついている
髪は少し高めの位置で結んで、毛先の方はくるくるっと巻いて前に流している
彼女は彼女で、普段あまり見ない服装だ
『可愛い』、その一言に限る
綺麗だとか、美しいだとかではなく、本当に可愛い
あまりの可愛さにユーリが見とれて身動きが取れずにいると、ドレスの裾を摘んで少し小走りでアリシアからユーリに近づく
「流石ユーリ、何着てても様になるね」
恰好いいよ!と、少し頬を赤らめながらニッコリと笑う
「…サンキュ、シアも…似合ってるな、そのドレス」
左手で口元を隠しながらユーリはアリシアから目線を離した
直視してはいけない
瞬間的にそう頭が警告する
あまり見つめていたら、自分の中で何かが崩壊しそうだった
「?ユーリ、顔赤いよ?」
アリシアは首を傾げてユーリを見る
「なっ、なんでもねぇよ…っ/////」
さらに顔を赤らめたユーリに、ますます訳がわからなくなる
「ふふふっ、さ、そろそろ移動しましょう?裏口の方に馬車止めてあるわ」
エリスはクスクス笑いながら声をかける
「……ほら行くぞ、シア」
そう言ってユーリが手を差し出すと、アリシアはいつもみたいに手を繋ぐのではなく何故かその腕抱きついてくる
歩きにくい、は百步譲っていいとしても、これだけ引っ付かれるのは勘弁して欲しい、と心の中で悪態ついた
ただでさえ直視しているだけで色々崩壊しそうだったのに、余計に崩壊してしまいそうだ
そんなユーリの気持ちも知らないアリシアは、ニコニコと嬉しそうにしているものだから、離れろと言うに言えない
そこまで露骨に嬉しそうにされてしまうと、流石にそんなこと言えるわけもなく
結局ユーリが諦めてその状態でエリスの後を歩いた
撮影について行く一部の男達に、恨めしそうな顔で睨まれていたのは、あえて気づかない振りをしていたユーリであった
「わぁ……!本当に綺麗……!!」
馬車に揺られて十数分、目的の丘に到着していた
エリスさん達は準備があるから、と離れた場所にいる為二人からは彼女達の姿が見えない
つまり、今この場にいるのはユーリとアリシアだけなわけである
「おいおい、そんなにはしゃいでっと転けるぞー!」
一人はしゃいで、飛び跳ねたりくるっと回ってみたりしているアリシアに、呆れ気味に声をかける
「大丈夫大丈夫!そんなドジは……きゃっ…!?」
くるっとユーリの方を向こうとして、思いっきりバランスを崩す
思わずぎゅっと目を瞑るが、抱き締められる感覚にすぐに目を開いた
視界に入ったのは、いつも見える『黒』ではなく『白』
でも、優しく抱き締められるこの感覚は紛れもなくユーリのものだ
アリシアが顔をあげると、言わんこっちゃないと呆れ気味にユーリが見下ろしていた
「ったく、だーから言ったじゃねえか」
「む……平気だと思ったんだけどなぁ…」
アリシアがそう呟くと、どちらから、というわけではないが、この状況がなんだか可笑しくなっていて
気づいたら二人揃ってクスクスと笑っていた
二人で過ごせるこの時間……それが何よりも嬉しかった
普段はギルドのメンバー達とほぼずっと一緒にいるのだから、特にそう思うのだろう
「くくっ………シア」
しばらく笑ったところで不意にユーリがアリシアから少し離れて、一呼吸置いて彼女の名を呼ぶ
真剣な顔つきで呼んでくるユーリにアリシアは不思議そうに首を傾げる
二人の目線が重なると真剣そうな顔から一変、照れくさそうに少し顔を赤くして微笑む
「健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、一生貴女を愛します。……だけど、その無防備なとこ、そろそろ治してくれないか?いい加減オレが困る」
突然言われ、アリシアは驚きを隠せない
あれほど嫌がっていたのに……と心の中で呟く
それでも、ユーリから言ってきてくれたことが嬉しくあるわけで
ニコッとユーリに微笑み返す
「健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、ずーっと貴方の傍にいます。…それなら、ユーリもその放浪癖、治してよ?」
互いに言い合って、また笑い出す
二人きり、というのがこの二人らしいだろう
アリシアも、もとより華やかで豪華な式はあまり好んでいなかった
二人だけでも、こうしてそれっぽく出来れば充分満足だった
一頻り笑うと、ユーリの手がアリシアの頬に添えられる
それに合わせるように彼女は軽く目を瞑って少し背伸びをする
そして、その唇にユーリの唇が重なる
ただ触れるだけの口付け
それでも、何故かいつもよりも心臓の鼓動が早い
ユーリもアリシアも、それは同じだった
少しだけ名残惜しそうに唇が離れると、ユーリは自身の顔を隠すようにアリシアに抱きつく
「…くっそ……////やっぱこうゆうのは馴れねぇ……っ//////」
少し上擦った声でそう呟く
きっと、というよりも、確実に恥ずかしかったのだろう
「……でも、さっきまであんなに嫌がっていたのにどうしたの?」
アリシアがそう聞くと、少し黙り込んでしまう
理由がわからず、アリシアがユーリ?と名前を呼ぶと聞き取れるか聞き取れないかの声で呟く
「………お前のその姿……誰にも見せたくなかったんだよ………っ/////」
ぎゅうっとアリシアを抱き締めるユーリの腕に力が入る
その一言で、ようやくアリシアは理解した
つまり、今の今までユーリが嫌がっていたのは、面倒なわけではなくウェディングドレスを着ているところを誰かに見せたくなかっただけであったことを、彼女はようやく知った
『独占欲』…その言葉が酷くしっくりときた
そう思って貰えるくらいに、ユーリに愛されているんだとアリシアはあらためて思う
「ふふ……でも、その気持ちちょっとわかるかも。私も今のユーリ、誰かに見られたくないもん」
クスッと笑いながら、アリシアはそう言う
すると、ユーリは顔が見えるように少しだけ離れる
未だに頬を赤らめながら、ニッと笑う
「…本当そのドレス、よく似合ってるぜ。…シア、愛してるよ、これからもずーっと、な」
「ユーリも、すっごく似合ってるよ。…私も、愛してる。これからもずーっと、ね!」
ニッコリと微笑みあいながら、もう一度そう口にする
二人だけの、静かな式…
それでも、充分過ぎるくらい、二人は幸せであった
「(あの後、ユーリが中々笑えなくて苦労したっけ)」
苦笑いしながらアリシアは問い詰められているユーリを見つめる
エリス達の準備も終わり、いざ撮影!っとなったら、ユーリが中々笑顔をつくれなくて撮影にものすごく時間がかかった
ダングレウォーカーに載ってる写真は、休憩中に偶然撮れたものを使っているのだ
どうやらユーリは自然体でいる方がすぐに笑顔になれるらしい
と、その時撮影に関わった人は誰もがそう思った
「ねー!教えてくれたっていいじゃんかー!!」
「そうですよ!教えてください!!」
一向に引いてくれなさそうな彼らに、ユーリはそろそろ苛立ち始めていた
言いたくないことの一つや二つあるだろう
ましてやユーリからしたらあの日の出来事は、それこそ誰かに知られたくないことであって…
目線でアリシアに助けを求めるが、どうにもできない、と肩を竦めて苦笑いする
いつまでやるつもりなのか…とアリシアが考えていると、不意にテーブルの上のダングレウォーカーに目がいく
なんとなく手に取って、パラパラとページを捲っているとあるページで手が止まる
そのページを見て一瞬思考が停止しかける
見開きのページで他のページと違い、片側に大きく一枚の写真を
もう片側に大きく見出しと補足が書かれている
タイトルは『ひっそりと二人だけで式をあげるならここっ!絶好の穴場っ!』
写真はどう見てもユーリとアリシアが撮った場所だし、少し遠目ではあるが、写っているのは紛れもなく自分達だ
……しかも、絶対に見られていないと思っていたキスシーン
幸いにもエステル達はまだこのページを見ていないらしい
ガタッと大きな音を立ててアリシアが立ち上がる
勢い余って椅子が倒れるが、そんなこと気にしている余裕も彼女にはない
「む?シア姐どうしたのじゃ?ダングレウォーカーなんて握りしめて…」
音に振り向いたパティが首を傾げる
「………ごめん。ちょっと野暮用思い出したっ!!!」
パティの問いには答えず、フレン達の静止する声も聞かずに、ダングレウォーカー片手に彼女は宿屋を飛び出した
これはアリシアしか知らない事だが、編集部に押し掛けてエリスに全力で抗議したところ、その写真は使わないことになり、発売ギリギリでその写真のページだけ変えることになった
~後日談~
「アリシア…なんで教えてくれないんですか…?」グスッ
「うっ……だ、誰よ…エステルにこんな頼み方教えた馬鹿は…!!」
「お、アリシアちゃん攻略出来そうじゃなーい?」
「ええ、レイヴンさんの案が上手く行きそうですね」
「あの子、エステルには弱いからねぇ。ユーリよりも効果ありそうね」
「ユーリはアリシア以外、その手は受け付けないって言われちゃったものね」
「……だめ…ですか…?」グスッ
「うぅっ……い、いくらエステルでも、今回だけは……っ!!」
「そんなぁ……」グスンッ
「ありゃ、ちょっと微妙そうねぇ」
「ガードがちょっとだけ高めですね」
「……ねぇ、アリシアが可哀想だし、そろそろやめてあげない…?」
「おいこら、何してんだよ?こんなところでコソコソと」
「ユ、ユーリ!いつからそこにおったのじゃっ??!」
「ついさっきだよ。いい加減諦めてくれねぇか?こっちもそろそろ面倒になってきた」
「なら潔く教えなさいよ」
「それは却下。オレとアリシア、二人の秘密なんでね」
「あっ!ちょっと!せいねーんっ!!」
「エ、エステル……今回は本当にごめんって…!」
「むぅ……」
「おーい、エステル、なーに人の嫁さんたぶらかせてんだよ」ギュッ
「あ、ユーリ…!!」
「ったく、どいつもこいつも無理やり聞き出そうとしやがって」
「だって……知りたいじゃないですか…」
「オレとアリシアの秘密だから、これについては勘弁な」
「全く、隠すようなことでもないじゃないか」
「……まさか、ずーっとそこで見てたの……?」
「ごめん…止めたんだけど…」
「なんでそんなに秘密にしたがるのか、知りたいわね」
「あー?いや……だって…なぁ?」
「……ねぇ?」
「「二人で内緒で式挙げた意味なくなるじゃん/じゃねーか」」
「……まぁ……それもそう……よね」
「おーおー、息ぴったりねぇ……」
「むむ……割り込める隙がないのじゃ……」
「……まだ、邪魔しようとしてたんだ……パティ……」
~あとがき~
ども!如月です!
いやぁ…ジューンブライドも素敵ですが、リンクのユーリさん…恰好いいですよねぇ…!!
まぁお察しでしょうが、ユーリの服装はリンクのものです!
黒じゃなくて白……
たまには色が反転してるのもいいですよね!
これでフレンが黒のタキシード着て登場していたら良かったのに…(笑)
夢主ちゃんのドレスが純白じゃないのは、「少し赤みがかっていた方が髪の色と合いそうだから」…というのと、まぁ、半分は私の好みでもあります(笑)
さて、そろそろ今回はこの辺で
和香菜様、いつもいつもリクエストありがとうございます!
それでは、また別のお話でお会いしましょう
少し休憩、とダングレストの宿屋でお茶をしている最中、唐突にエステルが呟く
あまりにも急な発言に驚いて、飲んでいたお茶を吹き出した者も少なくない
「ゲホッ!ゲホッ!……エ、エステリーゼ様……?急にどうされたのですか?」
ゴホゴホと咳き込みながらフレンが聞く
「あ…いえ、これを見ていたら特集が乗っていたので…」
エステルは、ダングレウォーカーを持ち上げながらそう言う
「あら、今回は花嫁と花婿特集なのね」
ニッコリと微笑みながらジュディスが言うと、力強く頷く
「はい!これ見てたら、ちょっと羨ましくなっちゃって」
軽く肩を竦めながら、エステルはそう言う
「花嫁と花婿と言えば…アリシアちゃんと青年は式挙げないわけ??」
ニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべてレイヴンは、並んで座っている二人を見つめる
アリシアとユーリは顔を見合わせると、困ったように苦笑いし合って肩を竦める
「挙げねーのかって言われても……なぁ?」
「まあ……ねぇ……?」
「むむ?うちらには言えぬことでもあるのかの?」
パティが二人に問いかけるがそれには答えようとせず、明後日の方向を向いてしまう
「何よその反応…本気で言えないこと、あるわけ?」
咎めるようなリタの声に、二人は再び顔を見合わせる
中々二人が口を割ろうとしない中、カロルが二人に声をかける
「ユーリとアリシア、この特集の撮影の手伝いに呼ばれてたよね?これ、まだ発売されてないし」
首を傾げてカロルが聞くと、二人同時にギクリッと肩をあげる
そう、これは二人が撮影を手伝ってくれたからと、発売前に貰ったものなのだ
その反応に、大方の検討がついたのか、フレンがジト目で二人を見つめる
「まさかとは思うけど、ついでに…ってノリで簡単に済ませてなんてないだろうね?二人とも」
隠しきれないと判断したのか、ユーリが盛大にため息を漏らす
「…いや……あんまりにもシアが可愛すぎるから、つい……って言うか……『あれ』着たシア、誰かに見せんの嫌だったっつーか…」
普段では有り得ないくらい歯切れが悪い
ガシガシと頭を掻きながらどう説明すべきかと困っている
「もう……だから面倒になるよって言ったじゃん……」
呆れ気味にアリシアがユーリを見つめる
「しゃーねぇだろ…あのシア見せるとか出来ねえよ……ましてやおっさんに見させられねえし…」
ムスッと不機嫌そうに眉を寄せてユーリは言う
「……あ!ありましたよ!二人の写真!」
エステルの言葉にお茶を飲んでいたアリシアが驚いて咳き込む
「ゲホッゲホッ…!!エっ!エステルっ!!それ貸してっ!!」
慌ててエステルから奪い取ろうとするが、すっと避けられてしまい、挙句の果てにジュディスに後ろから羽交い締めにされる
そうしている間に、ぞろぞろとエステルの周りに皆集まり出す
「うわぁ……アリシア、綺麗……」
少し頬を赤らめながら、カロルは写真を見つめる
ドレスの型自体はとてもシンプルなものだが、真っ白ではなくほんのりと赤みがかった色をしていて、彼女の赤髪といい具合に馴染んでいた
「ユーリもカッコイイのじゃ…!」
少し興奮気味にパティは写真を見つめる
普段の服装からは考えられない、真っ白なタキシードを身にまとっていて、珍しくきっちりと着ている
「……くっ………」
写真を見て、フレンは笑いを堪えるように口元を隠しながら後ろを向いた
「おいこら、フレン…笑うなら普通に笑えっつーの…」
大きくため息付きながら、ユーリは項垂れる
だから嫌だとあの時断ったというのに……と、後悔する
「くっ……はははっ……す、すまない…あまりにも似合って無さすぎて…くくっ」
抑えきれなくなったのか、お腹を抱えて笑い出す
流石にこれは笑いすぎだろう
「いやぁ…にしても、本当、アリシアちゃんは可愛いわねぇ……」
食い入るように写真を見つめてレイヴンが呟く
当の本人は、既にジュディスから解放されており、耳まで真っ赤に染めてうずくまっていた
「内緒で挙げた式の話、聞きたいわね」
クスッと悪戯そうに微笑みながら、ジュディスは二人を見つめる
「おっ!おっさんも知りたーい!」
一人が言い出せば、次々に知りたいと言い出す
「あー……いや……それはちょっと……な?」
苦笑いしながらユーリは目線をアリシアへと向ける
ユーリを見上げるように顔をあげて首を横に振る
言ったら殺す、とでも言いたげな表情で彼女はユーリを見つめた
「いいじゃないかい、教えてくれたって」
いつの間にそこに居たのか、フレンはユーリに詰め寄る
「話したくねぇもんは話したくねぇんだっての」
肩を竦めながら、目の前の幼馴染みを静止するが、それで引くような彼らではない
アリシアが口が堅いことを知っているがゆえ、ここぞと皆ユーリに詰め寄る
アリシアは苦い顔をしながら、少し離れてその様子を眺めながら、『あの日』のことを思い出していた
~二週間程前~
「はぁ……なんでオレが……」
「もう…それならフレンに代わってもらえばよかったのに」
嫌そうにため息を付くユーリに、呆れたようにアリシアが言う
二人は今、ダングレウォーカーの編集部の前へとやって来ていた
ギルドの依頼で『花嫁役を出来る人を…!』と、カロルが頼まれ、ならば付き合っているユーリとアリシアが行けばいい
…等と言われ、半強制に二人が受けることになった
もちろんユーリは嫌だと断ったのだが、『それなら僕が…』とフレンが立候補するものだから、嫌々付いてきたのだ
「大体、必要なのは花嫁役だろ?花婿役は必要ねーだろ」
「だーかーらー、嫌ならフレンに任せれば良かったじゃん」
尚も嫌がっているユーリにアリシアは呆れを通り越して苛立つ
何度も同じことを言われて、流石に頭にきてしまっている
「あら、もう来てくれたのね!」
声の聞こえた方向に顔を向けると、依頼してきた編集長のエリスが歩み寄って来ていた
「エリスさん、こんにちは」
「こんにちは、ごめんなさいね急に……花嫁役だけじゃなくて花婿役も来れなくなっちゃって」
大きなため息をつきながら彼女は項垂れる
「あはは……エリスさんも大変ですね……」
苦笑いしながらアリシアは言う
花婿役も居なくなったと聞いて、ようやくユーリも納得した
…まぁ、それとやる気になったかは別問題なのだが
「なーるほど、それでオレが呼ばれたわけね」
ふぅ…と面倒くさそうにため息をつく
「…ユーリ、もう一回言うけどさ、そんなに嫌ならフレンと代わりなってば…」
「逆になんでシアがそんなにノリノリなのかがオレは知りたいがな」
「……どっかの誰かさんが、面倒くさがって式挙げようとしてくれないから、こうゆう時じゃないと着れないんだもん」
半分拗ねているよう口調でいいながら、ジト目でアリシアはユーリを見上げる
確かに指輪は貰っていたが、女性なら一度くらいウェディングドレスを着てみたいと思うのが普通だろう
そんなアリシアの不満に答えずに、ユーリは明後日の方向を向いてしまう
ユーリとて面倒臭いだけが理由ではない
むしろ挙げてあげたいと思ってはいる
が、いざそれを言うとなると恥ずかしくて言えそうにないし、第一式を挙げるとなると、フレンやおっさん、凛々の明星のメンバー達がここぞとばかりに集まるのが目に見えている
彼らが来たりでもしたら、茶化されるのは明白
そもそも、ウェディングドレスを着たアリシアを誰かに見せる等ということ自体、ユーリは嫌なのだ
だからこそこの撮影も反対していたのだが…
遠まわしに言いすぎてアリシアにその真意が伝わっていないのが現状だ
「あら、じゃあ写真撮るついでにあげちゃいます?」
クスッと笑いながらエリスが聞く
すると、え?っと二人同時に声を上げる
「二人の撮影場所、丁度海の見える綺麗な場所なのよ。滅多に人も来ないし、私達離れた所で待っててあげるから」
引き受けてくれたしね?とニッコリと微笑む
「…だって!ユーリ!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべて再びユーリを見上げる
ここまで露骨に嬉しそうにされてしまうと、流石のユーリも断るなど出来ない
「…ふぅ……わーったよ、ちゃんとやるっての」
肩を竦めて苦笑いすると、アリシアは嬉しそうにガッツポーズをした
こりゃはめられたな…と心の中で苦笑する
「ふふ、じゃあ早速行きましょうか」
エリスはそう言いながら手招きする
軽やかな足取りでアリシアはその後を付いていく
自分とは同い歳に見えない子供っぽい行動に、ユーリはため息をつく
そこが彼女らしさでもあるのだが、もう少しだけ大人になって欲しい
「ユーリ!!はーやーくー!!」
「へいへい……今行きますよっと」
中からアリシアの呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと足を踏み出す
未だに気は乗らないが、あれほどアリシアが喜んでいるのであるから、今更やめるなどと到底言えない
この際、どうにでもなれ!っと、半分投げやりな気持ちで、ユーリは二人の後に続いた
~数十分後~
「……あんた、絶対に産まれてくる性別間違えてるよ……」
「あん?そりゃどーゆう意味だよ……」
着替えを終えたユーリに、手伝いをしていた男性がボソリと呟く
それに、あからさまに不機嫌な声で聞き返す
今、ユーリは普段の服装からは考えられない真っ白な衣装を身にまとっている
ワイシャツの上に深緑のベスト、ネクタイはベストと同じ色で、真っ白なタキシードを着ている
自前の長髪は低い位置で一纏めにしていて、胸ポケットには紫色の造花のブローチがついている(因みに靴は真っ白な革靴)
確かに、パッと見た感じでは男装している女性に見えなくはない
もう少し身長が低ければ絶対に間違われているレベルだ
「いやぁ、最初に頼んでいたモデルよりもすごくいいよ!ある意味ドタキャンしてくれて正解かもしれん」
かっかっかっと、盛大に笑いながら男性はユーリの背を軽く叩く
こちらとしては、慣れない服装を着させられていてとても笑って済ませられそうにないのだが…と、本音が喉元まででかかる
が、別段褒められて悪い気がする訳でもなく、むしろ少々嬉しくもあったためその言葉をぐっと抑え込んだ
「…ま、確かにたまには悪くねえかもしんねぇが……」
じっと服を眺めながらユーリは呟く
一言で言えば落ち着かない
なんせこんなにきっちりした服を着るのは騎士団以来であったし、元々この手の服が苦手なユーリにとっては落ち着かないのだ
「にしても、花嫁さんの方は随時時間かかってんなぁ…大方、髪を結くのに苦戦してるんだろうが……彼女、あんたより髪長かったしな」
チラッと隣の部屋に続く扉を見ながら男性は言う
確かにアリシアの方が断然長い
長い、とかいうレベルじゃない
腰よりもさらに下、太ももの当たりにまで伸ばされているその髪を結くのは、かなり時間がかかるのが目に見えている
「編集長ー?こっちは終わってますよー?」
「あ、終わってた??こっちも終わってるから、入って来ていいわよー!」
男性が大声で声をかけると、エリスは同じ様に大声で答える
「なんだ、終わってるなら早く言って下さいよ…それじゃ、隣に行きましょか」
「はいよ」
ブツブツと小声で文句を言う男性の後に続いてユーリも隣の部屋に入る
部屋に入った途端、男性がピタリと動きを止めた
それは、ユーリも同じだ
「あら!ユーリさんもいい感じねぇ!でもまぁ…アリシアさんには敵わないわね」
ユーリを見たエリスは、満足そうに鼻を鳴らす
真っ白ではなく、少し赤みがかったベアトップで、ふんわりとした少し丈の短めなドレス
靴はいつも履いているブーツよりも少し高めのクロスリボンシューズ
これも、少し赤みがかった色をしている
所々にリボンが沢山ついていて、ベールには蝶の柄のレースがついていて、肘の上辺りまである純白のグローブを付けている
グローブにも手首のあたりにちいさなリボンがついている
髪は少し高めの位置で結んで、毛先の方はくるくるっと巻いて前に流している
彼女は彼女で、普段あまり見ない服装だ
『可愛い』、その一言に限る
綺麗だとか、美しいだとかではなく、本当に可愛い
あまりの可愛さにユーリが見とれて身動きが取れずにいると、ドレスの裾を摘んで少し小走りでアリシアからユーリに近づく
「流石ユーリ、何着てても様になるね」
恰好いいよ!と、少し頬を赤らめながらニッコリと笑う
「…サンキュ、シアも…似合ってるな、そのドレス」
左手で口元を隠しながらユーリはアリシアから目線を離した
直視してはいけない
瞬間的にそう頭が警告する
あまり見つめていたら、自分の中で何かが崩壊しそうだった
「?ユーリ、顔赤いよ?」
アリシアは首を傾げてユーリを見る
「なっ、なんでもねぇよ…っ/////」
さらに顔を赤らめたユーリに、ますます訳がわからなくなる
「ふふふっ、さ、そろそろ移動しましょう?裏口の方に馬車止めてあるわ」
エリスはクスクス笑いながら声をかける
「……ほら行くぞ、シア」
そう言ってユーリが手を差し出すと、アリシアはいつもみたいに手を繋ぐのではなく何故かその腕抱きついてくる
歩きにくい、は百步譲っていいとしても、これだけ引っ付かれるのは勘弁して欲しい、と心の中で悪態ついた
ただでさえ直視しているだけで色々崩壊しそうだったのに、余計に崩壊してしまいそうだ
そんなユーリの気持ちも知らないアリシアは、ニコニコと嬉しそうにしているものだから、離れろと言うに言えない
そこまで露骨に嬉しそうにされてしまうと、流石にそんなこと言えるわけもなく
結局ユーリが諦めてその状態でエリスの後を歩いた
撮影について行く一部の男達に、恨めしそうな顔で睨まれていたのは、あえて気づかない振りをしていたユーリであった
「わぁ……!本当に綺麗……!!」
馬車に揺られて十数分、目的の丘に到着していた
エリスさん達は準備があるから、と離れた場所にいる為二人からは彼女達の姿が見えない
つまり、今この場にいるのはユーリとアリシアだけなわけである
「おいおい、そんなにはしゃいでっと転けるぞー!」
一人はしゃいで、飛び跳ねたりくるっと回ってみたりしているアリシアに、呆れ気味に声をかける
「大丈夫大丈夫!そんなドジは……きゃっ…!?」
くるっとユーリの方を向こうとして、思いっきりバランスを崩す
思わずぎゅっと目を瞑るが、抱き締められる感覚にすぐに目を開いた
視界に入ったのは、いつも見える『黒』ではなく『白』
でも、優しく抱き締められるこの感覚は紛れもなくユーリのものだ
アリシアが顔をあげると、言わんこっちゃないと呆れ気味にユーリが見下ろしていた
「ったく、だーから言ったじゃねえか」
「む……平気だと思ったんだけどなぁ…」
アリシアがそう呟くと、どちらから、というわけではないが、この状況がなんだか可笑しくなっていて
気づいたら二人揃ってクスクスと笑っていた
二人で過ごせるこの時間……それが何よりも嬉しかった
普段はギルドのメンバー達とほぼずっと一緒にいるのだから、特にそう思うのだろう
「くくっ………シア」
しばらく笑ったところで不意にユーリがアリシアから少し離れて、一呼吸置いて彼女の名を呼ぶ
真剣な顔つきで呼んでくるユーリにアリシアは不思議そうに首を傾げる
二人の目線が重なると真剣そうな顔から一変、照れくさそうに少し顔を赤くして微笑む
「健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、一生貴女を愛します。……だけど、その無防備なとこ、そろそろ治してくれないか?いい加減オレが困る」
突然言われ、アリシアは驚きを隠せない
あれほど嫌がっていたのに……と心の中で呟く
それでも、ユーリから言ってきてくれたことが嬉しくあるわけで
ニコッとユーリに微笑み返す
「健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、ずーっと貴方の傍にいます。…それなら、ユーリもその放浪癖、治してよ?」
互いに言い合って、また笑い出す
二人きり、というのがこの二人らしいだろう
アリシアも、もとより華やかで豪華な式はあまり好んでいなかった
二人だけでも、こうしてそれっぽく出来れば充分満足だった
一頻り笑うと、ユーリの手がアリシアの頬に添えられる
それに合わせるように彼女は軽く目を瞑って少し背伸びをする
そして、その唇にユーリの唇が重なる
ただ触れるだけの口付け
それでも、何故かいつもよりも心臓の鼓動が早い
ユーリもアリシアも、それは同じだった
少しだけ名残惜しそうに唇が離れると、ユーリは自身の顔を隠すようにアリシアに抱きつく
「…くっそ……////やっぱこうゆうのは馴れねぇ……っ//////」
少し上擦った声でそう呟く
きっと、というよりも、確実に恥ずかしかったのだろう
「……でも、さっきまであんなに嫌がっていたのにどうしたの?」
アリシアがそう聞くと、少し黙り込んでしまう
理由がわからず、アリシアがユーリ?と名前を呼ぶと聞き取れるか聞き取れないかの声で呟く
「………お前のその姿……誰にも見せたくなかったんだよ………っ/////」
ぎゅうっとアリシアを抱き締めるユーリの腕に力が入る
その一言で、ようやくアリシアは理解した
つまり、今の今までユーリが嫌がっていたのは、面倒なわけではなくウェディングドレスを着ているところを誰かに見せたくなかっただけであったことを、彼女はようやく知った
『独占欲』…その言葉が酷くしっくりときた
そう思って貰えるくらいに、ユーリに愛されているんだとアリシアはあらためて思う
「ふふ……でも、その気持ちちょっとわかるかも。私も今のユーリ、誰かに見られたくないもん」
クスッと笑いながら、アリシアはそう言う
すると、ユーリは顔が見えるように少しだけ離れる
未だに頬を赤らめながら、ニッと笑う
「…本当そのドレス、よく似合ってるぜ。…シア、愛してるよ、これからもずーっと、な」
「ユーリも、すっごく似合ってるよ。…私も、愛してる。これからもずーっと、ね!」
ニッコリと微笑みあいながら、もう一度そう口にする
二人だけの、静かな式…
それでも、充分過ぎるくらい、二人は幸せであった
「(あの後、ユーリが中々笑えなくて苦労したっけ)」
苦笑いしながらアリシアは問い詰められているユーリを見つめる
エリス達の準備も終わり、いざ撮影!っとなったら、ユーリが中々笑顔をつくれなくて撮影にものすごく時間がかかった
ダングレウォーカーに載ってる写真は、休憩中に偶然撮れたものを使っているのだ
どうやらユーリは自然体でいる方がすぐに笑顔になれるらしい
と、その時撮影に関わった人は誰もがそう思った
「ねー!教えてくれたっていいじゃんかー!!」
「そうですよ!教えてください!!」
一向に引いてくれなさそうな彼らに、ユーリはそろそろ苛立ち始めていた
言いたくないことの一つや二つあるだろう
ましてやユーリからしたらあの日の出来事は、それこそ誰かに知られたくないことであって…
目線でアリシアに助けを求めるが、どうにもできない、と肩を竦めて苦笑いする
いつまでやるつもりなのか…とアリシアが考えていると、不意にテーブルの上のダングレウォーカーに目がいく
なんとなく手に取って、パラパラとページを捲っているとあるページで手が止まる
そのページを見て一瞬思考が停止しかける
見開きのページで他のページと違い、片側に大きく一枚の写真を
もう片側に大きく見出しと補足が書かれている
タイトルは『ひっそりと二人だけで式をあげるならここっ!絶好の穴場っ!』
写真はどう見てもユーリとアリシアが撮った場所だし、少し遠目ではあるが、写っているのは紛れもなく自分達だ
……しかも、絶対に見られていないと思っていたキスシーン
幸いにもエステル達はまだこのページを見ていないらしい
ガタッと大きな音を立ててアリシアが立ち上がる
勢い余って椅子が倒れるが、そんなこと気にしている余裕も彼女にはない
「む?シア姐どうしたのじゃ?ダングレウォーカーなんて握りしめて…」
音に振り向いたパティが首を傾げる
「………ごめん。ちょっと野暮用思い出したっ!!!」
パティの問いには答えず、フレン達の静止する声も聞かずに、ダングレウォーカー片手に彼女は宿屋を飛び出した
これはアリシアしか知らない事だが、編集部に押し掛けてエリスに全力で抗議したところ、その写真は使わないことになり、発売ギリギリでその写真のページだけ変えることになった
~後日談~
「アリシア…なんで教えてくれないんですか…?」グスッ
「うっ……だ、誰よ…エステルにこんな頼み方教えた馬鹿は…!!」
「お、アリシアちゃん攻略出来そうじゃなーい?」
「ええ、レイヴンさんの案が上手く行きそうですね」
「あの子、エステルには弱いからねぇ。ユーリよりも効果ありそうね」
「ユーリはアリシア以外、その手は受け付けないって言われちゃったものね」
「……だめ…ですか…?」グスッ
「うぅっ……い、いくらエステルでも、今回だけは……っ!!」
「そんなぁ……」グスンッ
「ありゃ、ちょっと微妙そうねぇ」
「ガードがちょっとだけ高めですね」
「……ねぇ、アリシアが可哀想だし、そろそろやめてあげない…?」
「おいこら、何してんだよ?こんなところでコソコソと」
「ユ、ユーリ!いつからそこにおったのじゃっ??!」
「ついさっきだよ。いい加減諦めてくれねぇか?こっちもそろそろ面倒になってきた」
「なら潔く教えなさいよ」
「それは却下。オレとアリシア、二人の秘密なんでね」
「あっ!ちょっと!せいねーんっ!!」
「エ、エステル……今回は本当にごめんって…!」
「むぅ……」
「おーい、エステル、なーに人の嫁さんたぶらかせてんだよ」ギュッ
「あ、ユーリ…!!」
「ったく、どいつもこいつも無理やり聞き出そうとしやがって」
「だって……知りたいじゃないですか…」
「オレとアリシアの秘密だから、これについては勘弁な」
「全く、隠すようなことでもないじゃないか」
「……まさか、ずーっとそこで見てたの……?」
「ごめん…止めたんだけど…」
「なんでそんなに秘密にしたがるのか、知りたいわね」
「あー?いや……だって…なぁ?」
「……ねぇ?」
「「二人で内緒で式挙げた意味なくなるじゃん/じゃねーか」」
「……まぁ……それもそう……よね」
「おーおー、息ぴったりねぇ……」
「むむ……割り込める隙がないのじゃ……」
「……まだ、邪魔しようとしてたんだ……パティ……」
~あとがき~
ども!如月です!
いやぁ…ジューンブライドも素敵ですが、リンクのユーリさん…恰好いいですよねぇ…!!
まぁお察しでしょうが、ユーリの服装はリンクのものです!
黒じゃなくて白……
たまには色が反転してるのもいいですよね!
これでフレンが黒のタキシード着て登場していたら良かったのに…(笑)
夢主ちゃんのドレスが純白じゃないのは、「少し赤みがかっていた方が髪の色と合いそうだから」…というのと、まぁ、半分は私の好みでもあります(笑)
さて、そろそろ今回はこの辺で
和香菜様、いつもいつもリクエストありがとうございます!
それでは、また別のお話でお会いしましょう
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